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象の墓場 (光文社文庫) 楡 周平

2013年に単行本、2016年に文庫化された現実に起きたデジタル革命によって象に見立てた巨大外資系企業の没落を描いた経済長編小説です。

1990年頃まではアメリカの超優良企業だったイーストマン・コダック社は、世界の写真フィルムや現像液、印画紙などで圧倒的な世界シェアを持ち、1ドルの売上で80セントの利益が得られたという高収益企業で、長く我が世の春を謳歌していました。

しかし1990年代に入り、写真の世界にデジタルの波がヒタヒタと忍び寄ってきて、従来の安定したビジネスモデルが壊されていくことになります。

当時、世界の写真フィルムメーカーは、圧倒的に強いコダックと、新参者の富士写真フイルム(現、富士フイルム)、ドイツのアグフア・ゲバルト社、小西六写真工業(現、コニカミノルタ)などがありましたが、日本以外の国ではコダック社が圧倒的なシェアを持つ巨象に例えられていました。

その巨象コダックがデジタルカメラ時代に乗り遅れ、経営判断の誤りもあって、2012年には上場廃止、2013年には倒産危機を迎えることになります。

デジタルカメラ時代に乗り遅れたと書きましたが、実は世界で最初にデジタルカメラを完成させたのはコダック社です。

しかしチェーン化していたフィルム現像所などパートナーとの関係から、フィルムも現像も不要なデジカメを普及させるのに抵抗があり、モタモタしているあいだに日本の家電メーカーやカメラメーカーからデジカメが次々と登場し、一気にフィルム市場を奪われていくことになります。

この小説では外資系企業日本法人の会社員が主人公で、まさかこの巨大企業が傾いていくなど夢にも思わず、その激しい逆流の中で必死に戦っていく姿を描いています。

コダックの社員というので思い出したのは、親しい知人がバブルの頃、投資用でファミリー向けのマンションを5千万円で購入し、まだ入居者が決まっていない時に、良かったら賃貸として借りないかと言われて一緒に物件を見に行ったことがあります。

しかしまだ結婚してまもなくの頃で、ファミリー向けの広いマンションを借りるには、家賃を大幅にまけてもらっても当時の収入ではとても厳しく、すぐに断りました。

その後、当時は優良企業だったコダックの社員に貸し出せたので安心だと聞いて、喜んでいたのもつかの間、その後1年も経たないうちにコダックの様子がおかしくなりました。

おそらく突然リストラをされたのか、その借主は何ヶ月分かの家賃を踏み倒したまま夜逃げ同然で行方不明となり、残された部屋には大物の家具等は持ち出され、粗大ゴミだけがそのまま散乱していたという悲惨な状態だったとか。コダックの社員にとってはそれほど寝耳に水の急な業績悪化とリストラだったのでしょうね。

なかなか読み応えのある、外資系ビジネスマンには身につまされるような話しも多く、面白く読めました。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ナイト&シャドウ (講談社文庫)  柳 広司

2014年単行本、2015年に文庫化された長編小説で、主人公は日本人の警察官ながら、舞台はワシントンD.C.という珍しいパターンです。

著者の出世作で代表作となった「ジョーカー・ゲーム」(2008年)のシリーズは、昭和初期の帝国陸軍のスパイ養成機関が舞台で、そこでは徹底した記憶力と卓越した推理と創造力を鍛えられます。

そうした特殊なスパイと能力的に共通するのがアメリカ財務省管轄の要人警護組織であるシークレット・サービスで、科学的な捜査とともに、身を犠牲にして要人を守り抜く強靱な身体と、犯行を未然に防ぐための予知能力、そして非常事態発生時の対応などが求められます。

そのシークレット・サービスへ警視庁から厄介払いとして研修に出されてD.C.へやってきたのが主人公で、現役のシークレット・サービスとともに、大統領を狙うテロ犯グループと知恵比べをするというストーリーです。

ちょっと主人公にできすぎた感はあるものの、最後のどんでん返しも見事で、単なるハッピーエンドで終わらないところが秀逸と言って良いでしょう。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

美しい家 (講談社文庫) 新野剛志

八月のマルクス」(1999年)、「あぽやん」(2008年)など、毛色の違う多くのヒット作を持っている著者の2013年刊(文庫版は2017年)の長編社会ミステリー小説です。

主人公は二人で、その二人の視点で物語が同時並行して進められていきます。

一人目は最近は新作が書けないでいる小説家で、子供の頃に姉が何者かに拉致されて行方不明となってしまった過去を引きずっている男性と、もう一人は刑務所から出たばかりの暗い過去を持つ若い男性です。

