リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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死都日本 (講談社文庫) 石黒 耀
2002年にこの作品で作家デビューを果たした現役内科医が本業の作家さんで、この著者の作品を読むのはこれが最初です。文庫版は2008年に発刊されています。
医者でありながら小説を書いている人って多いですね。しかもこの著者さんは、専門である医療分野のネタを小説にするのではなく、まったく畑違いの火山や地質、防災、政治などをテーマにしているところが凄いところです。
タイトルからして縁起でもない衝撃的ですが、単にひとつの火山が噴火して、逃げ遅れた近隣住民や取材陣に被害が起きますが、これはそんな軽い話しではなく、霧島連山を中心に九州の南半分が吹っ飛び、成層圏にまで及ぶ噴煙が立ち上り、日本はもちろん北半球の世界の環境に大きな影響を与えてしまうと言う壊滅的な火山災害を描いています。
この作品が出たのが2002年ですから、2011年の東日本大震災前の話ですが、破局的噴火の火砕流やその前に起きる火砕サージという高熱の火山ガスが流れ出て街を襲うシーンが、まるで2011年震災当時の津波が一気に街を飲み込むシーンと瓜二つです。
偶然なのか、それともなにか意図されたのか、阪神淡路大震災の時は村山総理、東日本大震災の時は菅総理と、自民党から総理大臣が出ていなかったごくわずかな期間中に大きな災害が起きています。
この小説でも東日本大震災をまるで予言したかのように、それまで野党だった政党が選挙に勝って与党になったあとすぐに起きる設定です。
その時の首相は、切れ者で、政権を取って以降、様々な火山噴火対策をあらかじめ準備をし、日本国が壊滅的危機になってもそれを乗り越えられる策を練っていきますが、九州の大噴火に続き、東南海地震発生の徴候、さらには富士山の噴火徴候がみられ窮地に立たされていきます。
この本を読むと、日本列島は列島すべてが火山とその噴石で出来上がっていて、いつまたそうした大規模噴火に襲われるかわからないという恐怖を感じます。
何千年、何万年、何百万年という間隔があるものの、いつかはまたきっと列島全体の形を変えてしまうほどの火山活動が活発化することはいつか必ず起きます。
こうした自然大災害が日本を襲う小説としては小松左京氏の「日本沈没」や、高嶋 哲夫氏の「M8(エムエイト) ) 」など災害サスペンス3部作、福井晴敏氏の「平成関東大震災 いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった」など数多く読んできましたが、火山を前面に出してその怖さを詳細に説明してくれたものは少なかったように思います。
日本は地震や台風の備えには割と進んできていますが、総合防災の備えという点では今後火山の噴火対策にも備える必要がありそうです。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
天国旅行 (新潮文庫) 三浦しをん
2010年に単行本、 2013年に文庫化された短編集小説です。収録作品は「森の奥」「遺言」「初盆の客」「君は夜」「炎」「星くずドライブ」「SINK」の7編です。
タイトルにあるように、収録された短編はすべて人の死に関連したストーリーとなっています。人生でもっとも大きな出来事と言えばやっぱり死ですから、小説には欠かせないテーマです。
事業に失敗して自殺を図ろうと青木ヶ原樹海へ踏み入れた中年男性が、その森の中でサバイバルに慣れている元自衛隊員の男性と出会う「森の奥」、亡くなった祖母に知られざる過去があったことを初めて知る孫の女性が主人公の「初盆の客」、子供の頃から死者の霊が見えて会話もできる特殊能力をもった男性が恋人の死で、その霊とともに生活する息苦しさを感じていく「星くずドライブ」、一家心中で唯一生き残ってしまった男性の心の闇を描いた「SINK」など。
それなりに楽しめますが、やっぱり短編はその道の達人以外の作品では話しが中途半端になりがちで、いまいち好きにはなれません。病院での待合とか、電車の中とか、気が散る場所で、細切れになる時間でちょっと読むのには適しています。
★★☆
◇著者別読書感想(三浦しをん)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
湖水に消える (ハヤカワ・ミステリ文庫) ロバート・B・パーカー
2002年刊、文庫版は2005年に発刊された警察署長ジェッシイ・ストーン・シリーズの第4作目になります。この作品は、2006年にトム・セレック主演で映画化されています。
主人公はロスの殺人課の刑事でしたが、酒に溺れて謹慎を喰らい、ボストンにもほど近い東海岸の小さな街の警察署長として流れてきました。
別れた前妻にまだダラダラと未練を残していて、またいつかはよりを戻せると願いつつ、一方では女性関係は派手で、エンタメ要素は満載です。
今回の事件は、管内の湖で殺された若い女性の遺体があがり、その女性のたどってきた過去を調べ、犯人に迫っていくというストーリーです。
