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ダークナンバー (ハヤカワ文庫JA) 長沢樹
著者の作品は今回初めて読みましたが、2011年に横溝正史ミステリ大賞を受賞した「消失グラデーション」でメジャーデビューを果たした作家さんです。
この小説は、2017年に単行本、2020年に文庫化された長編ミステリー&犯罪小説で、視点がひとりではなく、閑職へ追いやられた「やり過ぎ」テレビ局員と、警視庁でやはりはみ出た分析官の二人の女性、さらに途中からは犯人の視点でも描かれていきます。
したがって、テレビ局員と警察関係、それに途中からは犯人とその関係者と、それぞれに登場人物が多く、いちいち誰の視点かということを見ておかないと混乱しそうです。誰の視点かは都度書かれているので安心ですけど。
タイトルの「ダークナンバー」とは、例えば被害者が泣き寝入りして表沙汰にならず、隠れた犯罪を犯した「存在しない犯人」のこと指しています。
この小説の中では、本来の犯行を隠すために、別の類似する犯行を重ねていき、いわゆる「連続事件」として捜査を誤った方向へと向かわせる知能犯との戦いという構図です。
主人公のテレビ局員と警視庁捜査支援分析センターの分析官が中学時代の同級生ということもあり、その二人が重い過去を引きずりながら、警察とマスメディアという立場の違いや、現在職務で背負っている様々なしがらみを避けつつ、少しずつ犯罪の真相に迫っていく姿は読み応え十分です。
ただ、警察小説としては、あまりにもあっさりしすぎていて、日本一男社会で保守的な警察の官僚組織を相手に、20代の女性分析官やメディア記者にいいように振り回されるライトな姿は想像ができません。
また複雑に錯綜した犯罪そのものについても、リアリティはなさそうで、ちょっと凝り過ぎな気がしました。
★★☆
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人間の叡智 (文春新書 869) 佐藤優
著者は2002年に鈴木宗男事件に連座して逮捕、起訴(2009年執行猶予付きで有罪確定)された外務省職員で、裁判中の2005年に出版した「国家の罠:外務省のラスプーチンと呼ばれて」を出版し、一躍有名になった方です。
「国家の罠」は私も2011年に読みましたが、どうも「自分は悪くない」という自己弁護に徹した言い訳っぽい感じで、あまり良い印象は持ちませんでしたが、周囲にいた様々な方からは、著者のことを悪く言う人はあまりなく、さらの同書を含め作家としての能力は高そうな方です。
2011年5月の読書(国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて)
上記の逮捕起訴された事件と「国家の罠」については、確かに外務省が嫌った鈴木議員の腰巾着とみなされ斬り捨てられたというか、スケープゴートにされた感が強く、しかしそれでもめげてしまわず、転んでもタダでは起きない著者の執念とバイタリティが感じられます。
本書は、そうした事件のことはほとんど触れずに(1)なぜあなたの仕事はつらいのか(2)今、世界はどうなっているか(3)ハルマゲドンを信じている人々(4)国体、資本論、エリート(5)橋下徹はファシストか(6)いかに叡智に近づくかという章立てになっていますが、読んでみて思うのは、あまりそうした各章のサブタイトルとは関係なく(たぶん後付けと思う)、過去に経験したり見てきたこと、それに最近の動向で気になることを都度文章にしてまとめて一冊にしてみましたって感じです。
それと国際情勢に関して言えば、何十年、何百年の歴史や文化を知る必要があるものもありますが、今のアフガンのようにわずか数年でコロッと体制が変わってしまうようなこともあり、この新書が発刊された2012年はまだバラク・オバマ大統領の時代(日本は民主党政権時代)で、隔世の感があります。
しかしこの新書の「裏のテーマ」?でもある「新・帝国主義」の潮流については、オバマ後のトランプ時代、メドヴェージェフ後のプーチン、キャメロン、メイ後のボリス・ションソン、野田総理後の安倍総理など、世界中で顕著となり、先見の明があるとも言えるのでしょう。
しかし橋下徹氏の政治家としての今後の可能性を大いに期待している節がありましたが、大阪都構想に失敗(2015年)したあとは、すっかり評論家兼弁護士に落ち着いてしまった点はアテが外れました。
★★☆
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おにのさうし (文春文庫 ゆ 2-26) 夢枕獏
単行本で2001年に絵師天野喜孝氏との共著という形で「鬼譚草紙」が発刊(文庫版は2006年)されたもので、それからイラストと短篇の1話を削除した形で、タイトルを替えて2014年に発刊(出版社が違うので新刊)です。
こうした以前発刊された本を再版とか新装刊ではなく、別の出版社が新刊として売り出すと、Amazonのレビューでも夢枕ファンと思える人から新刊と思って読んだと文句タラタラでしたが、私も浅田次郎などの小説でタイトルこそ同じですが別の出版社から「新刊」として発刊されるという同様なことが何度かあり、非難囂々、切歯扼腕、偏袒扼腕です。