と思っていたら、終盤近くでそのうちの一人、作家がもう一人の主人公男性にあっけなく殺されてしまいます。ネタバレ失礼。

行く当てのない家族を引き受けて、集団で生活をするというのは古くは1980年頃に起きた「イエスの方舟事件」や、2012年には「尼崎事件」というのもありましたが、そうしたところで育てられた子供達が、成長して大きくなってからも過去を引きずっていく様子がよく描かれています。

タイトルは転々と住まいを変える集団生活において、そこで生まれ育った子供達が、幼いときのイメージの中に生じさせる理想的な住まいを揶揄したものと思われます。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

お別れの音 (文春文庫) 青山七恵

著者は2007年に「ひとり日和」で芥川賞受賞、2009年には短編「かけら」で川端康成文学賞を受賞した若手作家のホープのひとりで、2010年(文庫は2013年)刊の短編小説です。この作家さんの小説を読むのは今回が初めてです。

短編は、「新しいビルディング」「お上手」「ニカウさんの近況」「うちの娘」「役立たず」「ファビアンの家の思い出」の6編で、それぞれ「別れ」がテーマとなっていますが、関連はなく独立した話しです。

割とそれぞれが平坦な日常の光景を淡々と描いたもので、特にインパクトを感じる隙間もないのですが、その6編の中でかろうじて印象に残った作品はというと、街中でよく見かける靴の修理やキーの複製などをしてくれるワンオペのお店の男性に興味を持ってしまう女性を描いた「お上手」と、大学を卒業前の最後の夏休みに、英国へ留学している友人に誘われてスイスへ旅行する学生の一夏の体験とその後を描いた「ファビアンの家の思い出」ぐらいでしょうか。

小説というと非日常のあり得そうもない凶悪な事件や死に至る病気など、刺激的な話しが多い中、こうした薄味で淡々とした別に誰かが死ぬわけでもなく、家族が引き裂かれるわけでもなく、悪意がみなぎるわけでもない平凡な人の平凡な日常が逆に新鮮に思える時代になってきたのかも知れません。

そう、起承転結なんかくそ食らえ!って感じで、いつ終わったのかもわからないような。

私の年代(弱肉強食が普通に通用した年代)だと、どうにもまどろっこしく感じたり、物足りなく感じるでしょうけど、若い人、特に女性や草食系と言われる男子には、心穏やかに共感が得られそうな気がします。

ただ短編作品に関しては私の評価は厳しくて★1つです。

★☆☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方 (講談社+α新書) 坂上忍


主としてテレビバラエティ番組のMCで活躍している著者の2014年刊のエッセイ本です。芸能人がよく出すゴーストが書いた当たり障りのない自慢話かと怖々読んでみたところ、なかなか毒舌を持ち味としたキャラを生かした人生の深い話が聞けます。

実は私自身がテレビのバラエティ番組はまず見ないので、この人のことはほとんど知らず、たまにワイドショーのMCやコメンテターで言いたい放題に話しをしているところをちょっとだけ見て、顔ぐらいは知っているというレベルです。

バラエティ番組のMCをする人はたいてい元アナウンサーとか、しゃべりが商売のコメディアンが多いのですが、この著者は元人気子役で、大人になってからも子役のしがらみを振り払い、俳優を続けているという割と珍しい人です。ってほとんどの人が私よりもよく知っているでしょうからあらためて説明する必要はないでしょう。

この著者の面白いところは、俳優ならば大手芸能事務所に所属して付き人やマネージャーをつけて自分は演技以外の仕事はしないというのが普通でしょうけど、著者は子役時代に個人事務所を設立し、その後も群れずに一人で芸能活動をやっていくことを善としています。

そうした「鶏口となるも牛後となるなかれ」主義は著者の数々の毒舌と称される発言にも影響していて、本人はいたって普通にしゃべったことが、芸能業界の中ではちょっと異例のことだったり、空気を読まないと非難されたりということのようです。

若者に対し「スマホなんかいじってないで、おっぱいをいじろう」みたいなエロオヤジ全開モードのところもありますが、この人も正直すぎて時代の趨勢には乗っかれない人なんだろうなぁと思ってしまいます。

いえ、それが間違っているというのではなく、誰でも年を重ねていくと、そういう上から目線で自己中気味の説教臭くなるってことで、この異端児?も同じ中年なんだなぁって嬉しく思う次第です。

★★☆


【関連リンク】
 9月前半の読書 危険なささやき、会社の品格、男の勘ちがい、安土城の幽霊
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1159
危険なささやき (1983年) (ハヤカワ・ミステリ文庫) J.P.マンシェット

