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見えない鎖 (潮文庫) 鏑木蓮

2010年に単行本、2016年に文庫化された長編ミステリー小説です。

著者の小説は、「白砂」(2010年)、「エンドロール」(2011年)、「転生」(2014年)の三冊を読んでいて、好きな作家さんです(3冊ぐらいで好きとか言うな!ってところですが)。

2020年2月前半の読書と感想、書評(転生)
2018年1月前半の読書と感想、書評(エンドロール)

ストーリーは、母親が家出をして父親と二人暮らしをしている女子短大生が主人公で、ある日その父親が何物かに刺殺されてしまい、元刑事だった父親の上司とともに、過去に父親が関わった事件などを調べ、謎が徐々に明らかになっていきます。

男性作家さんの作品ですが、女性特有?の感情の「あれでもない、これでもない」と揺れながら、論理的な思考ができない迷いがこれでもかってぐらいにでてきて、それが少々まどろっこしい感じがします。そういうこと書くと、今、旬な話題の女性蔑視になっちゃうかな?

このストーリーによく似た小説を最近読んだな~と思って調べると、川瀬七緒著の「よろずのことに気をつけよ」(2011年)でした。

2020年3月後半の読書と感想、書評(よろずのことに気をつけよ)

「よろずのことに気をつけよ」では、孫の女子大生と暮らしていた祖父が自宅で殺され、その現場に呪術の儀式ような跡があり、呪術に詳しい考古学者に頼み、一緒に祖父の過去を調べて殺された謎を解決していく物語でした。

主人公が女子短大生と女子大生、冒頭で殺されるのが父親と祖父、主人公を助けて犯人探しをするのが、元刑事の上司と、考古学者という違いがありますが、設定自体はとても似通っています。発刊はこちらの「見えない鎖」のほうが1年早いですから決して真似したというわけではありません。

★★☆

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Iターン (文春文庫) 福澤徹三

この作家さんの著書を読むのは初めてです。1962年生まれの見かけちょっと強面な感じの方で、多くの推理やホラー小説、極道もの小説を出されています。

内容はまったく知らず、軽めのサラリーマン小説?と著名にひかれて買って読みました。2010年に単行本、2013年に文庫化されています。

また2019年にはムロツヨシ主演でテレビドラマが制作、放送されています。

読み始めて確かにサラリーマン小説には違いないですが、内容はほとんど極道の世界感が満載で、あっけにとられました。昭和時代ならともかく、現代でサラリーマンとヤクザというのは縁遠い存在になってきましたから。

でもストーリーにあるように、暴力団のフロント企業の仕事で関わってしまったり、必要に迫られて闇金に手をだしてしまったりすると、今でもケツの毛まで抜かれる羽目になるのかぁーとコミカル要素のあるフィクションとは言え、妙に納得してしまいました。

主人公は、九州の社員二人しかいない広告代理店の支店へ単身赴任で飛ばされた中年男性。そこで街金の新聞広告で掲載ミスが起き、大きなトラブルへと発展していきます。

クライアントへの接待攻勢、下請けからのキックバック、汚職に手を染める不良刑事、ぼったくりバー、ヤクザ同士の抗争と、やはり昭和時代にタイムスリップしたような話しです。

最後は予想したとおりのハッピーエンド?に終わりますが、このタイトルと内容がどうも一致しないと思った次第です。

続編が想像できる終わり方をしていましたが、やはりその後、2019年に「Iターン2」という続編が文庫で出ています。

★★☆

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逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録 市橋達也

一般的に「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」と言われている22歳のイギリス人の英会話女性教師を殺害し、捜査で自宅へ来た警察官を振り切って逃げ、その後2年7ヶ月のあいだ逃亡し続けたものの、大阪南港のフェリー乗り場で逮捕され、現在は無期懲役で服役中の市橋達也が著者です。

その逃亡劇はまるでフィクションドラマのようで、様々な情報提供がありながら、天性のカンなのか、スルリと捜査の網をくぐり抜けてきました。

その逃亡中の行動を時系列で書いたものが本書で、意外に指名手配犯としてポスターがあちこちに貼られていても、身近にいても人は気がつかないものなんだなぁと思った次第です。

この犯人の罪は許されることでも、また持ち上げようとも全然思いませんが、この人物は頭が良さそうで、運動神経もよく、行動的で、肉体労働をなんなくこなし、英語も得意で、デザインを学んだことがあるので絵もうまく、本書を読む限りでは、自分の行動を客観的にとらえてみることができる、普通のまともな人生を歩めばきっと成功者になれる人だろうなぁと思います。

ただ、お金を稼ぐための日雇い労働者の飯場(宿泊所)で、よく他の労働者と喧嘩沙汰となっていたようで、きっとキレやすい性格なんだろうなとも思います。犯行を起こしたときも、殺すという計画性はなく、そのキレやすい性格ゆえ突発的に起きたように思えます。

それは両親が二人とも医者で、この息子の市川達也にも医者になって欲しいと期待されながら落ちこぼれたという抑圧がそういう性格を形作っていったのかも知れません。

著者の市橋達也は事件当時28歳、刑が確定したときは32~33歳で、無期懲役の場合、どれだけ模範囚であっても30年間は出られないので、もし仮釈放が許されるとしても60代半ば以降ということになるのでしょう。

才能ある人なのに、自らの弱さゆえ、その才能に溺れてしまったのでしょうか。

★★☆

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健康という病 (幻冬舎新書) 五木寛之

2017年に発刊されたエッセイ集で、日刊ゲンダイで連載していたものをまとめたものです。

発刊当時、著者は85歳、男性の平均寿命は80歳ぐらいですから、すでに長生きの部類で、健康について書く権利というか言葉に重みがありそうです。軽い記事が多い日刊ゲンダイですけれども。

この無茶苦茶な生活を送っていそうな作家さんと、健康とは結びつかないと思っていましたが、それはご自身でもよく理解されていることがわかります。

しかし病院へ大学へ入学するときにレントゲンを撮影して以来、一度も通院したことがなく、80過ぎまでの60数年間レントゲン撮影もしたことがない、健康診断も一度も受けたことがないというのには「本当に文明人?」とか思ってしまいます。

しかしとうとう、左足に違和感と痛みを感じて、自由に歩き回れなくなり、やむなくレントゲン撮影をして診断を受けたところ「変形性股関節症」と診断されたそうです。

私は40代前半から変形性股関節症に悩まされ、50代後半で末期と診断されたことで人工股関節置換手術をおこないましたが、80歳を超えた著者が、今さらそうした大きな手術はされないのでしょう。

でももしまだあと10年は健康で歩きたいなら、人工股関節を入れるのは痛みから完全に開放されるので気持ちも明るく前向きになって良いかも。

変形性股関節症の人工股関節全置換手術(1) 2016/6/11(土)

その他、80歳過ぎとしては比較的健康を維持されていますが、それでも頻尿や偏頭痛など様々な症状をもっていて、それらについて自分の考え方や対処策などが書かれています。

ここで触れられている健康問題については、「これが良い」「いや、こっちのほうが正しい」「実は恐ろしい」など情報が錯綜していて、医療や療法の常識も時代で変わっていくこともあり、何を信じて良いのかわからなくなるときがあります。

要は人が100人いれば100通りの療法があるので、自分自身でなにが最適解かをよく考えて、他人の意見に惑わされないことが重要ということでしょう。

★★☆

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