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ラスト・チャイルド(ハヤカワ・ミステリ文庫)(上・下) ジョン・ハート

以前「川は静かに流れ」(2009年)を読んだことのある著者の2009年(翻訳版は2010年刊)発刊の作品です。

この著者の書く小説のイメージは、人間、特に家族の暗くて重いテーマを粛々と描くってところですが、この小説はその代表的なものかも知れません。

アメリカの地方に住む13歳の少年が主人公で、1年前に双子の少女が行方不明となり、続いて父親までが失踪してしまい普通の家族が一気に崩壊してしまいます。

一緒に暮らす母親は麻薬におぼれ、街の有力者の囲われ者となってしまい生きる気力さえ失いつつありますが、主人公の少年は健気にも行方不明になった双子の妹を探すため、街の中を一軒一軒訪ね歩き、不審者をあぶり出していきます。

登場する大人はすべて何かしらの問題を抱え、主人公少年の純粋さと勇気だけが光って見えますが、何度もピンチに陥りそうになりながらも、うまく機転を利かせて切り抜けていくという、ありえそうもない設定で、ホームアローンじゃないけれど、そうした年端もいかない賢い少年が、大人顔負けの大活躍をするっていうストーリーが、現実ではありえそうもないだけに、意外性があってうける素地があるのでしょう。

暗澹とした気分にさいなまれながら読む長編小説ですが、話しの流れのテンポがよく、サクサクと読むことができ、タイトルの「ラストチャイルド」って意味が最後の最後で明らかになる設定といい、「川は静かに流れ」同様、なかなかできのいいと感じる作品でした。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

老いる覚悟 (ベスト新書) 森村誠一

2011年に書かれたエッセーをまとめた新書で、今年82歳になる著者ですが、まだまだ意気軒昂って感じです。

著者の作品で最初に読んだのは「新幹線殺人事件」(1970年刊)で、今から40数年前の中学生のころです。それ以来、同氏の作品は10作以上を読んでいますが、過去に出版された作品数はすでに300作を超えているそうです。まったくアイデアと執筆意欲の枯れることがない凄い人です。

その著者が考える、リタイヤ後にやってくる老いと死に至るまでの覚悟を淡々と語っています。年齢的にはちょうどリタイアを迎える団塊世代向けに書いているのかなって感じです。

団塊世代260万人の中の100人に1人、1%の人が買ってくれれば、それだけで2万6千部ですからね。この世代に向けたビジネスはまだまだ有効です。

著者は戦前生まれで苦労してきた人だけあって、その含蓄には重みがあります。しかし死への覚悟という点で言えば、それは年齢と共に変化していくもので、いま50代の私が平均寿命の80代が持つべき覚悟についてはなかなか理解ができません。

この新書が東日本大震災のあとに書かれただけあって、震災と津波、そして原発事故避難による突然の死や、生活のすべてを失った絶望状態からの人生などについても深く書かれています。長く生きるとそれだけいろいろな自然災害含め人の生き死にを身近に見ることになります。

定年とか引退ということがほとんどない作家である著者と、一般的には定年後にそれからまだ2~30年の老後が残されている元サラリーマンとではだいぶんと考え方が違うんじゃないのかな?って思いましたが、作家になる前は今でいう社畜として10年間働いていた著者だけあって、そのあたりはぬかりなくよくわかってらっしゃるって感じです。

さらに雇用問題として、利益追求、効率重視の「成果主義」についても、「日本の国民性には合わない」とバッサリ斬り捨てているのもまったく納得。

定年退職後に「なにもしなくていい自由」ではなく、「なにをしてもいい自由」と考える人だけが、有意義な老後をおくれる人という点はなるほどって思うにしても、私のように足が不自由になってしまって、できることがかなり制約されてしまうと、前向きに「なにをしてもいい!」とは考えにくいのも確かです。

高齢になるとなにかしら病気はつきものといいますが、よりよい有意義な老後をおくるためには、いかに健康体であることが重要か身をもってそう思います。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

Nのために (双葉文庫) 湊かなえ

デビュー作品「告白」で一気にブレークした著者の4作目の長編小説で2010年単行本、2014年に文庫化されています。この著者の本を読むのは「告白」「夜行観覧車」「贖罪」に続き4作目です。どれもライトに読めて気分転換にいい感じです。

この長編は2014年に榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人などの出演でテレビドラマ化されたそうですが、見ていないのでまったく内容は知らずに読みました。

