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以前、国内小説(文庫)のおすすめを書きましたが、海外小説(翻訳版)のお勧めも書いておきます。
お薦め小説 2021年版(国内小説) 2021/3/6(土)
お薦めの面白い小説(国内本) 2015/5/9(土)
海外小説のうち蔵書しているのは全部で約700冊あります。しかしあいにく日記で読書感想を書き始めたのが2012年頃からで、それ以前に読んだ小説の中にもお勧めのものは数多くありますが、今回は感想を書いた記事のある2012年以降、2020年までに読んだ海外小説の中から25冊を選んでおきます。
書籍タイトルのリンク先は私が過去に書いた複数書籍の感想記事へ飛びますが、記事の下の方にある場合は下へスクロールをして見てください。
ゲイルズバーグの春を愛す この小説は短編として発表されたものを集め、1960年に発刊された作品で、収録作品は「ゲイルズバーグの春を愛す」(I Love Galesburg in the Spring-Time)、「悪の魔力」(Love, Your Magic Spell is Everwhere)、「クルーエット夫妻の家」(Where the Cluetts Are)、「おい、こっちをむけ!」(Hey, Look At Me!)、「もう一人の大統領候補」(A Possible Candidate for the Presidency)、「独房ファンタジア」(Prison Legend)、「時に境界なし」(Time Has No Boundaries)、「大胆不敵な気球乗り」(The Intrepid Aeronaut)、「コイン・コレクション」(The Coin Collector)、「愛の手紙」(The Love Letter)の10編です。・・・ |
ジャック・フィニイ | |
マリー・アントワネット 著者は19世紀末から20世紀前半に活躍したオーストリア出身の作家で、伝記文学が多い作家さんで有名な方です。 この著書は1932年に英語版が出版されました。1932年というと日本では昭和7年で、5.15事件が起き犬養毅首相が暗殺された年です。 マリー・アントワネットは1793年に死刑が執行されたので、それから139年後の出来事を調べ尽くして書かれたものです。100年以上前のことを調べるってさぞかし大変なことでしょうね。・・・ |
シュテファン・ツヴァイク | |
ハリー・クバート事件 スイス人作家が書いたアメリカが舞台の長編小説でベストセラーとなった作品です。これが長編作品としては実質的なデビュー作ということで驚きです。 2014年に単行本、2016年に文庫本が出ています。 小説の中でも、デビュー作で大ヒット作をかっ飛ばした男性小説家が主人公で、その後、第2作目がさっぱり書けず、高額な出版契約をした会社とも気まずくなり始めています。・・・ |
ジョエル・ディケール | |
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 著者は1977年生まれのアメリカの小説家で、2002年に作家デビュー、この作品は長編としては第2作目の2005年の作品で、日本語版は2011年に出版されています。 またこの小説を原作とした映画が2011年に制作公開されていて日本では2012年に公開されています(見ていないけど)。 日本語のタイトル名はえらく長ったらしく変わっていますが、直訳すればほぼ原題通りの意味です。・・・ |
ジョナサン・サフラン・フォア | |
火刑法廷 著者は1906年アメリカ生まれの数多くのミステリー小説、中でも多くの密室殺人小説が得意な方です。 この「火刑法廷」(原題:The Burning Court)は、1937年に出版された長編ミステリー小説です。1962年にはこの小説を原作とする「火刑の部屋」というフランス映画が公開されています。但し中身は大幅に変わっているそうです。 著者の得意な密室殺人ではないものの、誰がなぜ病死に似せた毒殺をおこない、さらに墓場の中から遺体が消失してしまった謎、その方法について、緻密に計算された犯行を描いています。・・・ |
ジョン・ディクスン・カー | |
ラストチャイルド 以前「川は静かに流れ」(2009年)を読んだことのある著者の2009年(翻訳版は2010年刊)発刊の作品です。 この著者の書く小説のイメージは、人間、特に家族の暗くて重いテーマを粛々と描くってところですが、この小説はその代表的なものかも知れません。 アメリカの地方に住む13歳の少年が主人公で、1年前に双子の少女が行方不明となり、続いて父親までが失踪してしまい普通の家族が一気に崩壊してしまいます。・・・ |
ジョン・ハート | |
一九八四年 1949年に刊行された未来SF小説ですが、未来とかSFという言葉から来る夢のある話しではなく、以前読んだ「動物農場」にも関係するような世界中が当時猛威を振るっていたスターリン的な社会主義、全体主義的な世界に変貌した未来を描いた小説です。 なんでもアメリカでトランプ大統領が誕生し、保護主義や全体主義的な発言や行動をすることで、この本があらためて見直され、爆発的に売れ出したというのには笑えます。・・・ |
ジョージ・オーウェル | |
血の収穫 原題は「RED HARVEST」で初出は1929年の作品です。その後多くの出版社から翻訳版が出版されましたが、今回購入したのは2019年刊の東京創元社版で翻訳者はローレンス・ブロック作品などの翻訳で馴染みのある田口俊樹氏で、この作品では8人目の翻訳者(解説より)とのことです。 ハードボイルド小説でレジェンド的な著者ですが、この作品が長編としては記念すべき最初の作品です。この作品の内容をモチーフとした映画や小説がその後数多く作られていますが、その中のひとつに黒澤監督の映画「用心棒」があります。・・・ |
ダシール・ハメット | |
インフェルノ 「天使と悪魔」(2000年)、「ダ・ヴィンチ・コード」(2003年)、「ロスト・シンボル」(2009年)と続いてきた「ラングドン・シリーズ」の第4作目で、2013年に単行本が発刊されています。日本の文庫版は2016年発刊です。 映画でもこの作品は2016年にトム・ハンクス主演で製作公開されています。 まず冒頭に「この小説に登場する芸術作品、文学、科学、歴史に関する記述は、すべて現実のものである。」と書かれているように、「ダ・ヴィンチ・コード」始め、実際に存在する様々な絵画や彫刻、古代遺跡や教会などをテーマにした謎解きと冒険譚が主題となります。・・・ |
ダン・ブラウン | |
