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北帰行 (角川文庫) 佐々木譲
「廃墟に乞う」(2009年)で直木賞を受賞したその翌年2010年にこの小説の単行本を発刊、2012年に文庫化された長編小説です。ジャンルはお得意の警察ものや歴史ものではなく、現代のハードボイルド作品です。
主人公は旅行会社から独立をして、たったひとりで旅行代理店や海外からの旅行者のアテンドをやっている男性で、ロシアから来た女性のアテンドをしたために、大きな事件に巻き込まれてしまいます。
そのアテンドをした旅行客は、数週間前にヤクザに殺された出稼ぎにきていた女性の姉で、殺された妹の復讐のためロシアンマフィアから送り込まれた殺し屋という設定です。ちょっと「007ロシアから愛を込めて」を思い出してしまいます。
実際的にはどうも現実感がなく、さらにこの主人公は自分が運転手となってアテンドをした女性が、自分の目の前でヤクザの組事務所を襲った後も、逃走に手を貸し、その際に怪我をしたロシア女性に哀れみの感情さえ持ってしまいます。したがって警察に通報することもせず、ヤクザからの追跡から逃げ回る結果となり、飛躍しすぎていて、とうてい考えられないアホなことを始めます。わずかばかりのアテンド費用で命張ってどうするよ。
その結果、警察からもヤクザを殺した女の共犯者として追われ、偶然顔見知りだったヤクザからは脅され、実家の家族にまで被害が及ぶことになります。いくらハードボイルドでも、ボディガードを頼まれたわけでもなく、自ら墓穴を掘っていく姿が情けないやら哀れだったり。
ちょっとそういうことで、内容的には東京-新潟-稚内というロードムービー的な要素を持つ面白そうなハードボイルド逃避行小説ながら、エンタメ要素を無理矢理詰め込んだせいで、設定にかなり無理があり、同氏の作品にしてはやっつけ仕事っぽくてイマイチかなぁというのが感想です。
◇著者別読書感想(佐々木譲)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
天地明察 (角川文庫)(上)(下) 冲方丁
2009年に発刊され吉川英治文学新人賞や第7回本屋大賞を受賞し、直木賞にもノミネートされた長編時代小説で、映画やドラマに引っ張りだこの岡田准一主演で2012年に映画化もされ人気を博した出世作です。
主人公は江戸城に勤める囲碁棋士で、算術に強くやがて天文暦学者になる安井算哲(渋川春海)という実在の人物で、知る人ぞ知るというユニークな人生を歩んだ人物にうまくスポットライトをあてたのはさすがと言えます。
春海は、徳川4代目家綱から5代目綱吉の時代に活躍し、それまで日本で利用されていた800年も前に唐からもたらされた宣明暦を、緻密な観測と中国と日本の位置からくる違いを計算し、新しい和暦(貞享暦)を初めて作りました。
暦の基本形を作るのはいまは国立天文台ですが、当時は主に祈祷師や神社などが中国の暦を元に勝手に作っていて、地域によっては1年が数日違っていたりすることもあったとか。
今でも旧暦という太陰暦は特に占いや年中行事などではよく使われていますが、当時もやはり暦と占いや年中行事は切っても切れない関係にあったようです。また各地の有名神社が独自の暦を発行することで、大きな収益を得ていたと言うこともあるようです。
様々な妨害や、伝統や権威と戦い様々なプレッシャーにも負けず、粘り強く日本の暦を新しく変えた主人公の成功物語と言ったところでしょうか。
余談になりますが、日本初の和暦となった貞享暦は、その後宝暦暦、寛政暦、天保暦と変わっていき、ついに明治5年11月9日(西暦1872年12月9日)には世界標準となっていたグレゴリオ暦(新暦)へと変更されます。
この新暦への変更時は、年末まであと2ヶ月近くあると思っていた国民が、いきなりあと3週間で年が改まると聞かされ、そこで起きる様々なドタバタは小説や、映画、落語などでもよく出てきます。
◇著者別読書感想(冲方丁)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
微笑む人 貫井徳郎
2012年に単行本が発刊された小説で、まだ文庫は出ていません。Twitterでなにかと話題が多かったこの作品ですが、私はなにも予備知識を持たないまま読みました。