せめて、表紙か裏表紙(カバー)に「初出は○○年」ですとか表示する義務化を出版協会で決めてもらいたいものです。
収録されている3話は、「染殿の后 鬼のために 繞乱せらるる物語(繞は女編)」、「紀長谷雄 朱雀門にて女と争い 鬼と双六する語」、「篁(たかむら)物語」です。
今昔物語や古事記などに使われている和歌などをうまく利用しながら、独自の世界観を拡げていくのはかなりの教養と創造性がないとできそうもありません。
著者の作品は過去に「上弦の月を喰べる獅子」(1989年)や「陰陽師」(1988年)などを1990年代に数冊読んで以来ですから20数年ぶりに久々です。
さらにこの短篇集、テーマは鬼とエッチで、平安時代の男と女、密やかな睦言と官能の世界がそれぞれ描かれています。表現も露骨なところがあります。
元の単行本には絵師天野喜孝氏のカラー絵図が添えられているそうで、ちょっと気になるところです。
そういうわけなので、小学校や中学校の図書館に蔵書するのには相応しくありませんが、大人が秋の夜長に読むにはちょうど良い感じかも。
3話目の「篁物語」は、実在した小野篁を主人公にした、腹違いの妹との禁断の狂おしい恋愛と死、そして閻魔大王への直訴というストーリーです。
あとがきにもありましたが、ベストセラー「陰陽師」の別巻とも言えるし、平安時代の呪術師で安倍晴明のライバル蘆屋道満のスピンアウト小説とも言えるかも知れません。
★★☆
◇著者別読書感想(夢枕獏)
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センセイの鞄 (文春文庫) 川上弘美
私とほぼ同年代の作家さんで、1994年にデビュー、1996年には「蛇を踏む」で芥川賞を受賞されていますが、私自身意外でしたが著者の作品を読むのはこれが初めてです。
この作品は、雑誌に連載後、2001年に単行本、2004年に文庫化されています。2003年には小泉今日子主演でテレビドラマも作られています。
内容は、まもなく40歳になろうかという女性の主人公が、高校生時代の国語教師で、すでに引退した老人と言って差し支えない高齢男性との長編恋愛物語で、雑誌に連載する都合でしょうが、連作短篇形式で書かれています。
居酒屋でひとり飲むのが好きな主人公が、いつものように飲んでいたら、老人に声をかけられ、教え子だという話しから仲良くなっていきます。
老人は、妻が何年も前に出奔し一人暮らしで、気ままな生活を送って、いつも寄る居酒屋で何度も見かける女性が、元教え子だということに気がつき声をかけたわけです。
主人公の独身女性にも特に恋人はいなく、元教師の老人と付かず離れずで居酒屋で会っている中で徐々に気持ちが傾いていくというなんだか切ない話しです。
しかし二人ともやたらと飲兵衛で、飲んでいるシーンばかりです。恋愛にお酒がつきものなのはわかりますが、飲んでいるシーンばかりというのには辟易させられます。
ま、著者の一番の趣味でもあるのでしょう。
大人、しかも熟年と老年の恋愛小説というのも珍しく、高齢化社会が進む中で、こういうことは珍しくなくなってきているのだろうなぁと面白く読めました。
★★☆
◇著者別読書感想(川上弘美)
【関連リンク】
9月前半の読書 蝶、ぬるい毒、殺し屋、やってます。、家守、うまくいっている人の考え方
8月後半の読書 運命のコイン、シャーロック・ホームズ対伊藤博文、経済危機のルーツ
8月前半の読書 地のはてから、父の戦場、誰かのぬくもり、号泣する準備はできていた
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蝶 (文春文庫) 皆川博子
過去に「開かせていただき光栄です」(2011年)を読んだだけですが、その時には「若手作家さん?」と思っていたのですが、90歳を超えているベテラン作家さんでした。言い訳ではないですが、それだけ文体やストーリーが若々しかったということで。
2018年10月後半の読書(開かせていただき光栄です)
今回の作品は、2005年に単行本、2008年に文庫化されています。
前に読んだ作品とは違って、主に太平洋戦争中や戦後から間もない時代を背景とした短編集で、これを先に読めば作家さんの年齢も早くに想像ができたでしょう。
短篇作品は、それぞれ独立した話しで、「空の色さえ」「蝶」「艀」「想ひ出すなよ」「妙に清らの」「龍騎兵は近づけり」「幻燈」「遺し文」の8篇です。
幻想的なミステリがお得意な作家さんゆえ、この短編集もそうした内容となっています。
ただ個人的にはどうもこうしたフワフワした生と死の幻想小説は苦手で、起承転結がハッキリしたものを好みます。
ただ、私が子供だった頃にうっすらと記憶に残っている背景描写もあり、懐かしく郷愁に浸れました。
また各篇にはそれぞれ詩や俳句が添えられていて、その関連は学がないせいかイマイチよくわかりませんでしたが、作家さんの深い教養を感じられる作品でした。
★☆☆
◇著者別読書感想(皆川博子)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ぬるい毒(新潮文庫) 本谷有希子
著者は多くの小説を出している作家活動以外にも劇作家や演出、女優なども手がける多才な方ですが、作品を読むのは2010年に読んだ「乱暴と待機」に続き2作目です。
