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1305
まほろ駅前番外地 (文春文庫) 三浦しをん

シリーズ第1弾「まほろ駅前多田便利軒」(2006年)と、すでに発刊されている第3弾「まほろ駅前狂騒曲(2013年)のあいだの2009年に単行本、2012年に文庫化されたシリーズ第2弾の短編集です。

ただしこの短編では、本編のスピンアウト作品という位置づけで、それぞれの話しで主人公が代わり、例の便利軒の二人は脇役へ回っています。

収録されているのは「光る石」「星良一の優雅な日常」「思い出の銀幕」「岡夫人は観察する」「由良公は運が悪い」「逃げる男」「なごりの月」の七篇です。

第1作目の「まほろ駅前多田便利軒」は映画が製作されましたが、この第2弾は、瑛太と松田龍平など主要な出演者は同じでテレビドラマ化されています。

話しは、便利屋稼業の日常が描かれているわけですが、テンポもよく比較的短くて読みやすく、内容も軽めのものが多いので、ちょっとした暇つぶしの時などに持っていると良さそうです。

主人公は高校の同級生同士で、便利屋に居候している主人公の内のひとりに、昔、家庭内で起きた問題が、少しだけ明らかになっていきます。

すでに三作目が出ていますので、それですべて明らかになっていくのかどうかわかりませんが、なかなか焦らせながら次回へ続くみたいな手法はうまいなと思いました。

★★☆

著者別読書感想(三浦しをん)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

謎解き 関ヶ原合戦 戦国最大の戦い、20の謎 (アスキー新書) 桐野作人

2000年に出版された「真説 関ヶ原合戦」から加筆修正した新書で2012年に出版されました。

著者は歴史研究家の作家で、多くの戦国時代を中心とする書籍を出されています。

タイトルの20の謎ですが、

1 関ヶ原合戦の原因は何か
2 「五大老・五奉行」制はあったのか
3 前田利家・利長父子は家康と対決するつもりだったのか
4 家康は最初から軍事対決を目論んでいたのか
5 石田三成と直江兼続の密約はあったか
6 三成の挙兵戦略はどのようなものだったか
7 前田利長・利政はどちらにつくつもりだったのか
8 家康はなぜ小山・江戸に長く留まったのか
9 徳川秀忠の中山道進軍の目的は何か
10 徳川軍の主力は家康勢か秀忠勢か
11 上杉景勝はなぜ南進せず、最上義光を攻めたのか
12 三成の東進策はなぜ実らなかったのか
13 岐阜城はなぜ簡単に落ちたのか
14 家康は大垣城の西軍とどう戦うつもりだったのか
15 西軍の関ヶ原転進には三成の秘策があったのか
16 小早川秀秋はなぜ松尾山に陣取ったのか
17 島津勢は日和見で戦わなかったのか
18 井伊直政はなぜ「抜け駆け」したのか
19 宇喜多勢は本当に精鋭だったのか
20 「島津の退き口」はどのように行われたのか

となっています。

なかでも意外に思って面白かったのは、8「家康はなぜ小山・江戸に長く留まったのか」9「徳川秀忠の中山道進軍の目的は何か」16「小早川秀秋はなぜ松尾山に陣取ったのか」かな。

家康が小山評定で家康勢が上杉攻めから反転した後、すぐに上方へ向かわず、なぜか江戸に長く滞在していた謎や、秀忠が真田攻めに苦労して関ヶ原に間に合わなかったという通説の誤り、小早川の裏切りの可能性があることをわかっていた大谷吉継の動きなど、あくまで現在ある資料と著者の推測ですが、納得できるものが多くありました。

一度、関ヶ原へ行って各陣地跡を見ておくと、本文で書かれる各陣営の動きなどその位置関係がよくわかって良いでしょう。

5分でわかる関ヶ原の戦い 2014/12/13(土)

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ダブル・フォールト (集英社文庫) 真保裕一

2014年に単行本、2017年に文庫化された長編法廷ミステリー小説です。

著者の小説は過去に20作品を読んでいますが、それらに法廷が舞台の小説はなかったと思います。

主人公は若い居候弁護士で、1999年以降の司法制度改革により、需要以上の多くの弁護士が誕生し、月収が10万円前後という厳しい現実に身を置いています。

そこへ事務所の代表弁護士から、ある殺人事件の被告の弁護をするように話しがきます。

被告は、事件を起こした後、自ら警察に出頭し、事件を大筋で認めていますが、計画的な殺人か、正当防衛か、あるいは突発的な過失致死かという争点で検察側と争うことになります。

被告を弁護する側としては、殺された被害者の凶暴性や社会的な問題点を次々と表沙汰にすることで、被告のやむを得なかった正当防衛を主張していくことになりますが、当然ながら被害者の遺族は、「人を殺し、さらにその被害者の過去を暴く」と猛反発を食うことになります。

