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ファイアボール・ブルース〈2〉 (文春文庫) 桐野 夏生

11月に読んだ「ファイアボール・ブルース」(1995年)の続編にあたりますが、この作品は長編だった前作とは違い、「入門志願」「脅迫」「リングネーム」「判定」「嫉妬」「グッドバイ」「近田によるあとがき」の7つの連作短編からなり、それぞれが独立したストーリーとなっている2001年の作品です。

最近このような連作短編作品が多くなっているような気がします。これは雑誌や週刊誌などに連載をする都合上、一応1話完結の形式を取り、大きな流れはそのまま継続していくという、商業主義、ご都合主義的な臭いがプンプンしてあまり好きではありません。でもそれを出版社から求められて、断ることが出来る作家さんは日本には10名といないでしょうから仕方ありませんね。

主人公は前作と同様人気実力ともあるあこがれの女子プロレスラーの付き人をしながら、自らもなんとか勝ちたいと練習に励む女子レスラー近田です。

もっとも前作ではエース格のファイヤーボール火渡渉子を最大限に持ち上げ、近田はその陰に隠れてしまった存在でしたが、この作品ではちゃんと主人公となっています。

前作では殺人事件が起きるという派手な展開でしたが、今回はファンからの脅迫状はありますが、概ね女子レスリング団体の中のささやかなコップの中の嵐ってところで、地味ですがより現実的なストーリーです。

ただいかんせん、限られた見識の中での限られた人間関係を展開するので、読む側にそれほどの思い入れがなければ、アッサリし過ぎって言うか、淡々となんの印象も残らず、知らない間に終わっているとなりかねません。私がそうでした。

残念ながら前作での派手な女子プロデビューを超えられなかった2作目ということで、ちょっともったいなかったかな。

著者別読書感想(桐野夏生)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

夜中にラーメンを食べても太らない技術 (扶桑社新書) 伊達友美

2008年発刊と6年前の少々古い新書(古くても新書とはこれいかに)ですが、タイトルに釣られて買ってしまいました。新書は自らを売り込む絶好の機会ととらえ、そこからブレークしていく人も多いのですが、この著者もこの作品の後、自称「ダイエットの女王」様として大活躍されているようでなによりです。

私自身も一時期は腹囲がメタボ診断と下されるほどで、このままではいけないと思い、主として夕食に米を食べない糖質制限ダイエットをおこない、最近はクリアできていますが、それでも夜中にふと小腹が空いて深夜遅くまでやっているラーメン屋へ行きたくなることがよくあります。

我慢できれば一番いいのですが、つい家族や友人を誘ってみて、相手が行くと言えば「ま、仕方ないな」と勝手な言い訳をほざきつつ喜んで食べに行くこともあり、もし本当に夜中にラーメンを食べても太らないというのなら、その秘密をぜひ知りたいものです。

こうしたダイエットに限らず、なんかを指南しようとする人は、「今までのやり方はダメダメ、それはこういう理由、私のやり方はそれとは全然違ってこうこう」って流れが多く、押しつけがましいところが目立ちます。この本の内容もまさにその通りです。

例えば糖質ダイエットの問題として、「糖質を食べないと頭が働かない」など指摘しています。でも毎日朝から晩まで一切の糖分や糖質を断っている極端な人などいるわけもなく(いたらその人は精神的におかしくなっている人でしょう)、せいぜい夕食の1食から米飯を抜いているとか、昼はうどんやそばをやめてサラダだけ食べるとかが普通なのに、「様々な糖質は身体に絶対必要で糖質ダイエットはダメダメ」って否定されてもなぁと反感を覚えたりします。

また電子レンジで暖めると「容器のプラスチックが溶け出して身体に悪い」とか「中の栄養素が破壊される」とか、科学的に証明された根拠ではなく、「・・・と言われている」とか都市伝説じゃあるまいし「そんな話しを聞いた」レベルのことも書かれていたりして、ちょっとどうよ?って思う部分も。

ただ世間一般ですでによく言われているように、ラーメンやカレーライスや肉を食べる前に、先に野菜を食べておこう、身体に悪い食べ物を食べたときはいいものも食べて中和しておこうというのは、この本でもその理由を含めて書かれていますのであらためて参考になります。

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

Another (角川文庫)(上)(下) 綾辻行人

この作品は2009年に単行本、2011年に文庫版が発刊されているホラー・ミステリー長編小説で、その後2011年にシリーズ第2作目の「Another エピソード S」が、2014年からは3作目が野生時代での連載が始まっています。

またアニメや映画も作られていて、映画は山﨑賢人と橋本愛の主演で、2012年に公開されています。

主人公は東京から地方の公立中学校へ転校してきた中学三年生男子。母親は主人公を出産後に間もなく死亡し、研究者の父親と長く二人暮らしをしていましたが、父親の長期海外出張のため、母親の実家で祖父母と一緒に暮らしています。