卵をめぐる祖父の戦争 2010年に単行本、2011年に文庫化され、Twitterで評判の高かった作品として名前が挙がっていた作品です。 この著者はデビュー作「25時」という小説が2002年に映画化され有名になりましたが、これもたいへんユニークな作品でいずれ読みたいと思っています。 物語は風変わりなタイトル通りの内容で、主人公の祖父がソ連に住んでいた時に、ドイツ人を二人殺したことがあると知り、その時の話しを聞かせてくれと頼み、祖父が今まで決して明かさなかった過去を孫に聞かせるというものです。・・・ |
デイヴィッド ベニオフ | |
二流小説家 2010年に発表された著者のデビュー作が本作品です。アメリカ本国よりも日本でよく売れた作品だそうです。 その日本では2013年に「二流小説家 シリアリスト」というタイトルで映画化もされました。 複数のペンネームを使い分けて大衆小説やポルノを書いている売れない作家が主人公で、この主人公のところへ連続女性殺人事件の実行犯で死刑を宣告されている男から会いたいと連絡が来ます。・・・ |
ディヴィッド・ゴードン | |
帰ってきたヒトラー 2012年に発表された風刺小説で、日本語版は2014年に単行本、2016年に文庫版が発刊されています。またこれを原作とした映画が2015年に制作され、日本では今年2016年に上映されていました。見ていませんけど。 話しは2011年に公園近くで目覚めたヒトラーが、時代の変化に驚きつつも、理想とする国家作りに着手するため過去の経験を生かしながら現代のドイツでドタバタと活躍していく真面目なコメディです。・・・ |
ティムール・ヴェルメシュ | |
ティファニーで朝食を 1958年に発刊された中編の作品ですが、日本では1961年に映画化され大ヒットしたオードリー・ヘプバーンが主演した同名の映画のイメージが強いでしょう。 原作の小説と映画のストーリーは同一ではないそうですが、小説では語り部の主人公で売れない作家志望の男性が、同じアパートに住む自由奔放で美しい女優というか実質的には高級娼婦になるのでしょうか、その女優が日々浮き名を流す様々な恋の遍歴を描いています。・・・ |
トルーマン カポーティ | |
アルケミスト―夢を旅した少年 著者はブラジルの作家で、この本は1988年に発表され、世界中に拡がった有名な小説です。原題はポルトガル語で「O Alquimista」。アルケミストとは直訳すれば錬金術師という意味です。 特になにも事前情報なしにしばらく読むと、主人公は少年で、これは「星の王子さま」のような児童文学書なのかな?と思いましたが、どうもそうではなさそうです。 ストーリーは、牧師になるため神学校に通っていたスペインはアンダルシア地方の少年が、「旅をしてもっといろんなところをみてみたい」と親の反対を押し切り、あちこちを旅する羊飼いになります。・・・ |
パウロ・コエーリョ | |
その女アレックス カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1作目の「悲しみのイレーヌ」(2006年刊、日本語版は2015年刊)は今年2月に読んでいますが、この作品がシリーズとしては2作目(2011年刊、日本語翻訳版2014年刊)となります。 この作品は日本でも「このミステリーがすごい!2015 海外部門で1位」、「本屋大賞翻訳小説部門で1位」などに輝きましたが、世界的にも大ベストセラーとなっています。・・・ |
ピエール・ルメートル | |
犯罪 2012年本屋大賞「翻訳小説部門」の第1位に輝いた作品で、著者はドイツの刑事事件専門の現役弁護士です。 「フェーナー氏」「タナタ氏の茶碗」「チェロ」「ハリネズミ」「幸運」「サマータイム」「正当防衛」「緑」「棘」「愛情」「エチオピアの男」の11編の連作短編小説です。 著者が働く弁護士事務所で扱った事件を元にして書かれていて、中にはかなり不思議で不自然な話しもありますが、当然ながら弁護士という立場上、被害者や加害者の個人情報を守るために、小説では大きく脚色をしているのでしょう。・・・ |
フェルディナント・フォン・シーラッハ | |
ある微笑 1954年に「悲しみよこんにちは」で衝撃的なデビューをしたサガンの1956年の作品で、アメリカで映画にもなっています。 麻薬漬け、浪費癖、多くの愛人の存在などスキャンダラスで破天荒な人生を歩んだ著者ですが、当時の抑圧された民衆の中にあって、読者の願望や夢を自らが体現していくことで、多くの大衆から支持を得たのかもしれません。・・・ |
フランソワーズ・サガン | |
シッダールタ 「車輪の下」や「春の嵐」などの小説や詩を書き、ノーベル賞をとったドイツの作家ヘッセの1922年の作品です。 日本ではお馴染みのお釈迦様(ゴータマ・シッダッタ、仏陀、釈尊など)の若き頃の苦悩や悟りを開くまでの苦行の道のりを、一度も仏教の本拠地でもあるアジアへ渡ったことがない西洋人が、第1次世界大戦直後に描いた小説ということになります。・・・ |
ヘルマン・ヘッセ | |
音もなく少女は 2011年版このミステリーがすごい!(海外編)で第2位になった作品です。ちなみに同賞3位だった「卵をめぐる祖父の戦争」はすでに読みましたが、とても面白く、私のお気に入りの1冊となりました。 それだけに読む前の期待度は高いです。 日本語翻訳版の発刊は2010年ですが、なぜか本国(米国)で発刊されたのは2012年と不思議な順序となっています。・・・ |
ボストン・テラン | |
レイトショー 原題は「The Late Show」のこの作品は、アメリカで2017年に刊行され、翻訳版は今年2020年に文庫として発刊されました。 その「The Late Show」」は通常テレビの深夜番組を指すことが多いのですが、ここでは、夜の11時から勤務が始まる深夜専門の刑事のことを指しています。 コナリーの作品は1992年の「ナイトホークス」から始まる有名な「ハリー・ボッシュシリーズ」や、「リンカーン弁護士」の「ミッキー・ハラーシリーズ」など複数の主人公がいますが、今回の「レイトショー」では新たにレネイ・バラードという女性刑事が主人公となっています。・・・ |
マイクル・コナリー | |
パイレーツ―掠奪海域― この作品は2008年に亡くなったマイケル・クライトン氏が亡くなった後にパソコンの中から発見されたものだそうです。 もう一作未完の作品「マイクロワールド」という作品も同じパソコンに残されていて、それが本当の遺作となります。 未完の原稿は「ホット・ゾーン」の作家リチャード・プレストンが未完部分を仕上げて完成させたそうです。・・・ |
マイケル・クライトン | |