このあたりの、被害者遺族と加害者の弁護士との関係、法廷における証人に対する質問などが、スリルとサスペンス感がいっぱいでドキドキしつつ楽しめます。

タイトルは、主人公の弁護士が若い頃から続けているテニスにちなんでのものですが、もうひとつ本小説の内容とテーマ、結末が結びつかず、意味不明なところがありました。

著者は時代劇から、歴史物、刑事物、ビジネス物など幅の広いジャンルをテーマとした小説が持ち味で、そのあふれる才能には驚かされるばかりです。

★★☆

著者別読書感想(真保裕一)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

嗤う名医 (集英社文庫) 久坂部羊

「寝たきりの殺意」「シリコン」「至高の名医」「愛ドクロ」「名医の微笑」「嘘はキライ」の6編の短編が収録されている2014年に単行本、2016年文庫化された小説です。

著者は現役医師でもあり、過去には「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」と「無痛」の2作品を読んでいます。

「無痛」6月後半の読書 2016/6/29(水)
「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」2月後半の読書 2017/3/1(水)

どの短編も医療にまつわる話しや医療従事者がメインの話しで、ブラックユーモアも散りばめられていて、一般人は知らない医療の世界を垣間見ることができます。事実かどうかはともかく。

医療関係者が読むと、結構あるある話しなのかも知れません。

ラストで大どんでん返しがある「寝たきりの殺意」、豊胸手術の失敗と、美容整形の後始末を嫌がる医療界の無責任さがわかり女性の美容整形の痛々しさを皮肉った「シリコン」、解剖学の技術員と放射線技師の二人が、形の良い頭蓋骨を愛するあまり暴走していく「愛ドクロ」など、医者の視点から見たドタバタがなかなか楽しめます。

でもこの作家さんの小説は、やっぱり長編のほうが面白いという結論に達しました。

★★☆

著者別読書感想(久坂部羊)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

はなとゆめ (角川文庫) 冲方丁

2013年に単行本、2016年に文庫化された、平安時代絵巻風で、主人公というか語り手が清少納言という変わった趣向の長編小説です。

清少納言と言えば、今から1000年ほど前の西暦1000年頃に、都(京都)で活躍していた女流歌人であり「枕草子」で有名です。同世代には「源氏物語」の紫式部などもいます。二人に直接の接点はなかったようですけど。

その他の有名人では、陰陽師の安倍晴明がちょっと出てきたりします。平安時代の寵児ですね。

著者の作品は、過去に時代物の「天地明察」とSF物の「マルドゥック・スクランブル圧縮」の2作品を読んでいますが、今回の作品含め、3作品はいずれも共通性がまったくないもので、著者の多才ぶりがよくわかります。

「天地明察」2014年2月前半の読書
「マルドゥック・スクランブル圧縮」2016年8月後半の読書

内容は、清少納言というあだ名が付けられた経緯や、代表作とされる随筆「枕草子」が書かれるゆえんとそのタイトルの話しなど。

「枕草子」は、中国の司馬遷が編集した「史記」から「敷物」を連想し、「敷物≒寝具」には「枕」が似合うという言葉遊び(しゃれ)からという説をとっています(諸説あり)。草子は冊子という意味です。

それにしても「清少納言:枕草子」は、日本の青少年が学校で習う定番ですが、その人物のことや、書かれた背景を知っている人はごくわずかでしょう。

今では古い資料を見て推定するしかないものの、さすがに千年以上前の資料が新しく発見されることはあまり考えられず、こうした作家さんが考えた小説が人気を博し、また映画など映像化もされていくようになると、やがてはこれが通例となっていくのかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(冲方丁)

【関連リンク】
 1月後半の読書 本能寺の変 四二七年目の真実、欲しい、アキラとあきら、ひとり暮らし
 1月前半の読書 未来の年表 、約束の海、ハサミ男、さがしもの、しゃぼん玉
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祝!日記1300回!

1300
本能寺の変 四二七年目の真実 明智憲三郎

2009年に単行本が発刊され、4年後の2013年に「本能寺の変 431年目の真実」として文庫版が発刊されています。著者は、自ら明智光秀の子孫だと称している作家であり歴史研究家です。但し本書を書いた時期はまだ会社勤めをしていて二足のわらじだったようです。

来年2020年のNHK大河ドラマは、二枚目俳優、長谷川博己が演じる明智光秀を主人公とした「麒麟がくる」に決定していますので、今後(と言っても1年先ですが)明智光秀ブームが沸騰してくるのは間違いないところでしょう。

本書の中でもなかなか興味深い話しが多く、定説と言われている様々な事柄を、別の資料からこう考えられるというような推理を述べています。

中でも傑出なのは、明智光秀と徳川家康は事前に信長暗殺の合意ができていて、本能寺の変が起きたと連絡が来てすぐ、家康は堺から楽々と伊賀越えして岡崎に帰ったあと、その後、信甲州の織田領を攻め入ったのは事前の打ち合わせ通りだったとする話し。

ただ、予想外だったのは、明智、徳川連合軍の体勢が整う前に、秀吉が中国大返しでやってきて、明智が大敗したことで、その後の予定が大きく狂ってしまったと本書では推定しています。

つまり本能寺の変は、明智光秀ひとりの陰謀ではなく、傍若無人の織田信長を恐れていた家康や、細川、長宗我部などを巻き込んだクーデターだったという話しです。

ま、ちょっと無理筋な推理の部分はあるとしても、明智の血筋としては、明智光秀ひとりが無謀にも己の欲求で天下取りに走ったというようなお馬鹿ではなかったんだということを言いたいのでしょうか。

