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1012
快挙 (新潮文庫) 白石一文

2013年に単行本が刊行され、2015年に文庫化された小説です。著者は私とほとんど同世代ということもあるせいか、その話には共感できることが多く、文庫化された小説は、2003年に文庫化された実質的なデビュー作「一瞬の光」以来ほとんど読んでいます。そして2009年の「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞されたのは嬉しいことでした。

2012年4月上旬の読書「ほかならぬ人へ」


「快挙」とは、また変わった小説のタイトルだな?と思いつつ、なんの予備的知識もなく購入して読みました。この著者の作品は安心して読めるので、文庫本で見つけると中身は見ずすぐに買います。

今回の小説の主人公は、若いときにカメラマンを目指していたものの芽が出ず、いまは浅草のホテルでフロントのアルバイトをしながら、出版社の編集やライターの仕事を手伝ったりしている定職を持たない男性。

いつものように散歩をしながら趣味で写真を撮っていると、月島の古い飲食店の2階で若い女性が洗濯を干している姿に魅了されシャッターを切ります。

その店で切り盛りしている女性に撮影した写真をプレゼントしたことで、二人は急接近することになります。

その後二人は正式に結婚し、主人公の男はカメラマンをあきらめ小説家を目指すようになりますが、須磨にある妻の実家の酒屋が阪神淡路大地震で被害を受けてしまい、両親を励まそうと夫婦で須磨に引越し、店の再開を手伝うようになります。

著者の作品では、男女の目に見えない細やかな感情の糸が入り交じるのが特徴とも言えますが、この小説でも「彼女に会えたことが自分にとって快挙」と言えるまでに時間をかけて醸造されていくストーリーが見事です。

★★☆

著者別読書感想(白石一文)


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

晴天の迷いクジラ (新潮文庫) 窪 美澄

2010年のデビュー作「ふがいない僕は空を見た」に次ぐ2012年発刊(文庫は2014年)の2作目の長編小説です。「ふがいない…」は山本周五郎賞を受賞し、この作品は山田風太郎賞を受賞と順調に売れっ子作家の道を歩んでいるって感じです。

2015年6月前半の読書「ふがいない僕は空を見た」


文庫本の最後にある解説を直木賞作家の白石一文氏が書いているところなんかを見ても、新人らしくない著者の作品の筋の良さがかいま見えてきます。

この小説の主人公は3人いて、それぞれに重くてつらい過去を引きずっています。と言ってもひとりは会社を経営する中年の女性、ひとりは社会へ出たばかりの若い男性、もうひとりは女子高生という年齢も立場も抱え込む問題もそれぞれみな違うわけですが。

物語の最初から2/3ぐらいまでは、3人のそれぞれの背景が別々に淡々と語られているだけなので退屈な感じです。ところが、その3人が連れ立って湾の中に迷い込んだクジラを見に行くところから一気に話しは盛り上がっていきます。

この作品は映像化に向きそうだなぁって思って読んでいたら、すでに水面下では映画化の動きはあるようですね(詳細不明)。くれぐれもこの作品は演技力がある役者の配役が重要なので、力のあるプロデューサーに役者の人選を仕切ってもらえれば良い作品になるのではないかと期待しています。


★★☆

著者別読書感想(窪美澄)


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

悪の教典(上)(下) 貴志祐介

2008年から別冊文藝春秋に連載され、2010年に単行本、2012年に文庫版が発刊されました。

2012年には三池崇史監督、伊藤英明、二階堂ふみ主演で映画化もされています。見てないけど。

「教典」というからには、もう少し哲学的、宗教的で高尚な内容かと期待していた面もありましたが、あまりにも俗世感たっぷりな内容でやや混乱気味です。

タイトルは小説の中で高校生バンドが練習しているイギリスのプログレッシブ・ロックバンド「エマーソン・レイク&パーマー」の「悪の教典(原題Karn Evil)から都合良く取られているようです。

