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東京クルージング(角川文庫) 伊集院静

昨年(2023年)11月に亡くなった著者の2017年に単行本、2020年に文庫化された長編小説です。

小説ですからもちろんフィクションですが、登場してくるのはメジャーに挑戦した松井秀喜氏(実名で登場)と、NHKの元ディレクターで、松井秀喜や王・長島などのドキュメンタリーを制作した大谷実氏(別名で登場)です。

大谷氏は、39歳の若さで志半ばで癌で亡くなりましたが、亡くなる寸前まで周囲に病気を隠して番組制作に奮闘されたようです。そのあたりの周囲に気を遣いながら必死に生きていく姿がこの小説でも描かれ心打たれます。

第1部は、野球好きの作家の主人公とNHKのディレクターが松井秀喜のメジャー挑戦のドキュメンタリーを制作することになったいきさつや、作家とディレクターの心のふれあいがテーマになっています。そしてディレクターから過去に結婚を誓った女性がある日突然消えてしまったという私的な話を聞かされます。

そして第2部では、その消えてしまった女性を主人公とし、壮絶な過去と、拉致誘拐同然で男に連れ去られ、子供を産み、逃げ惑う話が展開していきます。

そういう内容なので、前半部は心穏やかに読めますが、後半は虐待や暴行、逃避行と読んでいても心苦しく胸の痛くなる内容とガラリと変わります。

タイトルは、そのディレクターが学生時代に東京湾クルージング船でアルバイトをしていた時に、その女性と知り合い、お互いが海に思い入れがあり、結婚を約束するまでに至ったことから来ているものと思われます。

★★☆

著者別読書感想(伊集院静)

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資源カオスと脱炭素危機(日経プレミアシリーズ) 山下真一

著者は日本経済新聞社 編集 金融・市場ユニットシニアライターとして活躍されている方で、多くの資源や環境問題等の著書があります。

本著は2022年に出版された資源とエネルギー危機を強くあおる内容で、しかも、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻で世界が大きく変動してきたタイミングで著者のもっとも得意とする分野をまとめたものです。

第1章は原油がテーマ、第2章は石炭と天然ガス、第3章はレアアースを含む金属、第4章は食料高騰となっていて、最後の第5章ではまとめ章で、投資や資源ビジネスなどについて書かれています。

ただ読んでいても、なにか遠くの世界で起きている事柄ばかりの羅列で、それで「日本はどうしている?」「どうすれば良い?」という視点がなく、「世界はこうなっているから、あとはみなさんで勝手に考えてね」という批評するためだけの批評家っぽい論調です。

確かに世界の大きな動きを知っておくことは重要なことでしょうけど、それに直接関係する仕事をしている人以外はあまりにも話が遠すぎて「だからどうなの?」って思います。

資源競争やきな臭い国際情勢を聞かされても、我々庶民ができることとしては、外交に明るく(世界中の重要人物と通じている)、交渉力があり、自分の裏金作りではなく、国家国民の利益を最優先に考えてくれそうな政治家(いるのか?)を選挙で選ぶしかありません。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

カオスの娘(集英社文庫) 島田雅彦

2007年に単行本、2012年に文庫化された長編スピリチュアルミステリー小説です。スピリチュアルというかファンタジー&ホラーとも言えますが、誘拐された女子高生が監禁され乱暴の限りを尽くされるなど、読んでいて良い気分にはなれません。

主人公は、祖母から予言者のシャーマンの素質を引き継いで、網走の原野で修行を積みその才能を開花させていく若い男性。

もうひとりの主人公が女子高生で、ある日、男に誘拐され佐世保のマンションの一室に監禁され抵抗できないよう肉体的、精神的に追い詰められていきます。これがタイトルの「カオスの娘」を指しているのでしょう。

この女性が、やがて誘拐犯自身が企んだ自殺に巻き込まれ、精神が壊れ記憶喪失になり、次々と迫ってくる男達を殺していくことになります。

シャーマンの男性が、殺人を繰り返していく若い女性の居場所を探し、どうやって記憶喪失を治し、精神状態を正していくかというストーリーですが、悪人ばかりではなく、孫のためにシャーマンの極意を伝え引き継いで亡くなる老婆や、女性を助けるために命をかける第三者、連続殺人事件を調べ核心に迫るものの、真相を知ってそれ以上の追求を手放す刑事など、登場人物達が魅力的です。

著者の小説は過去4作品を読みましたが、今までとはまったく毛色の違う内容で、ちょっと意外な感じがしました。当時、新境地を切り開いた作品なのかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(島田雅彦)

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橋を渡る(文春文庫) 吉田修一

2014年から2015年にかけて週刊文春に連載された長編小説で、2016年に単行本、2019年に文庫化されました。

第1部に相当する「春」には、子供がいない夫婦の住む都心の一戸建て住宅に、父親の海外赴任の関係で高校生の甥が居候することになり、静かだった家に騒動が起きることになります。

第2部の「夏」では、東京都議会議員の妻が主人公で、セクハラヤジで大問題化し、自分の夫があのヤジを飛ばしたのではないかと疑念と不安を持ちつつ、子供がそのことでいじめられないか、自分が周囲のママ友達から後ろ指を指されないか不安に陥り精神的に追い詰められていきます。

そして早くその話題がニュースからなくなり忘れ去られることを願っていますが、一番仲の良かったママ友が、スイミングスクールのインストラクターと逢い引きしているところを偶然見てしまい、、、

第3部の「秋」は東京のテレビ局でドキュメンタリー制作をしている男性が主人公で、ある日妻が浮気をしていることを知り、一度は許すつもりだったのが、妻から三行半を突きつけられ思わず首を絞めてしまい、逃亡を謀り遠く対馬まで流れてきたものの、指名手配で通報され捕まります。

ここまでに「歌舞伎町風俗」「セウォル号沈没」「東京都議会セクハラヤジ」「STAP細胞論文不正」など、当時実際に起きた風俗や事件が出てきます。

そして第4部の「冬」では時代が一気に70年後の東京に飛んでしまい、そこでは先の1部~3部で登場してきた人やその子供達がそれぞれに絡んでくると言うややこしい物語です。

なにがややこしいかと言って、第1~3部にはそれぞれ登場人物が何人も出てきますので、第4部ではその人たちとさらに子供や孫達でもう誰が誰だったかよくわからず何度も前へ読み返すことになります。

せめて登場人物相関図でもあれば良いのですが、そういう気の利いたものはもちろんなく、記憶力の悪い人(私)にはなかなか理解するのがたいへんでした。

★☆☆

著者別読書感想(吉田修一)

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