小説はある突拍子もない事件を取材した小説家の語りで始まります。最初は貫井氏本人が取材したノンフィクションか?と思いましたが、そうではありません。
事件とは川に遊びに来ていた家族の幼い子供と妻が溺れて亡くなるという悲惨な出来事が起きますが、それはただの事故ではなく、目撃者と火葬直前だった遺体から発見された証拠から、一緒に現場にいて救急車を呼んだ夫の殺人事件だったということが後に判明します。
しかし犯行を認めたものの、殺害の犯行理由が「自宅の本の置き場がなくて」という信じがたい理由だったことや、犯人をよく知る人に聞くと誰もが「絶対に信じられない」と口を揃える好人物なのです。
取材を進めていくと、過去にこの男の周辺では謎の多い事故が起きていることが徐々にわかってきます。しかし、もしそれらが男の周到な殺人だったとしても、妻や子供の犯行と同様、犯行の動機がまったく想像がつきません。
そのように、取材で次々と出てくる犯人とされる不思議な男の感覚が、ふわふわというかジワジワと漂ってきて、気味悪さでいっぱいになってきます。
さらに男の子供の頃の話しまでさかのぼっていきますが、やはりそこでも虚言癖がある同級生との関係など、さらに謎が深まっていくことになります。
このような周囲から見ると信じ難い犯行動機が存在していても、決して不思議ではないということや、誰もが口を揃えて「いい人」「優秀なエリート」という犯人をあえて登場させることに著者はこだわったようで、今までのミステリー小説の常識や、事前に伏線を敷かれた謎が、スパッと解明される明快なミステリー小説に一石を投じたということかも知れません。
それだけに著者も期待はしていないでしょうけど、エンタメ映画やテレビドラマには不向きで、一種の最後まで科学的な謎が解明できないホラー小説を読んでいるという感覚に近かったかもしれません。
◇著者別読書感想(貫井徳郎)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジェノサイド (角川文庫)(上)(下) 高野和明
5年ほど前に「13階段」(2001年)という著者のデビュー作となる小説を読んで、この人はストーリーテラーとして一流だと感じましたが、その著者の最新作がこの「ジェノサイド」(2011年、文庫2013年)です。2011年の直木賞にもノミネートされた小説ですが、その時は池井戸潤氏の「下町ロケット」に持っていかれました。
タイトルのジェノサイドとは一般的に「大量虐殺」という意味で使われていますが、それは物理的な数のことを指すのではなく、「特定の集団等の抹消行為」をいい、ナチスのユダヤ人虐殺のホロコーストやルワンダで起きた内戦による民族同士の大量虐殺などがそれに認定されています。
タイトルからすれば悲惨で暗そうなストーリーに思えますが、舞台が日本、アメリカ、イラン、コンゴなど場面は次々と変わっていき、前半部分はある種フレデリック・フォーサイスの国際陰謀小説を読んでいるかのような錯覚を覚えます。後半はまたちょっと毛色が違って、瀬名秀明著の「BRAIN VALLEY 」など先端医療サスペンスの様相を呈してきます。
主人公は二人いて、ひとりは日本の大学で薬学部で創薬を研究している大学院生、もうひとりは子供が難病にかかっているためその巨額の治療費を稼ぐため、アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーを辞めて今は民間軍事企業で傭兵として働くアメリカ人です。
大学院生の父親は日本の大学でウイルス研究をおこなっていましたが、ある日突然亡くなります。その亡くなった父親から自動送信で謎のメールが息子宛に届き、それが発端となり父親が表沙汰にしていなかった研究を知ることになります。
この小説では国際陰謀小説ではよくありがちな権力欲にまみれたアメリカ大統領とその取り巻き一味が悪者で、好戦的で私腹を肥やすことに目がない権力者達が、世界一の軍事力、諜報力、政治力を使って陰謀に手を染めていくという構図です。
そうした壮大な国家権力に振り回されながら、日本人の大学院生は韓国人の留学生の協力を得て新薬開発に乗り出すことになり、元特殊部隊の傭兵も他の傭兵や元CIAなどの力を借りて、殺されるはずだった新生物を救いだし、証拠隠しのために自分たちも抹殺されることを知り、果敢に立ち向かっていくというエンタテーメントとしてはうまい仕上がりになっています。
