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1762
暴力脱獄(原題:Cool Hand Luke) 1967年 米
監督 スチュアート・ローゼンバーグ 出演者 ポール・ニューマン、ジョージ・ケネディ

主演のポール・ニューマンの脂がのっていた42歳の頃の映画で、評価は高かったそうですが、ハンサムで魅力的な俳優のワンマン映画で、不良っぽさとワイルドなイメージをもったアイドル映画のような感じもします。

ストーリーは、ある日酔っ払ってパーキングメーターを壊したかどで刑務所に収監されることになった元軍人だった主人公が、刑務所の理不尽な厳しいルールに反旗をひるがえすものの、権力側からはさらに厳しい扱いを受けます。

何度か脱獄を計りその都度失敗して連れ戻されますが、3度目には成功したかに思えましたが、、、というような内容です。

見ていてよくわからなかったのですが、主人公は軍隊で従軍していた時は数々の勲章をもらいながら昇進もしていたのに、その後なにか問題が起きたらしく、除隊するときには最下層の兵士となっています。それが主人公の反体制、反権力という性格を現しているのか、最後には教会で神頼みということで、イマイチ理解不能な面がありました。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ゴジラ -1.0 2023年 東宝
監督:山崎貴 出演者:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴他

前に劇場で「シン・ゴジラ」を見たばかりだなぁと思っていたら、あれはもう7年も前の2016年公開で、コロナ禍前のことでした。このコロナ禍の3年間はほぼ記憶が飛んでしまっているのかも知れません。

最近見た映画 2016/8/27(シン・ゴジラ)

元々、子供の頃からゴジラ映画はほとんど見たことがなく興味も薄かったので、今回のゴジラはもういいかなぁと思っていて見る予定はなかったのですが、私が小学生の頃にプラモデルを買ってきてその形状に感動し好きだった局地戦闘機の試作機「震電」が重要な場面に登場しているというので、こりゃ見なくちゃ!と変な理由で映画館へ駆けつけました。

ゴジラ映画第1作の公開が1954年で、その映画の時代設定もその頃と思われるので、今回のこの映画の時代設定は従来のゴジラシリーズの中ではもっとも古くなる終戦直後の1946年です。つまり終戦で東京は焼け野原でゼロとなってしまい、さらにそこから怪獣に襲われ-(マイナス)になってしまう設定なのでしょう。

終戦直後という設定なので、現れたゴジラと対決するため太平洋戦争を生き残った駆逐艦雪風や重巡高尾、そして試作機のまま放置されていた震電などが登場するわけです。そのあたりは、「永遠の0」で凝りに凝った映画を作った山崎貴監督のミリオタぶりが発揮されています。

負けずにミリオタネタを書いておくと、震電は後方にプロペラがあり、プロペラの後ろに邪魔なエンジンや胴体がない分効率がよく、速度も他の戦闘機を圧倒する740km/hを予定していました。しかし後方に大きなプロペラがあるということは、もし搭乗員が機体の故障などで脱出しようとすると、そのプロペラに巻き込まれてしまうことが必至です。

当時は現代のジェット機のような座席ごと飛び出す射出座席の技術は日本にはなく、どうしたかというと、プロペラを火薬で吹き飛ばした後に搭乗員が脱出するという方法が考えられていました。

ところが実験した技術者によると、プロペラだけを吹き飛ばすのは難しく、テストしてみたところ、プロペラどころかエンジンまで吹き飛んだと、おそらく雑誌「丸」で読んだ記憶があります。

今回のゴジラ-1に出てきた震電には、なんと、当時同盟国だったドイツ空軍ですでに使われていた圧縮空気での射出座席が設置されていて、装置にはドイツ語で説明が書かれているところなどが芸が細かなところです。

この震電(実物大模型)は、映画の撮影のあと、筑前町立大刀洗平和記念館が購入し展示されているとのことです。

ゴジラと戦った異形の戦闘機「震電」福岡で発見!? 史実じゃ“あり得ないプレート” 貼られた意味は?(乗りものニュース)
大刀洗の「震電」には、展示当初からある“秘密” が隠されています。それは2階テラスに上がると見えるコクピット内の座席、そのヘッドレスト下部にある赤文字で書かれた白いプレートです。そこにはドイツ語で「Druckluft-Schleudersitz」(圧縮空気式射出座席)などが描き込まれています。これが示すところは、そのシートがドイツ式の射出座席であるということでしょう。

もっと詳しいのがこちら

対ゴジラ戦兵器として戦闘機「震電」は妥当か?映画「ゴジラ-1.0」のリアリティーを検証する(文春オンライン)
劇中、ゴジラを倒すことに執念を燃やす元特攻パイロット・敷島浩一(演・神木隆之介)の「ゴジラを銃撃して怒らせ、誘導するための戦闘機が欲しい」という求めに応じて探し出されたのが、敗戦から2年近くを倉庫の中で空しく過ごし、朽ち果てかけていた「震電」だった。

