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家霊 (角川文庫) 岡本かの子

著者は、かの日本を代表するアーティスト岡本太郎氏(1996年逝去)の母親で、そのやんちゃな頃の太郎を柱に縛り付けておいて小説を書いていたという逸話が残っています。

またその生き方もぶっ飛んでいて、放蕩家だった漫画家の夫とは別に、愛人として自分の作品のファンという若い学生を自宅に住まわせるという、実質三人婚という奇妙な関係だったそうな。

時代は太平洋戦争前の昭和初期のことですから、そうした女性の生き方は様々言われたことでしょうけど、そうした突き抜けた精神は、ちゃんと息子の太郎に引き継がれていました。

普段よく通る川崎市内の多摩川沿いには、岡本太郎氏作の「岡本かの子文学碑」が建っていて、著者の名前は知っていたのですが、本を読むのは今回が初めてです。

本作品は短編集で、「老妓抄」「鮨」「家霊」「娘」の4編が収録されています。すでに著作権が切れて青空文庫でも読めますが、今回は2011年に発刊された文庫本で読みました。作品の初出はいずれも1930年代のものです。

軽い話しが多いのですが、当時(昭和初期)の社会がよくわかる興味深いものでした。

別に凄い人が出てくるわけでもなければ、ハッピーエンドでもないですが、庶民が日々の暮らしを淡々と過ごしていく中で、少しの波風が立って、、、という感じでしょうか。

なにか背筋に1本心棒が入っているかのような格調高い文章から、人の考えを類推するなど、学校の教材として使用されたりするのもなんとなく理解できます。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

転生 (角川文庫) 鏑木蓮

2014年に「殺意の産声」というタイトルで単行本が発刊された長編警察小説で、2015年に「転生」と改題されて文庫化されています。

京都(著者の出身地)府警に異動となってやってきた元警視庁の女性準キャリア警部(刑事)が、20年前にレイプ被害者としての過去を持つ40代の女性が、何者かに絞殺された事件に関わります。

なかなか、話しはこみ入っていて(でも登場人物が少なく、ややこしくはありません)、20年前の事件のことや、パラレルで語られる、もうひとり(二人?)の別のストーリーがあり、その平行線が最後で交差していくという、ミステリー小説に多く使われているパターンです。

謎解きというミステリーではなく、人が背負った運命というか宿命というか、そうしたことをひとりの刑事が、ひとつひとつはがしていき、露わにしていくという、読み進めると段々胸が重苦しくなっていく内容です。

ところで、調べても不明なのですが、著者(ペンネーム鏑木蓮)は男性?女性?よくわかりません。

過去には「白砂」「エンドロール」の2作品を読んでいますが、女性を主人公とする小説が多そうで、今回も男性はすべて脇役か悪人というイメージ。しかも女性の心理描写が細かくて丁寧です。

そうしたことから推測すると、女性作家さんという特徴を示しているのですが、ペンネームからすればどちらでも取れそうな名前ですね。

★★☆

著者別読書感想(鏑木蓮)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書) 吉川洋

著者は東大名誉教授の経済学者さんで、この新書は2016年に発刊されたものです。

実はこうしたタイトルから、もう言い古されてきた「少子高齢化により人口減少が続き、日本経済は確実に縮小していく」という話しだと思っていました。

それがまるで違っていて、「過去の歴史からみても人口減少と経済縮小とは関係がない」「先進国の経済成長は、人の数で決まるものではなく、イノベーションによって引き起こされる」という話しがメインで、目からうろこ状態でした。

ここで言うイノベーションというのは、要約すれば、労働生産性を格段に向上さえすれば、GDPは上がるということです。

もっとわかりやすく言えば、人力でツルハシとスコップで道路を作っていたのを、ブルドーザーやショベルカーを使えば労働生産性は間違いなく大きく向上します。そのブルドーザーやショベルカーが(過去に起きた)イノベーションです。

そうしたイノベーションをこれからの日本で起こすことができれば、人口や労働人口が大きく減ってもGDPを上げることは十分に可能だということ。ただそれが一番難しく、世界中のビジネスがそれを狙っているのですけどね。

また、人口減少について、ある引用文が書かれています。

「現在では子供のない者が多く、また総じて人口減少がみられる。そのため都市は荒廃し、土地の生産も減退した。しかも我々の間で長期の戦争や疫病があったということでもないのである。・・人口減少のわけは人間が見栄を張り、貪欲と怠慢に陥った結果、結婚を欲せず、結婚しても生まれた子供を育てようとせず、子供を裕福にして残し、また放縦に育てるために、一般にせいぜいひとりか二人きり育てぬことにあり、この弊害は知らぬ間に増大したのである」

さて、これっていつのどこの国のことと思いますか?