日本語版は1983年に発刊されたフランスの私立探偵小説というちょっと珍しいジャンルの作品です。

フランスの小説ということもあって、この小説を原作としたアラン・ドロンが制作・監督・主演をこなした同名の映画作品が1981年に作られていて、そちらのほうが一般的にはよく知られているかも知れません。

そしてこの小説の翻訳者が、フランスを舞台にした犯罪小説やミステリー小説を多く書き、また2001年に「愛の領分」で直木賞に輝いた藤田宜永氏というのも注目される点です。

小説の舞台になっているのが1970年代後半頃のフランスで、有名なシャンゼリゼや凱旋門など観光地ではなく、パリ郊外などあまり知らない場所で展開していきます。

また当然ですが、時代柄携帯電話やパソコンなど情報機器らしいものはなにもなく、昔ながらの知恵と足で情報を得て、事件に首を突っ込んでいきます。

主人公が行方不明になった女性を探そうとした途端に、殺し屋が現れ、事件から手を引くように脅されたり、依頼人と駅で待ち合わせをしたら目の前で射殺されてしまったり、さらにはガールフレンドが誘拐されてしまうという、よくわからないまま大きな陰謀に巻き込まれていきます。

派手なドンパチや暴力シーン、アクションシーンもふんだんにあり、確かに映画に向きそうなエンタメ的展開です。

書かれた時代が時代だけあって、今読むとなにか懐かしい香りがする上質なミステリー探偵小説でした。古い文庫本だけに文字のサイズが小さく、目の焦点が合いにくくなってきた高齢の身にはちょっとつらいのはやむを得ません。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

会社の品格 (幻冬舎新書) 小笹芳央

著者は元リクで卒業してリンクアンドモチベーションを設立して活躍されている有名な方です。2007年に出版されました。

どうも私は「品格」という言葉に弱く、30数年前に新卒で入社した(営業が主体の)会社の当時の社長がよく言っていた「一流の環境にいれば一流の品格が身につき一流の営業ができる」と、当時はまだ小さい会社ながら、かなり無理をして超一流のビルの中に(小さく)事務所を構えていたことを思い出します。

で、「一流の品格」ってなんぞや?とずっと考え続けてきましたが、実は今でもよくわかっていません。品格って時と立場と環境によりますよね、たぶん。

それ故に、書籍で「品格」と名の付くものは、自然と手が動き、片っ端から買ってきて読んでいるってわけです。

国家の品格」「男の品格」「女性の品格」「女と男の品格。」「日本人の品格」「遊びの品格」「親の品格」などなど。

で、この本は新書にありがちな著者の会社の事業PR本という側面は多々あるものの、経営者が自分では気がつかず、残念な会社となっていく気づきになるかもしれません。

うつけな経営者が「なるほど!そうか!」と手を打つかどうかはわかりませんが、著者の経営する会社に相談してみよう!と考えるかも知れません。

企業経営者が書いた新書を読むと必ずと言って良いほどそうした自社PR本となっていて、印刷部数のうち書店で販売された数よりも会社が買い取って客や見込み客に配った数のほうが多いのではないか?って思うこともありますが、物書きができる中小企業経営者にとってはそれが最善の策とも言えそうです。

この本は、そうした自社PRももちろん詰め込まれていますが、ははーんなるほどねという納得感もあり、特に目新しさはありませんが、暇つぶしの自己啓発には悪くありません。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

男の勘ちがい (文春文庫) 南美希子

amazonが日本に法人を設立したのが1998年ですから、この本が出版された1992年にはまだ本の通販は一般的ではなかったということになります。

だから何なのだ?と言われても困りますが、1991年に設立されて急拡大中のブックオフで見つけたこの本の中身はかなり赤茶けていて、いかにも古書という感じがします。1992年と言えばわずか25年前なんですけどね。

著者は元テレ朝のアナウンサーで、この本を執筆したときは33歳とありましたから、今では還暦を超え、立派な高齢者の仲間入りをされています。今でもバラエティ番組などに時々出演されているようです。

この本が書かれた頃の世の中はまだバブルに踊っているさなかで、「車載電話付きの高級外車」や「地上げオヤジとその愛人」とか、「カルティエのリング」「アラミスを付けた男」とか懐かしいことばが満載です。今真面目に書かれているそういう時代表現を読むとなんだか皮肉を綴った漫画です。