こういう証拠になるような資料が少ない時代、その資料に矛盾があると、歴史家は自分の推理に都合が良いほうだけを取り上げ、それ以外は無視するか、ねつ造だと一笑に付してしまう傾向があります。

したがって歴史の解釈は幾通りにも考えられ、また時の権力者によってもゆがめられたり、消されたりすることも数多くあります。

この本能寺の変の真実というのも、著者の推理の部分がほとんどを占め、どこまで信憑性があるかという点については、素人が読む限りわかりません。ただ定説だけをむやみに信用するのはダメねってことは大事なことだと思いました。

著者自身の推理が絶対で断言調で書かれているのがちょっと鼻につきますが、でも割といい線を付いているのではないかなとも思えますし、歴史好きなら読んで定説との食い違いを検証してみるのも面白いかも知れません。

★★☆

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欲しい (集英社文庫) 永井するみ

2006年単行本、2009年に文庫化された長編ミステリー小説です。著者の小説を読むのはこれが初めてですが、連作短編小説を雑誌連載中の2010年に49歳という若さで亡くなっています。

主人公は人材派遣会社を経営している40代の独身女性で、妻も子もいる男性と不倫関係にあり、なおかつ、寂しさを紛らわすため、若い男性を派遣してくれる派遣ホストもよく利用しているというちょっと話しをややこしくするようなできすぎた設定です。

ストーリーは、離婚して母子で暮らしている主人公の会社に登録し、派遣社員として働いていましたが、その職場に別れた旦那が金をせびりにきて、仕事を続けられなくなります。

その派遣社員は元旦那の暴力で離婚しましたが、消極的で強く言えないタイプで、そのようなことが起きるので仕事も続かず生活保護を受ける羽目になります。

片や、その女性の身の上話とそっくりな状況が、出会い系サイトの相談コーナーに書き込まれ、主人公の愛人がそれを読み、自分の娘にも同じようなことが起きたことで心配し、その女性にのめり込みストーカー行為をするようになります。

そしてその男性が、ストーカー被害者の女性に突き飛ばされ、歩道橋から転落し、亡くなるという事件が起きます。

このあと、また二転三転しますが、ミステリーなので、あとは書きません。

事件と言えば事件なのですが、女社長、愛人(出会い系サイト・ストーカー)、ホストと、DV、派遣、生活保護という関連性というか組み合わせってあまりピンとこないので、よく言えば意外性、悪く言えば、ありえねぇ!という感じもする小説でした。

★★☆

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アキラとあきら (徳間文庫) 池井戸潤

2006年から2009年に雑誌に連載されながらその後単行本化はされず、2017年にテレビドラマ化されることとなり、その2017年にいきなり文庫化されて発刊されました。

2006年~2009年頃と言えば、ドラマや映画化もされ著者の代表作ともなっている三菱自動車のリコール隠し問題を描いた「空飛ぶタイヤ」(2006年)や、地下鉄談合事件をモデルにしてNHKで連続ドラマ化された「鉄の骨」(2009年)、テレビで大ヒットした「半沢直樹シリーズ」(2004年~2014年)などと重なる時期で、そうした中から、「下町ロケット」(2011年)が、直木賞に輝いています。

元々大学卒業後に三菱銀行へ入り、10年ほどサラリーマン生活を過ごしていた筆者だけに、金融、経済、財務等には明るく、そうした経済テーマの小説が真に迫っていて群を抜いています。

人気作家になったから言うのではないのですが、デビュー作「果つる底なき」が2011年に文庫本として登場した時、すぐに購入して読み、この作家は将来、城山三郎や高杉良以上の経済小説の作家になるかもと思いました。そしてその後も新しく文庫が出るたびに著者の小説は面白く読ませてもらっています。

この小説の主人公は、二人のアキラ。貧しい町工場に生まれ育った山崎瑛と、大手海運会社の御曹司の階堂彬です。

その二人が知恵を絞って戦うのかと思っていたら、まったく違い、二人とも東大を出て大手都銀へ入り、入社時研修でお互いの力を認め合い、その後、様々な危機を乗り越えていくという成長物語ってところです。

二人が協力し合うのは、最後の最後のわずかなところだけで、ずっと二人の両極端な人生が、それぞれに並行して描かれます。

720ページと、かなり長い小説ですが、途中ダレるようなこともなく、次々とテンポよく話が展開していき、とても面白く読めました。さすがとしか言えません。

将来起業したい、あるいは金融や企業買収などの仕事がしたいと漠然と思っている人は、そうしたビジネスの現場で起きている割とリアルな世界を垣間見られますので、若い人にお勧めです。

★★★

著者別読書感想(池井戸潤)

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ひとり暮らし (新潮文庫) 谷川俊太郎

詩集や童話、翻訳本など多くの著作を出してきた86歳の作家であり、歌謡曲や学校校歌の作詞、鉄腕アトムなどアニメのテーマ曲の作詞、映画の脚本なども手掛ける多才な著者のエッセイ集で、2001年に発刊、2010年に文庫化されています。

