リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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傷痕 桜庭一樹
2008年に親子愛というか近親相姦で物議を醸した?「私の男」(2007年)で直木賞を受賞した著者の、2012年に発刊の長編小説です。
「私の男」10月前半の読書と感想、書評 2013/10/16(水)
この作品は、基本的にアメリカで活躍したマイケル・ジャクソンとその家族を、日本と日本人に置き換えて、King of Popsと呼ばれるようになった偉大で変人の歌手と、突然現れたその娘の話しです。
子供の頃から、歌手と、エンタテナーして育て上げられ、普通の子供時代をおくれなかった主人公は、やがて兄弟とともに活動するのをやめ、様々な奇怪な行動をしながらも単独で世界のエンタテナーとして人気を集めていきます。
そして銀座にあった廃校になった小学校を買い取り、自分の楽園として様々な動物や遊戯施設などを設置し、子供達だけを招待するという行動に出ます。言うまでもなくネバーランドですね。
その楽園に突然現れた主人公の子供で、名前はタイトルにもなっている「傷痕」へと興味が移っていきます。
マイケル/ジャクソンについてあまり詳しくないため、どこまで似せているのか、また似せる必要があるのかどうか不明ですが、あまりにも話しが突飛すぎて、さらに主人公の死後についても、なにか明確なストーリー展開があるわけでもなく、結果的によくわからない小説のまま終わってしまいました。
なにか最初は意気揚々、乗りに乗って書き始めたけど、途中から、自分でもよくわからなくなって、適当に収めたというような感じで残念。
読む人が読めば、最初から最後まで一貫して偉大なエンタテナーとその家族、周辺の人達を余すところなく描き出して素晴らしい!という評価にもなるのかも知れませんが、私にはわかりませんでした。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
季節の記憶 (中公文庫) 保坂和志
1996年発刊、1999年に文庫化された長編小説です。著者は私とほぼ同年代で、そういう方の小説を読むと、内容に自分が今まで実際に見聞きしてきたことが多くなり興味というか関心は高くなります。
例えば文中に出てくる、1960年代に流行った漫画、「伊賀の影丸」は、この世代以上でないと、タイトルから想像する以外、どういった漫画かもわからないでしょう。
著者のメジャーな受賞歴は、1995年に「この人の閾」で芥川龍之介賞、この「季節の記憶」では谷崎潤一郎賞、2013年には「未明の闘争」では野間文芸賞受賞などがあります。
とにかくセンテンスが長いのがこの著者の特徴というか癖なのでしょう、文庫で10行ぐらいをひとつのセンテンスにくくることぐらいは当たり前という文章です。
したがって、ちょっと読みづらい感じもしますが、慣れてしまうと、一気に塊として読み進められそれもありかなと。
私も以前はビジネス文書においてセンテンスが長い文をよく書いていて、読みにくいと指摘されたことがあり、意識して箇条書きなど、文章を短くするようにしてきました。
小説とビジネス文書は形式も文体もまったく違うものですが、自分の備忘録や日記とは違い、人が読むという点は共通するところがあり、やはり読みやすく書くというのがベースにあるのではないでしょうか。
それはさておき、小説は鎌倉に住むシングルファーザーの男性が主人公で、お隣の独身兄妹や、離婚して実家に帰ってきた妹の同級生などが、平凡な日々をそれでも毎日しっかりと生きていくという市井の人達の生活が描かれています。
鎌倉や湘南を舞台にした小説やドラマは古くから数多くあります。
本来なら鎌倉って言えば伝統や古くさくてい年寄りっぽい雰囲気がある場所ですが、著者を含め私たち世代には若いときにテレビで見た「俺たちの旅」(1975年~1976年)の印象が強烈に残っていて、この小説でもそうした若々しく新しいモノ好きなイメージを多少は引きずっているような気がします。
★★☆
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夜が明けたら (ハルキ文庫) 小松左京
元々は44年前の1974年に発刊され、その数年後に文庫化もされましたが、その後しばらく経った1999年に別の出版社からあらためて文庫で出版された短編小説集です。
収録作品は、「夜が明けたら」、「空飛ぶ窓」、「海の森」、「ツウ・ペア」、「真夜中の視聴者」、「葎生の宿」、「秘密」、「保護鳥」、「安置所の碁打ち」、「兇暴な口」、「沼」、「猫の首」、「腐蝕」、「青ひげと鬼」、「牛の首」、「黄色い泉」、「怨霊の国」の17篇。
また巻末にはシリーズ化された短編集を総括した著者へのインタビューが収録されています。インタビュアーはミステリ、SF研究家の日下三蔵氏で、これもまた作品の裏側や苦心の跡が垣間見られてよかったです。
著者お得意のSF、オカルト、ホラー、ミステリーといろんなパターンがあってとても楽しめます。
タイトルになっている「夜が明けたら」は、ある日の夜に大きな地震が起きて、大規模な停電になります。懐中電灯や携帯ラジオを点けようとするも、なぜか乾電池が全部ダメになっていて点きません。