しかし著者とはひとつ違いの同年代で、そうした時代をともに見てきただけに、笑えるに笑えません。

ちょっと今読むと時代があまりにも違いすぎて、男女とも役には立ちそうもありませんが、バブル時代の饗宴をちょっと懐かしむにはちょうど良いかもしれません。

★☆☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

安土城の幽霊 「信長の棺」異聞録 (文春文庫) 加藤廣

信長の棺」(2005年)のスピンアウトもので2011年発刊(文庫は2013年)の短編集です。

「藤吉郎放浪記」「安土城の幽霊」「つくもなす物語」の三編からなるこの「小説は、タイトルにもある通り、「信長の棺」の戦国時代末期のそれぞれ独立した物語です。

しがない商人から時代の寵児へと駆け上がっていく秀吉=藤吉郎の身分や山の民として生まれた出自を必死に隠し、己の才能だけを頼りに信長に近づき、腹心として当時の家督制度、武家社会に真っ向立ち向かっていく姿を描いた「藤吉郎放浪記」。

信長の理不尽な命令に振り回されて悔しがる愚図で小心者の家康が、腹心の部下服部半蔵を使って信長に偽の幽霊を見せて一泡吹かせようとするものの、安土城には信長に取り憑いた本物の幽霊が先にいて、取り憑かれた幽霊を祓うために頼ったのが阿弥陀寺の住職、清玉上人だったという話しの「安土城の幽霊」。

室町時代に宋から日本へ渡り、足利義満に献上されたとされ、現在も静嘉堂文庫美術館に所蔵されている「九十九茄子〈つくもなす〉」という見事な茶器が、足利義満(金閣寺建立)→足利義政(銀閣寺建立)→山名是豊(応仁の乱)→伊佐宋雲→朝倉教景→松永久秀→足利義昭→織田信長→豊臣秀吉→有馬則頼→徳川家康→藤重藤元→岩崎弥之助(三菱グループ創設者)と数奇な運命をたどっていく話しの「つくもなす物語」。

いずれも戦国時代ファンにとってはフィクションとした「異聞」ではあるものの、なかなか面白い内容となっていて、エンタメとして楽しめます。

★★☆

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1155
白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫) 湊かなえ

2012年単行本、2014年に文庫化された長編ミステリー小説で、2014年には「白ゆき姫殺人事件 容疑者【城野美姫】は、魔女か? 天使か?」というキャッチコピーで、井上真央、綾野剛の主演で映画化もされています。

なかなか凝ったミステリーで、長野県で起きた女性殺人事件について、主人公のひとりの気の弱そうなフリーライターが、犯人捜しのため、ネットを使ったり、関係者と会って順々に調べていくという形を取っています。

もうひとりの主人公は、その殺人事件で、一番の容疑者と見られた女性で、殺された美人会社員と同期入社で、なぜか事件後に行方不明となっています。

それにしても捜査をしているはずの警察の動きや情報はまったく出てこなく、雑誌のフリーライターが聞き回る情報だけで殺人事件の話しが進行していくというのは、ちょっと不思議な感覚です。

そうした不可解な点も含め、最後のクライマックスに向けて盛り上がったところで、あっさりと警察が真犯人が逮捕し、その模様がテレビから流れてくると言うのが意外と言えば意外なところです。

これはなかなか真犯人はわかりません。いや~女ってやっぱり怖い、、、

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く 藻谷浩介 NHK広島取材班

2010年に出版されて大ベストセラーになった「デフレの正体」の筆者とNHK広島取材班がタッグを組んだ作品です。

里山と言えば、少し前ならTOKIOのダッシュ村をふと思い出したりしますが、あのような山間に囲まれた地で農業を中心に半自給自足をおくっている昔ながらの風景です。

アメリカを中心とする「マネー資本主義」に対応した「里山資本主義」という造語を新たに作り、今後経済が縮小していく日本において、ある一定の人口を支える基礎的な生活パターンとして、里山で暮らすという選択肢を提案しています。

また疲弊した地方において、なぜそうなったのかという根本原因を明かし、これからの地方のあるべき姿も示しています。

長らく都市に住み続けていると、どうしても地方、その中のさらに人口減少地域のことについては、単に税金の無駄遣いというような理解しかできませんでしたが、実際にその中で知恵を絞り、仲間と共同社会を築いている人達もいるということに励まされます。

同書では「目のうろこが落ちた」という表現が何度も出てきますが、よほど分厚いうろこが覆っているのは都市住人に共通しているのかも知れません。

例えば、同志社大学教授の浜矩子教授の言葉として出てきていますが、「シェア」という言葉が今までは独占という「市場占有率」という意味で使われてきたものが、最近では「分かち合い」という意味で使われるという180度変わってしまう言葉すらあるということにはハッとさせられました。

そうした、地方に実際住んでみないとわからないことってあるものです。

都市住人がすべて地方に移住できるはずもありませんが、ある一定の老若男女が今後地方へU・Iターンすることで、成熟期におけるバランスがとれた都市部と地方の社会がうまく機能していくのかも知れないなとこの本を読んで気がつきました。