「私」「ことばめぐり」「ある日」の三部構成になっていて、1980年代から90年代に雑誌等に書かれたものが集められています。

著者は1931年生まれで戦前派に属する方で、父親は哲学者で元法政大学総長という恵まれたエリートの生まれ育ちから来ているのでしょうか、下世話な庶民的な感覚ではなく、なにか吹っ切れていて、いつも遠くを見ている人という感じが文章から感じます。

ただ意外なのは、そうした教育者の父親の元にいながら、高校卒業後は大学入学や就職活動はせず、詩作に没頭して、その後作詞活動やエッセイスト、評論活動などの道へ向かいます。やはり変わり者と言えますね。現在87歳の今もご健在ですので、こんなことを書くと叱られそうです。

エッセイは、なにかテーマがあるわけでもなく、著者が60歳前後の時期に、日々の暮らしの中で、気がついたことや、感じたことが思うまま?に書かれていて、今ちょうどこのエッセイが書かれた著者の年齢に達した私が読むと、多くの共感と納得感が得られます。

もし私が、20年以上前の40代に読んでいたら、中には反感を覚えたり、目を上滑りしていくだけに終わったかも知れません。

★★☆

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 12月前半の読書 ベルカ、吠えないのか?、地下街の雨、イノセント・デイズ、明智左馬助の恋、人生はすべて「逆」を行け

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1298
数年前にベストセラーとなった「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」(河合雅司著)を読み、過去の統計データを元にしたその分析ですので、別に目新しいことは書かれていませんが、未来に起きるであろう様々な事象や問題が整理して書かれているので、読むと論理的に考えやすくなっています。

1296 1月前半の読書と感想、書評「未来の年表」 2019/1/16(水)

なかでもその本で繰り返して書かれるのが、「少子化と高齢化がともに進み、人口全体の中での就業者の減少が最大の問題」ということです。わかりきったことですが。

少子化で国内の就業者が減ることで、

・GDPが減少する(経済規模が縮小する)
・納税額の減少(歳入が減れば歳出も減)
・消費が落ちる(デフレが継続?)
・求人難(人手不足倒産?、外国人労働者?)

高齢化で就業しない人が増えることで、

・納税額や社会保険徴収額が減少する(高齢者医療や社会福祉の削減)
・医療費の増加(同上)
・年金や生活保護費支給上昇(削減?)
・介護施設や介護人材の不足(地方分散?外国人労働者?)

少子化と高齢化は事象としてはまったく別物ですが、その結果として起きることはそう変わらないということです。

政治家や官僚、マスコミは、既得権益を守るためか、たいへんだと大合唱していますが、人口が減り、経済が縮小し、衰退していくことを前提として考えれば、GDPや歳入の減少は当然のことで、就業者が自然に減れば、南米のように失業者が増えて社会や政情が不安定になることもありません。高度成長期のように、安い賃金で労働者が欲しい営利企業はたいへんでしょうけど。

経済やGDPを伸ばしていくことを前提にするから、この人口問題はなにもかもつじつまが合わなくなるわけです。

というと、成長しなければ今の便利な生活や、充実した福祉は得られない!と反論されますが、結局はどちらにしても国民は我慢や無理を強いられることになります。

未来の年表」でも書かれているとおり、今後数十年にわたって医療費が増え、高齢者の年金や社会福祉コストが増えていくことが確実なので、それらを支えるためと称して、消費税の増税や、経済成長(≒納税額増加)を目指そうと政治家は考えますが、果たしてその考えは正しいのか?そういう方法でみなハッピーになれるのか?ということ。

それよりも、経済成長はしない、でも社会福祉コストや最低限のインフラの補修等は今後30~40年間は嫌でも伸び続けていくということに真摯に向き合えば、ここは年代を問わず公平に負担をする消費税を最大北欧並みの20~25%まで順次引き上げていくしかないでしょう。ちょっと乱暴な意見ですけど。

もちろん貧困層対策として、贅沢品ではない食料品には軽減税率というか、いっそ米とパンと野菜と肉と魚は一律非課税にしても良いぐらいです。

経済は右肩上がりはしない、でも国民福祉はちゃんとやれ、という相矛盾したことを、一時的な人気取りのために政治家が旗を振っても、もうすっかり化けの皮ははがれています。

しかし今の古い日本人が多くを占める政治家や高級官僚には、50年先にはもう生きていない人がほとんどで、そんな先のことまでまともには考えられません。

ここは「未来の年表」にも少し触れられていましたが、未来を作っていくことになる若い人に、学校の教育を通じて現状の危機的な話しを正しく伝え、これからこの国をどうしていくべきかを考えてもらい、古き日本人の「おかみには逆らえない」「政治は政治家に任せておけばよい」「長いものには巻かれろ」的な考えを捨て去り、自らが考え行動する新しい日本人を作っていくことが必要だと思います。


【関連リンク】
1260 災害大国ならではのビジネスチャンス
1211 過疎と限界集落の行方とコンパクトシティ
1055 働き方と社会構造



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1296
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書) 河合雅司

著者は産経新聞社の元論説委員で、同新聞に「少子高齢化」について毎月連載を書いていました。その流れから、今後日本で起きることを様々な統計データを元にして年代順に書かれたものが2017年刊のこの新書です。

年の初めの早々に、超高齢化と少子化による労働人口の急速な減少が続く日本の未来という、破壊的、悲観本を読み、その感想を書くのはつらいものがあります。

私は今まで自分の性格を悲観的だと思っていますが、この著者も著書を売らんかなのためかどうかわかりませんが、とにかく危機を煽り、悲壮感を漂わせ、読んでいると暗澹とした気持ちになります。

ま、それが例え避けようがない事実であっても、そういう国にしてきた著者や私を含む多くの日本人がそれを選択してきたわけなので、甘んじて受けましょうと明るくなぜ言えないのかな?

