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ボートの三人男(中公文庫) ジェローム・K・ジェローム

内容は知らず、タイトル買いです。著者は19世紀後半と20世紀初旬に活躍した英国の作家さんです。

原題は「Three Men in a Boat, To Say Nothing of the Dog!」で、基本翻訳のタイトルと同じですが「犬は除く」が付いています。

英国ロンドンに流れるテムズ川はよく知られていますが、19世紀後半においてもその川の流れと周辺の街並みはあまり変わっておらず、貸しボートを借りて仲間と遊んだり旅行をすることがそこそこ人気だったようです。

しかし読んでいても地名だけではいまいちピンとこず、せっかくなので地図とルート、作品に出てくる町や川の堰の名前を一覧化しておきました。ロンドンやオックスフォードにいた人ならなんとなくイメージが湧いてくるでしょう。

3menmap1

◆テムズ川をさかのぼるボートの航路◆
Jとハリーと犬のモンモランシーがロンドンからキングストンまで機関車で移動
キングストン(Kingston) 2人と1匹が貸しボートに乗船
ハンプトン・コート(Hampton Court)
モールジー(Molesey)
ウォルトン橋(Walton Bridge)
ハリフォード(Halliford)
シェパートン(Shepperton)
ウェーブリッジ(Weybridge) ジョージがバンジョーを抱えて合流乗船
ステーンズ(Staines)
ベルウィアーロック(Bell Weir Lock)
ボヴェニー閘門(Boveney Lock)
クッカム閘門(Cookham Lock)
マーロー(Marlow)
ソニング閘門(Sonning Lock)
ハーリー堰(Hurley Lock)
メドメナム(Medmenham)
ハンブルデン閘門(Hambleden)
ワーグレーブ(Wargrave)
シップレイク(Shiplake)
ソニング閘門(Sonning Lock)
レディング(Reading) ストリートリー手前までスチームランチに曳いてもらう
メイプルダーラム閘門(Mapledurham Lock)
ゴーリング閘門(Goring Lock)
ストリートリー(Streatley)
ウォリンフォード(Wallingford)
ドーチェスター(Dorchester)
アビンドン閘門(Abingdon Lock)
スンドフォード閘門(Sandford Lock)
イフリー閘門(Iffley Lock)
オックスフォード(Oxford)

帰りは流れにまかせてパンボーン(Pangbourne)まで下り、そこでボートを置いて機関車でロンドンへ

当初は、真面目な旅行案内書的な内容をかくつもりだったのですが、本題から大きく外れたユーモアがメインの小説になっています。

ただユーモアと言っても、100年前のユーモアで、現在もそれで笑えるか?ということもありますが、素直に苦笑するしかありません。

とにかく話しの行方がどこへいくのかわからないほどあっちこっちへと飛び、今のことなのか、過去のことなのか時々わからなくなったりします。しかしテムズ川上流の優雅な情景が目に浮かぶようなうまい表現が多く、読んでいてリゾート気分になります。

翻訳者が小説家でもある丸谷才一氏で、おそらくその丸谷氏が努力されて、これでも読みやすくなっているのだろうと思います。

面白かったかって?

う~ん、名作らしいのですが、いまいち「なにが言いたい?」「なにが教訓?」「どれがユーモア?」と混乱するところは私の読解力か感受性のなさか、いまいち満足するには至りませんでした。

★☆☆

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叫びと祈り(創元推理文庫) 梓崎優

著者の作品を読むのは今回が初めてです。1983年東京都生まれで兼業作家さんということですから勤め人でもあるのでしょうか。

この作品は実質的なデビュー作で、2010年に出版、2013年に文庫化された連作短篇集で、解説を読むと、当初は最初の短編だけを発表したところ好評で、プラス4作を書いて合計5作品の連作としてまとめたものだということです。

その5作品のタイトルは、「砂漠を走る船の道」「白い巨人」「凍れるルーシー」「叫び」「祈り」です。

最後の「祈り」以外の舞台は外国で、「砂漠を走る船の道」は西アフリカのマリ付近の砂漠地帯、「白い巨人」はスペインのラ・マンチャ地方、「凍れるルーシー」は南ロシア、「叫び」はブラジルのアマゾン流域です。

