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777
リストラ天国日記の777回目ということで、なにか嬉しい話題とか楽しくなる話しがないかと探してみたところ、ありました、ありました。

OECD(経済協力開発機構)がおこなった「国際成人力調査(PIAAC)」というのがあって、「読解力(Literacy)」、「数的思考力(Numeracy)」、「ITを活用した問題解決能力(Problem solving in technology rich-environments)」の3つのスキルについてOECD加盟国を中心に24カ国で調査が実施され、その結果が今年2013年に発表されました。
※PIAAC:Programme for the International Assessment of Adult Competencies

調査の対象となった母集団は、OECD加盟国を中心とする参加24カ国の16~65才の個人で、日本では2011年~2012年にかけて11,000人が対象となりその中から5,200人が調査に参加しています。

この3つのスキルを他国と比較することで、自国の教育に偏りがないかどうか、自国民の優れているところや、逆に他国と比べ劣っている部分が判明します。国の教育水準や教育制度上の欠陥など、さらにこれからの教育政策にも役立つものとされています。

昔から日本は資源のない国で、国民全体の教育レベルを高めることにより、世界に伍してビジネスを展開していかなければならないという宿命があり、それこそ学校の教師や塾の先生をはじめ、官民とも必死に子供や若者の教育に力を注いできました。

その代表的な話しが「米百俵」の故事です。「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、(売却してその金を)教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」という明治初期の長岡藩士小林虎三郎の言葉です。つまり「目の前の利益よりも、将来を見据えた教育投資こそが重要」という教えです。

そうした過去の遺産を受け継いできた日本の教育制度は、ここ数十年もの間、世界の中でもトップクラスを維持し続けてきました。欧米からすればアジアの片隅にあり、第二次大戦でこてんぱんに敗れ去った野蛮な小国が、このような教育水準を作り上げ維持しているなんてまったく信じ難かったことでしょう。

その調査結果の概要を簡単にまとめておきます。

(1)「読解力」
PIAACにおける読解力とは、社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力

日本では識字率はダントツに世界のトップだと昔から言われてきましたが、確かに義務教育の充実と、他国からの移民や難民をほとんど受け入れない排他政策のため、日本語という特殊な言葉の読解力はおしなべて優れていると言っていいでしょう。

ただそれ故に国内では日本語だけですべて完結し、他国語を取り入れるという必要性がなく、それが文化や経済の国際化の波に大きく後れを取ってしまっていることはゆがめません。

調査では「読解力」を6段階の習熟レベルに分け、習熟度がもっとも高いレベル5の割合が一番多いのはフィンランド(2.2%)、次いでオーストラリア(1.3%)、オランダ(1.3%)、スウェーデン(1.2%)と続き、日本は1.2%で第5位となっています。全体の平均は0.7%。

最高のレベル5では5位ですが、比較的習熟度の高いレベル4とレベル3の割合がもっとも多いのは日本で、逆に習熟度が低いレベル2、レベル1、レベル1未満の割合がもっとも少ないのも日本です。つまり「突出した天才は少ないけれど、高いレベルの人が多く、低いレベルは少ない」ということになります。その結果、全体の平均点では日本がトップ、年齢を区切って若者(16~24才)の平均点でも世界でトップです。気持ちがいいですね。



16~24才の若者の読解力国別平均点


国語の読解力はまずベーシックな国力となるものですから、それが世界一というのは誇れることではないでしょうか。ただそれと引き替えにして外国語が苦手というハンデも一緒に背負うことになってしまったわけですが。


(2)「数的思考力」
PIAACにおける数的思考力とは、成人の生活において、様々な状況の下での数学的な必要性に関わり、対処していくために、数学的な情報や概念にアクセスし、利用し、解釈し、伝達する能力である。

日本人は以前は数学など理系に強い国民と言われてきましたが、最近は若者の理系離れが心配されています。しかしその伝統は今でも残っているようです。ただ残念ながら読解力と同様、突出したレベルの天才型は少なく、平均的に高いというのが特徴です。

数的思考力がもっとも高いレベル5の割合が多いのは、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ベルギー、オーストラリア、そして7番目に日本です。インドはこの調査に含まれていませんが、もし入れると人口が多くレベルにばらつきはあるでしょうけど上位にくる可能性はありそうです。

数的思考力の比較的高いレベル4、レベル3の割合がもっとも多い国は日本で、低いレベル1とレベル1未満の割合がもっとも少ない国も日本です。つまり数的思考力も平均的に他国より高いことを物語っています。

