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しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF) グレッグ・イーガン

著者はオーストラリア出身の物理学を学んだSF作家さんで、やはり理科系の坂村建氏の解説でも書いてありましたが、文系の人にはよくわからない話しがバンバンでてきて、しかも文系にも理解してもらおうと丁寧な説明などは一切ない小説短編集です。

「適切な愛」「闇の中へ」「愛撫」「道徳的ウイルス学者」「移相夢」「チェルノブイリの聖母」「ボーダー・ガード」「血をわけた姉妹」「しあわせの理由」の9話からなります。

読後には、あの話しってどの短編だっけ?と、文系の私にはそんなあやふやなままです。

ただのSFではなく、哲学的SF小説(坂村建氏解説)ということで、未来科学と哲学と両方を理解しなければ十分に楽しめないというのは、なかなか難易度が高いです。

理数系も哲学も得意じゃない私としては、実はそれなりには面白かったです。意外な感じ。でもそれが正しい(著者が意図した)理解と楽しみであったかは神のみぞ知るです。

理解出来た(それなりに面白く読めた)短編は、脳内の記憶をコンピュータに移し替えることで生き続けることができる「移相夢」、古いイコンを巡って殺人事件が起きる「チェルノブイリの聖母」、子供の頃に死ぬときも一緒と話し合った一卵性双子の姉妹が離れた場所で遺伝子に関係する新型ウイルスに罹る「「血をわけた姉妹」、そして表題にもなっている脳内ドーパミンや新たな脳内手術法が出てくる「しあわせの理由」。

こうしたSFを読むときは、例えサッパリわからない時でもイライラせずに、淡々と読むに限ります。そのうちボンヤリとでもわかってくるものです。サッパリわからない時もありますけど。

★★☆

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向田理髪店 (光文社文庫) 奥田英朗

小説宝石に2013年~2015年連載され、2016年に単行本、2018年に文庫化された連作短編小説です。

好きな作家さんで、1999年の実質デビュー作「最悪」以来、ほとんどの作品を読んでいます。

最近は「我が家のヒミツ」「我が家の問題」などの「平成の家族小説シリーズ」をチマチマと読んでいます。感想の評価はあまり高くないですが。

2019年11月後半の読書(我が家のヒミツ)
2019年7月後半の読書(我が家の問題)

この作品は「向田理髪店」「祭りのあと」「中国からの花嫁」「小さなスナック」「赤い雪」「逃亡者」の6編からなり、主人公はいずれも北海道の夕張をイメージできる、財政破綻したひなびた元炭鉱都市にある、理髪店の50代店主です。

店主の息子は都会へ出て働いていましたが、実家へ帰ってきて理髪店の跡を継ごうとしますが、父親の店主はこんなところで店をやっていても将来性はないと乗り気でありません。

そうした疲弊した地方都市での騒動がテーマとなりますが、これがまた「若者は大都市へ出て行き高齢者だらけで活気のない町」「跡取り息子の嫁のきてがなく中国の地方から」「出戻りで故郷に帰ってスナックを始めた色気たっぷりなママさん」「映画ロケに町中あげての応援とエキストラ出演」など、誰でもがすぐにこれといった産業がないくたびれた地方都市をイメージする内容で、ちょっとガッカリ。

短編で直木賞を受賞した「伊良部シリーズ」や、長編だけど「サウスバウンド」「オリンピックの身代金」のようなキレのある小説はもう出てこないのかな、、、

ちょっと期待していただけに、残念ながら最近読む著者の作品は私にとってはあまり向かない感じです。

★☆☆

著者別読書感想(奥田英朗)

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邂逅の森 (文春文庫) 熊谷達也

私と同年代の著者が2004年に直木賞を受賞した作品で、一般には馴染みがなく、近代化で消えつつあるマタギと呼ばれる山の狩猟民を描いた小説です。

マタギとヒグマが登場した小説としては、過去に吉村昭著で実話の巨大な羆が村を襲った1915年(大正4年)の三毛別羆事件を題材にした「羆嵐」を読みました。

2015年10月前半の読書と感想、書評(羆嵐)

こちら(邂逅の森)の小説は、時代は大正末期から昭和初期の頃の話しで、世界を見ると、第一次世界大戦や、日露戦争、満州事変ぐらいの時代背景です。

小説の舞台は山形から秋田周辺の山深い里が中心で、マタギの父親から当然のように跡を継いだ少年が、様々な経験と苦難を乗り越えていく半生です。

夜這いをかけた村の実力者の娘とのあいだに子ができてしまい、実家を追い出され、マタギの仕事を失い、炭坑で働くようになりますが、やがてマタギの血が騒いで、熟練工となった炭坑夫の仕事を捨てて、再びマタギの世界へ足を踏み入れます。

医薬品として高く売れるヒグマの胆嚢を富山の薬売りに騙されて持ち逃げされたり、閉鎖的な村に住まわせてもらう条件として、女郎として売られたあとに、村に戻ってきていた女性を嫁にすることになったりします。

そして、会うこともかなわなかった、若いときの過ちで生まれた息子との出会い、その母親と息子に課せられた過酷な生活、最後に、マタギをやめるかどうか迷いつつ、ツキノワグマとの壮絶な闘い(クライマックス)と続きます。

いやー、とっても面白かった。読み進めると同時に、その場面場面の映像がリアルに思い浮かぶ内容で、もし映画になれば絶対に見たいと思います。

★★★

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血の収穫【新訳版】 (創元推理文庫) ダシール・ハメット

原題は「RED HARVEST」で初出は1929年の作品です。その後多くの出版社から翻訳版が出版されましたが、今回購入したのは2019年刊の東京創元社版で翻訳者はローレンス・ブロック作品などの翻訳で馴染みのある田口俊樹氏で、この作品では8人目の翻訳者(解説より)とのことです。

ハードボイルド小説でレジェンド的な著者ですが、この作品が長編としては記念すべき最初の作品です。この作品の内容をモチーフとした映画や小説がその後数多く作られていますが、その中のひとつに黒澤監督の映画「用心棒」があります。

そのモチーフとは、ある問題を抱えている町(村)に第三者がやってきて、その町を牛耳っている悪人達の中に入り込み、悪人同士が殺し合いをするように仕向けていくという流れです。

著者の作品では、かなり昔に代表作「マルタの鷹」を読んでいますが、その後あまり食指が動かずこの作品で2作目です。映画「マルタの鷹」はハンフリー・ボガートが主演し世界中でヒットして有名になりました。

主人公は、著者が勤務していたこともあるアメリカの大手探偵事務所ピンカートン探偵社の私立探偵で、依頼があり町へやってきます。

しかしその依頼主である新聞社CEOが、直前に殺されてしまい、依頼主の父親で、町の大物の実業家へ会いに行くと、この町に巣くう悪人達を一掃して欲しいと新たな仕事を依頼されます。

そこで、上記にも書いたように、警察官を含む悪人同士を対立させ、抗争を起こさせるように仕向けていきます。

今から90年も前に書かれた小説ながら、翻訳者の努力もあってか、古さはほとんど感じず、現代の小説と言っても通用しそうな話となっています。まったく素晴らしい。

またタフな私立探偵が自ら語っていくという一人称スタイルを取り入れ、ハードボイルド小説のひとつの形式を確立した記念碑的な作品です。いや~面白かったです。

★★★

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