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写楽 閉じた国の幻 (新潮文庫)(上)(下) 島田 荘司
数多くの推理小説やエッセイ、ノンフィクションまで出している島田荘司氏の2010年の作品(文庫は2013年)です。私は過去に御手洗潔シリーズの「眩暈」を読んでいます。
写楽と言えば浮世絵師として日本人はもちろん、世界でもレンブラントやベラスケスと並ぶ「世界三大肖像画家」として有名ですが、謎が多い人物で、本名や生没年月日、出生地などはわかっていません。
それだけに推理小説などでは格好のテーマになり、皆川博子氏原作の「写楽」は篠田正浩監督により2009年に映画化もされています。
写楽が残したとされる作品は、江戸中期1794年から翌年にかけてわずか10ヶ月間だけで145点の錦絵を描いた(平均2日に1作)とされ、突然現れ、そして忽然と跡形もなく消えてしまいました。
「描いた」と書きましたが、写楽の浮世絵は版画なので、その下絵など原画は見つかっていません。
当時江戸で人気が高かった葛飾北斎や喜多川歌麿、作家十返舎一九などとも活躍した年代がかぶり、それら浮世絵師や戯作者が一時だけ別名で描いたものではないかという噂もありますが、現代では能役者斎藤十郎兵衛だったという説が有力となっています。
上記の映画「写楽」では大道芸人が書いたさらし首に感動した版元が、役者絵の浮世絵を描かせたという設定になっています。
しかしそれらの説にもいくつか錯誤や無理な解釈があるようで、「写楽は俺だ」と名乗っても別段差し障りがないはずなのに、そうしなかったのはどうしてか?
多くの人なら名誉なことなのでそうするし、例え本人が言わなくても、その周囲にいた人達が噂をしたり書き記しても不思議ではありません。しかし写楽の正体は固く隠され、作品を出した10ヶ月間しかその名前は登場してこないのです。
この小説では浮世絵を研究する学者が主人公ですが、自分の不注意で子供を回転ドア事故で亡くしてしまい、それが元で元々すれ違いの多かった妻に家から追い出され、過去に出した北斎の論文本にもインチキ学者とケチがつけられ、自殺を考えるまで追い詰められていきます。
ストーリーに幅を持たせるためなのか、本題の写楽とは関係のないこの私生活に起きる不幸が、どうも話しをとっ散らかしてしまっていて、しかもそれに関する話しがやたらと長いのが少し残念な気がしますが、その子供の事故が元となり、大学教授との出会いや江戸時代から脈々と続く日本とオランダとの関係を演出するため仕方がなかったのでしょう。
その主人公と知り合った大学教授、出版社の担当者などが協力し合ってその謎に近づいていくわけですが、もしかすると写楽研究がひっくり返るのでは?と思うような、現実に存在する新たな証拠を出してその推理を導き出しています。
そして著者渾身の結論を導き出した後、まだ今後の展開を匂わせる終わり方で、おそらくいつかその推理を補強する新たな証拠を積み上げた続編が書かれるのでしょう。それも楽しみです。
高層ビルに使われる回転ドアと写楽の浮世絵の関係など、想像を超えた展開と、日本人としてあまり認めたくない斬新な解釈と驚嘆の事実など、これは写楽に興味があるなしにかかわらず、華やかだった江戸庶民文化を知る意味でも、ぜひ多くの人にお勧めしたい作品です。
◇著者別読書感想(島田荘司)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なぜ日本でiPhoneが生まれなかったのか? 上村輝之
著者上村氏は弁理士の他、様々な肩書きを持つ方で、こういう有能で多才な人はベタな商売までもお上手という見本のようなアドバルーン的な本です。いや皮肉ではなく感心してのことです。
内容は大きく前半部と後半部に分かれていて、前半部分はもの作りに重点を置いてきた日本メーカーの没落と、新しい価値観を創造してきたアップルやダイソンなどの違いを丁寧に解説。
そんな当たり前のこと知ってら!という方も、あらためて整理をしながら読んでおくと、後半主にページを割いて書かれている複雑なTRIZ(トゥリーズ)のことが素晴らしく思えてくるところがミソです。
旧ソ連で提唱され、今では多くの企業で採用されているTRIZとは、直訳すると発明的問題解決理論(なんのこっちゃ)のことですが、簡単に言えば思考理論の一種で、それを学ぶと創造的能力が向上し、企業にとっては競争力向上につながるというものらしいです。
クリティカルシンキングやロジカルシンキングを学んで実践したけれど、うまくいかず挫折した人にどうでしょうか。ちょうどリンゴダイエットやバナナダイエットに失敗した人にキウイダイエットを紹介するようなものかも知れません(違う)。
いま成功している企業もまた、多くの失敗をしているのが普通で、その成功すら10年後はどうなっているかわからない先行きが不透明で、いとも簡単にひっくり返される激しい企業競争の世界なので、これが正解!というものはどこにもないのですが、新興宗教と似ていてこのような多才な人が言うことなら信じてみようかと思わせるところがすごいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕映え天使 (新潮文庫) 浅田次郎