このシリーズでは、他のシリーズ「私立探偵スペンサー」や「女性探偵サニー・ランドル」と共通する人物が登場することもあり、スペンサーシリーズを全部読み終えた後ですが、懐かしい名前が出てきて楽しめます。
今回は、スペンサーシリーズに時々登場するギャングの殺し屋ヴィニィ・モリスが登場しています。スペンサーシリーズでは拳銃の腕はナンバーワンとスペンサー自身も評価をしているヴィニィ・モリスですが、この作品の中では「クレー射撃の的を拳銃で撃つ」という伝説の話しが出てきて笑いました。
今回の話しでは主人公自らボストンへ出向くことも多く、スペンサーとどこかで接点がないかとドキドキしましたが、さすがにそれはありませんでした。
★★☆
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
体を壊す10大食品添加物 (幻冬舎新書) 渡辺雄二
著者は「買ってはいけない」「ヤマザキパンはなぜカビないか」などの著書がある食品や環境にテーマを置いたジャーナリストです。
その「買ってはいけない」は、スポンサーや広告主に配慮して物言えぬメディアに代わり言いたい放題で、様々な反響を呼び、その本に対する批判本なども多く出てきましたから、それらの著作が食品添加物などに一石を投じる効果は大いにあったようです。
帯の「がんになりたくなければ、これだけは食べるな!」は刺激的でオーバーかなと思いましたが、ついそれに誘われて購入して読んでみました。
多くの添加剤や防かび剤、抗菌剤、残留農薬などから発がん性があるとされたものやその疑いが濃いものを特定し、それらを食べるなと書いています。中には具体的な製品名なども書いてありますので結構衝撃的です。
但しこの本の発刊日は2013年ですので、その後改善されたりしている製品もあるかも知れませんので、製品名と言うよりは内容物をいちいち記憶しそれを確かめないとなりませんから、そのあたりは面倒くさいです。
さてタイトルに挙がっている危険な10大食品添加物というのは、
1)亜硫酸Na(漂白、酸化防止剤)・・・おにぎりの明太子、ハム入りサンドイッチ等
2)カラメル色素(メチルイミダゾール)・・・コンビニ弁当やラーメン、ジュースなど多数
3)合成甘味料(アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK)
4)パン生地改良剤・臭素酸カリウム・・・ヤマザキランチパック、食パン芳醇、超芳醇など
5)合成着色料・タール色素・・・真っ赤な福神漬けや紅ショウガ、菓子パン、ジュースなど
6)防かび剤・OPPとTBZ・・・輸入オレンジ、グレープフルーツ、レモンなど
7)殺菌料・次亜塩素酸ナトリウム・・・(一部の店舗で)刺身、魚介類、食肉等の殺菌
8)酸化防止剤・亜硫酸塩・・・ワイン、甘納豆、コンビニ弁当
9)合成保存料・安息酸Na・・・栄養ドリンク
10)合成甘味料・サッカリンNa・・・パックにぎり寿司、歯磨き粉
これだけ並べると、食べられるものがないじゃん!って思いますが、これらを摂取するのが常態化しなければ仕方がないでしょうと言う感じです。但し小さな子供や、妊婦さんは特に注意する必要がありそうです。
当然のことながら、コンビニやスーパーなどで手軽に安く買えるお弁当や加工食品、価格の安いお惣菜や安価で提供されるレストランでの肉や魚といったものにはそれなりの理由がありそうです。
もちろんこの本の内容については様々な異論や反論もありますから、闇雲に神経質になる必要はありませんが、これだけ化学物質が世の中に蔓延している中、業界利益の都合とか、外国の圧力で認められたような危険な添加物などもあり、それらだけでも注意をしていこうという姿勢は間違っていないのではないでしょうか。
一応、この著者の本に対する反論、討論本も紹介しておきます。
・「買ってはいけない」は買ってはいけない
・「買ってはいけない」大論争―ほめる人、けなす人
・「買ってはいけない」論争 解決篇
★★☆
【関連リンク】
11月前半の読書 ブラックボックス、老後に本当はいくら必要か、夢を売る男、ふくわらい
10月前半の読書 秘められた貌、ウルトラ・ダラー、創造力なき日本、海の見える街
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ブラックボックス (講談社文庫)(上)(下) マイクル・コナリー
2012年に米国で発刊され、翻訳版文庫は2017年に出た、翻訳版としてはハリー・ボッシュシリーズの第16作目の邦訳最新刊です。ちなみに米国では現在シリーズ20作目までが刊行済みです。
タイトルのブラックボックスとは、航空機に搭載されていて事故が起きた場合にその原因となる情報が詰まっているブラックボックに例え、事件の捜査で不明なことが一気に解明できるブラックボックスのような存在がどこかにあるということを示唆しています。
すでに定年延長契約期間に入っているハリー・ボッシュは未解決事件捜査担当のままで、今回は1992年に起きたロサンゼルス暴動の際、デンマークから取材に来ていた女性記者がLA管内で何者かに射殺されていた事件についてスポットをあてます。
1992年は「ナイトホークス」で、ハリー・ボッシュシリーズが始まった年でもあり、当時ボッシュはLA警察の殺人課刑事で、まだ暴動が冷めない中、治安維持のため派遣されていた州兵に守られて、女性記者が殺害された現場へ行き、最初に現場検証をおこなっていましたが、その後の捜査は別の刑事に移っていました。
