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人斬り以蔵 (新潮文庫) 司馬遼太郎

1964年頃に書かれた短編小説を、その後1969年に8作品をまとめて文庫化した短編時代小説集です。実在する人物と、しない人物が混ざり合わさっていて、どこまでが実際に起きた事象や行動か、あるいはまったくの創造の産物かなどわかりにくいです。

「鬼謀の人」は幕末の写真に残っている異様な顔(巨大なおでこ)をした有名な兵学者大村益次郎と、明治維新の立役者桂小五郎(木戸孝允)との関わり合いが面白い内容でした。

表題になっている「人斬り以蔵」は、土佐藩郷氏出身で剣の達人岡田以蔵と、同じ土佐藩出身の武市半平太が過激な尊皇攘夷を目指す土佐勤王党で一緒になり、以蔵は自分を取り上げてくれた武市のためとして攘夷に邪魔な相手を斬りまくりますが、出身が足軽という家系で軽く見られることに反発し、そしてなんにでも首を突っ込みたい性格を周囲にやがては疎まれ、別々の道へ進む姿を描いています。

「割って、城を」は戦国時代から安土桃山時代にかけての武将鎌田善十(鎌田刑部左衛門)と古田織部正重然が、それまでの戦国時代の武士が、命を賭けて戦うという姿から、お茶をたしなみ芸術を愛でるという姿へ変化していく様が書かれています。

「おお、大砲」は、徳川家康が大坂城を攻略した後に、不要となった大筒(大砲)をもらい受け、大切に何代にもわたり幕末まで保管してきた奈良の弱小藩を描いた作品。

「言い触らし団右衛門」は、戦国時代から江戸時代初期にかけての武将塙団右衛門が、自分の名前を世の中に売り込むため、様々な方法を使うことが、現在の売名行為に炎上商法を使うこととダブっていて面白いところ。

「大夫殿坂」は岡山の津山藩から、商業の街、大坂の出先機関、大坂蔵屋敷へやってきた井沢斧八郎が、その大坂で兄が新撰組の隊士に殺されたことを突き止め、その復讐をする物語です。

最後の決闘シーンは、たった2行ですけど映画「用心棒」のクライマックスシーンを彷彿とさせます。

「美濃浪人」は美濃で養子に入った先の義父が医者だったことから、緒方洪庵に学び、医者として活躍する所郁太郎と、長州藩の武士で後に政治家になった井上馨が刺客に襲われ時に命を救った話し。

「売ろう物語」は安土桃山時代から江戸時代初期の武将後藤又兵衛の物語を抽出したものです。

又兵衛は名高い武将ということもあり、黒田官兵衛→仙石秀久→黒田官兵衛→黒田長政→池田忠継→豊臣秀頼と請われるままに主君を変えてきたことでも有名です。一説には報酬に不満があったとか。

上の「言い触らし団右衛門」にもありましたが、世継ぎではない、貧しい中からのし上がってきた武将は手柄を立てて名を馳せ、それに見合う石高を得るというのが理想だったのでしょう。

でも最後は、負けるのを覚悟して大坂城へ入り、大坂夏の陣で討ち死にします。

こうした主人公にはならない脇役の人達を取り上げた小説というのも、なかなか面白みがあって良いものです。

★★☆

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晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル) 緑川聖司

現在では怪談や霊感など多くの推理小説を手掛ける著者の長編デビュー作品が、この2003年にマイナー出版社から単行本(2013年文庫化)として出版された児童文学作品という異例の作家さんです。

著者としては児童文学に重きを置いているわけではなく、本来書きたいのは、世の中の不思議などをテーマとした推理ものなのでしょう。しかし児童文学作家として名声を浴び、戸惑いもあるのかも知れません。

それはさておき、60過ぎたオッサンが、児童文学?という気もしますが、なかなかどうして、面白く読ませていただきました。

この小説は、「わたしの本」「長い旅」「ゆれた本のなぞ」「消えた本のなぞ」「エピローグはプロローグ」の短編連作の5作品からなっています。

時には甘ったるいファンタジー小説も読みますが、こうした小学生が主人公のちょっとした疑問や謎解きの話しは肩も凝らないし、あまり考え込むこともなく、サラッと読めて気分転換にちょうど良いです。

★★☆

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パワハラ防止のための アンガーマネジメント入門: 怒り、イライラのコントロールで、職場は変わる! 成果が上がる! 小林浩志

著者は特定社会保険労務士で行政書士など資格を持つ日本アンガーマネジメント協会認定ファシリテーターで、この著書は2014年に発刊されています。

若いときから割と怒りっぽいタイプと言われていましたが(自覚はなし)、50を過ぎてから丸くなってくるのかと思いきや、どうにも怒りがムクムクと湧いてくるシーンが度々あり、自分では怒りっぽくなったなぁと自覚するようになりました。

