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映画「風と共に去りぬ 」(原題:Gone with the Wind)を見ました。以前NHK BSで放送されたのを録画しておいたのですが、なんと言っても1本で222分もある超大作、普通の映画の2.5本分もあるだけに、なかなか見る機会がありませんでした。


画像:PIA Corporation

アメリカでの公開は第二次世界大戦が始まった1939年という世界中がきな臭くなってきた頃で、まだ日本との太平洋戦争は始まっていません。

この映画を公開時に海外で見た日本人エリート軍人が「こんな映画を作る国と戦争しても勝てない」と衝撃を受けたとか(wikipedia)。

日本で最初に公開されたのは終戦から7年も経った1952年ですから、当時映画館へ駆けつけた20歳前後の若者は、現在は80代半ばになっています。その頃に最初に見たときの感想を聞いてみたいものです。

その後何度かリバイバル上映がされていて、特に私がまだ小中学生だった1970年代にはおそらく団塊世代向けに好評で、長い期間上映していたのを子供心に覚えています。

この映画については有名すぎて解説の余地も残されていないのでしょうけど、せっかく見て感動と記憶が残っているうちに、その備忘録的感想を書いておきます。

原作はマーガレット・ミッチェル、監督は「オズの魔法使 」(1939年)などを監督したヴィクター・フレミングで、この映画でアカデミー賞の作品賞・監督賞・主演女優賞など9部門を獲得しました。

主演でヒロインのスカーレット・オハラに抜擢されたのはこの映画までは無名だったヴィヴィアン・リー、その相手役のレット・バトラーにはすでに確固たる名声を築いていたクラーク・ゲーブルで、夕日に染まる丘でスカーレットを抱き留めているバトラーのシーンのポスターがあまりにも有名です。

映画の内容は、1960年代の裕福で華々しかったアメリカ南部の白人上流階級の生活が、戦争(アメリカ南北戦争)によってすべて失ってしまい、二度とあのような華麗で美しい日々は戻ってこないという意味を「風と共に去っていった」と表したものです。

そう言えば、日本で「戦争」といえばほぼ「太平洋戦争」を指しますが、アメリカで「戦争」というとこの「南北戦争」を指すと言われています。それだけアメリカ国民にとっては意味のある大きな出来事だったのでしょう。

ちなみに南北戦争ではエイブラハム・リンカーンやユリシーズ・グラントが率いるアメリカ北軍に、この映画の舞台となる南部(南軍)はこてんぱんにやっつけられ、美しかった南部の主要都市アトランタも火の海と化します。

この負けた南部の過去の栄光と、そこから必死にはい上がっていこうとする美しきヒロインという構図が、太平洋戦争でアメリカにこてんぱんにやられ、そこから立ち直ろうともがいていた敗戦直後の日本の姿がダブって、当時の日本人にはこの映画が琴線に触れて特に大ヒットしたようです。

ヒロインのスカーレット・オハラは、日本人の感覚で言えば大金持ちのわがまま娘によくいる自分勝手ですぐにヒステリーを起こすあばずれで、友人の夫をずっと狙っている嫌なヤツです。しかしこの映画の中では可愛くて自立心が旺盛で憎めないから不思議です。

結局ヒロインは意中の人を射止められず、ヤケクソ気味で手近にいた男と結婚をしますが、その相手は結婚後すぐに南北戦争中に病気で死んでしまいます。

戦争に敗れ南部で手広く農場をやっていたヒロイン一家はなにもかも失ってしまい、お金欲しさで好きでもない金持ちの妹の恋人を奪って二度目の結婚、その2番目の夫も銃弾に倒れてまもなく死亡、そしてようやくヒロインに意中の人がいるのを知りながらもひたすら求愛をしてくれていたレット・バトラーと結ばれます。

二人の間には娘が産まれ、ハッピーエンドで終わるかと思いきや、ここでまた悲劇が起こります。その悲劇が引き金となって、もう我慢の限界とばかり夫のレット・バトラーが荷物をまとめて家を出て行ってしまいます。

そこで初めてヒロインは意中の人ではなくレット・バトラーを本当に愛していたことにようやく気がつき、生まれ育ったタラの農園に戻り、そこをずっと守っていくことで、きっとレットは戻ってきてくれると信じるところで長いドラマが終わります。

時間にすると3時間40分、確かに長いですが、次々と場面が変わり、また動きも激しいので、集中してみているとその長さはあまり感じられません。また古い映画によくあるスタジオのセットの中だけで終始するのではなく、広大な牧場や農園、巨大な街のセットを使った展開で客を飽きさせません。

私が過去に見た1本の映画の中で一番長かった「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ 」は香港の映画館で観ましたが、途中でトイレ休憩時間を挟む上映時間が205分(3時間35分)あり、この映画より5分だけ短いものでした。

さてこの映画の主題は、強くて美しい南部女の愛と人生というべきものでしょうか、現代においても男性を蹴散らしてでも強くなりたい女性の共感は得られそうなところが多々あるように思えます。

親友の彼氏や夫に横恋慕したり、金持ちの妹の彼氏を奪い取ったり、ダメな男を見下して自分が采配を奮いビジネスをを成功させたりと、現代のドラマに焼き直しても十分通用しそうです。

そんな自信過剰でわがままな女性でも、ひたすらに思ってくれる頼れるイケメン男子がいつもそばにいて、お金のために結婚して、たいして好きでもなかった夫は次々と亡くなり、三度目でようやく本懐を遂げ結ばれるという話しなど、現代女性にとっては願ったりかなったりの展開かも。さすがに女性作家の作品だけあります。

女性が描く「波瀾万丈だけど結果オーライに近い人生」っていうのが見終わった後の感想です。

アメリカの近代史の勉強にもなりますし、日本がまだ白黒の無声チャンバラ映画で弁士が活躍していた時代に、アメリカではこのようなフルカラーの大スペクタル感動巨編を作っていたということを考えると、どう考えても宣戦布告したのは無謀な過ちだったと言わざるを得ません。

ゴールデンウィークも近いし、このような長時間じっくり映画に浸れるなんてなかなかないでしょうから、もしまだ見ていない人がいればレンタル屋さんへGo!。買ってもAmazonで送料込みで千円もしません

最後に余談ですが、この小説に登場する架空のイケメン男子レット・バトラーは、後に円城塔との共著となる伊藤計劃著「屍者の帝国 」に登場していて、スカーレットと別れたあと、アメリカの民間軍事会社に所属し、英国人主人公と絡むなかなか重要な役割を果たしています。

そのようにして、架空の登場人物が、後世に書かれた小説などに取り上げられたりするのって、それを知っているとなおさら楽しいものです。


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