主人公は子供の頃から自分の気にくわない相手を次々と殺してきた人との共感を持たない高校教師という設定で、殺人鬼と知った両親も小学生の頃に手にかけています。

そうした殺人鬼のあり得そうもない設定かというと、さすがに小学生ではちょっと知りませんが、中学生ぐらいになると、親を殺害した事件は世の中には結構ありますから、まんざら嘘くさい話しとも思えません。

また主人公が勤務する私立高校では、男子生徒と淫行している中年女性教諭、男子生徒とゲイの関係をもつ美術教師、校長の弱みを握り、学校を支配しようと目論む根暗数学教諭、女子高生を弄ぶチンピラ体育教師など、青少年の教育の場にあるまじき異常な倒錯世界がてんこ盛りです。

エンタメとわかっていても、真面目な高校教師からすると反吐が出そうな展開でしょう。

ま、それはいいとして(よくないが)、やがては表向きは明るく弁説も爽やかな人気英語教師の主人公の裏の顔に気がつく生徒が現れ、また仮面が剥がれそうになって追い詰められていく主人公教師と対決していくという流れです。

途中からバイオレンス色が強くなり、校内でブラックジャックやスタンガンはもちろん、散弾銃までが登場し、壮絶すぎる殺戮が始まります。まるで「処刑教室」とか「バトル・ロワイアル」のノリになってきて不快さを感じる人も多いような気がします。

ま、理性ある教師なら、さすがにそこまではしないだろ?って思うのですが、事実は小説よりも奇なりってこともあるので、小説の世界ではこれぐらいはどうってことないのでしょうね。でもやり過ぎ。

★☆☆

著者別読書感想(貴志祐介)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

なぜ人を殺してはいけないのか (PHP文庫)  小浜逸郎

聞かれると返答に困り、ドキッとしてしまう倫理を問う10の難問について考える本です。

人を殺すことになんのためらいも抵抗もない大量殺人を描いた「悪の教典」と並行して読み進めていたので、なんだか不思議な感じがしました。

2000年に新書として刊行されベストセラーに輝き、その後2014年には文庫化もされています。

著者は評論家で国士舘大学局員教授のちょうど団塊世代ど真ん中の方です。そのご尊顔を拝見すると、いかにも団塊世代に多く存在する、一癖も二癖もありそうな思想家っぽい感じの方です。

さて、その10の難問とは、

第一問 人は何のために生きるのか
第二問 自殺は許されない行為か
第三問 「私」とは何か、「自分」とは何か
第四問 人を愛するとはどういうことか
第五問 不倫は許されない行為か
第六問 売春(買春)は悪か
第七問 他人に迷惑をかけなければ何をやってもよいのか
第八問 なぜ人を殺してはいけないのか
第九問 死刑は廃止すべきか
第十問 国民は主権を持つのか

それぞれの難問について、考え方や、なぜこのような疑問、質問が発生するのかという時代背景など、論理的に説明されているのですが、正直言って学の乏しい私には半分ぐらいしか理解はできませんでした。

結局なにが言いたいんだ?ってな感じ。頭が悪くてスマンこってす。

第8問の本書のタイトルにもなっている「なぜ人を殺してはいけないのか」については、著者の見本回答?含め、比較的わかりやすく説明が加えられていましたが、その他多くの難問にっついては、その背景や考え方がわかったところで、それが正解のない理由とは思えず、なにかモヤモヤした気持ちが残ってしまいます。

もうすぐ耳順を迎える身ですが、まだまだこうした思想めいた、哲学的というか、禅問答に近い話しにはどうもついていけません。

★☆☆


【関連リンク】
 3月前半の読書 存在の耐えられない軽さ、風のささやき 介護する人への13の話、定年病!、K・Nの悲劇
 2月後半の読書 退職金貧乏 定年後の「お金」の話、埋み火、残虐記、違法弁護
 2月前半の読書 人類資金 1・2・3・4・5・6巻、下流老人 一億総老後崩壊の衝撃