ジェノサイドというタイトルの言葉は、この小説の中に時々出てきますが、タイトルとして適当かどうかは個人的に疑問があり、どちらかと言えば内容的にはエヴォリューション(Evolution)が妥当かなと思っています。
話しが壮大なだけに、日本で映画化はかなり難しそうですが、いっそハリウッドが「エイリアン 」や「ブレードランナー 」「ブラックホーク・ダウン 」などを手掛けたリドリー・スコット監督を起用して制作すると興味あるものができそうな気がします。ただその場合はきっと、原作とは違いアメリカ政府が悪者にはなりませんね。
◇著者別読書感想(高野和明)
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1月後半の読書 二人静、ザビエルの首、真夜中の男、殺し屋 最後の仕事
1月前半の読書 冷血、クリフトン年代記 第2部(上)(下)、八つ花ごよみ
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自意識過剰で欲の突っ張った自称コンサルタントでもあるまいし、リーダーシップを語るなどおこがましいと思っていましたが、考えるとこの30余年のあいだに、いくつかの勤務先で様々なリーダーの元で仕事をしたり、時にはリーダとなってメンバーを率いた経験があり、その総括として自分のリーダー論を書き残しておくのも悪いことではないなと考えました。
一般的にリーダーの資質を疑うパターンとして、
「部下の手柄を横取りする」
「ミスや失敗の責任を取りたがらない」
「上には優しく、下には厳しい」
「自分には甘く、人には厳しい」
「部下を差別やえこひいきする」
「自分の立場を守りよくするため優秀な同僚や部下を貶める」
などは、あえて述べるまでもなく、もってのほかで、映画やドラマの中では主人公をいじめる嫌な上司役、またはリーダーとしてよく登場します。
その他にもケースバイケースで微妙なところがありますが、「部下を信用せずなにかにつけて口を出す」「『いい上司=優しい』と勘違いしているのか、それとも自分に自信がないのか重大なミスをした時でも部下を叱ることができない」「部下を自分で育てようとはせず、既に出来上がった部下ばかり求める」などもよく見られる上司像です。
少なからず、そういうタイプの上司やリーダーは確実に多く存在するので、長くビジネスパーソンを続けていくならそれらを避けては通れません。
しかしちょっと見方を変えれば違った考えも生まれてきます。
例えば「上には優しく下には厳しい」というケースでは、トップにかわいがられ評価が高い上司であれば、部下にとって嫌な上司であっても、様々な仕事をしていく上ではその上司の恩恵を受けられやすいわけで、考えようによってはその部下もまたトップからの評価も高まっていく可能性があります、但しトップが代わらない限りですが。
また世間で言う「大物」とは、一般的に「自分には甘く、人には厳しく」先輩や上司に対して遠慮がなく、ずけずけと自分の意見を通したり、ため口を聞いたり、平気で「部下の手柄を横取り」して見込みがあると判断すれば一気に事業を拡大してみせたり、逆に「(自分や部下の)ミスや失敗の責任を取らず」に明るく笑い飛ばしてごまかしてしまうタイプです。
なので、ビジネス的、教育的、人間的にみると、その部下が大迷惑しているかはともかく、すべてが「悪」とは言い切れないのです。
それでも、私がまだ若い頃には、女性差別をしている会社は多く、その他にも学歴や出身校の優劣、出身地、家柄などで公然と差別をしていた企業がありました。
年配の人にはまだ「○○君は官大(国立大という意味)出身のエリートで、うちの幹部候補生だ」的なことをほざいているうすらバカもまだ残っているかもしれません。
同期入社同士でポストを争うというのは私には理解しがたいことでした。それは私の場合、新卒で入った会社の同期は4人だけで、ポストの取り合いをするよりも、業務が拡大していく中でポストの数のほうがずっと多く、また互いに協力し合わなければアクの強い経営者や個性的な先輩や上司と対抗ができなかったせいもあります。
しかし同期入社が何十・何百名人ともなると、当然その中から昇進していく順番がつくわけで、さらに部長職、役員職ともなればその同期の中からわずか数名に絞られてくる厳しい出世争いが起きます。
