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世界の三船敏郎が「男は黙ってサッポロビール」とテレビ画面に颯爽と登場し、一世を風靡したのは高度成長期もいよいよ円熟してきた1970年、今から43年前のことです。社会に大きな影響を及ぼしてきた団塊世代はその時既に22~25才ぐらいに達しています。

その頃までは「おしゃべり」と言えば女性の専権事項のようなもので(差別とかでなく当時の一般論として)、男性は無口なほうが値打ちがあり、沈着冷静、口数が少なく謎めいた男性のほうが女性によくモテたという時代がありました。

それが80年代後半以降のバブル時期以降、大きく変わってしまい、男女ともに「無口」=「主張がない」、あるいは「無口」=「根暗」、「無口」=「消極的」などと、「無口」という言葉にはネガティブな要素がつけられるようになりました。

また現代では社会に出る時に必要とされるビジネス能力のひとつに「コミュニケーション能力」が新たに加えられるようになり、無口な人はコミュニケーション能力が低いとされてしました。

これは日本の経済と雇用が、無口でも問題が少なかった(逆に無口で黙々と作業に徹してくれるほうが有能とされた)製造業や建築業から、口達者が好まれるサービス業が主役へと変化してきたということもあるでしょう。

ま、確かに今の社会では「あの人無口なので、何を考えているのかさっぱりわからない」と、仕事の相手として敬遠されることもあるでしょう。

逆に頭の回転の早くてそれをうまく口に出せる人が有能であると勝手に決めつけてしまう風潮があります。

でもだからと言って「無口」=「ネガティブ」ととらえるのはどうかと思うわけで、人によってインプットした後、何度もよく熟考して、アウトプットするまでの時間や、判断を下すまでのスピードには差があって当たり前です。レストランで料理を選ぶときだってそうでしょ?

それを一部の人の感覚的なスピードで判断して早い遅いの優劣をつけるのは一種の差別につながっているのではないかと思うわけです。「お前は走るのが遅いから人間として劣っている」とは言いませんよね?それと同じはずです。

自慢じゃありませんが、私自身はどちらかというと口数は少ない方で、普段から軽口もあまり言えるタイプではありません。しかしそれで今まで困ったことはほとんどありません。生きてきた時代がよかったせいかもしれません。

社会人となり仕事上では営業の仕事を長くやってきたこともあり、知らない人に声をかけたり、相手の年齢にかかわらず気軽に会話をすることにはなんの抵抗もありません。それらは高校時代から始めていた様々な接客を含むアルバイトや、就職してから自然と身につけた後天的な能力です。

ただ世間の風潮というのは「よく喋り」「声がでかく」「表情豊か」な人がポジティブととらえる向きがあり、これはもしかすると、テレビのバカバカしいバラエティ番組でひな壇に並び、リアクション芸人とか言う、大げさにわめいている下劣な芸人さんが流行しだした頃と妙に一致していて、悲しいかなそういう人が今の時代にはもてはやされているようです。

つまらない世の中になったものです。


【関連リンク】
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720 そして次男坊は希少価値を持つ
635 英語の憂鬱
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厚生労働省の調べで、2010年の大学新卒者が3年以内に退職した率が、従業員5人未満の零細企業では61%、従業員が5人から29人の小企業でも50%にのぼるというデータがありました。

一方では従業員が1000人以上の大企業では22%ということです。1000人以上の大企業と5人未満の零細企業とでは3年以内に退職する人の割合は3倍近くの開きがあるとの結果です。

また新卒3年以内の離職率が高い業種として、宿泊業・飲食サービス業が51%、教育・学習支援業が49%、医療・福祉が38%となっていてサービス業関連は全体平均の31%を上回る結果となっています。

サービス業は一般的に製造業や建設業、流通業などと比べると中小零細企業が多いのでそのような結果でも特に驚きません。どうせ業種で比較するなら規模が同じところの比較があるといいのですが、全体での比較だとこの数値だけでは判断ができません。