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1011
2月に読んだ塚崎公義著「退職金貧乏 定年後の「お金」の話(祥伝社新書)」で、これは意外!とか、斬新な考え方だなぁって思ったことがいくつかあるので、備忘録的に。すべての人に当てはまるか、参考になるかはわかりませんし、私自身も100%これらの話しに同意しているわけではありません。

2月後半の読書と感想、書評 退職金貧乏 定年後の「お金」の話(祥伝社新書) 塚崎公義


この本は、ほぼ50~60代の既婚男性を対象とした「もうすぐやってくる引退(リタイア)に向けて老後資金をどうするか」って本ですから、若い人やすでにリタイア生活に入っている人にはあまり参考にならないかと思います。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

◆生命保険、医療保険は不要
子供がすでに学校を卒業し、自活をしていれば、一家の大黒柱である父親が急死しても、家族の生活に大きな影響はありません。

父親名義の住宅ローンは死亡すれば残ローンは消え、遺族年金などが妻に支払われますから生命保険は不要という考え方です。

もし家族が大病した場合でも、健康保険に加入していれば「高額療養費制度」があるので、高額にならずに済みます。

たとえば年金生活者で年収310万円以下の人が支払う自己負担上限は57,600円になるなど、年収により負担する最高額が決まっています。

保険会社は「がん治療に医療費が○千万円必要!」とか「三大疾病に安心プラン!」と煽りますが、健康保険対象医療であればどんな高額医療であっても自己負担は数万円で済むのです。

もちろん保険対象外の治療や、特別な最先端医療、入院時は個室を希望するとか、お金が余っていればたんまり医療保険を支払うことで、より優雅で満足いく闘病生活がおくれますので、そのために加入するのは勝手です。

保険は確率論からすれば保険会社の経費や利益分があるので、加入者が必ず損をする仕組みです。

子供の扶養など責任が重い時期が終わり、老い先短くなった高齢者であれば、お金がたっぷりある人だけが入ればよいということです。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

◆持ち家の火災保険は不要
火災保険は自宅が火災に遭って住めなくなった場合に、保険で自宅を再建したり、使えなくなった家財を買うためにかけておく保険ですが、一般的に住宅ローン支払い期間中は自動的に保険がかけられていて、ローンが終了すると火災保険も終了します。

したがって住宅ローンが終了する頃に、新たに火災保険に入るかどうかを考えるわけですが、その頃になれば子供達は巣立ち、不動産の持ち主はすでに高齢で、25~30年前に建てた古い家は日常生活にも不便になってくる時期でもあります。

なので、万が一火事で住めなくなったら、どうせ築20年を超す建物なんかに価値はないのだから、再建したり一部を修繕したりせず、さっさと土地を売り、その売ったお金で夫婦だけが暮らせる小さなマンションを買うか借りるかして移り住めばよいという説明です。

火事の怖いのは、隣家が出した火事が延焼した場合でもよほどの重過失が証明できない限り、火元から賠償は得られず、自己負担となることです。

つまり火事の後始末、撤去、整地、再建などもすべて自己負担でおこなうことになります。

それ故の火災保険ですが、高齢化して身体のあちこちが不自由になってくる夫婦が、新築の広い一戸建てに暮らすことが最善か?と考えると微妙でしょう。

地震保険は必ず火災保険とセットで加入しなければなりません。そして居住エリアによってかなり高額に設定されています。

近いうちに大地震が想定される太平洋側の南関東、東海、近畿、四国の一部地域は、その他の地域と比べると保険料が2~3倍も高くなります。

さらに地震保険は火災保険の補償の30~50%程度だけ補償される場合が多く、地震保険の補償金だけでは半壊、または全壊した家を再建することは難しいでしょう。

若い人なら不足分を新たな住宅ローンで組めますが、年金生活者だとそれも難しそうです。

こちらも火災保険と同様、地震保険は加入せず、地震で万一全半壊するようなことがあれば、生きているかどうかも怪しいですが、高齢者が自分で再建するのはあきらめて、土地を売ってマンションでも買うか借りる割り切りと考えるのがベターでしょう。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