そんなこんなで、太平洋戦争中の兵器に詳しい人が見ても楽しめる映画でしたが、涙腺が緩い年配の人なら涙なしでは見られません。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ブロンコ・ビリー(原題:Bronco Billy) 1980年 米
監督 クリント・イーストウッド 出演者 クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック

1980年当時、すでにダーティ・ハリーシリーズで俳優としては超有名になっていたイーストウッドが監督をする7作目の作品です。

時代背景は公開と同じ1980年頃のアメリカで、西部劇活劇ショーの地方回りをしている集団を率いているのが、早撃ちガンマンとして人気のブロンコ・ビリーです。

貧乏な団体ながら、興業に加えて慈善事業なども盛んにおこなっていて良きアメリカ人を演じていますが、なかなかナイフ投げの的になる危険な役割のアシスタントが居着かず苦労しています。

そんなとき、電話代に困っている女性にお金を貸し、その返礼で無理矢理アシスタントに就かせます。その女性というのが、ニューヨークに住む大富豪の令嬢で、富豪が亡くなって相続の権利を持つ女性です。

また一座の投げ縄芸を得意とする青年が酒場で喧嘩に巻き込まれ、留置されてしまいます。公演ができなくなるので、保安官に釈放を願い出ますが、暗に裏金を要求されやむなく貯めてきた全財産を渡します。

しかし公演の開始が大幅に遅れたことで、客が暴れて客席に火をつけ、それが元で公演には欠かせない大テントが燃えてしまいます。

わがままに育った令嬢は旅芸人と一緒に地方巡業することになり、興業の先行きは?遺産の行方は?そして主人公との恋の行方は、、、という流れです。

クリント監督が製作するいつもの子供でもわかりやすい平坦な物語で、それはまた様々な人種や教育水準の一般的なアメリカ人に受けそうです。

見ていると40年以上前の映画ということもあり、最近の複雑で理解するのが難しい映画が多い中、新鮮でもあり、また容易にクライマックスの想像がつくだけにちょっと物足りなさも感じます。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ティアーズ・オブ・ザ・サン(原題:Tears of the Sun) 2003年 米
監督 アントワーン・フークア 出演者 ブルース・ウィリス、モニカ・ベルッチ

アフリカのナイジェリアで内戦が起こり、反政府グループが民主的な大統領を殺害し、武力で勢力を拡大していこうとする中、旧政権を支持してきたアメリカ軍は、ナイジェリアに取り残されたアメリカ人を救うためにジャングルの奥地にある教会兼病院へ特殊部隊を編成し送り出します。

しかしアメリカ人の女医は、患者を置いてはいけないと同行を拒否し、やむなく自力で歩けるナイジェリア人の患者達とともに迎えに来る米軍ヘリコプターの着陸地点へ向かいます。

しかしヘリにはアメリカ人しか乗ることができないことを知った女医は怒りだし、特殊部隊の大尉はやむなく子供と怪我人だけをヘリに乗せ、他の人達は陸路で隣国カメルーンへ向かうことにします。

しかし、なぜか反政府軍がその病院から女医達と一緒に脱出したひとりのナイジェリア人を捕まえようと躍起になって追いかけてきて、激しい攻防戦が繰り広げられることになります。

いわば現代版の「七人の侍」「荒野の七人」「プライベートライアン」みたいな感じです。

しかし自国民を救うためには他国内において、派手にドンパチやって許されるのはアメリカの特権と思っているような映画で、あまり感心はできません。

エンタメ映画とはいえ、最後は追ってきたナイジェリア兵に対して空母から発進した戦闘機からミサイルを打ち込み全滅?させるようなことまでします。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ゼロの焦点 2009年 配給 東宝
監督 犬童一心 出演者 広末涼子、中谷美紀、木村多江

1970年代の中学生か高校生の頃に松本清張の代表作とも言えるこの小説は読んだ記憶がありますが、何度か製作されている映画やドラマの実写版を見るのは初めてです。この2009年版の映画は日本アカデミー賞作品賞を含む11部門で優秀賞を受賞しています。

あらすじはおぼろげに記憶していますが、細かなところはすっかり忘れていて、映画を見て思いだしてきました。

物語の時代背景は、1958年頃で、ちょうど私が生まれた頃の話で、まだ終戦後の混乱の爪痕が色濃く残っていた時代です。出版はずっと後になりますが森村誠一の「人間の証明」に似たところがあります。

映画化で一番たいへんだったろうなと思ったのは、1958年の街並みや蒸気機関車などのロケ地です。エンドロールを見てなるほどと思ったのは、古い街並みなどのシーンでは、韓国でロケをおこなっていることがわかりました。

