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書籍にも似たタイトルのものがありますが「やめることから始めよう」という題がついたある記事の中に、「意味のないやめるべきこと」の一例として「年賀状のやり取り」というのがありました。

その筆者にとっては「新年の挨拶として大切ではあるが、その後1年間に送った人とどれくらいやり取りしたり、会ったりしただろうか。意味がないと思える人に送るのは、やめたほうがいい。」とバッサリ切り捨てています。

おいおい、それは全然違ってるぞ!と思わず反論です。

ここで筆者が記事に書いている「意味のない年賀状のやり取り」とはなにか?ということですが、前後をみてみると、「その後1年間に送った人とどれくらいやり取りしたり、会ったりしただろうか」=「会わない人には送っても意味がない」と言いたいようです。

ちなみに筆者は某コンサルティング系企業の社長さんですが、私個人的に言えば、こういう根源的な過ちを平気で公言する社長がやっている会社とは絶対に付き合いたくないものです。

私は「頻繁にやり取りしたり、会ったりする相手だから年賀状を送る」なんてことは、社会人になってから一度も考えたことがありません。確かにそういう人も少数ながらいますが、多くは、1年のうちに滅多に顔を合わせることのない人や、もう何年も会っていない人に対し、ご無沙汰のお詫び、近況の報告、新年のご挨拶として送ります。そういう相手だからこそ年賀状が最大限にいいのです。普段会える人には会って挨拶すればいいのです。

ずっと会っていない、会えないからこそ、例え虚礼と言われても1年に一度の年賀状を出すべきであり、それが過去に恩や縁のあった人に対しての最低限の礼儀ではないでしょうか。またそうして1年に一度ぐらいは様子伺いをしておかないと、その方の安否や、今どのような状態、環境にいるかもわからなくなってしまいます。

いつでも顔を合わせる会社の同僚や上司などは、否応にも会社が始まれば、直接新年の挨拶をおこないますので、年賀状は不要でしょう。それこそあまり出す意味がありません。

そうではなく、法事の時にしか会わない遠い親戚や、遠く離れて暮らす兄弟、学校時代の恩師や同級生(小・中・高・大)、元勤めていた会社の同僚や当時お世話になった方々など、それだけでも普通ならすぐに50~100人ぐらいに達するでしょう。

私の場合は、そういう方が9割で現在の仕事関係は別にして約70~90枚ぐらいを毎年出しています。それこそ仕事関係で出すのは年々減ってきて(減らして)今では10枚程度で、合計100枚程度です。

よく定年になって会社を退職した途端、年賀状の枚数が激減してガックリ落ち込むという話題が面白おかしく伝えられますが、その原因は現在の勤め先関係、つまりは上記記事の筆者が意味があると思っているらしい「やり取りしたり、会ったりする人」ばかりの年賀状だから起きることです。

そしてここが大事なのですが、年1回の個人の年賀状は、昔は苦心して毎年干支の絵を芋版やゴム版に彫って、宛名書き含めすべて手書きで1枚1枚作っていたものですが、最近はパソコンと年賀状ソフトとカラープリンターで簡単に作れてしまいますので、せめて一枚一枚自分の近況や、相手を気遣うひと言を手書きで添えるのが重要なポイントです。それができるのは(やる気が起きるのは)せいぜい100~150枚程度まででしょう。

私の知人の中には、毎年800枚ぐらいの個人宛の年賀状を出したりもらったりしていることを自慢気に語る人もいますが、それだけの数だと、業者で印刷して、形式上送るだけになってしまっているでしょう。そういうのはどうかと思います。もらった側も、印刷だけの他のDMと同じでほとんど記憶に残らずポイでしょう。

やっぱりもらって嬉しい年賀状は、どんなに美しい写真よりも、お金をかけて印刷されたものよりも、「自分あてて書かれたひと言」です。効率ばかりを求めるデジタル社会の弊害なのか、そういった気遣いの重要性を考えなくなった人が増えて残念でなりません。

あと、10数年前頃から始まった電子メールで送られてきて、ネット上で見るネット(Web)年賀状というのがありますが、私は物珍しかった初期の頃は別として、ここ数年それをもらってもそれらを開いた(クリックした)ことがありません。

だってその人の温かさや思いやり、人柄というものが感じられず、逆に無機質な汎用デザインで興ざめしてしまい、とても寒々と感じるからです。年のせいだと言ってしまえばその通りかもしれません。

そして送った相手から、それを見てくれたかどうかがわかるらしく、たまに「ネット年賀状を送ったのに、開いてくれない」とクレームを寄越す人がいますが、そんなものを送られるほうが迷惑だと思っているので、特に相手にしません。