彼女のいない飛行機 2015年に文庫が発刊された、フランス人著者の長編ミステリー小説です。この作品が大ヒットし、その後「黒い睡蓮」(2017年)も各種の賞を得るなど活躍されています。 650ページを超える大作ですが、ストーリーは、1980年に飛行機事故で唯一生き残った赤ちゃんはいったい誰の子か?という、DNA検査が発達している現代ではなしえないミステリーとなっています。・・・ |
ミシェル・ビュッシ | |
存在の耐えられない軽さ チェコ出身でフランスに亡命した作家ミラン・クンデラが1984年に発表した小説で、1988年にフィリップ・カウフマン監督のもとで映画化され有名になりました。 第2次大戦後東側陣営に組み込まれていたチェコスロヴァキアですが、共産党政権の中でも国民のあいだからは民主化や自由経済化の運動が叫ばれていました。それがいわゆる「プラハの春」運動につながります。・・・ |
ミラン・クンデラ | |
春嵐 2010年に亡くなった著者の最後の作品で、2012年に邦訳の文庫が発刊されています。ボストンの私立探偵スペンサーシリーズは40年間続き39作品、このシリーズを読むのもこれが38作目(1作は邦訳版なし)で最後となります。 今回は前作同様に準レギュラーだった相棒ホークが旅行中ということで登場しないぐらいで、内容的には従来のものと特に変わったことはなく、著者としてはまだまだスペンサーシリーズを書きたかったんだろうなと思えてきます。・・・ |
ロバート・B・パーカー | |
死への祈り マット・スカダー・シリーズ15作目のこの「死への祈り」はアメリカで2001年に発刊され、日本語に翻訳されたこの文庫版が出たのは2006年になります。 このニューヨークの刑事(のちに退職して探偵)を主人公としたマット・スカダー・シリーズが始まったのは「過去からの弔鐘」の1976年ですから、この15作目の「死への祈り」の2001年までには25年の月日が経っています。・・・ |
ローレンス・ブロック |
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武田信玄(1) 風の巻 (文春文庫) 新田次郎
武田信玄(2) 林の巻 (文春文庫) 新田次郎
武田信玄(3) 火の巻 (文春文庫) 新田次郎
武田信玄(4) 山の巻 (文春文庫) 新田次郎
1969~1973年に月刊誌の「歴史読本」に連載された長編大河小説で、1969年から1973年にかけて単行本、その後文庫化されています。この作品は、中井貫一主演の1988年放送NHK大河ドラマ「武田信玄」の原作になっています。見ていませんが。
文庫版で、風の巻546ページ、林の巻463ページ、火の巻426ページ、山の巻543ページの計1,978ページと結構なボリュームがあります。
四つの巻だてには意味はなく、信玄の若い頃から、亡くなってから3年経った後の葬儀までのほぼ一生の話しを4分割しているだけです。
最後のあとがきに、「毎月30枚ずつ、百回まで書き続けた」とありましたが、原稿用紙?で合計3000枚ということになります。
また100ヶ月というと8年と少しです。上記雑誌に掲載されていたのは4年間ですので、2ヶ月分60枚ずつ毎月掲載、最初に掲載される4年前から書きためてスタートということなのかな?よくわかりません。
武田信玄を書いた資料と言えば、江戸時代に編纂された甲陽軍鑑が有名ですが、それを参考にしながらも,他の諸々の資料も合わせて独自の世界観を展開しています。
例えば甲陽軍鑑では武田信玄の軍師(参謀)として登場し、それが一般的には定着している山本勘助は、この小説では武田家と今川家の二重諜報員、つまり忍びの親玉的な役割で、織田信長が今川義元を破った桶狭間の戦いでは、駿河を狙う武田陣営に協力するため、今川義元の動きを織田側に流すなど活躍します。
武田信玄というと、甲府駅前にあるこの銅像のイメージが強いです。恰幅が良く、太めで強そうなイメージです。
小説の中では、行動的で広大な甲府から信州、北関東、そして駿河や三河へとよく移動し、そのことごとくで戦略を練り、敵を打ち破っていきますが、若いときに労咳(肺結核)に罹り、その後52歳で亡くなるまでこの病に悩まされ続けます。
また最近の研究では死因は癌ではないかとも言われています。
癌はもちろん、当時労咳も治療法がない不治の病で、小説では、病が出てくると食欲が落ち、いつも青白い病的な顔色していたと書かれていますので、ちょっと上の銅像のイメージとは違ってきます。
甲州のあちこちに「信玄の隠れ湯」というのがありますが、それらは信玄の労咳を癒やし(当時の治療法は安静にしているしかなかった)、激しいストレスなどを解消するために作られたりしたものかも知れません。
それはともかく、20歳のときに父親の暴政に苦しむ家臣達の勧めで父親を引退させて駿河に追い出し、諏訪地方から始まり、信州中心部(松本、長野)へ侵略を進めていきます。謙信との戦いで有名な川中島は今の長野市南部の犀川と千曲川に挟まれた場所です。
そうした戦いの合間には、京都から来た公家の娘の正室とは別に、次々と側室を持ち、艶福家全開モードに入っていきます。大衆小説らしく、そうした側室との閨の話しも盛んに出てきます。
最初の側室から労咳を移され、その後、跡継ぎの勝頼を産む、最愛の側室には信玄から労咳を移し亡くします。そうした想像でしょうけどプライベートな架空の話しがてんこ盛りです。
また、財政政策のため、金山開発に積極的で、敵対した兵士やその家族を捕虜にして、男は過酷な金山の労働者、女はその労働者の遊び女や賄い婦などにされるという話しが10数回出てきます。よほどその話しが気に入っていたのでしょう。
四巻のそれぞれ巻末には、物語が展開する地図や城や砦の位置が書かれていて、イメージしやすくなっています。せっかくだから城や砦の想像図も書いておけばもっとイメージしやすくて良かったかも。それはムック版にお任せかな。
信玄は戦国時代最強と言われる武将ですが、その半生は隣国の信州を統一するため、越後の上杉謙信との5度の戦いや、強力な隣国で関東を支配していた北条氏や、現在の静岡県、駿河を支配していた今川氏などとの深謀遠慮、そして新興勢力の織田信長や徳川家康との対立など、周囲の強国に囲まれて常に脅威があった甲府という地域出身だったことが最大の不運でした。
終わってみれば将軍に要請されても、一度も上洛することができなかった地方の一大名ということです。ライバルの上杉謙信は何度か上洛し、天皇や将軍に拝謁しています。
つまり、時代はそれまでの農業と鉱山開発より、もっとお金になる交易や商売、優秀な武器や技術を得るため外国と交流するためには広大な海(港)へつながる安全な領土が必要でしたが、信玄が早くに治めた甲府や信州、北関東にはそれがありません。
あるいは、最初に信州へ攻め入るのではなく、早々に遠江や三河、尾張を攻めていれば、もっと早く西上しての上洛と全国統一への道が開けていたかも知れません。