そういう時代には珍しく、女性が主役でその他の重要人物もほとんどが女性という映画です。男性はちょっとだけでしかもすぐに殺されたり自殺してしまいす。

当時は見合い結婚が普通の時代でしたので、結婚相手の背景などまだほとんど知らない新婚時代に突然夫が行方不明になってしまうというところから始まります。

それでも当時の女性としては行動的で、夫の失踪の謎を突き止めようと遠い赴任地まで出掛けていき、そこで夫とつながりのあった人を訪ねていきます。

いずれもベテラン俳優陣が素晴らしい演技をしていて、最近多いアイドル映画とは違って迫力も感情表現も素晴らしいのひと言です。

戦後の混乱期を生き延びて現代に新しい活路を開いたやや陰のある人物を描いたという点では同じ著者の小説「砂の器」の映画も良かったですが、それと同じような匂いを感じられました。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

バグダッド・カフェ(原題:Out of Rosenheim)1987年 西独・米(日本公開1989年)
監督 パーシー・アドロン、出演者 マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス

いきなりアメリカのラスベガス近くの砂漠をクルマで旅行中のドイツ人中年夫婦が大喧嘩をはじめ、太ったおばさん(主人公)がクルマから降り、スーツケースをもってヨタヨタと歩き始めます。

そしてそのおばさんがたどり着いたのが、ロサンゼルスとラスベガスの中間ぐらいの砂漠の中にある薄汚れたモーテルとドライブインを兼ねているバグダッド・カフェです。

バグダッド・カフェでは、黒人の女主人が子育てなどでイライラしていて、夫にも愛想を尽かし追い出してしまいますが、そうした時に謎のドイツ人中年女性が「泊めてくれ」とやってきて、不信感を募らせます。

夫と喧嘩をして行くところがない中年ドイツ人女性は、バグダッド・カフェの掃除を始めたり、赤ちゃんのお世話を勝手にして、やがてカフェの女主人や常連客などからも認められていきます。

しかし、観光でアメリカに来ていたドイツ人女性ですから、ヴィザが切れているのがバレて帰国することになり、、、

ジェベッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」は印象深い歌で、誰もが一度は聞いたことがあると思いますが、元はこの映画のテーマ曲だったのですね。

歌詞も「ラスベガスから何処とも知れぬ地へ続く荒れ果てた道 あなたが行った所よりマシなどこか 壊れかけのコーヒーメーカー くたびれた一軒の小さなカフェの中・・・」と映画のシーンが思い浮かぶ歌詞が続きます。


https://www.youtube.com/watch?v=UHkW0Cw5w94

映画ロケで使われた元々あった別名のカフェは、この映画ロケの後、バグダッド・カフェと店名を変えそのままの建物で営業中だそうです。

バグダッド・カフェ

映画向きの美女も美男も、そして悪人や死人も一切出てこない、なんだか心が清められそうな映画です。

★★☆

【関連リンク】
2023年9~10月 ゲッタウェイ(1972年)、扉の影に誰かいる(1971年)、目撃(1997年)、ミステリと言う勿れ(2023年)、ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(2011年)、三人の名付親(1948年)

2023年7~8月 君たちはどう生きるか(2023年)、隣のヒットマン(2000年)、オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主(2013年)、起終点駅 ターミナル(2015年)、ブラッド・ファーザー(2016年)

2023年5~6月 スペース カウボーイ(2000年)、幸せへのまわり道(2019年)、最後の忠臣蔵(2010年)、キネマの神様(2021年)、小説家を見つけたら(2000年)
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1761
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


今年も読書感想から1年がスタートです。芸がなくてすみません。


グレイヴディッガー(講談社文庫) 高野和明

著者の作品としては初期のもので2002年に単行本、2004年に文庫化されています。今年2023年には「踏切の幽霊」で直木賞候補になり、面白そうなので、早く文庫が出版されるのを待っています。

タイトルの「グレイヴディッガー」は、中世ヨーロッパの宗教裁判によって殺された死者が蘇って、審査した者を殺して回るという伝説に出てくる殺人者の名前ということです。ただこれらは作者の創作だと解説で知りました。

麻薬の売人だった男がトラブルからナイフで刺されて連れ去られます。目撃者の証言からひとりの麻薬中毒で売人から麻薬を買っていた男が捕まり、殺害した犯人を示す数多くの証言と証拠があります。

それとはまったく関係のないところで、主人公は小さな詐欺などを繰り返してきたワルですが、人生を変えたいと思って白血病患者に髄液を提供するドナー登録をし、適合する患者がいることがわかり翌日に病院へ行くことになっています。

その主人公が、金欠で病院へ入院する前に小銭を借りようとホストをやっている知人の東京都北区赤羽にあるマンションに行きますが、そこでその知人が惨殺されているのを発見します。

その知人とは、お互いにそれぞれに自分名義でマンションを借りて、実際に住むのは入れ替わって住むという、犯罪者の悪知恵を使っているため、自分の(名義の)部屋で知人が惨殺されているということになります。

