リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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冷血 (新潮文庫) カポーティ
1958年に発刊された「ティファニーで朝食を」が映画化されそれで一躍有名になったアメリカの作家さんですが、19歳の時に始めて作品を世に出し、60歳の時に心臓発作で亡くなるまで40年あったわりには作品数は少なく、短編集を含めて12作品だけです。
この作品は1966年に書かれたカポーティの最後の長編作品で、1959年に実際にアメリカで起きた一家殺人事件が元となっています。
またこの作品はノンフィクションノベルという新しいジャンルを切り開いたものとして注目されています。
ノベルと言えばフィクション(想像で描いた物語)なわけですが、その前にノンフィクションがつくとどういう意味か混乱しそうですが、起きた事件と加害者と被害者、その双方の周辺にいた人達の事実を積み重ねていき、ある部分は作者の想像で描きながらも、重要なポイントは裁判記録や徹底した取材で、事実を元にして忠実に描かれた小説とでもいうのでしょうか。
もし現代で同じことをおこなえば、遺族や数多くの実名での登場人物から名誉毀損やプライバシィ情報漏えいなどですぐに訴えられそうなことも含みます。
事件は平和なカンザス州で牧場を経営する比較的裕福で、誰からも好かれている一家(夫婦と子供二人)の自宅で起きます。自宅といっても広大な牧場の中にあり、近くに住み込みで働いている夫婦の住まいを除くと、隣家といっても何キロも遠く離れた場所にしかない土地柄です。
一方、刑務所を出たばかりの二人の男が、同じ刑務所で耳にしたお金持ちの話しを思い出し、計画的に犯行をおこなうため、アリバイを準備し、遠くにあるカンザスの牧場を目指します。
そして犯行がおこなわれ、その殺害方法には相当の恨みがあるようにみえましたが、目撃者もなく、捜査はすぐに行き詰まってしまいます。マスコミは警察の無能ぶりを激しく叩く論調で、警察もほとんど犯人に結びつく証拠が残されていない中で必死の捜査を続けていきます。
犯人は誰からも疑われることなくまんまと犯行現場から逃げることができましたが、結局牧場には金は置いてなく、しかし元の仕事に戻ることもできず、メキシコや南部を二人で詐欺や泥棒を重ねながら放浪することになります。
しかし犯人のツキもそこまでで、やがてたれ込みから犯人が絞り込まれ、その足取りも警察の知ることになっていきます。
結果はわかっているものの、二人の犯人の考えや、心理状態などが迫真にせまる内容で、ノンフィクションと言いつつも十分に小説としての価値を見出せ読み応えがありました。
あとこの作品は1967年に映画化もされています(日本公開は1968年)。
◇著者別読書感想(トルーマン・カポーティ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
死もまた我等なり:クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)(上)(下) ジェフリー アーチャー
「時のみぞ知る:クリフトン年代記 第1部」では紆余曲折あった主人公が客船の乗組員としてアメリカに向かう途中、Uボートの攻撃をうけて船は沈没してしまい、かろうじて別の船に救助されたものの、訳あって同じ乗組員として働いていたアメリカ人が死んだことで、その男にすり替わろうとします。
しかしそれが裏目に出てしまい、上陸したとたん、いきなり殺人罪で逮捕されてしまうという盛り上げ方をして終わりましたが、そこからの続編です。
この小説では、貧しい家の生まれながら頭の良さをかわれ名門大学へ進むメーンの主人公以外に、その主人公と婚約する女性、ハイスクールの同級生で親友かつ主人公と婚約する女性の兄、その父親、主人公の母親という準主役達がいます。
そして一見するとバラバラに動いているその準主役達の目でも章ごとに時代が語られていきます。時代はナチスドイツの勢力がヨーロッパ中で猛威をふるい、主人公がアメリカに渡ってすぐ、アメリカも重い腰を上げて第二次大戦に参戦するという大きく世界が動いたタイミングです。
ストリーはぜひ読んでいただきたいのであえて書きませんが、第一部の感想でも書いたように、アーチャーの得意な「貧しさの中から努力をして身を立て、貴族や金持ちに対して自分の頭脳と周囲の仲間達に助けられながら、成功者に上り詰めていく」という物語で、エンタテーメントとしては一級品です。
さらに今回はアーチャー自身収監された経験から、主人公が刑務所に入れられ、その中でも才能を発揮していくという話しが手厚くなっているのが、過去の長編とは違う点でしょうか。
唯一残念なのは、世界的にベストセラー作家としてアーチャーも売れっ子となり、書けば売れるということからか翻訳(出版)権も高騰しているのでしょうけど、文庫の上下巻とも薄っぺらな約280ページ程度で各662円、上下巻で1,324円、第一部(上下)と第二部(上下)計4冊で総額2,690円。文庫でこれですから嫌になります。
だいたいページ数から言って上下巻に分ける必要すら感じません。今読んでいる盛田隆二氏の「二人静」(980円)は1冊の文庫で634ページです。
翻訳本ということを差し引いてもちょっと高過ぎるような気がします。デフレなのですからもっと安く刊行する努力が出版社にはないのでしょうかね。
今回は(文庫の)新刊本ということもあり、書店で購入しましたが、こうした文庫まで強気の値付けから、多くの人は図書館やブックオフなどへ流れてしまうのではないでしょうか?