1992年のロサンゼルス暴動は、黒人のロドニー・キングがスピード違反で捕まった際、白人警官に度を超す暴行がなされ、その行為がビデオに撮られ、何度も繰り返して放映されました。ところが法廷では暴行を加えた警官が無罪となり、黒人達が怒りの声を上げ、やがて焼き討ちや強盗、殺人などへと発展していきます。
数少ない20年前の事件の証拠や関係者をたどり、何十年かぶりに表に現れた拳銃から、やがては1990年の湾岸戦争にまでたどり着きます。そして殺されたデンマークの女性記者もその湾岸戦争を取材しています。
しかし警察署の中では、白人女性の未解決事件だけが重点的に捜査されているという噂が出ては困ると配慮があり、それを捜査するボッシュに圧力がかかります。
その他、多感な年頃の娘や、恋人と強姦罪で刑務所にいるその恋人の息子など、プライベートな諸々も絡み合いながら、60過ぎのボッシュが精力的に動き回り、最後には死の一歩手前まで追い詰められていきます。
それだけにわかりやすい勧善懲悪ドラマですが、アメリカの暗部をこれでもかと引きずり出すスタイルはアメリカ人にとってはあまり心地よいものではないだろうなと心配してしまいます。
★★☆
◇著者別読書感想(マイクル・コナリー)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
老後に本当はいくら必要か (祥伝社新書192) 津田倫男
著者は私と同年代の方で国立大学を卒業後にアメリカの大学でMBAを取得し、外資系企業を渡り歩き、その後独立して企業アドバイザーというよくわからない意味不明な仕事をされている方で、「意識高い系」の先駆者とも言える方です。
この著書は2009年に書かれたもので、ちょうど民主党政権が与党となって、世の中これから大きく変わるぞーと意味もなく、リーマンショックが世界を飲み込もうとしている中、すがるような思いで新政権に期待をしていた時代です。
なので社会保障や医療制度、雇用環境など当時から変わった話しなどもありますが、言わんとすることは今でも十分い通用するノウハウが書かれていて参考になります。
特に、ファイナンシャルや証券について、プロフェッショナルな会社員が勧めるものには素人は食いつかないことや、ハイリスク・ハイリターンではなく、ハイリスク・ローリターンな投資案件なども実際にあるということを、わかりやすく説明し書かれています。
つまり、通常のサラリーマンなら、現在なら63~65歳から年金が支給されるので、定年退職後からそれまで間食いつなげるだけのものがあれば、まずなんとかなるものだと。
次に夫婦で、平均寿命を考えて、年金だけでは不足する分をできるだけ早くから貯金するか、年収から考えて生活レベルを落とすか、あるいは持ち家があるならそれを担保にして借金をするなど、方法はいくらでもあると。
勧められるがまま、下手に投資をして、せっかくの貯金や退職金を減らしてしまわないよう、どういった投資がいいか、分散方法としてどういうのがいいかなど。
いつまでもお金のことで老後を不安がっても仕方ないぞ。せっかくだからお金のことは忘れて楽しい老後を送ろうといったところが著者の言いたいところでしょうか。
今の高齢者が老後の不安を感じるのは、いつ年金が減らされたり、医療費負担が増やされたり、消費税が拡大されたりするか?というのがまったく未知数で、真っ暗でしかも霧深い険しい道を手すりも道しるべもなく歩かされているようなものだからです。
政治家や学者が「年金財政破綻」「年代格差」「医療費の急増」などと高齢者をおびえさせる話しをしている限り、高齢者のタンス預金からお金が出てくることはなく、せいぜいオレオレ詐欺業界を潤すだけでしょう。
ま、この問題は、一言、いや1冊の新書ぐらいでは結論が出るわけもなく、毎年のようにこのテーマで新しい新書が出てきていますね。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
夢を売る男 (幻冬舎文庫) 百田尚樹
2013年に単行本、2015年に文庫化された長編小説で、出版業界と自分の作品を出版したいと思う人達を皮肉ったブラックコメディ小説です。
なにかと作品以外で話題が多い著者ですが、そのせいで、読む前から毛嫌いされてしまうリスクがあり、お互いに不幸なことです。
それにしても出版業界というのは再販制度や取次店制度などに守られていて、なかなか一般人にとっては馴染みが薄く理解しがたい業界ですが、そうし
出版業界は出版不況のまっただ中で、現在は過去の資産を食い潰していく事態に陥っていますが、確かに今の若者にはお金を出して本を買い、苦労しながら面倒な文字を追わなくても、テレビもあればネットもあり、いつでもどこでもスマホさえあればみたいものが見られ、動画であろうと調べ物であろうとなんだってできてしまいます。
そりゃ、若者が読書離れしても不思議ではありません。
それに今まで熱心な読者層を占めていた団塊世代以上の人達は、老いて年々その数は少なくなっていき、また仕事からも離れ、通勤中や出張中に本を読む機会も減っていきますから、新しい読者が増えない限り書籍の売り上げは下がり続けます。