浅田次郎氏のお洒落な大人の感性を試されるような6編を収めた短編集です。それぞれのタイトルは、1.夕映え天使、2.切符、3.特別な日、4.琥珀、5.丘の上の白い家、6.樹海の人となっています。
そう言えば50冊以上持っている浅田次郎氏の小説を読むのは久しぶりだなと思って調べてみると2011年9月に「ハッピー・リタイアメント」を読んで以来、約2年ぶりのことです。なぜか少しあいだが空いてしまいました。
ただ浅田次郎氏の作品は文庫化されると内容やタイトルに関係なくすぐに買ってしまうので、昨年(2012年)、書店の文庫新刊コーナーで平積みされていた徳間文庫の「姫椿」を買ったら、2003年に新刊文庫で購入した文春文庫の「姫椿」と同じで(そりゃそうだ)、なにか詐欺に遭ったような気分でした。9年前に一度文庫化された本を新刊として売るなよまったく、出版社の策略に見事引っかかりました。
新装刊の場合だと、奥付の発刊日を見るとその作品が新しいものかどうかが判断付きますが、出版社が違う場合はそれではわかりません。売れっ子の作品は、そのように違う出版社から発刊されると新刊扱いになるので気をつけないといけません。
タイトルにもなっている「夕映え天使」は、ワケありの男女、と言ってもどこにでもいそうな中年男女の機微に触れるような味わい深い作品で、「切符」は親に捨てられた子供と祖父との暖かな日常に起きた出来事にまつわる話し、「特別な日」は定年退職の当日、本当なら自分が役員になれると思っていたのに、そうはならなかった本当の理由が終盤一気にわかるという浅田氏としては異色のSFチックな話しです。
「琥珀」は定年間近になって妻から離縁された刑事が、休暇でふと訪れた三陸の寂しい町で、時効間近の殺人事件の手配犯とバッタリ出くわすことになる話し、「丘の上の白い家」は貧しい家の少年とその仲間が出会った裕福な少女の思惑が引き起こした不幸な出来事で、いずれももう少し膨らませた内容で読みたいと思わせる秀作揃いです。
最後の「樹海の人」は少し趣が違っていて、浅田氏が自衛隊に入隊していた頃の出来事で、訓練のため富士山の樹海の中で1人取り残されサバイバル訓練をしていたときにふと現れた謎じみた男性のことを、自殺するために樹海に入ってきた自分の未来の姿ではないかという妄想じみた話し。
その訓練中に密かに持っていった本がトルーマン・カポーティの「ティファニーで朝食を」で、訓練から撤収する際、雨で濡れそびたその本を捨てていこうとしたら、謎の男性から持っていくよう渡されて、今でもちゃんと保管してある。
で、浅田氏が自衛隊に入隊したのは三島由紀夫が自衛隊で割腹自殺をしたことを機に決めたのは有名な話し。そして三島由紀夫が来日したカポーティと面会した後、「カポーティは自殺する」と予言していたという(結果は自殺したのは三島でカポーティは60才の時心臓発作で病死)。なにか連綿とした不思議なえにしを感じさせられます。
◇著者別読書感想(浅田次郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
純平、考え直せ 奥田英朗
2004年に「空中ブランコ」で直木賞を受賞している奥田氏の作品は、文庫になっている小説はほとんど読んでいます。この「純平、考え直せ」は2009年から2010年にかけて小説宝石に連載された作品ですが、4月末現在まだ文庫化はされていません。
著者の作品は昨年「オリンピックの身代金」を読みましたが、こちらはシリアスな小説で、1964年当時の高度成長まっただ中の日本を、浮かれたありきたりの視点ではなく、東京など大都市だけが繁栄し、東北の寒村など地方は貧しいまま置いていかれ、そこから出稼ぎに来ている肉体労働者と、贅沢で華やかな東京で暮らす人達とを対比をするやり方に感心しました。
この「純平、考え直せ」はユニークなタイトルですが、最近は映画にもなった朝井リョウ氏の「桐島、部活やめるってよ」(2010年2月刊)などもあり、こういう呼びかけるタイトルが流行ってきているのでしょうか。
主人公の純平は22才で新宿歌舞伎町を根城とするヤクザの見習い中。まだまだ下っ端で使いっ走りの身ながら、組員の半数は刑務所へ入っている中で、今まではどうにか無難にしのいできています。
ところが組同士の争いから、組の親分から抗争相手の幹部の命をとるため鉄砲玉として任命され、ようやく男を上げるときがきたと意気上がる中、なぜか周囲にいる人達からは心配され、そして様々な世話も焼かれ、あげくにはネット上にもその話しが掲載されてしまいます。
個人的には官僚やヤクザをヒーロー扱いするたぐいの話しは好かないのですが、そこは奥田氏の書いたものなので、不快感は感じずスラスラと読めます。
奥田流「サウスバウンド 」や「イン・ザ・プール 」などに共通するコメディタッチの軽いノリの小説です。
◇著者別読書感想(奥田英朗)