◇著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
八つ花ごよみ (新潮文庫) 山本 一力
2009年に単行本、2012年に文庫版が刊行された8つの短編をまとめた時代小説です。
著者の山本一力氏は一昨年読んだ小説の中で私のベスト1となった「あかね空」で直木賞を受賞された時代小説が多い作家さんです。
この作品はタイトルにあるように花にちなんだ8つの短編集で、時代はいずれも江戸時代で、深川など下町辺りの庶民が主人公です。
こうした短編小説の場合、最近の傾向では独立した短編でも互いに関連があったり、同じ人物が登場したりという連作短編というパターンが多いのですが、これは時代背景は同じながらそれぞれがまったく別もの仕立てとなっています。
1)路ばたのききょう
2)海辺橋の女郎花
3)京橋の小梅
4)西應寺の桜
5)佃町の菖蒲
6)砂村の尾花
7)御船橋の紅花
8)仲町のひいらぎ
短編の場合、その人物や舞台設定の説明などに多くを費やしてしまうと、それだけで終わってしまいかねない危険性があります。それゆえに前の短編で使った同じ人物を次の短編でも登場させることで、その人物のことや時代背景などを省略できるというメリットがあります。
しかしその場合は、前編を読んでいるということが必要となり、週刊誌や月刊誌などに一編ずつ掲載する形だと、必ずしも前編が読まれているわけではなく、途中から読む人には意味がわからないということにもなりかねないので難しいところです。
著者の短編はこれが初めてですが、過去に読んだ長編と比べると、やむを得ないとは言え、いずれもストリーにメリハリがなく迫力もありませんので物足りなく感じました。
夫婦愛や親子愛、師弟愛などそれぞれに感動を呼びそうなテーマなのですが、なんだかボヤーとしたあっけない結末で、おそらくは読者がそれぞれに想いと余韻をふくらませればいいということなのでしょうけれど、どうもそれがうまくいっていないようです(私だけかも)。
短編の上手い作家は他にもいっぱいいるので、あえて著者の短編はもういいかなと。著者の書く長編小説の素晴らしさはよく知っているだけに、今後はまた長編を読んでみることにします。
◇著者別読書感想(山本一力)
【関連リンク】
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終身雇用が壊れだしたのは1990年代頃からで、大手企業においてリストラの名を借りた実質的な指名解雇がおこなわれてきましたが、考えてみると中小企業ではそれ以前からずっと業績不振やワンマン社長の好き嫌いなど環境や感情の趣くまま、従業員解雇なんて普通におこなわれていました。
それは大企業たる新聞社やテレビ局において身近なものではなく、記事や番組で取り上げられることがなかっただけのことで、いざ大企業でもリストラがおこなわれるようになって始めて「これは危険だ」と取り上げられるようになってきました。
それはさておき、私(56歳)以上の人達のほとんどは、新入社員の頃、日本の代表的な雇用スタイルで高度成長を支えてきたとされる、終身雇用、年功序列が当たり前で、それが壊れるなんて信じていませんでした。
そして、新卒後の数年で会社を辞めて転職など、まるで人生の落伍者のように見られていましたし、20代の中途採用市場も極めて小さく、もしどうしても転職するならベテランの域に達した30代で、それも三顧の礼を尽くし誘ってくれるところがあってというのが普通だったように思います。
しかし私が新卒入社してから10年ぐらい経つと、新入社員(ちょうどバブル入社組)で入ってきた若者が平気で次々転職するようになり、時代が変わったと実感したモノでした。
しかしその時に転職した若者が入った会社は、より小さな企業ばかりで、それで成功したかというと微妙な感じがします。小さな企業はダメと言っているのではなく、できることやれることがさらに小さくなってしまう可能性が高いのです。
転職の場合、なにを持って「成功」か「失敗」かという明確な基準がありません。人材紹介会社の場合は、「成功」=「転職できた」、「失敗」=「転職できなかった」の二つの基準でハッキリしているのですが、求職者にとっては転職できたからすべて成功だったかというと必ずしもそうではありません。
例えば「転職して給料や待遇が上がり、就業時間は短くなり、仕事には成長性があり」となればほぼ「成功」と言ってもいいのでしょうけど、「給料は上がったが、めちゃくちゃに働かされ、身体を壊したり、家族との時間がなくなった」では、果たして転職成功と言えるのでしょうか?