さらにその部屋で呆然としている時、3人の男たちが強引に入ってきたので、殺人者が戻ってきたと思い、窓から逃げだします。

この時から何者かわからない男たちと、部屋に残された知人の死体のため警察の二つから追われることになります。そして翌日には大田区六郷にある病院に入院して全身麻酔で髄液を抜かなくてはそれを待っている患者の命に関わることになります。

東京近郊の地理に詳しくないとわかりませんが、北区赤羽は23区の最北部、病院のある大田区六郷は23区の最南部でもっとも距離があり、通常なら赤羽から京浜東北線で品川、品川から京浜急行で六郷土手という乗車時間約1時間のルートになります。

しかし逃げる主人公はお尋ね者で、タクシーに乗ると逃亡犯の情報提供を求める無線が隠語で入ってきたり、電車では駅の監視カメラに映り込むのと、すでに緊急指名手配となっていて警官がいる駅には近づけないので様々な工夫をしながら、また捕まりそうになりながらも逃げて逃げて・・・

こうした逃亡者が数々のピンチを切り抜けて逃げ回るというのは「逃亡者」(テレビドラマ1963年、映画1993年)が有名ですが、私は子供の頃に見たアメリカのコミカルな連続ドラマ「逃げろや!逃げろ(Run Buddy Run)」(1966年)が一番記憶に残っています。

追いつ追われつドキドキするのが普通ですが、この主人公はなにか天然っぽい感じで、詐欺師らしく人の裏をかこうとフラフラとしていてあまり緊張感がありません。エンタメとしては楽しめますが、逃亡中に携帯電話を何度も使うというのはこの時代だからでしょうね。今ならすぐに場所が特定されます。

★★☆

著者別読書感想(高野和明)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

駐車場のねこ(文春文庫) 嶋津輝

1969年東京生まれで、2018年に短編「駐車場の猫」を雑誌に、2019年にデビュー作「スナック墓場」を単行本で出版をしたというぐらいしか情報の少ない作家さんですが、本著はそれらの短編作品をまとめたもので、文庫化にあたりタイトルも変更されています。

収録されているのは、「ラインのふたり」「カシさん」「姉といもうと」「駐車場の猫」「米屋の母娘」「一等賞」「スナック墓場」の7編でそれぞれ独立した作品です。

日常のさりげない風景や人間関係を独特の視点で切り取った作品集で、どれも肩肘を張らないで気楽に面白く読めます。

印象が強かったのは、「ラインのふたり」と「姉といもうと」で、「ラインのふたり」は、ロマンチック街道と交差するドイツのライン川のほとりで恋人たちが、、、というような話ではなく(そういうのは宮本輝さんにおまかせ)、工場のラインで働く中年女性達の話で、「姉といもうと」は幸田文の「流れる」に触発され女中に憧れを持って家政婦をしている姉と、ラブホテルで働く妹の話です。

女性作家さんらしく、女性の日常や感情の機微、そしてたくましさがうまく文章で表現されていて、読み込むほどジワーと味がしみてきます。

内容的には中高年男性にはあまり向かないかもしれませんが、のんびりと頭をリセットしたいときに読めばスッキリするように思います。

★★☆

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平凡すぎて殺される(創元推理文庫) クイーム・マクドネル

アイルランド出身の作家さんのおそらくデビュー作品で、原題は「A Man with One of Those Faces」です。元本は2016年に出版されましたが、日本語翻訳版(本著)は少し遅れて2022年に出ています。

アイルランド出身の作家さんの小説では過去にアーナルデュル・インドリダソン著の「湿地」と「緑衣の女」を読みましたがどちらも秀逸でした。また石持浅海著の「アイルランドの薔薇」は、アイルランドを舞台にした小説でした。

映画では「シング・ストリート 未来へのうた」や「デビル」などがアイルランドが舞台となったものでした。

本著はアイルランドのダブリンに住む20代の無職男性が、亡くなった叔母の遺言で遺産の一部を手に入れるためボランティアの社会貢献活動として病院の認知症患者や身寄りのない入院患者の話し相手をしています。

あるときいつもの病院で、看護師の女性に頼まれ話し相手として謎の老人の部屋へ行ったとき、突然誰かと間違われてナイフで刺されるという事件に遭います。どこにでもある平凡な顔をしていることが原因だと思われます。

そしてそれだけならともかく、老人は刺した後に心臓麻痺で亡くなり、殺人の疑いや、その謎の老人が実は過去に大きな話題となった未解決の誘拐事件に関与した疑いのある犯罪者だったことから、その誘拐事件の関係者から秘密を知ってしまったと思われて殺し屋を送られます。

先に読んだ高野和明著の「グレイヴディッガー」は東京で追いつ追われつの逃亡劇小説でしたが、こちらはダブリンやその近郊での逃亡劇小説でした。執拗に追われる秘密がクライマックスで明らかになるなど、なにか似ています。

こちらは比較的書かれた時代が新しいため、携帯電話で位置情報がバレるからと早々に破棄したり、誰も知らないボランティアで知り合ったお金持ちの老婆の家に逃げ込むなど現代的です。