大企業に入社した新人は、中小零細企業へ入社するより安定した勤務と収入が得られるということで、これが私が繰り返し言う「コメンテーターや識者が公に言う嘘に惑わされず、まず大企業を目指すべき」最大の理由です。

「大学卒業しての就職で中小零細企業に入る人は、みんな我慢や能力が足りないだけだろ?」と言われそうですが、もちろんそんなことはありません。

中には大企業に入れるだけの能力や才能がありながら、意図して中小零細企業に入る人もいますが、多くの場合運悪く採用試験の成績で落ちたり、それ以前に出身校でダメだしされていたり、有力なコネがなかったり、あるいは最初からあきらめて中小零細に活路を見出した人達です。

社会人としてのスタート時点では、テストの成績や出身大学がものを言う時代でもなく個人の潜在能力に大きな差などありません。

大企業なら数十人、数百人の採用をおこない、すぐに戦力とならなくても余裕があります。しかし中小零細企業はそうはいきません。1日でも早く新人を戦力化しなければ、それだけコストと先輩社員の負担が増えて困ります。

つまり新人の戦力化に期待する要求度は大企業より中小企業のほうがずっと高く、大企業よりも早く仕事を覚えさせて実戦に投入されます。それはそれでやる気のある人にとっては決して悪いことばかりではないでしょう。

しかし決定的に違うのは、新人に対して早くから企業に多大な貢献を要求をする中小零細企業と、入社数年間は勉強期間と割り切れる大企業とで、そこに大きな差が出てしまいます。

厚労省はこの結果だけをみて「中小企業では採用と雇用のミスマッチが起きている」と判断していますが、大企業並みかそれ以上の待遇や条件の厚労省など中央機関にいる人や中小企業で働いた経験もない学者先生には、中小零細企業の採用と雇用の実態などわかるわけもなく、分析などできないでしょう。

これは「雇用のミスマッチ」などではなく、大企業と中小零細企業の(給料など)待遇、勤務条件、教育、福利厚生、要求事項の違いで、安い給料で深夜までサービス残業当たり前、土日も出勤、労基法など関係なし、研修などなく、すべて仕事は自分で考えろ的な多くの中小零細企業で、さらにその上終身雇用が壊れてきたことも加わり退職率が上がるのは極めて当たり前のことです。

要は大企業に入社した有能な人がその中小零細企業へ来たとしても同じことで、マッチングではなく、すべては勤務先において、社員を大切にし長い目で人を育てていく環境にあるかないかという伝統であり社風であり、それを許すことができる余裕があるかないかなのです。

逆に言えば従業員が1000人以上の大企業でも22%が3年以内に辞めているというのは、昭和感覚で言えばまったく驚くべき数値で、30年前なら考えられないことでしょう。それだけ今の大企業も、中小企業並みに経営環境、労働情勢の厳しさが増し、新人に対して手厚くサポートができなくなってきている証左かもしれません。

新人が3年以内に退職するのは、30年前と比べると新卒入社数年で再就職をする第2新卒市場が整ってきたことも関係していると思われます。しかし私に言わせると、せっかく苦労して大企業に就職しておきながら、3年未満で転職すれば、今までよりも環境悪化が確実の中小企業や非正規雇用の道しかありません。

その不合理と将来にわたる不利な条件となることをまだ社会人になって2~3年の若者では理解ができないのでしょう。有川浩氏著の小説「フリーター、家を買う。」に登場する主人公など、その典型が描かれています。

大企業に勤めたら、嫌なことがあっても転職してはいけないと言っているのではありません。

大企業には様々な自分が成長できる研修機会や大企業同士の有能な人達と知り合いになれる場があります。留学や資格を取るための補助や支援制度だってあります。

そういった中小企業では得られない経験や人脈、資格を一通り得てしまえば、あとは本人のやりたいこと、目指すことを自由にやればいいのです。そのためには最低でも5年、できれば10年は大企業に居座るのがいいでしょう。