「希望する企業ではなく給料は下がり将来性があるとは言えない仕事だけど、ワークライフバランスがとてもうまくまわり毎日充実している」となった場合、これも人の価値観によっては「転職成功」と言えるでしょう。
もっと言えば、30代で転職した場合、その後まだ30年以上働き続けるわけですので、その会社が将来どうなるか?という長期的な観点でも「成功」「失敗」が違ってきます。
私が新卒の時に会社説明会で回ったある中堅商社は、その時はとても私など無理とすぐにあきらめたほどの盛況ぶりでしたが、私が別の会社に入社して5年目に研修を兼ねて香港へ渡ったときに、ちょうどその中堅商社が倒産したことを知りました。
そういった会社がどう転ぶかは誰もわからないリスクを軽減するには、自らが会社に頼り切らないで、自分のスキルを磨き、難易度の高い経験を積むに限るわけですが、同時に信頼できる人間関係を構築しておくのがベターな選択でしょう。
案外自分のスキルや経験を必要とする仕事や業界って狭いもので、転職するとなにかしら昔の知り合いとつながっていたりするものです。
転職活動の際に、複数の応募者と競争することは普通にあり、その時の面接で、「その方なら勉強会で知り合ってよく知っていますよ」と面接者と共通の知人がいることが判明したり、「○○さんならいま当社の関連企業にいますよ」とか、不思議な縁に出会うことがあります。
そういうつながりがあり、しかもその知人から「彼なら採用して大丈夫」というお墨付きがもらえれば、これ以上の推薦状はありません。
そこで転職をするのに最適な年齢は?というと、以前から企業が一番求めているのは20代後半~30代前半で大手、中堅企業でしっかり業務経験を積んできた人達ということになるでしょう。
ただ、現在は若手の転職者が少なくなり、逆に30代後半~40代の転職希望者の増加で、転職平均年齢が上がってきているそうです。
転職者の平均年齢は31.0歳 高年齢層の転職者増により5年で2歳プラス(インテリジェンス調査)
人材サービス大手インテリジェンスによると、転職者の平均年齢は2008年に29・2歳だったが、13年には31・0歳と2歳上昇した。年齢別でも35歳以上の転職者の割合が08年の10%から13年には23%まで増えており、ミドル世代の転職が盛んになっていることがうかがえる。 |
少し前なら40代以降の転職はリスクが多く、よほどのハイパフォーマーや自信家以外は難しいと言われていましたが、最近はそうでもなくなってきているようです。
それとも転職したくてしたわけではなく、早期退職制度や転職支援制度で半強制的に追い出された人が、やむにやまれず転職をしているせいなのかも知れません。そこのところは、この調査からはハッキリとは読み取れません。
ただ職種別では、「30代以上の割合が最も多いのは「技術系(建築/土木)」の73.6%で、次いで、「技術系(機械/電気)」(63.9%)、「技術系(IT/通信)」(61.3%)が続きます。」とありますので、大手製造業などが大量に実施してきた工場閉鎖や海外移転のための大リストラの影響で技術系中高年者の転職希望が増えている可能性があります。
特に1971年~1974年に生まれた団塊ジュニア世代が40~43歳となり、この年齢ともなれば大手企業でも管理職に就く年代ですが、どこの企業でもこうした年代のポストが不足しているように思えます。技術系職においても同様です。
そう考えると、転職平均年齢(適齢期ではなく)は、この数の多い団塊ジュニア世代が牽引していると言えなくもなく、当面はその団塊ジュニア世代の年齢とともに上がり続けることになるのでしょう。
では転職適齢期はと言えば、考え方としては数の多い団塊ジュニア世代と対抗して勝てるのは若さか経験かということですので、今すぐならば「若さ」の20代~30代前半までか、「経験」の50代前半ということになるでしょうか。ただ50代での転職は、今も昔も超難関なことには変わりなく、即戦力&人脈しかありません。
私もあと4年で定年がやってきます。雇用延長の義務化から、数年の雇用延長はお情けでやってくれるでしょうけど、果たしてそれにすがるか、それともまた別の新しい仕事人生を切り開くか早々に考えなければなりません。
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742 それでも日本の解雇規制は緩すぎる
717 非正規から正規雇用への転換策
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来年度の予算が少しずつ見えてきましたが、消費税も上がり、景気の先行きを左右しかねない重要な予算編成になることは間違いなさそうです。
その中でも私が注目するのはやはり労働・雇用関連予算で、その使い方をみると政府や国がなにをしたがっているのかが漠然とながら見えてきます。
厚生労働省はアベノミクスの成長戦略に乗じ、大幅な雇用関連予算をぶんどるつもりで、さらに経済(雇用)特区構想なども相まって、今年は「解雇」と「再就職」の話題が多くなりそうです。
雇用調整助成金は、経営が厳しくなった企業が社員を解雇せず、休業などの形で雇用し続けた場合に支給されるもので、一昨年2012年度は1134億円が支給されましたが、この予算を来年度545億円と半減させるようです。つまりつぶれそうな会社(穴の空いたバケツ)に、一時しのぎのために、税金を湯水のごとくつぎ込んでも無意味だとようやくわかってきたようです。それでもまだ500億円以上残っているわけですが。