百数十年後に、世界地図から日本が消えていようと、それは致し方ないではないですか。過去にも消えた国はオスマン帝国や清国、満州国、ムスタン王国などいくらでもあります。

それがもし戦争以外で成し遂げられたとしたら、それはかつての日本の平和憲法のおかげだったということかも知れません。

ま、それはさておき、とにかく年代が増えて行くにつれ、著者の想像というか様々な統計データは膨れ上がっていきますので、50年後の日本の姿はもう怖くて見ていられなくなります。

この本を読んでいると、そこまで日本人は底抜けにアホなのか?と思ってしまいますが、農耕民族的で変化を嫌い、お上には逆らってはいけないという日本人のDNAは、外圧によってのみ大きな変革を遂げられるという慣行からすれば、今回の移民の大量受け入れによって初めて変革を成し遂げることが可能という事かも知れません。

ちなみに、ベストセラーとなった本書に続き、柳のドジョウ的に続編の「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること (講談社現代新書)」がすでに発刊されています。

★★☆

著者別読書感想(河合雅司)

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約束の海 (新潮文庫) 山崎豊子

2013年に89歳で亡くなった著者の遺作となる小説で、週刊誌に連載中に亡くなったため、予定では3部作品のところ、この第1部で終わってしまった未完の作品です。2014年に単行本、2016年に文庫本が発刊されました。

著者の本は、過去に「沈まぬ太陽」(1~5巻)、「大地の子」(1~4巻)、「運命の人」(1~4巻)、「女系家族」(1~2巻)を読んでいて、面白いけど長い!というのが特徴ですが、今回は未完ということで1巻のみ、勝手なもので逆に物足りなく感じました。

主人公は、希望していた一般大学を落ち、やむを得ず先に合格していた防衛大学に入り、その後海上自衛隊で潜水艦に乗ることになった若い独身男性で、特にモデルとなった人はいません。

その主人公の父親が、元日本帝国海軍少尉で、そのモデルは真珠湾攻撃において特殊潜航艇の故障で日本人初のアメリカ軍捕虜となった酒巻和男氏となっています。

つまり親子二代にわたり、潜水艦乗りという設定です。

また1988年に浦賀水道で起きた自衛隊の潜水艦「なだしお」と遊漁船が衝突し、沈没した遊漁船の30名が亡くなった事故をモデルとして、この第1部の中で取り扱われています。

私ごとですが、この衝突事故が起きた時は、会社の研修で湯河原にいて、夕方頃、研修の休憩時間に偶然つけたテレビでこのニュースが放送されていて、洋上に漂い、潜水艦上から海上を捜索している人の映像が強く印象に残っています。

なお、巻末にはその後に書かれる予定だった第2部と第3部のあらましが書かれています。

第2部は、主人公が日米共同訓練のため、父親がアメリカで捕虜となったハワイへ行き、そこで見聞きした話しが中心、第3部は、潜水艦の艦長となった主人公が、東シナ海で中国の潜水艦と一発触発となる話しなどが書かれる予定だったそうです。

できればどなたか著者を変えてでも、第2部と第3部を書いて欲しいなと思う気持ちがありますが、実現は難しそうです。

勝手に想像するに、もし続編を書くとしたら、「雷撃深度一九・五」など多くの潜水艦にまつわる著書がある池上司氏とか、過去に潜水艦にまつわる小説「終戦のローレライ」を書いた福井晴敏氏、「海の底」を書いた有川浩氏など。

あるいは事件記者としての経験から日航墜落事故を書いた「クライマーズ・ハイ」や人間魚雷回天搭乗員を描いた「出口のない海」の横山秀夫氏、同じく回天搭乗員の「僕たちの戦争」を書いた荻原浩氏などでしょうか。中でも横山秀夫氏が、著者の作風にもっとも似ているような気がします。

しかしながら上記のような売れっ子作家さんにとっては、頼まれても人の作品の続編なんて書きたくないやってところでしょうけど、読者としてはせっかくの構想を無駄にしてほしくはないものです。

★★★

著者別読書感想(山崎豊子)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ハサミ男 (講談社文庫) 殊能将之

推理小説を得意とした著者の1999年に発刊されたデビュー作品となる長編小説で、同年にメフィスト賞(公募文学新人賞)を受賞しています。

2005年には、同作品を原作とし、池田敏春監督、豊川悦司、麻生久美子の主演で映画化もされました。見てませんけど。

ただ残念なことに著者は2013年に49歳の若さで亡くなっています。死因は未公表で不明ですが、この小説を読んでいると主人公が試す様々な自殺法が書かれていて、もしかすると、、、と考えてしまいます。