本著は2011年に単行本、2014年に文庫化されている中篇の現代小説です。なおこの作品で、野間文芸新人賞を受賞し、3回目の芥川賞の候補(結果は落選)にもなっています。その後、2016年には「異類婚姻譚」で見事芥川賞を受賞されています。
主人公は19歳の地方の短大生で、あるとき記憶にない高校の時の知り合いだという大学生の男性から「返却するものがある」と電話がかかってきます。
その男性が自分の好みで、それ以降連絡を待つようになり、やがてつきあっていた彼氏とも別れ、男性が住む東京で同棲しようとなっていきますが、その心理描写がなんともまどろっこしいというか、還暦過ぎたオッサンにはなんとも理解しがたいばかり。ってそりゃ当たり前か。
とにかく、若い女性の頭の中を駆け巡る想いや感情が吐き出されているばかりの内容なので、これはオッサンが読むのはちょっとツライ限りでした。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
殺し屋、やってます。 (文春文庫) 石持浅海
著者の作品は過去に「月の扉」(2003年)と「セリヌンティウスの舟」(2005年)を読んでいます。どちらも面白かった記憶があります。
この作品は2017年に単行本として、2020年に文庫化されていますが、2019年には続編として「殺し屋、続けてます。」が発刊されています。
内容は、7作の連作短編集で、それぞれのタイトルは、「黒い水筒の女」「紙おむつを買う男」「同伴者」「優柔不断な依頼人」「吸血鬼が狙っている」「標的はどっち?」「狙われた殺し屋」です。
脱サラして経営コンサルタントをしている主人公ですが、副業で殺し屋を営んでいます。ってあまり現実的じゃない話しですけど、コミカルなところとシリアスな話しとうまく組み合わせつつ、デキのよい短篇となっています。
7篇ともそれぞれ味があって面白く読めましたが、その中で一番好きだったのは「吸血鬼が狙っている」で、主人公の殺し屋はその依頼主や目的は一切知らずに仕事を受けるのですが、仕事が終わった後に仕事仲間にその推理を披露します。その内容が一番泣けたのがその作品です。
ただこの作品は月刊誌に連載していたという事情もあり、毎回短篇の前には、同じ話が繰り返されます。それがちょっとうるさい感じです。単行本化する時に、その辺りは端折るなど編集してもいいのではないかな。
殺し屋を主人公とした小説は数多くありますが、私のお気に入りはローレンス・ブロックの「殺し屋ケラー・シリーズ」で、抱腹絶倒&しんみりとできて非常に優れた作品です。
おそらくですが、著者もきっとこの「殺し屋ケラー・シリーズ」を読んで刺激を受けているのでは?と思います。
★★☆
◇著者別読書感想(石持浅海)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
家守 (角川文庫) 歌野晶午
2003年カッパ・ノベルス、2007年に文庫化された短篇集です。意図的ではないですが短篇が続くときはよく続いてしまいます。
家にまつわるそれぞれ独立した短篇作品でそれぞれタイトルは「人形師の家で」「家守」「埴生の宿」「鄙」「転居先不明」の5篇からなっています。
著者の作品は過去に長編ミステリーの「葉桜の季節に君を想うということ」(2003年)を読んでいます。
最初タイトルを見たとき、篠田節子著の「家鳴り」や貴志祐介著の「黒い家」をふと思い出し、「これもホラー?」って思っていましたが、純粋なホラーというのではなく、ホラー的な香りが少し漂うミステリー小説です。
印象に残ったお気に入りの小説は「人形師の家で」と「転居先不明」。
前者は子供の頃住んでいた地方にある洋館でかくれんぼをしていた友達のひとりが神隠しにあい行方不明になり、20年後にその時一緒に遊んでいた友人から呼び出されその神隠しの理由が判明する話し。
後者は、いわゆる事故物件を知らずに買った夫婦の話しと、その事故物件となった時の複雑な殺人事件についてのミステリーとがセットになった話しです。
そうそう「鄙」も良かったです。高齢化で衰退した集落の中で起きた殺人事件について、犯人が罪を認め服役しているのちに、その時旅行で滞在していた官能小説家が、真相に迫る別の推理を披露するという変わった内容でお薦めです。
★★★
◇著者別読書感想(歌野晶午)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
うまくいっている人の考え方 完全版 (ディスカヴァー携書) ジェリー・ミンチントン
著者はアメリカのビジネス経験の後、著述業の方で、心理学に詳しいとのことですが、特に心療内科など医療関係、あるいはカウンセラーではないそうです。
この完全版は、1999年と2004年に発刊された続編の二冊をまとめたものだそうで、2013年に発刊されています。
こうした「成功への道」「対人関係」「物事の考え方」「習慣づけ」を教えてくれる指南書はアメリカで数多く出版され、それが日本へもやってきますが、私も20代30代の頃にはついついタイトルに釣られてよくお世話になりました。
こちらの新書も、社会にでて多くの経験をし、そこで様々な問題にぶつかったり、悩んだりしたときの考え方を教えてくれますので、読者の対象年齢は20代後半から30代後半ぐらいでしょう。
