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呪われた町(上)(下) (文春文庫) スティーヴン・キング

世界的に有名な著者の長編小説では「キャリー」に次いで2作目という初期の作品です。

原題は「Salem's Lot」、初出は45年前の1975年の作品で、日本語翻訳版は1983年に刊行、その後文庫版が出版されています。

キングと言えば、ミステリーやホラーの旗手ですが、こちらもドラキュラをテーマにしたミステリー&ホラー作品となっています。

ただ、まだ長編小説として2作目という初々しい?ところがあり、あまり凝った内容ではなく、東欧で古くに伝承としてあった吸血鬼というかバンパイアがアメリカの田舎町に住み着き、主人公の作家の周辺の人達が次々と感染していくというストレートで特にひねりのないストーリーです。

ドラキュラは、いまから100年以上前にイギリスのブラム・ストーカー著の小説に登場した人の生き血を吸って仲間を増やしていく吸血鬼です。

夜しか行動できない、人の生き血を吸うことで死んだまま生き続ける、歯に牙ができるなど吸血鬼というスタイル、いま日本でも大流行の「鬼滅の刃」に出てくる鬼ともかなり共通していて、西洋・東洋問わず、ほぼ同じスタイルの悪の存在を人類の敵としているのはなにか面白いというか興味を引かれます。

さすがに日本の鬼にドラキュラが弱いとされる十字架や聖水を突きつけても効果は?で、逆にドラキュラが藤の花に弱いという話しも聞こえてきません。

このドラキュラなどのバンパイアや日本の鬼が古くから伝承としてあり、象徴することは、東西世界に関係なく、過去から何度も人類を苦しめてきた、人から人へと感染し、やがては死に至らしめる未知のウイルスや細菌をイメージしているのかなと思えます。

そういう意味でも、未知のウイルスに世界が苦しめられている新型コロナウイルス時代に鬼滅が大流行したり、こうしたドラキュラ本を読むのに適しているかもです。うまくまとめちゃいました。

★★☆

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傘をもたない蟻たちは (角川文庫) 加藤シゲアキ

2015年に単行本、2018年に文庫化された短編小説集です。2016年にはテレビドラマも作られています。さすが人気アイドル作家。

過去には小説デビュー作「ピンクとグレー」を読んでいます。

2016年11月後半の読書と感想、書評(ピンクとグレー) 

「染色」「Undress」「恋愛小説(仮)」「イガヌの雨」「インターセプト」「おれさまのいうとおり」「にべもなく、よるべもなく」の7編からなるこの小説は、いずれも現代的というか、著者と同世代(著者は33歳)の、まだギリギリ中年の域には達していない若者に向けた心理サスペンスというジャンルになるでしょう。

記憶に残ったのが「イガヌの雨」で、これはSF的な内容で、空から完全栄養食となる生物が大量に降ってきたことで、従来の食糧生産が落ち込み、やがては破滅の道へ進んでいくという恐ろしい話し。

あと「にべもなく、よるべもなく」はボーイズラブというか、小学生の頃からの同性の親友が、同性愛者だったという苦悩で、心が乱れていくというストーリー。

いずれも結末がイマの作品らしく、決着するようなものではなく、あとは余韻に浸って想像膨らませてくださいって感じです。

私の世代には、それが苦手なので、どうも後味がよくありません。

★☆☆

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2025年東京不動産大暴落 (イースト新書) 榊淳司

新書ではつきものの刺激的なタイトルで、2017年に発刊されました。そのタイトルに釣られて買いました。

コロナ騒動前に書かれたものなので、オリンピックの延期や、不動産価値、黒田日銀総裁の再任(本書では2018年の再任はないだろうと書かれてました)など、本書に書かれている想定が大きく変わってきていることを承知で読む必要があります。

タイトルにも出てくる2025年というと、すでに地方を中心に人口減少が進む中で、ボリュームが厚い団塊世代が後期高齢者になり、いよいよ東京でも人口が減少し始める時期とされています。

その他にもタワーマンションのリスクなどもよく報道される程度には書かれていますが、この本が書かれた3年後の今でも新築・中古とも、高級タワマン販売は好調を維持しています。

コロナでリモートワークが主流となり、郊外や地方への移動が進むかと言えば、実のところはより便利な都内に住みたい派が多いらしく、本書でも書かれていますが局地的バブルがますます膨れ上がっている勢いです。