しかしこの三年三組に転校してきてから、多くの謎に包まれます。というのも、25年前にクラスの人気者だった3年3組の生徒が事故で死亡しますが、クラスメイトや担任がその後もその亡くなった生徒がそのままいるかのように振る舞ったことで、翌年からそのクラスにだけおかしな怪事件が頻発するようになります。

主人公の生徒は事の真相について知らされず、その結果、クラスの中での決まり事を破ってしまいます。そのあたり、小説の中では「今はまだ教えられない」とか「今度話しをする」とか「今日のところはここまでね」とか、思い切り話しを引っ張って引っ張ってなかなか真相やヒントを明らかにせず主人公以上にイライラし、ただ紙の無駄遣いのような気もします。

民放テレビで盛り上げておくだけ盛り上げて、パッとCMに入る山場CMや、スポーツ中継を「このあとすぐ!」とか言っておきながら、30分後にようやく始まったりする騙しのテクを応用しているのか?と疑ってしまい、いらちな自分には不向きとも言える展開です。

内容的には創造性豊かで面白いストーリーだったのに、もう少しスピード感を持って(短気な)読者に配慮して書けば、詰まるところ上下巻に分けなくとも十分1冊に収まりそうな内容だったのがちょっと残念でした。

逆に鯨統一郎氏のように重い深いテーマでも、サラッと軽く短編にして書いてしまう作家さんもいたりして、それぞれが個性なのでしょうけど、作家さんの個性を見分けて選んで読む時代になってきたのかも知れません。

著者別読書感想(綾辻行人)


【今年1年間の読書】
 12月前半の読書 1秒もムダに生きない 時間の上手な使い方 岩田健太郎、骸の爪 道尾秀介、親鸞 激動編 五木寛之、旅をする木 星野道夫
 11月後半の読書 介護退職、沈黙の画布、東京タワー オカンとボクと、時々、オトン、わたしを離さないで
 11月前半の読書 何ものも恐れるな〈上〉(中)(下)、木暮荘物語、ファイアボール・ブルース、梅干しはデパ地下よりBARで売れ!?
 10月後半の読書 シッダールタ、おひとりさまの老後、正義を振りかざす君へ、宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作、肩ごしの恋人
 10月前半の読書 プラナリア、暗闇にひと突き、「反原発」の不都合な真実、クリムゾンの迷宮、監査難民
 9月後半の読書 マスカレード・ホテル、西の魔女が死んだ、オレ様化する子どもたち、ペンギン・ハイウェイ、動物農場
 9月前半の読書 暗く聖なる夜(上)(下)、ロード&ゴー、寝ても覚めても、やさしい人
 8月後半の読書 私の嫌いな10の人びと、人間の土地、きよしこ、奇面館の殺人、俺俺
 8月前半の読書 身を捨ててこそ・浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて、田舎暮らしに殺されない法、秋田殺人事件・遠野殺人事件
 7月後半の読書 蝉しぐれ、博士の愛した数式、砂の女、嘘つきアーニャの真っ赤な真実、田舎暮らしができる人 できない人
 7月前半の読書 陽だまりの偽り、日曜日たち、人生を無駄にしない会社の選び方、佐賀のがばいばあちゃん、真夜中の神話
 6月後半の読書 月に繭 地には果実(上)(中)(下)、人間失格、去年はいい年になるだろう
 6月前半の読書 絆、クリフトン年代記第3部 裁きの鐘は、男の作法、きみの友だち
 5月後半の読書 塩狩峠、医療にたかるな、オレたちバブル入行組、それでも、警官は微笑う
 5月前半の読書 チルドレン、親鸞、政治家の殺し方、平成関東大震災
 4月後半の読書 下流志向-学ばない子どもたち、働かない若者たち、ダブルジョーカー、真珠湾 十二月八日の終戦、星の王子様
 4月前半の読書 慈雨の音(流転の海 第6部)、天使のナイフ、ある微笑み、ダイスをころがせ
 3月後半の読書 戦闘妖精・雪風<改>、グッドラック―戦闘妖精・雪風、春嵐、Facebookというビジネス
 3月前半の読書 三千枚の金貨、「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト、下町ロケット、ふたたびの恋
 2月後半の読書 神様のカルテ3、卵をめぐる祖父の戦争、シューカツ、迷惑メールやって良いこと悪いこと
 2月前半の読書 北帰行、天地明察(上)(下)、微笑む人、ジェノサイド(上)(下)
 1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事
 1月前半の読書 冷血、クリフトン年代記 第2部(上)(下)、八つ花ごよみ

◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆

今年2014年も今日で終わりです。お世話になりました。
皆様におかれましても、よいお年を迎えられることを心より願っております。
また来年もよろしくお願いいたします。


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882
今年も残りわずかとなりました。

2002年の春からスタートしたリストラ天国日記もまもなく13年目に入ります。

決して多くはない読者(笑)の方々には感謝感謝です。

この日記形式のような乱文は、自ら続けることで、仕事や会社に対する自分の考え方の戒めと、私のように突然仕事を失って茫然自失に遭った人やその予備軍に、なにか役立てることができないものかと始めたものでした。