そして転職支援など「労働移動支援助成金」は、一昨年がわずか2億4000万円だったのを一気に10倍増させて301億円を要求に盛り込みます。10倍増しても前述の雇用調整助成金には及びませんが、ないよりはマシってところでしょうか。
この「労働移動支援助成金」ですが、「雇用調整助成金」とは対になっているとも考えられます。つまり「雇用調整助成金」を減らして解雇を勧め、その解雇された人が再就職するための支援に使われるものとされ、主として民間の人材紹介事業者や再就職支援事業者などにばらまかれるものと思われます。
リーマンショック以降、体感的には1/10の規模に縮小してしまった人材紹介ビジネスですが(実際は数十%ダウン)、これで息を吹き返せるか見物です。
人材紹介ビジネスの2012年度の売上規模は1150億円、再就職支援ビジネスが310億円と言われています。
全体では2013年度は2012年度よりも多少伸びているようで(紹介で10%程度、再就職支援はマイナス10%)、さらに来年度予算で300億円がつぎ込まれると、単純に足し算だけでなく、その何割か増しの成果を求められるはずです。例によって国がつける予算の中には官僚天下り法人向けの中抜き分があるでしょうけれど、それは除いてです。
1270+280=1550億円・・・2013年度人材紹介・再就職支援ビジネス売上予測(矢野経済研究所)
(1550+310)×1.1=2046億円・・・2014年度人材紹介・再就職支援ビジネス売上予測(筆者の勘)
仮定の話しですが、助成金で弾みが付き人材紹介と再就職支援がそれぞれに助成金を含めて1割以上伸びるとすれば合計が2046億円となり、リーマンショック前の2007年度両ビジネス売上合計1710億円を軽く超えていきます。
一見すると2000年代前半のように、転職ブームが起き、再び人材コンサルタントの出番が多くなりそうにも思えますが、果たして中途入社の社員を積極的に求める会社がそこまで増えるのか?という疑問がぬぐいきれません。紹介業が潤うためには求人する企業と求職する人の双方が相当数必要です。そこがマッチングの難しさです。
結局は、先行き不透明感から企業の採用抑制は続き、派遣やパートアルバイト、契約社員といった非正規社員ばかりが伸びて、紹介会社や再就職支援会社にはほとんど恩恵がなかったという結果もありそうです。
【関連リンク】
694 履歴書の中の嘘はすぐバレる
614 企業は若者の早期離職を恐れるな
572 転職のキモは履歴書だ
559 バブル入社組40歳代の憂鬱
525 転職にSNSは有効なのか?
452 中高年者の雇用問題と非正規雇用問題
407 私のリストラ激闘記
335 中高年の転職とは?
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内閣府が毎年出している通称「高齢社会白書」正確には「高齢化の状況及び高齢社会対策の実施の状況に関する年次報告」平成25年度版(2013年中に発表)というものがあります。
暇がある人はここのサイトからダウンロードして(PDFでおよそ30ファイルあります)読んでいただければいいのですが、ざっくりとそれの概略を書いておきます。将来については推定ですが、30年後50年後に見たときになにが当たっていてなにが外れていたということがわかっていいですね。自分はその時にはもう生きてはいないと思いますが。
◆総人口と高齢者人口
平成24(2012)年10月1日現在、総人口は1億2,752万人、そのうち65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3,079万人(前年2,975 万人)となり、総人口に占める割合(高齢化率)も24.1%(前年23.3%)となっています。
※最新のデータ2013年9月16日現在では、人口1億2,726万人(前年比-26万人)、65才以上高齢者人口3,186万人(同+107万人)、高齢化率25.0%(同+0.9%)
65歳以上の高齢者人口を男女別にみると、男性は1,318万人、女性は1,762万人で、性比(女性人口100人に対する男性人口)は74.8で、男性対女性の比は約3対4となっています。
高齢者人口のうち、「65~74歳人口(前期高齢者)」は1,560万人(男性738万人、女性823万人)で総人口に占める割合は12.2%、「75歳以上人口(後期高齢者)」は1,519万人(男性580万人、女性939万人)で、総人口に占める割合は11.9%。
1947~1949年に生まれたいわゆる「団塊の世代」が65歳になり始め、65歳以上の高齢者人口は1950年には総人口の5%に満たなかったものの、1970年に7%を超え(国連の報告書において「高齢化社会」と定義された水準)、さらに、1994年にはその倍化水準の14%を超え「高齢社会」と称されました。そしてさらに高齢化率は上昇を続け、現在24.1%に達し「超高齢化社会」と呼ばれています。※2013年9月16日現在高齢化率は25.0%
今後の推計では、12年後の2026年には総人口1億2000万人を下回り、34年後の2048年には1億人を割って9913万人となります。
総人口が減少し続ける中で、団塊世代のほとんどが65才以上となる来年2015年には65才以上の高齢者は3,395万人となり、団塊世代が後期高齢者に入る75才を迎える11年後の2025年には3,657万人に達します。さらに高齢者数は増加し、28年後の2042年に3,878万人のピークを迎えます。これは団塊世代の次に大きな塊、団塊ジュニア世代の多くが65才を超えることによります。