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関係者の方にはたいへん失礼なのですが、ちょっと古いですが下記の記事には思わず笑ってしまいました。
「ハローワークの非正規職員の相談員ら 大量雇い止め」(東京新聞 2013/3/22)
雇用の安定を目指すはずのハローワーク(公共職業安定所)で、相談員などとして全国で働く非正規職員のうち、約一割に当たる二千二百人が、この三月末で職を失う。突然「雇い止め」を告げられた職員たちは、業務で失業者の相談に乗りつつ、自らも勤務時間外や休暇に職を探す事態となっている。四月以降、窓口が混乱しないか懸念する声も上がる。 |
「紺屋の白袴」、いや、「医者の不養生」、いや「易者身の上知らず」、いや、「鍛冶屋の竹火箸」、いや、「灯台下暗し」は違うか、「驕る平家は久しからず」、いやもっと違うか、「月満つれば則ちかく」は言い過ぎだし、「遼東の豕」は全然ダメダメで、とにもかくにも例えを悶々としながら考えてみたけれど、どうにも適当なものが出てこず、余計に変なストレスが溜まってしまいました。
つまり、人々が職を求めてやってくるハローワークで、職を与えるために働いていた(非正規雇用の)職員が、リーマンショックや東日本大震災以降、急速にその人員が増やされ続けてきたそうですが、それらが一段落して、一気に縮小されることになり、職を失ったという構図です。一種の雇い止めってところでしょうか。
国は「非正規雇用者の雇い止めはけしからん!」ということで、この4月1日から改正した労働契約法が施行されましたが、これは今年4月1日から始まり5年後の2018年にようやく影響する法律ですから、それの施行前に慌てて雇い止めをしたというわけではなさそうですが、それを疑いたくもなる絶妙のタイミングです。
改正された労働契約法で非正規社員は幸せになれるのか
前政権の「コンクリートから人へ」から、新政権の「人からコンクリートへ」の政策転換を現場がさっそく実行したというか、限界集落寸前の地域が多そうな東北に、広くて快適なフル規格道路や、役に立つか怪しい巨大な防波堤や、新たに山を切り開いて作る住宅代替地や、今度こそ津波に負けない立派な公共施設などを、復興の名の下で次々建設を進める代わりに、民間企業より早く、そして着々と役所のリストラ(と言っても正式な公務員以外の)を進めたということなのでしょう。
実はハローワークにそれほど多くの非正規職員が勤務しているとは知りませんでした。どれほど多いかというと、2012年度ハローワークの職員全体は全国に31,765名、そのうち非正規雇用の職員が20,176名といいますから全体のなんと64%にのぼります。
私が職安で仕事を探すふりをしつつ(職安にはロクな仕事がなかったので、民間を重点に求職活動をやっていました)、失業保険の給付を受けていたのは、もう10年以上も前になりますが、そこで応対した人はどこからみても普通の、上から目線で傲慢な口の利き方をする、しかも要領の悪い公務員と映りましたが、もしかするとその人も非正規雇用の人だったのかもしれません。
少なくとも総合受付に座り、来所者には見向きもせず、内輪同士でペチャペチャと喋ってばかりいたおばさん達はそうだったのかも知れません。
当然所長をはじめ、奥の方で暇そうにいつも新聞や雑誌を読んでいる管理職は、全員が正規雇用職員でしょうから、今の割合から言っても通常の忙しく窓口に出て応対している人や、丁寧に端末操作のアドバイスをしてくれる人などは、全員が非正規職員なのでしょう。
今回2,200名が3月末で雇い止めされ、新たな補充がないと仮定してもまだ18,000人が残るわけで、全国437カ所の職安(出張所は除く)で割ると、一カ所の職業安定所には平均で41名もの非正規雇用職員がいる勘定になります。
なにか、平均で70人ちょっとの職安の中で途方もなく多いような気がします。職安を民営化し効率をあげ機械化できるところをしていけば、おそらくその半数で今よりも高サービス、高付加価値が失業者に提供できるでしょう。英国なんかは何年も前にそうやって成果をあげています。
そしてハローワークのような場所で非正規職員であっても、数ヶ月間も働いていると、(人にもよりますが)おそらくその態度は「重要な公務をしている俺様と、失業したあわれな奴ら」という差別感あふれる錯覚をして、態度や口の利き方が徐々に横柄となり、謙虚さが失われていく人もいるでしょう。普通に見掛けます。
今回雇い止めされるのはわずか非正規職員の1割程度なので、役所側も辞めてもらう人と、残す人とを意図的に選別しているでしょう。そうすると非正規職員同士でも微妙な空気が流れていたでしょう。その選別は同じ仕事をしていれば、正規職員のお気に入りとそうでない人で判断されることになるのが普通だからです。
つまり役所を雇い止めされる人は、役所のような大甘な職場でも通用しなかった人という烙印が押されるわけです。そういう人達が、紹介する側から紹介してもらう側の逆の立場となり、仕事を探すことになりますからたいへんなことです。