個人でも会社関係でも同じですが、せっかく年賀状を送るのならば、滅多に会うことのできない人に、そして必ず自分の近況や相手や相手のことを気遣うひと言を添えて送りましょう。その効果はアナログ的かもしれませんが、きっと将来自分の大きな財産となっていきます。

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年末で退職し、新年から就職活動を始めようとする方も多いのではないでしょうか。若い人や、稀少な特技、資格の持ち主であれば、仕事内容、業種、企業規模、地域を選ばなければ、非正規雇用を含む再就職にそれほど難しいことはないのでしょうけれど、中高年以上で、特段これといえる資格や特技、それを裏付ける経験がないと、これはもう半端なく再就職への道は険しいものがありそうです。

201201_001.jpg再就職活動において必ず必要となるのが履歴書と職務経歴書です。私も過去に採用業務に携わったことがありますが、意外とこの書類を軽く見ている求職者が多いのに驚きます。

その書き方については、ネットで探せばいくらでもサンプルや、書き方の注意点がありますので、それを参考にするのはいいのですが、そういった書き方や内容以外について、なにも偉そうに言うわけではありませんが、面接官としても、そして中年になってから求職者としてもどちらの経験もある私の持論を少しばかり書いてみます。

まず、ネットにある転職サイトや大手の人材紹介会社サイトでは、オンライン上で様々な履歴書や職務経歴書の基本情報を記入し保存しておけるコーナーがあり、ポンポンと情報を選んだり書いていくと一丁あがりで登録が完了できます。これはすごく便利で簡単なので、一度自分の職歴や経歴を整理する意味でも使わない手はありません。

登録したからといって「公開しない」「いますぐ転職しない」「スカウトを受けない」などを選んでおけば、サイト運営各社からのPRメールは送られてくるでしょうけど、余計な斡旋や面接がいきなりくることはありません。

しかし実際に転職活動をするならば、それだけではなく、ちゃんとした市販の履歴書や顔写真も必ず必要になってきます。つまり第一次の書類審査では転職サイトや紹介会社の登録情報を見ますが、実際に面接となれば、公式の履歴書や職務経歴書が必要となります。

履歴書に貼る写真は、できるだけ高級なダークスーツを着て、白い無地のシャツに派手ではない落ち着いたネクタイを締め、髪の毛も年齢と社会人にふさわしく整えてから写しておきます。できれば会社を退職する前、現役社員のあいだに写真屋さんで撮影しておくのがベターです。

それは現役と現役を離れてしばらく経過してからでは、顔つきやスーツの着こなしに微妙な変化が起きてしまい、当然前者の現役の目の輝き、緊張感、顔つきが書類審査での面接官受けします。この微妙な差はわかる人にはわかるもので、男女とも同様です。履歴書を提出した後、書類審査でいつも落ちてしまうという人には、この写真の影響が少なからずあるのかもしれません。

準備が悪く、面接にいく途中の駅にあるスピード写真で撮影し、その場で切って履歴書に貼り付けて提出するような人がいますが、面接官にしてみれば、目の前にいる人と、写真の服装やネクタイ、寝癖がではねた髪の毛まで同じで、「事前の準備もしないで、軽い気持ちで来たな」とすぐにわかってしまいます。オマケに履歴書に貼り付けた写真の切り方が雑だったりしたら「いい加減な仕事をしそう」「こいつ就職をなめてんのか?」とその時点でアウトです。

嘘みたいな話しですけど、本当に多いんです、履歴書の写真にいい加減な人が。実話ですが、履歴書に学生時代に取ったと思えるセーラー服を着た三つ編みの若い女性の写真が貼ってあり、しかし目の前の応募者はどうみても40歳過ぎたくたびれた中年のおばちゃんで、履歴書の年齢も実際にその通りだったりしたこともあります。あるいは前の履歴書からはがしてきたのか写真がヨレヨレになっていたりすることもよく見かけます。

あと、写真はできれば3分間スピード写真ではなく、少々高いですがパソコン用データとしてもらうことができる写真屋さんで撮影しておくことをお勧めします。そのデータさえあれば、普通の2万円もしないカラープリンターと写真用の高品質紙で印刷すれば何枚でもすぐに出せますので、非常に便利です。