この長編は2014年に榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人などの出演でテレビドラマ化されたそうですが、見ていないのでまったく内容は知らずに読みました。

この著者の特徴でもありますが、ちょっと人間関係が複雑でややこしい設定となっている長編ミステリー小説です。この複雑さが不自然に映り、いかにも無理して役の設定をしたなぁって感じがしてあまり好きではありません。

主人公は四国の離島出身で、大学へ通うために上京してオンボロアパートに住んでいます。そのアパートで親しくなった友人と沖縄旅行へ行った際に知り合った、タワーマンションに住むセレブな夫婦と付き合いが始まります。

そのタワーマンションで主人公の女性などを招待して、食事会を開こうとしていたその時、商社マンの夫が妻を刺し殺すという事件が起き、その妻と不倫関係にあった男が、夫を燭台で殴打して殺すという事件が起きます。

ここまでがプロローグのようなもので、一件落着したように見えた、この殺人事件の謎や真相が次々と語られていくというストーリーです。

主要な登場人物の名前が成瀬、野口、西崎、野原、望、夏恵、奈央子と、タイトルの「N」とはいったい誰なのか?ってところがミソですが、注意して読むことでそれがわかるっていう仕組みではなく、最後まで読まないとわかりません。そういう意味では前作や前々作と同様なパターンと言えます。

★★☆

著者別読書感想(湊かなえ)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

昭和の犬 姫野カオルコ

2013年刊の小説で、2013年下半期の直木賞で、朝井まかて氏の「恋歌」と同時受賞した作品です。この受賞までには「受難」「ツ、イ、ラ、ク」「ハルカ・エイティ」「リアル・シンデレラ」と4作が直木賞候補にのぼり、この5回目の候補で受賞と相成りました。

昭和33年生まれの著者自身が歩んできた人生を、主人公に重ね合わせたような自伝的な小説と言うことで、私とほぼ同年代、しかも同じく関西出身と言うことで、小説に登場する様々な生活の場面、テレビ番組、社会背景が自分の人生にもかぶってきます。

それにしても私の子供時代(昭和30年代~40年代)に起きたことやその時の世相なんてすっかり忘れていましたが、この本のおかげで少し蘇ってきました。しかし「土居まさるのTVジョッキーでの白いギタープレゼント」や「心に愛がなければ、どんなに美しい言葉も 相手の胸には響かない…聖パウロの言葉より」なんて、よく覚えているものです。言われてみてそういうのあったなぁって思い出しました。

人は誰でも過去の体験を美化して話したがる傾向があります。成功者が必要以上に貧しかった生い立ちや、人並み以上の努力をしてきたことを語るのに似ています。

でもそこは作家さん、単なる歩んできた過去を美化した話しではなく、時代とそれに寄り添ってくれた犬や猫をうまく重ね、昭和後期と平成初期はこういう時代だったんだっていう思い出の記録の小説に仕上げています。

終盤、そうした昭和から、いきなり平成の現代へ飛びますが、紆余曲折あった主人公がほのぼのとして、肩から力が抜けるような人生を送っている姿を見せて、読み終わりも心地よい気分になれました。

★★★

著者別読書感想(姫野カオルコ)


【関連リンク】
 11月前半の読書 悪女について、空の中、アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風、青い約束
 10月後半の読書 時の地図 上・下、贖罪、家族という病、ワーカーズ・ダイジェスト
 10月前半の読書 羆嵐、幸せになる百通りの方法、努力しないで作家になる方法、幻影の星



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977
少し前のTwitterで「卒業即借金827万530円」という、自虐的なつぶやきと明細書の写真が話題に上りました。

私も以前から大学生の奨学金という名の学生ローンについては理解していましたが、中身を見てあらためて驚きました。

卒業即借金827万5301円(Twitter)

合わせて簡単な明細がつぶやかれていますが、入学金と4年間の学費計242万円、それに4年間の生活費と家賃339万円(1ヶ月約7万円)、ローン保証費33万円合計614万円が実際に借りた金額

4年間614万円の借金にこれから返却が終了するまでの利子が付いて総額827万円となり、それを卒業後に35,000円の240回払い(20年間)となるそうです。

この奨学金という名の学生ローンは、日本学生支援機構の「第二種奨学金」とのことです。

この人のケースでは入学金も学費も国立大学なので、私立(文系)と比べると3~5割程度安く、また家賃と生活費を合わせて月7万円+アルバイトでやりくりするのは、地方ならなんとか可能でしょうが、大都市部では難しいでしょう。

