リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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にじいろガーデン (集英社文庫) 小川糸
2014年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。以前NHKで、著者の原作「つるかめ助産院~南の島から~」が放送され、それを時々見ていたので、すっかり原作の小説も読んだ気になっていましたが、この著者の作品を読むのはこれが初めてです。
「つるかめ助産院」のように、癒やし系のほのぼのとした物語かな?と思っていたら、そういう要素もありますが、これはLGBT家族の奮闘と、社会からの差別など様々な問題提起の小説でした。
2020年の今でこそ、先進的な一部の自治体では、パートナーシップ制度など、LGBTにも寛容な社会システムを作り、浸透しつつありますが、この小説が書かれた2014年時点ではまだまだ差別や偏見、それに理解してもらえない家族との絶縁など険しい状況だったでしょう。
もちろん今でもそうした差別や問題は変わらず残っているでしょうけど。
主人公の二人は年齢も育ちもまったく異なりますが、自殺しようとホームに立っていた女子高生の前に、もうひとりの子育て中で夫と別居中の中年女性が心配して声をかけます。
それがきっかけで、二人の女性は仲良くなり、行動的な女子高生の強い希望で、別居中の夫とは離婚し、子連れで知り合いが誰もいない遠くへ駆け落ちをすることになります。
タイトルの「にじいろ」は、1970年頃から使用されるようになったという、レインボーフラッグというLGBTの社会運動を象徴する虹色の旗からきていて、二人が東北?の寒村で住居用として借りた、元小学校だった建物にその旗を立てたことからきています。
当然、そうした保守的な寒村ということもあり、なかなか理解を得るどころか、嫌がらせなども続きますが、二人とその子供達の成長が清々しくたいへん面白く読めました。
最後は残念ながら、ハッピーエンドではなく、そのことに様々な意見はあるでしょうけど、無理矢理、予定調和的な円満、万事解決で終わるより、LGBTの厳しい現実などを象徴するかのように自然で良いのかも知れません。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
僕は人生についてこんなふうに考えている (新潮文庫) 浅田次郎
2003年に単行本、2006年に文庫化された、著者の多くの作品の中からテーマ毎に一部を抜き出したアンソロジー的な内容です。
読むまでは知らなかったのですが、著者がこの本のために書いたのは「あとがき」だけで、想像ですが、出版社の熱烈な浅田ファンの編集者が「私が過去の著書から抜き出しますから、それで1冊作らせて!」と頼んだのではないかなぁーと。
なので、著者の作品だと思って読むと、正直ちょっとガックリです。
と言うのも、ごく一部だけ小説の登場人物が発する言葉や、著者のエッセイのひと言を抜き出し、それらを寄せ集めただけのものですから、感動もなければ、わくわく感もありません。
せめて、エッセイだけから抜き出しているのなら「僕は・・考えている」もわかりますが、小説の登場人物の言葉を抜き出して、それを「著者の考え」というのはあまりにも乱暴すぎます。
これじゃーこの本の著者名は浅田次郎氏ではなく、○○編集部編ってするのが正しそうですが、それじゃー売れませんものね、、、
そんなわけで、著者にはなんの不満も恨みもありませんが、Amazonに1円で並ぶぐらいの評価するに値しないつまらないものでした。
☆☆☆
◇著者別読書感想(浅田次郎)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書) NHKスペシャル取材班
2016年にNHKで放送された「NHKスペシャル 私たちのこれから#健康格差~あなたに忍び寄る危機~」のために2年半も取材した内容を、番組だけでは放送しきれない部分を含め再構成された2017年に発刊された濃い内容の新書です。
私自身、先月末でリタイアし、これからは健康年齢を高める努力をしつつ、残りの人生を思いっきり楽しみたいので、この健康問題についてはいま一番興味あるテーマです。
本書では、「世代間の健康格差」「都市部と地方の健康格差」「地域コミュニティーの健康格差」をデータや実例をあげてわかりやすく解説されています。
さらに健康格差の解消に向けた提案などもあり、公共放送局のNHK取材班らしく、危機感を大げさにあおるのではなく、悲観的でもなく、無難にサラッとまとめてありますが、その代わりに、読み終わってもさして印象に残らないのは残念なところです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
幻夏 (角川文庫) 太田愛
著者はドラマや映画、特撮ものなどの脚本家として有名な作家さんで、小説も4作ありますが、著者の作品を読むのは今回が初めてです。この著書は2013年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。
まず読んでみて思ったのは、脚本家らしく、情景描写が細かく丁寧で、自然とその場面の映像が目に浮かぶような書き方です。
例えば、
「繁藤修司が雑居ビルの階段を駆け上がる軽快なスニーカーの歩調に合わせて、紙袋の中のオニオンリングがカサカサと美味しい音をたてた。しかし、軽快な歩調に反して修司の心は重かった。(18ページ)」
は、ストーリーにはなにも関係がない描写ですが、すべてに渡ってこのような視覚に変換しやすい、さらに言えばこれを演じる役者が、自分がこの役をどう演じれば良いのかが理解出来る書き方です。
ストーリーは、調査会社(探偵)をやっている男が、23年前に起きた男児失踪事件にまつわる調査依頼をその行方不明になった男児の母親から受けますが、調べて行くうちに謎が謎を呼んでいきます。
それと同時に元検察官だった男の孫の女児が誘拐され、容疑者として元裁判官の息子が別件逮捕されます。
そして23年前に行方不明となった男児と幼馴染みだった男が現在刑事になっていて、女児が誘拐された事件に関わりますが、23年前男児が行方不明になった場所に刻まれていた同じマークが、今回の女児が誘拐された場所にもあることを発見し、事件が23年前の失踪とつながっていることを確信します。