◆貯金は将来のインフレを考えてEFT(上場投資信託)や物価連動国債、変動金利型国債
いくら利率がよい外貨預金でも、国内のインフレと連動することがないと、将来食料品などモノの値段が急に上がった際に預金が大きく目減りしてしまうリスクがあります。また外貨預金は為替のリスクもつきまといます。

その点株価は比較的インフレと連動する傾向があるので、老後資金のような長期で運用する確実性の高い預金に向いていると言われています。

さらに余裕があれば、日本経済が長期的にみて今後成長していくとは思えないので、分散投資として外貨建てMMFまたは米国債、外国株ETFを合わせて購入しておくと安心という話です。

ってなるほどねぇ~って、こればかりはよくわかりません。本当に数年~数十年後にインフレがくるかどうかなんて誰にもわかりません。それに備えるというのはギャンブルでもあります。

本書では年々寿命が伸びそれだけ多くの資金も必要となるので、60歳の定年後も、65歳、できれば70歳ぐらいまではパートやアルバイトでよいので働き続け、年金受給開始をできるだけ遅らせ、その分割り増しで多くもらえと書かれています。

しかし私の場合はすでに足の病気で外で働けない状態になりつつあり、それは無理。自宅で働けることがあればそれは考えたいですが、年金は定年後にでもすぐに欲しい状態です。

また退職金が出て分散預金できるほどお金のある高齢者はいいのですけど、私のように退職金がなかったり、あっても住宅ローンの返済にすべて消えてしまう高齢者はどうすればいいのか?ってところも聞きたいところです。

上記で言えば、引退したら生命保険(私の場合は掛け捨ての共済保険)や、新たに入ろうかと思っていた火災保険はやめにするのはいいとしても、その分は無駄遣いせずに貯蓄に回し、不意の出費、例えば家族の医療費、家の修理、家電の買い換えとかに備えておかなければダメでしょうね。

あとは夫婦の年金だけで毎月回していけるかってところが、実際に健康的な老後をおくれるかどうかってところです。

とりあえず(まだ住宅ローンが残っているものの)住むところだけは確保できていますので、質素な暮らしに努めればなんとかなるのかなと。

覚醒剤で逮捕された清原元選手を見てもわかるとおり、現役を引退し、収入が大きく減っても、生活は現役当時のように派手で金遣いが荒い習慣が抜けないというのが人間の習性です。

一度身に染みついた生活スタイルは簡単に下げられないのでしょうが、これは自分でも一番気にかかるところです。

果たして今までのように、毎月一定の収入がある生活から、生活にギリギリ必要な最低限の収入(=年金)で回していけるのか?

4人家族で世帯収入が400万円で普通?に生活している人がいますが、同じ条件で1000万円以上あってもまだ足りない、貯金できないという人もいるわけです。

論理的には年収1000万円の人が400万円の生活に変えれば年間600万円も貯金ができるわけですが、絶対にそうはならないそうです。

わかっちゃいますが、これからますます高齢者が増えていき、社会保障費が拡大していくその中に、自分の未来もあると思うと、背筋が凍るような思いがします。

もう一度30歳ぐらいからやり直せたなら、30年先40年先のことを考えたプランも作れますが、時は残酷です。


【関連リンク】
795 定年リタイア時の必要貯蓄額と生涯住宅費用
574 仕事を引退する時、貯蓄はいくら必要か
499 定年後にどう生活していくか
325 元気な高齢者はいつまでも働くべきなのか
834 高齢者向けビジネス(第4部 ボランティア編)



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1010
非正規社員の増加で様々な問題が指摘されています。例えば「非正規で収入が少ないために年金を納めず、将来の年金受給ができない人が増えていくのでは?」とか、「非正規では職能が上がっていくということがないのでいつまでも低賃金だ」とか、様々です。