★★★

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

デセプション・ポイント (上)(下) (角川文庫)(上)(下) ダン・ブラウン

トム・ハンクス主演で映画化もされた2003年刊の「ダ・ヴィンチ・コード」で一躍大ベストセラー作家に上り詰めた著者の、その「ダ・ヴィンチ・コード」の2年前、2001年の作品です。

タイトルは直訳すると「欺瞞箇所」となりますが、アメリカ国家や巨大組織がもし徹底した欺瞞工作を国民や世界に向けておこなえば、どういうことが可能か、そしてどういうことになるかという実験的な小説です。

アポロ計画以来特に大きな成果を生んでいないNASA(アメリカ航空宇宙局)とそれをサポートし続けてきたアメリカ大統領の側近は、強い危機感から大きな博打をうつことを計画し、実行に移ります。

そしてNASAの活躍が認められれば、NASAの巨額の税金垂れ流し問題を糾弾し、民間での宇宙産業振興を進めたい現大統領の対立候補を打ちのめすことが可能になります。

それには多くの秘密と工作が必要となり、NSA(国家安全保障局)、NRO(国家偵察局)、そして民間の学者を含め、複雑に政治と軍とインテリジェンスと学術、それにマスメディアが絡み合ってきます。

古生物学や宇宙物理学などテクニカル面や、北極近くの気象情報など、読んでいても何のことかさっぱりわからないという部分も多々ありますが、それはさておき、昔、月面着陸陰謀説というのがあり、アポロ計画で実際には月面着陸はなく、映画セットを使って月面からの中継をしていたというようなスケールのでかい国家を揺るがす欺瞞と陰謀が今回のネタです。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

漂流者たち 私立探偵・神山健介 (祥伝社文庫) 柴田哲孝

渇いた夏」(2008年)、「早春の化石」(2010年)、「冬蛾」(2011年)、「秋霧の街」(2012年)と春夏秋冬の4部作として終わったと思っていた私立探偵 神山健介シリーズで、2013年に発刊された番外?編です。

福島県白河市に住む私立探偵の主人公は3.11の東北地震に遭います。

そして同時に以前勤務していた弁護士事務所から、行方不明になった人を捜しをして欲しいと依頼がきます。

その行方不明となった人物は元弁護士で、現在は議員秘書ですが、東京で同じ議員秘書を殺害し、事務所にあった表には出せない6千万円を持ち逃げし、地震のあとの津波で流されたクルマが福島のいわきで発見されたとのこと。

しかし地震直後のこともあり、道は方々で寸断され、福島原発事故もあり通行止めに遭い、被災地ではガソリンは欠乏し、泊まるところも食べるものもない極限状態で、愛犬カイとともに男の影を追って被災地に入っていきます。

ちなみに、主人公が震災直後にたどる道は、私も震災発生から2年後の4年前にたどった道とかなりダブります。

ただ私が行ったときは震災後2年が経過し、主要な道路や橋はかなり復旧が進んでいましたが、少し脇道に入ると、まだあちこちに津波で流されてきた漁船やボート、壊れたクルマなどがそのまま放置されていて、その時の被害がありありと浮かんできます。

678 東北巡り 2013/1/16(水)

元々はこのシリーズは4作で終わるつもりだったのが、主人公が住む福島で大きな災害(地震、津波、原発事故)が起き、それを実際に目の当たりにした著者自身が、それをテーマにして番外編の作品として一気に書き上げたものと思われます(想像です)。

作品を通して、反原発、放射能への恐怖、政府への不信が客観的に語られていて、書かずにはおかれなかったという著者の信念が感じられる作品です。

★★★


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1151
転落の街(講談社文庫)(上)(下) マイクル・コナリー

2011年発刊で、翻訳版は2016年刊のハリーボッシュシリーズの第15作品目で最新作です。

日本で最新作と言っても、すでにアメリカでは、まだ翻訳版が出ていないシリーズの5作品が出ていますので、この順次出てくると思われますので楽しみです。

未解決凶悪事件の担当をしているハードボイルドなハリー・ボッシュ刑事もそろそろ定年を迎える時期が近づいてきていて、ロス市警本部で定年延長の話しが持ち上がってきています。何十年といつまでも壮年だったパーカーのスペンサーシリーズとはその点は違いますね。

内容は、未解決凶悪事件と、同時に有力な市会議員に指名された事件の捜査を、中国系の若いパートナー刑事と並行して進めることになります。

元ロス市警副本部長で若きボッシュとは深い因縁のある間柄だった有力市会議員の息子が、ホテルから転落して死亡します。

それは果たして自殺なのか事故なのか、それとも殺人なのかということでボッシュと相棒は捜査を進めていくわけですが、その間にも最近の科学捜査であらたに判明してきた未解決事件にも首を突っ込んでいきます。