新たな証言や発見から物語は二転三転していき、ちょっとややこしいのですが、たいへんよく考えられたストーリーで、映像化が頭の隅にあったのでしょうか、そのまま実写ドラマ化が十分可能な内容です。まだドラマや映画化はされていませんが、そのうち実現するのではないでしょうか。
ただ、小学生に刑事などを騙す凶悪犯罪の隠蔽がとっさの判断でできるのか?襲われて大きな怪我をしたホームレスだった身元不明の少年を警察や役所がなにも調査せずに里親に引き渡すか?って考えるとどうもそのあたりのリアリティがなく詰めも甘い感じがします。
★★☆
【関連リンク】
6月後半の読書 あなたの人生、片づけます、羊と鋼の森、大学大倒産時代、無私の日本人
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1446
あなたの人生、片づけます (双葉文庫) 垣谷美雨
連作短編のこの小説は、2013年に単行本、2016年に文庫化されています。この著者の作品は最近「老後の資金がありません」を読んでいます。
2020年4月後半の読書と感想、書評「老後の資金がありません」
タイトルだけ見ると、伊坂幸太郎著の「死神の精度」的な死神小説か?それとも、コミカルなローレンス・ブロック著の「殺し屋ケラーシリーズ」か?って思ってしまいそうですが、全然違っていて、部屋の片付けができない人の、心を変えることで生き方と整理整頓を勧めていくという、ほのぼのとした心の断捨離小説です。
確かにゴミ屋敷や汚部屋に代表される、部屋を片づけられない、逆によそのゴミまで集めて持って帰る人って、いくら物の道理を話しして「ゴミは捨てましょう」と言っても「ハイそうですね」とはなりません。
結局は心の問題で、それを解決しないことには、そうした片づけられない習慣は繰り返すだけでしょう。それだけに抱えている闇のプライベートに入っていかなければならず、難しい問題です。
そういう仕事には、この小説の主人公のような、どこにでもいるおばちゃんタイプが良さそうで、依頼された場所へズカズカと入り込み、部屋の持ち主の前でチッと平気で毒づき、大きくため息を漏らすという普通の反応が面白いです。
短編は「ケース1 清算」「ケース2 木魚堂」「ケース3 豪商の館」「ケース4 きれいすぎる部屋」の4編で、それぞれに、「社内不倫に疲れた30代OL」、「妻に先立たれた職人気質の老人」、「子供に見捨てられた資産家老女」、「謎の一部屋だけ綺麗に片づいた部屋がある主婦」の心の中に分け入って変化をもたらせることで、解決していきます。
部屋の片づけ方の手法をいくら教えても改善しないであろう場合(本書では重症)、そうした心の問題を解決していかなくてはならないということがよくわかる小説です。
夏場になって臭いがたまらなくなるゴミ屋敷などの相談が持ち込まれることが多い役所の福祉関係者にもぜひ読んでいただきたいです。
★★☆
◇著者別読書感想(垣谷美雨)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
羊と鋼の森 (文春文庫) 宮下奈都
2015年に単行本、2018年に文庫化された小説で、2016年の本屋大賞で大賞を受賞しています。また2018年には橋本光二郎監督、山﨑賢人、鈴木亮平などの出演で映画が制作され公開されました。
著者の作品は、昨年「遠くの声に耳を澄ませて」を読んでいますので、今回が2作品目です。
2019年6月後半の読書と感想、書評「遠くの声に耳を澄ませて」
タイトルからは内容が想像出来ませんでしたが、ピアノの調律師の話です。ピアノ調律師と羊?鋼(ハガネ)?というのは、やっぱり小説を読んで理解してください(意地悪)。
北海道の地方都市の高校生が、試験の後にひとり教室に残っていたため、先生から「学校を訪ねてくる調律師を体育館へ案内してくれ」と頼まれます。
調律師がグランドピアノのフタを開け、調律を始めますが、ピアノの精緻な構造を見て感動し、また調律師の仕事を間近に見て、自分にはこれしかないと、調律師を目指します。
そう、一人の若い男性の成長物語です。こりゃアイドル映画にはもってこいですね。
小説は、普段馴染みのない調律師の現実と理想の世界を浮かび上がらせて、三浦しをんさんがお得意とする「お仕事小説」とも言えます。別に著者はそういうつもりで書いたわけではないでしょうけど。
ピアノ調律師の需要は、家庭へのピアノ普及率に大きく影響するでしょうけど、少子化ゆえ、今後仕事が拡大していくという想像はできず、逆に厳しくなっていく状況のような気がしますが、これを読んで、調律師を目指してみよう!という若者が出てくればそれはそれでいいなと思います。
★★☆
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大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学 (朝日新書) 木村誠
教育書籍の学研出身の著者は、多くの教育関連本を出している教育ジャーナリストさんです。この新書は、2017年の発刊です。
タイトルは衝撃的で、これは釣りタイトルか?というと、「2011年 新聞・テレビ消滅」のような、まったく根拠なき釣りタイトルではなく、そこそこ現実的な問題となってきています。
少子化で子供の数が減ってきているのに、大学の新設や既存大学の定員増員など、多少進学率が上がったとしても、既に大学は飽和状態にあります。
特に学費が高騰しているのに反して、所得が上がらない人が増え、所得格差も拡がっていることで、一部の富裕層以外は子供を進学させたくてもできないという現実もあります。
奨学金という名の学生ローンは、アメリカの例を出すまでもなく、卒業と同時に返済が大きな負担となり、就職に失敗したり、就職先の業績が不安定だったりすると、もう即座に返済が滞ります。
そして有名な国立大学、学費が安い公立大学、ブランド化している私立大学、若者が好きな場所に立地している大学などに人気が集中し、郊外や地方の立地で、特段特徴のない大学はすでに定員割れをしています。
何年も定員割れが続くと、良い教員をジックリ育てたり、スカウトして雇うだけの資金はなく、良い教員がいないと、研究も進まず国からの補助金も減らされ、やがては行き詰まることになってしまいます。