非正規社員は社会悪のような決めつけがマスコミのあいだで横行しているのは、いつも嫌な気分になります。

非正規のいいところもいっぱいあるので、これだけ非正規で働く人が多いということも注目すべきです。例えば「介護や育児をしながら、時間や出勤日数に制約があるけど空いた時間で働くことができる」、「他にやりたいことがあって、残業や休日出勤はしたくない」、「将来やりたいことが決まっているので、それまでのつなぎとしてちょっと社会経験を積みたい」、「税金や社会保険の関係で主な収入を得ている世帯主の扶養者でいたい」などなど。

ところが非正規社員の中でもいつも注目されるのは、「本当は正社員になりたいが、不本意にも非正規」という人に対してです。

この「不本意に非正規」という人は総務省調査(2014年総務省「労働力調査」)で315万人いると言われています。非正規就労者は全体で1980万人ですので、その中の約16%が不本意非正規就労ということになります。

確かにこの315万名、16%というのは少ない数字ではないでしょう。しかしこの16%の「不本意ではあるけれど非正規」という人をもっと細かく調べていくと、ここからは統計ではなく、過去の仕事の経験からですが、感覚的に半分ぐらいの人が「いまの非正規就労と同じような労働条件で給料や賞与、その他待遇面だけを正社員扱いに」と希望しているのです。

つまり、正社員なら当たり前の「地方への転勤」「残業」「休日出勤」「リーダーや店長、管理職など責任が重い仕事」「サービス残業」などは「お断りです!」って言う人が多いということ。

さらには正社員になっても「家庭の事情で有給以上の休みが必要」と当然の権利のように言う人もいます。そういう人達を正社員に迎えたいという企業が果たしてどれほどあるのでしょうか?企業には厳しい競争に勝って利益を上げ続けなければ、成長も従業員への還元もありません。

正社員を雇用する企業も慈善団体ではありませんから、計画的に経費を抑えるために最少人数で仕事を回したいと思っています。

それ故に季節変動などで業務が増えたときには残業や休日出勤が当たり前になり、そうしたことをあらかじめ正社員には求めます。

また事業や経済活動は生き物ですから、何十年も同じ場所で同じ仕事を保障することなどできません。

そのために正社員にはひとつの決まった仕事だけでなく、様々な業務を覚えてもらって、全国どこへでも社員の足りない場所へ異動し、今までとまったく違った仕事をやってもらうことを求めます。

そして正社員が担う大きな仕事はチームで動くことが多く、そのチームのために例え自分の評価につながらず、勤務時間でなくても、献身的に代わっておこなわなければならない場合もしばしばあります。

そうした正社員の負の側面を知らず、あるいは正社員になると今の条件も大きく変わることを言及せず、非正規雇用の人達に、単に「正社員になりたいか?」って聞けば「ハイ、正社員になりたいです」と回答するのが増えて当たり前です。

もちろん生産人口が減少していく中で、これからの企業には、「時間外勤務は極力なし」「転勤なし勤務制度の新設」など、正社員の雇用環境の努力すべき改善の必要はあります。

しかし現在のところ、そのようなことができる基礎体力がある企業というのは、ごくごく一部の大企業や、競争相手の少ない企業に限られています。競争原理が働かない役所ですら、税収が伸びないので、非正規職員は増えても、正規職員は増やせず苦労しているのが実態です。

沖縄県が仕事を紹介するハローワークで勤務する職員のうち70%以上が非正規雇用の人達です。

それなのに、民間は非正規を使うのはけしからん!なんて指導ができるわけもなく、そういうことを堂々と言えるのは、現在不本意にも非正規社員の人と、自分たちは手厚く保護されていながらも社会の問題を追及したいという使命感を持った大手マスコミの正社員の人達だけでしょう。

あとは人気取りのため無責任に言える野党政治家と、売名行為に懸命な社会運動家ぐらい。

現在不本意な非正規就労をしている人も、「もし自分が会社を経営したら」って考えてみればわかることです。

いくらでも資本があるわけではないので、身を切る思いでお金をかき集めて、それを取引先や従業員へ支払っていく毎日です。少しでも雇う人を少なくし、また一度雇うと自由に解雇できず、一生その人の責任をみなければならない正社員を安易には採用せず、厳選したいと思うのは当たり前のことではないでしょうか。