このボッシュシリーズではよくありますが、全く関係がない二つの事件を同時に進めていくことで、読者を飽きさせず、また一粒で二度美味しいじゃないですが、その二つの事件が時をほぼ同じくして解決していくというちょっとご都合主義的なところがあります。

今回も、タイトルにもあるとおりホテルからの転落死の謎と、それとまったく関係がない未解決事件の不可解なDNA検査結果を周囲の人を巻き込みながら並行して捜査を進め、同時に解決していきます。

大衆エンタメに走り過ぎたきらいのある前作「ナイン・ドラゴンズ」はいまいち評判が悪そうですが、今回はそうしたベテランの域に達した老練で冷静なボッシュ刑事の活躍が見られます。

★★☆

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ) 関根眞一

2007年出版の新書で著者はデパートでお客様相談室を長くやってきたクレーム対処のプロの方です。

具体的なクレーム対処法というのも少しは出てきますが、メインは心構え的な話しが中心で、それをマスターしておけば、たいていのクレームにも動揺することがなく、また顧客を逃すことなく収束させられるという精神論的な話しです。

クレーム処理は様々な場面で出くわすことがありますが、そうした時の対処法を知っているのと知らないのとでは円満解決できたり、逆に一歩間違うと訴訟沙汰に発展することなどよくあることです。

また最近増えてきているのが「モンスター●●」と言った、クレームのためのクレームを趣味か商売にしているような頭の悪い人が増えてきている問題対処法なども一読する価値はあります。

個人的にも今は引っ越していっていませんが、隣人と些細なことでトラブルになったことがあり、本当に不快な日々をおくった経験があります。

これも最初の対処を誤ったせいで、相手がつけいる隙を与えてしまったわけで、どうしてもそうしたトラブル時にはお互いがカッと感情的になりがちなので、今から思えば反省するとともに、プロのクレーム処理ならどうやってこうした難局を切り抜けるのかな?ということを考えると、案外冷静に客観的に物事が見え、対処ができるようになるかも知れません。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

長女たち 篠田節子

10年以上八王子市役所に勤務していたという異色の作家さんですが、1990年に「絹の変容」で作家デビュー以来着々と作品を生み出し、1997年には「女たちのジハード」で直木賞を受賞して押しも押されぬ売れっ子作家さんになっています。

この作品は、2014年の作品で、「家守娘」「ミッション」「ファーストレディ」の3編からなる中編小説です。

テーマはタイトルにもある通り、老いた親と長女という深い関係性で、長女視点で書かれた介護や仕事、恋愛などとなっています。

男性、しかも中高年が読むと主人公に感情移入はできず、ちょっと理解しがたい思考や行動を客観的にみるしかないのですが、現在進んでいる一人っ子の家庭では、こうした様々な親と長女の関係が社会の中で大きく捉えられるようになっていくのでしょう。

長女に頼りたい親と、他の兄弟のように自由に外へ出て行きたい長女とで、肉親の関係ゆえに重苦しい葛藤が生まれていくというのは想像が容易です。

男からすれば、だからどうした?っていうような些細なことまで気に病み、あれこれ自問自答するなど、想像できないところがわかって自分が老いたときには気をつけようと思ったり。

★★☆

著者別読書感想(篠田節子)

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

殺戮にいたる病 (講談社文庫) 我孫子武丸

以前「弥勒の掌」(2005年)を読んだことがある作家さんの1992年発刊の割と古めの犯罪ミステリー小説です。

 2011年9月後半の読書「弥勒の掌」 (文春文庫)

最初読み始めた時には、25年も前に書かれた小説とは知らなかったのですが、読んでいくうちに、携帯電話も出てこないし今なら犯罪捜査には欠かせない監視カメラの存在もまったくないので、これはバブル時代かそれ以前の話しだなぁって気がつきました。

主人公は被害者の妹と一緒に犯人捜しをする元刑事ということになるのでしょうけど、その他にも、平凡な家庭の主婦と、連続して快楽殺人を犯していく犯人の二人の視点でも描かれています。

凝ったミステリーなので最後のクライマックスを書くわけにはいきませんが、ま、よくあるパターンと言えばそうですし、まったく現実的ではなさそうと言えばそうなる微妙な感じです。

死体損壊や屍姦など、決して気持ちの良い話しではなく、終わり方も異常でちょっと奇をてらいすぎた?って感じです。

でも1992年頃って、片田舎ならともかく、目撃者が多くいる都会の中で連続殺人が行えるほど警察の捜査能力って低かったのでしょうかね?ちょっと時代を感じてしまいました。

★☆☆

著者別読書感想(我孫子武丸)