隣人のひとりが電力会社の社員で、停電があまりに長く続くので緊急事態と判断し、会社へ行きたいのでクルマを貸してくれと家にやってきます。しかしクルマのエンジンをかけようとするも電装品がダメになっていて動きません。
そこで走っているクルマを停めて乗せてもらおうと外へ出ますがまったく来ず、季節は冬で寒いので焚き火に当たっていたら、近くの天文台から来たという人達がやってきて「地球の自転が停まったようだ」と告げられます。つまり夜明けはいつまで経っても来ない、、、
短編でなければ、その後のドタバタの話しが続くところですが、それは残念ながら想像するしかないです。
あと、怖いホラーやミステリーでは、「誰かに見られているような気がする」「何者かがいる気配がする」というセンテンスが常道なんだなということがよくわかります。そういう作品には必ずそうした場面が出てきますので。頻繁すぎて、ちょっと使いすぎって気もします。
元々がSF作家として有名な著者ですから、突拍子もない話しが多いのですが、夜にひとりで読んでいると「自分の後ろに誰かがいる気配がして背筋が冷え」、「窓から誰かがジッとのぞきこんでいるような不安」に陥ることは間違いありません。
★★☆
◇著者別読書感想(小松左京)
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お墓の大問題(小学館新書) 吉川美津子
2016年発刊の新書で、著者は自称、葬儀・お墓・終活ソーシャルワーカー。高齢化社会になって一躍注目されそうな職業です。
すでにお墓をめぐる様々なトラブルや将来の不安などが取り沙汰されていますが、それらを整理して、お墓の買い方から、先祖や親戚、自分のお墓についての考え方、お墓に関する法律などわかりやすく書かれています。
それにしても自宅の近くにある、かなり大きなK市営霊園の定期募集では競争率500倍にもなるらしく驚きです。市営だけに管理料は安いし、地元で便利だし、倒産することもなく、墓石の業者は自由に選べるし、お寺の檀家になる必要もなく人気が高いのがわかります。
この新書を積極的に読むのは、ほとんどが60代以上の中高年者ということになるでしょうけど、高齢の親の面倒を見ている40代、50代の子供もまた、お墓とは無縁でいられないでしょう。
最近流行の共同墓地や、マンション形式の納骨堂まで、様々に選択の幅が拡がってきましたが、なかなか親と子供でお墓についてどうして欲しいか話すことはないので、死後、親戚や寺社とトラブルが起きることもあるそうです。
よく遺産で兄弟や親戚などともめる話しは聞きますが、お墓についてももめることがありそうです。
例えば誰がそのお墓の管理者となるのか?血縁関係ではどこまでそのお墓に入れるのか?地方にあるお墓の墓じまいをどうするのか?親戚に散骨や共同墓地の理解を得られるか?墓地や墓石の種類と費用などなど。
遺産と同様に、墓地や管理者についても予め遺書などで定めておくことを推奨されていますが、後に託されても費用面や管理面、寺社との檀家としての付き合いがなかなか大変で、時代の変化とともに伝統を引き継いでいくというのが難しい世の中になってきたことがわかってきます。
★★☆
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嫉妬をとめられない人 (小学館新書) 片田珠美
久米宏氏のテレビ番組にゲストとして登場されていた時に「精神医学界の沢尻エリカ様」と紹介されたユニークな著者の2015年刊の新書です。
著者の本は、その時TV番組で紹介されていた「他人を攻撃せずにはいられない人」を2016年に読みました。
「他人を攻撃せずにはいられない人」6月前半の読書と感想、書評 2016/6/15(水)
羨望と嫉妬とは似てはいるもののそれが引き起こす問題には大きな違いがあります。事件や大きなトラブルに発展することが多いのは嫉妬で、これはあえて説明をするまでもないでしょう。
ちまたでは出世、所得、恋愛、貧富、家柄、学閥、家庭などなんでも嫉妬の対象となり、それが度を超えると嫉妬の対象者を悪意を持って引きずり下ろそうと画策したり、迷惑をかけるトラブルが発生しています。
そうした嫉妬が起きる原因、嫉妬の対象となりやすい関係、嫉妬されたされそうな時の対処法、そして自分が他人に嫉妬しているときの対処法などが事例と精神科医の冷静な目線で解説が書かれています。
ちょっと不足しているなと思えるのが、男女で嫉妬の種類や解決策が違っているように思えるのですが、それらにはまったく触れられていないことです。
あと、特に最近はFacebookなどSNSが流行ることにより、そうした他人への嫉妬が加速しているそうな。
というのも、そうしたSNSに書き込むのは、自慢話で自分の良い側面ばかりなのが多いのですが、友人(他人)からすると「どうしてあいつばかり良い思いしているのか?」「いつも高そうで良いものばかり食っている」「遊んでばかりいていつ仕事しているんだ?」「いつも周囲に友人に囲まれていて羨ましい」などと勘違いしてしまうケースがあるのだと。
確かにそう思えてしまう友人っています。別に嫉妬してませんが、、、してませんって、、、いえ、少ししてます、、、
いずれにしてもSNSは、人の自慢話ばかりが書かれている場所だって理解した上で「イイネ」するのが良いと思います。