そうした大学の実情を、国立大学、私立大学、地方大学などごとに分析データとともに危ない大学、安心な大学が読めばわかるようになっています。
しかし今回この本で地方にもキラリと光る人気校などがあることを知りました。地方の大学って情報はほとんど入ってこないので、校名すら知らないところがたくさんありました。
それにしても、学校の関係者は、相当な努力をされているのでしょう。日本は資産となるもの少なく、高度な教育ぐらいしか子供達に残せないので、逆風の中でも頑張ってもらいたいものです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
無私の日本人 (文春文庫) 磯田道史
映画で有名になった「武士の家計簿」などの著書がある磯田氏は、今やテレビの歴史番組の解説者として欠かせないキャラクターとなっているユニークな学者先生です。
私も毎週欠かさずNHK BSの「英雄たちの選択」を録画して楽しく見ています。それにしても、古代天皇から、昭和時代まで、どうしてそんなに詳しいの?と思えるぐらい博学で、しかもテレビに向いた雄弁な方です。
この著作は、実話を元にして、様々な古い資料から3人のそれぞれの生き方をとりあげています。小説でもなく、ドキュメンタリーでもなく、ノンフィクション的な、あり知名度はないけれど、江戸時代から幕末、明治初期に生きた、無名に近い偉大な3人の歴史実話物語です。
その3人とは、「穀田屋十三郎」「中根東里」「大田垣蓮月」で、よほどの歴史研究家、江戸時代の詩人、和歌の研究家でなければ、まず知られていないでしょう。私もまったく知らなかった人々です。
内容は、いずれもめちゃ面白くしかも感動する内容で、これはクドクド書くよりも、まず読んでいただくとして、その中の「穀田屋十三郎」は、2016年に中村義洋監督、阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡などの出演で「殿、利息でござる!」というタイトルで映画化されています。さらにこの映画には仙台つながりなのかスケーターの羽生結弦が最後にちょい役で出演しているそうです。
江戸時代にこうした英雄でもなんでもないけれど、控えめで奥ゆかしく、成果をひけらかすこともなく、欲はなく、貧しくても人のために身体を張った人がいるのだということがわかります。
お金(税金)を集めて、自分のためにばらまくのが仕事だと思っている今の政治家さんにはぜひ読んでもらいたい書籍です。
そして偉人や英雄伝には決して出てこないけれど、素晴らしい市井の隠れた英雄達を取り上げてくれる著者には感謝しかありません。
★★★
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1444
ちょうど今は3月末決算企業の定時株主総会(以下総会)が開催されている集中期にあたります。
私が社会人になった1980年は、ほとんどの企業が、総会を円満に終わらせるため、総会屋を避けるために総会日を合わせ、結果的には一般株主もどこか1社にしか総会に参加できないという無茶苦茶な時代でした。
1982年に改正された商法が施行され、大きく総会の形が変わってきましたが、それでも企業側は反社の影に怯え、裏では総会屋とつながり、総会の集中日も相変わらず継続していました。
その総会集中日は2000年頃から緩やかに(開催日が集中しなく)なってきました。
警察の総会屋への締め付けが厳しくなってきたことや、上場企業にベンチャー企業など、過去から総会屋など反社会勢力とのしがらみとは縁のない企業が増えてきたこともあるでしょう。
総会が集中する日に総会をおこなう企業数を3月決算の上場企業全体の数で割った割合を「集中率」と言いますが、もっとも集中率が高かったのは1990年代後半頃で95%もありました。
仮に3月末決算の上場企業が2000社あればそのうち1900社が、同じ日に総会を開いているのですから異常ですね。それにしてもよく会場が確保できたものです。
その過去90%を超えていた集中日は、ここ直近5年間は30%前後と大きく下がっています。
定時株主総会集中率
2016年 32.2%
2017年 29.6%
2018年 31.0%
2019年 30.9%
2020年 32.3%
今年2020年の最集中日は6月26日(金)で、3月決算上場企業のうち総会日程が決定公表している2094社の中で677社がこの日に開催されます。
下記は今年2020年の3月末決算企業の総会開催日のグラフです。横棒が長い方が企業が集中しています。6月8日以前、7月1日以降の開催日は少数なのでグラフからカットしています。
6月26日に次いで多いのは前日の6月25日(木)で474社、その次は6月24日(水)で279社の開催となっています。この3日間で、68%を占めています。
3月決算企業の総会開催日を調べていて、いくつか気がついたことを書いておきます。
・一番早い開催は株式会社スクロールの5月29日
・一番遅い開催は株式会社フォーバルの8月12日
・開催日未定はNTTドコモや東芝など21社(6月5日時点)
今年はコロナウイルスの影響で、「(法律上)総会は開催はするけれども、来ないで欲しい」という要望が多くみられ、今まで一般株主を数多く集めるために、お土産を出していたところも、それを中止したり、別会場で映像を見るという形態に変わったりしています。
来年以降は、それに加えて、ネット上でリアルタイムに議決権行使もできるようになるのかも知れません。別に準備期間さえあれば難しいことではありません。
ネットなど糞食らえ!という高齢の株主が現在はまだ多そうなので、一気に全面的に移行するのは無理でしょうけど。
今年の総会では、コロナの影響を受けて業績が落ち込むところや、今期の計画についても抑制しがちで、株主にとっては精神上よろしくない状態のところが多いでしょう。
しかしこればかりは、経営の責任と言うより、災害ですから、今回の総会はそういう言い訳で切り抜けられたとしても、今期はどのように再生し成長させるのかが経営に問われる珍しい総会になりそうです。
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1441 コロナ後の日本の行くべき道は
1407 2020年はまたもリストラが大ブームに?