社会で活躍している多くの有名人達の多くは、その略歴を見ると学校卒業後、最初はだいたい大手企業や中央官庁に勤めています。

それをみれば明らかなのですが、そういう新卒即大企業就職組から学生に向けて発せられる「やる気があるなら中小企業を目指せ!」という言葉はどうしてもうさん臭く聞こえてしまうのです。


【関連リンク】
717 非正規から正規雇用への転換策
710 40歳以上の解雇や退職勧奨は最悪だ
714 離職率が高いことは悪ですか?
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766
ダブル・ファンタジー (文春文庫)(上)(下) 村山 由佳

2009年刊(文庫は2011年刊)の長編小説で、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞の文学賞トリプル受賞という高評価な作品で期待をしつつ読み始めました。

結婚している35才の売れっ子女性脚本家が主人公で、旦那はそれまで勤めていた会社を辞め、妻が仕事に集中できるよう家事を一切を引き受け、また仕事のマネージャーとして妻をサポートしています。

しかしいきなり冒頭で、自宅に出張ホストを呼びつけての濡れ場が展開され、いったいどういうストーリーなのか、単なる女性向けのエロ小説か?とも思いつつ読み進めると、次には主人公と師匠と仰ぐ売れっ子演出家の男性との退屈でベタな不倫を匂わすメールのやりとりが延々繰り返されます。ここらで読むのを断念するかと何度思ったことか。

これはおそらく週刊文春への連載小説という性格があったのでしょうね。飽きられないように時々は激しい濡れ場を挟むのは一種読者サービスで、そうしないと毎週買ってくれません。

村山由佳氏と言えば2003年の直木賞受賞作「星々の舟」を読んだときは、内容はいちいちくどいところがあるものの、終盤はそれなりに面白かったからと気を取り直して読み進めていくことにしました。

しかし結局、どこまでいっても女性主人公の異常とも思える旺盛な性欲が、世の中の倫理や道徳など吹き飛ばし、勘違いしている旦那とは別れられないまま、男をとっかえひっかえしつつ、ただ官能の世界を重ねていき、その都度男のテクニックを事細かく評価していくという困ったちゃんです。

きっと現実社会で欲求不満な女性読者(週刊文集にどれほどの女性読者がいるのかは知りませんが)にとっては「その夢のようなモテモテの環境に一度は浸ってみたい」と気持ちのいい気分にさせてくれるのかもしれません。おぞましい限りです。

したがって枯れつつある中年男性が読んで面白いわけもなく、文学賞受賞作だからといって、必ずしも読む価値があるとは限らないという見本のようなものでしょう。

著者別読書感想(村山由佳)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

一刀斎夢録 (文春文庫) 上・下 (文春文庫) 浅田 次郎

単行本が2011年刊、文庫本は2013年刊の浅田次郎作品文庫新作で、新選組の中で一番腕が立つとも言われていた新選組三番隊長・斎藤一(さいとうはじめ)が主人公の小説です。

新選組が壊滅した後は会津で闘ったものの降伏とあいなり、その後改名して藤田五郎と名乗り警視庁勤めをしていた時、腕はべらぼうに立つが、散々人を斬ってきた斎藤一の本名が警視庁の中で出てくるのはさすがにまずかろうと、名前をひっくり返した一刀斎という隠語で語られるようになり、それがタイトルとなっています。

著者は新選組がたいへんお好きなようで、過去には「輪違屋糸里」「壬生義士伝」などの作品がありますが、いずれも新選組が好意的に書かれています。この作品を合わせて新選組三部作と言われているそうです。

映画になった「壬生義士伝 」では大正時代まで生き残った斎藤一を佐藤浩市が、大河ドラマ「八重の桜 」では会津藩とともに戦う斎藤一を降谷建志が、いずれもイケメンで格好良く演じていましたが、近年では新選組の中では土方歳三、沖田総司に次いで人気がありそうです。

