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後巷説百物語 (角川文庫) 京極夏彦

「巷説百物語シリーズ」の第3作目で、2003年に単行本、2007年に文庫化され、2003年下半期の直木賞に輝いた作品です。

連作の中篇5作で構成されていて、それぞれのタイトルは「赤えいの魚」「天火」「山男」「五位の光」「風の神」となっていて、文庫で800ページを超えるかなりボリュームのある作品です。

シリーズは、「巷説百物語」(1999年)、「続巷説百物語」(2001年)と続き、この3作目のあとに、「前巷説百物語」(2007年)、「西巷説百物語」(2010年)と5作品があり、さらに現在シリーズ新作が雑誌に連載されているので、近いうちに6作目が登場予定です。

本当なら、シリーズ1作目から読みたかったのですが、つい直木賞受賞作というのに目がくらみこの3作目からとなってしまいました。

3作目の時代背景は、徳川時代から維新を経てご一新が起きた後の頃で、様々なところで騒がれる妖怪の仕業?と思える怪異な出来事や事件を論理的に説明がつくよう4人の男が調べていき、さらに江戸時代に各地を回って不思議な伝承などを集めていたという隠居した老人の元に集まって昔語りを聞くという流れです。

決して怪談話のようなものではなく、古来からあり、また古い書物や伝承で残っている不思議な現象や事件を逆手にとって、実はその現象は老人が若いときに出会った「小股潜りの又市」という人物が口先八丁、現代で言うとスマートな詐欺師が仕掛けていたという裏があったというスタイルで、爽快感こそあれ、おそろおどろしい怖さはありません。

「赤えいの魚」は秋田の男鹿半島近くの沖合に誰も近づけない不思議な島があるという謎、「天火」はいわゆる昔から言い伝えられている光る人魂の正体は?という話しなど、たいへん面白く読めました。

ただ大作ゆえ、文庫版は文字が詰め込まれて小さく、老眼が進んでいる我が眼には非常につらく、初めて遠近両用眼鏡を作りに走りましたが、発注から完成まで2週間もかかるということで、ついぞ間に合いませんでした。

★★★

著者別読書感想(京極夏彦)

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すべては死にゆく 二見書房 ローレンス・ブロック

しばらくマット・スカダーシリーズを読んでいなかったなと思って調べてみると、2017年にようやく見つけて読んだシリーズ第1作目の「過去からの弔鐘」(日本語版1987年)以来でした。

この「すべては死にゆく」は2005年に発刊(日本語版は2006年刊)で、もう10数年前に単行本が発刊された作品で、そのうち文庫化されるだろうと思ってずっと待っていましたが、全然その様子はなく、シリーズでその後の「償いの報酬」が文庫で出てきて結局あきらめて単行本を買いました。

シリーズは主人公の年齢も年齢ですから「償いの報酬」で終わりかなと思っていましたが、その次の「石を放つとき」(2020年)がすでに単行本で出ています。またこれも文庫化はされないのかな。

本編では主人公のスカダーが68歳になっていて、そろそろ探偵業から引退しようかという頃で、もちろんアルコールとも縁が切れていますが、禁酒を目的とするアルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)の集会には律儀に参加しています。

マットスカダーシリーズはこの主人公が警察官時代に犯人逮捕の際、自分が撃った銃弾が跳弾して少女を殺してしまったトラウマから酒浸りとなり、警察を退職した後も、酒での失敗を繰り返す日々を送ります。

そしてあるとき恋人やAA集会で知り合ったよき助言者を得て、アルコール依存症から何度も何度も失敗しながら、ようやく抜け出すことに成功した姿を理解していなければ主人公を本当に理解できません。

このシリーズの主人公を「アル中探偵」という表現をされますがそれは第7作の「慈悲深い死」あたりまでで、それ以降は、なんとかアルコールを遠ざけて、ニューヨークの酒場でもコーヒーを飲んでいます。

詳細は、4年前に書いた「元アル中探偵マット・スカダーに惚れる 2017/5/20(土)」で書いています。

さて、ストーリーですが、主人公のマットと、殺人が趣味の犯人の視点の二つが中心で、その二つがジリジリと交差するところまで迫っていきます。

その殺人鬼の犯行の様子、ペドフィリアや死体損壊などいくつも書かれていて、読んでいてもあまり気持ちのよいものではありません。

犯人を究極のワルとしたいのはわかりますが、そこまで都合良く完全犯罪の殺人を繰り返すことが易々とできる一種の天才&運が強い男にしなくても良いのにと思ってしまいます。

時代背景はすでに携帯電話は当たり前になっていますが、NYの街中では防犯カメラの設置が進んでいないようで、犯人がどこに現れたかはわかっても、犯人の姿がなかなか捕らえられず、ちょっとイライラしてしまいました。

結局は勧善懲悪ですが、それにしてもマット・スカダーシリーズが久しぶりで期待が大きかったためかイマイチで、後味は決して良くないものでした。

★☆☆

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

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シルエット (角川文庫) 島本理生

著者の作品は初めて読みますが、30代後半の女性作家さんで、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を受賞されています。