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1442
愛なんて嘘 白石一文 定年後 年金プラス、ひとの役に立つ働き方 杉山由美子 儚い羊たちの祝宴 米澤穂信 真鍮の評決 リンカーン弁護士(上)(下) マイクル・コナリー |
愛なんて嘘(新潮文庫) 白石一文
2014年に単行本、2017年に文庫化された短編集で、「夜を想う人」「二人のプール」「河底の人」「わたしのリッチ」「傷痕」「星と泥棒」の6編からなります。
著者の作品は好きで、これが19冊目になります。初期の作品、「一瞬の光」「不自由な心」「僕のなかの壊れていない部分」などが新鮮に感じて次々読んできましたが、2009年に直木賞を受賞後はあまり読まなくなってしまいました。
いずれも若い女性を主人公にした物語で、こうした小説は主として女性作家さんが得意とするところですが、中年男性が書く若い女性の心理描写は、私の既成概念が邪魔するのか、やや不自然で、理解不能な行動もあり、そうした意外性が狙いなのかもと思いつつ、私には違和感がつのりました。
タイトル通り、いずれも現状の恋愛や結婚生活を望まなく、平和な家庭を平気に捨てて昔の彼氏だったり、直感でこの人と思える相手のところへ行ってしまうような情熱的で行動的な女性を主人公にしています。
ま、古い女性観を男性自らが打ち破るという側面は小説としては悪くはないでしょうけど、現実的にはありそうもないことが多く、シンデレラシンドロームじゃないけど、現状に不満だらけの夢見る乙女に向けた小説?という気がしてなりません。
あまりにもリアルな事情を知ってきた中年男性が読むと、どうにも複雑な感情を持ってしまいそうです。
★☆☆
◇著者別読書感想(白石一文)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
定年後 年金プラス、ひとの役に立つ働き方 (朝日新書) 杉山由美子
著者はすでに来年には古希になられる1951年生まれのフリーランスライターの方で、若いときには雑誌の編集とかをおこなっていたとのことです。
この新書は、2014年に発刊されたもので、基本は定年後に生き生きと働いている方に取材をし、その生き方や、定年後に働く考え方などをまとめたものです。
ただこの新書に出てくる定年を迎えた人は、「猛烈働き蜂」「仕事が生きがい」「現役時代の仕事の延長」「難関な資格を楽々ゲット」などちょっと特殊な方々の例ばかりで、私のような凡庸な人にはさっぱり参考にはなりません。もっともそうした特殊な人の話しでないとインタビュー記事は書けないでしょうからね。
この本を読むと、「このままなにもしないで定年を迎えるのは悪なのか?」と自己嫌悪に陥りそうですが、もちろんそんなことはなく、勢古浩爾著の「定年後のリアル」にあるように、「なにもしない定年後」を送っている人が大部分ではないかなと自分に言い聞かせています。
なにか定年後や老後も「生き生きとして働く」というのが世の中の常識と言う人が多くなりましたが、私は逆に、昔から日本には「隠居」という風習があるように、決して表には立たず、目立たず、仕事は若い者にまかせて、ひっそりと静かに生きるというのが一番良いと思っています。
この新書に登場する高齢者の多くは企業に長年勤め、年金もたっぷりある方々です。日々の生活のために働かざるを得ないと言う人は出てきません。
どうして、そういう高齢者が、大きな顔をして、若い人の仕事を奪ってまで、年金に加えて、生き生きと働かなければならないのでしょうか。そこのところが、わからないので、この新書に書かれている「生き生きと働く」ことを肯定ができません。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
儚い羊たちの祝宴(新潮文庫) 米澤穂信
2008年に単行本、2011年に文庫化された短編集です。短編のタイトルはそれぞれ「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」で、いずれも名門家の令嬢ばかりが通う女子大学の読書クラブ「バベルの会」が共通して関わってきます。と言っても連作スタイルではありません。
一応、ミステリー小説ですが、一部はホラー小説とも言えるようなブラックユーモア(と言ってもまず笑えませんが)的要素も含まれます。
その中で面白いと思ったのは「山荘秘聞」で、誰も客が来ない別荘の管理を任されていた女性が、近くの山で事故に遭った瀕死の登山家を助け、別荘で看病しますが、その動けない登山家を別荘で軟禁し、遭難した登山家を救助するためにやってくる捜索隊を別荘の客として迎えることに管理人として満足を得ます。
なんだかスティーヴン・キング著の小説で映画も大ヒットした「ミザリー」を思い出しましたが、この作品が一番上記に書いた「バベルの会」とはほとんど関係がなく、無理矢理その話しに向かわせなかったことが好感を持ったのかも知れません。著者の狙いとは違うかも知れませんが。
著者の作品は過去にまだ4作品しか読んでいませんが、いずれも長編作品でしたので、短編の実力もよくわかりました。でもやっぱり「折れた竜骨」のような、壮大な長編が読んでいて楽しいです。
★★☆
◇著者別読書感想(米澤穂信)
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真鍮の評決 リンカーン弁護士(上)(下) (講談社文庫) マイクル・コナリー
原題は「The Brass Verdict」で2008年発刊され、日本では翻訳版が2012年に刊行されています。サブタイトルにあるとおり、「リンカーン弁護士」シリーズの第二作目で、著者が28年前から書いてきた「ハリーボッシュ」シリーズの主人公、ボッシュ刑事がこの作品に登場してきます。
お約束通りの法廷ドラマですが、第1作目の事件で主人公の弁護士は拳銃で撃たれ、その治療のために投与された薬物で中毒になり、この作品でようやく復帰を果たす設定となっています。
弁護士が主人公というと、対する検事が悪役と相場が決まっていますが、昔の裁判で相対した検事が、今は同じ弁護士仲間としてやっていたところ、その弁護士が銃撃を受けて亡くなり、その仕事を引き継ぐことになります。
その亡くなった弁護士の捜査をしているのが著者のライフワークとなっているボッシュ刑事で、主人公の弁護士とは仕事柄、水と油の関係ながら、なにかお互いに引きつけるところがあります。そのなぜかは、最後に判明することになり、事件の解決とは直接関係はないもののここでは秘密です。
私がボッシュ刑事と出会ったのは、今から28年前の1992年のことで、書店でフラッと買った「ナイトホークス」からです。
その時は、ベトナム戦争で方々に掘られた地下道の穴に潜り込んでベトコンゲリラを抹殺する仕事をやっていて、帰国後に警察官になってもそのトラウマが抜けず、また生きるために風俗で働いていた母親が何者かに殺されるという過去を持った影のある刑事でした。