その一刀斎の小説ですが、物語の出だしは皇居のそばをひとりで馬に乗って名残惜しく散策する乃木将軍です。

乃木将軍といえば世界に日本という強国があることを知らしめた日露戦争で活躍した武人で有名ですが、明治天皇が崩御されたあと、天皇に殉じるため妻と一緒に自害を果たし、それはつまり明治という世が名実ともに終わったことを指しているわけです。

やがてもうひとりの主人公で、陸軍近衛師団の梶原中尉が、剣道仲間から教わり、老いた斎藤一が住む家を訪ね、1週間連続してその壮大なる剣士の語り部を聞くという流れです。

壬生浪士組の成り立ち、芹沢鴨の暗殺(暗殺には立ち合わず、芹沢と仲のよかった永倉を見張っておく役目、坂本竜馬の暗殺(自分がひとりで得意の居合いで斬り、自分が去った後、つけてきた京都見廻組がとどめを刺したと語る)、伊東甲子太郎ら御陵衛士暗殺の油小路事件、負け戦だった鳥羽・伏見の戦い、勝安房守(勝海舟)にはめられた感のある甲州勝沼の戦い、死に場所を求めて最後の砦となる会津へ下る話しなど戊辰戦争のこと、降伏し謹慎後に警視庁に勤めるようになり、その警察官として参加した西南戦争など新選組というか幕末から明治にかけての話しがこれでもかというほど(著者の想像や推測も含め)登場してきます。

特にクライマックスの西南戦争では、鳥羽伏見の戦いでは薩摩藩に裏切られ、敗走する結果となった新選組など幕府側の志士達の生き残りが、今度は逆に官軍となり西郷隆盛率いる旧薩摩藩士と戦うという構図に不思議な縁を感じます。

これはもしかすると武士世界が終わり、全国にはびこっていた不平士族達を抑え込み、明治政府を安定させるために大久保利通と西郷隆盛の策略にはめられたか?との疑念をもちます。

そう考えると、明治政府に楯突き、多くの官軍兵士を殺したはずの西郷どんが、戦争終結後まもなく首都東京の上野公園に銅像が建てられ英雄視されるのも不思議ではなかろうと。

そして最後に待ち受けていたのは、不思議な縁を持つ二人の鬼と呼ばれる師弟が激突することになります。

いや~面白い、楽しい、こうした江戸前の頑固一徹オヤジの語りをさせると浅田次郎氏の右に出る者はいません。

余談ですが、読み続けていて、斎藤一の語りの聞き役だった梶原という近衛師団の陸軍中尉が陸軍内で一二をを争う剣道の達人という設定になっているので、その梶原中尉が新選組の中で斎藤一がただひとり実戦的な居合いを教えた元浮浪児だった弟子市村鉄之介の子供だったとか、ゆかりがあったというオチが最後につくのかなと思っていましたが、残念ながらそれはありませんでした。

著者別読書感想(浅田次郎)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

小太郎の左腕 (小学館文庫) 和田 竜

映画化もされた「のぼうの城」で文学界にデビューを果たした著者の3作目にあたる小説です。この作品は2009年に初出(文庫化は2011年)で、前2作品と同様に戦国時代が舞台のエンタテーメント小説です。

ちなみに映画「のぼうの城」は戦国時代に埼玉県行田市に実在した忍城の攻防を描いた作品で、この難攻不落の城を石田三成が周囲の川をせき止める大土塁を築き上げて水攻めをすると設定でしたが、その公開予定がちょうど東日本大震災の津波災害直後だったということもあり、諸般の事情をくみ1年遅らせて公開されたといういわくつきの映画です。

この小説のストーリーは、祖父と山で暮らしている小太郎という子供が、雑賀衆の血筋に目覚め、メキメキと射撃の腕を上げていき、その子供を不利だった隣国との戦争でうまく利用した武将との関係をドラマチックに描いた小説です。