私のようにすでにビジネスからリタイアした人が読んでもあまり役立ちませんが、いろいろと考えさせられるメッセージもあり、悪くはないです。
1から100までの格言とその理由が書かれていて、年齢や経験、性別、性格などによって、ピンとくるものもあれば、関係なさそうと思えるものもあり、人それぞれに読んだ感想はバラバラになりそうです。
私の場合、人の眼を気にするタイプであり、失敗すると後でクヨクヨと考えることがあるので、この100の中では、
003「したくないことは、はっきりと断る」
014「自分のしたいことをする」
018「他人からどう評価されようと気にしない」
042「他人に対する悪い感情は、さらりと忘れる」
055「自己中心的な人から遠ざかる」
084「被害者意識を持たない」
085「現実を受け入れる」
093「些細な問題にとらわれない」
などが心の隅っこに引っかかりました。
★★☆
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8月後半の読書 運命のコイン、シャーロック・ホームズ対伊藤博文、経済危機のルーツ
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運命のコイン(上)(下) (新潮文庫) ジェフリー・アーチャー
原作は2018年に、日本では2019年に発刊された長編小説で、以前読んだ短編集「嘘ばっかり」(日本版2018年刊)にそのプロローグというか第1章がすでに書かれていたという変わったスタイルでした。
1960年代後半、旧ソ連に住んでいた親子のうち、父親が労働組合設立を進めていたことが発覚し、KGBに惨殺され、さらに母子にもその災いが起きそうになり、旧ソ連から脱出することになります。
港から外国船に密航して脱出する際、アメリカ行きかイギリス行きのどちらの箱に入るか、コイントスをして決めることになります。ここまでが、第1章です。
そしてその後は、「ケインとアベル」や「クリフトン年代記」などとも共通する、貧困と絶望からの復活と成功物語が展開していきますが、これまたスタイルが変わっていて、アメリカへ渡った場合と、イギリスへ渡った場合が、同時並行で語られていきます。
最初はどうなのよーと思いましたが、まるでそれぞれが別人格の物語で、よく考えられていて楽しめます。
まだ未読の方もいると思いますので、クライマックスは書きませんが、米英それぞれに向かって成功した二人の主人公が、同時期に生まれ故郷のレニングラードに向かいます。
著者の長編ではお馴染みの主人公を徹底的に貶める悪役はソ連時代にはKGB将校で迫力ありましたが、渡米、渡英後は、同級生のライバルだったり、仕事上の元社長だったりで迫力不足、どちらかと言えば、都合の良い味方が多く出てきて安心して読めますが、ドキドキ感は薄まっています。
長さも、第7部あり、しかもそのほとんどが1部あたり上・下巻ある「クリフトン年代記」と比べると、中篇か?って思うぐらいの分量で、サクッと読めてちょうど良い感じです。
著者が描く「政治家とビジネスマンの成功物語」は、ちょっとワンパターンで飽きてきましたが、なかなか面白かったです。
★★★
著者別読書感想 ジェフリー・アーチャー
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シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫) 松岡圭祐
2ヶ月前に読んだ「黄砂の籠城」(2017年)のすぐ後に発刊された歴史長編小説で、タイトルでもわかるように、この二人が主人公です。
シャーロック・ホームズの小説は、子供の頃に読んだぐらいであまり詳しくないのですが、1891年から1894年まで主人公ホームズが行方不明(著者アーサー・コナン・ドイルが作品を書かなかった)だった時期があり、その時期に実は明治時代の日本へ渡って大きな事件を解決していたという想定です。
一方の伊藤博文は1863年に密航して渡英(事実)していて、その時に子供時代のホームズと会って親交があり、殺害した大物悪党モリアーティの残党から逃れるため、密航して日本にやってきたホームズを大英帝国の息がかかっていない日本でかくまう役目で、実質的にホームズの相棒ワトソン的な役目です。
ホームズがやってきた1891年(明治25年)の日本はというと、明治維新後に大日本帝国憲法が1889年に公布された直後で、まだ工業力などでは欧米先進国には遠く及ばない状態です。
また伊藤博文は初代総理大臣を1期務めたあと、枢密院議長に就任していた頃で、日清戦争(1894年~)、日露戦争(1904年~)以前で日本に食指を伸ばそうとしていたロシア帝国から来日していた皇太子・ニコライ(後の皇帝ニコライ2世)が滋賀県を旅行中、警察官に切りつけられ負傷するという「大津事件」が起きた直後でした。
その「大津事件」で謀反人を死刑にしろと圧力をかけてくるロシアと、法治国家として傷害事件で死刑にはできないという政府重鎮(伊藤)との間にはいり、事件の謎解きにホームズが大活躍し、さらにその後、日本を攻撃する理由を作るためのロシアの策略を暴いていきます。