一方ではこれほど出版不況の中でも、自分が書いた作品を世に問いたいとか、人に著書があることを自慢したいと願う人も後を絶たず、それらをうまく結びつけてみなハッピーになろう!というのが、この小説の主人公です。
主人公は元名門出版社で数多くの名作や著名作家の作品を世に出してきましたが、年々下降していく書籍売上に早く見切りを付けて、それまでの経験を生かし、口八丁手八丁で自分でお金を出してでも出版したいと思う人達に、その夢を売っていきます。このお手並みが見事言うか面白い。
新聞を読んでいると「自費出版」の広告がよく出ていますが、この小説では、おとりの「新人文学賞」に応募があった中から、無料で作品が出版される大賞に選ばれなかった人達に対して、出版社と折半で出版しないかと持ちかけるわけですが、実は出版にかかる経費は個人が負担する金額の何分の一で済ませるという一見すると阿漕な商売です。
相手の懐次第で、100万円~200万円を支払ってもらい(原価は30~40万円)、1千部を刷り、そのうちの何冊かはちゃんと書店に配本して、著者に対して「もしかするとベストセラーになって増刷に次ぐ増刷になるかも~」という夢を与える商売と考えると、確かにそれもアリかなと。
そうした出版社が生き残りを賭けた様々な仕掛けをこれからもやってくるぞという、業界内幕暴露小説でした。
★★☆
◇著者別読書感想(百田尚樹)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ふくわらい (朝日文庫) 西加奈子
2012年に単行本、2015年に文庫化されたなんとも不思議な小説です。
主人公は冒険作家でほとんど家にはいなかった父親と家政婦に育てられた女性で、早くに母親を亡くし、父親も一緒に旅をしていた南米でワニに襲われて亡くなり、親戚の家で育てられましたが、現在は出版社の作家担当として勤務し、自立した生活を送っています。
主人公は小さな頃から無表情、無感動な子供でしたが、ふくわらいで初めて大笑いし、その後もふくわらいの遊びを続けるようになります。
会話の中でゲシュタルト崩壊という言葉がよく出てきますが、ひとつの全体のまとまりに集中すると、それぞれのパーツひとつひとつが不思議と理解できなくなる現象のこと言いますが、ふくわらいにおいても、人の顔の全体がまずあって、その顔のパーツそれぞれが単独で動いてしまうとそのパーツが意味不明になってしまうという暗喩が秘められているように思います。
著者の小説は「通天閣」と「きいろいゾウ」と荒削りな初期の作品を読んでいましたが、16作目となるこの作品はいよいよ売れっ子作家として、また余裕が出てきたというかベテランの域に入りつつある作品で、とてもよいデキです。
そしてこの作品の2年後、2014年には「サラバ!」で、2回目のノミネートながら見事、直木賞を受賞しますので、その創作力、文章力はここ数年で格段にその才能が伸びてきているのでしょう。
★★★
◇著者別読書感想(西加奈子)
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10月後半の読書 黒書院の六兵衛、夢をかなえるゾウ、深川黄表紙掛取り帖、悪意のクイーン
10月前半の読書 秘められた貌、ウルトラ・ダラー、創造力なき日本、海の見える街
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黒書院の六兵衛 (文春文庫)(上)(下) 浅田次郎
2012年頃、日本経済新聞に連載されていて、その後2013年に単行本、2017年に文庫化された時代劇長編小説です。
あらすじは、江戸幕府が終わり、新しい明治政府に江戸城を引き渡す段になったところ、どうしても江戸城から動かない武士がいて、なんとか円満に新政府に引き渡したい勝海舟など旧幕臣と、けしからんという新政府側でもめます。
その問題となった人物は不可解で、金で旗本の地位を買ったとされる一方、勤務はいたって真面目で堕落し腐りきっていた江戸末期の多くの武士達とは違うなにか本物の武士の魂をもっています。
そうした一本筋が通った謎多きラストサムライと、江戸から東京へと移り変わる混乱した世相を面白おかしく仕立てたもので、実際に活躍した歴史の人物が多く登場して楽しめます。
但し、江戸城の中や、しきたりなど、なかなか頭の中でイメージがしにくく、読んでいてもあまりワクワク感がなく、退屈この上なく、途中で断念しそうになりました。著者の作品はいつも一気に読み進められるのに、これは珍しいパターンです。
新聞連載小説と言うことで、一気に読むのではなく、かみしめながらじっくりと何ヶ月もかけて読むとまた違うのかも知れませんが、この作品はお得意の泣かせの場面もなく、ちょっと著者の作品らしくないなって感じです。
★☆☆
◇著者別読書感想(浅田次郎)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
夢をかなえるゾウ 水野敬也
200万部を超えるベストセラーになった著者の三作目の小説というか、ライトノベルというか、人生の指南書というか、ビジネス本というか、よくわからないジャンルの本で、2007年に発刊されています。
またこの作品を原作として小栗旬主演でテレビドラマや、アニメ化(声優に草なぎ剛や笑福亭鶴瓶)もされていますので、知っている人は多いのではないでしょうか?