雑賀衆とは、16世紀頃、和歌山で発達した鉄砲など武器製造や、それを扱う専門家を養成していた武装組織で、戦国時代には織田信長や豊臣秀吉とも闘いました。

タイトルにもなっている小太郎という子供がその雑賀衆の末裔で、その天性で身についた射撃の腕にいちはやく気がついた武将が、鳥を撃つのにも心で詫びているその優しい心をもった子供に対し、躊躇なく人を撃つことができるように、少年の唯一の心の拠り所であり、身内である祖父を殺め、その責任をすべて敵方になすりつけ、復讐のためと味方につけます。

しかしその純粋な子供を騙して殺人マシンに変えてしまった後ろめたい気持ちが、やがては武将を追い詰めることになり、想定はしていたものの驚愕のクライマックスへと突入していきます。

内容は映画化にも向いていそうなエンタテーメントですが、上記の「のぼうの城」と比べると、派手さや迫力に乏しく、しかも史実に沿った内容でもないので、時代劇や歴史ファンの心をつかむのはちょっと難易度が高そうです。

著者別読書感想(和田竜)


【関連リンク】
 10月後半の読書 時のみぞ知る(上)  クリフトン年代記 第1部(上)(下)、湾岸リベンジャー、新・世界の七不思議
 10月前半の読書 私の男、恋愛時代(上)(下) 、小説・震災後、通天閣
 9月後半の読書 脳に悪い7つの習慣、コンダクター、ガセネッタ&シモネッタ、その街の今は

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765
日本は世界の国と比較して労働生産性が低いと言われています。どれぐらい低いかと言えば下記のOECDが発表する統計データを元にした数値とグラフがよく使われています。

労働生産性上位30国




1人当たり国内総生産とは、その国の国内総生産額(GDP)を総人口で割った数値で、労働生産性は就業人数で割った数字です。日本のように少子化でリタイヤした高齢者の比率が急激に進むと就業人口が大きく減ってきますので、もしGDPに変化がなければ1人当たりGDPや労働生産性は今後高まっていく可能性があります。

1人当たりGDPと労働生産性のトップはルクセンブルグで、人口が少ない(486,000人)割りに重工業が発達していて、さらに国際的な金融センターもあり、それらが効率よく機能していて労働生産性が高くなるそうです。その他比較的人口が少なく、その国が推し進める主要産業がヒットしている国々が上位にきています。

日本は主要先進七カ国(黄色)の中では労働生産性は最も低く、国民1人当たりのGDPでも最下位のイタリアに続きブービーという散々な状況です。

これらを見て、日本人の労働生産性の低さを嘆く人が多いのですが、私はそれにはなにも関心がありません。

私も30年以上社会人をやってきて、その中ではわずかな期間ながら外国人(アメリカ人、カナダ人、香港人、韓国人、インド人、ドイツ人)と一緒に仕事をやってきた経験があり、彼らの仕事に対する考え方や、合理性にうなづく点は多々ありました。

そして平均的な日本の会社では仕事の進め方や時間の使い方に無駄が多いと感じたこともあります。一般的に「お役所仕事」と言えばもっとも効率が悪い保守的で前例主義の働き方で、それが今までの代表的な日本の生産性です。

それでもやっぱり、この日本人の特性や感性を考えると単に「労働生産性を上げる」ことはいいことだと思わないのです。

わかりやすく説明すると、製造業において労働生産性を上げるというのは、「生産効率を上げ同じ時間で同じ(ような)製品をたくさん作る」「人がやっていたことを正確で速い機械(ロボット)に置き換える」「安い労働力の海外へ工場を移転する」などが考えられます。