実際には、水面を高貴に泳いでいる白鳥の足が水面下では必死にかいているのと同様、みんな良いことはSNSに書き、書けないことは水面下でもがき苦しみ、ゼイゼイと言いながら生きているんだと思うようにするのが一番です。
★☆☆
【関連リンク】
9月後半の読書 満願、ナミヤ雑貨店の奇蹟、花まんま、雑学の威力、私たちの国に起きたこと
9月前半の読書 幻の女、幸福な生活、神様のボート、それは経費で落とそう
8月後半の読書 村上海賊の娘(1)(2)(3)(4)、京都ぎらい、眼球綺譚
8月前半の読書 ドグラ・マグラ(上)(下)、11 eleven、「子供を殺してください」という親たち
7月後半の読書 蛇行する月、みっともない老い方、天空の蜂、夏美のホタル
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満願 (新潮文庫) 米澤穂信
2014年に単行本、2017年に文庫化されたベストセラー短編小説集です。
短編のそれぞれのタイトルは、「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」で、6編が独自のストーリーとして構成されています。
その中の3編、「夜警」「万灯」「満願」は、この8月にNHKでドラマ化され放映されていました。
そのドラマはすべて見ましたが、その中の「万灯」は、映画でも主役を張れる俳優の西島秀俊が本格的な海外ロケをおこない、制作費が少なくて安いギャラのお笑い芸人を使ったバラエティぐらいしか作れない民放では製作不可能な1時間ドラマです。
6編のうち、ふたつを簡単に紹介しておきます。
まずテレビドラマ化もされた「万灯」。バングラデシュで天然ガス開発のために赴任した商社マンが主人公で、その開発の拠点とするためにある村に目を付けて、交渉を始めます。
ところが、英国に留学した経験があるこの村の若いリーダーが、この国の資源は自国の発展のために使うからと交渉が進みません。
そうこうしていると、村の若いリーダーと対立している別のリーダー達から、開発で村が裕福になるなら、拠点として村を使っても良いと話しが来ます。
ただしそれには条件がつき、それが資源開発に反対する若いリーダーを殺してくれというもので、背には腹を変えられず、それに従うことになりますが、、、
ただ、普通の商社マンが、仕事のためなら簡単に人を殺してしまうと言う設定は、会社のためなら命がけで競争に明け暮れた高度成長期の頃の商社マンならともかく、現代の風潮から言ってちょっとどうなのかなと。
もうひとつは、「関守」という短編で、これは他の作品と少し違う、ブラックミステリー。
伊豆の峠道でクルマの転落事故が相次いで起きた場所があると聞き、それをネタにした怪奇現象記事を書こうと考えたフリーライターが、その峠近くに古くからあるドライブインへ行き、店を守る老婆から過去に起きた事故や、立ち寄った人のことを聞き出します。
事故に遭った人はそれぞれ年齢や職業など様々ですが、事故を起こす前にみなこのドライブインに立ち寄っていることを知ります。
そして詳しく話しを聞いていくうちに、なぜそれらの人達が崖から転落して亡くなってしまったのか、それを聞いたライターは、、、
と、かなりスリル満点で、どの作品も面白かったです。
★★★
◇著者別読書感想(米澤穂信)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫) 東野圭吾
2012年刊、2014年に文庫版が発刊された、第1章から第5章までつながる中編の連作小説で、2017年には日本と中国でそれぞれ映画化されています。
日本版映画の監督は廣木隆一、出演者は山田涼介、西田敏行、尾野真千子などで公開済み。
一方の中国版は今年2018年10月に日本で公開されます(香港・中国・日本合作)。中国版では日本版の西田敏行と同じ役にジェッキー・チェンが従来のイメージとは違う老け役で登場しているそうです。
東京近郊の住宅地で、以前は活気があったものの、最近は人口流出が続き、商店街もシャッターが降りているようなイメージのある高台にある古びた雑貨店が舞台です。
話しに出てくる年代が、ビートルズが解散した1970年、政治的理由でボイコットしたモスクワオリンピックの1980年前後、そしてこの小説が書かれた現代(2010年頃?)と、行ったり来たりして、今読んでいるのはいつの年代?って迷ってしまうことがあります。
現代の人が書いた文章を1970年代の人が読むと、「携帯で」とか「ネットで」と書いてあっても、まったく意味が通じないということにあらためてそうだったなぁと思いました。
ネタバレが少し入りますが、つまり、1970年代から80年代に雑貨店を営んでいた経営者が、子供からの質問に対し、一つ一つ丁寧に返事を返していたことが拡がっていき、やがて人生相談など深刻な話しが持ち込まれるようになります。
それにも一生懸命返事を書いてきたことが、その後の人生に役立ったのかどうか知りたくて、自分が死んだあとの30年後に相談者にアドバイスが役立ったかどうかを書いてもらい、再び雑貨店のポストに投函して欲しいと息子に遺言で頼みます。
すると不思議なことに、その30年後に届くお礼の手紙が、その経営者が死ぬ直前に、時空を超えて届くという奇跡が起きます。