ヒットすると続編が出てくるのは世の常で、2012年に「夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神」、2014年に「夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え」が刊行されています。
内容は、しがないサラリーマンの若い独身男性がインド旅行に行った時、買ってきた置物(ガネーシャというヒンドゥー教の神)に乗り移った神様とのやりとりがメインで、「お金持ちになりたい」「今までとは違う自分になりたい」という男性の願いをかなえるため、なぜか関西弁あれこれ指示を出していきます。
その指示を正当化するため、過去の偉人や成功者、大金持ちの言葉や行動様式を引用することが多く、その点はいかにも軽い新書のノリがあります。
ま、そういう意味では、新書やビジネス書によくありそうな「こうすれば年収3000万円!」とか「あなたの人生が劇的に変わる!」とか「金持ち父さん、貧乏父さん」という本と変わりなさそうですが、それがアニメを見ているように二人のコミカルなやりとりを通じて面白くすっと入ってくるような感じで書かれているのが特徴的です。
読みやすい本で読書慣れしている人なら1~2日で軽く読み終えてしまうでしょうけど、活字離れした若い人にはアニメや映像、そしてオーディオブックまで準備されているので、それなりに幅広い需要があるのだと思われます。
でも結局は読んだだけでは、金持ちにもなれないし、自分も変われません。成功するには継続と行動力であることをもっと伝えるべきでしょうけど、なにかを50年間継続したからといって、自分が思い描く結果になるわけでもなく、結局は面倒なことでもなんでも進んでやる、その人のやる気次第なのかな。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫) 山本一力
2002年に単行本、2005年に文庫化された著者お得意の江戸時代の庶民を描く時代劇小説の連作短編集です。
江戸の裏社会で恨みを晴らすため暗殺を手掛ける必殺シリーズはバイオレンス時代劇ですが、こちらも裏家業には違いないですが、殺しなどは一切なく、アイデアと知恵で阿漕な金持ちを懲らしめたり、困っている商売人を救う手立てを考えたりする温厚な裏家業集団です。
その主役を張るのは、それぞれに商売をしている4人の若者で、うち一人は男装の女性というちょっと魅力的なメンバーです。
時は生類憐れみの令が出された頃ですので、第5代将軍徳川綱吉の貞享から元禄時代と言ったところです。
この著者の描く江戸庶民の図は、直木賞に輝いた「あかね空」など、まるで実際に見てきたかのように生き生きと細かく描写されています。
緻密な時代考証をおこなえば、違っている点などもあるのでしょうけど、そうした細かなことを言わなければ今から320年前にタイムスリップができて楽しめます。
★★☆
◇著者別読書感想(山本一力)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
悪意のクイーン (徳間文庫) 井上 剛
京大卒で二足のわらじを履き、主としてSF小説を発表してきた作家さんで、2014年に発刊されたこの4作目の小説はSFではなく、いわゆる後味の悪い女性同士の憎しみのミステリー小説です。
ママ友の輪の中で、ひとり浮いてしまっている恵まれた環境にいる若妻が主人公です。この若妻とは別で、ランクのが高い女学校の中学生ももうひとりの主人公です。
このふたりの女性の人生が狂い始め、憎しみや絶望が沸き起こり、そして最後にはもう一名の女性が加わって複雑に絡み合っていくという流れです。
ま、女性の恨み辛み、極度の憎しみを男性が描くとこういう事になるのでしょうけど、それにしてもやりすぎって思います。
正直にこれを読んで共感できたり、面白かったという人はほとんどいないでしょう。
ストーリー的にも同時に二つ(二人)の話しが同時に進行する、ありふれたパターンで、特に秀逸と思えるところがありません。
自殺や、飲酒運転による交通事故死、不登校、家庭崩壊、子育てヒステリー、売春、殺人とミステリー小説では定番とも言えるこれらを散らばめただけという感じもします。
才能ある作家さんなのでしょうから、もっと深いものを期待したいところです。
★☆☆
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1166
秘められた貌 (ジェッシイ・ストーン・シリーズ) ロバート・B・パーカー
2007年刊の「High Profile」の翻訳版(翻訳版文庫は2010年刊)で、警察署長ジェッシイ・ストーンシリーズ6作目です。別のシリーズの主人公で女性私立探偵サニー・ランドルも主人公ジェッシイのガールフレンドとして登場しています。
パーカー言えばやはりボストンの私立探偵スペンサーシリーズが有名で私も大好きですが、1997年から始まったこのジェッシイ・ストーンシリーズもスペンサーにはない面白さがあって楽しめます。
探偵と警察署長という違いこそあれ、そのキャラクターは似通っています。
スペンサーシリーズをすべて読み終えた後、その余韻が冷めた頃を見計らって、このシリーズを読むとパーカー独特の言い回しや絶妙な会話がよみがえってくること請負です。
ストーリーは、ジェッシイが警察署長を勤めるマサチューセッツ州の架空の街パラダイスで、テレビやラジオで活躍している毒舌の人気司会者が殺され、公園の木に吊り下げられているのが発見されます。
それと同時に司会者のアシスタントで、愛人の女性も同じ銃で殺害されているのが発見され、マスコミの注目を浴びる中、小さな街の警察署長の主人公は、自ら部下とともに犯人探しに奔走します。