今まで幸か不幸か身近にそう言うことがなかったのでピンとこないのですが、ビジネス小説などを読むと、ライバルを蹴落とすためには手段を選ばず、犯罪に手を染めたり、ライバルの部下をそそのかしてスパイに仕立てたり、時には個人で探偵を雇いライバルの私生活を調べて弱点を探したりと、想像を絶する戦いがそこにはあります(ごく一部でしょうけど)。
そうした中で、ライバルが起こした事件や事故は、自分にとっては朗報で、時にはその問題を炎上させるために外部へリークしてみたり、怪文書を社内に回したりという姑息な手段を使って自分の立場を有利にしていこうとするのは、競争の激しいビジネスにおいては自然の摂理とも言えます。
もっともライバルは同期とは限らず入社が数年前後のあいだでは同じようなことが起きます。
さてそのようなビジネスの場においてのリーダー論ですが、私が考えるリーダーがもっとも優先してやらなければならないこととは?と聞かれたらそれはいたってシンプルです。しかも考え方が刹那的で自虐的でもあります。
・部下にどんどんと仕事をまかせて、早く一人前に育てる
残念なリーダーは部下を信用せず、仕事を任せることを嫌い、その結果、自分でいくつもの余計な仕事や判断を抱え込み、いつも「忙しい」「忙しい」が口癖で、それでいて部下の仕事に細かなところまでいちいち口出しをすることが部下のため、部下に優しい上司と思い込んでいます。
それが結局は自己満足だけで、部下が自らやる気を出し、考え抜く力をそいでしまっているパターンが多いとは気がつきません。
一般的にはリーダーはその仕事のエキスパートですでに経験者で知識もあり、部下よりも早く上手にできることが当たり前です。部下に任せられないリーダーは、自分と同様のレベルをつい部下に求めてしまい「あいつはダメだ」「俺がしっかりみてやらないとなんにもできない」と考えてしまいます。
さらには部下が自分より高いレベルで能力を発揮されることを怖れ、自分の立場や居場所を守ろうと警戒して部下に口出すとんでもないリーダーさえいます。
しかし私の考えでは、部下には仕事の内容やそれで発生する問題を自分で考えさせて、時には失敗を経験させ、身体で覚えさせることこそ重要だと考えます。
そこで失敗覚悟で仕事を任せられる度量と、その失敗したときの責任を一緒にかぶってやる覚悟がリーダーには必要です。
最近は「自分は失敗したことがない」、「挫折した経験がない」ことを誇らしげに自慢する無菌室育ちの人が若い人だけでなくリーダークラスにも多いのですが、ビジネスや私生活において大きな失敗や挫折を経験したことがない(あるいは認めたことがない)人ほど、ビジネスの相手として信用がおけないものはありません。
人は失敗の中から成長し、再び失敗しないように細心の注意を払うようになるのです。1871年に設立以来、主要な戦争では勝ち続け、今後も負けるはずがない、いざとなれば神風が吹くと盲目的に信じていた大日本帝国陸軍幹部の過ちと同じです。
そうして、チームにまかされた仕事をこなしながら、自分より秀でた後輩をひとりでも多く作り上げていくことが、まさにリーダーに求められる役割なのです。エセリーダーに多い「俺が」「俺が」の口やかましいばかりの出たがり、目立ちたがりは当然ながらその範疇には含みません。
今の世の中、自分がいつまでもリーダーの立場で居続けられるかはわかりません。適材適所や能力の優劣、リーダーとしての素質があっても個人的な都合でリーダーにはなれないこともあります。
その他、内部要因、外部要因により、また時の運に左右されて、誰がリーダーに相応しいか変わってくることもあります。もう年功序列なんてものは中小企業ではとっくに崩壊しています。
そして部下が育つと立場が逆転することがあります。自分がリーダーの立場から降りるときに、自分の元で育ってくれた部下が新しいリーダーとして活躍してくれることを自分の手柄で報奨というように考えるのです。
「自分はトップの器ではなかったが、自分が育てた部下がトップになり、その手腕を発揮してくれた」と密かに心の中で言えるのが、ビジネスにおける本当のリーダーの役割ではないかと思うのです。いえ、決して負け惜しみなんかではないですよ。
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年末年始以降休日が結構多かったため、録画しておいた映画やドラマをゆっくりと鑑賞することができました。