例えばお店でちょっとした店員さんのミスでも怒りが湧いてくると言うような感じで、このままキレやすいオヤジになるのも困ったことになりそうで、以前、日本アンガーマネジメント協会が主催している入門講座を受講しようと申込みまでしたのですが、別の用事が入りキャンセルしたという過去があります。

とりあえず、本でも読んでおこうかと思って、お約束の協会代表理事安藤俊介氏の本を探していたのですが、なかなか見つけられず、先にこちらの本を見つけて購入した次第です。

買ってから気がついたのですが、タイトルの上に「パワハラ防止のための」という副題?が入っていて、これは部下を持つ上司に向けた本であることがわかります。

なので、ちょっと目的とするキレない高齢者というのにはあまりマッチしていませんが、これからはその方が需要がありそうだから、そのうち出てくるかな。

本文で紹介されていますが、キレる原因となる個人の「強いこだわり」「譲れない価値観」の種類には、(1)道徳心(2)利己心(3)自尊心(4)執着心(5)警戒心(6)自立心があり、それらの強さが度を超すと怒りに変わるということです。

例えば最近よくあるあおり運転による暴力は、利己心が度を超し、自分の走行の邪魔をしたというところで怒りが満ちているのでしょう。

また自尊心が高いと、ちょっとした注意をされたことでプライドを傷つけられたと怒りが沸点に達し、満員電車内で喧嘩沙汰がおきたりします。

あとは、自分ではどうしようもない(変えられない)ことに対して怒っても生産的ではなく、健康上もよくないというのはよく理解出来ます。例えば、日本経済の行方について心配したり、もっと身近なところでは隣人の攻撃的な性格を変えることは個人の力ではどうしようもないとか。

そうした論理的な怒りの質や、それらの対処法をなどを学ぶことで、温和な生活に、、、というのが理想ですけど、なかなか思うようにいきません。

でも何かあったときに、それを思い出せるように繰り返して学んでおくことが必要でしょう。

★★☆

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幕末時そば伝 (実業之日本社文庫) 鯨統一郎

2007年に「異譚・千早振る」として出版され、その後2011年に「幕末時そば伝」と改題されて文庫版が出ました。

この著者の作品はいくつか読みましたが、古代史ミステリーの解釈などでは目からうろこで、専門家ウケは悪そうですけど、素人に対してはそれなりに説得力があって楽しく読めます。

2011年8月前半の読書「邪馬台国はどこですか?邪馬台国は岩手の山中に!?
2012年2月前半の読書「九つの殺人メルヘングリム童話の残酷さ!?
2013年3月前半の読書「ニライカナイの語り部作家六波羅一輝シリーズ第2作目!
2013年10月後半の読書「新・世界の七不思議早乙女静香シリーズ!ノアの箱船と桃太郎!?
2015年10月前半の読書「努力しないで作家になる方法著者の作家デビューに至るまでの奮闘記?
2016年4月前半の読書「新・日本の七不思議皆既日食が起きて卑弥呼が死んだ?

守備範囲も相当に広く、日本史だけではなく世界史ミステリーもあり、そうしたネタ探しはどうやっているのか、次はなにが出てくるのかと興味津々です。
今回のは少し前に書かれた作品ですが、有名な古典落語をベースにして、「もし、こうだったら」「あの真実はこうだった」など、コミカル路線で時代の新解釈の内容となっています。

そのためには、元の落語を多少なり知ってないと、面白くないかも知れません。それだけに、興味をひいてこの作品を読むのは古典落語に馴染みのあるかなり年配に限る?という気もします。

出てくる落語は、いずれも有名な古典落語、「粗忽長屋」、「千早振る」、「湯屋番」、「長屋の花見」、「まんじゅう怖い」、「道具屋」、「目黒のさんま」、「時そば」です。

最近は古典落語をテレビで見ることもすっかり減ってしまい、週に1回ある「NHK日本の話芸」の中に時々古典落語が登場するぐらいです。

若い人には、うるさいだけのドタバタコント芸のほうがウケが良いらしく、若い落語家も古典よりも新作落語で動きの激しいコント的な落語をするようになり、静かにしっとりと聞かせる古典落語はもう高齢者にしか需要はなさそうなのが残念です。

★★☆

【関連リンク】
 10月後半の読書 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い、オネスティ、生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント、敦煌
 10月前半の読書 その女アレックス、レオナルドの扉、「やりがいのある仕事」という幻想、ノボさん
 9月後半の読書 赤ひげ診療譚、非属の才能、笑うハーレキン、土の中の子供、あこがれ

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