こうした実際に起きた時代背景を元に、そのタイミングでちょうど行方不明だったホームズが事件の陰で活躍していたという発想はお見事!としか言いようがないです。
タイトルからすると、「ルパン対ホームズ」みたいに、この二人が対決する?と思われがちですが、もちろんそんなことはなく、上記にも書いたように伊藤はワトソンの役目を果たし、ホームズが日本国内で自由に動けるよう様々な恩恵を与え、さらに、事件解決後には英国女王陛下に願いでて恩赦が得られるようにしてくれます。
★★★
著者別読書感想 松岡圭祐
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経済危機のルーツ モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか 野口悠紀雄
最初は海の向こうの話しと思っていたら、日本経済をも直撃したリーマンショックで、製造業を中心に大不況が訪れ、経済が疲弊した時代の2010年に発刊されたビジネス書です。
著者自身が、理工系でありながら大蔵官僚出身で、金融工学にも深い造形があり、リーマンショックを引き起こした金融証券ビジネスの光と影、そしてその影響で製造業が大打撃を受けた構造について詳しく、起きるべくして起きた現象として解説されています。
内容は著者が得意とする高度成長期以降の70年代に起きたニクソンショックからオイルショック、東西冷戦終結、土地バブル、ITバブル、そしてリーマンショックまで、世界と日本で起きた様々な経済危機を掘り起こし、世界はどう動き、日本はなぜ動けなかったなどを解説していきます。
こうしたわかりやすい解説は、中途半端な知識しかない私にとって助かりますが、結局は過去に起きたことをデータなどとともに「こうだった」と言っているだけで、なにか眼新しさや、目からうろこというような話しではありません。
90年代にアメリカと英国が、見事に脱工業化を果たし、金融など付加価値が高い労働やビジネスに移行したのに対し、日本やドイツは旧来の製造業から脱却できず、当初は他山の石ぐらに思っていた金融危機が回り回って製造業を基幹産業とする国に大打撃を与えたという構造はわかりやすいです。
評論家というのは、そうした結果を見てあーだこーだと言えるので、そういう意味ではズルイ存在です。
一方では未来の予測や現在進行形のことについて話すのは目立ちたがり屋で怪しげな人ぐらいで、優秀で保身を考える人は言わないものです。
アメリカの有名大学へ留学経験があることや、東西ドイツの壁の崩壊前に東ドイツへ旅行して決死の覚悟で壁の写真を撮ってきたこと、世界の有名人と懇意であることなど自慢たらしい話しが、何度も繰り返されるのがちょっと鼻につきますが、そうした過去の栄光を、自慢気に語りたくなる高齢者なのでその点はご愛敬なのでしょう。
★★☆
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7月後半の読書 生きて帰ってきた男、震源、もらい泣き、時砂の王
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「直木賞受賞作をどのぐらい読んだか 2021年8月11日(水)」に続き、暇なのでこの50年の間に芥川賞を受賞した作品のうちどれぐらい読んだのか?を調べてみました。
芥川龍之介賞は、大衆小説がメインの直木三十五賞と並び、1935年から脈絡と続く、短篇や中篇の純文学作品に贈られる権威ある賞で、お気楽な大衆文学が好きな私にはあまり向かないので読んだ数は知れています。
直木賞は1970~2019年の50年間で131作品が受賞し、そのうち36作品(27%)を読んでいましたが、芥川賞は、同じ50年間で112作品が受賞し、読んだのは12作品(11%)だけでした。すくね~!です。
正直、受賞者の名前(作家名)を見ても、「見たことも聞いたこともない(失礼!)」という名前が多く、教養のなさを露呈しています。
これではダメだと反省し、「買うべき本」のリストに加え、これから意識して少しずつ読んでいくことにします。
50年間の芥川賞受賞作品一覧と、赤字は既読作品です。
| 第63回(1970年上半期) | 吉田知子 「無明長夜」 | 古山高麗雄 「プレオー8の夜明け」 |
| 第64回(1970年下半期) | 古井由吉 「杳子」 | |
| 第65回(1971年上半期) | ||
| 第66回(1971年下半期) | 李恢成 「砧をうつ女」 | 東峰夫 「オキナワの少年」 |
| 第67回(1972年上半期) | 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 | 宮原昭夫 「誰かが触った」 |
| 第68回(1972年下半期) | 山本道子 「ベティさんの庭」 | 郷静子 「れくいえむ」 |
| 第69回(1973年上半期) | 三木卓 「鶸」 | |
| 第70回(1973年下半期) | 野呂邦暢 「草のつるぎ」 | 森敦 「月山」 |
| 第71回(1974年上半期) | ||
| 第72回(1974年下半期) | 日野啓三 「あの夕陽」 | 阪田寛夫 「土の器」 |
| 第73回(1975年上半期) | 林京子 「祭りの場」 | |