その中でも特に強く印象に残ったのが「素晴らしき哉、人生!」(原題:It's a Wonderful Life)制作アメリカ、公開1946年、日本公開1954年、監督:フランク・キャプラ、出演者:ジェームズ・ステュアート、ドナ・リード、ライオネル・バリモアです。1946年公開ということは、おそらくまだ日本が戦争に降伏する前か、その直後に制作がスタートした映画でしょう。
クリスマスをテーマにした映画の中には、戦前戦後を通して名作と言われるものが数々あります。例えば「三十四丁目の奇蹟」(1947年、1994年)、「クリスマス・キャロル」(1951年、1984年)、その「クリスマスキャロル」を現代風にアレンジした「3人のゴースト」(1988年)など。それらの中でもこの映画は特筆すべき映画ではないかと思います。
この映画、ところどころで既視感を感じる場面がありましたので、私が子供の頃(小学生?)にテレビで見たことがたぶんあるのでしょう。小・中学生の頃はほぼ毎晩テレビで古い映画をやっていて、いつも見ていました。
ストーリーは、父親は堅物で真面目な住宅建設資金を貸し出す会社の経営者、長男はヨーロッパで戦火の足音が近づくなかで軍隊に入隊しています。そんな中で大学を卒業したら自分の夢だった世界を旅して回ろうと考えている能天気な次男坊がこの映画の主人公です。
いろいろあって、その次男が父親の急逝により、自分の夢をあきらめ、やむを得ず事業の後を継ぐことになりますが、街の顔役で借家業を営んでいる富豪の実業家と対立してしまい、さらに自分のミスから事業資金を一瞬にして失い、貧しい住民を助ける住宅建設用金融会社は倒産寸前に追い込まれてしまいます。
そのことで、主人公は絶望してしまい、クリスマスの夜に橋の上から凍てつく川に飛び込み自殺を図りますが、その時、まだ翼がもらえない二級天使(オヤジです)が突然現れ川の中から救い出されます。
その天使に対し「どうして止めるのだ?こんなことになるなら生まれてこなければよかった」と告げて激しく迫ると、天使は「それならあなたが生まれてこなかった世界を見せてあげよう」と、主人公を街に送り返します。すると住宅資金の貸付事業がないがため、住民達は自分の家を持つことができず、活気や明るさがなく、腹黒い富豪が支配する古びた借家住まいで、搾取され続け、街の荒廃した姿を見ることになります。
と、まぁ、文科省推薦の映画やドラマによくありそうな正義と悪役がはっきりしたパターンですが、長く続いた厳しい戦争に勝ち、アメリカ人がそのまま世界征服もできるのではという戦後間もない頃の思い上がった時代ながら、一転してこのような道徳心や愛情、そしてなによりも困難に立ち向かう勇気の重要性を描いたところに深く共感を覚えてしまいます。
もちろんクリスマスが描かれる欧米の映画には子供の頃から親しんできたキリスト教の教えと、困ったときには神様が奇跡を起こしてくれるという唯一絶対の信仰が根底にあります。
当初はこうした宗教色の強い映画、例えば「エクソシスト」や「オーメン」などキリスト教が関係するオカルトものを含め、もっぱら仏教や無神論者が多い日本人にはその理屈や宗教観がないとわからないだろうと思っていましたが、いやいやどうしてすっかりツボにハマってしまいました。
この映画はすでに著作権は切れているので、様々なところから格安でDVDが販売されているようです。モノクロ映画ということと、少し長め(132分)なので、鮮やかな配色で動きの速いアニメに慣れ親しんでる今の子供達に見せてもたぶんすぐ退屈してしまいそうですが、大人しかも夫婦や恋人同士でゆっくり楽しめそうな映画です。
この年になっても、こうした映画を見ると心が洗われます。
いや~映画ってホントにいいものですね。
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すでに様々なメディアでそのような報道がなされているので、知っている人も多いと思いますが、あらためて「増えつつある空き家」について検証してみます。
というのも私の家でも浴室など傷んできた水回りのリフォームを実施し、高齢化に対応すべく段差をなくしたりバリアフリーにしましたが、この家は高齢化社会と人口減の中、果たして今後資産価値はあるのだろうか?とちょっと打算的に考えたからです。