そこで、遅ればせながら、織田信長に敗れて弱体化していた今川家が支配する駿河を攻めますが、その地域は同じく駿河を手に入れたい相模の北条家と三河の徳川・織田連合に挟まれていて、決して安全な領土とはなりません。
駿河をどうにか手に入れ、次に上洛する途上で障害になる三河の徳川家康を攻めた時には、信玄はすでに高齢で労咳の病も進み、結局、徳川家康を三方ヶ原の戦いで徹底的にやっつけたものの、その後、東海道を上って上洛することがかなわず、亡くなってしまいます。
信玄の代名詞でもある軍旗に描かれた「風林火山」は、孫子の兵法の中の「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」から来ていますが、もしその中に、「真っ先に得るべきは海の道」と入っていれば、違った歴史になっていたかもです。
◇著者別読書感想(新田次郎)
【関連リンク】
2月後半の読書 草花たちの静かな誓、THE ONE THING、そして誰もいなくなった、悪寒、逢魔が時に会いましょう
2月前半の読書 見えない鎖、Iターン、逮捕されるまで 空白の2年7ヶ月の記録、健康という病
1月後半の読書 交通事故賠償 被害者の心理、加害者の論理、噂の女、ダイイング・アイ、22年目の告白 私が殺人犯です
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6年前に書いた「お薦めの面白い小説(国内本) 2015/5/9(土)」の更新版を書いておきます。
2015年5月9日以降に読んだ本は635冊でした。その中には、小説(国内/海外)やエッセイ、新書、ビジネス書などが含まれますが、今回は国内小説限定で28冊のお勧め文庫本を選びました。
書籍タイトルのリンク先は、私が書いた複数書籍の感想集へ飛びますが、その記事の下の方にある場合は少し下へスクロールをして見てください。
恍惚の人 1972年に刊行され日本中に一大ブームを巻き起こし、翌年には森繁久彌、高峰秀子主演で映画化もされた作品です。認知症老人役の森繁久彌氏は当時はまだ60歳でした。 当時は現在のように高齢化社会でもなく、また認知症やアルツハイマー病という名称もなく、いわゆる呆け老人とか痴呆、耄碌(もうろく)爺じいとか言っていた時代です。・・・ |
有吉佐和子 | |
紀ノ川 1959年刊ですのでおよそ60年前に書かれた作品です。和歌山出身の著者がその故郷を舞台にして、激動の明治、大正、昭和とつながっていく、およそ60年にわたる「花」「文緒」「華子」3代の女系女子を主人公にした小説です。 1964年にNHKでテレビドラマ化され、1966年には中村登監督、司葉子、岩下志麻などの出演で映画も製作されました。いずれも見ていませんが、映画は機会があればそのうち見たいなと思っています。・・・ |
有吉佐和子 | |
羆嵐 1977年に発表された作品です。舞台は今からちょうど100年前、1915年、大正時代の北海道の中西部、三毛別の山中に移住してきた開拓農民が暮らす寒村で起きた三毛別羆(さんけべつひぐま)事件を題材としたドキュメンタリー的な小説となっています。 三毛別羆(ひぐま)事件とは、すでに冬眠しているはずの巨大なヒグマが、北海道の山中の部落(三毛別)に現れ、そこの開拓民達を数日間にわたり襲い、幼児や妊婦を含む6人(胎児を含めて7人とする場合もあり)を食い殺し、3人に重症を負わせたという事件です。・・・ |
吉村昭 | |
渇いた夏 「私立探偵・神山健介シリーズ」の最初の作品で、2008年に単行本、2010年に文庫化されています。著者は元々はフリーカメラマンや冒険家として活躍後、ノンフィクション、フィクションとその活躍の場を拡げてきたという多彩な才能の持ち主です。 著者の作品では過去に「KAPPA」と「Tengu」の「有賀雄二郎シリーズ」を読みましたが、いずれも意外性と物事の洞察力に光ったところがあり、なかなか面白かった記憶があります。・・・ |
柴田哲孝 | |
折れた竜骨 2010年単行本、2013年に文庫化されたミステリー小説で、それまで著者が得意としてきた青春ミステリーから大きく舵をきって12世紀頃、中世ヨーロッパファンタジーロマンあふれる推理小説となっています。 12世紀というと日本では平安時代末期から鎌倉時代というあたりになります。・・・ |
米澤穂信 | |
小説 上杉鷹山 1983年に初出、その後文庫化された著者の代表作とも言える名著の誉れ高い作品です。 1961年にJ・F・ケネディが大統領になったとき、日本人記者がインタビューで「日本人で尊敬する人は?」と質問した時に「上杉鷹山」と答えたことは有名な話しで、その頃上杉鷹山を知る日本人はインタビューした記者を含め、ほとんどいませんでした。・・・ |
童門冬二 | |
海賊と呼ばれた男 出光興産創業者の出光佐三をモデルとした作品で、2013年に本屋大賞を受賞しています。 2016年には映画が公開される予定で、監督は山崎貴、主演は岡田准一の「永遠の0」コンビとなります。 私が生まれる前の話しがメインなので、よく知らなかったことも多いのですが、戦後の占領統治時代に、世界第2位の海軍力を持っていた英国と石油メジャーに対し、敗戦国(日本)の1民間人が堂々と喧嘩を売って、しかもそれに勝利をした日本人がいたことをこの小説で始めて知りました。・・・ |
百田尚樹 | |
八甲田山死の彷徨 1902年の明治時代に実際に起きた「八甲田雪中行軍遭難事件」を題材にした小説で、1971年に単行本、1978年に文庫化されました。 私も映画館へ見に行った高倉健主演の1977年公開の映画「八甲田山」の原作として有名ですが、映像では描ききれない著者の想いが詰まった山岳小説として読みました。・・・ |
新田次郎 | |
シューマンの指 2010年に書き下ろし小説として発刊された小説ですが、この2010年は講談社創業100年とシューマン生誕200年の年ということもあるそうです。 著者の作品は5月にコミカルでライトノベル的な「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」を読んでいますが、本当に同じ作家さんの作品なの?と思うぐらいにその文体、構成、ジャンルが違っています。・・・ |
奥泉光 | |
天空の蜂 1995年に単行本、1998年に文庫化された書き下ろし長編小説です。2015年には堤幸彦監督、江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵などの出演で映画化されています。 今や押しも押されぬ不動の人気作家の著者ですが、この小説が出た当時はデビュー10年に満たない若手作家のひとりでした。 もっともこの頃から多くの意欲的な作品を次々出して、人気作家の階段を上り始めていましたが。・・・ |