そして未解決だった誘拐事件の真実が明らかになっていきますが、最後は荒唐無稽な感じで、やや興ざめしてしまいました。それでもまったく馴染みのないダブリンの街での追跡劇は楽しめました。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

鬼統べる国、大和出雲 古事記異聞(講談社文庫) 高田崇史

鬼棲む国、出雲」、「オロチの郷、奥出雲」、「京の怨霊、元出雲」に次ぐ「古事記異聞シリーズ」第4弾の作品で2020年に新書が出版、2022年に文庫化されています。

出雲と奥出雲についてはすでに読んでいますが、京都はまだ読めていません。できれば順に読んだ方が良かったと後になって後悔しています。

既に2022年に次の第5作目「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」が新書で出版されています。来年には文庫で出てくるかな。

しかし「出雲」という1つのテーマで島根県の出雲、奥出雲、京都、大和(奈良)、伊勢とよくぞ引っ張ります、お見事。

元々は、2023年に島根の松江や出雲へ旅行するため、関連する小説を探していて読んだところからスタートしましたが、その後もこのシリーズにすっかりはまってしまいました。

ほとんどの日本人は、「出雲」と言えば、山陰の島根県にある出雲大社を思い浮かべると思いますが、京都や奈良にも出雲を名乗っていた地や出雲地方で重要とされている神々を祀っている神社が多くあり、それはどうして?というのが第3弾と第4弾のテーマです。

実は京都に住んでいた頃、近所に加茂川にかかっている「出雲路橋」というのがあり、旧山陰道ではなく、どうしてこんな場所(京都市内の北部の鞍馬口近く)に出雲路?ってずっと不思議に思っていました。

その謎が明らかになるのは、まだ未読のシリーズ第3弾「京の怨霊、元出雲」ですが、今回の第4弾「大和出雲」にもその理由の一部が出てきました。

そのように、シリーズを飛ばして読んでもそれなりに物語は楽しめますが、やはり順を追って読む方が理解が進みやすそうです。

しかし、古代の神々や皇族、有力者の名前や、それが時代で変形していくなど、素人が入っていくには難解で難易度が高い内容ですが、主人公を女子大学院生として、できるだけわかりやすく解説(推理)されているところが上出来です。

ただ、このシリーズ、文庫カバーのキラキラなカワイコちゃんを描いたアニメチックな絵だけは、おそらく若い人にも気軽に手に取ってもらおうという出版社なりの理由がありそうですが、歴史ミステリーを扱うには中身が軽薄そうに見えるのと、中高年男が手に取るには敷居が高そうです。

★★☆

著者別読書感想(高田崇史)

【関連リンク】
 12月前半の読書 葬式組曲、ちえもん、夜市、歴史探偵 忘れ残りの記
 11月後半の読書 こちらあみ子、戦国武将、虚像と実像、極東動乱、二人のクラウゼヴィッツ
 11月前半の読書 忍ぶ川、定年バカ、二千七百夏と冬(上)(下)、長く高い壁 The Great Wall


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1760
今年は今回が最後の投稿となります。
本年もお世話になりありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

思えば、2020年6月に仕事からリタイアし、今年で3年を超え、ようやく仕事にまつわる(悪い)夢をほとんどみなくなってきて、すべてが値上げラッシュでお金の苦労はあるものの、ほぼストレスフリーの無職生活に慣れてきました。

ビジネスシーン現役時代から、辞めてからもしばらくは、仕事でなにか大きなミスをしでかして、客先で全身びっしょり濡れるほどの悪い汗をかきながらひたすら謝っていたり、なにか悪い気のある黒い影に追いかけられる悪夢を何度もみました。

実際の仕事では、クレーム処理や、起きてしまった事故や事件の対応をいくつもこなしてきましたが、幸い夢で見たそうした悲惨な事態は起きてはいません。しかしいつも最悪のことを考え心配している根が小心者の証ということでしょう。

しかし人間関係においてはあまり良い思い出の記憶は残らないものの、悪い思い出の記憶はいつになっても、特に眠る前とかに頭の中に浮かんできて、負の感情がムクムクと湧いてくることがあります。もうそうなると穏やかに眠れません。

過去にアンガーマネジメントの本を読んだり、心理学や人間関係のハウツー本は、どれほど読んだか数えきれません。

つまらない怒りは身を滅ぼす 2019/11/27(水)

嫌なことがあったときの私のリカバリー法は、本を読んで学んだことですが、まずそれが「自分の行動や努力で改善できるかどうか」をよく考え、もしできるのならばその方法を考えます。

そしてほとんどこちらのケースが多いのですが、自力ではどうしても改善できないことならば、「考えるだけ無駄なことなので考えない」と割り切るというテクニックを駆使し今までやってきました。「割り切る」というのが難しいのでこれは訓練と努力です。