| 第74回(1975年下半期) | 中上健次 「岬」 | 岡松和夫 「志賀島」 |
| 第75回(1976年上半期) | 村上龍 「限りなく透明に近いブルー」 | |
| 第76回(1976年下半期) | ||
| 第77回(1977年上半期) | 三田誠広 「僕って何」 | 池田満寿夫 「エーゲ海に捧ぐ」 |
| 第78回(1977年下半期) | 宮本輝 「螢川」 | 高城修三 「榧の木祭り」 |
| 第79回(1978年上半期) | 高橋揆一郎 「伸予」 | 高橋三千綱 「九月の空」 |
| 第80回(1978年下半期) | ||
| 第81回(1979年上半期) | 重兼芳子 「やまあいの煙」 | 青野聰 「愚者の夜」 |
| 第82回(1979年下半期) | 森禮子 「モッキングバードのいる町」 | |
| 第83回(1980年上半期) | ||
| 第84回(1980年下半期) | 尾辻克彦 「父が消えた」 | |
| 第85回(1981年上半期) | 吉行理恵 「小さな貴婦人」 | |
| 第86回(1981年下半期) | ||
| 第87回(1982年上半期) | ||
| 第88回(1982年下半期) | 加藤幸子 「夢の壁」 | 唐十郎 「佐川君からの手紙」 |
| 第89回(1983年上半期) | ||
| 第90回(1983年下半期) | 笠原淳 「杢二の世界」 | 高樹のぶ子 「光抱く友よ」 |
| 第91回(1984年上半期) | ||
| 第92回(1984年下半期) | 木崎さと子 「青桐」 | |
| 第93回(1985年上半期) | ||
| 第94回(1985年下半期) | 米谷ふみ子 「過越しの祭」 | |
| 第95回(1986年上半期) | ||
| 第96回(1986年下半期) | ||
| 第97回(1987年上半期) | 村田喜代子 「鍋の中」 | |
| 第98回(1987年下半期) | 池澤夏樹 「スティル・ライフ」 | 三浦清宏 「長男の出家」 |
| 第99回(1988年上半期) | 新井満 「尋ね人の時間」 | |
| 第100回(1988年下半期) | 南木佳士 「ダイヤモンドダスト」 | 李良枝 「由煕」 |
| 第101回(1989年上半期) | ||
| 第102回(1989年下半期) | 大岡玲 「表層生活」 | 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」 |
| 第103回(1990年上半期) | 辻原登 「村の名前」 | |
| 第104回(1990年下半期) | 小川洋子 「妊娠カレンダー」 | |
| 第105回(1991年上半期) | 辺見庸 「自動起床装置」 | 荻野アンナ 「背負い水」 |
| 第106回(1991年下半期) | 松村栄子 「至高聖所アバトーン」 | |
| 第107回(1992年上半期) | 藤原智美 「運転士」 | |
| 第108回(1992年下半期) | 多和田葉子 「犬婿入り」 | |
| 第109回(1993年上半期) | 吉目木晴彦 「寂寥郊野」 | |
| 第110回(1993年下半期) | 奥泉光 「石の来歴」 | |
| 第111回(1994年上半期) | 室井光広 「おどるでく」 | 笙野頼子 「タイムスリップ・コンビナート」 |
| 第112回(1994年下半期) | ||
| 第113回(1995年上半期) | 保坂和志 「この人の閾」 | |
| 第114回(1995年下半期) | 又吉栄喜 「豚の報い」 | |
| 第115回(1996年上半期) | 川上弘美 「蛇を踏む」 | |
| 第116回(1996年下半期) | 辻仁成 「海峡の光」 | 柳美里 「家族シネマ」 |
| 第117回(1997年上半期) | 目取真俊 「水滴」 | |
| 第118回(1997年下半期) | ||
| 第119回(1998年上半期) | 花村萬月 「ゲルマニウムの夜」 | 藤沢周 「ブエノスアイレス午前零時」 |
| 第120回(1998年下半期) | 平野啓一郎 「日蝕」 | |
| 第121回(1999年上半期) | ||
| 第122回(1999年下半期) | 玄月 「蔭の棲みか」 | 藤野千夜 「夏の約束」 |
| 第123回(2000年上半期) | 町田康 「きれぎれ」 | 松浦寿輝 「花腐し」 |
| 第124回(2000年下半期) | 青来有一 「聖水」 | 堀江敏幸 「熊の敷石」 |
| 第125回(2001年上半期) | 玄侑宗久 「中陰の花」 | |
| 第126回(2001年下半期) | 長嶋有 「猛スピードで母は」 | |
| 第127回(2002年上半期) | 吉田修一 「パーク・ライフ」 | |
| 第128回(2002年下半期) | 大道珠貴 「しょっぱいドライブ」 | |
| 第129回(2003年上半期) | 吉村萬壱 「ハリガネムシ」 | |
| 第130回(2003年下半期) | 金原ひとみ 「蛇にピアス」 | 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 |
| 第131回(2004年上半期) | モブ・ノリオ 「介護入門」 | |