それが、今や、定年後も引き続きロス市警に残って殺人課の刑事を務めている老練の静かな刑事です。
ということで、コナリーファンにとっては、著者が創りだした二人の登場人物の魅力をたっぷり味わえる一粒で二度美味しい小説です。
★★★
◇著者別読書感想(マイクル・コナリー)
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日本大震災が起きた2011年以降、小説のストーリーの中に、震災や、その後の原発事故をモチーフにした作品が数多くありました。
震災のことを書いたノンフィクションも「遺体 震災、津波の果てに」や「津波の霊たち 3.11 死と生の物語」など数多くありますが、今回は小説だけ紹介しておきます。
あの震災で起きた壮絶な悲劇は、より近くで被災した作家さん自らが書く小説にリアリティが感じられます。
震災後に書かれた小説の中で、震災や原発事故に触れたものをざっと思い出すと下記の7冊になります。
星月夜 2月前半の読書 2013/2/20(水)
小説・震災後 10月前半の読書と感想、書評 2013/10/16(水)
幻影の星 10月前半の読書と感想、書評 2015/10/14(水)
首都崩壊 12月後半の読書と感想、書評 2016/1/7(木)
漂流者たち 私立探偵・神山健介 8月後半の読書と感想、書評 2017/8/30(水)
ファミレス 2月後半の読書と感想、書評 2018/2/28(水)
その時までサヨナラ 2月後半の読書と感想、書評 2020/3/4(水)
調べてみると、まだ読んでいない本で読みたくなる震災を描いた小説がいくつもありましたので、ちょっと備忘録的に書いておきます。紹介文は、Amazonの本の紹介のところからひっぱってきています。
その時までサヨナラ | 山田悠介 | ヒットメーカーが切り拓く感動大作!大震災による福島の列車事故で亡くなった妻が結婚指輪に託した想いとは?誰もが涙した大ベストセラーの決定版。東日本大震災が起きる前に書かれた作品で、東北で大地震を予知した作品 |
ディアスポラ | 勝谷誠彦 | “事故”により日本列島が居住不能となり、日本人は世界中の国々に設けられた難民キャンプで暮らすことを余儀なくされた。ここ、チベットのラサから二千キロもはなれたメンシイにも、日本人の難民キャンプがある。国連職員としてキャンプを訪れた“私”の目に映ったのは、情報から隔絶され、将来への希望も見いだせないままに、懸命に「日本人として」生きようとする人々の姿だった(「ディアスポラ」)。いまから十年前に、破滅的な原発事故で国を失った日本人、という設定で、日本人のアイデンティティーを追究した、いまにして思えば「先見の明」としか言いようのない作品。2作目の「水のゆくえ」は同じ設定の下、日本に残り、酒造りを再開しようとする酒蔵の息子を描く。 |
光あれ | 馳星周 | おれたち、なんでこんな眠たい田舎町に生まれたんやろうな。原発がなければ成り立たない街。ここで男は育ち、仕事をし家庭を持った―。閉塞感に押しつぶされるこの街で、やるせなさを抱きつつ男は生きる。 |
神様2011 | 川上弘美 | くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて――。 1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった――。「群像」発表時より注目を集める話題の書! 2011年。わたしはあらためて、「神様2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました。 |
小説・震災後 | 福井晴敏 | 3月11日以前と以後で、世界は一変した。この圧倒的な現実を前にして、小説に何ができるのか。『亡国のイージス』の人気作家・福井晴敏氏が、はじめて「現実」に挑んだ『週刊ポスト』連載作品である。 東京に住む平穏な家族を、あの震災が襲った。エコ担当社員の主人公・野田圭介は、3.11以後、元防衛庁職員の父の不穏な様子や、ネットにはまる中学生の息子の心境の変化に戸惑い、翻弄されていく。大震災と原発事故に見舞われたこの国で、彼は家族の危機を乗り越えることができるのか。 |
恋する原発 | 高橋源一郎 | 大震災チャリティーAVを作ろうと奮闘する男たちの愛と冒険と魂の物語。 |
星月夜 | 伊集院静 | 東京湾で発見された2つの遺体。殺人事件の鍵を握るのは、銅鐸と、遥か昔の哀しき“夜空の記憶”。充実の一途を辿る著者初のミステリが登場 |
幻影の星 | 白石一文 | 郷里の母から送られてきた、バーバリーのレインコート。なぜ?ここにもあるのに…。震災後の生と死を鋭く問う、白石一文の新たな傑作。 |
それでも、桜は咲き | 矢口敦子 | 3月11日、専業主婦の葉子は友人の結婚披露宴のため仙台にいたところ、地震に見舞われた。東京に戻れずにホテルに滞在するうち、花嫁の行方不明、津波被害、原発問題など、様々な情報を知る。少し気になるのは、東京にいる夫と連絡取りづらいことだった。ささやかな日常の中、「あの日」を迎えた全ての人に小さな力をくれる、感動の長篇小説。 |
黒い魎 | 岡崎大五 | 母の借金を返すため、還付金詐欺の片棒を担ぐ日々を送る山岸保。リーダーの加納薫堂は、悪魔のように切れる頭脳と残忍さで、保たちを支配していた。そんなある日、東日本大震災が日本を襲う―。混乱の中、薫堂は被災地での金儲けを企み、保の故郷・南三陸に乗り込む。薫堂の支配から逃れる術はないと絶望していた保だが、被災地で懸命にボランティアを行う藤堂泉と出会い、何とかして悪魔の所行を白日の下に晒そうと決意する…。未曾有の災害と被災地の現実を背景に、人間の清濁を鮮烈に抉り出した異色のサスペンス。 |
架空列車 | 岡本学 | 他者との関係を作ることができず、仕事も失った「僕」は、ひとり東北の町に逃げる。そこで「僕」は、架空の鉄道路線を妄想の中で造ることに熱中する。緻密な計算と実地見分を繰りかえし、理想の鉄道が出来上がったとき、思いもかけない出来事が町を襲う…。39歳理系大学准教授、衝撃のデビュー小説。妄想のなか、僕だけの列車が走りだす―。3.11後の世界を鮮烈に描き出す問題作。第55回群像新人文学賞受賞作。 |
光線 | 村田喜代子 | 東日本の大地が鳴動した数日後、ガンの疑いが現われる。日本列島の南端の町で、放射線治療を受ける一ヶ月余のあいだ、震災と原発をめぐる騒動をテレビで繰り返し見つめつづけた。治療を終え、ガンが消えた身体になった著者は、「自分も今一度生きよう」と心に決める―。一国の災厄と自らの身に起きた変動を、見事に文学へと昇華した稀有の連作小説。 |