開始当時の日記
リストラ通告
退職後1ヶ月経過
再々就職活動 最終回

そして今年の日記(一部)
定年リタイア時の必要貯蓄額と生涯住宅費用
転職適齢期というのがあるとすれば
労働人口と非労働人口推移と完全失業率
高齢者向けビジネス(第1部 居住編)
中高年者の雇用不安
仕事と介護の両立という難題
失業率とか雇用状況

現在はその内容も相当変わってきてしまいましたが、底辺に流れるのは、雇用問題であり、再就職やリストラといった社会問題です。

2007年に起きたリーマンショックで一時期は世界的な不況が覆い尽くしましたが、あれから7年が経ち、今年は大手企業向けに官製の景気浮揚策だったとはいえ、多少景気が上向きに転じたような雰囲気がありました。

なかなか中小企業以下で働く人の生活にまで、いい影響は出ていませんが、それでも先行きが真っ暗な状態から多少薄日が差してきたのかなと思ってます。

おしなべて大企業は好決算を連発しているような報道ですが、その中にあっても、タカタやベネッセ、ワタミフードサービス、まるか食品(ペヤング)のように不祥事や重大なミスから苦境に立っているところや、構造不況に入ってしまったソニーやリコーなど大企業もあり、厳しいのは中小零細企業ばかりではありません。

そして今年も大企業を中心に大量のリストラがおこなわれ、経営者やオーナーの無能ぶりを天下に公表しています。

そして来年はというと、先の衆議院選挙で大勝した自民党1強の政治状からして、今までと変わりない大企業優遇、既得権益死守、役人・官僚天国の政治がよりいっそう強化されることになるのでしょう。それが国民が選んだ道ですからなにも言うことはありません。

大相撲で白鵬に勝れる力士がなかなか出てこないように、政治においても安倍自民党にとって代われるだけの器量、資質、人気、リーダーシップを持った政治家や党がなく、大きなミスや病気・事故でもない限り、長期政権になるのは今のところ必至の情勢です。

それに若い人にも保守傾向が強くなってきていて、昔のように「老人=保守」対「若者=革新」の構図が崩れてきていることもここ最近の政治傾向だと言えます。

その結果、今後何が起こるかと言えば、「せっかく応援してやったのに、政治家は若者の期待に応えてくれない」という若者の反発に火が付き、やがてそれがなにかの拍子に爆発するようなことになりかねません。愛情が憎しみに変わったときの若者の反動エネルギーは、東欧崩壊やアラブの春などを見るまでもなく過激です。

経済、政治はそういうことでも、5年半後に開催される東京オリンピックは国民に夢と希望を与えてくれ、政治や経済にとってもカンフル剤的な効果はあるでしょう。バブル後急速にしぼんでしまった企業のスポーツ支援もまた新たな形で進むかもしれません。

この先人口と内需が先細りしていく国内において、そうしたカンフル剤と安定政権をうまく利用して、ポスト五輪のことまで考えた都市作りや社会制度、TPPや集団的自衛権、自衛隊海外派遣、武器輸出など、国際社会の中での良好な関係作り、近隣諸国との歴史問題と関係改善などができればいいのですが、明確な国の将来ビジョンが示せる若い新しいリーダーの登場が待たれるところです。

と同時に、東北復興ととともに、やがて襲ってくるであろう、首都圏や中部圏を壊滅状態にする東南海連動大地震などに備えた、防災都市作り、そして世界からの観光客を暖かく迎えられる国際都市作りなど、国がやらなければならない命題がいくつもあります。

さて、個人的なことですが、現在私は57歳で、会社規程の定年まであと3年になりました。

現在の勤務は内勤の事務職で、このままいけば、60歳で定年退職するか、あるいは一部の年金が支給される63歳まで嘱託のような形で継続雇用してもらうかどちらかを自分で選ぶことになるでしょう。

3人いる子供は上の二人はすでに社会人になっていて、3人目も再来年には社会人となる予定で、あと1年と少しで一応親としての役目も完結します。

あとは自分たち夫婦の老後の心配だけをすればいいので、老体にむち打ってまで働きたくはないのですが、年金だけで生活するのは厳しいでしょうから、また貯金も子供の教育費などに消えてしまい、まだしばらくは働いて老後のための貯金をせざるを得ないのかなと思っています。

この先、年金があてに出来ないとなると、定年という概念は数年の内になくなり、身体が動く間は働くという、ライフプランの大転換を迫られる時代になるかもしれません。

マスコミなどから「ずっと働くことは健康にいい」とか「ボケないために働き続けよう」とか「高齢者でも働けるこんな楽しい仕事」とか「人生を豊かにする一生働ける仕事」みたいな話しや記事が出てきたら、政府や厚労省からの強い指示が出ているのだと思った方がよさそうです。