その捜査手法が、私立探偵スペンサーとも共通していて、関係者と順番に会って質問し、なにかが動き出すのをジッと待ちます。
最近のミステリー小説のような変に凝った「驚愕のラスト!」とかはありませんが、「なぜ?」という疑問を解き明かしていく丁寧な捜査が好感を呼びます。
スペンサーシリーズでもお馴染みのマサチューセッツ州警察殺人課のヒーリー警部もサポート役として登場したりして、スペンサーシリーズを懐かしがるには最適です。
★★☆
◇著者別読書感想(ロバート・B・パーカー)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ウルトラ・ダラー (新潮文庫) 手嶋龍一
元NHK記者で外交ジャーナリストとしてテレビにもちょくちょく登場している著者の2006年(文庫は2007年)刊の国際インテリジェンス(諜報活動)小説です。
いま2017年は北朝鮮の核実験と長距離ロケットの話題が世界中を揺るがしていますが、その根っことなった2000年前半の北朝鮮の核開発やミサイル技術の導入に関し、その資金調達に偽アメリカドル札の大量発行があったことをテーマとしています。
印刷技術者の拉致、偽札検査機のメーカーへの謀略、外交官との癒着、高額紙幣に刷り込まれるマイクロチップ技術の流出など、その手口や国を挙げての陰謀を現実に起きた事件ともリンクさせながらうまく小説に仕立てています。
主人公は日本語が達者で日本文化にも精通している英国BBCの日本駐在員、その駐在員と英国の大学で同級生だったアメリカの財務省シークレットサービス要員。
BBC記者は駐在員という肩書きと、もうひとつ英国情報部の顔を持っていますし、シークレットサービスは大統領警護で有名ですが、実は世界中に出現する偽札ハンターとしての役割も担っています。
現在の北朝鮮が核兵器を保有し、2500km以上飛ばせるロケットをロシアやウクライナの協力により保有するに至ったのは、こうした2000年代前半からの下準備があってのことで、ここ数年だけで成し遂げたわけではないでしょう。
そういうことから、この小説は、現在2017年のことをすでに予見していたノンフィクションに近い小説なのかもしれません。
ただ、小説の中で、偽札検知機器メーカーの社員が、世界中で偽札を集めて持ち帰り、それを実験用として使っているという話しが出てきますが、それはにわかには信じられません。
ほとんどの国では偽札と知って保有しているだけで、例えテスト用だと言い訳をしても必ず実刑をともなう重罪となり、そのようなリスクを冒すのは馬鹿げています。
日本の場合、偽造通貨・変造通貨の行使罪(刑法第148条第2項)は、無期又は3年以上の懲役で、殺人(傷害致死)と同等の重罪です。普通そこまでの犯罪を犯してまで会社に尽くせません。
通常偽札の検査機器をチェックする場合、確か、ベンチマークテストの場が、国の公認でおこなわれていて、そこで過去に発見された偽札の反応テストなどが行えるようになっているはずです。
私が香港に少し滞在していたとき、友人がたまたま手に入れたという偽札の100ドル紙幣を見せてくれましたが、手触りも印刷も本物と並べて見比べても素人の目にはまったく違いがわからず、そんなの万が一持っているのを見つかったら、それこそ何年も外国の刑務所に収監される可能性があり、ジョークのつもりでも持ちたいとは思いませんでした。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 (角川oneテーマ21) 村上隆
現代美術、ポップアーティストの地位をゆるぎなきものとしている著者の2012年の新書です。
一方では芸術家と相容れそうもないビジネスマンでもあって、そういう意味では前例のない新しいエンタテナーなのかも知れません。
芸術家とビジネスマンが相容れないと書きましたが、そう思っているのは一部の偏見ある人だけかも知れません。
ほとんど多くの芸術家はそれで飯を食うため、当然のことながら営業活動もすればスポンサーの意見や要望に譲歩することもあります。
ただそうしたことを芸術や美術学校では学生には教えない風習があって、著者は有名美大出身の社会経験もない芸術家気取りの若者が、多少作品が評価されただけで「オレは芸術家だ」と、まるで大物と勘違いしている人が増えてきていることを嘆いているというのがわかります。
さらに、著者は自分が批判の的になっていて多くの人から嫌われていることもよく理解していて、それでも自分の考えを通していく一本の筋が通った主張を述べているのは好感が持てそうです。
こういう創作の世界にいると、しかも突出していればいるほどに周囲からの妬みやひがみ、いいとこ取りだという非難なども多いでしょうし、私もニュースなどで訳のわからない醜悪なフィギュアに何億円という値段がついたとかの話しを聞いても「へぇ、こんな日本人がいるのか?」って思うぐらいで、その作者については芸術性の全くない平々凡々な人生をおくってきた身としては「なにかよくわからん」というのが実際のところでした。
一般的に新書というジャンルは、その著者や著者が関わる企業などのPR誌という趣向が強くあり、著者にしてみても、「プロフィールに著作物があると書ける自己満足とPR性」「初版本の大半を自分や会社が買い取り、名刺代わりにビジネスで会社案内代わりに使える」など多くのメリットがあります。
新書に対してはそうした多少ゆがんだ見方を持っていますが、この本もその例外とは言えず、著者も自分が設立した会社を10数回は登場させて盛んにPRしています。そのあたりもさすがにビジネスで成功を収めているアーチストなんだなということが理解できます。