次ぎに履歴書ですが、多くの指南書では手書きで書くのが基本とされていますが、私の場合は、氏名だけ自著し、あとはすべてパソコンで印刷していました。

字の綺麗な人はもちろん全部手書きすればいいのですが、決して字の上手くない人は、応募要領に「手書きの履歴書」と書いてなければ、パソコンで作った履歴書でいいのではないかと思っています。今までそれを相手に指摘したり、されたことは一度もありません。面接官だって忙しいのに、クネクネとした読みづらい手書き文字なんか読みたくはありません。

201201_002.jpg私がパソコンで履歴書を作ったのには2つの理由があります。

ひとつは上記にも書いたとおり、字が上手くないからです。そして、もうひとつの理由は、いくつもの会社へ履歴書を出す場合、いちいち手書きで書くのが面倒なのと、途中で間違えるとダメになります。中には修正液で直している人もいますが、それこそ絶対ダメです。

また一度提出した履歴書が、不採用で返却されてくることがあります。その戻ってきた履歴書を再度次の応募先へ提出する人もいますが、それでは「志望の動機」にキチンとした内容を書けません。「志望動機」にどこの会社でも使えるような内容、例えば「貴社の業種に興味があるため」などが書かれていると面接官としてはそれだけで「ああ、使い回しね」「要はどこでいいんだ」と判断します。志望動機は相手の会社のことをちゃんと事前に調べて、それに沿った内容を書くべきです。

使い回しをしないという点では、職務経歴書にも同じ事が言えます。

応募先の業種や募集職種、募集内容によって、相手の気を惹くよう職務経歴書を柔軟に変えるのはぜひともやるべきことです。そのためにも、一度パソコンで作っておけば、あとは相手先に応じて簡単に変更できます。

履歴書も職務経歴書も、その折り目や用紙の新しさをみると、それが今回初めて使われたものか、それとも使い回しされてきたものかは、毎日そのたぐいの書類を見て触っている面接官にはわかります。「履歴書は新しいのに、職務経歴書は何度も繰り返し折られているな。」「この人何社も受けてきて、全部ダメだったようだな」と履歴書や経歴書を見ただけでわかるのです。そういうちょっとしたことでも、面接官の心証を悪くしてしまいます。

したがって履歴書も職務経歴書も、直前に一緒に印刷し、写真も綺麗に貼り、綺麗に折って封筒に入れるなりします。私の場合は、面接の時に直接渡すようになっていたので、折らずに綺麗なA4の透明クリアケースに入れて、そのまま渡しました。郵便で事前に送付するならともかく、直接手渡しするのにわざわざ折る必要がないのと、面接官が折られた履歴書を開くムダを省いたのです。ちなみに採用が決まり人事部が保管するときも、A4サイズなら折りたたんで保管はしません。

整然と書かれた(印刷された)履歴書や職務経歴書を渡され、手に取ると、インクの香りがほのかにたつというのは、いかにも新鮮であり、なによりも応募者の真剣さが伝わります。

そして面接の際に見られる履歴書や経歴書ですが、強調すべき点は応募先によって変えることを上記で書きましたが、当然ながら事実だけを書いて、質問されたときに自信をもって応えられることが必要です。

趣味に読書と書いておいて、最近読んでいる本はなに?と聞かれて「えーーと」と長考してしまうようだと「信用がおけない」と思われますし、最初に頭に思い浮かんだ漫画のタイトルをあげたりすれば、苦笑されてそれでお終いでしょう。

また面接にいく会社のWebサイトを事前にしっかり見て、業種や事業内容、規模、主な拠点、社員数等は知っておくべきです。さらにはその会社のライバルや業界での位置(業界第何位とか)まで調べておくことです。

私の場合は、再就職活動中の何社か目で、ようやくこの会社に入りたいと強く思ったので、会社概要と業務内容の項を印刷して面接の直前まで眺めていました。ついでに、その会社の採用ページでリンク切れを発見していたので、その点も面接の終わりに伝えました。その会社には結果採用されましたので「生意気な応募者」とは思われず、逆に毎日何名も面接をする中で、相手の印象に残ったことは確かでしょう。

それなのに、面接官からなにか質問は?と聞かれ、会社概要に書かれているのに「社員さんは全部で何名ぐらいいるのですか?」とか、業界ではトップから大きく離された2位なのに「業界のリーディングカンパニーの貴社は・・・」とか平気で聞く人がいます。いかにもなにも調べていないし、やる気も感じられないと思われてしまいます。

あと履歴書のテンプレートですが、ネットで探せばいくらでもありますが、会員登録しなければならなかったりするのもありますので自分にあったものを探してください。

例えば、私は関係者でもなんでもありませんが、ネット系コンサルティング会社の株式会社DYMが運営している「履歴書の書き方と履歴書のダウンロード講座」というサイトでは、登録せずともWordの履歴書や職経歴書テンプレートがダウンロードできます(2012年1月現在確認済み ダウンロードおよび利用は自己責任で)。