ハローワークの中にいれば、その限界を痛いほどよく知っていますので、おそらくその時は古巣のハロワではなく、民間の紹介会社などを頼ることになるのでしょうけど、役所を雇い止めされた人を喜んで採用する企業があるとは思えず、厳しい民間企業の現実を知ることになるでしょう。
また非正規職員のたった1割が削減されるだけなのに、ハローワークの現場はというと、おそらく正規職員よりも真面目に働いてきた非正規職員を失うことで、パニックに陥っているようです。
職安の現場の正規職員からは自分たちの仕事の効率の悪さを棚に上げ、「減員分は業務の簡素化などで対応する」「職場が回るかどうか。利用者に迷惑を掛けるかもしれない」(東京新聞)とあらかじめ予防線を張るのに懸命です。いや、ホント笑わせてくれます。
【関連リンク】
改正された労働契約法で非正規社員は幸せになれるのか
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706
東北の被災地や過疎の集落がテレビで放送されると目につくのは高齢の人ばかりです。風光明媚な観光地へ出掛けると、そこで見られる光景はやはり高齢の旅行 客ばかりです。
海外旅行中に事故や事件に巻き込まれてしまう日本人に高齢者が多いのも、旅行者に占める高齢者の割合が高くなっているからでしょう。
仕事を引退し、子育てを終え、退職金で少し蓄えもできたので、時間もあるのでゆっくりと観光地巡りでもというのは微笑ましくていいのですが、そのような人が最近は半端なく多いことに気がつきます。
こ れほどまでに日本の人口に占める高齢者の数が増えてきたのにはいくつか要素があるわけですが、その中でも大きいのが平均寿命の伸びでしょう。
1950年代 の日本人の平均寿命は60歳を少し超えたぐらいでした。それから50年後の現在2010年代には80歳を超えているわけですから、20歳も平均寿命が延び ているわけです。そりゃ街で見掛ける高齢者が多いはずです。
平均寿命が延びたのは予防を含めた医療技術の進歩や、効果の高い新薬の開発が 進み、医薬品が手に入りやすくなり、緊急救命体制も整い、さらに食品などの環境衛生面が整備され充実してきたことなどが上げられると思いますが、逆に過去 50年のあいだに20年も寿命が延びたことによる問題もいろいろと出てきました。
年金や高齢者雇用問題、高齢者が半数近くを占める生活保護受給、家族に負担が大きい寝たきりや痴呆患者の介護なども高齢化ゆえの問題と言ってもよいでしょう。
以 前にも書いたことがありますが、日本の人口構成推移を予測したデータがありますので、それをグラフ化してみました。
実績値は国勢調査、2015年以降の予 測値は国立社会保障・人口問題研究所出典の「日本の将来推計人口集計」から出生・死亡とも中位の仮定による推計値を使いました。
まずは、2010年(現在)から50年後の2060年まで人口構成がどのように変化していくかを5年ごとのグラフで表しています。
緑色の14歳以下人口は年々着実に減っていき2010年1680万人(平均1年に112万人出生)から2060年は791万人(同53万人出生)と現在の 半分以下となります。
少子化対策と口では言っていますが何一つ成功したものはありません。と言うか、日本の未来を考えると人口は減らす方向で、少子化対策 は本気ではやりたくないというのが国の実際のところでしょう。
次に青と紺色で示した労働力人口(15~64歳)は2010年の約8100 万(7099万+1003万)人から2060年には4418万(3848万+570万)人まで45%減するとの予測です。
働く人が半分に減ってなお経済成 長させるためには、労働者が今の2倍以上働いて2倍以上の生産性を上げなければならないと言うことですね。
3色の茶色で示した65歳以上の高齢者はすでに十分多い2010年で2925万人ですが、2060年には3464万人と18%以上上昇すると予想されています。いまちょうど若手と言われている20代半ばの人が、65~70歳の定年で引退する頃の話しです。
高齢化率は65歳以上人口が全体人口に占める割合のことですが、その推移をピンク色の折れ線グラフで示しています。
2010年は22.8%ですが、50年後には39.9%と一直線に上がり続けていくことになりそうです。
65歳以上高齢者が全体の1/3を超える33.3%になるのは2030年代半ば頃と推定されます。およそ20年後のことです。
現 在よく使われている「限界集落」というのは、「高齢化が進み、共同体の機能維持が限界に達している状態」のことですが、それが65歳以上がその地域人口の 50%を占める場合の時です。
2060年、日本全体で人口の約40%が65歳以上というと、学校や企業が集まる一部の中心都市以外では、ほぼすべてが限界 集落化している状態と言ってもよいでしょう。
今までは拡大するのが当たり前だった市街地は、これから縮小し、さらに集約化へと向かっていくのでしょう。市 町村合併がこれからも加速しそうです。
そしてこうした高齢化傾向はいったいいつまで続くのでしょうか。