そうした外国で、不可解な事件が起き、その謎解きをするのが、日本の出版社に勤務する7カ国語を操る日本人青年です。

少し前に読んだ、「アイルランドの薔薇」(石持浅海著)も、こちらは長編小説でしたが似たような感じです。

連作短編と書きましたが、それぞれ5つの作品は完全に独立していて、主人公の日本人青年だけが共通しています。しかも最後の「祈り」はその大活躍した日本人青年が、記憶喪失に陥っていてサナトリウムのような場所に入院しています。

いずれも話がぶっ飛んでいて、その中身にリアリティはありませんが、デビュー作で創作した作品と考えると末恐ろしい新人作家の登場!という感じでしょうか。これからが楽しみな作家さんです。

★★☆

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帰れないヨッパライたちへ 生きるための深層心理学(NHK出版新書) きたやまおさむ

医学生時代には加藤和彦らとザ・フォーク・クルセダーズで一世を風靡したミュージシャンであり、多くのヒット曲の作詞家でもある著者ですが、現在は東京で精神科医として活動されています。

著者の作品は過去に「さすらいびとの子守歌」「戦争を知らない子供たち」「止まらない回転木馬」「人形遊び」の4作を読んでいます。いずれも1970年代のことで今から50年近く前のことです。

たまたま懐かしい名前を新書コーナーで見つけたので買って読みましたが、以前の著作とはまったく違い、精神分析医療に関わる話しが中心で、あまり馴染みがないこともあり意味不明でした。

こうした実際に経験してきた治療に関しての話しは、医学的なレポートや論文ならともかく、こうした新書で書くには例え匿名にしたとしても書くのは難しそうです。

なので、自分が経験した芸能界からの逃避や、英国で師事した専門家の話、その他精神医学でよく言われていることなどの話しが中心となります。

それならそれで、おそらく出版社の人から強く勧められたのだと思いますが、「昔のふざけたコミカルソング」を彷彿とさせる「帰れないヨッパライ」などタイトルに使わなければ良いのにと思ってしまいます。

専門書ともエッセイとも違うちょっと中途半端なものになってしまったのは残念です。

★☆☆

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親鸞 完結篇(上)(下)(講談社文庫) 五木寛之

2010年に「親鸞」、2012年に「親鸞 激動篇」が出版され、三部作最後のこの作品が2014年(文庫は2016年)に発刊されました。元々は東京新聞や中日新聞、京都新聞など多くの地方紙で連載されてきた小説です。

過去に前2作は読んでいます。

2014年5月前半の読書と感想、書評(親鸞)
2014年12月前半の読書と感想、書評(親鸞 激動篇)

浄土真宗の宗祖、親鸞聖人が主役の小説で、これは伝記ではなく小説なのでエンタメ性がかなり盛られているようですが、大きな流れとしては判明している限りにおいて人生をなぞってはいるようです。

この完結編の時代背景は13世紀中盤、鎌倉時代の京都で、前作の激動篇では、誰でも念仏を唱えれば浄土へいけるという専修念仏に対し、比叡山や奈良の古寺勢力からの反発があり、民衆を惑わすと後鳥羽上皇から法然らとともに地方へ流罪となり、越後、そして東国(茨城)へと地元の名士達の協力を得ながら布教を継続していきます。

この完結篇では、60才を超えた親鸞が、東国から再び京都へと戻ってきます。そして90才で入滅するまでの様々な出来事が描かれています。

親鸞がまだ若い時に京都で知り合った多くの人達が再登場します。親鸞を慕うものもあれば、敵視するものもあり、様々な思惑が交錯し、さらに身内の長男までもが反発して東国へと旅立ってしまいます。

しかしこの時代に90才まで生きるというのは、もうそれだけで常人ではなく奇蹟の人でしょう。鎌倉時代の平均寿命は24才ということで、これは出産時や子供の頃に亡くなる子が多かったことからそうなりますが、それでも70才を超えて健在なのは極めて珍しいことでしょう。

昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出てきた源頼朝は51才、主人公の2代目執権北条義時は61才、その息子3代目北条泰時は59才、姉の北条政子は68才で亡くなっています。

過去には親鸞を主人公にした小説やそれを原作とした映画がいくつか作られています。この五木親鸞もいつかは映画化されるかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(五木寛之)

【関連リンク】
 1月前半の読書 志賀越みち、ファーストラヴ、一八八八切り裂きジャック、帰郷
 12月後半の読書 鬼棲む国、出雲 古事記異聞、A、厭な物語、君たちはどう生きるか
 12月前半の読書 レンブラントをとり返せ、カササギたちの四季、仔羊の巣、異常快楽殺人

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