◆高齢化率と対現役世代人口
高齢化率は2013年に25%だったのが、21年後の2035年に33.4%、46年後の2060年には39.9%に達し、国民の2.5人に1人が65才以上の高齢者という社会を迎えることになる。
今から64年前の1950年(昭和25年)には1人の高齢人口に対して12.1人の15~64歳人口(生産年齢人口)だったのに対して、2012年は高齢者1人に対して現役世代2.6人になっています。
今後、高齢化率は上昇を続け、現役世代の割合は低下し、46年後の2060年には、1人の高齢者に対して1.3人の現役世代という比率になります。
高齢化率を都道府県別でみると、2012年現在の高齢化率は、最も高い秋田県で30.7%、最も低い沖縄県で17.7%となっています。26年後の2040年には、最も高い秋田県では43.8%となり、最も低い沖縄県でも、30.3%に達すると見込まれています。
東北など地方の高齢化が深刻と言われ、16年後の2040年の予測では、高齢化率40%を超えているのは、秋田、青森、高知、北海道、徳島の道県ですが、2012年から2040年までの高齢化率の伸びでは神奈川や千葉も上位に入り、都市部においても高齢化が進んできます。
先進諸国の高齢化率と比較をすると、日本は1980年代までは下位、1990年代には中位だったのが、2005年には最も高い水準となり、それ以降、世界のどの国もこれまで経験したことのない高齢社会を迎えています。
◆高齢者世帯と暮らし
65歳以上の高齢者がいる世帯は増え続け、2011年の世帯数は1,942万世帯あり、全世帯(4,668万世帯)の41.6%を占めています。
一人暮らしの高齢者が高齢者人口に占める割合は、1980年には男性4.3%、女性11.2%だったのが、2010年には男性11.1%、女性20.3%とこの30年の間に倍増し、さらに今後も増えていく予想です。
60歳以上の高齢者の暮らし向きについてみると、『心配ない』(「まったく心配ない」と「それほど心配ない」の計)と感じている人の割合は全体で71.0%あり、年齢階級別にみると、「80歳以上」は8割と高い割合となっています。この世代においては、「老後の不安」というものはあまりなさそうです。
高齢者世帯の平均年間所得は307.2万円で、全世帯平均(538.0万円)の半分強です。しかし世帯人員一人当たりでは、高齢者世帯の平均世帯人員が少ないことから、197.4万円となり、全世帯平均(200.4万円)との間に大きな差はみられません。
公的年金・恩給を受給している高齢者世帯の約7割において、公的年金・恩給の総所得に占める割合は80%以上となっています。
世帯主が65歳以上の世帯の平均貯蓄額は2,257万円で、全世帯平均1,664 万円の約1.4倍となっています。このあたり、貯蓄額はすべてかき集めても数十万円の56才の私にとって、まるで信じ難いというか、愕然とするばかりです。
宵越しの金は持たねぇ!の心意気はどうした!ってひがんでしまいます。さらに私の場合13年前に転職をしていますので、4年後に迎える定年時の退職金はほとんどあてにできません。
2011年では65歳以上人口に占める65歳以上の生活保護受給者の割合は2.63%であり、全人口に占める生活保護受給者の割合(1.58%)より高くなっています。正規・非正規労働や若者の収入格差と同様、平均で2000万円以上の貯蓄がある高齢者世帯がある一方で、ここでも格差が広がっているように考えられます。
◆高齢者の健康
日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、2010年時点で男性が70.42年、女性が73.62年です。平均してこの年齢までは自分で日常生活をおくることが可能と言うことです。
平均寿命が男性80歳、女性86歳ですから、日常生活に支障が出るようになってから男性で10年、女性で13年も生きるわけで、そう思うと健康寿命が少し短いような気もします。団塊世代が一斉に70代に突入する5年後には医療・介護業界は大変なことになりそうです。
将来予測では、2020年には男女とも健康寿命は、生活習慣病の改善や医療技術などの進歩により、約1年間延びるとされています。それでも寿命までの10数年間は症状の軽重の差はあれど介護の必要があり、大きな社会問題になりそうです。
高齢者の死因となった疾病をみると、死亡率(高齢者人口10万人当たりの死亡数)は、2011年において、「悪性新生物(がん)」が970.3と最も高く、次いで「心疾患」589.2、「肺炎」406.3の順となっていて、これら3つの疾病で高齢者の死因の半分を占めています。
65歳以上の要介護者等認定者数は2010年度末で490.7万人(高齢者に占める割合16.64%)で、2001年度末から203万人増加しています。75歳以上で要介護認定を受けた人は75歳以上の被保険者のうち22.1%を占めています。
高齢者に占める要介護者の割合を将来の高齢者人口に当てはめてみると、要介護者数は2015年には565万人(2010年と比べ1.15倍)、2025年に609万人(同1.24倍)、2042年には645万人(同1.31倍)となります。さらに団塊世代が健康寿命を超え始める2020年以降は、上記の推定値よりももっと急激に要介護者が増えると考えておかなければならないでしょう。