自宅通学ができずに生活費として借りるプラス7万円(4年間で339万円)の負担が大きいとも言えますが、いや~たいへんですねぇ、、、順調にいけばですが、無事に返却が終了するのは立派な中年になっている42歳です。結婚適齢期もとうに過ぎています。

でもね、こうした学費や生活費を奨学金という名の学資ローンを借りて大学へ通っている人って、大学生、大学院生全体の半分近くにものぼります(独立行政法人日本学生支援機構「平成24年度学生生活調査」)。

もちろん上記の人のように授業料以外の生活費も借りている人だけでなく、純粋に学費のみ、あるいは学費の一部だけ借りている人も含めてですが。

私もちゃんと安定収入がある親戚の姪が、地方の国立大学に入学するとき、奨学金という名の学資ローンを借りるので、その保証人になって欲しいと頼まれて、受けざるを得ませんでした。最近の親は子供の教育費を出さなくなってきている?

この人が入学した4年前は国立大学(文系)の入学金と4年間の授業料が282万円だったのですね。私が私立大学へ入学した約40年前は、国立大学の文系授業料が確か年間18万円ぐらいでしたから、約3倍に上がっています。

大卒の初任給は当時から約2倍ってところですから、収入に占める返済の割合は大きくなってきているってことですね。

あと、国立大学へ行けた人はまだラッキーで、私立大学へ行って入学金や授業料を奨学金という名の学生ローンで借りた人は、例え自宅通学で生活費まで借りていなくても、多額の借金を背負って社会に出ることになります。数的にはそのほうが圧倒的に多いでしょう。

例えば、法政大学の政経学部など文系の場合、入学金は180,000円、年間学費1,016,000円ですから、18万+(101.6万円×4年)=424.4万円とローンの保証費がやはり30万円程度とすると、合わせると450万円程度の借金です。

その他に一般的には教科書代やら設備施設費、半強制的な寄付金なども別途必要になります。部活でもしようものなら部費、遠征費、ユニフォーム代など、とても奨学金頼みの貧乏生活では負担しきれるものではありません。アルバイトする時間も必要でしょうし。

さらに同校理工学部の場合、入学金は同じく180,000円、4年間の学費が11,105,000円で合計11,285,000円となり、学費だけで先の国立大学生の倍近くとなり、新社会人がとても背負いきれるような借金ではないでしょう。

日本が得意分野としてきた科学、理工系分野の学生が、ここ数年減少していっている理由は、案外こういうところにあるのかも知れません。理工系に興味があっても授業料が高すぎてとても払えないという。

私の職場にも40歳過ぎまで奨学金という名の学資ローンを長々と返済していた人がいましたが、そうした長期ローンを抱えていると、クルマを買うのも、ローンを組んで中古マンションを買うのも、なにかとお金のかかる結婚も、思いとどまらざるを得ないと言っていました。

奨学金の返済を3ヶ月以上滞納をしている人(延滞者)の割合は全体の5.5%です(独立行政法人日本学生支援機構「平成25年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果」)。

若者多くがフリーターになっていると(根拠なく)言っている割には意外とみなさん真面目にちゃんと返済をしているという感じです。

というのも、延滞金には年率10%の延滞金や、3ヶ月以上滞納すれば、信用情報機関へいわゆるブラックリストに載ってしまい、9ヶ月滞納すれば財産の差し押さえなどが実施されます。もちろん本人だけでなく保証人のところへも督促がいきます。当たり前ですが奨学金とはいえ借金の取り立ては厳しいのですよ。

返済が滞り、ブラックリストに載れば、新たにクレジットカードが作れなくなるのはもちろん、持っているカードが使用停止になったり、各種のローンが受けられなくなります。今のネット社会でクレジットカードが持てない、使えないとなると、どれほど不便になるかは想像がつくでしょう。

学費が今後も闇雲に高騰していけば、さらに奨学金という名の学生ローンを借りざるを得ない人が増え、結果的に大卒者の婚姻率の低下や少子化にますます拍車がかかりそうです。大学進学率の低下も招きそうです。