空飛ぶ広報室 | 有川浩 | 不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのは、ミーハー室長の鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブ1号で「風紀委員by柚木」の槙博己、鷺坂ファンクラブ2号の気儘なオレ様・片山、ベテラン広報官で空井の指導役・比嘉など、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった……。あの日の松島」を書き下ろした待望のドラマティック長篇。 |
終末処分 | 野坂昭如 | 原子力ムラ黎明期のエリートが、その“平和利用”に疑問を抱き…。政・官・財界の圧力、これに搦め捕られていく学界の“信仰”、マスコミという“幻想”。フクシマの“現実”を、スリーマイル、チェルノブイリよりも早く、丹念な取材で描いた34年前の長篇問題作、初の単行本化。本書のための書き下ろし「大量生産、大量消費に終わりが来る時」併録。 |
還れぬ家 | 佐伯一麦 | 高校生のとき親に対する反発から家出同然で上京したこともある光二だが、認知症で介護が必要となった父、そして家と、向き合わざるをえなくなる。さらに父の死後、東日本大震災が発生し、家を失った多くの人々を光二は眼のあたりにする…。喪われた家をテーマに著者が新境地を拓いた長編小説。 |
双頭の船 | 池澤夏樹 | 失恋目前のトモヒロが乗り込んだ瀬戸内の小さなフェリーは、傷ついたすべての人びとを乗せて拡大する不思議な「方舟」だった。船は中古自転車を積みこみながら北へと向かい、被災地の港に停泊する。200人のボランティア、100匹の犬、猫や小鳥、「亡命者」―。やがて船上に仮設住宅が建ち、新しい街と新しい家族が誕生し…。希望を手離すまいという強い意思にみちた痛快な航海記。 |
アニバーサリー | 窪美澄 | 産む、育てる、食べる、生き抜く。その意味は、3月11日に変わってしまった。75歳でいまだ現役、マタニティスイミング講師の晶子。家族愛から遠ざかり、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。人生が震災の夜に交差したなら、それは二人にとって記念日になる。 |
桜の木の下で | 藤木由紗 | “3月11日”から日記形式で、主人公・理子の生活がつづられてゆく。恐怖と戦う日常と長年秘められた詩人への想いが、静かにくりひろげられる。 |
想像ラジオ | いとうせいこう | 耳を澄ませば、彼らの声が聞こえるはず。ヒロシマ、ナガサキ、トウキョウ、コウベ、トウホク…。生者と死者の新たな関係を描いた世界文学の誕生。 |
光の山 | 玄侑宗久 | 怒涛というしかない奔流が船や家や木や人々を呑み込んで流れ去った。避難所で毛布にくるまる娘は発電所勤務の彼を思う…(あなたの影をひきずりながら)。三歳の小太郎はDNA鑑定のために母親と警察署に来ていた。津波で亡くなった身元不明の遺体の中に父がいないかを確かめるために(小太郎の義憤)。経営していた結婚式場が壊され、除染作業をしながら仮設住宅に住む山口に、久しぶりに結婚式の依頼があったが…(拝み虫)。震災から30年後の福島。汚染された土や葉を積み上げた仮置場を守る爺さんがいた。そこはやがて、瑠璃色の光を放つ山になった…(光の山)。震災後二年、福島在住の僧侶作家が全身全霊をこめて放つ全六篇。 |
小説3.11 海は憎まず | 穂高健一 | 巨大津波は人間の虚飾を剥いだ。愛、喪失、差別、そして希望。瓦礫の下から奇跡のように生まれた災害文学。 |
深海の夜景 | 森村誠一 | 妻を、父を理不尽にも殺され、犯人に復讐を企てる男たち。都市の深層に生き再起を窺う人間たちを棟居刑事が優しく見守る社会派短編。 |
ゾーンにて | 田口ランディ | 福島第一原発から半径20キロ圏内は警戒区域となった。人が立ち入ることのできない場所“ゾーン”に棲むものたち。極限に生きる命の輝きを描く珠玉の4篇。 |
調律師 | 熊谷達也 | 「音」を「香り」として感じる身体。それが、彼女が私に残したものだった―。仙台在住の直木賞作家が、3.11の後に初めて描く現代小説。 |
青い花 | 辺見庸 | あいつぐ大震災と戦火で、恋も家族も未来も、すべてをうしない鉄路を彷徨う男。ただ欲しいものは、あの青いものすごいクスリ。哄笑、恐怖、愛、虚無…が卍ともえにからみあう、現代黙示小説の大傑作。 |
ファミレス | 重松清 | 妻と別居中の雑誌編集長・一博と、息子がいる妻と再婚した惣菜屋の康文は幼なじみ。料理を通して友人となった中学教師の陽平は子ども2人が家を巣立ち“新婚”に。3・11から1年後のGWを控え、ともに50歳前後で、まさに人生の折り返し地点を迎えたオヤジ3人組を待っていた運命とは?夫婦、親子、友人…人と人とのつながりを、メシをつくって食べることを通して、コメディータッチで描き出した最新長篇。 |
大地のゲーム | 綿矢りさ | 私たちは、世界の割れる音を聞いてしまった―。21世紀終盤。巨大地震に見舞われた首都で、第二の激震に身構えつつ大学構内に暮らす学生たちと、その期待を一身に集める“リーダー”。限界状況を生き抜こうとする若者の脆さ、逞しさを描く最新長篇! |
漂流者たち:私立探偵神山健介 | 柴田哲孝 | 大地震発生直後、いわき市に打ち上げられた無数の車。その一台の持ち主は、同僚の議員秘書を殺害し、六〇〇〇万円の現金を手に逃走していた。男は津波に呑まれて死んだのか。金はどこへ?捜索を依頼された探偵・神山健介は、愛犬・カイを連れ、被災地を北上し始める―。やがて浮上する、権力の影とは!? |
三陸の海 | 津村節子 | 東日本大震災の日、「私」が新婚の頃に夫・吉村昭と行商の旅をした三陸海岸を、大津波が襲った。三陸の中でも岩手県の田野畑村は夫婦にとって特別な場所。夫婦で同人雑誌に小説を書きながらの生活は厳しかったが、執筆に専念するため勤めを辞めた夫は、2泊3日かけて「陸の孤島」と呼ばれていた田野畑へ向かう。鵜の巣断崖の絶景に出会った夫は小説の着想を得て、昭和41年に太宰治賞を受賞、作家の道が開けた。取材以外の旅はしなかった夫は、家族を連れて唯一、田野畑だけには旅行するようになる。 もし夫が生きていたら、津波に襲われた愛する三陸の姿を見て、どんなに悲しんだだろう。三陸は故郷ではない。住んだこともない。でもあの日、津波が襲ったのは、私にとってかけがえのない場所だ――。 震災の翌年、夫の分まで津波の爪痕を目に焼き付け、大切な人々に会うため、息子と孫と共に田野畑を巡った妻の愛の軌跡。 |
漁師の愛人 | 森絵都 | 漁師になった長尾が属する海辺のコミュニティは、“愛人”を拒みつづける。採譜の仕事をしながら彼と暮らす紗江はそのままでかまわないと思っていたのだが―。“妻”と私と、ひとりの男の“回復”をめぐる物語。 |