しかし「生産性を上げる」の名の下に、それまで人が丁寧に作り込んでいた製品を、効率とスピードを重視するばかりに精度が落ちてしまったり(品質劣化)、検品ではギリギリセーフの不良製品が多く混じったり(歩留まり悪化、初期不良の増加)、機械(ロボット)で作ることを優先し(失業者増加)、製品の機能やデザイン、美的センスが失われたり(製品の画一化、製品を使い続けたいというファンやロイヤリティの高い消費者減少)していきます。

1970年代以降から1980年代の日本の工業製品はそれこそ世界を席巻していたと言ってもよいでしょう。その頃でもすでに「労働生産性」という意味ではトヨタの「カンバン方式」や米国から持ってきた大量生産のノウハウが生かされていましたが、現在製造業の現場でおこなわれているほどの究極的なものではありません。

そして当時日本で作られたMade in JAPANの製品は、今では過剰品質とも言えるほどの「質がよくて壊れない」という伝説を作り上げることができました。

なんしろアメリカの高価で精巧な誘導ミサイルに使われている部品より、ソニーのビデオデッキに使われている部品のほうがはるかに精度が高かったという時代です。

また例え製品が壊れても「修理が簡単にでき、交換部品もすぐに手に入る」ことも大きなメリットでした。

それが90年代以降経済成長が止まり、製造業が軒並み目一杯のコスト削減や、それこそ労働生産性を上げてライバルに打ち勝つため、そして利益を出すため必死で改革を推し進めました。

その結果どうなったかと言えば、工場の海外移転と大量の失業者、工業製品の品質低下、そしてMade in JAPANの崩壊です。すでに日本が世界に誇った家電製品や、最近はバイクや自動車まで海外生産する時代となりました。

日本だから作れるという工業製品は、極めて特殊で精緻を極めたいわば芸術的作品のみとなり、最近の海外製の家電は安いけれど初期不良が多く、また耐久性がなくてすぐに壊れ、中の主要な部品はブラックボックス化されていて簡単には修理ができないという「次は買いたくない3拍子」が揃ってています。労働生産性をむやみに上げてきた結果、このようなつまらないことが起きたわけです。

さらに日本の労働生産性を産業別に見ると、すでに製造業の労働生産性は主要7カ国中ではアメリカに次いで第2位と高くなっています。つまり低いと言われる労働生産性は製造業以外のところで起きていることがわかります。

他国と比べて労働生産性が低い業種は卸し業、小売業、飲食業、金融業、不動産業、建設業と言ったところです。

では小売業や飲食業の労働生産性を上げるにはどうすればいいでしょうか?

答えは「お・も・て・な・し」の心をスパッとやめてしまえば労働生産性は上がります

店員を大幅に削減し、わざわざ来店時の挨拶やお声掛けは不要、いちいち客の好みを聞いてアドバイスをしたり、客に水やおしぼりを運ぶなんてのも効率が悪いので廃止。店員数を極限まで減らし、単なるレジ打ちやセルフサービスにしてしまえばいいのです。

それで(客が減らなければ)生産性はグッと上がります。味で勝負の行列のできるラーメン店などではすぐに実践できそうです。

不動産業にしても、法律で定められている「重要事項説明」なんてしち面倒臭いことは規制緩和して廃止し、宅建などの資格も大幅緩和、誰でも参入が容易にすることでずっと効率は高まるでしょう。

大きな建物を造る際の近隣住民説明なんて義務も手間がかかりすぎるので廃止。賃貸マンションの紹介もわざわざ従業員がクルマで送迎して何部屋も見て回るなんて無駄の骨頂は即刻廃止し、客には間取り図とGoogleストリートビューや動画を見てもらい即決してもらいます。

金融業もお金のない若者や中小零細企業などは相手にせず、お金持ちの高齢者や大企業、優良企業だけを優遇するサービスを展開。

一流の銀行や証券会社で口座を作るには個人で1千万円以上、法人なら1億円以上の貯金が必須とか。銀行が相手にしない貧乏人や零細企業にはきっとサラ金や闇金、地元の信用金庫、JAなどが相手にしてくれるでしょう。