主人公は、出版社でアルバイトをしながら、そこで見つけた女子高生の名簿を利用して過去に二人の女性を窒息死させ、顔にハサミを突き刺しておいたことからマスコミから「ハサミ男」と呼ばれています。

そして3人目を付け狙い、殺そうとしていた時、それまでとまったく同じ殺害方法で、誰かに先を越されて女子高生が殺され、しかもその殺害現場で第一発見者となってしまいます。

真っ先に疑われそうですが、発見したのが死後1時間ほど経っていたため、まさか犯人が1時間も現場にいるはずがないということで、見過ごされていきます。

そしてその連続殺人犯の主人公は解離性同一性障害(二重人格)で、「医者」という二人目の人格が時々出てきます。その医者から、3人目を殺した犯人を捜すように指示を受け、真犯人捜しを始めることになります。

これ以上書くと、推理とミステリーがわやになってしまうので、書きませんが、偶然が多すぎて現実感には乏しいものの、なかなか凝ったストーリーで、十分楽しめました。

最近は、事実は小説よりも奇なりで、現実がとんでもなく現実離れ?した犯罪にあふれているので、小説だって、現実離れしていて良いじゃないの!と思うようになっていますから、こうした読者の錯覚を誘うテクニックを使った小説も気にせずスッと入ってきます。

才能のある作家さんだっただけに、早世は残念な限りです。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

さがしもの (新潮文庫) 角田光代

この本が、世界に存在することに」として2005年に発刊されましたが、2008年に文庫化されるときにこのタイトルに改題されています。

「旅する本」「だれか」「手紙」「彼と私の本棚」「不幸の種」「引き出しの奥」「ミツザワ書店」「さがしもの」「初バレンタイン」の9作品からなるライトな短編小説です。

著者の小説は、2009年に同じく短編集の「トリップ」(2004年刊)と、2013年に長編の「対岸の彼女」(2004年刊)を読んでいます。

著者の小説を原作とした映画は、過去に「八日目の蝉」(2007年刊)や「紙の月」(2012年刊)を見ていますが小説は読んでいません。

いずれの短編も書籍と関係する物語で、読書好きな女性が好んで読みそうな話ばかり。現実感はないし、夢もないし、ひねりを利かせた設定もないし、あまりに短すぎて、感情移入している間もありません。

やっぱりこの著者が本領を発揮できるのは、ジックリ読める長編小説で、それが好ましく思えます。

というわけで、この本は短くて暇つぶしにもならず、失敗です。

★☆☆

著者別読書感想(角田光代)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

しゃぼん玉 (新潮文庫) 乃南アサ

2004年に単行本、2008年に文庫化されています。また2017年には「相棒」シリーズで有名になった東伸児監督、出演者は林遣都、これが最後の作品となった市原悦子などで、この著作を原作とした映画が製作されています。

著者の小説では過去に「暗鬼」、「火のみち」、「風紋」を読んでいます。そう言えば1996年の直木賞に輝いた代表作とも言える「凍える牙」はまだ読んでいません。そのうちにね。

主人公は、コンビニ強盗や、女性や高齢者からひったくりを繰り返し、ヒッチハイクをしながら放浪しているどうしようもない若い男性。

ヒッチハイクでトラックに乗せてもらったところ、途中喧嘩をしてしまい、ドライバーをナイフで脅したものの途中で寝入ってしまったため、山の中の真っ暗な道に放り出されてしまいます。

仕方なく誰も通らない山道をとぼとぼ歩いていると、バイクで転けて動けなくなった老婆と出くわし、老婆を家まで送り届けます。

老婆の家からお金を盗んですぐに逃げだそうと思っていたものの、暖かな食事やどこの誰というような詮索もなく、居心地がよくてしばらく老婆の家に滞在することになります。

そうした底辺で犯罪を繰り返しながら生きるしか術がなかった若者の再生物語ってところでしょうか。

現実の社会でも、危険なあおり運転を繰り返し、その結果、相手が事故で亡くなっても「注意されてカッとなった」「我慢が限界を超えた」とか平気で言い、自分を正当化する身勝手な人も多い世の中ですから、犯罪を犯罪とは思わず、それに深く染まった人が、厳しく断罪されない限り、そう軽々しく自ら更生できるとも思えませんが、小説だけにそういう理想を求めています。

★★☆

著者別読書感想(乃南アサ)

【関連リンク】
 12月後半の読書 豆の上で眠る、八月十五日に吹く風、定年後のリアル、あのひとは蜘蛛を潰せない、抱擁家族
 12月前半の読書 ベルカ、吠えないのか?、地下街の雨、イノセント・デイズ、明智左馬助の恋、人生はすべて「逆」を行け
 11月後半の読書 ハリー・クバート事件、とにかくうちに帰ります、代償、介護ビジネスの罠、黒冷水

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毎年恒例の1年間で読んだ本の中からベスト作を発表です。新作の単行本とかは諸般の事情から買えないので、読むのは主として旧作文庫本や新書です。

そういうところが世間一般にある本の賞と大きく違う点です。古くても良いものは良いという信念でやってます。

この年間大賞のシリーズは2012年からおこなっていて、今回で7回目となります。10回ぐらい続いたら(生きていたら)、その10年間の中でさらに大賞の中の大賞(死ぬまでにこれだけは読んどけ!大賞)をやってみたいですね。