まだまだ雇用状況は厳しさが続くものと予想されています。例えば希望する業界や職種以外に活路を求めるなど、思い切った発想の転換も必要かも知れません。私自身、今も決して安住の地にいるわけでもなく、特に年齢を重ねるたびに働くことの厳しさを肌で感じています。

少しでも多くの方が、努力と工夫により、自分が気に入った仕事に就き、そして賃金が得られますよう、心より願っています。



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黄金の島 (講談社文庫) 真保裕一

真保裕一氏は、1961年生まれということですから、今年51歳と小説家としては脂がのっている世代でしょう。氏のデビュー作「連鎖」は文庫になってから読みましたが、なかなかの傑作で、それ以降映画でも大ヒットした「ホワイトアウト」や「アマルフィ」、テレビドラマになった「奇跡の人」など次々とヒット作を出しています。この黄金の島は、2001年に初出で、文庫版は2004年からです。

内容は、ヤクザになりきれない半端者の男が、しばらく姿を消すためにタイへ逃げ、そこでも謎の追っ手が現れたことによって、隣国ベトナムへ不法入国することになります。

最近のベトナムの話題と言えば、解放政策が取り入れられ経済絶好調で、日本からも必死に新幹線の売り込みがされていますが、20年前のベトナムはまだアジアの中でも特に貧しい閉鎖的な共産国でした。

特権階級にいるわずかな高官やその家族、親戚以外は、虐げられ抑圧され、虐め倒されています。そのあたりの暗い話しは、以前読んだ梁石日(ヤン・ソギル)氏の「闇の子供たち」を彷彿させます。

若者が生きていくために、また黄金の国といわれる先進国日本に行けば明るい未来があると信じて、命をかけて密航しようとする気持ちをこれでもかというぐらいに書き込まれています。

そのような日本へ出稼ぎにいき、大金持ちになって帰ってくることを夢見ているベトナムの若者と、命を狙われたり、ベトナムの警官に刃向かったために酷い仕打ちを受ける主人公が、様々な難関をくぐり抜けて、台風の大時化に乗じて漁船で日本を目指すといったストーリーです。

しかし主人公は決してヒーローでも格好良くもなく、そしてハッピーエンドでもなく、読んでいて気持ちがズンズンと重たく沈んでいくことうけおいの小説です。

著者別読書感想(真保裕一)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

靖国への帰還 (講談社文庫) 内田康夫

太平洋戦争当時と現代とがタイムスリップで結ばれるというのは、荻原浩著「僕たちの戦争」や、今井雅之著「THE WINDS OF GOD」、北村薫著「リセット」、アメリカ映画で「ファイナル・カウントダウン」などがあり、コミックやアニメでは私も全巻読破した「ジパング」などが有名です。

この「靖国への帰還」も、昭和19年の太平洋戦争末期に、海軍の戦闘機乗りだった主人公が、B-29の迎撃中に負傷して厚木飛行場へ戻ってくるとき、雲の中でタイムスリップが起き、米軍と自衛隊が共同使用している現代の厚木基地へ着陸してしまいます。

内田康夫氏は浅見光彦シリーズなど現代のミステリーものが多い作家さんですが、このようなエンタテーメント系のファンタジーロマン小説は珍しいのではないでしょうか。

夜間戦闘機月光のパイロットだった主人公が突然現代に現れたことで、政治やマスコミの報道合戦などに巻き込まれることになります。そして「死ねば靖国で会おう」と誓い、多くの仲間達が奉られている靖国神社の立場が戦中と戦後で大きく変わってしまったことに主人公は大いに失望してしまいます。

靖国問題とはA級戦犯合祀による近隣諸国の反発と、政治と宗教の政教分離の二つの問題です。

靖国神社への思い入れが強い著者の思想も多少は入っているのか、かなりのページがそれに費やされますが、本来ならそのような世界的に見るとローカルで小さな問題よりも、世界初で唯一現存するタイムスリップ経験者の存在という、物理科学、歴史、医学、哲学、宗教、軍事、宇宙工学、精神世界などでの問題や話題のほうが大きく、物理学や宗教観を一変させてしまいかねない世界的な大きな出来事でしょう。

この作品でも触れられていますが、昔の伝説などには「浦島太郎」のようなタイムスリップを匂わせるようなものが世界各地にありますが、科学的に証明ができない人の存在というのがどうなるのか、おそらく宇宙からやってきたエイリアンよりも大問題になりそうです。