すでに様々な多くの職場で高齢者が働くようになってきましたが、今後はもっとそれが進んでいくのでしょう。

欧米のように、リタイアした高齢者が多く住む温暖な地域に移住し、年金でのんびり遊んで暮らす老後というのは、日本においてはホンの一握りの人達だけのものになってしまいそうです。それすら、報道や学者は「日本人は元々働き者だからリタイアして遊んで暮らそうなんて思う人は少ない」とか勝手に決めてしまいそうです。

願わくば、5年先には仕事から完全にリタイアし、広い庭のある温かな地方へ移住し、天気が好い日はのんびり庭いじりをして過ごすのが私の夢なのですが、それすらもかなわないかも知れません。

とにもかくにも、今年もまもなく終わり、また新しい1年がやってきます。

この歳になると、人生の残りを考えると1年1年を大事にしなくちゃと思えるのですが、どうしても身体や気持ちの衰えから楽な方へ安全な方へと意識が向いてしまいます。

自らを奮い立たせ、新しいことにもチャレンジしなくちゃいけないのでしょうけど、未だそれは見つけられずに、たぶん来年の今頃も、同様にグジグジと悔やんでいることでしょう。


【関連リンク】
838 夢の隠遁生活
795 定年リタイア時の必要貯蓄額と生涯住宅費用
778 今年もなんとか無事に1年が終えられそうです
672 日々是淡々と
565 冬はやっぱり温泉でしょう



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881
ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」と同様に、探偵小説のシリーズものとして長らく読んできたのが、ローレンス・ブロックの「マット・スカダー・シリーズ」とマイクル・コナリーの「ハリー・ボッシュシリーズ」です。

スペンサーはボストン、マットはニューヨーク、そしてハリーはロサンジェルスを本拠地にしたクールな探偵です。

その中の「スペンサーシリーズ」は著者のパーカーが2010年に死去したことで、一応区切りが付き、その作品はすべて読み終わっています。その後別の作家が引き続き「スペンサーシリーズ」を引き継いで書くということですが、また別のものと考えていいでしょう。

「スペンサーシリーズ」については、最後の作品を読み終えた後に、「ロバート・B・パーカー スペンサーシリーズ全巻まとめ」を書いていますので、そちらを見ていただくとして、あとの2つについて少しまとめておきたいと思います。

---◇◇◇---◇◇◇---◇◇◇---

酔いどれ探偵の「マット・スカダー・シリーズ」は、著者ローレンス・ブロックと小説の主人公の年齢がほぼイコールで書かれています。

第1作目が書かれた1976年「過去からの弔鐘」の時は著者(=主人公)は38歳で、2011年に発刊された17作目の「償いの報酬」の時は互いに70歳を超えていました。

もちろんその時の主人公は現役探偵から引退をしていて、酒場で友人に昔の話しを語るという展開です。したがってそろそろこれで打ち止めっぽい感じです。しかしラッキー?なことに、まだ読んでいない旧作が数冊残っていて、もう少しは楽しめそうです。

作品リストは下記の通り、邦題、原題、発刊年
01 過去からの弔鐘 Sins of the Fathers(1976)
02 冬を怖れた女 In the Midst of Death(1976)
03 1ドル銀貨の遺言 Time to Murder and Create(1977)
04 暗闇にひと突き A Stab in the Dark(1981)
05 八百万の死にざま Eight Million Ways to Die(1982) PWA賞最優秀長篇賞
06 聖なる酒場の挽歌 When the Sacred Ginmill Closes(1986)
07 慈悲深い死 Out on the Cutting Edge(1989)
08 墓場への切符 A Ticket to the Boneyard(1990)
09 墓場への切符 A Dance at the Slaughterhouse(1991) エドガー賞長編賞
10 獣たちの墓 A Walk Among the Tombstones(1992)
11 死者との誓い The Devil Knows You're Dead(1993) PWA賞最優秀長篇賞
12 死者の長い列 A Long Line of Dead Men(1994)
13 処刑宣告 Even the Wicked(1996)
14 皆殺し Everybody Dies(1998)
15 死への祈り Hope to Die(2001)
16 すべては死にゆく All the Flowers Are Dying(2005)
17 償いの報酬 A Drop of the Hard Stuff(2011)

お勧めはと聞かれると、「最初から順に読むのがいい」と答えますが、ベストの1冊は?と言われると少し迷ってしまいます。

例えばアル中でどうしようもなく酷い状態の時もあれば、すっかりアルコールから脱して深夜のパブでコーヒーを飲んでいる主人公や、引退して過去の話しを語り部のように喋る主人公まで、それぞれに雰囲気があり、また気の利いた仲間がいたりいなかったり、なかなか難しいところ。

強いて言うならスペンサーに対する相棒ホークのようで、良き味方で信頼できる相談役のようでもあるミック・バルーが好きなので、彼が準主役的に登場する11作目の「死者の長い列」や、14作目の「皆殺し」、最後の17作目「償いの報酬」などをお勧めするでしょう。