しかしそれで気持ちがスッと収まるときもあれば、ダメなときもあり、グズグズと過去のことを悩み続けてしまったり、あのときどうすれば良かったかを考えたり、仕返しができないかなど考えるようなこともあります。

ダメですね、まだ人間はできていません。

一番良い、自分がなりたい人は、人の悲しみや痛みを心から自分の身に起きたことのように感じられる、寄り添える人です。そして悪い感情には左右されず冷静な判断と行動ができる人です。

一般的に人の感情には、自分より劣っていたり、困っている人を見たり比べたりするのが大好きで、それで自分が優位に立ち、人より恵まれていると思うことで優越感をを得て気持ちがスッキリするというブラックな習性があります。

火事や事故など災害が起きた時、その現場に関係ない多くの野次馬がワラワラと集まってくるのにはそういう人の感情が表れています。事故渋滞はその事故が起きた車線だけでなく、本来関係のない反対車線でも見物渋滞が起きます。

学校の優劣、会社知名度の優劣、自宅住所の優劣、マイカーの優劣、出世の優劣、年収の優劣、部下の数の優劣、配偶者の優劣、子供の優劣、退職金の優劣、SNSフォロワー数の優劣など、知らず知らずに常に他人と比べています。

次男坊で子供の頃から常に兄と自分を比べつつ負けず嫌いだった自分にも、自然に人と比べていて、勝った、負けた、優越感や劣等感を感じ、その結果、うれしい、悔しいなどの感情がむき出しになることがあります。

子供の頃ならともかく、すでに人生の終盤に差し掛かっている中で、いまさら負けず嫌いや優越感なんて無意味な感情で、いまさら他人と比べてどうだとか、過去に受けた仕打ちについて、悔しいからやり返したいという気持ちなど綺麗さっぱり水に流して忘れてしまいたいのです。

それができない中年や高齢者が、「恨みがあった」「社会に仕返しをしたかった」「許せなかった」と時々大きな事件を起こしています。

そしてそれは社会的立場が弱い人や、決して逆襲されない弱そうな人、逆恨みで真っ当な組織に向かっていくのが常で、決して反社会団体の事務所に爆弾を積んだダンプで突っ込むとか、武装している自衛隊基地に包丁を持って向かっていくというケースはありません。

いつも冷静で温和で、家族はもちろん他人にもいつも優しい人でありたいと思います。

言うのは簡単ですが、複雑な心の中のことなので難しいですけど、精進したいと思います。

どうぞ、皆様方も幸せに満ちた良いお年をお迎えください。

【関連リンク】
1688 年末に家電品がよく壊れる
1497 
日記で振り返る2020年
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日記で振り返る2019年


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1759
ビジネスシーン過去に何度か書いていますが、フリーランスは、「特定の企業や団体に所属したり、特定の組織の活動に専従せず、雇用契約や労働契約の関係を結んで労働力を提供するのではなく、業務委託などにより自らの技能をサービスや成果物を通じて提供することによって生活する、社会的に独立したライフスタイルの個人事業主を指す総称である」(wikipedia)という解釈がなされています。

そのひとつである個人事業主は「自ら独立した事業を行う自然人を指す。日本の法律では消費税法基本通達1-1-1において自己の計算において独立し、事業を行う者、同第2条1項3号では事業を行う個人と定義され、慣習的には個人事業者または自営業者とも称される」(同)ということで、なんとなくフリーランスと個人事業主と自営業主は共通するところもあり、また違っているところもありそうで、それぞれの言葉の使い方が難しそうです。

ひとつ基準があるのは、フリーランスという場合は、自分以外に他に雇っている人がいない(つまりひとりで事業をやっている)「雇用的自営業等」ということがあるようです。

それでも個人商店などではひとりで仕入れから販売まで全部をやっているケースは多そうですが、やっぱり彼らをフリーランスとは言いません。

それはフリーランスと呼ばれるためには、上記の条件の他、「特定の相手との取引に依存している」という条件がつく場合があるそうです。それが上記の「雇用的」ということなんですね。

そうすると無店舗であってもECビジネスや、店舗で不特定客と商取引をしている事業主はフリーランスではなくなります。

一般的に個人事業主と言えば、街の個人商店主やチェーン店ではない飲食店主や、美容院、理髪店などの個人店主などです。その多くは不特定の相手と商取引をしますのでフリーランスとは言わないのでしょう。

もっと言うと、農業や漁業の第1次産業と、販売などのサービス業の第3次産業には個人事業主が多く、建築業を除き製造系の第2次産業は個人事業主は少ない感じです。

建築関係は土木、内装、外壁、鉄筋、左官、配管、塗装、電気工事、大工など仕事が細かく分かれていて、それぞれに得意な専門性の高い職人という個人事業主が多くいます。

その中で建築関係で特定の技術を持ち会社に所属せずに個人でやっている職人さんは、前述の基準からすると古くからあるフリーランスと言えそうです。

一般的に代表的なフリーランスと言えば?パッと思いつくのはWEBデザイナーや、プログラマー、ライター、マーケティング、カメラマン、イラストレーター、脚本家、司会者などの専門職など幅が広く、カタカナの職業が目立ちます。