最後のクライマックスでは、現代に有効な飛行操縦免許を持っているはずのない主人公が、なぜか公式な行事で、自分の愛機だったとはいえ、現代の空を自分で操縦桿を握って飛べるかなど、絶対にあり得そうもなく不可解なことが多く、ちょっとそれらの展開が突飛すぎて残念でした。ま、このような小説に、そのようなリアリティを求めるのもなんなのですが。

著者別読書感想(内田康夫)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ブラックペアン1988 (講談社文庫) 海堂尊

昭和から平成と変わる直前の1988年(昭和63年)の東城大学医学部付属病院を舞台とする小説で、初出は2007年9月です。つまり同氏の「チーム・バチスタの栄光(2006年)」「ジェネラル・ルージュの凱旋(2007年4月)」よりも後に書かれていますが、物語の舞台はそれらの事件が起きる約20年前の設定です。

ブラックペアンのペアンとはなにか?といえば、本の表紙を飾る手術のときに、器官や組織などを挟み、牽引したり圧迫したり、止血したりするのに用いるハサミに似た形状のもので、これが今回の小説ではキーとなります。普通はステンレスで作られるペアンが、なぜ黒いのか?最後にその謎が判明します。

内容は、新しく研修でやってきた外科医師の卵達の視点で、大学病院の中で起きる様々な人間模様や確執に翻弄されていくところが描かれていきます。そして講師として中央の権威ある大学から派遣されてきた有能な外科医師が新しく開発した器具を使った手術を広めていきますがそこで事故が起きます。

ちなみにこの派遣されてきた講師が、20年後の「チーム・バチスタの栄光」などでは病院長に、医学部に在籍中で実地研修にやって来たメンバーが「チーム・バチスタの栄光」や「ジェネラル・ルージュの凱旋」では主人公になっていたりします。

小説としても、また医学界が抱える様々な問題や製薬会社の利権などについても、わかりやすく書かれていますので、雑学を仕入れるのにも有効です。しかし大学病院の職場というエリートばかりが集う世界というのも大変ですね。霞ヶ関の官庁の中も似たようなものかも知れません。

最初はなんの小説かもまったく予備知識なしで読みましたが、ストーリーもよく練られ、たいへん面白い小説に仕上がっています。こちらもぜひ映画化をしてもらいたいものです。

著者別読書感想(海堂尊)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

臨場 (光文社文庫) 横山秀夫

臨場とは「警察組織において事件現場に臨み、初動捜査に当たること」を意味するそうですが、ここでの主役は検視官です。2009年と2010年にはこれを原作として内野聖陽主演でテレビドラマ化がされていました。

「検視」と一般的に馴染みのある「鑑識」との違いですが、変死事件が起きると、必ずそれに立ち会って鑑識を含む検視という作業をおこなうことになっているそうです。その検視ができるのは、刑事部の理事官又は管理官クラスということで、現場に出向く警察官としては上級のベテランがその任にあたることになります。そのような場合、検視官がいないと現場検証はおこなえないと言うことです。一方「鑑識」は空き巣事件でも出動しますし、比較的格下の役割です。

作者の横山秀夫氏は私と同年齢の推理作家ですが、警察ものが割とお得意かなという感じです。私も同氏の作品は短編は別にして「影踏み」「震度0」「第三の時効」「動機」「半落ち」「深追い」「ルパンの消息」「出口のない海」を読んでいて、同世代の感覚が割と共感できるのか贔屓にしています。

この「臨場」では8つの事件がそれぞれ短編に分かれていて、大酒飲みで上司の言いなりにはならないヤクザっぽいけれど、仕事は非常に優秀な検視官がそれぞれに登場し、誰もが見落としがちな些細なことから独特の見立てをおこない、事件の真実を解明していきます。

著者別読書感想(横山秀夫)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

累犯障害者 山本譲司

著者の山本譲司氏は、演歌歌手山本譲二氏とは違い、民主党の衆議院議員でありながら、2001年に秘書給与流用の詐欺容疑で実刑判決を受けた方です。

秘書給与として支給されたお金を事務所の運営費などに充てていたわけで、もちろん犯罪行為にあたりますが、自分か親が金持ちでない若手議員は、そうしてやりくりでもしないと、まともな議員活動ができないという実態もあるのでしょう。

当時は辻元清美衆議院議員など何人かの議員に同様な公費流用が指摘されていたに関わらず、現職の議員で実刑を受けたのはこの山本氏だけで(辻元氏は執行猶予付き)、一種みせしめ的な逮捕・起訴・実刑判決だったようにも思えます。