その時代感が上記に書いたようにちょっと複雑ですが、面白く楽しく読むことが出来ました。さすがベストセラー作家の作品だけあります。
★★★
◇著者別読書感想(東野圭吾)
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花まんま (文春文庫) 朱川湊人
ちょっと不思議な短編ミステリー、「トカビの夜」「妖精生物」「摩訶不思議」「花まんま」「送りん婆」「凍蝶」の六編が収められた小説で、2005年に発刊、2008年に文庫化されています。そして2005年にはこの作品で直木賞を受賞されています。
著者は1963年(昭和38年)生まれですから、私とは6年違いで、同世代と言うにはちょっとアレですけど、小説を読んでいると、同世代の人?と思えるような表現や事象がよく登場して、懐かしい思いに浸ることができました。
それは著者の幼少期(9歳まで)は大阪の下町?で暮らしていたということで、昭和30~40年代の頃の大阪の下町が色濃く描かれています。なぜかわかりませんが、織田作之助賞を受賞されていないことが不思議なぐらいです。
どの短編も魅力的で、しかも読みやすく、後味も悪くない作品に仕上がっていて、直木賞もなるほどと納得がいく出来映えです。
関西人なら誰でもわかる共感性も感じられ、「在日朝鮮人」「差別部落」「飛田新地」など、そこで生活している人にとっての日常と同居している濃い話題がサラリと入ってくるところなど、心地よいぐらいです。
6編のうち、特に好きなのは、小さな女の子が主人公で、飼うと幸せになれると言われ、怪しげな露店で買った謎の生き物の話し「妖精生物」と、部落差別で友人が出来ない少年に、故郷の弟を思い出すと公園墓地で話しかけてきた下手な関西弁を使う若い女性との短い出会いと別れを描いた「凍蝶」かな。
いずれも悲しいお話ですが、後を引かない悲しさで、大げさに言うと、逆に生きる活力が得られそうな話しです。
★★★
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雑学の威力 (小学館新書) やくみつる
漫画家というか最近はテレビのコメンテーターや相撲のゲストなどで有名な著者の2016年発刊の新書です。
中身はタイトルそのままということで、特に説明する必要はなさそうですが、私はほとんど見ていませんが、クイズ番組などでの博識ぶりは子供の頃からの一風変わった趣味と好奇心、そして人から「物知りですね~」と言われたい一心から様々な努力をして雑学力を高めていった話しが書かれています。
そう言えばクイズダービーでブレークした同じく漫画家の黒鉄ヒロシ氏や故はらたいら氏もたいへんに博識な方です(でした)。
それらの方に共通している時事漫画を描く上では、様々な方面に感度の良いアンテナを張り巡らしていることが大事で、それが結果的に時事問題以外の雑学全般にも連鎖的に詳しくなっていくのでしょう。
それにあまり良い意味では使われない「衒学的(げんがくてき:学があることをひけらかす)」なことを自ら求めていると公言していると書かれていて、テレビの場でもそうした自信たっぷりと言うか、自慢気な雰囲気があることにこの新書を読んで納得です。
個人的には、どちらかと言うと自分が体育会系に近いので、理屈や知識でやりこめる、こういうタイプの人は苦手なのですが、テレビや新聞等で見かける分にはユニークな素養と趣味の持ち主としてリスペクトしておきたいと思います。野球や相撲を題材にした1コマ漫画も面白いものが多いですし。
自分が新入社員の頃には、NHKの元アナウンサー鈴木健二氏が司会を務める「クイズ面白ゼミナール」の前にいつも言っていた「知るは楽しみなりと申しまして、知識をたくさん持つことは人生を楽しくしてくれるものでございます」を実践しようと、駅のホームで電車を待っている間にも、広告の看板を読み、流行を知ったり、景気の良さそうな業界を感じ取ったりと意識して知識を吸収するように心掛けていました。
そういうことの積み重ねが、その後の人生において、いろいろと身を助けてくれたこともあり、そうした雑学の威力は十分に同意するところです。
あとがきに、先々月寄って見学してきたばかりの、知る人ぞ知る鶴岡市の加茂水族館の話しがちょっと出ていてビックリ。
なんでも雑食性のウマヅラハギが集団で好物のエチゼンクラゲを襲って食い散らかす鬼畜なショーをクラゲで有名な加茂水族館でやれば盛り上がるのでは?というようなお話でした。
新書にはよくありがちなことですが、著者のちょっと自慢げな表現や事例が鼻につくところが減点1の★2です。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
私たちの国に起きたこと (小学館新書) 海老名香葉子
初代林家三平の妻、長女・海老名美どり、次女・泰葉、長男・泰孝(九代目林家正蔵)、次男・泰助(二代目林家三平)の母として有名な著者で、落語一家の家族を書いた著述も多くあります。
この作品は、著者が11歳の時に起きた東京大空襲で、両親や兄弟を亡くすという壮絶な体験をしたのちに、貧しい戦後を親戚をたらい回しにされながらも生き抜き、縁があってまだ無名の落語家(初代林家三平)と結婚して現在までの話しが書かれている2015年発刊の新書です。
東京の下町で伝統ある釣り竿を製造販売していた家に生まれますが、ひとりで疎開をしていた3月10日に東京大空襲があり、兄の三男だけは生き延びて再会しますが、あとの親兄弟6人は行方不明となってしまいます。