また最近流行っている、ユーチューバーやアフェリエーター、プロゲーマーなども個人でおこなっている限りその範疇に入ってきそうです。

さらにその仕事を本業としてやっているのか、昨今流行りの副業としてやっている場合も同じなのか、同じフリーランスでも基準は曖昧です。つまり本業では会社員として働きながら、副業でフリーランスとして働いている人が現実的には多そうです。

  ◇  ◇  ◇

それはともかく、総務省労働局の労働力調査を見ると、自営業主(個人事業主)は、年々減り始め、15年前の2007年から100万人以上減少しています。



2022年の就業者数は6723万人で、そのうち自営業主は514万人、自営業主の割合は7.6%と10%を割っています。調べる前は2~3割は個人事業主がいると思っていたのでこれは意外でした。

調査の記録がある中で、自営業主が一番多かったのは、今から66年前の1957年で、1千万人を超えていました。その時の全就業者の中で自営業主の比率は24%で、就業者の4人にひとりが自営業主でした。

そのように減少を続けている自営業主ですが、フリーランスというくくりで調査した内閣府発表の「日本のフリーランスについての政策課題分析」を見ると、「特定の発注者に依存する自営業主、いわゆる雇用的自営業等は、増加傾向にある。」とあり、1985年に128万人だったのが、2015年には164万人となっています。

また、副業で年に1回でもフリーランスとして収入を得たことがある人を含めると、1500万人という「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」(ランサーズ株式会社)の報告書もありますが、実態はよくわかりません。

この自営業者514万人がフリーランス1500万人へと変わる数字のマジックは、上記にも書きましたが、フリーランスという職業の基準が曖昧なことと、ちょっと副業でフリーランス的な働き方や収入があるとカウントしているためと思われます。

コロナ禍の影響で、余った時間を副業でという人や、ライフスタイルの変化、新形態のウーバーイーツの配達などスポットで働ける個人事業主としての仕事の増加などもあり、今後もフリーランス的?働き方や収入額は増えていくことになるのでしょう。

そうした働き方の多様化は、今までの統計方法では表せず、測れず、評価ができません。困ったものです。

いや、しかし、師走の慌ただしい時に、いろいろ調べまわって疲れました。

【関連リンク】
1445 フリーランスに関しての調査より
1439 耐え忍べるかフリーランス
1068 個人事業主の中でもフリーランスとしての働き方



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葬式組曲(文春文庫) 天祢涼

1978年生まれの推理小説を得意とされる作家さんの作品で今回初めて読みました。この作品は2012年に単行本、2015年に文庫化されましたが廃刊後、2022年に別の出版社から再び文庫が出版されています。

内容は連作短篇小説で、「父の葬式」「祖母の葬式」「息子の葬式」「妻の葬式」「葬儀屋の葬式」の5篇からなっています。

従業員は4人だけの小さな葬儀屋が舞台で、タイトル通り様々な人の死に関わりながら、一般人にはあまり馴染みがないお葬式の実態や、そこで働くこと、そしてそれぞれの死にまつわる謎や葬儀の遺言などをドラマ化しています。

葬式というと厳かで静謐とした雰囲気がありますが、当然ながらビジネスとして成り立っていて、葬儀屋や僧侶はこのときばかりと失意に打ちひしがれている遺族に対してアレもコレもとお金を使わせることに専念していきます。

葬儀屋の仕事は如何にして他社よりも早く、死亡者とその遺族の元へ駆けつけるかというのが一般的な手法ですから、死亡者の情報が一番早い病院や警察と利権で深くつながっている葬儀屋も少なくありません。

そういうところは病院や警察への謝礼の分だけ割高になるので、できれば亡くなる前に本人があらかじめ葬儀の内容(想定参列者数や家族葬にするとか)を考慮し、ネットの評判も調べて(サクラも多いが)決めておき、もし亡くなったらここに電話をして依頼をすると決めておくのが良さそうです。

私も学生時代に、葬儀屋ではなかったものの、葬儀でよく使われる竹材を扱う店でアルバイトしていたことがあり、発注先や納品先(葬儀場)へ竹飾りをよく配達、設置していたことを思い出しました。タダみたいな汚い竹を私がもみ殻で必死に磨いたものが、葬儀場では何万円にも化けていました。

主人公はその葬儀社を父親から継いだ若い女性社長、葬儀のことに詳しい胡散臭い雰囲気の中年男性、ただひとりの身寄りの祖母を亡くしたばかりの若い男性などです。

1話完結のミステリー小説ですが、驚いたことに最後の「葬儀屋の葬式」でちゃぶ台のひっくり返しがおこなわれますので、それまでの短篇にいくつもの伏線が敷かれているのがユニークで楽しめました。