東野圭吾 | |
ナミヤ雑貨店の奇蹟 2012年刊、2014年に文庫版が発刊された、第1章から第5章までつながる中編の連作小説で、2017年には日本と中国でそれぞれ映画化されています。 日本版映画の監督は廣木隆一、出演者は山田涼介、西田敏行、尾野真千子などで公開済み。 一方の中国版は今年2018年10月に日本で公開されます(香港・中国・日本合作)。中国版では日本版の西田敏行と同じ役にジェッキー・チェンが従来のイメージとは違う老け役で登場しているそうです。・・・ |
東野圭吾 | |
村上海賊の娘 2013年に単行本が、2016年に文庫が発刊された、長編時代小説です。 好きな作家さんで、他のすべての長編小説「小太郎の左腕」、「忍びの国」、「のぼうの城」を過去に読んでいます。 織田信長や豊臣秀吉、毛利元就など戦国時代の英雄を語るときに、必ずと言っていいほど脇役として出てくる瀬戸内海に出没していた一大勢力の村上海賊が主人公です。・・・ |
和田 竜 | |
開かせていただき光栄です 著者は1986年に「恋紅」で直木賞を受賞されている方で、私はこの著者の作品を読むのはこれが最初です。今回読んだ作品は2011年単行本、2013年に文庫化された長編ミステリー小説です。 タイトルがちょっと意味不明ですが、これは解剖医が遺体にメスを入れるときに、「お会いできて光栄です」という挨拶をもじって遺体に対して感謝の意味を込めてかける言葉です。・・・ |
皆川博子 | |
八月十五日に吹く風 先に文庫本を2017年に発刊後、数ヶ月語に単行本を発刊するという非常に珍しいパターンの戦記物小説です。小説とは言っても多くを実名で書かれているらしいノンフィクションに近い小説となっています。 著者は千里眼シリーズなどで有名で、数多くの映画やドラマの原作ともなっている小説があります。そうした現代を舞台とした作品の他に、近代歴史時代小説作品も少ないながらあり、この著作もそれに該当します。・・・ |
松岡圭祐 | |
ノボさん 小説正岡子規と夏目漱石 2013年に単行本、2016年に文庫化された小説で、若い頃からの正岡子規と夏目漱石の友情と、正岡子規が後世に残した偉大な文化などの話しが中心となっています。 正岡子規(1867年~1902年)というと、真横から撮影されたはげ頭の頭部が異常にでかい?写真がすぐ思い浮かび、ちょっととっつきにくそうな感じがしますが、四国松山から上京し、東大へ通っていた頃は誰もから好かれる好男子だったのですね。・・・ |
伊集院静 | |
赤ひげ診療譚 小説の初出は1958年に雑誌にて連載され、1959年に単行本が発刊されました。今からなんと60年前のことです。 この時代小説は、連作の短編集で、「狂女の話」「駆込み訴え」「むじな長屋」「三度目の正直」「徒労に賭ける」「鶯ばか」「おくめ殺し」「氷の下の芽」の8編が収録されています。 「赤ひげ」はこの小説を原作として1965年に公開された黒澤明監督、三船敏郎主演の映画として有名です。・・・ |
山本周五郎 | |
夜と霧の隅で 1960年に出版された短編と中編の小説集で、1960年上期の芥川賞受賞作です。著者は医者として勤務をしながら、数多くの著作がありますが、中でも「どくとるマンボウ航海記」「楡家の人びと」などが有名です。また若い頃から始めた登山にも造詣が深く、本書にも登山をテーマにした短編が含まれています。 収録されている作品は、「岩尾根にて」「羽蟻のいる丘」「霊媒のいる町」「谿間にて」「夜と霧の隅で」の6編で、その中の表題となっている中編の「夜と霧の隅で」は、ナチスドイツでヒトラーが抵抗勢力や病人等を社会から排除するよう命じた「夜と霧」と言われる命令をモチーフとした作品です。・・・ |
北杜夫 | |
約束の海 2013年に89歳で亡くなった著者の遺作となる小説で、週刊誌に連載中に亡くなったため、予定では3部作品のところ、この第1部で終わってしまった未完の作品です。2014年に単行本、2016年に文庫本が発刊されました。 著者の本は、過去に「沈まぬ太陽」(1~5巻)、「大地の子」(1~4巻)、「運命の人」(1~4巻)、「女系家族」(1~2巻)を読んでいて、面白いけど長い!というのが特徴ですが、今回は未完ということで1巻のみ、勝手なもので逆に物足りなく感じました。・・・ |
山崎豊子 | |
俘虜記 著者は外国語に堪能だったことから太平洋戦争中、フィリピンで暗号手として配属されていたものの、米軍の捕虜となり、その後終戦で帰国します。 そしてその実体験を元にして1948年にこの「俘虜記」の前半(捉まるまで)を発表します。最終的に第4章までが完成したのは1949年で、基本は著者自身の体験談と、その時に思った心理的な描写や考察が書かれていて、私を主人公としたほぼノンフィクションに近い小説というスタイルとなっています。・・・ |
大岡昇平 | |
スロウハイツの神様 著者の小説は以前短編集の「ツナグ」(2010年刊)を読んでいます。この2007年刊(文庫版は2010年刊)の長編小説が2作目です。 読んでみてすぐに思ったのは、これは映画化するのに向いた作品で、既にあるなら見てみたいと思いましたが、残念ながら制作はされていません。どうしてかな? ストーリーは、東京郊外にあるスローハイツという元旅館をリフォームした古びたシェアハウスに住むアーティスト達の人間模様というドラマです。テラスハウスじゃないですが、今なら若者に受けそうなテーマでしょ?・・・ |
辻村深月 | |
光圀伝 2012年に単行本、2015年に文庫化された、水戸黄門様として有名な徳川光圀(1628年~1700年)の伝記風歴史小説です。 著者の作品は、過去に「天地明察」(2009年)、「マルドゥック・スクランブル」(2003年)を読んでいます。本書のような歴史物から、SFまで幅が広い作家さんです。 なんでも地元水戸市では、観光振興や話題作りのため、この作品を原作とした大河ドラマの制作をNHKに提案しているのだとか。・・・ |
冲方 丁 | |
生ける屍の死 この著者の小説を読むのはこれが最初ですが、1989年に「鮎川哲也と十三の謎」で発表したこの作品が実質デビュー作です。文庫版は1996年に東京創元社、2018年に全面改稿版が光文社から出版されています。 舞台はアメリカのニューイングランドにある田舎町で、主人公はアメリカ人ですが、ルーツは日本人とアメリカ人のハーフという設定です。・・・ |
山口雅也 | |
