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弁護士の血 (ハヤカワ・ミステリ文庫) スティーヴ・キャヴァナー
北アイルランド出身の著者が、ニューヨークを舞台にした2015年に翻訳文庫版が発刊された法廷ミステリー小説で、原題は「THE DEFENCE」です。まる直訳では「弁護側」という意味でしょうか。
弁護士が主人公の小説というのは、ジョン・グリシャム著の小説「法律事務所」(映画では「ザ・ファーム 法律事務所」)や「評決のとき」など、数々ありますが、私が好きなのは、マイクル・コナリー著の「リンカーン弁護士シリーズ」の主人公ミック・ハラーです。
この小説と同様、弁護士なのに割とハードボイルドっぽい印象ですが、刑事「ハリーボッシュシリーズ」と同じ著者なので、その流れということがあります。
主人公は元保険金詐欺師であり、その後は立ち直って敏腕弁護士として活躍していましたが、ある裁判で加害者の無罪を勝ち取ったことで新たな犯罪を誘発してしまい、それがきっかけでアル中となってしまい、妻子とも別居している状態。
そんな時に、子供が誘拐されたうえ、自分の身体にリモート式爆弾のベルトを巻かれ、ニューヨークで暗躍しているロシアンマフィアのボスの裁判に被告弁護士になるよう強要されます。
裁判で証言に出てくる殺人の実行犯を爆殺するという目的ですが、そこは元詐欺師、口八丁手八丁で、証人を爆殺するよりもっと良い手があると、マフィアの信用を得ていきます。
ま、こうした小説ではハッピーエンドが当たり前ですから、結果は明らかですが、その弁護士の手口やマフィアを相手にして煙に巻くところに読者はきっと歓声をあげたくなるのでしょう。
おそらくこの手の小説は、あわよくば映画化されて一気にメジャーになっていくことも考えられているのでしょう、ニューヨークの裁判所を爆破するなど映像化するにあたっても見所満載に作られているのはご愛敬という感じです。つまらないハリウッド映画の見過ぎでしょう。
この不死身の主人公のシリーズ、その後何作かは続くようですが、今のところ翻訳版はでていないようです。
★★☆
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それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫) 加藤陽子
著者は歴史学者で東京大学教授というエリート学者さんで、この著書は2009年に単行本として、2016年に文庫版が発刊されています。
この著作は、高校生に対し、日清、日露、第一次、第二次世界大戦(太平洋戦争)の4度もの戦争へ突き進んだ日本の国内事情や、中国や欧州を初めとする世界の状勢、思惑などを、資料や日記を元にしてわかりやすく解説した講義録という形式です。
今時の高校生で、日清・日露・第一次世界大戦のことを知っている人はいないだろ?と思いますが、この講義に出てきた高校生達(エリート進学校)は、相当に事前勉強してきたのか、著者の質問に対して的確な回答をしていて驚きです。
私も、中学生や高校生で歴史を学んだ時は、せいぜい明治、大正時代ぐらいまでで、第二次大戦まではたどり着いていませんでした。
その一番近い第二次世界大戦でも、20才以下の若者にとっては、「え?日本とアメリカが血を血で洗う戦争をしたって?うそでしょ~!」ってところでしょう。
こうした歴史の話しは、講義をする人(及び、その先生や家族、友人など周囲の人)の思想や信条が嫌でも反映されるのと、参考にする記録や文献もそうした自分の思想信条に合致したものだけを集めて使うことで、いくらでも偏った内容にすることができます。それゆえいかに公平性を保てるかが教師の腕の見せ所でしょう。
それは現在の新聞やテレビ放送も同じことで、各々が主張したいところだけをつまんで記事にしたり放送することで、読者や視聴者が勝手にそれが真実だと思ってくれます。
なので、こういう歴史講義というのはとても難しく、ある人にとっては「そうなんだ」で済みますが、ある人にとっては「いや、まったく違っている」と思うこともあるわけです。
なので、高校生にこうした生々しい歴史を自分の解釈を元に教えることよりも、「事実だけを並べ、あとは自分の頭で考え、疑問を次々と出す」という訓練がより重要なのかも知れません。
この本を読んでいて、決して嘘は書いていないと思いますが、自分の頭で考えるより先に、先生が「たぶんこうだっただろう」という話しが多く、高校生達に自分の想像を誘導している感じが少しして、まだ頭が柔らかで思想も固まっていない高校生には危険かもなぁってちょっと思いました。
しかし一般的な大人でも知らなかったことが多く「こういうことだったのか」「いやでもそれはちょっと違うぞ」と、自己責任で考えられる人が読めば、たいへんよい刺激剤となりそうです。
★★☆
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雪の断章 (創元推理文庫) 佐々木丸美
著者は北海道出身で、2005年に56歳で亡くなられています。この小説は、1975年に単行本(文庫版は2008年刊)が発刊された著者のデビュー作です。