私は今のところは今後高齢になっても、この家に住み続けるつもりなので、資産価値があってもなくても関係ないのですが、いざというときには、家を売り払って静かな場所か、マンションのように保守メンテナンスや維持管理、防犯などに手間のかからない場所へ引っ越しを考えたときには気にかかるところです。
少し古いデータですが、2008年10月のデータでは国内にある総住宅数5759万戸に対して、総世帯数は4999万世帯で、差し引き約760万戸の空き家があると推定されています(総務省統計局平成20年住宅・土地統計調査)。
もちろん1世帯が別荘など複数の住居を保有し活用していたり、複数世帯が1軒の家やアパートの1部屋を共有して使っていたりすることもあるでしょうから必ずしも正確ではありませんが、これしかデータはないので。
この空き家と思われる割合を仮に賃貸住宅にあてはめてみると、空き家率は13.2%ということになります。そして直近の昨年2013年10月のデータは現在まだ未発表で、今年の秋頃には発表されると思いますが、空き家は5年前と比べ、世帯数の増加よりも増えているのは確実のようです。
まず空き家がなぜ発生するのかと言えば、
1)新築の家に移る(別の空き家へ移るだけなら空き家は増えない) 2)居住者が介護施設へ移ったり、亡くなり空き家となる(単身者の場合) 3)高齢の親などを別居していた家族が引き取る、逆に別世帯の家族が親の家に同居 4)新築が取り壊す住宅の数を上回る(高層化に建て替え部屋数が増えるなど) 5)別世帯同士が1軒の家に住み、部屋をシェアして同居する 6)世帯数が減る |
などが考えられます。
日本の人口はすでに2007年頃をピークとして減りつつあり、最近まで伸び続けてきた世帯数もとうとう2010年をピークに下がりつつあります(厚労省平成23年国民生活基礎調査)。つまり世帯数も1世帯あたりの数も減っているということです。
1世帯当たりの人員数の減少については、65歳以上の高齢者だけの世帯の割合が全世帯数の20%以上を占めるようになり、そのうちの半分ぐらいが独居となってきているためで、今後もさらにその高齢者が独居する割合は確実に増えていくことになります。
参考:平均世帯人員:平成元年(1989年)3.10人→平成23年(2011年)2.58人
高齢者世帯の割合:平成元年7.8%→平成23年20.5%
同居の複数世帯は別として、基本的に1世帯1家屋(集合住宅の場合は1部屋)が必要なので、空き家が増えていても同時に世帯数が増えていればその需要が伸びる可能性と資産価値はありますが、もうその見通しはありません。
あるいは需要の多い都市部の若者に人気の場所で、お洒落で値段が手頃なコンパクトタイプのマンションならばまだ需要は高いままあるでしょうけど。
空き家率が高まっている傾向があるということは、世帯数が増える以上に新築家屋が建てられ、入居者が見つからない古い家屋がそのまま残されていたり、多くの高齢者が新築マンションや家族の元へ引っ越しをしたり、あるいは故人となり、それまで住んでいた家がそのまま空き家として放置されているという事情があるのでしょう。
住宅総数と空き家数推移(1963年~2008年)
グラフからはこの45年間のあいだずっと総住宅数は右肩上がりで増えていき、空き家もそれに歩調を合わせた形で増えていきます。特に1993年以降から空き家が急に増加していきますが、ちょうどバブルが崩壊し、長引く不況が始まる頃と一致します。
首都圏に限られますが、昨年(2013年)の新築マンションは前年の23.9%も増え、その戸数は56,476戸にのぼります。(不動産経済研究所)。それに対する取り壊された戸数については統計がなく不明ですが、現状ではまだ新築の供給が上回っているようです。
需要から考えるといつまでこのような新築物件の伸びが続くかは疑問ですが、やがては「建てても売れない」「売れ残り物件が多い」となれば、改築や取り壊しが必要な古い建物と同数近くまで新たな供給が減ってしまう可能性があります。というか世帯数が本格的に減少し始めたらそうなる可能性のほうが高そうです。
空き家率が高い地域はどのような理由かというと、ひとつは人口が多い都会で、人の入れ替わりが激しい地域、かつ投資目的などで新築住宅が次々と建設される場所で、その地域の産業が落ち込んでしまった際に多く発生します。