首都崩壊 | 高嶋哲夫 | 国土交通省の森崎は、東都大学地震研究所の前脇から、マグニチュード8クラスの東京直下型地震が想定より大幅に早く発生するという予測データを示される。その翌日、今度はアメリカ留学時代に親友となったロバートが大統領特使として来日し、東京直下型地震による経済損失が112兆円にも及び、1929年の世界大恐慌を遙かにしのぐ被害を引き起こすというレポートを突きつけてきた。右往左往する森崎、そして日本政府。人類未曾有の危機を回避する手段はあるのか。模索し始めたとき、震度6弱の地震が東京を襲った。地震規模が予測を下回っていたことに安堵する森崎。だが、この地震は首都崩壊への序曲にすぎなかった…。 |
石を抱くエイリアン | 濱野京子 | 八乙女市子は、茨城にくらす中学3年生。受験生のはずが、志望校も決まらず、まだ気はそぞろ。そんなある日、「日本一の鉱物学者」が将来の夢という、ちょっと変わったクラスメイトの偉生から、とつぜん告白されてしまいます! とまどいながらもしだいに偉生に親しみを感じていく市子。二学期になり、偉生は、なぜか文化祭の展示で原発について調べようと提案します。 |
そして、星の輝く夜がくる | 真山仁 | 2011年3月11日、東日本大震災。地震・津波による死者・行方不明者は2万人近くのぼった。 2011年5月、被災地にある遠間第一小学校に、応援教師として神戸から小野寺徹平が赴任した。小野寺自身も阪神淡路大震災での被災経験があった。 東北の子供には耳慣れない関西弁で話す小野寺。生徒たちとの交流の中で、被災地の抱える問題、現実と向かい合っていく。被災地の現実、日本のエネルギー問題、政治的な混乱。小学校を舞台に震災が浮き上がらせた日本の問題点。その混乱から未来へと向かっていく希望を描いた連作短編集。 被災地の子供が心の奥に抱える苦しみと向かい合う「わがんね新聞」、福島原子力発電所に勤める父親を持つ転校生を描いた「“ゲンパツ”が来た!」、学校からの避難の最中に教え子を亡くした教師の苦悩と語られなかった真実を描いた「さくら」、ボランティアと地元の人たちとの軋轢を描く「小さな親切、大きな……」、小野寺自身の背景でもある阪神淡路大震災を描いた「忘れないで」。そして、震災をどう記憶にとどめるのか? 遠間第一小学校の卒業制作を題材にした「てんでんこ」の六篇を収録。 阪神大震災を経験した真山仁だからこそ描くことのできた、希望の物語。 |
眠る魚 | 坂東眞砂子 | 2011年3月11日。日本から遠く離れた南太平洋のバヌアツにも、地震による津波警報が出されていた。旅行ガイドや通訳をしながらこの島に暮らす伊都部彩実は、そのしばらく後、実父の訃報を受けて一時帰国する。放射線被害について海外メディアが報じる危機感に反比例するかのような日本の実像、また、相変わらず保守的な家族たちの思考と言動に噛み合わない思いを抱きながら日々を送るうち、「アオイロコ」という奇妙な風土病の噂を耳にする。父の遺言で、母が亡くなった後に父が交際していた女性に、代々の土地家屋を明け渡すことになり、思いのほか動揺する彩実。国に縛られない自由な生き方を望んで海外に飛び出したはずなのに、戻る場所を求めている自分に気づく。そんな折、口中の腫瘍が悪性と診断され、即刻入院となり、期せずして日本に留まることになるのだった―。 |
ボラード病 | 吉村萬壱 | B県海塚市は、過去の災厄から蘇りつつある復興の町。皆が心を一つに強く結び合って「海塚讃歌」を歌い、新鮮な地元の魚や野菜を食べ、港の清掃活動に励み、同級生が次々と死んでいく―。集団心理の歪み、蔓延る同調圧力の不穏さを、少女の回想でつづり、読む者を震撼させたディストピア小説の傑作。 |
聖地Cs | 木村友祐 | 原発事故による居住制限区域内で被曝した牛たちを今も生かそうとする牧場で、ボランティアに来た女性が見たものは―「聖地Cs」。非正規雇用で働く男性が「猫が苦しむ社会は、ヒトも苦しむ社会」だと切実に思うまでの日々を描いた「猫の香箱を死守する党」。現代社会の問題を真正面から捉えた二篇を収録。 |
アポロンの嘲笑 | 中山七里 | “管内に殺人事件発生”の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。福島県石川警察署刑事課の仁科係長は邦彦の移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて逃げられてしまう。彼には、命を懸けても守り抜きたいものがあった―。 |
避難所 | 垣谷美雨 | 九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。だがそこは、“絆”を盾に段ボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、美しい遠乃は好奇の目の中、授乳もままならなかった。やがて虐げられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む手が止まらぬ衝撃の震災小説。 |
月光のスティグマ | 中山七里 | 再会したのは愛しき初恋の女か、兄を殺めた冷酷な悪女か。この傷痕にかけて俺が一生護る――。月夜に誓った幼なじみは、時を経て謎多き美女へと羽化していた。東京地検特捜部検事と、疑惑の政治家の私設秘書。追い追われる立場に置かれつつも愛欲と疑念に揺れるふたりに、やがて試練の時がやってくる。阪神淡路大震災と東日本大震災。ふたつの悲劇に翻弄された孤児の命運を描く、著者初の恋愛サスペンス! |
雪炎 | 馳星周 | 三基の原発が立地する北海道・道南市。3・11から一年後の市長選挙に、原発の廃炉を公約に掲げる弁護士・小島が出馬した。何百億円もの原発利権に群がる者たちの策謀、暗闘に対し、選挙スタッフの和泉は、公安警察官時代の経験で対抗。しかし、そんな彼らに悲惨な事件が襲いかかった―。 |
雨に泣いてる | 真山仁 | 3月11日、宮城県沖を震源地とする巨大地震が発生し、東北地方は壊滅的な打撃を受けた。毎朝新聞社会部記者の大嶽圭介は志願し現地取材に向かう。阪神・淡路大震災の際の〝失敗〟を克服するため、どうしても被災地に行きたかったのだ。被災地に入った大嶽を待っていたのは、ベテラン記者もが言葉を失うほどの惨状と、取材中に被災し行方不明になった新人記者の松本真理子を捜索してほしいという特命だった。過酷な取材を敢行しながら松本を捜す大嶽は、津波で亡くなった地元で尊敬を集める僧侶の素性が、13年前に放火殺人で指名手配を受けている凶悪犯だと知る……。 |
希望の地図3.11から始まる物語 | 重松清 | 中学受験失敗から不登校になってしまった光司は、ライターの田村章に連れられ、被災地を回る旅に出た。宮古、陸前高田、釜石、大船渡、仙台、石巻、気仙沼、南三陸、いわき、南相馬、飯舘…。破壊された風景を目にし、絶望せずに前を向く人と出会った光司の心に徐徐に変化が起こる―。被災地への徹底取材により紡がれた渾身のドキュメントノベル。 |
リバース | 相場英雄 | 警視庁捜査二課から所轄に異動した西澤は、書店で万引きをした老婦人を取調べた。身なりもよく教養溢れる彼女は、なぜ万引きをしたのか。そこには、深い事情があった…。大震災と原発事故。そして、「福島にはカネが埋まっている」と嘯く詐欺師が仕掛ける被災地支援詐欺―。最も卑劣だと言っていい犯罪を、心熱き警察官が暴く社会派長編警察小説。 |
