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あけましておめでとうございます。
本年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
昨年は、おかげさまで比較的穏やかな1年を送ることができました。
今年も1年健康で過ごし、さらに皆様のご健勝も願っています。
12月後半の読書と感想、書評
*豆の上で眠る 湊かなえ
*八月十五日に吹く風 松岡圭祐
*定年後のリアル 勢古浩爾
*あのひとは蜘蛛を潰せない 彩瀬 まる
*抱擁家族 小島信夫
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豆の上で眠る (新潮文庫) 湊かなえ
2008年に大ヒットしてその後映画が製作された「告白」で華々しくデビューした後、順調に売れっ子作家となっている著者の14作目の小説で、2014年単行本、2017年に文庫版が発刊されています。
最後に大きなどんでん返しを配した驚愕ミステリーを書く作家としてのイメージが定着してきましたが、これもその期待に違わない作品に仕上がっています。
タイトルは「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」というアンデルセン童話から来ていて、主人公姉妹が子供の頃に好きだったこの童話と、その話の中身にわずかながら触れた小説となっています。
主人公女性がまだ小学校1年生だった頃に、2つ上の姉と近所の神社へ一緒に遊びに行ったあと、先に帰ったはずなのに、家に戻ってなく、行方不明となってしまいます。
行方不明はその後2年間続きますが、2年後に、その行方不明になった神社で、痩せ衰え、人相も変わった姿で発見されます。
発見された姉は、この2年間のことはまったく記憶になく、どこで何をしていたか、誘拐したのは誰かなど不明です。
さて、この発見された姉は、本当に姉なのでしょうか?
というのが大きなミステリーとなっていて、最後の最後まで、読者にモヤモヤをため込ませ、最後に一気にその謎が明かされるというミステリーの王道のようなストーリーです。
あとで読み返すと、最初のほうにその大きなヒントがちゃんとありました。
ま、常識では、あり得そうもないことですが、ミステリー小説としてはよくできていると思います。
ただ、短編でも書けそうなぐらいの内容だけに、なにか余計な話しをいっぱいくっつけて引っ張りすぎって気もします。
★★☆
◇著者別読書感想(湊かなえ)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
八月十五日に吹く風 (講談社文庫) 松岡圭祐
先に文庫本を2017年に発刊後、数ヶ月語に単行本を発刊するという非常に珍しいパターンの戦記物小説です。小説とは言っても多くを実名で書かれているらしいノンフィクションに近い小説となっています。
著者は千里眼シリーズなどで有名で、数多くの映画やドラマの原作ともなっている小説があります。そうした現代を舞台とした作品の他に、近代歴史時代小説作品も少ないながらあり、この著作もそれに該当します。
八月十五日と聞くと「終戦記念日」とすぐに出てくる人は徐々に減ってきている(若い子に「日本は昔アメリカと戦争した」と言うと、「えぇ~うそ~信じられな~い」と言われるそうです。今はC'mon, baby アメリカ♪ですからね)と思われますが、日本の体制や価値観が、それまでから180度転換した明治維新と並ぶ大きな変革の日です。
この作品では、その終戦記念日の8月15日に特別な意味を持たせてはいません。
物語は、1943年(昭和18年)5月27日から7月29日にかけておこなわれた「キスカ島撤退作戦」の話しが主です。
それまで日本軍の作戦は、負けが込んでくると、撤退ではなく、玉砕という見殺しをするのが普通ととらえられてきた中で、誰しもが不可能と思えた米軍に包囲されているアリューシャン諸島のキスカ島(鳴神島)に残された日本の守備隊5500名全員を、米軍の裏をかいて無事に救出するという快挙があります。
こうした行動が、「日本人は死ぬことに対し恐れはなく、例え日本本土を占領しても次々と刃向かってくる野蛮人で、仲間さえを平気で見殺しにする」というイメージから、「苦難を承知で仲間を救出する高度な文明人」へと見方が変わり、その後の占領政策に影響したと言われています。
主人公はその撤退作戦を成功させた木村昌福少将と、大学で気象観測を研究し、霧の大量発生を予想した気象予報士官です。
燃料不足の折、一度は霧の発生が十分でないことで、突入をあきらめ一旦帰還したことで、大本営からは非難をうけるも、意に介せず、次のチャンスを待ち、さらに米軍の裏をかいて遠回りの逆方向から島に近づき、まったく察知されることなく、作戦を成功させます。
そして、撤退が無事に完了した後の8月15日に、アメリカ・カナダ連合軍3万5千の大軍がキスカ島へ一斉攻撃をしかけて、上陸作戦を決行します。
そこはもぬけの殻で、後に「史上最大の最も実戦的な上陸演習であった」と言われることになります。
こうした歴史ドラマをフィクションに仕立ててあるものの、苦難な時においても、ただ長きに巻かれるではなく、人生の岐路に立ったときになにが大事かということに気がつかされそうです。
★★★
◇著者別読書感想(松岡圭祐)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
文庫 定年後のリアル (草思社文庫) 勢古浩爾
多くの新書を中心とする著書を書いている著者の2010年単行本、2013年に文庫版が発刊されている新書的な文庫本です。
その後、この本の売れ行きがよかったのか、二匹目のドジョウ的に「定年後7年目のリアル」(2014年)、「さらなる定年後のリアル」(2015年)と次々定年本が出ています。自分のことを、そのまま書くわけですから割と楽にかけそうですね。