涙香迷宮 2016年に単行本、2018年に文庫化された長編小説です。この著者の作品を読むのは今回が初めてです。 小説のタイトルにもなっている「涙香」とは、実際に明治から大正時代にかけて新聞業界等で活躍した「黒岩涙香(本名:黒岩周六)」のことで、この人物が書き残したとされる詩文をめぐるミステリーがテーマです。 正直、この「黒岩涙香」という人物のことは初めて知りました。・・・ |
竹本健治 | |
よろずのことに気をつけよ 2011年に江戸川乱歩賞を受賞したこの作品は2011年に単行本、2013年に文庫本として発刊されています。この方の著作を読むのはこれが最初です。 著者はフリーで服飾デザイナーをし、さらに作家活動もして「法医昆虫学捜査官シリーズ」というちょっと毛色の変わった作品などを書いています。 この小説はシリーズ作品ではありませんが、主人公は毛色の変わった文化人類学、その中でも特異な呪術を専門に研究しているという貧乏な独身の学者です。・・・ |
川瀬七緒 | |
邂逅の森 私と同年代の著者が2004年に直木賞を受賞した作品で、一般には馴染みがなく、近代化で消えつつあるマタギと呼ばれる山の狩猟民を描いた小説です。 マタギとヒグマが登場した小説としては、過去に吉村昭著で実話の巨大な羆が村を襲った1915年(大正4年)の三毛別羆事件を題材にした「羆嵐」を読みました。 こちら(邂逅の森)の小説は、時代は大正末期から昭和初期の頃の話しで、世界を見ると、第一次世界大戦や、日露戦争、満州事変ぐらいの時代背景です。・・・ |
熊谷達也 | |
さよならの手口 初めて読む作家さんの推理小説ですが、あとで調べてみてわかったのが、以前NHKで放送されたドラマ「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」の原作だということ。 ドラマはチラッと見ただけですが、小説を読んでイメージした主人公とかなり違っているな~という感じです。 というのもドラマの主人公役のシシド・カフカは、ハーフで帰国子女で歌手でドラマー、モデルもこなす身長175cmと大柄でスマート。・・・ |
若竹七海 | |
ブラックボックス 週刊朝日に連載され、2013年に単行本、2016年に文庫版が発刊された長編小説です。1997年に「女たちのジハード」で直木賞を受賞している著者の小説は、2003年に読んだ「弥勒」以降、計8冊になります(なぜか「長女たち」が2冊ありそれをカウントすると9冊)。いずれにしても外れのない作家さんで、安心して読むことができます。・・・ |
篠田節子 | |
高熱隧道 1967年に単行本として発刊されたノンフィクション小説です。完全なノンフィクションではないのは、登場する人物や企業が、それぞれモデルはあるものの、実際の名称からは変えていたりするからです。 戦前の1936年に着工した黒部川第三発電所(仙人谷ダム)を建設するため、その工事資材を運び込むためのトロッコを走らせるトンネル軌道工事が小説のメインとなっています。・・・ |
吉村昭 |
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1514
草花たちの静かな誓い (集英社文庫) 宮本輝
著者がお得意とする人生を前向きに切り開いていく主人公を描いた、各種のうんちくが満載の長編小説で、地方新聞の連載小説として掲載され、その後2016年に単行本、2020年に文庫化されました。
主人公が仲良くしてきた父親の妹の叔母は、両親の反対をおして職場で知り合ったアメリカ人と結婚していましたが、大きな財産を残したまま、日本への旅行中に突然他界します。
先に亡くなっていたアメリカ人の夫の墓に納骨するためにロスへ渡りますが、そこの法律事務所で聞かされたのは、巨額な債券や高級邸宅など総額40億円以上の財産を、他に身寄りがないので甥の主人公に譲るというということ。
但し、20年前に行方不明になったひとり娘がもし生きて見つかれば、その財産の7割を娘に譲って欲しいという口頭での付け足しがあります。
20年間、金に糸目を付けず両親が必死に探して見つからなかった娘を、引き続き探して欲しいということなのか?というやっかいな遺言を受け取り悩みます。
海外に住む親戚が亡くなって巨額の遺産が転がり込むという夢物語は、誰もが一度は夢想しそうですが、現実的にそれが実現することは100%ないことは誰も知っています。
もしそうなったとき、また年間何万人もの子供が行方不明になるアメリカで、20年以上前の事件を掘り返すという難題と向き合い、主人公は自分の新しい人生をどう作っていくのか?という「もし」がいっぱいのストーリーです。
自分ならどうするだろ?とか考えながら、主人公になった気分で読めてアッという間にクライマックスへ向かいました。その後の主人公の姿を描く続編をお願いしたい気分でいっぱいです。
★★☆
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ワン・シング 一点集中がもたらす驚きの効果 ゲアリー・ケラー
2014年に発刊されたビジネス書で、著者はテキサスを舞台に一代で全米最大の不動産企業群を作りあげたという起業家で、本書はアメリカで累計130万部を売り上げたそうです。
タイトルにすべて凝縮されていますが、あれもこれもやろうではなく、常にもっとも重要で、それをすることで他のことがより便利になることだけをするべきというもの。
ドミノ倒しの最初の一押しに例えていますが、そうした最重要なことの探し方、選び方、そのための時間の取り方などが優しく書かれています。
私の若い頃のビジネスマンは、同時にいくつもの作業や思考をができる人が優秀で、仕事が早いと賞賛されてきました。でもそれは今の世の中というかビジネス界においては時代遅れというか、劣化ということなのでしょう、早く引退して良かったと思える内容です。
ただ、自慢でも何でもないですが、私自身、仕事をする上で、もっとも重要視していたことがあり、それは「集中力」でした。
集中することで仕事が早く進められることを経験上知っていて、そしてそれはひとつのことに集中することがもっとも効率的だということを知っていました。
でも若いときにこれを読んで、「なるほど!」と、周囲の雑音を気にせず、指示や命令に逆らってまで、自分が選んだ一番大事なことだけを優先してできただろうかな?と考えてしまいます。
それじゃーダメとか言われそうですが、問題なく「THE ONE THING」が実践できそうなのは、ある程度、自分で仕事が選べるミドルクラスになってからかも知れません。
★★☆
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そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) アガサ・クリスティー