ただ、不本意な非正規就労をされている人が多くいるというのは現実なので、そうした非正規で働かざるを得なかった人達に対して「なぜあなたが正社員の登用されないか?」「どうすれば正社員に採用されるか」というもっと現実的な理解と反省を求めていくのもマスコミやハローワークの重要な仕事ではないでしょうか。

ちょっと厳し目な意見ですが、非正規から抜け出せない人は、それなりの理由があるってことを知ってもらいたいのです。


【関連リンク】
890 非正規問題の真実
804 高齢就業者と非正規雇用
717 非正規から正規雇用への転換策
707 ハローワークは非正規職員のおかげで回っている
452 中高年者の雇用問題と非正規雇用問題



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1009
少子化&高齢化のよる生産人口の減少が叫ばれつつもう20年近くが経とうとしていますが、その解決策としては「劣悪環境でもいいので育児施設を増やす(専業主婦を減らす)」「高齢者にむち打って働かせる」「安い外国人労働者を限定的に入れる」というぐらいにしか国は考えていません。

私も裕福で暇を持て余す高齢者にボランティアで働いてもらうことぐらいしか妙案は持っていないので、偉そうなことは言えませんが、1月に産経新聞に「なかなかユニークかつ面白い発想!」と感心して読んだ記事がありました。

サラリーマンの副業・兼業を認めよ 人手不足解消の秘策 女性、高齢者、外国人に次ぐ第4の働き手に(産経新聞)

もっとも最近になって一部の企業では「副業を認める」あるいは「副業を奨励する」企業もポチポチと出てきましたが、その多くは単なる話題作りといったところでしょうか、大手企業で堂々と認めているところは聞いたことがありません。

最近、少しずつ大手企業も変化してきていますが、それがニュースになるぐらいまだたいへん珍しいことなのです。

国内正社員1500人、副職OKに ロート製薬

ロート製薬正社員1500人「兼業OK」に―他の企業が導入するときのポイントは?(弁護士ドットコム)


もしそうした副業を認める企業があったとしても、一般的にそれを深読みすれば「他に収入があるのなら、いつでもクビが切れる」「年齢が高い人は副業を本業にして早く辞めてほしい」という思惑があると思って間違いありません。営利を追求する企業なんてその程度です。

公務員の場合は法律で兼業禁止にしていますが、これだって贈賄収賄の可能性を排除するため、本務とは関係のない兼業は「一定の条件」の下で認めるぐらいの大らかさがあってもいいのではないかと思っています。

「一定の条件」とは、企業の従業員でも公務員でも事前に会社または役所に申請を出して、その兼業が本来職務に影響しない、あるいは競合相手に利する行為や贈収賄につながる可能性を完全に排除できる場合に限るとすればいいわけです。

そうすれば届け出のない副業は一切禁止(=犯罪行為)しても構いません。

マイナンバーの導入により、一定利益以上の副業が会社にばれてしまうことで、いま雇い先に黙って副業をしている人は困惑していると思いますが、ちゃんとした届け出制、許可制にすればオープンに副業をすることができます。

だってずるいと思いませんか?

従業員は就業規則に縛られてすべての副業が禁止ですけど、経営者(役員)は競業禁止義務は当然あるとして、それ以外の副業は原則自由にできます。

副業は禁止だぞ!って言っている会社上層部の役員達が自由に副業をやっているわけです。そりゃ収入格差はどんどん広がって当たり前です。

この副業禁止規定を法律上も原則禁止とすれば、不足する労働力の補完につながるというのは確かなことで、無理のない範囲で得意なことをパートや自宅勤務で働くという流れが作られれば、働く人、雇う会社それぞれにとってメリットがあります。

慢性的に人材が不足している介護や保育の現場や、土日曜日や夜間に集中する旅行・観光業、宅配サービス業、販売業などそうしたところに、土曜日だけ働きたいと言う人や、趣味を兼ねて夜間や休日に仕事をしたいという人が雇えます。