そしてもうひとつは、これが一番大きい理由ですが、地方の限界集落など、高齢者が多く、前述の通り高齢者が亡くなったあとの家や、介護や通院のため家族に引き取られ、それまで住んでいた家が空き家となって増えていくケースです。、この場合は、その地域の高齢化率と深く関係しています。
空き家率が上位の都道府県は、山梨県、和歌山県、高知県、長野県、香川県の順となっています。一方下位は沖縄県、神奈川県、埼玉県の順です。
都道府県別の高齢化率(2011年データ)と比べてみると、空き家率が一番高い山梨県の高齢化率は24.8%で全国25位と中位ですが、2位の和歌山県の高齢化率は27.5%で全国6位、3位の高知県も29.0%で全国3位と高齢化率の高い地域です。
同様に長野県は11位、香川県は18位です。必ずしも現在の高齢化率上位の地域と空き家率は合致していませんが、比較的高齢化率の高い地域ほど空き家率も高くなっていると言えます。
あと考えられる原因としては山梨県、長野県は比較的古い別荘が多い地域で、それが持ち主不在の空き家となってカウントされている可能性が考えられます。
空き家率が低い沖縄県は、高齢化率でももっとも低い17.3%、次の神奈川県、埼玉県も高齢化率は低く、20.6%と20.9%で全国45番目(低い方から3番目)と42番目です。これらからも高齢化率と空き家率の関係性は明かでしょう。
ただし問題は今から10年後で、団塊世代が介護の必要が出てくる後期高齢者に入ってくる頃、都道府県の高齢化率にも変化が現れ、その頃にはこの構図が大きく変わってくる可能性があります。
というのも団塊世代の多くは地方から都市部へ出て、その都市の郊外へ移り住むようになったその先駆けです。親が住む実家から離れた核家族化が特徴です。
つまりこれからは地方よりもその団塊世代が多く住む都市部近郊のほうが高齢化の速度が増してきます。もし高齢化が空き家を増やす大きな要因であるならば、都市部近郊の空き家は今後高齢化と同じように加速度をつけて増えていくことが予想されます。関東圏で言えば、神奈川、千葉、埼玉、東京の二十三区外あたりです。
しかも都市部では親子二世帯住宅を構えられるほど大きな土地や家を持っている人はわずかで、高齢の親と同居する家族は土地の広い地方と比べて多いとは思えません。
それは高齢者が施設へ入居するか、亡くなるまでは老朽化した狭い家やマンションに住み続け、空き家になった後は、とても若い人が住める状態ではなく、建て替えるか売却するかそのまま放置というパターンです。
結論としては、都市部近郊を含め、高齢化していく地域ではやがて空き家率も高くなり、したがって不動産価格も下落傾向になります。一方若者が好む都心に近い一部の地域では、少ない空き家や土地を巡って取り合いとなり、不動産価格が上昇する場所が出てきますので二極化すると言えるでしょう。
親が残してくれた郊外の家やマンションは、いずれも築後40年50年となり、老朽化が進み、設備も古く、相続した家族は早々に業者に売却してしまうか、売れなくてそのまま放置されてしまう可能性があります。
投資の一環で賃貸マンションや賃貸住宅を持つことは、流行の先端を走る成功者というイメージがありましたが、今後これも様変わりしていくでしょう。世帯数も減少していくことにより、都心の一等地や若者の人気の場所でなければ、借金返済を考慮したオーナーが希望する価格では貸せなくなる時代がやってきます。
赤字を抱える行政機関も動きます。コンパクトシティ構想は限界集落や準限界集落を抱える地方の自治体が、そうした広範囲なところにバラバラで住む人達を1箇所に集め、そこの中に日常生活に困らないよう病院や小売店などを集約し、狭い範囲でインフラも整備し、コストを抑えてコンパクトな町作りをしていくというもので、すでにいくつかの自治体では実践しています。
現在は富山県や震災被害の大きかった東北の地域など地方都市に限られていますが、今後は都市部周辺の郊外においても、赤字財政の自治体が県内の隅々まで道路や橋、公園、病院、学校、上下水道、ゴミ収集などインフラ整備やサービス提供をおこない、どこに住んでも快適な生活がおくれるという行政サービスから大転換をはかり、あまり余裕資金のない年金生活者を1箇所に集めるコンパクトシティ造りをおこなっていく可能性があります。
その時に、それまで住んでいた郊外の家やマンションは、限界集落に残された古家と同様、将来値段が付くものではなくなってしまうのでしょう。
【関連リンク】
763 認知症患者の増大で国は衰退する?