ローレンス・ブロックはこのシリーズの他、「殺し屋ケラー・シリーズ」や「泥棒バーニイ・シリーズ」などがあり、それぞれに面白いのですが、やはり代表作はこの「マット・スカダー・シリーズ」でしょう。

余談ですが、「殺し屋 ケラーシリーズ」は2011年の4作目「殺し屋 最後の仕事」で、過去最大のピンチを乗り越え、ハッピーエンドで無事終わったと思っていたのですが、今年10月に5作目の「殺し屋ケラーの帰郷」が出ていたのですね。知りませんでした。さっそく買いに行かなくっちゃ。

---◇◇◇---◇◇◇---◇◇◇---

そしてもうひとつのマイクル・コナリーの「ハリーボッシュシリーズ」は、ようやく過去に出版された分をすべて読み終えて、今年文庫が発刊された「ナイン・ドラゴンズ」と、まだ翻訳版が出ていない「The Drop」「The Black Box」についてはまだ未読という状態です。

こちらの作品リスト(邦題、原題、発刊年、邦訳版発刊)
1 ナイトホークス The Black Echo 1992年 1992年10月 エドガー賞処女長編賞
2 ブラック・アイス The Black Ice 1993年 1994年5月
3 ブラック・ハート The Concrete Blonde 1994年 1995年5月
4 ラスト・コヨーテ The Last Coyote 1995年 1996年6月
5 トランク・ミュージック Trunk Music 1997年 1998年6月
6 エンジェルズ・フライト Angels Flight 1999年 2001年9月 2006年1月[改題版]
7 夜より暗き闇 A Darkness More Than Night 2001年 2003年7月
8 シティ・オブ・ボーンズ City of Bones 2002年 2002年12月/2005年2月 アンソニー賞
9 暗く聖なる夜 Lost Light 2003年 2005年9月
10 天使と罪の街 The Narrows 2004年 2006年8月
11 終決者たち The Closers 2005年 2007年9月
12 エコー・パーク Echo Park 2006年 2010年4月
13 死角 オーバールック The Overlook 2007年 2010年12月
14 ナイン・ドラゴンズ Nine Dragons 2009年 2014年3月
15 The Drop 2011年
16 The Black Box 2012年

著者マイクル・コナリーはまだ若い(58歳)ので、当面はこのシリーズは続きそうです。ただシリーズ初期の頃のベトナム戦争帰りで心が刺々しく屈折した部分が最近はすっかり失せてしまい、想定年齢も高くなってきて丸くなってしまいました。

家族や恋人、そして小賢しいテクニックを使った捜査などが増えて行くにつれ、最近の動向は大きくイメチェンしたみたいで感心できません。先のマッド・スカダーの場合も後半から酒をキッパリ断って、探偵免許を取得し、素面で探偵をおこなうようになりましたが、共通するのかもしれません。

FBI捜査官だったテリー・マッケイレブが登場した6作目の「堕天使は地獄へ飛ぶ」、7作目の「夜より暗き闇」あたりから、その作風というか主人公の性格が変わってきたかなと感じるようになりました。

こちらもベストを選ぶとすると、登場編の第1作「ナイトホークス」か、殺された自分の母親の真実を追いかける4作目の「ラスト・コヨーテ」、前述のテリー・マッケイレブが登場する7作目「夜より暗き闇」あたりかな。最近新しい作品でコレというのはないかも。

そのテリー・マッケイレブが主役となり、ハリーもちょっと登場するスピンオフ「わが心臓の痛み」もいい感じでした。この小説は「ブラッド・ワーク」という原題で、クリント・イーストウッド監督・主演で2002年に映画化もされています。DVDで見ましたがなかなかいい映画でした。

主人公の名前、ヒエロムニス・ボッシュは15世紀の有名なフランドルの画家が由来で、子供の頃に殺されてしまった母親が名付けました。1作目からこの母親と名前の由来についてたびたび登場しますが、4作目の「ラスト・コヨーテ」で殺人の謎が解けてその後はあまり出てこなくなりました。

登場人物は毎回代わり、スペンサーシリーズのホークのような常連の相棒はいません。時々出てくるのは元妻でFBI捜査官だったエレノア・ウィッシュやロス市警のジェリー・エドガー、キズミン・ライダーと言ったところ。登場するたびに、異動していたり、昇進していたりして、時の流れを感じさせます。

サザエさんやスペンサーと同じく、こちらも主人公は歳をとらない感じ。さすがにスペンサーのように昔、朝鮮戦争に従軍していたという年齢ではありませんが、こちらは今から40年ほど前に終結したベトナム戦争に従軍し、帰国後警察官になったという設定で、そのままの年齢ならば少なくとも今は60歳以上にはなっているはずですが、今でも若々しい活躍ぶりです。


【関連リンク】
808 ロバート・B・パーカー「スペンサーシリーズ」全巻まとめ
328 スペンサーシリーズの読み方(初級者編)
327 さらばスペンサー!さらばロバート・B・パーカー
269 ハードボイルド的男臭さ満点小説