自宅も焼けて跡かたなくなり、終戦後は戦災孤児として親戚の家を転々としますが、どこも自分の家族を養うことで手一杯で、歓迎されません。
そんなとき、亡くなった父親と釣りを通じて懇意にしていた顧客の3代目三遊亭金馬師匠を訪ねたところ、初めて歓迎してくれ、その後その家の子供のように育てられます。
そして落語家の林家三平との結婚、その後有名になっていく落語家の妻として、夫の闘病と死と、事実上、本人の自伝となっています。
その中でも特に戦災で家や家族を失った子供達の悲惨な状況を余すところなく書かれていて、それがこの新書の主題となっているようです。
★★☆
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幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) ウイリアム・アイリッシュ
76年前の1942年にアメリカで発刊されたかなーり古いミステリー小説で、1944年には映画化もされています。
ミステリー小説と言えば、アガサ・クリスティや、エドガー・アラン・ポー、探偵小説では、アーサー・コナン・ドイルのホームズシリーズなどの有名な作品を除き、ほとんどの作品は時代とともにやがて消えていくものが多い中で、何度も再版され、設定を現代風にアレンジされテレビでドラマ化されたりしている古典ミステリーの名作と言える数少ない作品です。
発刊された1942年というと昭和17年で、その頃日本では前年から始まった太平洋戦争の真っ最中で、戦意高揚が目的以外の娯楽はほとんどなくなっていく時代です。
ところが戦争の相手国であるアメリカでは、第2次世界大戦が始まった1939年に制作された映画「風と共に去りぬ」もそうですが、本国から遠い地域でおこなわれている戦争とは言え、戦意高揚などとは関係なく(アメリカでも国を挙げて戦時債権の宣伝がおこなわれてはいましたが)、娯楽や芸術は、戦争とは関係なく、淡々と贅沢にお金をかけて制作されたりするものです。
さて、小説の内容ですが、ミステリー小説なので、ネタバレするような内容は詳しくは書けませんが、時代を現代に置き換えても十分に通用する内容で、「夫婦」「離婚」「不倫」「愛人」「殺人」「ファッション」「刑事」「親友」などがキーワードとして、時代を今に置き換えてもまったく同じお決まり?の項目が並びます。76年前と現代とでなにも変わっていないということにまず驚かされます。
ハードボイルドというのでもなく、また刑事ものでもなく、状況証拠から妻を殺したと疑われ、死刑判決を下された主人公は、誰に助けを求め、そして誰に救われるのか、妻を殺して自分に罪をかぶせたのは誰か、、と言ったストーリーです。
タイトルの「幻の女」とは、殺人犯とされた主人公が、唯一その殺人がおこなわれたとされる時間に一緒にいて、無実を証明することができる名前も知らない女性のことですが、この女性がなかなか探し出せません。
外国の長編小説ではやたらと登場人物が多くて、名前が覚えられずに苦労するケースが多いのですが、この小説は登場人物も限られていて、主人公の記憶が話しの主となりテンポがよくてたいへん読みやすいです。
★★★
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幸福な生活 (祥伝社文庫) 百田尚樹
2011年に単行本、2013年に文庫版が発刊された短編小説集で、いわゆるショートショートに近い感じです。
政治信条などは別として、書かれている小説はたいへん好きなので、文庫化されているほとんどの作品は読んでいます。
それぞれのタイトルは、「母の記憶」「夜の訪問者」「そっくりさん」「おとなしい妻」「残りもの」「豹変」「生命保険」「痴漢」「ブス談義」「再会」「償い」「ビデオレター」「ママの魅力」「淑女協定」「深夜の乗客」「隠れた殺人」「催眠術」「幸福な生活」「賭けられた女」で、19編が収録されています。
いずれも最後のページをめくると、その最後の1行でオチがあるという仕掛けになっています。
短編ミステリー小説はあまり書いていない著者ですから、そのテクニックについては、話しの中盤ぐらいで簡単にオチが見えてくる、やや荒っぽさが残りますが(それも著者流の作戦かも知れません)、それでも短い文章の中でテンポよくキレキレの話しを面白く読ませてくれることは、他の長編小説と変わりありません。
それぞれの内容は、短編だけに少し書くだけでオチがわかってしまいそうなので書きませんが、星新一や小松左京のショートショートのように気楽に読むと良いかもしれません。シリアスなオチもあれば、ブラックユーモアなオチも楽しめます。
でもやっぱりこの著者の小説は、短編ではなく、じっくり長編で読みたいものです。
★★☆
◇著者別読書感想(百田尚樹)
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神様のボート (新潮文庫) 江國香織
1999年単行本、2002年に文庫化された恋愛小説です。この著者の作品を読むのはこれが初めてです。
著者は20歳の1885~86年に詩や童話でデビューし、1989年に短編小説集を発刊、2004年には「号泣する準備はできていた」で直木賞を受賞されています。
