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西武ホールディングスの大株主である米投資会社サーベラスから西武に対し、株主提案として下記のような要求が突きつけられたと以前報道がありました(サーベラス側は「路線廃止などを要請したことはない」と否定)。

 ・多摩川線、国分寺線、秩父線、山口線などの不採算路線の廃止
 ・埼玉西武ライオンズの売却
 ・プリンスホテルのサービス料の値上げ
 ・品川駅周辺の再開発案の策定

これに対して、西武側は「公共性を重要視するので廃止や撤退は考えていない」と模範的回答をして、沿線住民や国民世論を味方に付けてサーベラスのTOBを阻止しようとする姑息な態度がミエミエですが、本音のところでは改善する見込みがない不採算部門(沿線)は、今日明日ではないにしろ、いずれはなにか理由をつけて撤退したいと考えるのは事業家なら当然のことでしょう。

すでに日本各地で不採算路線が次々と撤退していて、その後を受けた第三セクター方式もかなり苦戦をしているという状況です。

train1.jpg特に鉄道事業というのはなにかをやって短期に収益をあげられるものではなく、長期的なビジョンでインフラを整備し、その沿線に新しい町や施設を作り事業を展開していくものです。

そのような将来ビジョンがなく、いま通学・通勤で困る人がいるからというだけで、(公営や第三セクターの場合)税金をじゃぶじゃぶと投入して一時しのぎをするのはどうなのでしょう。

苦境に立つ九州の三セク鉄道……存続につながるレールたどれるか(ビジネスメディア誠)

西武にしても不採算路線や事業を長期的に抱えることで、トータルで利益が出せず、その結果本来納めるべき税金を納めない(あるいは少ない)のであれば、それは企業としての社会的責任を果たしていないことになります。

そして今後30年ほどの間に日本の人口が2/3以下になり、しかも住民の多くは毎日通勤や通学、買い物やレジャーで使ってくれる若い人達ではなく、たまに使ってくれる程度の高齢者ばかりとなれば、もう地方の鉄道路線の廃止や縮小は急坂を転げ落ちるかのように一気に急加速していくことになります。

50年後には人口8千万人台になり、その結果として大都市部でも人口は中心部に集中し、団塊世代等に人気のあった都心から1時間を超える閑静な郊外は、過疎化が進んだ廃村のような寂れた状態になってしまい、手を広げすぎた鉄道路線も見直され、終着駅もいまより都市中心部寄りに変更せざるを得なくなるだろうという予測もあります。

人口8000万人、うち3000万人が老人の国になるニッポン(現代ビジネス)

次に、運賃の問題があります。

運賃はインフラの自社保有度合いや維持コストのかけ方、あるいは補助金(つまり税金)の有無などにより変わってきますが、また競合するライバル路線の有無など様々な要因によっても変わってきます。

結局は建設費等の借入金返済や事業運営、保守、維持管理費、事業利益、株主配当などがまかなえるように「運賃×想定利用者数」で算出されることになります。

高度成長の時期は鉄道事業で赤字でも駅周辺開発など不動産事業やエンタメ系事業で稼ぐことも可能でしたが、もうそのような内需は期待できず、鉄道事業は運賃で稼ぐしかありません。

鉄道インフラに使う土地を昔に安く取得している場合はまだいいですが、新しく土地を買い、お金のかかる高架や地下に線路を敷いていると、今では天文学的なコストがかかります。

そしてそうしたお金には、屍肉に群がるハイエナのように建設・土木業者や政治家、許認可権を持つ役人が群がり、さらにコストを高くしていきます。

そして自治体の財政厳しい折、これからは市や県からの補助金はあまり期待できませんので、鉄道会社が利益を上げて健全な経営をするためには利用者を増やすか運賃を上げるか、それともコストを切り詰めるしかありません。

まず利用者を増やすのは前述の通り期待薄で、したがって駅員や車掌を極限まで減らし、コストを下げ、ワンマン乗車や無人運転、無人駅を取り入れて、最後に運賃を上げていくことになるのでしょう。

運賃が高い路線は比較的新しく建設された路線で、しかも土地の取得費や建設費にべらぼうなお金をつぎ込んだ場所や、線路は別の会社が保有していてそこを通過するために使用料がとられる場合、そして過疎化で乗客が減少しそのため運賃を上げるしかない、あるいは特殊な観光客用路線という理解で間違っていません。

train2.jpg運賃(キロ当たり運賃)が高額で有名なところとしては、仙台交通局、埼玉高速鉄道、北総鉄道、東葉高速鉄道、りんかい線、多摩都市モノレール、上田電鉄、大井川鉄道、富士急行線、横浜市営地下鉄、みなとみらい線、近江鉄道、京都市営地下鉄、京阪電鉄鴨東線、泉北高速鉄道、長良川鉄道があげられます。

今後サラリーマンが住宅用、事業用の不動産を購入したり賃貸で借りようとする際は、その土地が活断層や液状化の懸念がないかという問題以外に、最寄りの鉄道路線が高額沿線かどうか、廃線になる可能性はないかというのも大きな検討材料になるでしょう。

通勤代は正社員の場合は会社負担が多いものの、生活費の中に占める通学や買い物、パートやアルバイト等で使う交通費というのは、決してバカになりません。

北総線沿線に住む人達が運賃認可権をもつ国に対して運賃値下げを要求する裁判を起こしたことが大きく報じられましたが(東京地裁で原告敗訴)、このようなことが報じられると、その沿線に住むのは避けようという心理が働きます。

この裁判や報道はその沿線で事業を行っている不動産会社や建設業者、商店にとっては死活問題に発展するかもしれません。

傷口に塩を塗るような話しで申し訳ないですが、北総鉄道北総線の運賃がどれぐらい高いか、JR東日本の運賃と比較すると、JR東日本の運賃が290円の距離(東京-川崎18.2km)とほぼ同距離(千葉ニュータウン中央-秋山 17.6km)を北総線に乗ると650円が必要です。

距離は同じでも料金は2.2倍です。ちょっと電車に乗って出掛けるだけで往復千円以上がかかってしまいます。こんなに交通費がかかっては、交通費が支給されないアルバイトなぞやってられません。

そしてその結果、その沿線は敬遠され、住人が見込み数より増えず、鉄道会社の収益は改善されず、やがて経営が苦しくなってさらに値上げという悪循環も起きそうです。

それにしても日本の人口減少は、鉄道会社にとって大きな影響があるものだなとあらためて知りました。

利用者の便益のため既存線同士を相互乗り入れするための拡張工事ならばまだ理解できますが、未だに都市部を中心に新線計画や複々線計画が計画されています。

税金の無駄遣いと私鉄の場合は経営者の先を見る目を疑ってしまいます。そういう経営者には、これからもますます日本は成長し拡大していくという亡霊が目の前にうようよしているのでしょうか。


 【関連リンク】
 711 日本が限界集落化していく
 706 高齢化社会の行方
 666 子供の教育費の負担を覚悟しているか
 617 人口減少と年金受給者増加

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