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880
先月亡くなられた高倉健さんと言えば、団塊世代にとってはあこがれのヒーローで、自分たちの兄貴分として映画全盛時代の1960年代に颯爽と現れた英雄、つまり訳あってのヤクザ者だが、心意気はまっすぐで無口で格好いい男の代表というイメージでした。

団塊世代より10年遅れて生まれた私の年代では、高倉健は着流しのヤクザ者からすっかりイメチェンした「新幹線大爆破」(1975年)、「君よ憤怒の河を渉れ」(1976年)、「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)、「野性の証明」(1978年)、「動乱」(1980年)と言ったアクションヒーローや実直な旧日本陸軍軍人、クールなタフガイのイメージです。

私が最初に高倉健主演映画を街の映画館で観たのは大学生の頃で、1977年の「八甲田山」、そして1978年の「野生の証明」でしたが、考えたら小中学生で任侠ヤクザ映画ってまず見ませんものね。

1978年に公開された「野生の証明」にはちょっとした思い出があります。

大学生だった頃、バイト先の先輩に誘われて、この映画のエキストラ役に応募し、書類審査は通過して、実技テスト(運動能力テスト)と角川春樹社長(当時)との面談に臨みました。

募集していた役というのは、寒村で起きた大量殺人事件の秘密を握る健さん扮する元自衛官と、一緒に逃げる唯一生き残った住人役の薬師丸ひろ子(当時14歳)を亡き者とするために追い詰める自衛隊員の役で、アメリカでロケがおこなわれ、戦車やヘリを使った大規模なクライマックスシーンに登場します。

しかし恥ずかしながら一緒に行った先輩は見事合格し、私は落ちてしまいました。実技テストの中に私がもっとも苦手とする持久走があり、真夏の炎天下で気力を振り絞ったものの、中位に低迷したことが敗因でした。先輩は持久走で上位5人(50人ぐらい参加)に入っていました。もし受かっていたら健さんや薬師丸ひろ子と一緒に記念撮影ができたのに無念です。

閑話休題、私が観た映画の中で好きなものは、

新幹線大爆破(1975年)
八甲田山(1977年)
動乱(1980年)
海峡(1982年)
南極物語(1983年)
ブラック・レイン(1989年)
あ・うん(1989年)
あなたへ(2012年)

その中でもブラック・レインは主役ではなく脇役的な立場で、しかも当時末期の癌と闘病中だった松田優作の怪演に押され気味でしたが、はちゃめちゃなアメリカ人から見た変な日本と大阪の描写をピリッと引き締めていたのが健さんだったなぁと。

「新幹線大爆破」は当時の国鉄(現JR)がまだお役所でしたので、融通が利かず、「世界一安全な新幹線を転覆させるような映画に協力できるか!」ということで、国鉄の協力なしに撮影されました。

もちろん実物大の模型も作られましたが、実際の走行シーンはともかく、実物の車内映像は隠し撮りをしたそうです。そんな映画に出ていた根暗な犯人役の健さんは信じられないぐらいに若いです。40年近く前ですから当たり前です。

二・二六事件がクライマックスの「動乱」でも、竜飛岬で遠くを眺める「海峡」でも、函館が舞台の「居酒屋兆治」でも、道央のローカル線駅長だった「鉄道員(ぽっぽや)」でも、雪中行軍演習を描いた「八甲田山」でも、もちろんタロとジロの「南極物語」でも、高倉健はものすごく寒い場所にいるというイメージが強くあり、それが特徴的だった気がします。

その「寒い場所=高倉健」のイメージは、もしかすると、デビュー時代から長く馴染んでいた「網走番外地」から連想させるものからなのか、どうかは定かではありません。

逆に同年代の俳優だった石原裕次郎は「太陽の季節」(1956年)、「嵐を呼ぶ男」(1957年)、「銀座の恋の物語」(1962年)、「太平洋ひとりぼっち」(1963年)など、暑いとか汗、あるいはスマートなイメージが強く、二人の出演作は対称をなしていました。

よく考えたら二人ともこれほど多くの映画作品に出演しながら、結局共演することはありませんでした。

「陽の裕次郎、陰の健さん」、「夏の裕次郎、冬の健さん」、「ホットな裕ちゃん、クールな健さん」「動の裕次郎、静の健さん」と、二人が対照的な主役を演じれば面白そうな映画が作れたでしょうに残念ですね。