2年半前に「大学へ奨学金で行くということ」という記事を書いています。参考まで。


【関連リンク】
934 子供の教育費にいくらかけますか?
727 大学生の就職率推移と卒業後の進路
666 子供の教育費の負担を覚悟しているか
601 社長の年齢と出身地についての統計
563 国立大学、私立大学の国庫負担比較

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976
毎年グッドデザイン賞というものが発表されて、受賞した賞品や企業、団体はここぞとばかりに自慢をしたがって、広告などで盛んに取り上げていますが、実はこの賞の重みというか実際のありがたさは意外とたいしたことがありません。

グッドデザイン賞というのは、1957年に通産省(当時)が進めた「グッドデザイン商品選定制度」ですが、現在は公益財団法人日本デザイン振興会が主催をして毎年審査発表している総合デザインの品評会となっています。

そしてその対象は工業製品ばかりでなく、サービス、ビジネスモデル、番組コンテンツなど幅広いものです。

今年の受賞の中には時計や文房具、家電、乗用車などに混じって変わり種として「道の駅」や、テレビ番組「ブラタモリ」なども受賞しています。

「テレビ番組のグッドデザイン」ってどうなのよ~っていうのもありますが、大人の対応と言うことでしょう。

賞の重み付けに疑問を感じるのは、作品候補が利用者などの他薦など推薦されたものではなく、審査費用を支払って依頼する自薦スタイルということから、お金で賞を買っているとも理解できるからです。

ありがたみから言えば、消費者ユーザーにとってのではなく出品者にとってありがたみのある賞ということなのでしょう。

もちろん自薦すれば100%賞がもらえるわけではないので、一定のスクリーニングはかかっているのですが、それでもお金を払って応募した1/3か半分近くが毎回受賞しているという結果からすれば、ほぼデキレースと言ってもいいものでしょう。

今年2015年は3658件の応募デザインの中から、1337件(応募作品の37%)がグッドデザイン賞を受賞しています。

そして受賞したのちには、展覧会でお披露目するのにもお金がかかり、年鑑に掲載するには掲載費、広告に「グッドデザイン賞受賞」のマークを使う場合はまた別途お金を支払う必要があります。

つまりこの賞を主催する公益財団法人が儲けようと思えば、応募作品を多く集めて(応募費と審査費)、多く受賞させる(出展費や商標使用料)ことに尽きます。そんな賞でいいのでしょうか。

公益財団法人だからお金儲けの必要はないのでは?という意見を持つ人もいるでしょうけど、こうした美味しい団体には天下り元役人が列をなしていますので、その賃金や数年在籍しただけで数千万円の退職金を捻出するためにもお金儲けは必要となっています。

さっと見ただけで、常勤理事3名中2名が経済産業省の天下り評議員は8名中2名がやはり経済産業省の天下りです。

他にも国公立大学の教職員出身者もいますし、こうした報告書に掲載される年収数千万円をもらうような上位者以外のポジションにも大勢の元役人が働いて?いることでしょう。

これらグッドデザイン賞の中から選ばれる「グッドデザイン大賞」は唯一投票によって選ばれますので、さすがにこれをお金で買うというのは難しく、これについてはある程度の価値を認めなくてはなりません。

しかし元々は審査費用を支払って応募しなければ、その大賞の候補にすらならないデザイン賞ですので、そのデザインがどこまで世の中の役に立っているかという市井の意見は無視されがちです。

記憶にまだ新しいですが、2013年の投票では候補作品の中から「Googleマップ」が投票でトップとなりましたが、2007年から「大賞」=「内閣総理大臣賞」になるということで、受賞には政府の意向が反映されることになり、その結果政府が「最も優れたデザインとは認めがたい」と判断したため大賞は該当なしということになりました。

政府が受賞に異議を唱えた理由は明らかにされていませんが、噂では投票で2位になったJAXA(宇宙航空研究開発機構)の固体燃料ロケット「イプシロン」を受賞させたかったという話しや、Googleマップには竹島や尖閣諸島が日本領土と記載されていないことを問題視したとも言われています。

この政府の決定は、独裁国家や何十年も一党が支配する国と同じような政治的な独断で、せっかく投票をした多くの人や関係者の努力をまったく無為にしてしまい、すでに国の手を離れている賞の意義や意味を失ってしてしまうような蛮行です。