| 第132回(2004年下半期) | 阿部和重 「グランド・フィナーレ」 | |
| 第133回(2005年上半期) | 中村文則 「土の中の子供」 | |
| 第134回(2005年下半期) | 絲山秋子 「沖で待つ」 | |
| 第135回(2006年上半期) | 伊藤たかみ 「八月の路上に捨てる」 | |
| 第136回(2006年下半期) | 青山七恵 「ひとり日和」 | |
| 第137回(2007年上半期) | 諏訪哲史 「アサッテの人」 | |
| 第138回(2007年下半期) | 川上未映子 「乳と卵」 | |
| 第139回(2008年上半期) | 楊逸 「時が滲む朝」 | |
| 第140回(2008年下半期) | 津村記久子 「ポトスライムの舟」 | |
| 第141回(2009年上半期) | 磯崎憲一郎 「終の住処」 | |
| 第142回(2009年下半期) | ||
| 第143回(2010年上半期) | 赤染晶子 「乙女の密告」 | |
| 第144回(2010年下半期) | 朝吹真理子 「きことわ」 | 西村賢太 「苦役列車」 |
| 第145回(2011年上半期) | ||
| 第146回(2011年下半期) | 円城塔 「道化師の蝶」 | 田中慎弥 「共喰い」 |
| 第147回(2012年上半期) | 鹿島田真希 「冥土めぐり」 | |
| 第148回(2012年下半期) | 黒田夏子 「abさんご」 | |
| 第149回(2013年上半期) | 藤野可織 「爪と目」 | |
| 第150回(2013年下半期) | 小山田浩子 「穴」 | |
| 第151回(2014年上半期) | 柴崎友香 「春の庭」 | |
| 第152回(2014年下半期) | 小野正嗣 「九年前の祈り」 | |
| 第153回(2015年上半期) | 羽田圭介 「スクラップ・アンド・ビルド」 | 又吉直樹 「火花」 |
| 第154回(2015年下半期) | 滝口悠生 「死んでいない者」 | 本谷有希子 「異類婚姻譚」 |
| 第155回(2016年上半期) | 村田沙耶香 「コンビニ人間」 | |
| 第156回(2016年下半期) | 山下澄人 「しんせかい」 | |
| 第157回(2017年上半期) | 沼田真佑 「影裏」 | |
| 第158回(2017年下半期) | 石井遊佳 「百年泥」 | 若竹千佐子 「おらおらでひとりいぐも」 |
| 第159回(2018年上半期) | 高橋弘希 「送り火」 | |
| 第160回(2018年下半期) | 上田岳弘 「ニムロッド」 | 町屋良平 「1R1分34秒」 |
| 第161回(2019年上半期) | 今村夏子 「むらさきのスカートの女」 | |
| 第162回(2019年下半期) | 古川真人 「背高泡立草」 |
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直木賞受賞作をどのぐらい読んだか
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夏休み前に女性作家さんの作品を集中して読んだ「女性作家シリーズ」です。最近は買う書籍の半分以上は女性作家さんになっています。
地のはてから(上)(下)(講談社文庫) 乃南アサ
2010年に単行本、2013年に文庫化された長編小説です。前年2009年刊の長編小説「ニサッタ、ニサッタ」の主人公の祖母がこの小説では主人公となっています。
時代は大正時代初期、主人公の女性がまだ2歳の時に始まり、食い詰めた福島の農家の四男坊だった父親が、国の北海道移住政策にのっかって地の果て知床半島へ夜逃げ同然で移住してきます。
その主人公が、厳しい自然環境の中で、たくましく育っていく姿が印象的で、見ていませんが有名なNHKドラマ「おしん」の北海道版って感じもします。
借金を作って移住を独断で決めた父親は、まともな生活ができずにやけくそになって酒に溺れ海に転落して早くに亡くなり、本当は来たくなかったのに父親に連れられて知床へ来た母親と小さな子供二人が残され厳しい環境の中で極貧の生活が続いていきます。
成長した主人公はその後小学校をでてすぐに小樽へ子守の奉公に出されますが、その前に山の中で知り合ったアイヌのたくましい子供に恋心を抱きます。
大正時代から昭和初期の東北や北海道は、きらびやかな東京や大阪とは違い、貧しい農民ばかりが肩を寄せ合って生きているという印象で、そうした重苦しい話しが延々と続きます。
農民たちに希望はあるのか?ってことですが、ハッピーエンドで終わるドラマチックなことはなく、家に縛られ、職業選択や住まいの移動が自由にできない中で、貧困の連鎖が延々と続いていくことになり、そうした、あまり表には出てこない日本の暗い歴史を知っておくことも必要でしょう。
またアイヌ差別の問題や、貧困の中においても「お国のため」と貴重な働き手の男手を戦場へ送らなければならない農家の悲惨さなど語り尽くせない、日本の黒歴史が学べます。
★★★
◇著者別読書感想(乃南アサ)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
父の戦地 (新潮文庫) 北原亞以子