次のグラフは、 1950年から2060年まで90年の長期間、実際に就業すると思われる20歳から64歳までの人数(現役世代)と、引退した65歳以上の人(高齢人口) だけを抜き出したものです。また引退した人1名につき現役世代が何名で支えるかを折れ線グラフで表しています。
1950年頃は現役世代10名で一人の高齢者を支えてきましたが、その後一気に下がり、1990年には現役5名、2010年は2.6人、東京にオリンピッ クを誘致している2020年には1.9人、2060年には現役1.2名で1名の高齢者を支えることになると予測されています。
そりゃいくら日本の年金シス テムが世界に誇る素晴らしいものだとしても、それを支える人がこれだけ減ると制度の存続は不可能でしょう。
実体数で見ると20歳~65歳 の現役世代がもっとも多かったのは2000年頃で、その後減少していきます。一方65歳以上の高齢者人口がもっとも多くなるのは今から27年後の2040 年頃です。現役世代が減り始めたのと高齢世代が減り始めるのに40年もの時差が発生しているわけですね。
以上のことから考えると、今後ど のような少子化対策を出していくかはわかりませんが、少なくともこの人口構成推移予測を見る限り、高齢化に歯止めがかかるのは今から47年後の2060年 頃までは続きそうです。
それまではこの国に内需の成長は望むべくもなく、あるとすれば、医療、健康、福祉の先進大国を目指すぐらいしか思い浮かびません。 それすらできるかどうか未知数です。
そういう状況にかかわらず、都会よりもずっと早く過疎が進み人口が減っていく地方に、インフラを含め多くの公共事業のため、増税までして都会で集めた税金を際限なくつぎこもうとするのは、どう考えても納得いきません。
私は人口減少の中でもひたすら成長を求めたい派ではありません。しかしこれから有効にお金を使うべきは、
・アップルやGoogle、Amazonなどのような新しい価値を生み出す事業や起業家を育てて支援すること
・日本が得意としてきたIPS細胞などバイオ、メディカル、エレクトロニクス技術で活躍できるエキスパートを育てること
・事業家や研究者を海外から日本へ招き入れ、日本で仕事や研究をしてもらうこと
・高齢者が活用できる体力に負担の少ない仕事やボランティア事業を数多く作り出すこと
・準限界集落など過疎地の移転と集約を進め、安全で快適な生活が送れる新しい町作りをおこなうこと
・多くの外国人留学生を受け入れ、日本人と交流する機会を増やし、日本人にグローバル意識を根付かせること
・農業や畜産業の大規模化、野菜工場など農林水産業を未来の有望産業にしていくこと
・高度先進医療と保養、観光ビジネスを組み合わせ、世界の富裕層の来日や移住を促すこと
などと考えています。
同時に古くから残っている利権や既得権益に寄りかかる業界団体や組合をバッサリ切り捨て、大幅な規制緩和を進めていくべきではないかと思うわけです。旧来の政治家のもっとも手を付けたくない苦手とすることでしょうけど。
【関連リンク】
自分の終焉をどう演出するか
旺盛な高齢者の労働意欲は善か悪か
小売ビジネスはどこへいくのか
決して他人事ではないので、認知症高齢者患者の急増が気になる
人口が減るのもいいんじゃない
仕事を引退する時、貯蓄はいくら必要か
老人虐待と介護の問題
年金受給年齢の引き上げと高齢者雇用
教員の高齢化について
定年後にどう生活していくか
高齢者向けビジネスの実態
労働力人口から見る日本経済の今後とは
元気な高齢者はいつまでも働くべきなのか
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705
求人倍率とは1つの求人に対して何人の求職希望者がいるかという指標(求人数/求職者)ですが、一般的には求職者より求人数のほうが多い(1.0に近いかそれ以上)と経済に活気があり景気がよいと判断できます。
その中で、有効求人倍率が先の1月で3ヶ月連続上昇となり、ようやく5年前のリーマンショック以前の水準(0.85)に戻りました(2月も横ばいで0.85)。
求人倍率には(1)新規求人倍率と(2)有効求人倍率の二つがよく使われますが、違いは(1)の新規求人倍率は計測する月に新たに入る求人と求職者だけに限定した割合ですが、(2)の有効求人倍率は前月から繰り越された(決まらなかった)求人や求職者を含むトータルの割合ということになります。
(1)の新規求人倍率は季節要因や一時的な求人要請(震災復興や大きなイベントなど)などにも影響されやすいので、一般的に(2)の有効求人倍率を見るほうが景気動向の参考になります。
また(1)(2)とも新規の学卒者は含まず、統計では求人・求職者ともパートを含むか含まないかのデータに分かれます。つまり非正規雇用を含むと1.0を超えていても、正規社員の求人/求職者が1.0を下回っていると安定した雇用状況と言えないかもしれません。
1972年から2013年の42年間の1月度分有効求人倍率(パート含む・パート含まない)の推移グラフです。