もし大相撲で優勝した力士が「日本政府は無能だ」とか「竹島は韓国のものだ」的な発言をしていたら、優勝杯の内閣総理大臣杯は出さないということでしょうか。

そうした、政治的でもあり、またお金を出して賞を買うというこの制度が、ある一部では権威あるものになってしまっているという現実を知ると、一気にしらけてしまいそうです。

とにかく年間1000件以上も受賞する、ありがたみのない賞に、果たして意味があるのか?って疑問を感じ得ませんが、モノが売れない時代だけにそれを起爆剤にしたいと願う企業や団体は多いのでしょうね。

てなことを書いていたら、すでにもっと詳しく書かれた記事(ブログ)が10月初旬に上がっていました。悔しいですが、こちらのほうがよくわかりそうです。

20万円でもらえる?「グッドデザイン賞」受賞率は4割不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」


あと東京丸の内にグッドデザインのショールームが10月にオープンしたようです(NHKでやっていたのを見ました)。受賞作が飾ってあるだけのつまらなさそうな感じでしたが、お近くへ行った際には無料ですのでのぞくのは自由です。

GOOD DESIGN Marunouchi」 東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F

 
【関連リンク】
906 トクホが売れるわけ
746 直木賞作家の前職は?
533 ユニバーサルデザインはどこへ行った
509 本屋大賞ノミネート作品について
317 発火する衣料

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975
最近自動車関連のサイトを読むと、このクルマの分類法「セグメント」が普通によく使われていますが、以前はこの分類法は少なくとも国内においてはまったく使われていませんでした。

なので私のようにちょっと古めの人にはこのセグメントという分類がいまいちピンときません。

もっとも日本国内においての乗用車の分類法と言えば、一般的に道路運送車両法で定められている分類を使うことが多く、小さい方から「軽自動車」「小型自動車(5ナンバー)」「普通自動車(3ナンバー)」とサイズで3種類に分けられ、さらにセダンやクーペ、ハッチバック、ワゴン、ワンボックス、ミニバン、SUV、オープンスポーツなどボディ形状や用途で便宜上分けられています。

ところが国産乗用車は、国内だけで販売するよりも世界に輸出する台数が圧倒的に多くなり、そこで国際化の潮流にも乗り、欧州で普通に使われている「セグメント」という分類法に無理矢理当てはめて語られるということになってきました。

そして輸入規制が緩み輸入車が増加し、欧州で普通に語られているこのセグメントという分類を、あたらしモノ好きな自動車評論家達が国内でも積極的に使い出したということもあります。

ところがこのセグメント分類は国産車、特に国内専用車にはわかりにくく、あまりいい識別方法とは思えません。最近特にエンジンのダウンサイジングやハイブリッドカーが増えてくるにつれ、サイズや排気量での分類がしにくくなってきているからです。

で、このセグメントですが、大きくA・B・C・D・E・Lの記号が使われ、それらに加えてS、M、Jという9つに分かれています。またそれぞれにプレミアムという+α的な意味合いをもつものがあります。Eセグメントプレミアムとか。

日本人にとってわかりにくい理由としては、元々は自動車発祥国のドイツ車が基準となっていて、その主体はメルセデス・ベンツとフォルクスワーゲンのクルマのサイズを元にしています。

しかしドイツ車は日本の5ナンバー車のように長さや幅の寸法が何mmというように決まっているわけではなく、それぞれ時代に合わせて主力車種のサイズが変わり、同車種でもセグメントの基準が曖昧になってきます。

つまり時代と共にそのセグメントのサイズも変化していくってことです。それがわかりにくくしています。

まずAセグメントは、「ミニカー」という定義で、フォルクスワーゲンのup!が基準の2ボックスハッチバックタイプで、排気量は500~1300ccぐらいまででしょうか。

日本車で言えば大きさや排気量は軽自動車が該当しますが、軽は日本独自の規格なので、欧州車ではサイズがもっと大きいのが一般的です。

up!(2ドア)のサイズは全長×全幅×全高が3,545×1,650×1,495で、排気量は1000cc、軽自動車からすれば一回り以上大きい感じで、国内では小型5ナンバー車に該当します。

Aセグの他のクルマでは、SMART、フィアット パンダ、プジョー 107、シトロエン C1、ルノー TWINGO、国産車ではトヨタのパッソやiQ、三菱 ミラージュ、スズキ ソリオなどが該当します。