その山本氏、刑務所の中で思い知らされる現実に驚きます。それは政治活動において表層しか知らなかった障がい者と社会福祉の関係です。

障がい者と言っても知的障がい者もいれば身体障がい者も、視聴覚障がい者もいます。そしてさらにその障害度も軽度から重度と様々です。しかし一般的にマスコミに取り上げられるのは重度の身体障がい者です。それは明らかに映像として絵になりやすいからでしょう。

そして誰がみてもすぐにわかる障がい者の場合は、比較的福祉の手が差し伸べられやすいのに対し、軽度の知的障がい者や聴覚障害などの場合、大人になると福祉とつながっていないケースが非常に多いことに気がつきます。

そのような障がい者が、ホンの軽微な犯罪(空きっ腹に耐えかねて500円のお弁当を盗んだとか)で、刑務所に服役しているようなことが起きていました。中には警察や検察の取り調べで、関係ない別の殺人事件の容疑者として裁判にかけられているケースもあります。

それは、身体は立派な大人でも、知能レベルが小学生レベルで、警官や検察官の言うことにすべて同意をしてしまうことをいいことに、犯罪者に仕立て上げられてしまうようなことが起きていたり、耳が聞こえず筆談や手話での取り調べや裁判がおこなわれ、結果的に意と違う内容になってしまうといったりするケースです。

そしてそうした障がい者が出所した後も、まともに福祉の手は届かず、安住の地は刑務所の中だけと、結局はまた犯罪を犯し刑務所へ戻らざるを得ないという負の連鎖がありました。

山本氏は出所後はそうした障がい者を含め、福祉活動に力を入れ、まだ道半ばですが、国の委員会などにも出席してその改革を進めているところです。この文庫版では、その改善の進捗が後書きで書かれています。

文庫解説ではジャーナリストの江川紹子氏が「秘書給与事件によって私たちは前途有為の政治家を失ったが、代わりに優れたジャーナリストと果敢な福祉活動家を得たのだ」と書いています。

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質問
「日本は国際比較すると貧困率(相対的貧困率)は高い方でしょうか、それとも低い方でしょうか?」

少し古いデータですが、「OECDの2000年代半ばの統計では日本の相対的貧困率は14.9%で、先進国、中進国の中ではメキシコの18.4%、トルコの17.5%、米国の17.1%に次いで4番目に貧困率が高い(OECD加盟国の平均は10.6%)」(Wikipediaより)。割と最近のデータでも「2009年7月に発表されたOECDの「Factbook2009」によると日本の「貧困率」は先進国30ヶ国中の第4位」と、日本は諸外国と比べて貧困率は高く、傾向としては貧困率はさらに上昇傾向にあります。

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  出典:「日本における貧困の実態」国立社会保障・人口問題研究所 阿部彩氏

相対的貧困率とは、OECDの定義では「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)が、全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合」(Wikipediaより)ということです。

わかりやすく言えば、標準的な世帯が、4人家族で可処分所得が年間640万円、単身者で同所得が400万円だったとすると、(640万円÷4名+400万円)÷2=280万円が等価可処分所得となり、その半分の140万円未満の人が貧困者と定義されるわけです。

日本では貧困となる年間140万円(約1万8千ドル)を、もし発展途上国で得たとしたらその国ではたぶんお金持ちになります。国によって物価が違いすぎるので、額ではなく率で比較するようになっているわけです。

公式には「2007年の国民生活基礎調査では、日本の2006年の等価可処分所得の中央値(254万円)の半分(127万円)未満が、相対的貧困率の対象となる」(Wikipediaより)とされていますので、単身者で月11万円以上の手取り収入があれば貧困者には該当しないことになります。

ではなぜ日本の貧困率が高いのか?

仮説その1:若者の非正規社員や失業が増えてきて貧困率が高い

でもこの仮説にはちょっと疑問があります。

例え非正規社員でも短時間のアルバイトやパートでなければ1年間フルに働いて年収130万円を下回ることはあまりないと思われます。夫婦二人で260万円の手取り年収だったとしても貧困者にはカウントされません。

無収入の子供と一緒(親子二人)の場合は、子供手当と親の収入を足して260万円ないと貧困者になってしまいますが、小さな子供を育てながらフルタイムで働くというのは結構難しく、親の収入は限られてくるでしょう。しかしこのケースは過去からあり、最近急に増えてきた事例でもなさそうです。

あと「不況により失業し雇用保険も切れてしまって半年以上無収入」という状態なら、貧困者にカウントされるでしょう。でもそれは数字に現れるほど多い(数十万単位)かというと疑問です。

