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退職金貧乏 定年後の「お金」の話(祥伝社新書) 塚崎公義

著者は私と同学年(1957年生まれ)ですが、東大卒、みずほ銀行入行、2005年に久留米大学へ転職した方で、私とは年齢だけ同じで、大学以降大きく違う点が悔しい限りです。でも大学を卒業したのは私のほうが1年早く、つまりは1浪か1留されているってことでしょうね。

専門は商学部教授ということですが、著書は年金や資産運用系のものが多く、この本も退職金の運用と年金の話しが主軸です。想定している読者は50代で、もうすぐ定年がきて、それなりの退職金がもらえる人というのが対象となっています。

なので、親の遺産で楽々老後とか、会社がIPOして持ち株で大儲けしたとか、副業のマンション投資がズバリ当たって毎月数百万円の純利益!というハッピーな人や、逆に退職金は出ないんですという人や、今まで年金を払っていないので老後は生活保護申請する予定という人、さらには会社が倒産して退職金はおろか月々の収入がアルバイト代しかという人には推奨できません。

って言うと、私の場合も、40代で転職、リストラを経験し、その後入った会社には退職金制度はなく、それまで蓄えた貯金や退職金は住宅ローンや子供の教育費、無職時代の生活費で全部使っちまった!っていう人も同様にこの本の読者にふさわしくありません。

しつこいぐらいに出てくる「70歳ぐらいまでは働け」「ここに書いたとおりの運用をすれば老後は安心」ということで、いつまでも働ける心身ともに健康体であることと、数千万円の退職金がもらえる人だけに、インフレに対応できる分散投資を指南する本で、その元手と健康がないと下流老人にしかなれないという、残念な下流老人予備軍にはなにも救済にはならないものでした。

ただ「生命保険は不要」「火災保険は不要」の話しは、それなりにフムフムと考えさせられる話しで、確かに働き盛りの時ではなく、50代、60代になってからの生命保険や医療保険は、お金持ちで他に使い道がないならいざ知らず、ギリギリで生活している普通の高齢者に必要か?って言われるとその通り。

また火災保険も、築20数年経つ資産価値のない家が燃えてなくなったからと言って、再びその場所に新しい家を再建するか?って言われると、それよりも土地を売って小さなマンションを買ったり借りたほうがマシという妙に割り切った考え方に納得感があったっりします。

退職金については、この本を参考にしながら、また別の機会にちょっと書いてみたいと思っています。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

埋み火 (双葉文庫) 日明恩

著者日明恩(たちもり めぐみ)氏のFire's Outシリーズの第2作目で、「鎮火報」(2003年)に次ぐ2005年発刊の小説です。タイトルの「埋み火(うずみび)」とは、「炉や火鉢などの灰に埋めた炭火」のことを言います。

主人公は赤羽台消防出張所の消防士大山雄大。元々は安定志向で「楽して一生安泰」の公務員として受けた消防士で、早く昇進して事務方へ回り、9時5時で安全な仕事に回りたいと願っています。

しかしそこは、殉職した消防士だった父親から血筋をひいていて、救え出せなかった被害者や、火事の不自然な原因などに勘がよく働きます。

連続して老人が住む一軒家が漏電などの事故で火事に見舞われ、住人が亡くなっています。しかし不思議に近所への延焼や隣の住人が海外旅行中とか、被害は限定的に収まっています。

警察とは違い、事件性があっても消防士がそれを調査することはありませんが、ある少年と老人との接触を目撃するところから、恐ろしい計画が実行されていることに気がつきます。

ちょっとミステリー的な面もありますが、それよりもコミカルな展開も多く、また雑学としての火災事故や消防署の仕事についても語られていて、気楽に読める作品としては上出来です。

さらには父と子、母と子、親と子など複雑な人間関係も無理矢理描こうと努力されていますが、そちらはちょっと詰め過ぎ感があり、いまいちピンときません。

昨年2015年にはシリーズ3作目「啓火心 Fire's Out」も出ています。それが文庫化されるのを楽しみに待っています。

★★☆

著者別読書感想(日明恩)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

残虐記 (新潮文庫) 桐野夏生

当初は雑誌に「アガルタ」という題名で2002年に連載されていて、その後タイトルを変えて2004年に単行本、2007年に文庫化された小説です。2000年に発覚した新潟少女誘拐監禁事件をヒントとにして書かれたものとされています。

新潟の現実の事件では9年の長きに渡って監禁されていましたが、この小説ではモデルになった事件の被害者と同じ9歳で誘拐拉致され、1年後に男の部屋で発見され無事に救出されます。その少女はその後作家となり、20数年が経過した時、加害者が無期刑を終えて出所し、手紙を送ってきたことで、突然失踪することになります。

そう言えば新潟の誘拐監禁事件が発覚したのが2000年で、裁判は最高裁までいって最終的に14年の刑だったということは、最大期間入所していたとしてもすでに2年前に加害者は出所しているってことですね。殺人事件ではないけれど、被害者のことを思うと、えらく心に重く残る残虐な事件でした。

こうした子供が犯罪に巻き込まれるという小説は読んでいてもたいへん気が重いです。ただこの小説の場合は、被害者の小学生は精神的なPTSD以外、大きな加害は受けずにすみ、1年後には家族はともかく本人は普通の生活に戻れたという内容ですので救われます。

本書では直接的には語られていませんでしたが、誘拐と長期の監禁の場合、ストックホルム症候群という加害者に対して同情や好意を持ってしまうことがあり、本書でもそうしたところが最後には明らかになっていきます。

★☆☆

著者別読書感想(桐野夏生)

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違法弁護 (講談社文庫) 中嶋博行

著者は現役弁護士であり、訴訟社会のアメリカでは多くの有名な作品があるリーガルサスペンスと称するジャンルを得意とするミステリー作家さんです。デビューは1994年に「検察捜査」で、この「違法弁護」は1995年に2作目として単行本(文庫版は1998年)が発刊されています。

舞台は横浜、主人公は、県警の刑事と横浜に本社を置く日本最大級の法律事務所で上(パートナー)を目指している女弁護士です。時は司法改革が叫ばれ、それまで200人前後で推移してきた弁護士の数が、一気に増えようとしている時の話しです。ちなみに本書が出た1995年から14年後の2009年にはそれまでの10倍以上2000人を超えています。

著者が弁護士だけに天敵でもある検察官は徹底的に悪者風に書いているのがちょっと笑えますが、一般の人は普段知らない民事や刑事事件の司法の流れなど、雑学的に面白く読み進められます。

横浜の倉庫で撃ち合いが発生し、警察官と税関職員が死亡。その倉庫には密輸された銃器らしき痕跡があり、県警が捜査に乗り出しますが、倉庫を使っていた会社の顧問弁護士が立ちはだかり、また別で動いている公安警察などが複雑に絡み合っていきミステリー要素もふんだんに盛り込まれています。

この小説に出てくる旧ソ連が開発したPSSというサイレント銃というのは初めて知りました。普通は銃のサイレンサーと言えば、銃口に消音器を取り付けるパターンが有名ですが、このPSSは弾丸というか薬莢に仕組みが施されていて、外部に音が漏れないようにできています。KGB主導で作られたということで、暗殺に持ってこいの拳銃なのですね。50年ぐらい前からの雑誌「丸」愛読者(と言ってもここ40年!ほどは未読ですが)でも知らないことはいっぱいありますね。

★★☆


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