◆高齢者と雇用
全産業の雇用者数の推移をみると、2012年時点で全労働力人口6,555万人のうち、60~64歳の雇用者は472 万人(7.2%)、65歳以上の雇用者は340万人となっています。
定年到達者の状況をみると、2012年6月1日時点において、過去1年間の定年到達者のうち、継続雇用された人の割合は73.6%、継続雇用を希望しなかった人24.8%、継続雇用の基準を満たさずに離職した人1.6%となっています。
高齢者雇用安定法が改正され、希望者全員が(段階的に)65才まで雇用を義務付けた法律が施行されたのが2013年4月ですので、今後継続雇用される割合は高まるのでしょう。
しかしいつまでも働きたいと思う人がいる一方で、早く引退したいと考える人もいるはずで、年金支給の問題とも関係しますが、その割合が今後どう変わっていくのか興味があるところです。
「早く引退したいという人」=「お金持ちの遊び人」というわけではなく、家人の介護や、自身の健康障害などで、毎日の通勤や勤務に耐えられない人も多くいます。
◆その他
65歳以上の高齢者の交通事故死者数は、2012年は2,264人で前年より減少していますが、交通事故死者数全体に占める割合は51.3%と半数を超えています。
高齢者が被害となる事故が多いのと同時に、今後高齢者ドライバー、ライダーの数が増えることによって、加害者となるケースも増えそうです。それを減らすためには、衝突防止ブレーキ装置や運転補助装置などの普及が急がれます。
地方での顕著な住人の高齢化を象徴することとして、東日本大震災において、岩手県、宮城県、福島県の3県で収容された死亡者の検視等を終えて年齢が判明している15,681人のうち、60歳以上の高齢者が10,360人と死亡者全体の66.1%を占めていました。
交通事故や災害においては、身体が不自由で人の助けがないとひとりで逃げることができなかったり、動作や視力の衰えから素早い判断や行動ができなかったり、反応が鈍く危険を避けることができないという高齢者独特の被害が目立ちます。
次に2011年の65歳以上の高齢者の刑法犯の検挙人員は、2001年と比較すると、この10年間で検挙人員では約2.4倍、犯罪者率では約2倍に高まっています。ちなみに65歳以上の高齢数は、その10年間で約1.25倍になっていますが、検挙人数、犯罪者率はその伸びを遙かにしのぐ高い伸びとなっています。
65才以上の高齢者のひとり暮らし率は全体で15.7%ですが、受刑歴ありの高齢者だけをとってみると、ひとり暮らしの率は77.9%に跳ね上がり、ひとり暮らしと犯罪を犯す率とは無関係ではないと言えます。
逆にみると、今後ひとり暮らしの高齢者が増えていくということは、それにともない犯罪発生も増えていく可能性がありその対策が急がれます。
犯罪の被害者としてみた場合、一般刑法犯の割合は、他の年代とあまり変わりはないものの、重犯罪の被害者として65才以上高齢者の数は増加傾向にあり、2009年では殺人は全体の21.9%、傷害致死も28.9%と各年代と比較しても高くなっています。
激しく抵抗されない高齢者に対しての強盗や、ひったくりなど通り魔的犯行が増えそうです。また高齢者が各年代層の中では一番お金を持っているという背景があり狙われやすいためかもしれません。
孤独死とか孤立死と言われている問題ですが、東京23 区内における一人暮らしで65歳以上の人が自宅で亡くなった数は、2012年に2,729人でした。(
独)都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約76 万戸において、単身の居住者で死亡から1週間を超えて発見された孤独死の件数(自殺や他殺などを除く)は、2011年度に200件あり、そのうち65 歳以上に限ると131件(66%)となります。これは2008年度と比べ全体で約3割増、65歳以上では約5割の増加となっています。
ここまでざっくりと高齢社会白書の中身を見てきました。様々な考え方や、いやそうはならんだろう?という楽観的な考えもあるでしょうけど、過去の国や政府が発表した推計数値を見ると、少子化の勢いや、経済成長、年金の不足、医療費負担の伸びなど多くは推計や予想を裏切る、悪いほうへふれる傾向があったことを考えると、これらの推計値よりもっと悪化することも予想されます。
悲観論ではないですが、やがて国民の3人に1人が65歳以上の高齢者となり、さらにその高齢者の4人に1人が認知症を患っているという社会はもうすぐ現実となります。
日本はこの現実と向き合って、世界に先駆けた超高齢化社会に則した世界最高の医療、福祉国家を目指し、遅れて超高齢化社会を迎える他の先進国にその仕組みやシステムを輸出できる国作りをすぐにやっていくべきではないでしょうか。
国の英知を結集し、医療、バイオ、薬品、リハビリ、介護の各技術に予算を投資し、医療や介護の現場を担うロボット(アンドロイド)開発、高齢者が安全快適に暮らせる住宅やインフラ整備、元気な高齢者が余生を楽しめるレジャーやスポーツ振興、世界中のお金持ちが、豊かな自然と世界一の医療と介護を求めて押し寄せてくる環境作りなど、目指すべきはそこだと思うのですがいかがでしょう。もちろん自国民には安価で提供してもらわなければなりませんが。
【関連リンク】
769 相続税の税率を上げると言うこと
763 認知症患者の増大で国は衰退する?