過去の受賞作とリンク先を書いておきます。

◆1191 リス天管理人が2017年に読んだベスト書籍
 新書、エッセイ、ノンフィクション、ビジネス部門 「里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く」藻谷浩介 NHK広島取材班
 海外小説部門 「過去からの弔鐘」ローレンス・ブロック
 国内小説部門 「漂流者たち 私立探偵・神山健介」柴田哲孝
 次点には「夜の国のクーパー」伊坂 幸太郎と「旅のラゴス」筒井康隆

◆1093 リス天管理人が選ぶ2016年に読んだベスト書籍
 新書、ビジネス書、エッセイ部門 「20歳からの社会科」明治大学世代間政策研究所
 外国小説部門 「ザ・ロード」コーマック・マッカーシー
 国内小説部門 「八甲田山死の彷徨」新田次郎
 次点 「小説 上杉鷹山(上)(下)」童門冬二

◆993 リス天管理人が選ぶ2015年に読んだベスト書籍
 新書、ビジネス、エッセイ部門 「日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率」浅川芳裕
 外国小説部門「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン
 国内小説の2015年ベスト「屍者の帝国」伊藤計劃×円城塔
 次点「恍惚の人」有吉佐和子

◆886 リス天管理人が選ぶ2014年に読んだベスト書籍
 ビジネス書、エッセイ、ノンフィクション部門「冷血」カーポティ
 海外小説部門「卵をめぐる祖父の戦争」デイヴィッド ベニオフ
 日本小説部門「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」リリー・フランキー
 次点「親鸞(上)(下)」五木寛之、「二人静」盛田隆二

◆784 リス天管理人が選ぶ2013年に読んだベスト書籍
 新書・ビジネス書大賞「該当なし」
 ノンフィクション・エッセイ部門「三陸海岸大津波」吉村昭
 外国人作家部門「緋色の研究」アーサー・コナン・ドイル
 日本小説部門「東京セブンローズ(上)(下)」井上ひさし
 次点「写楽 閉じた国の幻」島田荘司

◆676 2012年に読んだ本のベストを発表
 新書部門第1位「大往生したけりゃ医療とかかわるな」中村仁一
 外国作品賞「パイレーツ掠奪海域」マイケル・クライトン、「歩く影」ロバート・B・パーカー
 読書大賞「あかね空」山本一力
 次点「神様のカルテ」夏川草介
 審査員(=私)特別賞「血と骨」梁石日

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

昨年2018年の1年間に読んだ書籍は、全部で99作品110冊(1作品で上下巻の場合2冊とカウント)で、ジャンル別内訳は、国内小説が64作品(71冊)、海外小説が9作品(13冊)、新書やノンフィクション等が26作品(26冊)でした。それらの中にビジネス書がほとんどないのは、いかにもやる気がない高齢者然とご理解ください。

1年間に読んだ書籍数を年ごとに並べると、
2013年 86作品 98冊 8.2冊/月
2014年 101作品 113冊 9.4冊/月
2015年 94作品 107冊 8.9冊/月
2016年 91作品 109冊 9.1冊/月
2017年 104作品 117冊 9.8冊/月
2018年 99作品 110冊 9.2冊/月

仕事をしながらでは、月9冊平均ってのはここ数年変わらないって感じです。

仕事をリタイアすると、暇になって読書数が増える?と思いがちですが、歳とともに目がつらくて読書量が減ったり、いつでも読めると思ってしまってあまり読まなかったりして、逆に減ることが予想されます。

普段は通勤中の電車の中と、寝る前にベッドの中で読みますが、そのうち通勤中に読むことがなくなるのでその分は減ってしまいそうです。

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

さて、いよいよ2018年の各部門別、年間大賞の発表です。

■新書、エッセイ、ノンフィクション、ビジネス部門

まずこの部門は26作品読みましたが、その中から大賞候補としては、

日本人の誇り 藤原正彦
この国の冷たさの正体 一億総「自己責任」時代を生き抜く 和田秀樹
フェルマーの最終定理 サイモン・シン
老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 野澤千絵
「子供を殺してください」という親たち 押川剛
私たちの国に起きたこと 海老名香葉子
深夜特急〈第一便〉黄金宮殿 沢木耕太郎
ようこそ断捨離へ モノ・コト・ヒトそして心の片づけ術 やましたひでこ
定年後のリアル 勢古浩爾

などがあります。

この中から、大賞は、、、、

定年後のリアル」勢古浩爾著

に決定です!