当時の映画会社には力があり、自社が発掘して売り出した俳優を他社の作品には出さなかったという理由もあるのでしょう。健さんは東映で、裕次郎は日活です。

遺作となった映画は「あなたへ」(2012年、降旗康男監督、東宝)ですが、すでにテレビで何度も放映されているので見た方も多いと思います。

主人公の健さんは富山の刑務官として勤務していた時に、慰問によく来ていた女性と知り合って結婚していました。

定年後も嘱託の教官として働いていましたが、長年連れ添った妻が病気で亡くなってしまいます。

亡くなった後、健さんの元に妻からの感謝の手紙が届けられます。そしてその手紙には生まれ故郷の海に散骨をしてほしいと書かれていました。

それまで知らなかった妻の故郷へ行くため、キャンピングカーを自分で作り、それに乗って長崎平戸までを旅するいわゆるロードムービーです。

途中で詐欺師の国語教師(北野武)や、熱烈な阪神タイガースファン(岡村隆史)、移動物産店員(草なぎ剛)などと知り合いながら、長崎にたどり着きます。

途中映画には各地の観光名所がいくつか出てきますが、その中でも特に光ったのが、兵庫県朝来市和田山町にある天空の城と呼ばれる竹田城。

ストーリーとは関係ありませんが、竹田城跡を見学するシーンが長く挿入されていました。この映画をきっかけにこの城は全国的に有名となり、今では入場が規制されるほどの人気です。

またこの映画では老け役で名役者だった大滝秀治さんも出演していましたが、映画が完成した直後の2012年に亡くなりました。つまりこの作品は健さんとともに大滝秀治さん、二人の名優の遺作となってしまいました。

お正月には、健さんを偲び「網走番外地」や「ザ・ヤクザ」(1974年)でもDVDを借りてきてゆっくり見るとするかな。


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1秒もムダに生きない 時間の上手な使い方 (光文社新書 525) 岩田健太郎

著者は40代の感染症内科の現役の医師ですが、いくつもの著書を出しています。医師でありながら執筆活動されている人は結構多く、有名どころでは渡辺淳一、帚木蓬生、海堂尊、夏川草介(敬称略)など多くの作家がいます。やっぱり才能のある人はなにをやらせても立派で見事なものです。

著者は上記に上げた兼業作家のように小説を書くのではなく、自分の得意な感染症分野のわかりやすい解説本を多く出されています。

著者自身がこの本では何度も書いてますが、いわゆるビジネス系タイムマネジメントの勧めの本ではなく、自らが実践してきたやり方と考え方を、賛同できるならやってねと言った軽いノリです。

確かにいつ何時手がぽっかりと空いてしまうことを考えて、いつでもいろいろとできる準備をしておくことや、下手に仕事の優先順位などをつけず、その時間になにが一番やりたいかを考えて気分的にノレる仕事からやっていくという手法は、すでに自分も自然と身につけてやっている手法なので、確かにその通りだと思いました。

例えば、ネットの調子が悪いときには、悪態をつくのではなく、ネットから離れてできる仕事の中から選んでそれに没頭するとか、メールは都度いちいちチェックせず、まとまった時間があるときに、次々と読み、返事がいるものはその場で書いて出し、あとに残さないとかなど。後で出すことにすると、忘れることがあるのと、同じメールをまた読み返す二度手間になってしまいますからね。

電車など移動の時は、リラックスできるようにいつも文庫を持ち歩き、読み終えそうな時には重たくなるけど新しい文庫をカバンに補充しています。

私自身も仕事でも遊びでもダンドリが重要だといつも思っていて、時間を無駄にしないように心掛け、ちょっとした時間のすき間にできることをいくつも準備しておくなど、才能や知性は著者に遠く及ばないものの、著者と共通するところが結構ありそうと思ったり。著者が好んで読む小説(作家)も書かれていましたがドンピシャ一緒しています。

とは言ってももう私も50代半ば、20代30代の頃と違って、そう寸暇を惜しんでガリガリとやる仕事はなく(期待もされず)、また身体も脳も若いときのように活発には動かないので、そう時間を気にする必要はなくなってきたんですけどね。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

骸の爪 (幻冬舎文庫) 道尾秀介

2006年に単行本、2009年に文庫化された作品で、「背の眼」(2005年)に続く、霊現象探求所の真備庄介が登場するミステリーホラーシリーズです。

著者の作品では過去に「片眼の猿」(2007年)を読みましたが、上記シリーズや、2011年直木賞に輝いた「月と蟹」、評価の高い「向日葵の咲かない夏」(2006年)などはまだ読んでいません。って言うか、実は著者の名前は以前からよく知っているので、もっと何冊も読んでいる気がしていました。

主人公は著者と同じ名前のミステリー小説家で、滋賀県へ親戚の結婚式に出席したあと、見学させてもらう予定だった深い山の中のお寺で宿泊することになります。

そこは、仏像を製作する場所でもあり、木彫りや漆塗り、焼き物などで様々な仏像が作られています。そこで一泊した主人公は、お約束通り、様々な異変に出くわすこととなり、さらに20年前に謎の失踪をして行方不明のままになっている仏師のことを知ることになります。

謎を抱えたまま、帰京してきた主人公は友人の真備庄介に話しをして、再度そのお寺へ向かいます。

ま、予定通りに、主人公が見た様々な謎や、行方不明になっていた仏師とその婚約者、そして今回新たに行方不明となった二人の仏師について、真備が論理的に解明していくというものです。