740 高齢者の犯罪が増加
733 高齢者の地方移住はこれからも進むか
706 高齢化社会の行方
689 自分の終焉をどう演出するか
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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
今年のブログ1発目は読書感想です。ちょっとどうかなと思いましたが、私にとって夏休みと冬休みはまとめて本が読める貴重な連休ということもあり、またネタ不足の折、いいかなと。
-◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇-
植物図鑑 (幻冬舎文庫) 有川浩
「阪急電車」や「図書館戦争」で一躍有名作家となった有川浩さんの2011年(文庫は2013年)作品です。例によってほんわかとしたライトノベルな恋愛小説です。
夢見る乙女には最高なものでしょうけど、夢など見ない中年オヤジでも昔懐かし野草を食べるという興味をひき結構楽しめます。
タイトルが植物図鑑ですから、小説の中身もそれに近いものがあります。つまり主人公の女性が、ある日偶然出会った行き倒れの男を自宅へ連れ込み、そのイケてる男がやたらと雑草に詳しく、自宅の近所で取れる雑草を次々と料理に代えていくという物語です。
しかし連れ込んだ男に対して、元彼が残していった服や避妊具を使わせようとするなんざ、ちょっと考えられないことをする人だと思うのですが、今の若い女性にとっては、別に気にすることもない普通のことなのでしょうかね?おお怖。
そう言えば「阪急電車」の中でも電車の中で出会う男女が、電車の沿線の崖に生えている山菜かなにかを一緒に取りに行くとかそういうシーンがありました。著者にはそういう趣味が元々あるのでしょうね。
私の子供の頃にはまだ近所には畑や田んぼが残っており、そこに生えているヨモギを摘んでよもぎ餅をつくってもらったり、ツクシも白味噌であえて食べたり、はこべは飼っていたジュウシマツの餌にと子供ながらに野草を選び分けてそれなりにうまく付き合っていたことを思い出します。
この小説のタイトルを見て阿刀田高著「花の図鑑」を思い出した人は、かなりの日経新聞連載小説通か、阿刀田高ファンでしょう。その小説はバブル時代がいままさに開かんとする1980年代後半に日経新聞朝刊で連載されていた小説で、私は通勤中に全部読みました。
その中では女性のタイプを花で例えて書いてあり、いかにも当時の日経新聞の主たる読者の中年以上のオッサン向けの小説だなぁと思っていました。
一方の「植物図鑑」では、その「花の図鑑」の逆をいったか、『男の子に美少女が落ちてくるなら女の子にもイケメンが落ちてきて何が悪い!ある日道端に落ちていた好みの男子。』とPRには書かれています。
つまり女性が書いた女性向けのお花(雑草)の、甘く切なく元気の出る夢の物語と言ったところでしょうか。
ちなみに出てくる植物は、ヘクソカズラ、フキノトウ、ツクシ、ノビル、セイヨウカラシナ、タンポポ、イヌガラシ、スカシタゴボウ、ワラビ、イタドリ、ユキノシタ、クレソン、ノイチゴ、イヌビユ、スベリヒユ、アップルミント、アカザ・ソロザ、ヨモギ、ハナミズキなど。
◇著者別読書感想(有川浩)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
四畳半神話大系 (角川文庫) 森見登美彦
2003年に「太陽の塔」でデビューした森見登美彦氏の2005年(文庫は2008年)の作品です。
私の年代で「四畳半」と言えば、永井荷風著「四畳半襖の下張り」(あるいはそれを原作とした宮下順子主演『四畳半襖の裏張り』)とか、松本零士氏の「男おいどん」の世界なのですが、若い人(著者は30代前半)にとってはもう死語化していると思いきや、こういった小説があるとはちょっと驚きです。
この森見氏と「鴨川ホルモー」の万城目学氏とは年代こそ違えど、京都大学へ通う貧乏学生の話しをコミカルに書くことなどがよく似ていて時々作者と作品を間違います。
森見氏のほうが京大では3年ほど後輩ですが、作家デビューは在学中にデビュー作を書いた森見氏が逆に3年ほど早いようです。
さてこの小説、、、変わっています。
京大に入学した主人公が、さぁ青春を楽しもうとキャンパス内で勧誘をしている様々なクラブやサークルの中からこれはと思った4つの不思議なサークルに所属した場合の4つのキャンパスライフが描かれています。
どうなんでしょう。それぞれの物語に主人公と周囲にいる人達には微妙な違いが発生しているわけですが、登場人物はどの話でも限られていて、その中だけで終始し、完結していきます。
読者はどの人生が気に入ったとか、これは酷いと思ったかなどの感想をもつことを期待されるのかもしれませんが、4つのストーリーに分かれているものの、その中の半分ぐらいは前のストーリーと一字一句変わらない場面が繰り返されるので、なんとも言えない既視感というか、一度読んだ本を間違って買ってきてそれを読み進めていくうちに「あ!これ前に読んだぞ」と自らのミスに失笑してしまうような感じというか、「あ、また出てきた」と読み進めるモチベーションが次第に薄れていってしまいます。
こうした、人生の岐路でもし別の選択をしたらどうなるか?というパラレルワールド的な小説はいくつかありますが、結局は大差ない結果となり、ちょっとつまらないかな。
コミックからテレビドラマとなった「JIN‐仁‐」もその手の物語でしたが、タイムスリップをうまく使って、人生と世界を変えてしまうという試みなどなかなか面白い設定でした。
◇著者別読書感想(森見登美彦)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アイの物語 (角川文庫) 山本弘
著者の年齢は公表されていないようですが、たぶん私と同い年か近い年齢のSF作家です。この作品は、2006年に発刊(文庫版は2009年)された長編のSF小説ですが、私はこの著者の小説は今回初めて読みます。