【関連リンク】
 7月後半の読書 漂えど沈まず、そして奔流へ 新・病葉流れて、本と私、落日燃ゆ、いっぽん桜
 7月前半の読書 思考の整理学、白砂、ちょいな人々、静かな黄昏の国、召集令状
 6月後半の読書 反逆、死にたくはないが、生きたくもない。、黒警、尖閣激突!ドローン・コマンド
 6月前半の読書 本日は、お日柄もよく、巨人たちの星、ぼくらの民主主義なんだぜ、戦艦大和



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著者別読書感想INDEX



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漂えど沈まず 新・病葉流れて (幻冬舎文庫) 白川道

2015年に69歳で急逝した著者の2013年発表の作品(文庫は2014年)で、自伝的な長編小説です。

あらためてこのシリーズを一覧にしておくと、

病葉流れて 1998年
朽ちた花びら―病葉流れて 2 2004年
崩れる日なにおもう―病葉流れて 3 2004年
身を捨ててこそ 新・病葉流れて 2012年
浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて 2013年
漂えど沈まず 新・病葉流れて 2013年
そして奔流へ 新・病葉流れて 2014年

となります。

主人公が一橋大学に入ったところから始まり、そこで麻雀や競輪のギャンブルの指南を受け、さらに女性関係も華やかになり、その後大学を卒業して大阪の三洋電機に入社するも、息苦しい会社員生活にすぐに飽きてしまいたった3ヶ月で退職し、株や商品取引の一攫千金の世界を知って一財産を作ると、その後東京に戻り、広告代理店の東急エージェンシーに入社して、淡々と退屈な業務をこなす一方で高額レートのギャンブルに染まっていくというのが「浮かぶ瀬もあれ」までのストーリーでした。

あと残るところ、この「漂えど沈まず」と次の「そして奔流へ 新・病葉流れて」で亡くなったので、その先の株式相場に手を出してお縄になるところまでは出てこないと思いますが、著者の波乱の人生を垣間見れて面白いです。

このような作者自身をモデルにした一般的には私小説は和洋問わず数多くありますが、何年もかけて長編シリーズに仕上げたものでは、日本では五木寛之氏の「青春の門」が有名です。

その他にも宮本輝氏の「流転の海」シリーズ、花村萬月氏の「百万遍シリーズ」などを好きで読んでいます。

ただ、作者が亡くなると中途半端なままで終わってしまうこともあり、こうした何年(何十年)に渡ってのシリーズにはリスクがつきものですね。

もし段取り上手なw私だったら、一応完結まで書いておいて、信頼できる人や法人(出版社や弁護士事務所)に預けておき、亡くなったらそれを順番に出版して欲しいと遺言しておくでしょう。それが読者に対する最後のお勤めというかお礼という形になります。

さて、この作品ですが、下のシリーズ最終編になる「そして奔流へ」とほぼ一体となった作品ですので、下で書くことにします。

★★☆

著者別読書感想(白川道)

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そして奔流へ 新・病葉流れて (幻冬舎文庫) 白川道

2014年に単行本が発刊され、亡くなった2015年4月の8ヶ月後にこのシリーズ最後となった自伝的小説の文庫版が登場しました。

文庫版の解説には事実上の妻であった新潮社の出版部長である中瀬ゆかり氏が書いています。幻冬舎の本に新潮社の社員が寄稿するという珍しいパターンです。

内容は、上記の「漂えど沈まず」とほぼ同じような、賭け麻雀や競輪、女性関係の話しがダラダラと続きます。昭和時代の肉食系男子なら一度は夢で妄想するような世界です。

要は大阪で大ばくちをうって大金を手にし、知人のつてで広告代理店の東急エージェンシーに入社、女子大生モデルや会社の同僚で大企業のお嬢様とも付き合い、さらに一橋大学の学生時代に知り合った新宿のクラブのママとも関係を続けるというアウトローなギャンブラーとして20代を過ごしていきます。

しかし賭け麻雀で知り合った会社の幹部に頼まれてやった裏金作りがとうとう会社にバレて、その幹部と同様に自ら会社を退職し、いよいよ本命でもある株の世界へ踏み入れ始めたところで終わってしまいます。

その後のことは、デビュー作の「流星たちの宴」(1994年)に出てきますので、そちらを読むことをお勧めです。

★★☆

著者別読書感想(白川道)

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本と私 (岩波新書 新赤版 (別冊8)) 鶴見俊輔編

団塊世代より上の世代にとっては大変よく知られた哲学者であり、評論家であり、政治運動家でもあった鶴見氏が選者で編者となった2003年刊の新書です。

「本と私」というテーマで岩波書店が創業90年の記念事業として一般から公募し、応募があった818作品の中から19作品を編者が選び収録したものです。

もちろん通常の読書感想文というのではなく、本との出会いとその後の人生にどういう影響を与えたのかなど、人生論や哲学的ないたって真面目で、しかし読者にも深く染み渡るような作品が多く、すぐれた短編集を読んでいるような印象を受けます。