そして残業や休日出勤を減らしたいそうした業種の社員の穴を埋めることができるのです。

反対するのは従業員が副業にかまけて休んだり、疲労で労働効率が落ちたりするかも知れないと疑い深い企業経営者たちということになります。経団連や商工会に属する古い頭の企業経営者たちですね。

自分たちは企業経営者でありながら、その多くは投資活動や不動産、他社の役員、講演会、本の出版など、いくつもの副業をして、もっと言えば経営者には就業時間ルールなどないので、平日の昼間っからでも副業にいそしんで本業以外に収入を得ていたりしながら、従業員にはそれを許さないなんて、「ルールは常に勝者に有利になるように決まっている」の見本のような悪習です。

以前からこの問題は法律論を含め多くの議論がなされていますが、いまだ決着はついていません。

会社は禁止でも実は合法! リストラの口実にされる?(PRESIDENT Online)

特に最近はネットを活用した副業が盛んに行われていて、気軽に収入を得ることができる時代です。

それでもまるで女工哀史盛んな大正時代に作られたようなこの「兼業禁止規程」が現代社会にも堂々と生きているのはおかしなものです。

利益を最大限得ようとする企業に自主的に「副業禁止」を任意で求めてもそれは無理なことなので、ここは法制化して「副業禁止規程の禁止」「副業している人への差別禁止」を国が保証するべきでしょう。


【関連リンク】
869 働かないおじさんと年功序列
865 仕事と介護の両立という難題
844 内職・副業詐欺など
834 高齢者向けビジネス(第4部 ボランティア編)
824 高齢者向けビジネス(第3部 仕事編)


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1008
存在の耐えられない軽さ (集英社文庫) ミラン・クンデラ

チェコ出身でフランスに亡命した作家ミラン・クンデラが1984年に発表した小説で、1988年にフィリップ・カウフマン監督のもとで映画化され有名になりました。

第2次大戦後東側陣営に組み込まれていたチェコスロヴァキアですが、共産党政権の中でも国民のあいだからは民主化や自由経済化の運動が叫ばれていました。それがいわゆる「プラハの春」運動につながります。

いかしその民主化の動きを封じ込めるため、1968年にソ連が政治的、軍事的介入を強め、チェコを弾圧する目的で軍隊を送り込んできます(チェコ事件)。

この小説ではそうした激動の中にあるチェコスロバキアに暮らすプレイボーイな外科医トマーシュと、その恋人との愛の物語ですが、なかなか哲学的な表現や思想を強調する場面もあり、また激動する国からとっとと他国へ亡命できるというような恵まれた特権階級という側面もあり、なかなか一言ではよかったとか感想が言い出せない困った小説です。

そして主人公トマーシュは、結婚した後も、絶えず外に愛人を持つという自由奔放な生活を送り続け、妻の「私にとって人生は重いのに、あなたにとってはとても軽い。私はその軽さに耐えられない。」という想いがタイトルになっています。

平和な日本においては、こうした国を捨てて亡命をするという経験もなければ、その最中にも妻と愛人を同時に愛するといういかにも肉食系男子的な恋愛小説は、あまりにも実感がわかずに、理解されがたいかもしれません。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

風のささやき 介護する人への13の話 (角川文庫) 姫野カオルコ

「もう私のことはわからないのだけれど」というタイトルで2009年に発刊された小説ですが、2011年には介護の話しだということがよくわかるタイトルに変えて文庫本で刊行されました。

著者自身が肉親、親戚など延べ20年近くも親族の介護を経験してきただけあって、高齢者の介護に対してえらく達観して見えるところがありますが、様々な事情を抱えた介護の形を13のケースの短編にうまくまとめています。うまくっていうのとはちょっと違うかな。

さてこの本の感想を書こうと思いきや、どうとらえていいのやら、介護に長く関わっている人しかわからないような心理描写や、人生観など、小説と言うよりも、なにか朗読詩を聞いているような錯覚に陥りました。

