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螺旋の手術室 (新潮文庫) 知念実希人

2013年に「ブラッドライン」というタイトルで単行本が発刊され、2017年に文庫化されたときにタイトルが変更されました。

著者の作品は今年4月に「仮面病棟」を読んでいて、これが2作品目です。

2020年4月後半の読書と感想、書評「仮面病棟」

著者は現役医師ということで、医療サスペンス小説が多く、この作品も大学病院で手術中の医療事故と大学の教授選挙と関係している?という白い巨塔の中でのドロドロとした人間関係が描かれています。

前の「仮面病棟」でもそうでしたが、「一番怪しくない人物が犯人」というミステリーの鉄則はこの著者さんには強烈に強く生かされていて、終盤の謎解きで「おぉ、そういうことか」と感嘆します。現実的ではあり得なさそうですが、そうした読者にアッと言わせるストーリー構成はお見事です。

個人的には、こうした現役医師が書いたシリアスな医療ミステリーは、渡辺淳一氏、帚木蓬生氏、久坂部羊氏、海堂尊氏などの小説を数多く読んできましたが、その中では夏川草介氏の「神様のカルテ」のような、ミステリーではない、ほのぼのとする小説が好きです。

余談ですが、その「神様のカルテ」シリーズは、最近出てないな~と勝手に思っていたら、「神様のカルテ0」(2015年)、「新章 神様のカルテ」(2019年)と出ているのですね。買ってこなくっちゃ。

★★☆

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中高年シングルが日本を動かす 人口激減社会の消費と行動 (朝日新書) 三浦展

2015年~2017年の各種統計調査から描き出した日本の人口構成や消費傾向、将来推定などを分析したことをアナリストがわかりやすく解説した2017年に発刊された新書です。

タイトルの「中高年シングル・・」はちょっと釣りタイトルっぽい感じですが、晩婚、未婚の人が増えていることと、離別・死別を含めて、今後もさらにシングル世帯が増えていくことで、ライフスタイルやそれにともなう経済が従来の形から変わってきたということです。

ただしこれらの調査は、過去のものであって、必ずしも将来を見通しているわけではないということ。当たり前ですが。

人口構成などはそう短期間で変化することはないものの、購買意欲や傾向は、今回のコロナ禍でよくわかる通り、大きな災害や流行、外交問題などが起きれば短期間でガラリと変わってしまいます。

さらに今後、年金の減額や、医療費負担の増減、定年延長などの雇用体制の変更、外国人労働者の流入など、様々な変化に対して、人がどう動くのかという点はまだ十分に明らかではありません。

そして、制度が変わったからと言って、やり直しがきく若い人ならばともかく、中高年者にできる対策というのは極めて限定的です。

それゆえにみな老後の心配が拭えず、高齢者はますます貯蓄に励み、資産の年代格差が広がっていく最大の要因なのだろうなぁって思います。

ちょっとしつこいな~と思うのは、某大手広告代理店(H報堂と思われる)の調査報告で、「高年収女性は結婚できない」という間違った決めつけを、何度も何度も繰り返して否定し、それを発表したアナリストをとことんバカにしていること。

この大手広告代理店にはなにか因縁があったのでしょうか、そこまで何度(4~5カ所で繰り返している)もグチグチ書かないで、ひとこと「誤りだ」だけでいいです。個人的な恨みは読者は関係ないので。

★★☆

著者別読書感想(三浦展)

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スケアクロウ(上)(下) (講談社文庫) マイクル・コナリー

この著者の作品では刑事 「ハリー・ボッシュシリーズ」や、刑事弁護士「ミッキー・ハラーシリーズ」が有名ですが、この作品の主人公は過去に「ザ・ポエット」(1996年)で主人公だった新聞記者ジャック・マカヴォイが主人公の犯罪ミステリー小説です。

また他のシリーズでも時々登場するFBI捜査官レイチェル・ウォリングが準主役として登場します。

原題は「The Scarecrow」で、初出は2009年、翻訳版文庫は2013年に発刊されています。

ストーリーは、ひとことで言うと最新のデータセンターを運営する会社の管理者と、殺人事件でえん罪事件を調べる新聞記者の対決という構図です。

コナリーの犯罪小説は、悪役がいつも徹底していて、頭が良く、過去の犯罪歴はなく、しかし極めて凶悪という印象です。

この小説でも、MIT出身の天才的な頭脳を持ち、伸び盛りの企業で役員を務めながら、子供の頃のトラウマを抑えきれずに、完全犯罪に近い凶悪犯罪を繰り返すというパターンです。

上記のハリー・ボッシュ自身も子供の頃のトラウマをずっと抱えてきましたし、アメリカの闇というか、そういうパターンが多くちょっとワンパターン化しているかなという印象です。

タイトルは、企業の重要データを保管するデータセンターを農場と例え、果実=データを荒らしにやってくる害鳥≒ハッカーから守るスケアクロウ(かかし)が、データセンターの最高技術責任者の役目という意味です。

実はそのスケアクロウ、もうひとつの意味が隠されているのですけど、それは読んでからのお楽しみということで。

★★☆

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

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さよならの手口 (文春文庫) 若竹七海

初めて読む作家さんの推理小説ですが、あとで調べてみてわかったのが、以前NHKで放送されたドラマ「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」の原作だということ。

ドラマはチラッと見ただけですが、小説を読んでイメージした主人公とかなり違っているな~という感じです。

というのもドラマの主人公役のシシド・カフカは、ハーフで帰国子女で歌手でドラマー、モデルもこなす身長175cmと大柄でスマート。

一方の小説では体型とかは出てきませんが、色気も男っ気もなく、貧乏なので古いアパートをリフォームしたシェアハウスでフリーター生活をしていて、仕事中に古い家の押し入れの床を踏み抜いて下へ落ち、足から上に引き上げてもらうおっちょこちょいな40歳を過ぎているおばさんというイメージ。ね、落差あるでしょ。

著者は1991年に作家デビューし、数多くの推理小説を出していますが、大きな賞とはあまり縁がなく(2013年日本推理作家協会賞 短編部門受賞)、今まで書店でもあまり見かけませんでした。

評論家にはいまいちうけなさそうですが、ミステリーが好きな人は、中毒になってしまいそうな軽めで、コミカルで読みやすいストーリーです。ただ登場人物が多く、どういう人だったっけと覚えるのが結構大変でもあります。

ストーリーは、元探偵の仕事をしていましたが、勤務先が廃業したため、探偵はやめて古書店のバイトをしている中、怪我をしたことから入院し、そこで知り合った元大女優の老婆から、20年前に家出した娘を探して欲しいと依頼を受けます。

しかしそこには、不可解なことが満載で、病み上がりのまま、その謎にいどんでいくわけですが、その本題の謎と並行して、別の問題も持ち上がってきたりドタバタが激しい感じ。

でもよくできたミステリー小説で、私もファンになりそうです。

★★★


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