有効求人倍率が1.0を上回るというのは稀なケースで、過去42年間のうちパート(非正規雇用)を除くと計5年間(1973~74年、1990~92年)だけで、パートを含めても9年間です。
1973~74年の時は、その前年の1972年に首相に指名された田中角栄氏が、列島改造論をぶち上げ、公共事業期待など内需拡大路線へ大きく舵を切った影響が大きかった頃で、1990年は不動産バブル絶頂の時期でした。
職安へ求人を出している多くは人気のない業種や職種、条件で、例えば介護・看護職、販売職、飲食業は年中人不足で、保険や不動産のインセンティブ制の勤務条件の求人はいつも募集しています。
それらの賑やかし求人?を含めると、いつも求人難で求職数を上回っていそうな気がするのですが、上記のように統計からすると1.0を上回ることは滅多になく、ちょっと不思議な感じがします。
求人、特に正社員採用の場合、景気上昇とリアルタイムに連動しているとは言えず、数ヶ月から数年遅れて「儲かったから人を新たに入れよう」「今期は忙しかったから、来期は多めに採用しよう」となるので、時差が発生します。
また地域によっても大きな格差があり、1月の有効求人倍率で見ると復興需要が多い宮城県の1.25に対し、沖縄県は0.46倍と3倍の開きがあります。
労働力人口が漸減している現在なら、65才を越す団塊世代の退職者補充により求人数が増えていっても不思議ではないのですが、それ以上に景気の先行きが不透明で正規社員の採用を抑制し、その代わりにパートなど非正規雇用が中心となっているのでしょう。
あと民主党政権だった3年間はボロカスに言われていますが、2009年夏に政権交代し、まだ自民党とリーマンショックの尻ぬぐいをしていた翌年の2010年までは有効求人倍率が大きく下がり続けたものの、2年目の2011年以降は、東日本大震災の影響がどれほどあったかは不明ですが、大きく改善しV字回復を果たしています。
今後アベノミクスとやらの効果で、有効求人倍率が1.0に近づくことを期待されますが、逆にTPP参加や消費税アップなどの影響により民主党政権が大きく改善させた2011年以降の求人の勢いをそぐようなことだけは避けてもらいたいものです。
もうひとつ完全失業者率というのは全労働者数に対し仕事を求めている(実際に求職活動をおこなっている)人の数の割合で、これも景気を判断する上でよく使われますが、特に国際比較をする場合には、各国での統計の取り方に違いがあったり、国や政治の恣意性が加わる要素もあり、今ひとつ信用がおけなかったりします。
なので、米国が7.9%、ユーロ圏11.9%で日本が4.2%(いずれも2013年1月値)だから「日本がずっと景気がいい」と短絡的には判断ができません。
例えば、日本の統計では「実際に就職活動をおこなっている」というのは、ほぼ雇用保険を受給するために職安を通じ、あるいは職安と関係を持ちながら就職活動をしている人にほぼ限定されます。
雇用保険も切れて、職安とのつながりが薄れ、独力で就職活動をおこなっている人や、本来正社員として就職したいけどいったん生活のためにやむなくパートで働いたり、家業や家事手伝いをしながら就職活動をおこなっている人などは統計上求職者とカウントされません。
そうした潜在的な求職者を統計に加えるとおそらく日本の失業率は数%上昇すると見られています。
これが政治的に活用されるとどうなるかと言うと、政権が代わり景気がよくなったと見せかけようと、厚労省に命じ全国の職安に対して「求職者の基準を厳しく精査せよ」とハッパをかけたとします。
各地の職安ではなかなか就職が決まらない求職者に対して「真剣に職探しをしていないので求職者ではない」と判断し、求職者の統計数から除外され、その結果失業率を押し下げるということができてしまうわけです。
「そんなことあるわけない」と思っている幸せな人も多いと思いますが、厚労省の出先機関の各都道府県労働局、さらにその下にある職業安定所の職員が、誰の顔を見て仕事をしているかを考えれば明かです。
どれだけ求職者のことを考え、役に立ったかというのが評価基準ではなく、上司やさらにその上が期待する数字を出せるかが評価となる以上、恣意的なことがおこなわれても不思議ではありません。一方、民間の就職斡旋業者は就職が決まらなければ1円にもなりませんから、求職者と求人企業のマッチングを必死になって考えます。そこが大きく違う点で公営職安の限界です。
15歳以上の人口の中から、家事、通学、リタイア(定年など)、療養中などの働けない人口を差し引いたものが「労働力人口」で、それが総人口に占める割合「労働力人口比」と、「労働力人口」の中から職は探しているけど働いていない失業中の人を差し引いた「就業者数」が総人口に占める割合「就業率」、それに一般的によく使われる「労働力人口」に占める失業者の割合「完全失業率」を1972年から40年間の推移をグラフにしたのが下記です。
1990年以降「労働力人口比」も「就業率」も大きく下がってきていますが、これは進学率特に高等教育への就学率の上昇、さらには引退した高齢者の増加によるものと考えられます。