1939年に発刊された伝説的な長編ミステリー小説で、最初の日本語版書籍は1955年に発刊されています。「オリエント急行殺人事件」などとともに、クリスティの代表作とも言える作品です。
原題(英国)は出版当初は「Ten Little Niggers」、当時はそうではなかった差別語?のためか、途中から改題されて「And Then There Were None」となりました。
外部から閉ざされた英国の島に招待された10人の客が、部屋に飾ってある10人のインディアンの子供達と、ひとりずつ消えていくという童謡になぞらえ、次々と殺されていくと言う、その後の多くのミステリー小説に大きな影響を与えた作品です。
事件後の警察の調査では、生存者がいず、誰が犯人かまったくつかめない状態でしたが、犯人が犯行に至る理由やそれぞれの殺害方法について記した手紙を、ビンに詰めて海に流しておいたものが後日見つかり事件の詳細がわかるという流れです。
ミステリーファンには今さらと言われそうですが、子供の頃に、テレビでやっていた映画をみた記憶はあるものの、小説を読むのはこれが初めてです。
謎解きの力を求められ、中盤辺りで「犯人はきっとこいつだ!その理由は・・・」と自信をもって思ったものの、違っていてガックリです。
でも一部の推理(考え方)は当たっていて、そういう楽しみ方もできる、優れたミステリーです。
時代は第二次大戦前で、当然ながら携帯電話や警察の科学捜査など様々な要素が今の時代とは違っています。
そうしたことも含めて、今読んでも決して古さを感じさせないのは名作の所以でもあるのでしょう。いや面白かったです。
★★★
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悪寒 (集英社文庫) 伊岡瞬
2017年に単行本、2019年に文庫化された長編小説です。ミステリーのジャンルに入るのでしょうけど、ビジネス小説の要素もあり、また夫婦や親子など家族をも描いてもいます。
著者の作品は2018年に「代償」を読んでいます。めちゃ暗い惨めな思いをした小説でした。
2018年11月後半の読書と感想、書評(代償)
主人公は、丸の内に本社のある大手製薬会社に勤務していましたが、上司の指示で公務員へ便宜を図ったことで、その責任を問われ、単身赴任で地方の孫会社へ飛ばされてしまい、ふつふつとした鬱憤がたまる日々を送っています。
そこへある日、妻から要領を得ないメールが送られてきて、連絡を取ろうとしますが取れません。そこで深夜バスで家族が住む東京へ戻ってきますが、その途中で、警察から妻が殺人容疑で緊急逮捕されたと連絡が入ります。
しかも殺されたのが、主人公の元上司でワンマン経営者の跡取り息子で、殺害場所は自宅、ウイスキーボトルで2度殴っての殺害ということがわかります。
なぜ?どうして?ということから、主人公は警察や妻の妹から話しを聞き、また独力でも調べていくという流れです。
その主人公、典型的な会社人間で、自分の意見というものはなく、その時々の権力者次第でコロコロと態度や考えが変わってしまう小心者ということで、まったくイライラさせられます。
でももし自分も長く会社人間で、要領は決して良くなかったから、同じ人種なんだろうなと同類哀れみも感じるところです。
最後はちょっと無理目な結果で、なんだか残念でスッキリしない思いですが、意外性を出したかったのでしょう。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
逢魔が時に会いましょう (集英社文庫) 萩原浩
2018年に発刊された文庫で、「座敷わらしの右手」「河童沼の水底から」「天狗の来た道」の連作短編小説です。
あとがきを読むと、前の二つの小説は21年前の2000年に小説すばるに掲載されたものだそうで、最後の1作は2018年に書き下ろされました。
座敷わらしと言えば水谷豊主演で映画にもなった著者の小説「愛しの座敷わらし」をすぐに思い浮かべました。
座敷わらしの舞台は遠野ですが、私も数年前に「遠野ふるさと村」などを観光で見てきました。そこには曲屋など古民家が保存されていますが、私が子供の頃、夏休みの度に行った地方にある母親の実家が似たような古民家で、懐かしいような気がしました。
また、遠野と言えば柳田國男著の「遠野物語」です。8年前に読みました。もちろん座敷わらしの話しも出てきます。
2013年8月後半の読書と感想、書評(遠野物語)
遠野にも河童淵がありましたが、この小説で出てくる二つ目の短編で河童の舞台は、富士山の裾野辺りが舞台です。
そして最後の天狗伝説のある場所は、広島の北方、島根、鳥取との県境あたりが舞台です。
主人公は、貧乏な文学部の女子大生4年生で、就活はあきらめ、大学院へ進もうとしているところ、民俗学者を紹介され、そこでフィールドワークを手伝うことになります。
最近読んだ小説二つにもありましたが、女子大生(短大生)と(考古)学者というカップリングはよくあるパターンみたいですね。華やかにもなり、小説にしやすいのでしょうね。
妖怪ものですがまったくホラーという感じではなく、ライトにサクッと読めますので、気分転換などに読むといいかもです。
★★☆
【関連リンク】
2月前半の読書 見えない鎖、Iターン、逮捕されるまで 空白の2年7ヶ月の記録、健康という病
1月後半の読書 交通事故賠償 被害者の心理、加害者の論理、噂の女、ダイイング・アイ、22年目の告白 私が殺人犯です
1月前半の読書 クリフトン年代記 剣より強し第5部、機は熟せり第6部、永遠に残るは第7部
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1511
見えない鎖 (潮文庫) 鏑木蓮
2010年に単行本、2016年に文庫化された長編ミステリー小説です。
著者の小説は、「白砂」(2010年)、「エンドロール」(2011年)、「転生」(2014年)の三冊を読んでいて、好きな作家さんです(3冊ぐらいで好きとか言うな!ってところですが)。
2020年2月前半の読書と感想、書評(転生)
2018年1月前半の読書と感想、書評(エンドロール)
ストーリーは、母親が家出をして父親と二人暮らしをしている女子短大生が主人公で、ある日その父親が何物かに刺殺されてしまい、元刑事だった父親の上司とともに、過去に父親が関わった事件などを調べ、謎が徐々に明らかになっていきます。
男性作家さんの作品ですが、女性特有?の感情の「あれでもない、これでもない」と揺れながら、論理的な思考ができない迷いがこれでもかってぐらいにでてきて、それが少々まどろっこしい感じがします。そういうこと書くと、今、旬な話題の女性蔑視になっちゃうかな?