そう言えば少し前に映画「間宮兄弟」をテレビ(録画)で見ました。後で知りましたが、この映画の原作は著者の小説です。内容は、他の用事をしつつながらで見ていたこともあり、さっぱりわかりませんでしたけど、、、
この「神様のボート」は2013年に宮沢りえ主演でNHK BSでドラマ化されていたそうです。
主人公は、W不倫の末に生まれた子供とともに、転居を繰り返しながら、子供の父親が迎えに来てくれるのを待っています。
その子供の父親はというと、事業に失敗してしばらく債権者から逃亡すると言ってどこかへ行ってしまいますが、考えてみるとなんて無責任なヤツだ!って思ってしまいます。
女性視点からすれば、そうした逃げていった男性でも、愛があれば、いつまでも待てるってことなのでしょうか。ちょっと非現実的な感じがします。
小説でも、主人公の娘が高校生になるときには、そうした無意味と思える転居を繰り返す母親に抵抗して、全寮制高校へ行くと言いだします。当然でしょうね。
それでもこの主人公に共感できる女性がいっぱいいるそうで、おじさん視点ではまったく理解できない世界です。
★☆☆
◇著者別読書感想(江國香織)
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それは経費で落とそう (集英社文庫) 吉村達也
著者は1952年生まれですから団塊世代の方です。大学卒業後はサラリーマンとして勤務し、34歳で作家デビュー、40歳前には専業作家となり、その後数多くのミステリー小説やホラー小説などを出されています。ただ、残念なことに、6年前の2012年に60歳で病気のため亡くなっておられます。
この著者の作品を読むのはこれが最初ですが、この作品は1992年刊で、作家としては初期の頃の作品で、自分のサラリーマン時代のことを思い出しながら書かれたのだろうなという気がします。
作品は、「ま、いいじゃないですか一杯くらい」「あなた、浮気したでしょ」「それは経費で落とそう」「どうだ、メシでも食わんか」「専務、おはようございます」の5編で、サラリーマンなら普通に使っていそうな一言がタイトルになっています。しかし中身は、殺人事件あり、飲酒死亡事故あり、手遅れの病気ありと、結構過激です。
この本が発刊された92年と言うと、バブルが弾けた頃ですが、書かれているのはまだバブルのさなかという感じで、飲酒運転、タクシーチケット、豪華接待、深夜残業など、今の時代なら目をむきそうなことが当たり前におこなわれていたりします。
表題にもなっている「それは経費で落とそう」は、営業マンが領収書をかき集めて日付や金額を加工して接待経費で落とそうとしますが、経理部の女性に目を付けられ、それが殺人事件にまで発展するという無茶な展開。
どれも最後にオチがありますが、意外とあっさりしたもので、背筋がヒヤッーと凍るというようなものではありません。もちろん、ほのぼのとするような作品ではありませんので念のため。
そうそう、文庫のあとがきにも書かれていましたが、1995年にこの中の3話がオムニバスとしてテレビドラマ化されていたそうです。私は見ていませんが。
★★☆
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村上海賊の娘 (新潮文庫)(1)(2)(3)(4) 和田竜
2013年に単行本が、2016年に文庫が発刊された、長編時代小説です。
好きな作家さんで、他のすべての長編小説「小太郎の左腕」、「忍びの国」、「のぼうの城」を過去に読んでいます。
織田信長や豊臣秀吉、毛利元就など戦国時代の英雄を語るときに、必ずと言っていいほど脇役として出てくる瀬戸内海に出没していた一大勢力の村上海賊が主人公です。
織田信長が天下統一に向けて着々と地盤を固めつつある頃、比叡山を焼き払い神仏を破壊する信長に反旗を翻す大坂(石山)本願寺との戦争において、村上海賊が大きく関わってきます。
信長と大坂本願寺の戦を静観していた中国地方の大名毛利家に、大坂本願寺が信長包囲網の中で唯一残されている海路で食糧の救援を依頼しますが、毛利家としては、いずれ衝突することが見えている信長の敵に救援物資を送り、北の上杉謙信とともに信長包囲網を築くのがいいのか、それとも強大な信長の意向に従って静観するべきか迷います。
そんな中、食糧を海路で運ぶことになれば絶大な海上勢力を持つ村上海賊の全面的な支援と協力が必要ということで、三家に分かれている村上海賊の内、因島村上家と来島村上家の二家はすでに毛利家の家臣団に組み込まれ問題ないものの、もっとも強大な能島村上氏は、過去に毛利水軍に攻められたこともあり、簡単に毛利家には従ってくれません。
その能島村上家の長女(姫)が主人公ですが、姫が海上で偶然助けた一向宗の農民達が乗る船で、農民達の願いを聞き入れ、単独で農民衆を率いて大坂へ向かい、そこで信長軍と大坂本願寺の戦に巻き込まれていきます。
面白いのは、その長女が、彫りの深い西洋人ぽい顔立ちだったので、当時の一般的な価値判断で言えば醜女と言われていたのが、すでに西洋人が多く出入りしていた堺などがある泉州地域に行くと、見目麗しいと評されること。
そして様々な思惑が交差しながらも、大坂石山寺へ食糧を海上輸送することになり、いよいよ毛利側の村上海賊と織田信長側の泉州海賊が河内の海で激突します。