Bセグメントは「スモールカー」という定義で、フォルクスワーゲンのポロが基準となり、現在のポロのサイズは3,995×1,685×1,460です。

日本人にはAセグもBセグも同じ5ナンバーサイズで、その違いがピンきません。

Bセグに該当する車種はフィアット グランデプント、ルノー ルーテシア、プジョー 207、フォード フィエスタ、国産車ではトヨタ ヴィッツや日産 マーチ、ホンダ フィット、マツダ デミオ、スズキ スイフトなどが該当します。

日本車の場合(欧州車も)、このAセグやBセグのサイズでも、ハッチバックだけでなくセダンやワゴン、SUV、2シーターオープンカーなど派生型も多く、それらはどこのセグメントに入るのか?ってなると混乱してしまいます。(よくわかりません)

Cセグメントは「ミディアムカー」という定義で、フォルクスワーゲンのゴルフが基準となります。こちらも基本的な形状は2ボックスカーです。

ゴルフは1970年代に登場した初代は3,725×1,610×1,410というサイズで、今のポロよりも小さくAセグとBセグの中間的サイズでしたが、現在の7代目のサイズは4,255×1,799×1,452と、全長で530mm、全幅で189mmも贅肉?がつき、これがいまのCセグメントの代表とされています。

なのでゴルフがCセグと言われても、昔のスマートで小気味よいゴルフを思い浮かべると間違っていることになります。

その他のCセグ車は、シトロエン C4、メルセデス・ベンツ Aクラス、ルノー メガーヌ、アウディ A3、ボルボ C30、アルファロメオ 147、BMW 1シリーズ、プジョー 308、フォード フォーカスなど代表的なメーカーが最近特に力を入れていて競争が激しいクラスです。

国産車ではトヨタ カローラ、ホンダ シビック、スバル インプレッサ、マツダ アクセラあたりが該当します。このクラスともなれば国産車の場合、サイズ的にはCセグでも、2ボックス以外の形状(セダンとかミニバン)のほうが多く売れているのが欧州との違いでしょうか。

Dセグメントは「ラージカー」という定義で、その基準はメルセデス・ベンツCクラスです。このクラスからセダンタイプが標準となります。

現在のベンツCクラス(W205形式)のサイズは4,690×1,810×1,430です。DセグなのにCクラスが基準というのもわかりにくさ全開です。

その他のDセグメント車にはBMW 320i、アウディA4、フォルクスワーゲン パサート、ジャガー Xタイプ、プジョー 407、アルファロメオ 159、シトロエン C5、ボルボ S40など。国産車では、トヨタ マークX、マツダ アテンザ、ホンダ アコード、スバル レガシィB4などです。

Eセグメントは「エグゼクティブカー」という定義で、基準はベンツのEクラス、BMWの5シリーズやアウディA6がEセグ御三家といえます。

その他車種ではシトロエン C6、ジャガー XF、ボルボ S80、キャデラック CTS、国産車では日産 フーガ、レクサスGS、ホンダ レジェンドなど。

トヨタクラウンの場合、日本専用車ということで多くの種類があり、セグメントはあまり気にされていません。概ねサイズ的にはDセグに属する車種と、豪華版はEセグに属する車種に分かれるようです。

Lセグメントは「ラグジュアリーカー」という定義で、後席の快適性を追求した豪華仕様車で、ロールスロイスやメルセデス・ベンツ Sクラス、BMW 7シリーズ、アウディ 8、ジャガー XLシリーズ、キャデラック STSなど。

国産では日産 プレジデントとかレクサス LS、トヨタ センチュリーと言ったところでしょうか。庶民には縁がないのでどうでもいいです。

なぜEの次がLなのかに関しては、諸説ありますが英語のLuxuryやイタリア語のLussoの豪華を意味するところからきているというのが正しそうです。またLセグメントのことをEの次のFセグメントという場合もあります。

その他のセグメントでは、Sは「スポーツクーペ」、Mは「マルチパーパスカー」、Jは「オフロード四輪駆動車など」と分類されていますが、こちらのセグメントはなぜか国内ではほとんど使われていません。

いずれにしてもこれらのセグメント分類はドイツ車の、その時代の大きさを基準としていてわかりにくく、A~Cは2ボックスでD~Lはセダンという決めつけも同じプラットフォームで多種多様な形状がある現状では不合理です。

トヨタ プリウスは一応Cセグメントに属しますが、長さが他のCセグと比べて異常に長く、Dセグのセダンと変わりません。Cセグのカローラやインプレッサも2ボックスもありますがセダンもあり、セダンタイプだとCセグには含まれないとか。