仮説その2:生活保護受給者の増加による貧困率の上昇

生活保護者の場合、年間収入でみると住んでいる地域や世帯家族数にもよりますが、ギリギリ貧困者にカウントされるかどうかという水準です。居住地域が都市部で物価が高い場合は、貧困者には該当しないでしょう。

この生活保護受給者は10年前と比べるとおよそ100万人増え、2011年末では200万人を突破しています。今後も年金未加入者が高齢化してきますので、年金制度改革等を実施しなければ増え続けていくのはほぼ確実です。

仮説その3:高齢者の増加による貧困率の上昇

次に高齢者の貧困者ですが、60~65歳の定年や引退で退職していく毎年200万人以上の団塊世代が、次々と年金だけの生活に入っていきます。一方で新たに社会人となる人の数は100万人と少し。そこに統計に出てきそうな大きな変動がみられます。

引退した年金受給者がみんな貧困者にカウントされるわけではありませんが、貧困者に該当する一人あたり年間127万円を超えない人も多くいると思われます。それは現役時代に支払った額や、収めた年数、共済年金か厚生年金か国民年金などの違いによるからです。

もし引退し新たな年金生活者のうち1/3の70万人が、夫婦で年間250万円以内(単身者で125万円以内)の年金受給であれば、それが一気に毎年貧困率を引き上げることになりそうです。

そして商売をやっていたり、専業農家、漁師などの個人事業主は、引退していなくても所得税の関係からできるだけ個人収入を減らし、表向きは夫婦で年収250万円でありながら、実は新車のベンツに乗っている人とか別に珍しくありません。そのような人も統計上は貧困者と認定されるのでしょう。

しかしいくら少ない年金受給で表向きは貧困者であっても、親から譲り受けた財産、ローン完済した住宅(不動産)、勤め人なら退職金、満期になった養老年金保険など、実際には多くの資産を持っているのでは?という疑問があります。

そう、日本の高齢者(60歳以上)の貯蓄率は世界でもトップクラスで、金融資産(現金や証券など)だけでも世帯平均(通常は夫婦2名)で2000万円以上あります(平成22年の統計データでは60才以上平均貯蓄高2286万円)。

しかしそのような資産(金融資産や不動産)は、この貧困率ではまったく考慮されません。つまり、「数千万円の資産を持つ高齢の貧困者」が毎年数十万人(もしかすると百万人)増えているという現実があるのです。これは明らかに統計数値に大きく影響するでしょう。

テレビで識者と言われる人がコメンテーターとして出演し、本人もその仕組みはたぶんよく知っていながら「いま日本は世界でもトップクラスの貧困率だ。もっと社会保障を手厚くし、生活保障をしなければいけない」とか「高齢者の貧困率が急速に高まってきている。年金を下げるとか医療費負担を増やすとかとんでもない議論だ」とか言っています。

上記で書いてきたとおり、貧困率というあまり意味をなさない統計を自分に都合よく使い、持論を展開するような人は、政治家でも評論家でも学者でも経済人でも絶対に信用してはいけません。

ただ、こうしてずっと高齢者を優遇してきたのには、戦後の厳しい時代から世界に冠たる経済大国にまで押し上げてくれた功績に報いることと、あとは各種の法律や制度を作る政治家からすると、選挙において高齢者の投票率の高さが背景にあったのでしょう。そうしてみれば、今までの世の中は、老人の思うがままに動いているということです。



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年末から年始にかけて人材派遣業界の動きがなぜか活発です。

まず国内はと言えば、労働者派遣法の改正案が12月7日に衆院厚生労働委員会で可決されたに関わらず、本会議への提出は見送られ、継続審議となったものの、未だ先行きは不透明のままです。この改正案成立如何によっては、当初予定されていた日雇い派遣完全禁止よりずっと穏やかになりましたが、派遣会社の業績に影響がないとは言えません。

それらの動きと関係あるのかないのかよくわかりませんが、大手人材派遣会社のパソナは、12月に安川電機から人材派遣事業(安川ビジネススタッフ)を、そして1月には伊藤忠商事の人材派遣子会社であるキャプランの買収を発表しました。

jinzai11.jpg一時期、大手国内メーカーや生保、損保、銀行、商社など各社は、次々と自前で人材派遣会社を設立してきましたが、ここ数年、不況の本業に専念するためか、あるいは迷走中の派遣業法に嫌気がしてか、派遣子会社に値がつくうちに売却してしまおうという動きが活発です。