著者は、大学を卒業後、就職に失敗し、大学院へ進み、さらに大学院卒業時の就職も上手くいかずに零細出版社に勤務、その後その会社で30数年勤め上げ、60歳の定年直前に退職をして、文筆業や出版プロデュースをおこなってきた方です。
そうした経歴で語る「定年後」は、近々定年となる私にとって、定年を迎える状況が割と似通っていて参考になることが多いです。なにかとても親近感がわきます。
世に出ている多くの定年本、リタイヤ本とはひと味もふた味も違った内容で、やや本人の恨み辛みや個人的な思い込みが強く出ているものの、言わんとしていることはわかります。多分に独りよがりであることは自らも認めているわけですが。
それにしても「それがどうした」「勝手にどうぞ」と言った、皮肉っぽく構えた突き放した感じが共感できるところです。
有川浩、村上春樹、上野千鶴子などの人気作家達の定年や定年後の趣味・生活を表した著書や発言をけちょんけちょんにけなしているところも、揚げ足取り的な気もしますが、ユニークで素敵です。これらは一読の価値ありですぞ。
定年後の朝起きて、「さて今日はなにをしようか・・・」という気持ちは多くの定年退職者に共通するところですが、それをダメな人ではなく、当然として受け入れます。そして人が少ない公園へ出掛けるのを日課として傍目からは「寂しそうな引退した高齢者」を装い、誰からも声をかけられるではなく、自分の世界に入ります。
また一般的に言われている「高齢者は裕福」というイメージをぶち壊し、文筆業から得られるお金についてもごくわずかしかなく、雇用延長で給料が半分になっても働いている方がまだマシなぐらいという話しにこの人なら信用しても良いんじゃないかなと妙に親近感を感じてしまいます。
私も来年には今の仕事を引退する予定で、年金が支給されるまで2年近くあり、それまでの間どうしようかなぁ~って不安に思ってましたが、この本を読んで、別にしっかりと引退後の計画なんか作らなくても出たとこ勝負でも良いんじゃないかなという気持ちが強まってきました(笑)
今後、もし機会があれば(書くネタがなくなって困ったら)、この著作に絞って、我が身と照らし合わせ、もう少し紹介を書いてみたいと思ってます。
★★★
◇著者別読書感想(勢古浩爾)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
あのひとは蜘蛛を潰せない (新潮文庫) 彩瀬 まる
著者は1986年まれと言うことですから32歳という若手作家さんで、2010年に書いた小説が小説新潮に掲載(単行本は未収録)されて小説家としてデビュー。その後、この奇妙なタイトルの本作品が2013年に単行本デビュー、2015年に文庫化されています。
この作品の主人公は、アラサーで実家の母親と暮らしながら、近所のドラッグストアの店長として働く女性です。どこにでもいるような、いないようなよくわかりませんが。
その勤務するドラッグストアはチェーン店で、正社員の他、多くのアルバイトを抱え、24時間営業をしているという設定です。
仕事上の人間関係や、週に一度バファリンを買っていく薬物過剰摂取の女性客、突然来なくなったアルバイトの中年男性の妻からのお詫びなど、日々が淡々と過ぎていく中で、新しく入ってきた爽やかな学生バイト君に興味を持たれ、いつしか恋愛関係に入っていきます。
このあたり、よくわからないけど、アラサー女子の願望みたいなものが入っているのでしょうか?
で、実家から出てひとり住まいを始め、彼ともズブズブの関係となっていく様を見て、なんだか悲しい結末を想像してましたが、あに図らんや、そうはなりませんでした(詳しくは買って読んでね)。
タイトルは、突然失踪してしまった中年のバイトが、仕事中レジの近くに出没した蜘蛛を触れず、オタオタする様をみて、代わりに主人公の女性が排除したことがあり、その触れない理由が「蜘蛛をつかむと潰してしまいそうで」という言い訳したことから来ていますが、それがこの小説の根幹とどうつながっているのかはよくわかりません。
ただこのタイトルにしたことで、注目度はグッと上がることは確かなので、誰が付けたのかは知りませんが、巧いやり方です。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
抱擁家族 (講談社文芸文庫) 小島信夫
1965年初出の小説で、その年に谷崎潤一郎賞を受賞し、その後文庫化されています。著者の作品では、1955年に「アメリカン・スクール」で芥川賞を受賞されています。
数多くの著書や海外小説の翻訳などがありますが、なぜか今まで読んだことがありませんでした。どこか難解そうっていう先入観があったのかも知れません。
内容は、思っていたものとはだいぶんと違っていて、終戦後の裕福な一家に起きる様々な騒動と、そこの主人(主人公)の右往左往がコミカルでもあり、シニカルでもあるというなんとも言えない家庭痴話小説です。
主人公は翻訳を生業としながらも大学教授というエリートで、専業主婦で派手好きな妻のために家を新築するようなお金持ちです。
その妻は自宅に下宿させていたアメリカ人米兵と浮気をしますが、なんとももどかしくそれをとがめられません。1965年当時、高度成長期に向かう中で抑圧されてきた主婦にとって、この小説の裕福な旦那と奔放な妻は拍手喝采、鬱憤を晴らせたという感じだったのでしょうか。
その妻も最後には癌にかかり、亡くなってしまうことになりますが、その妻にぞっこんだった夫は哀れでありながらも、自業自得という人のからかいを受けてしまう、こうした富裕層に対してひがみを持つ多くの人達にとって支持されたのかなと思われます。
いや、でも、結構、鬱々として退屈な内容でした。さすが谷崎潤一郎賞だけのことはあります。
★☆☆
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