このストーリーによく似た小説を最近読んだな~と思って調べると、川瀬七緒著の「よろずのことに気をつけよ」(2011年)でした。
2020年3月後半の読書と感想、書評(よろずのことに気をつけよ)
「よろずのことに気をつけよ」では、孫の女子大生と暮らしていた祖父が自宅で殺され、その現場に呪術の儀式ような跡があり、呪術に詳しい考古学者に頼み、一緒に祖父の過去を調べて殺された謎を解決していく物語でした。
主人公が女子短大生と女子大生、冒頭で殺されるのが父親と祖父、主人公を助けて犯人探しをするのが、元刑事の上司と、考古学者という違いがありますが、設定自体はとても似通っています。発刊はこちらの「見えない鎖」のほうが1年早いですから決して真似したというわけではありません。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
Iターン (文春文庫) 福澤徹三
この作家さんの著書を読むのは初めてです。1962年生まれの見かけちょっと強面な感じの方で、多くの推理やホラー小説、極道もの小説を出されています。
内容はまったく知らず、軽めのサラリーマン小説?と著名にひかれて買って読みました。2010年に単行本、2013年に文庫化されています。
また2019年にはムロツヨシ主演でテレビドラマが制作、放送されています。
読み始めて確かにサラリーマン小説には違いないですが、内容はほとんど極道の世界感が満載で、あっけにとられました。昭和時代ならともかく、現代でサラリーマンとヤクザというのは縁遠い存在になってきましたから。
でもストーリーにあるように、暴力団のフロント企業の仕事で関わってしまったり、必要に迫られて闇金に手をだしてしまったりすると、今でもケツの毛まで抜かれる羽目になるのかぁーとコミカル要素のあるフィクションとは言え、妙に納得してしまいました。
主人公は、九州の社員二人しかいない広告代理店の支店へ単身赴任で飛ばされた中年男性。そこで街金の新聞広告で掲載ミスが起き、大きなトラブルへと発展していきます。
クライアントへの接待攻勢、下請けからのキックバック、汚職に手を染める不良刑事、ぼったくりバー、ヤクザ同士の抗争と、やはり昭和時代にタイムスリップしたような話しです。
最後は予想したとおりのハッピーエンド?に終わりますが、このタイトルと内容がどうも一致しないと思った次第です。
続編が想像できる終わり方をしていましたが、やはりその後、2019年に「Iターン2」という続編が文庫で出ています。
★★☆
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逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録 市橋達也
一般的に「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」と言われている22歳のイギリス人の英会話女性教師を殺害し、捜査で自宅へ来た警察官を振り切って逃げ、その後2年7ヶ月のあいだ逃亡し続けたものの、大阪南港のフェリー乗り場で逮捕され、現在は無期懲役で服役中の市橋達也が著者です。
その逃亡劇はまるでフィクションドラマのようで、様々な情報提供がありながら、天性のカンなのか、スルリと捜査の網をくぐり抜けてきました。
その逃亡中の行動を時系列で書いたものが本書で、意外に指名手配犯としてポスターがあちこちに貼られていても、身近にいても人は気がつかないものなんだなぁと思った次第です。
この犯人の罪は許されることでも、また持ち上げようとも全然思いませんが、この人物は頭が良さそうで、運動神経もよく、行動的で、肉体労働をなんなくこなし、英語も得意で、デザインを学んだことがあるので絵もうまく、本書を読む限りでは、自分の行動を客観的にとらえてみることができる、普通のまともな人生を歩めばきっと成功者になれる人だろうなぁと思います。
ただ、お金を稼ぐための日雇い労働者の飯場(宿泊所)で、よく他の労働者と喧嘩沙汰となっていたようで、きっとキレやすい性格なんだろうなとも思います。犯行を起こしたときも、殺すという計画性はなく、そのキレやすい性格ゆえ突発的に起きたように思えます。
それは両親が二人とも医者で、この息子の市川達也にも医者になって欲しいと期待されながら落ちこぼれたという抑圧がそういう性格を形作っていったのかも知れません。
著者の市橋達也は事件当時28歳、刑が確定したときは32~33歳で、無期懲役の場合、どれだけ模範囚であっても30年間は出られないので、もし仮釈放が許されるとしても60代半ば以降ということになるのでしょう。
才能ある人なのに、自らの弱さゆえ、その才能に溺れてしまったのでしょうか。
★★☆
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健康という病 (幻冬舎新書) 五木寛之
2017年に発刊されたエッセイ集で、日刊ゲンダイで連載していたものをまとめたものです。
発刊当時、著者は85歳、男性の平均寿命は80歳ぐらいですから、すでに長生きの部類で、健康について書く権利というか言葉に重みがありそうです。軽い記事が多い日刊ゲンダイですけれども。
この無茶苦茶な生活を送っていそうな作家さんと、健康とは結びつかないと思っていましたが、それはご自身でもよく理解されていることがわかります。
しかし病院へ大学へ入学するときにレントゲンを撮影して以来、一度も通院したことがなく、80過ぎまでの60数年間レントゲン撮影もしたことがない、健康診断も一度も受けたことがないというのには「本当に文明人?」とか思ってしまいます。
しかしとうとう、左足に違和感と痛みを感じて、自由に歩き回れなくなり、やむなくレントゲン撮影をして診断を受けたところ「変形性股関節症」と診断されたそうです。
私は40代前半から変形性股関節症に悩まされ、50代後半で末期と診断されたことで人工股関節置換手術をおこないましたが、80歳を超えた著者が、今さらそうした大きな手術はされないのでしょう。
でももしまだあと10年は健康で歩きたいなら、人工股関節を入れるのは痛みから完全に開放されるので気持ちも明るく前向きになって良いかも。
変形性股関節症の人工股関節全置換手術(1) 2016/6/11(土)
その他、80歳過ぎとしては比較的健康を維持されていますが、それでも頻尿や偏頭痛など様々な症状をもっていて、それらについて自分の考え方や対処策などが書かれています。
ここで触れられている健康問題については、「これが良い」「いや、こっちのほうが正しい」「実は恐ろしい」など情報が錯綜していて、医療や療法の常識も時代で変わっていくこともあり、何を信じて良いのかわからなくなるときがあります。
要は人が100人いれば100通りの療法があるので、自分自身でなにが最適解かをよく考えて、他人の意見に惑わされないことが重要ということでしょう。
★★☆
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