持たざる者 | 金原ひとみ | 僕はどこだが分からないここにいる―修人。全ての欲望から解放された、いや、見放された―千鶴。人生とは結局、自分自身では左右しようのないもの―エリナ。きっと、私がここから別の道を歩む事はないだろう―朱里。他者と自分、世界と自分。絡まり合う、四者の思い。思いがけない事故や事件。その一瞬で、ねじ曲がる。平穏な日常が、約束された未来が。混沌、葛藤、虚無、絶望。四年ぶりの傑作長編小説。 |
再びの朝 | 風見梢太郎 | 大手通信系企業の研究所で働く真下裕造は、共産党員として職場でさまざまな差別を受けながらも、それに抗して活動を続けて退職間近を迎える。福島第一原発事故を契機に、かつての学生運動仲間と専門的知識を共有しながら原発ゼロの運動をすすめる主人公と、その心意気に共感して党に接近してくる職場の若者たちを描く長編。 |
ザ・原発所長 | 黒木亮 | 資源をめぐる太平洋戦争に敗れた反省から、戦後、日本は原子力の導入へと邁進する。同じ頃、大阪の商業地区に生まれた男は、東工大で原子力を専攻し、日本最大の電力会社に就職する。そこで彼を待ち受けていたのは、無限の原子力エネルギーという理想ではなく、トラブル続きの現場、コストカットの嵐が吹き荒れる本社、原子力という蜜に群がる政治家、官僚、ゼネコンと裏社会だった。“夢の平和エネルギー”の曙から黄昏までを駆け抜けた「運命の男」の生涯。 |
彼女の人生は間違いじゃない | 廣木隆一 | 仮設住宅に住む役所勤めのみゆき。震災後、恋人とぎくしゃくする彼女は、東京でデリヘルのバイトを始め……フクシマの今を描く、映画監督・廣木隆一の初小説。赤坂真理・高良健吾・降谷建志氏推薦! |
冬の光 | 篠田節子 | 四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが…。死の間際、父の胸に去来したのは、二十年間、愛し続けた女性のことか、それとも?足跡を辿った次女が見た冬の光とは― |
ムーンナイト・ダイバー | 天童荒太 | ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが… 311後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。 |
我ら亡きあとに津波よ来たれ | 丸山健二 | 養いの親を手に掛け、放浪に身をやつした青年を襲う大津波。三日三晩を生き延びたとき、あたりにはただのひとりも生者の姿はなかった。無秩序と混沌のなか、希望と絶望とに引き裂かれ、延々と繰り広げられる、独語にも似た死者たちとの問答。奇跡的に得たこの生命、これまでの人生の意味と価値をめぐる葛藤に出口はあるのか。圧倒的な筆致で描き出す丸山文学の黙示録。待望の書き下ろし長篇 |
やがて海へと届く | 彩瀬まる | すみれが消息を絶ったあの日から三年。真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった―親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが―。死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語。 |
焼野まで | 村田喜代子 | 大震災直後、子宮ガンを告知された。火山灰の降り積もる地で、放射線宿酔のなかにガン友達の声、祖母・大叔母が表れる。体内のガン細胞から広大な宇宙まで、3・11の災厄と病の狭間で、比類ない感性がとらえた魂の変容。前人未到の異色作。 |
バラカ | 桐野夏生 | 震災のため原発4基がすべて爆発した!警戒区域で発見された一人の少女「バラカ」。ありえたかもしれない日本で、世界で蠢く男と女、その愛と憎悪。想像を遙かに超えるスケールで描かれるノンストップ・ダーク・ロマン |
また次の春へ | 重松清 | 喪われた人、傷ついた土地。「あの日」の涙を抱いて生きる私たちの物語集。 「俺、高校に受かったら、本とか読もうっと」。幼馴染みの慎也は無事合格したのに、卒業式の午後、浜で行方不明になった。分厚い小説を貸してあげていたのに、読めないままだったかな。彼のお母さんは、まだ息子の部屋を片付けられずにいる(「しおり」)。突然の喪失を前に、迷いながら、泣きながら、一歩を踏み出す私たちの物語集。 |
絆 走れ奇跡の子馬 | 島田明宏 | 2011年3月11日、津波に呑まれた牧場でただ1頭生き残った牝馬シロが命と引き替えに産み落とした芦毛の牡馬「リヤンドノール(北の絆)」。牧場主・雅之とその長男・拓馬は、放射能汚染の風評被害などと戦いながらリヤンを競走馬として育て、デビューさせる。リヤンは拓馬たちの夢を載せ、日本ダービーをめざして疾走する…。東日本大震災に見まわれた福島県南相馬市を舞台に展開する、馬と人、人と人の「絆」の物語! |
影裏 | 沼田真佑 | 第157回芥川賞受賞作。 大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、 ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。 ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。 いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、 「あの日」以後、触れることになるのだが……。 樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。 |
なぜこのような震災を描いた小説を出してきたかというと、ご想像通り、これから数ヶ月後から続々とでてくるはずの「コロナ禍」をモチーフにした小説が頭の中をよぎったからです。
悲劇あり、コミカルなものあり、世界を舞台にしたスリラーサスペンスあり、非常時にはてんで役に立たない政治家や役人とか、休業要請で破産する個人事業主とか、医師兼業作家さんは医療現場の混乱した状態や、SF作家さんはバイオテクノロジーや未知の新型ウイルスとの闘いなど、それぞれの小説家にとっては創造力をかき立てられるまたとない社会の大きなうねりが到来したことで、私なんかが想像だにしなかったストーリーを書き上げてくれそうです。
コロナ禍は間違いなく悲劇ですが、これがきっかけとなり、平和ボケしている社会を見直すきっかけとなれば多少は貢献したことと言えるのかも知れません。
世界全体が萎縮しがちな気持ちの中で、様々な視点と発想で、ぶっ飛んだ小説を楽しみにして待っています!
【関連リンク】
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