つまり1970年代は全国民のうち約63%以上の人が働いていたのに対し、2012年には56%の人しか働いていないということです。
1970年代は専業主婦が当たり前だった時代で、現在は共働きが普通となっているのに関わらず「就業率」が減少しているというのも不思議な実感です。
それでも総人口が増えていれば、「就業率」が下がったとしても就業者の人数(実数)はあまり変わらないのでは?と考えられるので、「労働力人口」「就業者数」をグラフにしてみました。
確かに1998年までは「労働力人口」は増え続けてきましたので、「就業者数」も1990年頃までは順調に増えてきました。ところがその後は緩やかに下降し続けています。
しかも2000年以降「労働力人口」に比べて「就業者数」の下がり方が顕著で、その差分は「失業者数」ということになります。
1973年には労働力人口は5326万人、就業者数5259万名、失業者数68万名だったのが、2012年には労働力人口は6555万名(+1229万名)、就業者数6270万名(+1011万名)、失業者数285万名(+217万名)という状況で、やはり「労働力人口」も「就業者」も率では落ちているものの実数では増えていることがわかります。
過去に労働力人口がもっとも多かったのは、1998年で6793万名、就業者数がもっとも多いのは1997年の6557万名、失業者がもっとも多かったのは2002年で359万名となっています。
少子化は変わらないまま、団塊世代が65歳を過ぎて続々と引退をしていき、今後この労働力人口減少傾向は団塊ジュニア世代が引退する二十数年ぐらいまで続きそうです。
とすると、日本の景気(主として消費活動)はどうなるか?
短期的にはともかく、中長期的で見る限り、国内消費は間違いなく冷え込んでいくことは誰にでもわかりそうです。
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竜の道 飛翔篇 白川道
2009年に単行本を発刊、文庫本は2011年刊の長編小説です。白川道氏と言えば、やはり自伝的なハードボイルド小説「病葉流れて」シリーズが有名ですが、この1月にはその5作目となる最新作「浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて」が発刊されています。そのシリーズともどこか通じるストーリーで、「飛翔篇」と銘打ってあることからシリーズ化されていきそうです。
主人公は捨て子だった双子の男性、竜一と竜二で、二人は差別を受けてきた世の中や、唯一優しく接してくれた知人を死に至らしめた企業に報復をするため、壮大な計画を練り、それに向かって着々と準備に取りかかります。
兄の竜一はコインの裏として、自分の名前を捨て、他人になりすまし暴力団の会長の懐に潜り込み、闇世界へと入っていきます。弟の竜二はコインの表として、大検をとり、東大へ入学、キャリア官僚の道へと順調に進んでいきます。
竜一が闇の世界でのし上がっていくための資金を得る方法として株取引の話しが登場しますが、著者にとってはバブル期に投資顧問会社を経営していたこともあり、途中少々食傷気味になるぐらい満載されています。
「投資ジャーナル」を発行し投資顧問を主宰していた中江滋樹氏がモデルと思われる人物や、蛇の目ミシン工業の株買い占めで有名な仕手筋集団「光進」事件など、バブル時に起きたインサイダー事件や仕手戦、業界新聞やゴルフ場会員権乱発など、株や金融に関する事件や犯罪を取り入れたものとなっています。
いや、あの頃の金融・証券業界は今思えば、まったく気が狂っているというか、凄かったの一言です。この時代のことを描くにはモデルには事欠かないでしょう。
読んでいて本当は、表の道を着々と進めていく双子の弟竜二の成長にも関心があるのですが、そちらはあっさりしたもので、大検に通って、東大に入り、卒業して運輸省(現国土交通省)に入省、亡くなった親が入っていた莫大な生命保険を使って華麗なエリート人生を送っているとそれだけしか書かれていません。
そこの点はちょっと残念で、ストーリーの中で並行して竜一と竜二の太陽と月の明暗を対比しながらその生き様を読んでみたかったなと。
◇著者別読書感想(白川道)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルームメイト (中公文庫) 今邑 彩
1997年に初出、2006年に文庫化されたミステリー小説です。著者は先月3月6日に57歳の若さで自宅マンションで病死しているのを発見されましたが、独居のため発見が遅れ、死後約1ヶ月ぐらい経っていたそうです。ご冥福をお祈りいたします。
若いうちは1人住まいの気楽さや、自分で稼いだお金を自由に使えることなどいいと思うことも多く、それが結婚しない男女を増やしている要因でもあるでしょうけれど、健康に不安を覚えてくる50代以降ともなると、くも膜下出血や脳梗塞、急性心筋梗塞など、身近に誰かいないと助かる命も助からないこともあり、こうした不幸な出来事が、現在30代40代のシングルが年齢を重ねていくにつれ今後増えそうな気がします。