読書感想は、
12月後半の読書と感想、書評

昭和時代の働き方から一歩も抜け出せていない偉い学者先生や、元々裕福だったり、大企業出身者が書いた退職金たっぷりもらうことを前提に書かれた定年リタイア本とは違い、冷静な等身大(と自分では思える)の定年後のリアルな世界が描かれていて好感が持てました。

また読書感想にも同様のことを書きましたが、退職金がほとんどなくても、年金だけが頼りで預貯金も乏しくても、決して暗澹とした内容ではなく、「なんとかなる」、「それがどうした」と開き直った定年後の姿に救われ共感を感じます。

昨年はこのジャンルに面白く読めた本が多数あり、当たり年でした。中でも大賞以外に「フェルマーの最終定理」「「子供を殺してください」という親たち」「深夜特急〈第一便〉黄金宮殿」などは好奇心が刺激されましたので、同時にお勧めしておきます。

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

■海外小説部門
次に海外小説部門ですが、2017年は9作品(13冊)とやや少なめです。理由は、好きでよく読んでいたロバート・B・パーカーや、ローレンス・ブロック、マイクル・コナリー、ジェフリー・アーチャーなどの未読作品が枯渇してしまったことが影響している気がします。

さて、その中から大賞候補作としては、

夜明けの光の中に ローレンス・ブロック
内なる宇宙(上)(下) ジェイムズ・P・ホーガン
時計じかけのオレンジ アンソニー・バージェス
シャンタラム(上)(中)(下) グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ
幻の女 ウイリアム・アイリッシュ
ハリー・クバート事件(上)(下) ジョエル・ディケール
などです。

その中から、年間大賞に選んだのは、、、

シャンタラム(上)(中)(下)」グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ

に決定です。

感想は、
7月前半の読書と感想、書評

この長編小説はほぼアマチュアの人が書いたもので、話しを面白くするため無理矢理に作った乱暴なところや、無駄な話しが多くて冗長過ぎる部分ももあり、そして欧米人(著者はオーストラリア人ですが)視点で、貧困にあえいでいるアジアを見下したような一種ステレオタイプ的な偏見も垣間見えます。

また自分の経験を元にしつつ、相当に話しを盛っているな?と感じる小説ですが、それだけに波瀾万丈、退屈せず、エンタメ的な要素にあふれ、文庫は3巻に渡る長い小説ですが、気にならずに面白く読めてしまいます。

最後まで「ハリー・クバート事件」ジョエル・ディケール著とどちらにするか悩みました。

小説のテクニックや整然とまとまったミステリーとしては「ハリー・クバート事件」の圧勝ですが、スケールの大きさと、読者を喜ばす破天荒なエンタメ性、最近少なくなった素人っぽい荒々しさが気に入り「シャンタラム」に軍配を上げました。

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

■国内小説部門
読んだ数がもっとも多いジャンルで、64作品(71冊)の国内小説部門の年間大賞候補作としては、

楽園のカンヴァス 原田マハ
失われたミカドの秘紋 加治 将一
紀ノ川 有吉佐和子
恋歌 朝井まかて
土漠の花 月村了衛
限界集落株式会社 黒野伸一
ラブレス 桜木紫乃
人類資金VII 福井晴敏
噂 荻原浩
天空の蜂 東野圭吾
村上海賊の娘 和田 竜
夏美のホタル 森沢明夫
満願 米澤穂信
ナミヤ雑貨店の奇蹟 東野圭吾
花まんま 朱川湊人
開かせていただき光栄です 皆川博子
明智左馬助の恋(上)(下) 加藤廣
八月十五日に吹く風 松岡圭祐
などです。

さて、国内小説63作品の中から大賞に選ばれたのは、、、、、、、、、、
ドコドコドコドコドコドコ(太鼓の音)

紀ノ川」有吉佐和子著に決定!!

古いぞ~という批判(初出1959年)は甘んじて受けるとして、良いものは何年経ても良い。長く読み続けられそうなお見事な作品です。

有吉佐和子氏の受賞は2015年に国内小説部門の次点として「恍惚の人」が入って以来で、初の大賞受賞となります。

特に谷崎潤一郎や三島由紀夫など、耽美的な文学には滅法弱い(評価が高い)という習性がある審査員ですので、そうした雰囲気があるこの小説にはグッときてしまいました。この小説が特に耽美的というわけではありませんけど、、、

読書の感想は、
2月後半の読書と感想、書評

大正から昭和の初めの和歌山の素封家、そこで生まれ育った女性が主人公で、女3代に渡る大河小説的な話しです。

読んでいると、都会とはまた違う、その時代の和歌山紀ノ川周辺の風景が見事によみがえり、恋愛や結婚に自分の自由がなかった当時の女性の生き方や、ささやかな抵抗、そして脈々と引き継がれていく遺伝子など、小説これに極まれりって気がします。

それにしてもこの本に出てくる男がみな貧弱でぼろくそなのはご愛敬。そう言えば、同じ著者の作品「悪女について」も同様に男は添え物でしたね。

 -  -  -  -  -  -  -

次点としては、中世のイギリスを舞台にし、まるで海外ミステリー翻訳本のような「開かせていただき光栄です」皆川博子著と、キスカ島撤退の歴史的事実を元にして、登場人物の多くを実名で書いたノンフィクションに近い小説「八月十五日に吹く風」松岡圭祐著の2作品とさせていただきます。

開かせていただき光栄です」の感想は、
10月後半の読書と感想、書評

八月十五日に吹く風」の感想は、
12月後半の読書と感想、書評

受賞された作家、著者さんに深く敬意を表します。今後のますますのご活躍を願っております。良い本を出していただきありがとうございました。

今年はどんな良い作品に巡り会えるでしょうか。楽しみです。


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