著者は「深川澪通り木戸番小屋シリーズ」など数多くの小説を出され、1993年に「恋忘れ草」で直木賞を受賞された作家さんですが、2013年に故人となられています。
著者の子供というかまだ幼児だった頃、戦争が激しくなって家具職人だった父親が召集されて戦地へ赴きます。
その戦地の父親から、幼児でもわかりやすいようにと様々な絵や漫画を描いた軍事郵便(はがき)が届けられます。
その父親のはがきを紹介しながら、かすかに記憶にある父親の思い出や、母親や親戚に聞いた父親のことを綴っているエッセイ的な内容ですが、プロの作家さんにしては、同じ話が何度も何度も繰り返されたり、話しの順番(時代)が行ったり来たりして読み手からすると話の流れや関係性などがよくわからなかったりします。
また近所の○○ちゃん、親戚の○○ちゃん、いとこの○○ちゃんなどと、個人名がやたらと出てきますが、読者的には著者の交友関係など詳しくないので、そう次々と名前を出されても、、、って読んでいても話しがとっちらかっていてまったく集中できないのが残念です。
タイトルにある「父の戦地」というよりは、「私の戦地」に近い内容でした。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
誰かのぬくもり (光文社文庫) 新津きよみ
2015年に文庫として発刊された短編集で、一部は連作スタイル(登場人物が重なっていたりする)です。
著者の作品は、過去に「ダブル・イニシャル」を読んでいます。数多くの作品があるのにまだ1作?という少なさです。同年齢の方の作品ですので、これからもっと頑張って読みます。
この短編集には「お守り」「誰かのぬくもり」「罪を認めてください」「思い出さずにはいられない」「骨になるまで」「秘密」「女の一生」「不惑」の8編が収録されています。
女性心理を鋭く描くサスペンススタイルが持ち味の著者ですから、短編でもそのスタイルが用いられています。
ただ、私など単純な読者が希望する起承転結が明確ではなく、「え?なにが言いたかったの?」と戸惑ってしまう、ハッキリしないものが多く、個人的にはちょっと苦手でした。
★☆☆
◇著者別読書感想(新津きよみ)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
号泣する準備はできていた (新潮文庫) 江國香織
2004年の直木賞受賞作となった短篇集です。
収録作品は、「前進、もしくは前進のように思われるもの」「じゃこじゃこのビスケット」「熱帯夜」「煙草配りガール」「溝」「こまつま」「洋一も来られればよかったのにね」「住宅地」「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」の12編です。
著者の作品は「神様のボート」「きらきらひかる」の二つだけを過去に読んでいますが、「犬とハモニカ」もまだ未読ですがすでに買ってあります。
女性作家さんによくある微妙?な女性心理を前面に出した小説ですが、男性には理解できないところもあり、「そういうものかぁ~」って感心するぐらいで、当たり前ですが主人公に感情移入することもなく、淡々と読むしかないという感じです。
しかし同年代以上の女性が読むと、「わかるわかる」と、女性あるあるなのでしょうね。わかりませんが。
直木賞にも、熊谷達也著「邂逅の森」のように、文庫で530ページの壮大な長編もあれば、この小説のように1編平均が20ページ程度で全部足しても230ページに満たない短篇集もあり、その候補作と選出の基準がいまいち不明です。
「第130回(2003年下半期)直木賞 選評の概要」というのがあり、それを見ても、400字詰めで12篇合計して268枚のこの作品と、1作でその7倍近い差がある同1855枚の馳星周著「生誕祭」が同列に評価されています。
もちろん、小説はその長さで優劣が決まるわけではないですが、短篇で直木賞が取れるなら、作家心理としては時間をかけて長編を書くより、インパクトのある短篇作を中心に創作する人が増えていくような気がします。
個人的には同じ時間をかけて短篇を100作読むよりも、長篇1作を読みたい派です。
この2003年下半期直木賞の、5つの候補作の中では圧倒的に審査員の評価が高いのがこの作品ですが、10人の審査員のうち、津本陽氏と宮城谷昌光氏の二人だけは評価が低くなっています。おこがましい言い方ですが、私はこの二人に感性が近いかもです。
個人的には短篇集(あるいは短編作品)は、直木賞ではなく別に評価すべきじゃないのかな?と思ってしまいます。
ちなみに、この直木賞においては、400字詰め原稿で、1~149枚が短篇、150~299枚が中篇、300枚以上が長篇とされています。
ちょっと本作品の感想と関係のない話しになってしまいました。
★☆☆
◇著者別読書感想(江國香織)
【関連リンク】
7月後半の読書 生きて帰ってきた男、震源、もらい泣き、時砂の王
7月前半の読書 宇宙を読む、夏の情婦、永遠の出口、無人島に生きる十六人、MISSING
6月後半の読書 騙し絵の檻、思い出袋、パンク侍、斬られて候、黄砂の籠城(上)(下)
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