ま、あまり考えることもなく、ストーリーも単純で、娯楽読み物としていいものですね。

いくつかの謎は途中でなんとなくわかった気になりますが、そうしたことも織り込み済みなのか、これでもかっていうぐらい次から次へとどんでん返しが続くのはさすがです。

著者別読書感想(道尾秀介)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

親鸞 激動篇 (講談社文庫)(上)(下) 五木寛之

私も今年の5月に読んだ「親鸞」(上)(下)の続編で、2012年発刊の作品です。現在ではすでにこの激動編のあとの「親鸞 完結篇」が単行本で出ています。

「親鸞(上)(下)」の読書感想

著者もすでに82歳、失礼ながらいつ絶筆されても不思議ではないご高齢ですから、無事にこの長編小説「親鸞」が完結したことを編集者はホッと胸をなで下ろしていることでしょう。

あとは「青春の門 」がまだ完結していませんが、大丈夫なのでしょうかね。

この激動編も、前作同様に鎌倉時代初期に実在した僧侶親鸞を主人公にしたエンタメ小説で、決してお堅い歴史書、研究本ではありません。

前作では京都で法然上人とともに元々は貴族や公家達のものだった仏教を広く庶民に広めたかどで、法然は四国へ、親鸞は越後へ流刑となりましたが、この激動編は、ようやくその刑の期間が終わり、妻の恵信と二人で平和に日々生活をおくっているところから始まります。
 
  この夏に新潟へ行ったときに道ばたに見えた巨大な親鸞像は、どうしてこんなところに?って思いましたが、越後は妻の恵信の故郷であると同時に、親鸞にとっても第2の故郷でもあったのですね。 
 
小説では、越後の守護代と郡司の間に利権争いから領地騒動が起き、それに巻き込まれることになる親鸞は、河川の利権を一手に握る外道院という桁外れの僧侶とその弟子達の協力を得ながら、本来の仏教のあり方を考えつつ説いていきます。

そして妻の恵信との間に子供が出来たとき、「本当に安住していて喜んでいるのか?」という心の中の声に気がつき、このままこの越後で暮らしていくことに疑問を感じ、妻や子を連れて新たな布教活動のため関東へ旅立つことになります。

旅立つきっかけとなったのは子供の頃に鴨川河原で知り合った破戒僧で、今は立派な武将になっている男の誘いなどがあり、また法然上人のところで修業時代に知り合った領主などの誘いがあったからです。

関東は今の茨城県、筑波山が見える場所に住まい、武将や領主の支援の元で布教活動をおこなっていきます。

しかし地域地域にはそれまでの宗教があり、新しく入ってくる仏教に反発する者もいて、命を狙われることも。危機一髪の時にはまたまた京都にいた頃の知り合いが突然現れて救ってくれたりと、エンタメ性が満開です。

そして、いよいよ関東を出て、京の都に上る決心をするところでこの激動編は終わります。

著者別読書感想(五木寛之)

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

旅をする木 (文春文庫) 星野道夫

著者は1952年生まれで、慶応大学生時代に写真で見たアラスカの動物や自然に魅了され、ついにはアラスカ大学野生動物管理学部に入学(中退)するほどのアラスカやその自然が好きな写真家、冒険家です。

しかし1996年にテレビ番組の取材で滞在していたロシアのカムチャツカ半島南部のクリル湖畔でヒグマに襲われ死亡されています(享年44歳)。

この随筆はアラスカを中心に自然の偉大さや素晴らしさ、アラスカで関わった様々な人を日記か手紙のようなスタイルでエッセーとして書かれたもので、亡くなる2年前の1994年に出版されています。

その中には、学生時代に短期間アラスカへホームステイしたときの様子や、その後アラスカ大学への入学、学生時代にアラスカに興味をもつきっかけとなった写真を撮ったプロカメラマンとの出会い、時には飛行場などないアラスカの各地を飛び回るブッシュパイロット達との出会いと別れ、美しい自然と動物たちの生命の営みがこれでもかっていうぐらいに盛り込まれています。

タイトルの「旅する木」とは、あるアラスカで知り合った生物学者の話しで、マツ科のトウヒという木の種が、鳥に落とされ、それが川沿いに根付いて大きく育ちます。

やがて川の浸食でトウヒの木は倒れてアラスカのユーコン川からベーリング海へ流されます。そのなにもないツンドラ地帯へ運ばれた木はキツネの縄張りにマーキングされ、その場所にキツネの猟師が罠を仕掛け、やがてそのトウヒは拾われて薪となり大地に帰る。と言った悠久の時代を流れていった木のことを指しています。

アラスカには人間の歴史が遠く及ばない長い気の遠くなるような歴史があり、それが奇跡的に現在でもそのまま残っている数少ない場所で、そこへ新たにやってくる人、そこから離れずに暮らしている人がいますが、いずれにしても人の人生など自然の歴史からするとホンの瞬間にしかすぎないということがよくわかります。


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