そうした都内在住要求が強ければ、またこのまま都内の住宅が適度に供給され続ける限り、本書で「大暴落」とされる2025年もまだ都内の人口は地方や郊外から吸収し続け、東京の不動産価格は高止まりし続けている可能性もありそうです。

しかし、不動産の売買についての著者の話は面白く、これから家を買おうと思う人は、先に読んでおいて損はないでしょう。

私は、すでにローンが終わった郊外の古くなってきた一軒家を、売るでもなく、子供に残そうとかでもなく、悪くなった箇所を補修しつつ、終の棲家として維持していくだけですから、関係のない話しではありますが。

★★☆

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殺人犯はそこにいる (新潮文庫) 清水潔

2013年に単行本、2015年に文庫化された当時「足利事件」と呼ばれていた幼女連続誘拐殺人事件を追いかける事件記者が書いたノンフィクションです。

この著者は写真週刊誌FOCUSの記者を経て、日本テレビ報道局記者へ転職した方で、FOCUS時代には「桶川ストーカー殺人事件」を追いかけ、警察より早く犯人にたどり着いたことで有名です。

このノンフィクションでは、足利事件を調べていく過程で、足利の周囲で5件もの幼女が誘拐されて殺されているか行方不明になっているに関わらず、警察の捜査は同一犯説にはならず、無期懲役囚として服役している菅家さんはその5件のうちの1件の誘拐殺人容疑です。

現場を何度も歩き、関係者に聞き回わり、日本で初めてとされるDNA検査結果の異常さに気がつき、菅家さんは無実じゃないか?ということに気がつき、弁護士などと一緒に執念で再審で判決をひっくり返しました。

えん罪に気がついて、様々な警察や鑑識、検察などの妨害にもめげず、無罪を勝ち取ると言うだけでも1本の映画やドラマにもなりますが、実は本題は、「菅家さんが犯人だとつじつまが合わない」「殺人犯は別にいる」「その容疑者は調べて行く過程で突き止めた」ということから、「(犯人とされた)菅家さんには刑務所から退場してもらわないと次にいけない」というのがモチベーションだというのに驚きます。

桶川事件と同様、この足利事件でも警察や検察のメンツや思い込み、組織を守ることが一番重要などを徹底的に糾弾していて、ここまで書いてよく引っ張られないものだなぁと。闇夜の夜は歩けないでしょう。

さらに、同時期にDNA検査が重要な決め手となって死刑判決となりすでに執行された飯塚事件について、そのDNA検査の不自然さ、裁判所へ提出した証拠画像の一部分が消されていたこと、足利事件でDNA検査のやり直しを求めた再審が始まろうというその時期に、異様に早く死刑が執行された不自然さなどにも言及しています。

また初めて死刑囚が再審の結果無罪となった免田事件の元死刑囚にも会いにいって、警察と検察がえん罪をつくる構図を調べにいったりします。その免田さんは、つい最近、12月5日にお亡くなりになりました。

こうした事件記者の活躍は、ドラマや映画では出てくることがありますが、実際には「警察発表をそのまま報道」、「芸能人のスキャンダル隠し撮り」ぐらいしか見かけなくなっていることを危惧していましたが、著者も「変わり者」の烙印を押されながらも、一途にその事件記者の正しい道を疾走していることがわかる一冊でした。

もうちょっとシンプルに、あちこち寄り道せず、短く、読みやすく書いてくれると、もっと読者が増えるような気がします。どうしても、過去のことも含めあれもこれもと詰め込みたくなるのはわからないでもないですが。

こうした単一の事件を追いかけたノンフィクションは過去に森下香枝著『グリコ・森永事件「最終報告」 真犯人』や、カポーティ著の『冷血』などを読んでいます。

2011年1月前半の読書(グリコ・森永事件「最終報告」 真犯人 森下香枝著)
2014年1月前半の読書(冷血 カポーティ著)
2014年10月後半の読書(宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作 高沢皓司著)

それらと比べても遜色がないというか、ジャーナリスト魂が感じられるそれ以上の骨が感じられる作品です。

★★☆

【関連リンク】
 11月後半の読書 砂の王国(上)(下)、おとなの教養2、晩秋の陰画、ダブル・イニシャル
 11月前半の読書 顔を忘れるフツーの人、瞬時に覚える一流の人、緑衣の女、微笑む人、陰翳礼讃
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