この文章は、紀元前2世紀半ば頃、古代ギリシアの歴史家ポリビオスがギリシアのことを書いた文章なのです。

その古代ギリシアは、紀元前2世紀頃にローマに征服されるまでは、世界の一等国で、軍事、経済、文化、芸能、スポーツなど世界の中心地でした。オリンピックもその時から始まりました。

残念ながら、ギリシアはその後イノベーションを起こすことができず、またローマ帝国に支配され、衰退していきますが、日本は、こうした歴史を繰り返すことになるのか、それとも救世主や優れたリーダーが現れ、産業革命やインターネット以上のイノベーションを起こすことができるのか、考えさせられる本でした。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

カエルの楽園 (新潮文庫) 百田尚樹

2016年に単行本、2017年に文庫本が発刊された小説です。著者は、ジョージ・オーウェル著「一九八四年」をモチーフとした作品のような感じですが、著者の政治的スタンスを強く取り入れた、日本と憲法9条、日米同盟、自衛隊、朝日新聞などを寓話で揶揄した物語となっていて、従来の名著「永遠の0」のような感動小説を期待していては大きく裏切られます。

アマガエルはカエルの中でも小さく弱いので、周囲には様々な敵が多く、ある日、二匹のアマガエルが地域を跳びだし楽園の地を探しに旅に出ます。

そして、様々な辛苦を乗り越え、楽園と思われる地域にたどり着いたのですが、そこは昔激しく戦ったことがある鷲と協定を結び、他の外敵から守ってもらっている住民全部が平和ボケした地域でした。

しかし、鷲は年老いてしまい、「今までのように1羽だけで外敵から守ってやることはできない、もし守って欲しいのなら一緒に外的と戦え」と求めてきます。

その地域では、不戦の誓いがあり、戦うことが禁じられているので、鷲の提案を断り、やがては、近くの池から大きなウシガエルが、天敵の鷲がいなくなった地域へと迫ってきます。

ま、読者がどういう感想を持つかは、それぞれの立ち位置や考え方、思想によって違うでしょうが、少し極端とも思いますが、こうしたところから議論が始まるのも悪くはないかなと思います。

ここで特に強調されていることは、ポピュリズムというか、「不幸なことなど決して起きない」という、根拠のない自信を民衆に植え付けると、それがやがては民衆の中で熱狂となり、冷静な正しい判断など置き忘れ、もう引き返すことが容易でなくなるということ。

過去の歴史を見てもそういうことは何度も起きているだけに、今後そうはならないと言い切れません。

読んでいて、この小説は感動もなければ、決して気持ちよくはなれませんが、平和社会の中においても、心の片隅にこうした悲劇を持っておくことは無意味ではないでしょう。

★★☆

著者別読書感想(百田尚樹)

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ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫) ディーン・R.・クーンツ

1983年に単行本として、1996年に文庫本がそれぞれ邦訳版が出版されています。

いえ、別に私が小説を書いて、「夢の印税生活!」とか無謀なプランを立てているわけではなく、最近読んだ新書で、この書籍が「文章を書くのに役立つ」と評価されており、このブログを含め、文章を書くことが多いので、参考書代わりと思って買ってきました。

まずこの著者が書いた小説は、古くからの付き合いで、最初に出会ったのが、29年前、1991年に「ライトニング」を読んだのが最初です。SFミステリー小説でしたが衝撃的でした。

それ以来、すっかりはまってしまい、1990年代から2000年代にかけて22作品(32冊)を読んできましたが、ここ10年ぐらいは、飽きてきたのと、読む本の著者があまり片寄ってはいけないと思い、ご無沙汰していました。

そうした中で、上記のように突然新書で懐かしい名前が出てきたので、これは読まなくっちゃと古い本ですが探してきたわけです。

なるほど、小説を書いているけど、いまいち売れない、あるいは作品コンテストに応募しても入選できない、出版社へ持ち込んでも相手にされないという作家の卵たちに向けて書かれた指南書という体です。

具体的なテクニックや、テーマの選び方、プロットの作り方など、かなり細かく分けて書かれているのと、参考にすべき小説も紹介されていますので、その筋の真面目で素直な人には役立ちそうです(作家を目指す人に真面目で素直な人がいるかどうかはともかく)。

著者が特に力説しているのは、プロットの大切さと緻密さ、背景描写、登場人物の性格描写などに注意すべきという点や、書き出し部分で一気にワクワクさせる方法とか。

また作家になりたい人は、特定のジャンル小説ではなく一般大衆小説を書くべきと言っていますが、SF小説に特に偏って紹介がされているのが、なにか著者らしいところです。著者は1読者としてはSF小説が好きなんでしょう。

で、小説など書く才能もないし、もちろん書く気もない私にとってこの本は、役に立つか?と聞かれたら、それはほとんど役立ちません。

しかし一読者として様々な小説を読む上で、この著者はおそらくこういう考えでこのシーンを描いているのだろうな~とか、小悦の中で会話と説明のバランスがうまく配分されているな~とか、作家が苦労しながら創造していくバックヤードの一面が見られてそれはそれで良かったかな。

ただ、1983年刊の書籍だけに、ここで紹介されている「参考にすべき小説」は、当然にそれ以前のものばかりで、普遍的な良い作品が多いとは言え、すでに廃刊になっているものも多く、また40年近く前と今では読者の好みも変わっているでしょうから、実質的にどこまで役に立つものかはわかりません。

★★☆

著者別読書感想(ディーン・R・クーンツ)

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