また監督に相米慎二、主演が斉藤由貴と榎木孝明で、35年前になりますが1985年に公開された映画「雪の断章 -情熱-」の原作となっています。
物語にスピード感はなく、かなり長い小説(文庫版429ページ)で、途中で何度もイライラ感が募りましたが、心の揺れ動きを表しているのでしょうけど、何度も同じようなことで話しが行ったり来たりし、まどろっこしい感じです。
主人公は、両親がわからず物心が付いた頃から孤児院で過ごしていた女の子と、その子が養子に出されたあと、その家の同い年の子と仲違いし、養子先の家を飛び出し、札幌の大通公園を彷徨っていたところで助けられた若い男性です。
孤児や孤児院のことは今までの人生の中では縁がなく、よくわからないのですが、孤児になると、ここまで、誰も信用せず、相談もできす、内向的になり、ひねくれるものなのか?という主人公の設定に無理があるかも。
小説の上で、「孤児だから」というデフォルメした性格付けにしたかったのかも知れませんが、ちょっとやり過ぎな感じです。
もし「孤児ならこういう考え方をするだろう」とか、著者が勝手に考えて書いたのならば、なんでもOKな小説としては良いのかも知れませんが、実際に孤児だった人が読むと、これは共感ではなく失望を覚えるかも知れません。
そうした孤児が子供から大学生へと成長していく過程で、身近なところで大きな事件が起き、やがては育ての親の独身男性に恋心を抱いていくという、ミステリー要素も少し加わった恋愛小説という感じです。
★☆☆
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バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書) 前野ウルド浩太郎
著者は芸能人ではなく、日本の農学者であり昆虫学者の方で、1980年生まれと言うから今年で不惑の40歳、研究者としては若い方です。
実は、表紙(カバー)に載っているバッタのかぶり物をした著者らしい人物から、売れないお笑い芸能人が、ネタとして本を書いたぐらいにしか思ってませんでした。
本書は、2017年に出版され、中央公論・新書大賞などいくつもの賞をとった作品です。
タイトルがユニークで、この書籍はどういうジャンルに分けられるのかと調べたら、Amazonでは「科学・テクノロジー>生物・バイオテクノロジー」というジャンルでした。
このジャンルに多い「人体の進化」や「植物図鑑」などからだと、ベストセラーはあまりないような気がします。出版社もきっと冒険だったでしょうね。
大学4年、大学院2年、博士課程3年を生物学を究めていき、いわゆるポスドクとして、本来なら大学や研究機関等に就職するパターンが多いそうですが、質の高い論文を書いて海外のサイエンス雑誌に掲載されたような人でないと、なかなか希望する先へ就職できないそうです。
著者はその中には含まれず、しかも昆虫、その中でもバッタに恋したばかりに、国内での需要はなく、2年間の研究費を得てアフリカのモータリアへフィールドワークに出掛けることになります。
そうしたアフリカへ行くことになったいきさつや、アフリカでのフィールドワークや生活の話しがメインですが、とても面白く興味がわきます。
私自身は子供の頃は山の麓の田舎住まいでしたから、昆虫とは友達で、バッタやイナゴはいつも身近な存在でした。しかし大人になってからは、もう目にすることもありません。
そうそう、ネットの記事で、バッタのソフトクリームとかいうのを見て「えぐぅー」と思ったぐらいです。
読んでいると、東北の田畑を荒らすトノサマバッタの大量発生を描いた、西村寿行著「蒼茫の大地、滅ぶ」(1978年)と、それを原作としたコミック(田辺節雄作)が出てきました。当時高校生時代、両方とも読んでいて今でも強く印象に残っています。
国内では最近そうしたバッタの被害は起きていないそうですが、アフリカでは大規模な発生が起きているそうで、先進国からの支援でその対策や研究が進められているそうです。
但し、実際にアフリカの厳しい環境のフィールドで、研究する学者は少なく、それに価値を見いだした著者の奮闘が感動モノで笑えもします。
そのようなことを書いていたら、ニュースでバッタ大量発生の記事を発見しました。
パキスタンでバッタ大量発生 過去30年で最悪の作物被害 2020年3月8日(AFPBB News)
パキスタンでバッタが大量発生し、国内の農業地帯では過去30年間近くで最悪の被害が出ている。特に農業の中心地で作物が壊滅的な打撃を受け、食料価格の急騰を招いている。 |
著者はさっそく駆けつけているのでしょうか?
★★★
【関連リンク】
2月後半の読書 華竜の宮(上)(下) 、その時までサヨナラ、定年前後の「やってはいけない」 、悪童日記
2月前半の読書 家霊、転生、人口と日本経済、カエルの楽園、ベストセラー小説の書き方
1月後半の読書 新編 銀河鉄道の夜、この世でいちばん大事な「カネ」の話、蒼猫のいる家、教養としてのテクノロジー
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