同様なことが他にもあり、いっそ、日本の基準のように、A~Eセグメントは長さ・幅・高さのサイズをハッキリ決めておき、それぞれのセグメントに続いてボディ形状、例えばセダンならS、ハッチバックはH、ワゴンならW、クーペならC、SUVならVなどサブ的に記号をつけ、さらにドアの枚数2、3、4、5などの数字をつけるように決めれば誰からもわかりやすくていいと思うのですけどね。

ただサイズとボディ形状だけで決めると、今度は排気量や動力性能との整合性がとれなくなる可能性もあります。

さらにはダウンサイジングターボ、ハイブリッド、PHEVなどの動力や、フルタイム4輪駆動などの駆動系の違いなど、様々な要素が加わり、なかなか誰にもわかりやすく分類するには手強いというのが実際です。

いずれにしてもセグメント分けして語られることの多い輸入車の日本でのシェアは2014年でもたったの8.8%。所詮1割にも達しない販売台数です。

なので、国内においては、わざわざこのようなわかりにくいセグメントなど使わないで、軽、小型、普通(中型・大型)のクラス分けと、ボディ形状でとりあえずは十分じゃないかと思うのですが、いかがなのでしょう。


【関連リンク】
891 昨年の自動車販売データ
864 衝突安全性テストについて
842 ひき逃げは絶対に許してはいけない
757 蓄電池技術は他の産業の進化に追いついていない
751 自動車事故と車種や装備の関係
661 乗用車の平均車齢と平均使用年数
640 クルマで行く京都観光お勧めコース その1



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974
悪女について (新潮文庫) 有吉佐和子

タイトルからすると、まるで週刊誌に連載するようなエッセイ集のような気がしますが、1978年に「週刊朝日」で連載された有名な長編小説で、テレビドラマ化も2度おこなわれています。

主人公の富小路公子という名前を見ると、2003年に起きた有栖川宮詐欺事件を思い出しましたが、過去には一見すると皇室や貴族と誤解しそうな偽名や芸名などを使って相手を信用させる犯罪や売名行為はよく見られました。

この小説には実在するモデルはなく、フィクションですが、男社会だった戦後の高度成長期を、不幸な身の上にかかわらず、たくましく生き抜く女性主人公に多くの共感を呼んだのではないかと思われます。

その主人公女性ですが、生まれは八百屋の一人娘で父親は早くに交通事故で亡くし、貧しい家庭に育ちますが、女の武器を利用しながら、名門家の跡継ぎや資産家の奥方達を手玉にとり、また多くの後援者や味方も作りながら着実にやり手の女実業家として成長していく姿に魅了されていきます。

小説のスタイルはその主人公本人が語るのではなく、関係者27人がこの主人公の女性について語るという手法で展開されていきます。しかもいきなり主人公は不審死で亡くなったことが明かされて、その死の謎にも興味が沸く仕掛けとなっています。

それは芥川龍之介の「藪の中 」と同様、複数人の視点で主人公の生い立ちから現在の姿まで語らせることで、語る人によって「とても上品で優しい人」、「男をはめて賠償金目的の性悪女」など様々な見方がされ、テンポ良く読者を引きつけていく手法は圧巻とも言えます。

★★★

著者別読書感想(有吉佐和子)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

空の中 (角川文庫) 有川浩

女流作家が自衛隊を舞台にした小説を書くのは珍しいですが、著者のデビュー作にあたる「塩の街」(2004年)、「海の底」(2005年)とともに自衛隊三部作のひとつとされ、2004年に単行本、2008年に文庫版が発刊されています。

もっとも映画でも大ヒットした「図書館戦争」などの著者でもあるわけなので、そうしたミリタリーオタクが喜びそうな知識が豊富ということなのでしょうが、著者の本を最初に読んだのが「阪急電車」だっただけにその落差というか幅に広さには驚かされます。

そういえば「阪急電車」の登場人物にも上空を飛ぶヘリコプターの音を聞いただけで機首かがわかる人がいたような気がします。

「阪急電車」の感想
2012年2月前半の読書「迷宮 清水義範、阪急電車 有川浩、ひとがた流し 北村薫、読者は踊る 斎藤美奈子、九つの殺人メルヘン 鯨統一郎」

主人公は航空自衛隊のF15戦闘機のパイロットのひとり息子で、父親を飛行訓練中に謎の事故が起き亡くしています。

もうひとりの主人公は、戦後初の民間小型ジェット旅客機を製造するメーカーの男性で、この試作器も自衛隊の航空機と同じ場所でテスト飛行中に謎の爆発事故を起こしていて、その関連を調査するため、航空自衛隊に日参しています

