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不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書) 鴻上尚史
著者は私と1年違いの生まれで同世代の劇作家、演出家として有名な方で、バラエティ番組などでも時々見かけますが、こうした硬派な本を書いているとは知りませんでした。
この新書は2017年に発刊され、その後2018年には「不死身の特攻兵 生キトシ生ケル者タチヘ」と改題したマンガも出版されています。
私の世代が子供の頃はというと、まだ太平洋戦争の事柄についてまだ色濃く様々な形で残っていました。自分の祖父母や両親、親戚で、戦争と関わっていない人はいなかった時代です。
例えばテレビでは「ゼロ戦黒雲隊」、その映画版「零戦黒雲一家」や「東宝8.15シリーズ」、漫画では「紫電改のタカ」など、小学生の子供が美化された戦争ドラマやコミックをよく見ていたものです。
プラモデルも、B29やコルセア、ムスタングなど当時の大人からすれば憎々しい敵機ですが、そのスマートさや合理性の塊のユニークさで作りがいがありました。
なので、著者を含む我々の世代以上は、内容がやや不正確で偏向しているのはさておき、太平洋戦争における事象にはかなり敏感で、この著者が深く興味を覚える気持ちもわかります。
前置きが長くなりましたが、タイトルの「不死身の特攻兵 軍神」とは、陸軍のパイロット佐々木友次氏のことで、陸軍として初の特攻攻撃を含む9回の自爆特攻を命ぜられながら、生きて帰還してきたという強者の話です。
しかしよく読むと9回特攻攻撃で敵と交戦したわけではなく、あるときは味方の支援戦闘機が反転したので敵前で一緒に反転して帰ってきたり、雲が多く敵が見つからずに帰ってきたり、機体の調子が悪く飛べなかったりを含み、9回の命令を受けたということです。
ま、それでも強運の持ち主で、実際に米艦に爆弾を落としたこともある強者には違いありません。
結局このパイロットは戦争を生き抜き、2016年92歳の天寿を全うされます。
この元特攻パイロットへのインタビューを中心に書かれていますが、その部分は全体の2割程度、その他は、他の文献からの引用と著者の意見や感想、推測が重ねられています。
インタビューの迫力と比べると、引用、意見の部分は著者の憶測や感想でしかなく、ちょっと退屈なのが残念でした。
★★☆
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友情 (新潮文庫) 武者小路実篤
この小説は著者が34歳の時、1919年(大正8年)に大阪毎日新聞に連載され、1920年に単行本となったものです。
1919年頃と言うと、日本では同年に終結した第一次世界大戦で戦勝国となり、戦争景気が盛り上がった時期でもあり、また国際的な立場も高まってきた頃ですが、同時に軍部が国内で力を増していく途上です。
そうした世情の中でも新聞連載小説では今も昔も恋愛ものが主流のようで、その例に漏れずこの小説も恋愛をベースにした男性の熱き友情と、女性が絡んで破綻するという物語です。
ストーリーはシンプルで、すぐに映画化もできそうですが、未だにそれができた様子はなさそうです。大正ロマンを重ね合わせると、良い映像になると思うのですけどね、、、
テレビドラマとしては42年前の1977年に寺尾聰主演のテレビ銀河小説(NHK)として制作、放送されたようです。私がまだバイトで忙しかった学生時代のことで、当然見ていません。
主人公は23歳の大卒の脚本家で、著者自身の若い時のことをベースにして書いたものとされています。
主人公は自堕落な生活をおくっていながら、友人の妹に一目惚れしてしまい、気持ちの中ではもう自分の妻になるのはこの人しかいないと決め、何度も友人の家へ遊びに行き、きっかけを作ろうとしますが、なかなかうまくいきません。
そのことを別の親友に話しをするものの、その親友はその女性と会っても冷ややかな対応をします。ところが逆に女性は、主人公よりもその親友に惹かれていきます。
そうこうしていると、その親友が突然ヨーロッパへ長期間行くと言い出し、それによって女性の想いが断ち切られ、自分に好意が向くのではないかと身勝手にも期待します。
そして女性に付き合って欲しいと手紙を書いたものの、体よく断られてしまい、しかもその女性が知人の新婚旅行に同伴し、ヨーロッパへ行くと決めます。もちろんヨーロッパで生活している親友と会うためにです。
たいへん仲が良く、お互いに信頼し合っていた男同士の友情が、ひとりの女性が入ることで、見事に壊れてしまうと言うはかない悲恋物語ですが、身勝手でさしたる優れた才能もない主人公に対し、哀れみや同情は起きません。
短い小説ですので、中高生が読書感想文に選んで書くのには適している感じですが、主人公男性の心の葛藤をどう表現するかが、感想文の評価のキモとなりそうで、難しいところです。
★★☆
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あなたにもできる悪いこと (講談社文庫) 平 安寿子
1999年に「素晴らしい一日」でデビュー(単行本は2001年刊)した御年66歳の立派な高齢者に域に達している女性作家さんの作品です。今回初めて読ませていただきました。この小説は2006年単行本、2009年に文庫化されています。
著者は変わった名前と思ったらアメリカの小説家「アン・タイラー」の名前をもじって付けたペンネームで「たいら あすこ」と読むそうです。姓と名に間がないと「へいあん としこ」とかで覚えてしまいそうです。
内容は連作の短編という形式で、口八丁な主人公の中年男性が詐欺や脅迫すれすれの様々な仕事をしていくというなんてことはない物語。