日本では就業人員がこれからどんどんと減っていくのですから、効率の悪い貧乏人相手の仕事や無駄が多い仕事を次々と廃し、もっと生産性が高く、高付加価値を生みだす仕事に就かせなくてはなりません。

・・・という日本がお好みであれば、自然と労働生産性は向上していくのでしょう。私は嫌だけどね。

繰り返すと、労働生産性を上げようというのは、政治家や経営者にとっては願ったりかなったりのことで、誰も反対しません。だってそれによって自分(政治家や経営者)は名を上げたり儲かるわけですから。

では雇われている人が、労働生産性を上げることは?

考え方ですが、労働生産性を上げたことで、それによって浮いた時間が自分のために回せるのか?と言えば、それは現実的ではなく、浮いた時間は新たに別の仕事や労働生産性の低い人の仕事をを余分に入れられ、そして「もっと労働生産性を上げようね」でお終いっていうのが実際のところでしょう。

また労働生産性が向上したことで、その分の売上が伸びて給与にも反映されれば経営者も従業員もお互いハッピーですが、人口が減っていく国内向け、新興国との競争が激しい海外向けの市場においても、今後大きく成長し規模が拡大していく産業というものはほとんどありません。規模が拡大せずに生産性だけ上がると、結局は雇用が減っていくだけです。

一部の外資系企業のように、個人個人の具体的な目標がハッキリと決められていて、それを半期か四半期ごとにクリアさえすれば、あとは勤務中になにをしていようと、時間をどう使おうと勝手というところなら、自分の労働生産性を頑張って上げて、例え部下や同僚が苦しんでいても見て見ぬふりをして定時でさっさと帰社し、ひとりだけ長い有給休暇を取るのもアリでしょうけど、今のほとんどの日本企業でそのようなことが許される環境ではないことは誰でも知っているはずです。

よかれと思い自分の労働生産性を頑張って上げ、そして労働生産性の低い部下や上司の分まで仕事を回され、そのせいでストレスや疲労がたまり、とうとう身体を壊して、、、というようにならないことを願うばかりです。

但し、競争の激しい民間企業の中では、個人の労働生産性が周囲と比べて著しく低い場合、昨今は真っ先にリストラの対象となる可能性があります。なので決して個人の労働生産性が低いことをただ推奨しているわけではなく、身体をこわさない程度にほどほどにねって言うことです。


【関連リンク】
725 農業の大規模化と零細な起業
639 前からだけど日本の大手製造業はやっぱり変だぞ
636 昨今の新入社員は終身雇用制を支持している
611 海外移転で製造業の労働者はどこへいったのか?

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764
先日録画しておいた映画「慕情 」(原題:Love Is a Many-Splendored Thing)を、ゆっくりと鑑賞しました。この映画は私の生まれる少し前の1955年(昭和30年)に劇場公開されたヘンリー・キング監督のアメリカ映画です。

主演は当時人気絶頂中のハリウッドスター、ジェニファー・ジョーンズとウィリアム・ホールデンの二人。舞台は日本の敗戦で再び英国の植民地となっていた香港です。

なぜ今頃この映画を見たかというと、25年前に香港へ数ヶ月仕事で渡ったときに、現地の人に何度か「慕情」を観たか?と聞かれたことがありました。

おそらく地元の人が「ここがあの時のシーンで使われた場所だ」とかを自慢したかったらしいとあとになって気がつきましたが、その時は「香港が舞台の古い有名な映画があったんだ」ぐらいにしか知りませんでした。

私の年代で香港が舞台の映画といえばブルース・リーやジャッキーチェンが主演の映画が代表的なものです。

今の香港しか知らないと、この60年近く前のこの映画に出てくる街や海岸を見ても、それがいったいどこなのかはさっぱりわからないでしょうけど、雰囲気がなんとなく戦後間もない頃の日本の地方の風景と似ています。今なら数え切れないほど建っている高層ビルも当時はありません。