大型の安宅船と中型の関船、小型の小早が入り交じり、村上海賊の新兵器焙烙玉など戦国時代の海戦の話しが長々と続きます。ちょっとその辺はかったるいかも。
それはともかく、信長や顕如、小早川隆景はもちろんのこと、和歌山の雑賀衆鉄砲隊で有名な鈴木孫一など実在人物も数多く登場し、今まで余り語られてこなかった戦国史の一ページが展開されなかなかスペクタクル満載です。
こういう内容は文字で読むよりは見た方がずっと派手で迫力があるでしょうから、そのうち映画化されるかもしれませんね。
★★☆
◇著者別読書感想(和田竜)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
京都ぎらい (朝日新書) 井上章一
元々は建築史など学術の人ですが、それ以外の著作物も多い著者さんで、私と同年代と言うこともあり、書いてあることに、いちいちごもっとも~と思う点がいくつもありました。
ただ私はそこまでしつこい粘着質ではないなーと、学者先生との違いを実感するのでした。
この新書は2015年に発刊されたもので、タイトル通り、京都市出身の著者がなぜ京都を嫌いになったのかということが、延々と綴られています。
京都と言ってもそこは歴史のある街なので、今でも洛中(中心部)と洛外(それ以外)の地域差はあり、洛中で生まれ育った人にとっては、同じ京都市内であっても洛外へ引っ越すなんて都落ちもいいところで、心情的に許されないことです。
親子3代に渡って江戸に住んで江戸っ子と言いますが、京都の場合は千年の歴史があるだけにたった3代というわけではなく、もっとずっと古くからの慣習や変なプライドが残っていてやっかいです。
そこには当然洛中生まれというブランドが、それ以外の地域住民への差別が綿々と先祖代々引き継がれてきているわけですね。
でもそのあたりの事情や機微は京都の人でしかわからないことかも知れません。日本国中で言えばたった数十万人、たぶん全人口の0.2%ほどの洛中の人に皮肉を言われたからと言って、そんな大げさに反応する必要などなく、逆に馬鹿にして大笑いしていればいいだけのこと。
それにしても、こういう嫌みを言われた、皮肉っぽく言われたと繰り返し恨み節が出てきて、学者というのは面倒なことに極度の粘着質なのだなぁとつくづく思います。それぐらい粘ってひとつのことを追い求める精神力が学者として必要な能力なのでしょうけど。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
眼球綺譚 (角川文庫) 綾辻行人
1995年単行本、1999年と2009年に別々の出版社にて文庫化されたホラー短編集です。
収録されている作品は、「再生」「呼子池の怪魚」「特別料理」「バースデー・プレゼント」「鉄橋」「人形」「眼球綺譚」の七編です。
なかなか味わい深い短編が多く、忙しいさなかにさらっと読むのではなく、腰を据えて夜中でひとりジックリと味わいたいものです。暑い夏の夜でも背筋がゾワッとして涼めます。
著者の作品は、過去に「Another」「奇面館の殺人」「最後の記憶」「深泥丘奇談」の4作品を読んでいますが、いずれもたいへんわくわくドキドキで面白かった記憶が残っています。
短編の中の「人形」は、著述業の主人公が、同じく作家の嫁(著者夫婦と同じ設定)が仕事で海外へ行くと言うので、その間久しぶりに親に顔を見せに実家へ帰った時に起きた出来事で、実家の犬の散歩をしていたら、犬がどこからかのっぺらぼうの人形を咥えて戻ってきます。
翌日、鏡を見るといつも見慣れた黒子がなくなっていることに気がつき、はたと気づいて人形を見るとそちらに黒子ができている。
そして次は指紋が、耳が、口が、、、と、、、思っただけで背筋がゾクゾクします。
短編集のタイトルにもなっている「眼球綺譚」は、目をくりぬかれた殺人事件と、古くからあって今は廃墟となっている洋館と、シュチュエーション自体が気持ち悪さ全開の短編ですが、この著者には珍しく?ちょっとエロティックなシーンもも登場します。
★★☆
◇著者別読書感想(綾辻行人)
【関連リンク】
8月前半の読書 ドグラ・マグラ、11 eleven、「子供を殺してください」という親たち
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ドグラ・マグラ (角川文庫)(上)(下) 夢野久作
1935年(昭和10年)刊のミステリアスな小説で、著者はこの作品を書いた1年後に多くの謎を残したまま死去しています。
最初にこの作品を書き出したのが作家デビューした1926年ということですので、その後10年間にわたって、この作品を煮詰めてきた著者のライフワークと言ってよい作品です。
また1988年には無謀にも映画化されています。監督は「薔薇の葬列」などの作品がある松本俊夫、出演者は桂枝雀(2代目)、室田日出男、松田洋治など。
古い小説なので、著作権も切れていて、複数の出版社から出ていますが、有名なのは米倉斉加年氏のお洒落であるものの、エロチックなイラストを使った角川文庫版。買うとき、若い女性の店員さんに差し出すのにはちょっと抵抗がありますね(笑)。
私という精神病院に収監中の若い男性が主人公で語るという形式です。この主人公と、自殺した?精神科医が残したという過去の殺人事件の調査報告書の加害者が、同じかどうなのか?ってところが一つの主題でもあり、どうしてそのような猟奇的殺人事件が起きたのか、精神異常の本質とはなにかなど、とても戦前に書かれたとは思えない圧倒的な知識や技術で展開されていきます。