口八丁手八丁の悪人が主人公でコメディタッチというと伊坂幸太郎著の「陽気なギャングシリーズ」やローレンス・ブロックの「泥棒探偵バーニイシリーズ」などを思い浮かびますが、それらまでには遠く及ばない感じです。
ただ女性作家らしく、男性の主人公より、脇役で出てくる女性の心理や行動がとてもリアルで、またぶっ飛んでもいたりして、男性が読むと女性恐怖症に一歩近づくことができそうです。
どうせなら、男性を手玉に取るそうしたぶっ飛んだ女性や悪女を主人公にした短編でも書けばもっと面白くなったかもしれません。
★☆☆
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山女日記 (幻冬舎文庫) 湊かなえ
著者の趣味でもあった山岳登山の連作短編小説で、2012年から2013年にかけて文芸誌に連載された「妙高山」「火打山」「槍ヶ岳」「利尻山」「白馬岳」金時山」「トンガリロ」「カラフェスに行こう」を1冊に収録し、2014年単行本、2016年文庫が発刊されています。
主人公は短編ごとに変わってきますが、前に出てきた人物が、あとの作品でもちょい役として出てきたりします。
2016年~2017年には工藤夕貴などが主演して、この原作を元にしたNHK BSプレミアムの「プレミアムドラマ」が制作、放送されています。ただし登場人物などを見る限り、内容は小説とずいぶん違っているような感じです。
最近読んだ同じような山ガールをテーマにした小説では、書いたのは男性ですが、北村薫著「八月の六日間」が、非日常感があふれる例えば登山に慣れた人が歩きながら栄養を補給するため、長い羊羹をかじりながら歩くシーンなど、たいへん興味深くて面白かったです。
こちらの小説では、主人公は毎回変わりますが、だいたいは30歳前後の女性で、若い頃には山岳部や同好会で少しは経験があり、しばらくブランクがあったものの、再び戻ってきたというような方が多いです。これは著者自らをモデルにしているのでしょう。
私も山登りではなく単なるウォーキングですが、ほぼ毎日1時間ぐらいは歩いています。歩くとこの小説の中でも出てきますが、いろいろと自分や人のことをあれこれと想像したり、考えることができて面白いのです。
これが騒がしい電車の中だったり、クルマを運転していたりでは、とても考えたり思いついたりしませんが、単純に足を右左と進めていくだけの単純な運動中だと、脳がその単純作業以外のことをやりたがるのか、悩んでいたことで名案が思い浮かんだり、様々なアイデアが次々と浮かんできます。
今はウォーキングのモチベーションは、それに尽きると言っても良いぐらいに、こんがらがった頭脳がリセットされ、気持ちよくなりますから、きっと登山やトレッキングにはまる人も、違った環境に身を置いてそうした気分をもっと味わいたいという本能からきているのでは?と思っています。
登山そのものは、そこでなにか大きな事故や事件でも起きない限り、淡々と静かに登っていくだけで、あまり小説の題材にはなりにくいものです。
それを小説に仕上げるには、無理矢理に我が身を振り返ったり、他人や家族のことを考えたりして、膨らませていくしかなく、その苦労がうかがえます。
でもやっぱり登山は自分で味わって初めて楽しめたり達成感を味わえるのであって、人の感想や体験を聞いたり、読んでも、退屈以外のなにものでもありません。
それだけに、自分も登山をしてその感覚を味わいに行ってみようか?という気持ちには少しなります。
★★☆
◇著者別読書感想(湊かなえ)
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アルトリ岬 (PHP文芸文庫) 加治将一
2008年に単行本、2011年に文庫化された長編小説で、著者自身が自己啓発セラピストとして活動されていることもあり、いわゆるカウンセリング小説というジャンルになるものです。
かといって、なにか押しつけがましいところや、「こうあるべき」みたいな指導書やHOW TO本ではないので、気楽に読めて楽しめます。
この著者の作品では昨年「失われたミカドの秘紋―エルサレムからヤマトへ「漢字」がすべてを語りだす!」とやたらと長い題名、副題の小説を読んでいます。これはなかなか面白かった小説でした。
3月前半の読書と感想、書評 2018/3/14(水)「失われたミカドの秘紋」
主人公は、気弱であまりやる気がない中年男性で、仕事がリストラに遭い、派手好きで浪費家の妻との関係も悪くなり、二人の子供も不登校だったり非行に走ったりして、どん底に落ちています。
当たると評判の占い師にお告げをうけて、家族を捨てひとりで北海道に渡りやり直そうと就職します。
そこへ借金取りから逃げるように家族がやってきて、また元の険悪なムードに満たされてきますが、不登校の子供が、偶然海岸で知り合った年配の男性と犬に癒やされていき、その後、家族全員がその男性のアドバイス(カウンセリング)を受けるようになっていき、変わっていくというのがあらすじです。
カウンセリングが本業でもある著者からすれば、家庭の不和も、ちょっとしたきっかけや他人のアドバイスで良くなっていくということを知っていて、そうした例を小説にまとめたという感じなのでしょう。
政治家や芸能人、評論家の過激な発言や、ネット上で吹き荒れる非難、炎上など、これだけストレスがたまる世の中ですから、こうした素朴で最強の「愛情」を気づかせてくれるカウンセリング本は、小説としての出来不出来はともかく、できるだけ多くの人に読まれるといいですね。
★★☆
◇著者別読書感想(加治将一)
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