この「シルエット」は2001年の作品でメジャーデビューの中篇作品で、その他に「植物たちの呼吸」「ヨル」の二つの短篇が収録されています。

内容的には、女子高生のベタベタな恋愛小説で、還暦過ぎたオッサンが読んで楽しいものではありませんが、時にはこうした異世界の話しを読むのも切り替えになっていいかな。

読んだ感想を書こうと一生懸命行に思い出して、さらに行間までを読もうと考えますが、ダメです、どうでもいいような話しばかりで、なにが言いたいのか、なにが目的なのか、どういう読後の感想を持つべきなのかさっぱりわからず、もうそういうさばけた若い感性は失っているせいか、なにも出てこずダメです。

★☆☆

著者別読書感想(島本理生)

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ニュータウンは黄昏れて (新潮文庫) 垣谷美雨

著者は私と同年代(著者が2つ若い)で、小説の中に反映される時代や考え方に共感を感じることができます。

この作品は、2013年に単行本、2015年に文庫化された長編小説ですが、著者のマイホーム購入とその後のドタバタを実際に経験したことに基づいて書かれていて、「その気持ち、わかるわかる」と面白く読めました。

著者の作品では、過去に「あなたの人生、片づけます」と「老後の資金がありません」を読んでいます。どちらも面白かったです。

タイトルから想像できるように、多摩ニュータウンの中の古びた団地の話しと、同時並行で進む女性の結婚観についての話しが交錯していきます。

バブル時に相次いで建設された、最寄り駅からバスで5分の場所にある中古の団地(4LDK!)を5千二百万円で購入した主人公の中年の主婦と、その団地で生まれ育ち、大学まで出たものの、内定していた会社が倒産したため就職ができず、アルバイトで学費の奨学金を返済しているその主人公の娘がもうひとりの主人公です。

団地を買った時がバブルの最盛期で、その後は資産価値として下落する一方になり、売っても住宅ローンの残金に足らず、売るに売れない状態になってしまうのは良くある話しです。

そんな中で、古くなってくる団地の建て替えと大規模修繕と住民の意見が分かれ対立していくというのもよく聞かれる話しです。

さらに駅からバスという場所柄、高層マンションを建てて新たに分譲することで住民の負担をなくす等価交換方式も売れる見込みがないことからどこのデベロッパーも乗ってくれません。

私の場合も、バブル時期に最寄り駅からバスで15分という中古マンションを買いましたが、バブル崩壊直後にわずか4年で売り払い、買った価格より少し高く売れたので、この主人公(著者?)のように「なぜこんなマイホーム買ったかかな、、、」という後悔はありませんでしたが、私も一歩間違えば同じ後悔をしていたでしょう。

そして小説と私の同様マンションでも1年交替で理事会があり、入居した翌年には順番が回ってきて、会計を担当しましたが、共益費や修繕積立金、町会費、駐車場代などを不払いする人がいたり、家主は住んでなく、借りて住んでる人もあったりして、それらの徴収がかなり大変だったとこを思い出します。

私もこの主人公と同様に、共同住宅は住みにくい!と早々にあきらめて一戸建てに住み替えましたが、そうした様々な気苦労も割り切れる人でないと、引く手あまたの立地物件でない限り、共同住宅には住んではいけないような気がします。

そうした前半はかなり暗い話しが多くて身につまされますが、人それぞれに譲れない事情があり、その中で共同生活する以上は、覚悟と長期的な戦略をもって臨まないとダメよというノウハウ本のようにも思えます。

ただ、もうひとつのストーリーとなっている、娘とその友人達と、都心の豪邸に住む大金持ちの御曹司との恋愛トラブルについては、あまりにもリアリティに欠けていて、リアルな団地問題とかけ離れ、ちょっと興ざめな面も感じました。

★★☆

著者別読書感想(垣谷美雨) 

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60歳からの生き方再設計 (新潮新書) 矢部武

著者は1954年生まれということですから私と同年代(著者が3歳上)の方ですが、私ともっとも違うことが、著者は外資系企業に勤務されていたことから英語がかなりお得意で、アメリカ社会についての造詣も深そうです。

本書は2014年に発刊された定年後に気をつけないといけないことをよく言われていることがステレオタイプ的に書かれたものですが、取材した極めて珍しい?人の成功例がいくつか書かれています。

高齢者が正社員での再就職は言うまでもなく、アルバイトでも自分が希望する仕事はなかなか見つからないというのは誰でも知っていることです。

仕事が生き甲斐という人でも、もう貯蓄もあり、年金も十分にもらえるならば、とっとと引退して消費生活だけをするべきというのが私の持論です。

したがってそれとは正反対な話がこの本ではつらつらと書かれていますが、そんなにまでして働く意味が見いだせません。

タイトルの「生き方再設計」というのならば、仕事やボランティア以外の、趣味やなにもしない生き方で成功、満足している人の例も出さないと公平ではありません。おそらくその人達の方が一般的だし数も圧倒的に多そうです。

特に定年となった団塊世代以降のホワイトカラービジネスパーソンの多くは、人に教えるほどの英語力もなければ、建築士など特殊な技術や資格を持っている人は稀です。そうした特殊な人の定年後をメインに語られてもしらけるだけです。

ちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、「定年後はこうするべきだ」「こうすればいい」「ひとはこうしてる」みたいな話しは、その人の価値観感そのものだけに、他人があれこれ言うのは難しそうです。

いっそ、勢古浩爾著の「定年後のリアル」のように、「人は知らないが、自分はこうしてる」という話しの方がおもしろいし参考になります。

★☆☆

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