ちょっと調べてみたところでは、パソナグループは上記2社の他に、2004年にNSパーソネルサービス(元新日本製鐵出資)、2009年に三井物産ヒューマンリソース、2010年にAIGスタッフ、2011年にケーアイエス(元JAグループ出資)、リコー・ヒューマン・クリエイツ、リコー三愛ライフなどを吸収またはグループに取り込んできています。

基本的に大手企業系列の派遣会社は、企業努力や必死で販売先を開拓しなくても、親会社に言われるまま人材派遣をすることで、とりあえず収益が得られますから、サービス業のイロハも知らない出向社員が送り込まれ、単なる大手企業の天下り先となっているところも少なくありません。

その中で、自立できない子会社は、景気のいいときならともかく、不況の中では親会社から見ると腹立たしく、企業グループのリストラクチャリングを考えると、もっとも早期に売りに出されてしまいます。

大手人材派遣会社を退職したあと、その経験を買われてそのような大手企業系列の派遣子会社に移った人が多いのですが、大手派遣会社に吸収されてしまい、結局また元の会社へ戻ってしまったという人がかなり多そうです。

そしてこの1月には、外資系の大手人材派遣会社アデコが、技術者派遣・アウトソーシングのVSNの買収を発表しました。スイス本社の世界的人材サービス企業のアデコは、過去に日本国内でもセントラルエード、エコージャパン、キャリアスタッフを買収し、吸収して規模を拡大しています。

この吸収されたVSNという会社、元々は技術者派遣最大手のメイテック(設立当時名古屋技術センター)を設立した関口房朗氏が、その後メイテックを追われてしまい、次に作ったベンチャーセーフネット(VSN)が前身の会社です。一時期は芸能人やプロスポーツ選手を呼び、派手な入社式で話題をさらっていました。現在は関口氏とVSNの関係はなくなっているそうです。

jinzai22.jpg事務職派遣がメインのアデコと、技術者派遣のVSNが一緒になり、相互に補完し合えるというのは、わかりやすいシナジー効果ですが、いずれにしても、労働者派遣を含む雇用環境の悪化と、技術者派遣の相手先だった大手製造業が次々と海外移転し業績が伸びない技術者派遣、双方にとって厳しい経営環境の中でおこなう経営合理化という気がしないでもありあません。規模こそ違え、バブル崩壊後、不良債権で苦しむ銀行同士が、経営合理化を目指し、次々と合併していったのと似ています。

次に、鼻のよく効く派遣会社大手は、今後数十年は続くであろう低成長、あるいはマイナス成長の国内市場に見切りを付けて次の手を模索しています。

2011年12月16日に「パソナグループ、米国・テキサス州ヒューストンに拠点を新設」、2011/12/22には「パソナグループ、インドネシアで日系企業の海外人事戦略を支援」と海外への積極的な進出が報道されています。パソナは日本の派遣会社として1980年代頃から日本の派遣会社としては、いち早く海外進出を積極的におこなってきた会社です。

と思っていた矢先に、2007年にスタッフサービスを吸収し、国内最大手に躍り出たリクルートが、2012年1月5日、アメリカやヨーロッパで人材派遣を手掛けるアメリカ本社のアドバンテージ・リソーシンググループの買収を発表しました。

アドバンテージ・リソーシング(Advantage Resourcing)は、欧米だけでなく、アジアや中東にまで世界中に約260もの拠点を持っているグローバルな派遣企業です。国内最大手のスタッフサービスを買ったときも驚きましたが、リクルートはいつも思い切ったことをします。そして円高で外国企業を安く買えるタイミングでもあり、この先ビジネスがうまく軌道に乗るかわかりませんが、目の付けどころはさすがです。

そして気になるのが、その買収メニューの中に、同グループの日本法人アドバンテージ・リソーシング・ジャパンが入っているのかどうかです。

このアドバンテージ・リソーシング・ジャパンというのは、一時期違法性を騒がれたグッドウィルやクリスタルなどの技術者派遣会社を吸収し統合した会社で、株主や経営陣は大きく変わりましたが、現在でも粛々と営業している技術者派遣会社です。詳細はわかりませんが、リクルートが買収したアメリカの同社が、日本法人の最大株主であっても不思議じゃありません。そうすると好むと好まざると一緒に付いてくる可能性もあります。

おそらくリクルートとしては、欲しいのは海外拠点と、それぞれの国でのノウハウでしょうから、この日本法人の買収は予定には入っていないと思いますが、名称が同じだけに、ややこしく、今後どうなっていくのでしょう。誰か知っている人がいれば教えてください。

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