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最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
8人の作家が書く8編のアンソロジー風短編集で、2008年に刊行されました。
収録されている短編は、「春太の毎日」三浦しをん、「ヒトリシズカ」谷村志穂、「海辺食堂の姉妹」阿川佐和子、「スケジュール」沢村凜、「LAST LOVE」柴田よしき、「わたしは鏡」松尾由美、「キープ」乃南アサ、「おかえりなさい」角田光代と、お馴染みの売れっ子作家さん大集合です。
ただし、タイトルやその副題に騙されて、大人のしっとりした深い恋愛や、激しく燃え上がる感情や、ベタベタした甘ったるい関係を期待して読むときっと肩すかしに合います。
いずれの作者も、そこは海千山千のテクニシャン?だけあって、最後の恋をテーマにした短編を書くと、一筋縄には終わりません。
ミステリーなものもあれば、ちょっとホラー?的なものもあり、淡々と始まり淡々と終わるものはありませんから、それなりに楽しめました。
その中で個人的に好きだったのは柴田よしき著の「LAST LOVE」かな。阿川佐和子著の「海辺食堂の姉妹」も良かった。
でもこういう短編の競作スタイルにすると、それで飯食っているプロの作家さんは、他の作家さん、特に「誰々さんには絶対負けたくない!(面白いものを書く!)」という思いが前面に押し出てしまい、なんだかえらく肩に力が入りすぎているかな?と感じるような作品もあったりして、人気作家を集めた競作というのは難しいものです。
★★☆
◇著者別読書感想(乃南アサ)
◇著者別読書感想(三浦しをん)
◇著者別読書感想(角田光代)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
よろずのことに気をつけよ (講談社文庫) 川瀬七緒
2011年に江戸川乱歩賞を受賞したこの作品は2011年に単行本、2013年に文庫本として発刊されています。この方の著作を読むのはこれが最初です。
著者はフリーで服飾デザイナーをし、さらに作家活動もして「法医昆虫学捜査官シリーズ」というちょっと毛色の変わった作品などを書いています。
この小説はシリーズ作品ではありませんが、主人公は毛色の変わった文化人類学、その中でも特異な呪術を専門に研究しているという貧乏な独身の学者です。
実は、なにを隠そう、隠していませんが、1988年から連載が始まったコミック「MASTERキートン」に憧れ、フィールドワークをする考古学者っていいなぁーとずっと思っていた考古学者ファンです。
考古学と文化人類学とはだいぶんと違ってそうですが、もし、同コミックを読むのが10年早かったら、そうした武闘派の学者の道を目指していたかもです。
もちろん、そんな簡単にはなれないし、平凡な学者だと収入だってずっと低いというのは知っていますが、なにか夢とロマンがかき立てられます。
少し前に読んだ前野ウルド浩太郎著の「バッタを倒しにアフリカへ」の前野氏と同様、フィールドワーク派の考古学者ってなにか最高です。
それはさておき、この小説のストーリーは、女子大生がこの呪術を専門に研究する学者の家にやってくるところから始まります。
その女子大生は一緒に暮らしていた祖父が何者かに惨殺され、それが呪術と関係しているのではないかと考え、それに詳しい主人公の元を訪ねてきたということです。
学者と、女子大生が、祖父のことをいろいろと調べまわり、祖父が隠していた謎の行動や、奇妙な殺され方に迫っていくというもの。
最後の方は、スリルとサスペンスで、テレビの安物の2時間ドラマのように、犯人がその謎について訥々と語っていくというのはちょっといかがなものかって気もしますけど、それを除いても全体にとても新鮮で面白かったです。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
嘘ばっかり (新潮文庫) ジェフリー・アーチャー
原題は「Tell Tale」、直訳すれば「告げ口」とでも訳せるのでしょうか、お得意のショートショートを含む短編小説集で、2017年に発刊、翻訳版は2018年に刊行されています。
2011年から2016年まで続く7部作の大作「クリフトン年代記」のあとに書かれたのがこの作品となります。
収録されている作品は、「唯一無二」「最後の懺悔」「オーヴェル-シュル-オワーズの風景」「立派な教育を受けた育ちのいい人」「恋と戦は手段を選ばず」「駐車場管理人」「無駄になった一時間」「回心の道」「寝盗られ男」「生涯の休日」「負けたら倍、勝てば帳消し」「上級副支店長」「コイン・トス」「だれが町長を殺したか?」「完全殺人」「次作についてのお知らせ」となっています。