SF作家として活躍する他にもゲームクリエイターや、トンデモ本やトンデモ品を品評することを目的とする「と学会」会長としても知られているそうです。私はなんのことかさっぱりわかりませんが。
この小説は未来の地球が人工知能をもったロボットに支配されているなかで、古い歴史の語り部役の人間の男性が、ロボットに軟禁され、そこで怪我の治療を受けながら女性の姿形をしたアンドロイドから毎日架空の物語を聞かされるというもので、千夜一夜物語にヒントを得たものと思われます。
そのアンドロイドから聞かされる物語は、小説の設定からはずっと過去の話しになる現代の地球上で起きている様々な話しや今から少し未来の物語で、その中で強く印象に残ったのが、超高齢化社会となった2030年頃の話しとして、人工知能を備えた人型アンドロイドが介護施設において初めてテスト導入される話しです。
65才以上の高齢者が2030年には3660万人に達し、全人口の30%を超えるのは確実ですが、その時果たして認知症患者1千万人を含む高齢者の介護を誰がどのようにおこなうのか?という問題はまったく解決されていません。
個人的には外国から若い人の移住を受け入れるよりも、日本の優秀な製造技術をもって介護ロボットの開発のほうが脈がありそうな気がしています。
私も中高年になって初めて知りましたが高齢になってから、見知らぬ人のやっかいになるというのは、気を遣い嫌なものです。その点相手がロボットなら気を遣う必要もなく楽です。
別に介護ロボットと言っても看護師の姿形をした万能ロボットでなくても、ベッドから起き上がったり、食事や排泄の世話や日常の生活の手伝いをするロボットで構わないわけです。
その他にもリハビリサポート用ロボットだったり、会話の相手を務めるロボットだったり、認知症患者のための行動把握、安全監視用ロボットなど、人それぞれの要望や症状に合った役割分担で使い分ける専用機でいいわけです。
個人的な考えはさておき、小説では著者の趣味もあってか、かわいらしい女性型アンドロイドで、老人の話し相手にもなれば、介護のすべてを自律的におこなえるという設定です。
最初のうちは仕事を学ぶために人間の介護士の言うことを素直に聞いていましたが、次第に学習効果が高まり、「人間は間違ったことをする」ということを学び、次第にロボットが自らの正しい考え、行動を主張し始めるところから、人間とロボットの間に溝が生じてきます。
そのような人間とアンドロイドの歴史が6つの象徴的な話しとして語られ、最後はその語り手のアンドロイドが生まれた時代へさかのぼり、なぜ人の命令を聞かなくなったか、そして地球上で人とアンドロイドが対立するようになってしまったかが明かされます。
確かに宇宙開発のように、場所によっては移動のために地球の時間で何百年、何万年もかかり、空気も水もない(あるかどうかわからない)世界では、生身の人間ではなく、アンドロイド(ロボット)が向いているというのは当たり前のことで、無理をして人間が乗り出さない方がいいのかも知れません。
580ページの長編作品で、途中少しかったるい部分もありますが、この最後の7編目の話しが壮大な物語で、読み応えは十分です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
タクシードライバー 一匹狼の歌 (幻冬舎アウトロー文庫) 梁石日(ヤン・ソギル)
1993年に発刊(文庫は1997年)された、著者が10年間に渡り経験したタクシードライバーのドキュメント本です。当初「タクシードライバーほろにが日記」として出版されましたが、発刊直後に出版元がなくなったため、変わりに幻冬舎からタイトルを変えて発刊されました。
著者は若い頃から詩を書いたりするのが好きで、いずれはそれでメシを食っていけたらいいなぁと思い、そのためにはまず経済基盤を作ってゆとりある生活を手に入れようと、様々な事業に手を出しますが、失敗して食い詰めることになります。
そして生まれ育った大阪を離れ、東京で毎日空腹でどうしようもなくなったときに、賃金の日払いが可能で、いつも募集をしているタクシードライバーになります。
そしてその経験を生かし、運転手の仕事は続けながら書いた小説「タクシー狂躁曲」を上梓し(1981年)デビュー。
その後この小説を原作とした映画「月はどっちに出ている」(1993年)が作られ、これが大ヒット、ブルーリボン作品賞や日本アカデミー賞最優秀作品賞など数多くの賞を受賞し、一躍人気作家へと登っていくことになります。運命ってわかりませんね。
このタクシードライバーという職業、一度この仕事に就くとそこからなかなか抜け出せないと言われている中で、死亡者も出た大きな交通事故に2度遭い、やむを得ず離れることになります。
そのような著者が経験してきたタクシー乗務の出来事や、同僚達の話し、そして、タクシー業界が抱える様々な問題にまで切り込んでいきます。
この本が書かれてすでに20年以上が経っていますので、現在の業界慣行や就労条件などに変化はあるのでしょうけど、昨今でもタクシー運転手の年収の低さや労働環境の厳しさなど相変わらずといった話しもよく出てきます。
私自身、以前は雨の日の通勤で、仕事で、プライベートでよくタクシーにもお世話になっていたものの、ここ数年タクシーにはほとんど乗ったことがないぐらい、縁遠い存在になってしまいました。
タクシー料金が上がると利用者が減り、利用者が減ると収入が下がり、不景気になって働く場が減るとタクシー運転手の応募が増え、運転手が増えると1人当たりの収入が減るという、わかりやすいけど、認可権を持つ国と政治的判断の要素と社会の景気の動向に大きく左右され、それに翻弄される運転手という構図がよくわかります。
◇著者別読書感想(梁石日)
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