そして成人全体の平均では他国を圧倒しています。

16~65才の成人の数的思考力の国別平均得点


しかし薄々気がついていたことですが、若者(16~24才)の数的思考力の平均トップはオランダ、次いでフィンランド、そして日本と3位に落ちてしまいます。

16~24才の若者の数的思考力の国別平均得点


これってゆとり教育が原因なのか?と思いましたが、ゆとり教育は2000年前後からですので、この調査の年齢には一部は達してなく、それよりも考えられるのは、90年代頃からこの国で静かに進行してきた「若者の理系離れ」に関係していそうです。ちょっと心配ですね。


(3)「ITを活用した問題解決能力」
PIAACにおけるITを活用した問題解決能力とは、情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力である。

この「ITを活用した問題解決能力」については、残念ながら日本は平均レベルで、高年齢層に至っては大きく平均を下回る結果となっています。国内には多くのIT企業があるに関わらず、世界を見ると利用技術でもっと先へ行っているようです。

習熟レベルでもっとも高いレベル3の割合が多いのは、スウェーデン、フィンランド、日本の順で、かろうじて3位につけているものの、比較的習熟度の高いレベル2の割合は、スウェーデンがトップで次がノルウェー、オランダ、フィンランド、デンマーク…と続き、日本は韓国の後で14番目という低さです。

習熟度の低いレベル1の割合はもっとも少ないポーランドに次いで日本は2位、もっとも習熟度の低いレベル1未満の割合では日本がもっとも少なくなっています。(つまりレベルが極端に低い人は少ない)

ITを活用した問題解決能力の国別平均得点


そしてちょっと意外だったのはコンピューター経験がないと回答した成人の割合では、OECD平均が9.3%であるのに対し、日本は10.2%と、平均よりも高くなっています。

考えられるのは、日本ではパソコンと同時期にネット接続やメール利用が可能な携帯電話の普及が進み、コンピュータ(パソコン)の利用がそれに取って代わってしまったこと、個人経営や零細企業、特に農業や漁業など第一次産業と小規模な小売業ではほとんどITが活用されてこなかったこと、当初ライバルがいなかったNTTがネット接続の通信料をバカ高く設定していたことにより、パソコンとネットの普及の拡がりに待ったをかけてしまったことなど考えられます。

それに積極的に国民のIT活用を推し進めている国が多いのに、日本は国が先導するIT導入は少なく、民間企業に頼るばかりで、ネット選挙がようやく一部だけ解禁されたのもようやく今年からで、学校教育の現場においても他国に大きく差を付けられています。

下図の「ITを活用した問題解決能力の習熟度と年齢の関係」を見てみると、60~65才の年齢層だけがOECDの平均値を下回っていることがわかります。

ITを活用した問題解決能力の習熟度と年齢の関係

これは、世界で見ると、他国では年齢が高くても比較的ITを活用できているのに、日本の60才以上は利用していなかったり習熟度が低いことを現しています。もっと早くから選挙にネットが導入されていたり、納税や社会保障、役所の手続き等がネットでおこなえるようになっていれば、また違っていたでしょう。

以上の結果を概観すると、IT活用はちょっと勢いをそがれましたが、それでも日本の教育(学校ばかりではなく家庭や塾や職場教育なども含め)は世界水準でみるとまだ世界のトップクラスを走っていることがわかります。

しかしこの調査では出てきていない、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や、さらに経済発展が目覚ましいその他の国の多くが教育に必死に取り組んでいますので、この情勢が塗り替えられる日はそう遠くないかもしれません。

また日本もこれから人口減が顕著になってくることから、外国人移民受け入れの政策も必要となり、そうするとその移民の子供達が日本の学校へ通い、日本で社会へ出て行ったときに、今までのように、ほぼ単一民族だけに教育をしてきた同じ教育水準が維持できるか?と言うとそうはならない気がします。

それに国民の資質は決して教育水準だけではなく、他人を思いやる感性とか、いにしえよりの教えをうまく取り入れた文化など、数値では表せないものがたくさんあります。今後はそういうものを大事にしていきたいものです。

少なくとも教育水準では他国を圧倒しているわけですから、なにか他国や他人とのもめ事が起こったとしても、そこは大人の態度をとり、追いつこうと必死にもがき、時にはやんちゃな相手であっても、余裕と懐の深い態度で優しく受け入れてあげる国民性が作れると、世界中から敬愛される国になれるかも知れませんね。

先のことはわかりませんが、とりあえずは、日記777号にちなみ、めでたしめでたしという話題でした。

【関連リンク】
765 労働生産性はむやみに上げるもんじゃない
749 TwitterとFacebookの現状
738 日本人の年齢別死因は
669 ネット人口の正しい統計
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