この二人の主人公に共通するのが、古代から生息していたという高々度に浮かぶ、謎の浮遊体生命とコンタクトが取れることです。それがミステリー仕立てのSFホラー小説みたくなってきます。

あり得そうもないSFミステリーなのですが、事故で亡くなったF15パイロットの部下で、間一髪生き残った女性パイロットと、主人公、もうひとりの主人公(高校生)と隣に住む同級生の女の子の二組のカップルのコミカルな関係など、いかにも女性が書いたロマンティック色も忘れていない作品となっています。

★☆☆

著者別読書感想(有川浩)

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アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA) 神林長平

シリーズ1作目の「戦闘妖精・雪風」(1984年)、2作目の「グッドラック―戦闘妖精・雪風」(1999年)に続く3作目の作品で2009年に初出、2011年に文庫版が出ています。

前の作品を読まずにいきなりこの作品を読むと、きっとなんのこっちゃわからないということになりますから、面倒でも最初の作品から読みましょう。

最初から読んでいても、前作からしばらくあいだが空くと、なんのこっちゃって考えたりするぐらいですから。あ、それは単なる物忘れが激しくなってきているせいかも。

さて本編も前作同様「ジャムになった男」、「雪風帰還せず」、「さまよえる特殊戦」、「雪風が飛ぶ空」、「アンブロークンアロー」、「放たれた矢」の連作短編で構成されています。

2作目の終盤からいわゆる地球防衛軍(FAF)と異星生命体ジャムとの闘いが本格的になってきます。

そしてちょっと展開が複雑で哲学的になってきたというか、実体を持たない異星体との心理戦で、主に人間側の感情や心理面に関する話しが多くなり、なにが正しいのか、なにが本物なのかということが、歳を取って柔軟性に欠ける頭では追いつかず、苦労します。

起承転結があってスッキリと終わるというものではありませんので、それだけは覚悟が必要かも。

1作目が初出してから30年が過ぎていますが、まだ完結には遠い感じで、今後も続編が出てくるのは間違いなさそうです。著者も62歳ということで、作家としては脂がのって、これからとも言えますし、まだまだ頑張ってもらいたいものです。

★☆☆

著者別読書感想(神林長平)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

青い約束 (ポプラ文庫) 田村優之

著者は1961年生まれで、日本経済新聞社の記者として活躍されている(同書執筆時)方です。この本は「夏の光」という題名で発刊した小説を加筆修正し、同時にタイトルも変更して2012年に文庫化されました。

主人公は高校生の頃からエコノミストになりたいと勉強し、その夢はかなえたものの、勤務していた銀行が合併吸収され、難しい立場に置かれている男性。

さすがに著者が経済新聞記者だけあって、国債の発行と経済に関して主人公のエコノミストの言葉を借りてその仕組みと持論をわかりやすく語ってくれます。

それはいいのですが、ある日主人公が取材をしていた財務省で、大手新聞社の記者で高校の時以来プッツリと縁が切れていた同級生と出会い、その縁が切れた理由が読者には謎として浮上してきます。あることが原因で縁が切れるまでは親友だった相手です。

その理由について、小出しにして読者をじらし、だんだん邪魔くさくなてきますが、我慢して読み続けなければスッキリしません。

小説の主テーマでもあるところに「大きな謎」があることを序盤にハッキリ提示しておき、その謎をいつまでも明かさないというのは常套手段なのかもしれませんが、なにかもったいぶられているようで、また無駄に紙面を稼いでいるようで、超売れっ子作家が数ある中のひとつの手法として使うのでなければ、私は好きにはなれません。イライラするだけで。歳のせいでしょうか、やっぱり。

普段、著者が書いている経済新聞は、大見出しで結論を、記事本文でその詳細を簡潔に書いているわけで、その鬱憤?を晴らすためか、小説はその逆の手法、大見出しで謎を、本文ではダラダラと横道に逸れながら最後まで結論をひっぱるという手法でと考えておられるのでしょう。困ったものです。

★☆☆


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