そして当時は、日本の敗戦後、東アジア情勢は再び緊迫してきており、香港のすぐ近くで起きていた中国の国共内戦が拡大し、香港へも多数の難民が押し寄せているという時代です。さらにはその後勃発する朝鮮戦争が、主人公の二人に降りかかる悲劇をもたらす結果となります。

ヒロインのジェニファー・ジョーンズは物語では中国人と英国人のハーフという設定で、共産党が勝利しつつあり、親戚が住む中国本土に戻るか、それともこのまま英国領の香港に留まるかという選択を迫られますが、アメリカ人ジャーナリストへの愛を選択し香港に居続けます。

しかしどうみても派手な面立ちでいかにも欧米人然とした立ち振る舞いのヒロインが、衣装だけチャイナ服を着ていても違和感があります。

でも、ストーリーとしてはよくできた面白い映画で、香港で暮らす上流階級のエキゾチックな雰囲気も楽しめ、映画が大ヒットした理由もわかります。

欧米人にすれば東洋の真珠といわれていた香港という街の蠱惑的な魅力と、当時はまだ人種的差別も普通に残っていただろう中で小柄なアジア人を下僕のように使い、周囲で戦争(内戦)が起きていても我関せずで(ベトナム戦争もまだ起きていない)、王様のような特権階級に身を置く欧米人が、優雅な生活をおくりながら暇つぶしのようにする悲恋は、さぞかし現実離れしたファンタジーだったでしょう。

アジア人からすると、アジア人の血が半分入った(とされる)ヒロインへの思い入れで感情移入し、妻がいるものの、ハンサムでこまめに愛情を注いでくれるアメリカ人男性に対し、儚くかなわぬ恋が破れ去りきっと多くの女性が同情し涙したことでしょう。

と、映画「慕情」を観た後、その時たまたま読んでいた村山由佳著の小説「ダブル・ファンタジー 」に、旦那のいる主人公がテレビ取材ロケハンのため香港を訪れてスターフェリーに乗っていると、偶然昔の恋人とバッタリ出くわし、そのまま関係を復活させるというシーンがありました。

映画「慕情」では男性に妻があり、この小説では女性に夫がありと、どちらも不倫の関係であるところがなにか印象的です。香港の魅力の中では倫理観や道徳心も消し去ってしまい、男女の欲情を高ぶらせるなにかがあるのでしょうか。

この小説では「慕情」の5年後の1960年に公開された、やはり香港が舞台の映画「スージー・ウォンの世界」(英・米合作)の話しが出てきます。主演は同じくウィリアム・ホールデンなので、おそらく「慕情」の大ヒットで二匹目のどじょう狙いだったかも知れません。

話は変わって、私が香港で仕事をしていたときに、偶然知り合った同い年の友人とは、結婚式に招かれたり、帰国後も時々食事をすることがありますが、先日会ったときには「あと5年で定年になれば、香港へ渡って事務所を開こうと思っているので、一緒に来ない?」と声をかけてくれました。

もちろん社交辞令ですが、25年前香港で知り合ったときには全然別の仕事をやっていましたが、なぜか気が合い、海千山千の香港人相手に苦労をしながら一種戦友的な友情が育っているようです。

そう言えば、香港にいる間、普通なら日本人駐在員グループで住まいもアフター5も集まりたがるところ、彼も私も日本人がひとりもいないアパートに住み、休みの日は他の日本人同士で遊ぶことはなく、現地で親しくなった香港人と一緒に遊びに行くのが楽しみで、そういうところがお互い共通していました。

股関節を傷めていて、ろくすっぽ歩けない私には、東京以上に激しく行動的な香港へ行ってなにか一仕事をするのは無理ですが、それでも時に懐かしい香港の猥雑としたけん騒を時々思い出すことがあり、こうした映画や小説に香港が出てくると、おもわず嬉しくなる今でも十分に魅力ある街です。

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