詩のように思えるのは、文章が生きていいる証拠でしょうけど、一般的な小説のように起承転結などあるわけでもなく、介護に関わったこともない人が読むと退屈きわまりない誰かわからない人の日記的な文章となってしまうかも知れません。

介護で悩み多き人がこの本を読むと、共感が持てるのかも知れませんが、一般的に読書好きな人にこの本を勧めたいか?って聞かれると、ちょっと躊躇うところです。

★☆☆

著者別読書感想(姫野カオルコ)


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

定年病! (講談社+α新書) 野末陳平

野末陳平と言えば私は1980年代にあった「税金党」を思い浮かべますが、もう彼の名前を聞かなくなってから久しく、最近はどうしているのかなぁって思っていたら今もお元気でご活躍のようです。

戦前生まれで今年で84歳になられます。著者と早稲田で同窓だった野坂昭如氏は昨年(2015年)暮れに亡くなっていますから、団塊世代にとっての兄貴分と言えるこの世代の人もだんだんと少なくなってきます。

野末陳平通信(ブログ)


同新書は2007年に刊行されたもので、著者の周囲にいる人達の実例をもとに、定年後の生活が「思っていたと違った!」とならないようにするための軽めの教書というべきものです。

定年病とは著者が名付けた定年になったとたんに陥る心理状況、ひいては病状のことです。

最近よく聞く「定年後の田舎暮らしはうまくいかないよ」とか、「海外移住は業者に騙されているだけ」「奥さんは地域で独自のコミュニティを持っているが、会社人間の旦那は引退すると孤立する」といった、どこかでよく聞く内容ですが、2007年発刊なのでそれもやむなしでしょうか。

主に300万人近くいる団塊世代向けに書かれていますが、50代の人でも十分に面白おかしく、そしてためになります。「定年とは合法的な解雇(=失業)である」という言い回しは、確かにその通りだと思いました。

★★☆


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K・Nの悲劇 (講談社文庫) 高野和明

2001年に「13階段」でデビューを果たした著者ですが、それ以前から多くの映画やドラマの脚本を手がけていて素養は十分にあった方で、この作品は単行本としては3作目、2003年に発刊されたミステリー小説です。この著者の作品では他に「13階段」と「ジェノサイド」(2011年)を読んでいます。

 「ジェノサイド」2月前半の読書と感想、書評 2014/2/19(水)

13階段」も「ジェノサイド」も、私がお勧めするミステリー小説のひとつですが、この作家さんは長編小説が1年に1作あるかどうかという比較的寡作の方ですので、なかなか次の作品を読む機会がありませんでした。

映画やテレビドラマの脚本なども多く手がける多才な人気作家さんなので、引っ張りだこなのでしょう。

最初は普通のミステリー感覚で読み始めましたが、よく現役医者作家が書くような医療サスペンス色が濃くなり驚きました。

しかも亡くなった友人が憑依する霊的現象などホラー色も加わり、下手をすればとんでも小説になりかねないところ、元産婦人科で、現在は精神科医というたいへん好都合な主人公のおかげで、論理的に破綻せずにうまくまとめられています。

タイトルは、妊娠中に胎盤早期剥離のため亡くなった3年前の親友の事故を、イニシャルの匿名として書かれていた週刊誌の記事タイトルからきています。

本書に繰り返し書かれていますが、1990年頃には国内で40万件以上もの人工妊娠中絶がおこなわれており、もしこの中絶を胎児の殺人として考えてみると、その数は日本人のガンによる年間死亡者数(2014年度37万人)をも上回り、日本人の死因の堂々1位となってしまうという事実には驚きました。

ただし近年はその中絶数は減少傾向にあり、2000年で34万人、2013年は18万人となっていて、年間18万名の死因2位の心臓病(高血圧や動脈硬化など)とほぼ同数まで下がっていますが、それでも人口減少のなかにおいて、まだまだ中絶をする人(せざるを得ない人)が多いのだなということを初めて知りました。

★★☆

著者別読書感想(高野和明)


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