★★☆

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ちえもん(小学館文庫) 松尾清貴

今回も初めて読む作家さんの作品で、2020年に単行本、2022年に文庫化された長編小説です。著者は1976年生まれで、2004年にデビュー、現代物もありますが、歴史物がお得意のようです。

本著は江戸時代に実際に生きた貧しい漁村に次男として生まれ、その後才能を生かして商人になっていく名もなき男をモデルにした歴史小説です。

前半から中盤は、かつて山口県の瀬戸内にあった小さな漁村櫛ケ浜(現周南市櫛浜町)で廻船問屋に生まれ、病弱で次男ゆえ本家の厄介者と言われていた少年が、仲間内では体力では負けるが知恵で勝負とばかりに頭角を現していきます。

そして商才を発揮し、生まれ故郷を離れて長崎の香焼島(こうやぎしま、現長崎市香焼町)に新たな漁場を開き、役人達の命令で本意でないものの唐や南蛮との抜け荷の脱法行為をしながらも事業を拡大していきます。

鎖国中の当時は、幕府が認めた輸出入以外、外国船との抜け荷は重罪で、見つかれば関係者全員が市中引き回しの上で斬首と厳しくなっている頃です。

そしてクライマックスは、長崎で座礁し沈没したオランダの商船引き揚げ法を考え提案します。そのオランダ商船とは抜け荷をおこなう予定になっていて、他人事ではなかったこともあります。

表向きは、余所者の身でありながら漁場を開くことを許してくれた長崎にお礼をしたいということと、なにかと因縁をつけてくる地元の有力者の排除です。

ちえもんと村人から呼ばれて信頼を集めていきながらも、子供の頃から仲が良く未来を語り合った親友を海で亡くしていて、その想いを引きずりながら、再び生まれ故郷の海へと戻ってくるラストは泣かせます。

★★☆

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夜市(角川ホラー文庫) 恒川光太郎

1973年東京生まれの作家さんで、32歳の時にこの作品でデビューされました。この作品は日本ホラー小説大賞を受賞し、さらに直木賞の候補作にも入る新人離れした作品と言われています。ジャンルとしてはホラー小説がお得意のようです。

個人的には怖がりなのでホラー作品はあまり好きではありませんが、本作品はホラーというより、ファンタジー小説または幻想小説と言えるもので、特に背筋が凍るような思いはしません。

本作品は2005年に単行本、2008年に文庫化されていて、表題の「夜市」と「風の古道」の中篇2篇が収録されています。

この2作品はまったく別物ですが、内容的には非常に近く、人間がすぐ近くにある異世界へ入り込むことによって様々なことが起きていくという話です。欧米風のファンタジーというよりは、水木しげるの妖怪の世界に近いかも知れません。

「夜市」では昔、弟と一緒に入り込んだ異世界で、何かを買わないと元の世界に戻れないことから、人さらいに弟を売って戻ってきた青年の苦悩と贖罪、「風の古道」では、友人とともに冒険のつもりで入り込んだ異世界の古道で、その古道で産まれたために戻れず放浪を続ける青年と一緒に旅をする話しです。

どちらもハッピーエンドとは言えませんが、それでも嫌な感情が湧いてくるものではなく、やっぱりホラーとは思えない異世界幻想小説というものでしょう。

★★☆

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歴史探偵 忘れ残りの記(文春新書) 半藤一利

著者は一昨年2021年に90歳で亡くなっていますが、ジャーナリストとして、また作家として少年時代に自身戦争を体験したことや、戦争に関わった人を仕事で取材した経験などを生かした作品を多く残しています。

本著も、様々な雑誌や広報誌などに書いたエッセイをまとめたもので、かなり繰り返しで重なっている部分がありますが、戦争中の貴重な話がいろいろと参考になります。

過去に読んだ「日本のいちばん長い日」と「ノモンハンの夏」の感想は、著者別読書感想(半藤一利)にまとめてあります。

また著者の配偶者が夏目漱石の孫ということもあり、夏目漱石に関連した作品も数多くあります。

この2021年に出版されたエッセイ集では、著者が戦前の下町の向島生まれで、戦争中の浅草や銀座、そして東京大空襲で逃げ惑った話など、貴重な体験談が読めます。

またこのエッセイ集シリーズには「歴史探偵 昭和の教え」と「歴史探偵 開戦から終戦まで」(いずれも2021年刊)の続編があります。機会があればまた読んでみたいです。

★★☆

著者別読書感想(半藤一利)

【関連リンク】
 11月後半の読書 こちらあみ子、戦国武将、虚像と実像、極東動乱、二人のクラウゼヴィッツ
 11月前半の読書 忍ぶ川、定年バカ、二千七百夏と冬(上)(下)、長く高い壁 The Great Wall
 10月後半の読書 にぎやかな未来、凪の光景、コブラ(上)(下)、百万のマルコ

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