内容自体は、美大や芸大などに通っている芸術家志望の若者に対して、「日本の芸術家業界で生き残る法」というような話しで、これが意外に知られていないことが多く、芸術とはまったく関係が薄い人間(私)が読んでも面白かったです。
★★☆
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海の見える街 (講談社文庫) 畑野智美
2010年に「国道沿いのファミレス」でデビューした作家さんで、若い人の青春恋愛小説を得意としている感じで、この本も若くはないけど20代~30代の男女4人の仕事と恋愛と趣味がうまくバランス良く絡み合った、短編連作の恋愛小説と言えます。
「海の見える街」というと宮崎駿の大ヒットアニメ「魔女の宅急便」に登場する北欧の某都市をイメージする人が多いのですが、こちらはいたってドメスチックな青春物語です。
その短編には「マメルリハ」、「ハナビ」、「金魚すくい」、「肉食うさぎ」の4編が収録されていて、それぞれ4人の登場人物が主人公となって順番に話が進行していきます。
4人が働いているのは市の図書館と併設されている児童館。
30代半ばになっても彼女もいない独身でいる男性二人と、20代半ばのオタク系女子と職員の産休中に派遣でやってきた同年代の訳あり元ヤンキー女子。
この4人がそれぞれに抱えている問題や感情を出していき、複雑に絡み合っていくところをうまくひとつのストーリーにまとめているなって感じです。
また1話ではマメルリハという種類のインコや、2話ではミシシッピアカミミガメ、3話では琉金、4話ではウサギなど、ペットとセットになっているのは落ち着きが良すぎます。
ただ世の中はこれほどまでにのんびりもしていないし、4人だけの世界で閉じていることもまずなく、現実をほどよく知っている中年男性にとっては、なんだかこそばかゆく、また現実感のなさにちょっと反感も覚えたり。
★★☆
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象の墓場 (光文社文庫) 楡 周平
2013年に単行本、2016年に文庫化された現実に起きたデジタル革命によって象に見立てた巨大外資系企業の没落を描いた経済長編小説です。
1990年頃まではアメリカの超優良企業だったイーストマン・コダック社は、世界の写真フィルムや現像液、印画紙などで圧倒的な世界シェアを持ち、1ドルの売上で80セントの利益が得られたという高収益企業で、長く我が世の春を謳歌していました。
しかし1990年代に入り、写真の世界にデジタルの波がヒタヒタと忍び寄ってきて、従来の安定したビジネスモデルが壊されていくことになります。
当時、世界の写真フィルムメーカーは、圧倒的に強いコダックと、新参者の富士写真フイルム(現、富士フイルム)、ドイツのアグフア・ゲバルト社、小西六写真工業(現、コニカミノルタ)などがありましたが、日本以外の国ではコダック社が圧倒的なシェアを持つ巨象に例えられていました。
その巨象コダックがデジタルカメラ時代に乗り遅れ、経営判断の誤りもあって、2012年には上場廃止、2013年には倒産危機を迎えることになります。
デジタルカメラ時代に乗り遅れたと書きましたが、実は世界で最初にデジタルカメラを完成させたのはコダック社です。
しかしチェーン化していたフィルム現像所などパートナーとの関係から、フィルムも現像も不要なデジカメを普及させるのに抵抗があり、モタモタしているあいだに日本の家電メーカーやカメラメーカーからデジカメが次々と登場し、一気にフィルム市場を奪われていくことになります。
この小説では外資系企業日本法人の会社員が主人公で、まさかこの巨大企業が傾いていくなど夢にも思わず、その激しい逆流の中で必死に戦っていく姿を描いています。
コダックの社員というので思い出したのは、親しい知人がバブルの頃、投資用でファミリー向けのマンションを5千万円で購入し、まだ入居者が決まっていない時に、良かったら賃貸として借りないかと言われて一緒に物件を見に行ったことがあります。
しかしまだ結婚してまもなくの頃で、ファミリー向けの広いマンションを借りるには、家賃を大幅にまけてもらっても当時の収入ではとても厳しく、すぐに断りました。
その後、当時は優良企業だったコダックの社員に貸し出せたので安心だと聞いて、喜んでいたのもつかの間、その後1年も経たないうちにコダックの様子がおかしくなりました。
おそらく突然リストラをされたのか、その借主は何ヶ月分かの家賃を踏み倒したまま夜逃げ同然で行方不明となり、残された部屋には大物の家具等は持ち出され、粗大ゴミだけがそのまま散乱していたという悲惨な状態だったとか。コダックの社員にとってはそれほど寝耳に水の急な業績悪化とリストラだったのでしょうね。
なかなか読み応えのある、外資系ビジネスマンには身につまされるような話しも多く、面白く読めました。
★★☆
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ナイト&シャドウ (講談社文庫) 柳 広司
2014年単行本、2015年に文庫化された長編小説で、主人公は日本人の警察官ながら、舞台はワシントンD.C.という珍しいパターンです。
著者の出世作で代表作となった「ジョーカー・ゲーム」(2008年)のシリーズは、昭和初期の帝国陸軍のスパイ養成機関が舞台で、そこでは徹底した記憶力と卓越した推理と創造力を鍛えられます。
そうした特殊なスパイと能力的に共通するのがアメリカ財務省管轄の要人警護組織であるシークレット・サービスで、科学的な捜査とともに、身を犠牲にして要人を守り抜く強靱な身体と、犯行を未然に防ぐための予知能力、そして非常事態発生時の対応などが求められます。
そのシークレット・サービスへ警視庁から厄介払いとして研修に出されてD.C.へやってきたのが主人公で、現役のシークレット・サービスとともに、大統領を狙うテロ犯グループと知恵比べをするというストーリーです。