とは言うものの、日本三大奇書とも言われるほどのミステリー小説ですから、私のような凡人の頭ではなかなかうまく整理できず理解がうまくできません。
胎内で胎児が育つ10か月のうちに閲する数十億年の万有進化の大悪夢の内にあるという壮大な論文「胎児の夢」(wikipedia)とか、「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する「脳髄論」(同)などの話しは理解するどころか読み進めるのさえ苦労します。
少なくとも精神的に混乱しているときや、仕事に行き詰まって頭を抱えているときには読まない方が良さそうです。
そして、「それは嘘だったんだ」とか「あれは君のためを思ってあえてそうしたんだ」というような、読者が必死になって考えたことをいとも簡単にひっくり返すような展開もあって、いったいなにが真実なのかというのが、主人公と読者に投げかけられてきます。
ま、面白かったか?と聞かれたら、まずまずってことで、熱心にジックリ読んでいたら、読むのにやたらと時間がかかってしまいました。
タイトルの「ドグラ・マグラ」は、作中に精神異常をきたして母親と許嫁を殺したとされる主人公?が書いたとされる小説のタイトルに付けられていたもので、「戸惑う、面食らう」の方言がなまったものという話もありますが、詳しくは不明です。
とにかく、サクッと一気に読めるっていう携帯小説のような軽いものではないことだけは確かです。
★★☆
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11 eleven (河出文庫) 津原泰水
著者は幻想、怪奇、ホラー系ジャンルの小説を得意とされる方ですが、この作品は11編の短編小説をまとめ2011年に単行本、2014年に文庫化されました。この著者の作品を読むのはこれが初めてです。
短編それぞれのタイトルは、「五色の舟」「延長コード」「追ってくる少年」「微笑面・改」「琥珀みがき」「キリノ」「手」「クラーケン」「YYとその身幹」「テルミン嬢」「土の枕」です。
う~ん、、、どの短編も最近の流行なのでしょうか、起承転結など関係なし、いつ始まっていつ終わったのか定かでないような悪く言えばダラダラと流れる物語ばかりで、昭和生まれのオッサンにとっては怪奇小説ではないのに、どうにも消化不良を起こして気色悪い感じ。
でもこういうのが最近の若い人にはうけるのでしょうね。なんとも言えません。
同時に並行して読んでいた「ドグラ・マグラ」も不思議な小説で、精神異常、怪奇小説とも言えますが、双方ともに私には理解と想像を遙かに超えるもので、時々読むのならともかく、一度に読んじゃうと言う今回の書籍選択は、ちょっと誤った感があります。
★☆☆
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「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫) 押川剛
著者は精神障害者移送サービスを営み、精神に異常を来した人と直接に接してきた方で、このノンフィクションは、2015年に文庫が刊行されています。
まずタイトルに驚かされますが、当初はどうせ引きの良い派手なタイトルだろうぐらいに思っていましたが、あに図らんや、どうしてどうして、精神的におかしくなった人とその家族の葛藤が、現場からの緊迫感、臨場感、悲壮感が漂うドキュメンタリーとして展開され、読みながらその話しに息をのんでしまいます。
以前、中高年引きこもりの話しを調べてここで書いたことがありますが、そちらもある意味では病気でもあり、隠れた社会の暗部の一面に違いありませんが、こちらはより暴力的で、警察や精神病院が都度登場してくるような派手な展開で、実際にこうした世界がこの日本の中で起きているのだということを思い知らされます。
また、過去に読んだ山本譲司氏のノンフィクション「累犯障害者」でも衝撃を受けましたが、それと同様に多くの人は見ても見なかったことに、聞かなかったことにしたいと思うような出口がない話しが次々と出てきて、タイトルも決して大げさではないってことがよくわかります。
中高年の引きこもりでも感じましたが、ここに登場してくる精神に異常を来した人達は、その親子関係、家族関係に大きな問題があったことが明らかです。
「病院はどこも長期で預かってくれない」「本人はすぐに退院を求める」「家族以外に養える人はいない」ということで、結局一緒に暮らすと「暴力がエスカレートして自分たちは殺されるかもしれない」「そうなる前に子供を殺して欲しい」となるわけです。
もちろん同じ家族の兄弟でも、片方が異常を来し、片方はなにもないことが多く、異常を来した人自身に多くの問題があることは確実でしょうけど、子供へのしつけや甘やかしでは、これが正解ということはなく、難しい問題であることがよくわかります。
それにしても、この著書の中でも繰り返して書かれていますが、親が子育てを一歩間違うと取り返しが付かなくなるってことですね。
★★☆
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