若い人の作品もありますが、やはり激動の戦争中からモノが不足した戦後間もない頃の話しが多く選ばれています。

こうした作品を読んでいて気づくのは、過去には本を手に入れるのに大変な苦労をしたり、古本でも高額でなかなか買えなかったり、何度も繰り返して読むことが当たり前だったりしたのだなぁってこと。

今の世の中では、すっかり書籍は邪魔者扱いされ、紙の本を読むというのはなんだかダサいことみたいに思われてしまっています。古本も100円から多くあり、売れるのは出版されたばかりの新刊書が中心と、書籍と書籍を生み出す作家などにとっては極めて不遇の時代です。

ま、デジタル化は資源の節約につながるとか言う人もいますが、そういう人に限って、数年ごとにエコカーと呼ばれるクルマを買い換え、多くの処理ができない危険な廃棄物をいっぱい出していることに気づいていないのでしょう。

★★★

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

落日燃ゆ (新潮文庫) 城山三郎

元内閣総理大臣で、太平洋戦争の責任を問われ、唯一文官としてA級戦犯として処刑された広田弘毅を描いた小説で、今から43年前の1974年に単行本、1986年に文庫版が出版されました。

過去2回(1976年と2009年)テレビドラマ化されていて、私も1976年版(主演:滝沢修)を見た記憶があります。

いずれにしても悲しいお話で、戦争をなんとか回避しようと外交努力で動き回った文民の政治家が、軍部の暴走を止められず、その余波をまともに受け、しかも終戦後には我が身かわいさで必死に罪を他人になすりつけようとする軍人や政治家が多い中、一切の弁明はせず、天皇を守り日本を守れるなら誰かが責任を取らなければならず、それは自分だという思いで淡々とA級戦犯として処刑されるに至ります。

彼がどういう思いで外交官となって世界に出て行き、誰とどのような外交交渉をして、やがて政治家になったあとは軍部のやり方に異議を唱え、何度も衝突し、血気盛んな若手将校ににらまれ、いつ暗殺されてもおかしくない状況にもなりながら、結局は欧米との戦争に入ってしまう道を作ってしまったかという歴史が著者によって熱く語られていきます。

もっとも官僚や政治家が、小説に書かれるほどに清廉潔白で、罪や野心がひとつもないなんてことは考えられませんので、話半分だとしても、日本の重い歴史の一端を不幸にも担った人であることは確かでしょう。

これを読むと、増長していく軍部が、政治を手中に収め、国民世論をも味方に付けて、神の国が負けるはずがないという根拠のない根拠で戦争の道へと進んでいったあの時代がよくわかります。

そうした右傾傾向と感情的な扇動政策は、決して70数年前だけのことではなく、現代でも十分に起こりえることで、今に生きる国民は、果たしてその時の反省と理解をいつまで保持できるかなということを考えさせられる小説でした。

★★★

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

いっぽん桜 (新潮文庫) 山本一力

2003年に単行本、2005年に文庫化された江戸の庶民を描いた、「いっぽん桜」「萩ゆれて」「そこに、すいかずら」「芒種のあさがお」の4編の時代小説です。

著者の作品では、直木賞に輝いた「あかね空」や同じく江戸の庶民を描いた「だいこん」、難破して漂流中にアメリカ船に救助された中浜万次郎を描いた「ジョン・マン」などの時代ものの長編小説や、自伝的な要素を盛り込ませた現代小説の「ワシントンハイツの旋風」など数多くの作品がありますが、出色な短編作品も多くあります。

この作品でも、江戸の市井の庶民達が生き生きと暮らす日々を描いていて、まるでその様子が目に浮かんでくるようです。

タイトルにもなった「いっぽん桜」は、苦労し長く勤めて大番頭まで上り詰めた主人公ですが、後進の若い人にそれを譲らなければならなくなった時、気持ちが萎えてしまい、請われて別の仕事に就くものの、大きな仕事をやってきた自分がなかなか捨てられず、前と同じやり方を強引に推し進め、周囲から鼻つまみ者にされてしまいます。

しかしある出来事から自分が間違っていたことに気がつき、サバサバとした気分になるという現代の定年退職、再就職組に向けた応援歌たる物語です。

4編ともそれぞれ季節に応じた花が脇役ですがポイントとなっていて、美しい短編と言えるでしょう。

著者別読書感想(山本一力)


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