ちょっと主人公にできすぎた感はあるものの、最後のどんでん返しも見事で、単なるハッピーエンドで終わらないところが秀逸と言って良いでしょう。
★★☆
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美しい家 (講談社文庫) 新野剛志
「八月のマルクス」(1999年)、「あぽやん」(2008年)など、毛色の違う多くのヒット作を持っている著者の2013年刊(文庫版は2017年)の長編社会ミステリー小説です。
主人公は二人で、その二人の視点で物語が同時並行して進められていきます。
一人目は最近は新作が書けないでいる小説家で、子供の頃に姉が何者かに拉致されて行方不明となってしまった過去を引きずっている男性と、もう一人は刑務所から出たばかりの暗い過去を持つ若い男性です。
と思っていたら、終盤近くでそのうちの一人、作家がもう一人の主人公男性にあっけなく殺されてしまいます。ネタバレ失礼。
行く当てのない家族を引き受けて、集団で生活をするというのは古くは1980年頃に起きた「イエスの方舟事件」や、2012年には「尼崎事件」というのもありましたが、そうしたところで育てられた子供達が、成長して大きくなってからも過去を引きずっていく様子がよく描かれています。
タイトルは転々と住まいを変える集団生活において、そこで生まれ育った子供達が、幼いときのイメージの中に生じさせる理想的な住まいを揶揄したものと思われます。
★★☆
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お別れの音 (文春文庫) 青山七恵
著者は2007年に「ひとり日和」で芥川賞受賞、2009年には短編「かけら」で川端康成文学賞を受賞した若手作家のホープのひとりで、2010年(文庫は2013年)刊の短編小説です。この作家さんの小説を読むのは今回が初めてです。
短編は、「新しいビルディング」「お上手」「ニカウさんの近況」「うちの娘」「役立たず」「ファビアンの家の思い出」の6編で、それぞれ「別れ」がテーマとなっていますが、関連はなく独立した話しです。
割とそれぞれが平坦な日常の光景を淡々と描いたもので、特にインパクトを感じる隙間もないのですが、その6編の中でかろうじて印象に残った作品はというと、街中でよく見かける靴の修理やキーの複製などをしてくれるワンオペのお店の男性に興味を持ってしまう女性を描いた「お上手」と、大学を卒業前の最後の夏休みに、英国へ留学している友人に誘われてスイスへ旅行する学生の一夏の体験とその後を描いた「ファビアンの家の思い出」ぐらいでしょうか。
小説というと非日常のあり得そうもない凶悪な事件や死に至る病気など、刺激的な話しが多い中、こうした薄味で淡々とした別に誰かが死ぬわけでもなく、家族が引き裂かれるわけでもなく、悪意がみなぎるわけでもない平凡な人の平凡な日常が逆に新鮮に思える時代になってきたのかも知れません。
そう、起承転結なんかくそ食らえ!って感じで、いつ終わったのかもわからないような。
私の年代(弱肉強食が普通に通用した年代)だと、どうにもまどろっこしく感じたり、物足りなく感じるでしょうけど、若い人、特に女性や草食系と言われる男子には、心穏やかに共感が得られそうな気がします。
ただ短編作品に関しては私の評価は厳しくて★1つです。
★☆☆
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偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方 (講談社+α新書) 坂上忍
主としてテレビバラエティ番組のMCで活躍している著者の2014年刊のエッセイ本です。芸能人がよく出すゴーストが書いた当たり障りのない自慢話かと怖々読んでみたところ、なかなか毒舌を持ち味としたキャラを生かした人生の深い話が聞けます。
実は私自身がテレビのバラエティ番組はまず見ないので、この人のことはほとんど知らず、たまにワイドショーのMCやコメンテターで言いたい放題に話しをしているところをちょっとだけ見て、顔ぐらいは知っているというレベルです。
バラエティ番組のMCをする人はたいてい元アナウンサーとか、しゃべりが商売のコメディアンが多いのですが、この著者は元人気子役で、大人になってからも子役のしがらみを振り払い、俳優を続けているという割と珍しい人です。ってほとんどの人が私よりもよく知っているでしょうからあらためて説明する必要はないでしょう。
この著者の面白いところは、俳優ならば大手芸能事務所に所属して付き人やマネージャーをつけて自分は演技以外の仕事はしないというのが普通でしょうけど、著者は子役時代に個人事務所を設立し、その後も群れずに一人で芸能活動をやっていくことを善としています。
そうした「鶏口となるも牛後となるなかれ」主義は著者の数々の毒舌と称される発言にも影響していて、本人はいたって普通にしゃべったことが、芸能業界の中ではちょっと異例のことだったり、空気を読まないと非難されたりということのようです。
若者に対し「スマホなんかいじってないで、おっぱいをいじろう」みたいなエロオヤジ全開モードのところもありますが、この人も正直すぎて時代の趨勢には乗っかれない人なんだろうなぁと思ってしまいます。
いえ、それが間違っているというのではなく、誰でも年を重ねていくと、そういう上から目線で自己中気味の説教臭くなるってことで、この異端児?も同じ中年なんだなぁって嬉しく思う次第です。
★★☆
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