著者は以前に乳ガンを患っておられたとのことで、急性の病気ではなかったのかも知れません。
私の身近な知人にも、突然倒れた両方のケースがあります。独居の人(30代)は、会社を無断欠勤したことで、不審に思い家族に連絡したところ、自宅で亡くなっているのが発見され、DINKSの人(40代)は、自宅で倒れたとき配偶者がたまたま会社が休みだったため救急車をすぐ手配をして助かり、その後多少後遺症は残ったものの現在も元気に活躍中です。
この小説では、今流行のルームシェアをした相手がとんでもない人だったというところからスタートしますが、もし著者もルームシェアでもしていれば、もっと長生きできたのにという流れでこの本を読んだわけではありません。
以前読んだ「いつもの朝に」がなかなかよかったので、そのうちに読もうとお亡くなりになる前に買っておいた本です。
さて余計な前置きが長くなりましたが、東京に出てきた女学生がアパートが見つからず困っていた時、ちょうど同じく困っていた見知らぬ自称女子学生と意気投合し、相手の発案で二人で共同でマンションを借り、ルームシェアすることになります。
ところがしばらくすると、不在がちとなり、いつもなら入金されるはずの家賃の半分が、約束の日になっても入らず、困って相手の実家へ連絡すると全然別の人が電話に出るということに。
また一方では、籍は入れていないものの、旅先で知り合い、その後一緒に住み始め、内縁関係にあった女性がある日突然いなくなり、なにか事件に巻き込まれたのでは?と探し始めた男性がいます。
やがてその女子学生のルームメイトと内縁の妻は同一人物ということが判明し、女子学生が消えた女性を大学の先輩と一緒に探すことになります。そこで判明した驚愕の事実と、さらなる事件へと発展していくわけですが、さすがにこれ以上は書けません。
ひとつ書いておくと、本文に登場しますが、ダニエル・キイス著のノンフィクション「24人のビリー・ミリガン 」を読んでおくとモロモロ心理状態など理解しやすいかもしれません。
最後に二つのエンディングがあり、どちらを選ぶかは読者次第ということになっています。ところが二つめのエンディングはなにが言いたいのかよく理解ができませんでした。
◇著者別読書感想(今邑彩)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
父・こんなこと (新潮文庫) 幸田文
「父」は1949年、「こんなこと」は1950年に発刊された二つの随筆です。
「父」は著者の父親幸田露伴が、太平洋戦争が終わり、その敗戦のまだ癒えない1947年に、焼け野原となった東京の下町から千葉県市川市へ移り住み、当時としては長寿の満80才で亡くなる数ヶ月間を描いた著者のデビュー作です。文庫版は1961年に「こんなこと」を含め発刊されています。
少し前に著者の自伝的小説と言われている「きもの」を読みましたが、そこでも父親像が深く描かれていました。と同時に明治から昭和にかけての庶民生活や同氏の生い立ちなどがイメージでき、とてもいいものでした。
文化勲章をもらうような有名な父親をもつとその家族、特に子供は様々なメリットもあれば逆にデメリットもあるようです。
例えば老いて病気がちになった際は岩波書店の創業者岩波茂雄氏の紹介で、日本医師会会長まで上り詰め武見天皇とまで言われた医師武見太郎氏が最期を看取るまで主治医としてついていたり、著名人だと言うことで優遇されることもままあります。
逆に、家族はそういう立派な父親に恥をかかせるわけにはいかないと、いつも気を張ることになり、身の回りの世話のためお手伝いさんを雇っても、すぐに喧嘩をして追い出してしまう自分勝手でわがままな病人でも、それが父親なら黙って受け入れざるを得ません。
また療養中には多くの見舞客が次々と来ますが、その相手もしなくてはならず、葬式にいたっては故人とどのような関係があるのかわからない数多くの参列者からお悔やみをうけることになります。
終戦後間もない時代だけに、現在の葬式と違い、業者がすべてを仕切ってやってくれるわけではありませんので家族はそれらの応対だけでもたいへんです。
随筆というのはこういうものだと言ってしまえばそれまでなのですが、1人の高名な人物が病床に伏せって、やがて息を引き取るまでの数ヶ月間を娘が記憶に頼り、日記か記録のごとく書かれているものなので、これ自体は読んで興味が湧くとか面白いものではありません。
ところどころに出てくる、父親との会話と過去の思い出話などには惹かれるところがあります。
「こんなこと」は、その外面は偉いさんであってもうちの中ではこうだったという、娘視点で父親と掃除の仕方やふすまの張り替え、家庭菜園など日常生活に関した父親との思い出が中心に語られています。
これは伝記とは違い、外面は有名人だったけど癇癪持ちで細かなことまでうるさかった父親の生の姿を残しておこうという娘の愛情と使命感で書いたのではないかと勝手に解釈しています。
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