「ケインとアベル」や「クリフトン年代記」のような長編小説も良いですが、ウィットの効いた短編作品も数多く書いていて、どれも好きです。
ところが、今回の短編集はというと、わずか1ページ(英語で100語、翻訳した日本語で250語)で完結するものもあれば、結構な枚数のあるものまで多彩です。
内容も、過去の短編同様、最後のオチでニヤリとさせるものもありますが、繰り返し読んでも、オチはなんなの?と意味不明なものまであって、ちょっとどうしたの?って感じがしました。
作品には、現実にあったことを下敷きにしたものとまったく創作で作ったものが区別されていましたが、それは読み手にとってはどうでもよく、できれば同じ短編集に入れるのならば、似通ったものにしてほしかったです。
つまりウイットの効いたコミカルなものと、実話を元にしたシリアスな人生ドラマがごっちゃになっていて、一気に通して読むのがつらかったです。
どの短編が面白くて、どの作品がさっぱりわからないかというのは、書きませんが、読み手によって、思いがそれぞれ違ってくるというのが狙いなのかも知れません。
また最後に、次作の長編小説「運命のコイン」のプロローグとして、次作に期待させる、早く読みたくなるような、商売上手な短編がありました。
★★☆
◇著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)
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人生に生きる価値はない (新潮文庫) 中島義道
元大学教授でカント研究など哲学者の著者の作品は好きで、過去には「対話のない社会」(1997年)、「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」(2004年)、「私の嫌いな10の人びと」(2006年)、「「人間嫌い」のルール」(2007年)を読んでいます。
このエッセイ集は2009年に単行本、2011年に文庫本が出ています。ちょうど、国立大学の教授職を定年で退官される直前に書かれたものです。
とにかく、行動と言論が独創的でかつ過激な方で、団塊世代の中でも突出しているなーと感じますが、言っていることは決して間違ってはなく、考えさせられる内容です。
でも時々は、話題から外れ、うるさ型オヤジの愚痴っぽい話しも顔を出し、相変わらずの内容ですが、最初にこの著者の本を読むと、ちょっと引いてしまうかも知れません。
本文中に「まもなく国立大学を定年で去るので、その前に準備として哲学塾を開講すべく有料で始めた」というのがあり、「公務員の副業って認められているんだっけ?」「当然なんらかの許可を得ているのだろう」と思って先を読み進めると、やはり大学の事務局から兼業規程のクレームがつきました。
自分からそんな恥ずかしいことを書いているので、悪気があったわけではないのでしょうけど、「そんな基本的なことも知らずにやっていたのか?」と、専門の学問に対して頭は素晴らしく良いのかもしれないけど、世知に疎い学者先生というのを知って笑ってしまいました。
国立の大学教授が書籍を出し印税収入を得たり、講演会で謝礼をもらったりするのは、副収入という扱いで副業ではないというのが通説ですが、学校とは別に塾を開き、お金を取れば立派な副業(事業)となるでしょう。その線引きは微妙な感じもしますけど。
この著者が毎度必ず著書に書く「街中や電車内での放送騒音」について、普段通勤で乗る電車でもまったく同感で、過剰すぎる大きなお世話的案内や注意・警告などの改善は進むどころか、年々ひどくなるばかりです。
少し古い記事ですが、下記に著者が詳しく書いています。
日本で「お節介な注意放送」が流れる根本理由(東洋経済ONLINE)
それ以外にも、電車内で化粧する女性について、著者が過激な対応が書かれています。私は、お化粧は放送と違って、見ないようにすれば見なくて済むので別に気にはなりませんけど、不必要にがなり立てる車内放送は、イヤホンを耳に突っ込んで、大きな音で音楽でも流さないと聞こえなくできませんからいつもつらく感じています。
どこまでタイトルに沿った話しかという疑問はありますが、総じて著者の哲学論、個人的な思考法、胸のすく発言などを期待して読む分には面白いと思います。が、逆に読んでいると腹が立ってくる人もいそうで、単なる哲学本という位置づけではありません。念のため。
★★☆
◇著者別読書感想(中島義道)
【関連リンク】
3月前半の読書 弁護士の血、それでも、日本人は「戦争」を選んだ、雪の断章、バッタを倒しにアフリカへ
2月後半の読書 華竜の宮(上)(下) 、その時までサヨナラ、定年前後の「やってはいけない」 、悪童日記
2月前半の読書 家霊、転生、人口と日本経済、カエルの楽園、ベストセラー小説の書き方
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