740 高齢者の犯罪が増加
733 高齢者の地方移住はこれからも進むか
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711 地方が限界集落化していく
681 コンパクトマンションが流行っているらしい
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二人静 (光文社文庫) 盛田隆二
2010年発刊、2012年に文庫化され、第1回Twitter文学賞第1位に輝いた話題作で、その評判をいろいろなところから聞いていたので早く読みたかった作品です。
そのタイトルからすると内田康夫著「天河伝説殺人事件」にも出てくる世阿弥作と言われている謡曲「二人静」をモチーフとした作品かなと思っていましたが、読んでみるとそうでもなさそうです。
謡曲「二人静」は義経討伐のあと、子供とも生き別れとなり、うち捨てられた静御前の霊がある女性に乗り移り、それを証明するために舞を踊ってみせるというストーリーです。
それならばもうひとつの「二人静」、明治から大正時代に活躍した柳川春葉の家庭小説からきているのかと調べてみるものの、その内容はわかりませんでした。
もしかすると文庫本の解説に書かれているのかも知れませんが、今回は単行本を読んだので不明です。
主人公は母親は既に亡くなり、認知症を患っている父親と二人で暮らしている会社員の男性。ある昔の出来事がきっかけとなり女性を心から愛することができず、30代半ばになった今でも独身で、会社の同僚女性からモーションをかけられても興味を持ちません。
そして認知症で身体も弱っている父親を抱え、毎日朝から夜遅くまでの会社勤めをすることにやがて無理が生じ、一時的な介護施設へ入居させることになりますが、そこで出会った担当の女性介護士との間に愛情が芽生えていきます。
しかしその女性介護士にも暗くつらい過去があり、まだ小さな子供(しかも人前では言葉が出なくなる場面緘黙症)を抱え、前の夫とのあいだにはDVや離婚裁判の怨恨で今も悩まされ続けています。
と、現代の社会問題が山積みされた内容ですが、どれをとっても日本国民は目をふさぐことはできず、今後ますますこうしたことがすぐ身近な問題として降りかかってくる可能性があります。
この主人公は、正規社員としてバリバリと働いていて、同僚にも恵まれ、さらに父親が買った自宅があるという、経済的にはまだ恵まれた環境にあるとも言えます。
現実的には長引く不況で職場を失ったり、地方への転勤を余儀なくされたり、また父親が住む家は借家で大きな財産もなく、認知症が判明した時点で火事の心配もあり借家から追い出されるというケースも考えられます。
この小説は決してすべて解決しハッピーエンドに終わるお気楽ものではありません。読書中にはこれでもかというぐらいに重石がどっしりと肩の上に乗っかってくる気分を味わされますが、読後には少しそれが和らいでいることに気がつくでしょう。
◇著者別読書感想(盛田隆二)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ザビエルの首 (講談社文庫) 柳広司
2004年に「聖フランシスコ・ザビエルの首」として初出、2008年に改題されて文庫化された小説です。大ヒット作となったD機関シリーズ第1作目の「ジョーカー・ゲーム」(2008年)が、来年2015年に映画公開されることが決まり、いままさにノリにノッている作家さんのひとりでしょう。
この作品はいくつか雑誌に連載されたものを再構成し、ひとつの小説にまとめ上げられたものですが、物語の構想というか目の付け所がいつもながら素晴らしく感心します。
ストーリーは貧乏なフリーライターがオカルト雑誌の取材で四国で発見されたというザビエルの首を取材しに行くところから始まります。
ザビエルの遺骸はインドのボン・ジェズ教会に安置されているので、日本に首だけがあるというのも変なのですが、そこはオカルト雑誌の手前、一応下調べをしてノー天気なカメラマンと一緒に出かけます。
フランシスコ・ザビエルは小・中学生の教科書に出てくるほど、日本へキリスト教を初めて伝えた伝道師として有名ですが、それ以前の活動や、その後の人生についてはほとんど知られていません。
主人公のフリーライターは、そのザビエル(とされる)首を見ると同時に感化され意識が飛んでしまい、ザビエルに誘われるがごとくザビエルが生きたその時代に移っていきます。
それは当時の日本、インド、パリ、そして生まれ故郷、さらには終焉の地、中国へと変わっていきます。
著者はこのような歴史上の有名人物を主人公としたり、あるいはモチーフとして使い、新たなフィクションを創り出した小説が多いのが特徴ですが、いずれも事実とフィクションがうまく混ざり合い、時にはコミカルで、そしてなにより大昔に習って、もうすっかり忘れていた歴史の知識を再確認できるという優れものです。
クライマックスでは、なぜザビエルは死後もまるで生きているかのように、身体が腐らなかったのかという奇跡の謎が明かされ、さらには続編を意識させる終わり方で突然閉じられています。
この小説の初出から10年も経った今でも続編は出てきていませんが、もし今後出てくればぜひ読みたいものです。
◇著者別読書感想(柳広司)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真夜中の男(光文社文庫) 結城昌治
日本のハードボイルド作家の草分け的な作家さんで、その後そのジャンルで有名になった生島治郎氏のペンネームの名付け親とも言われています。
残念ながらすでに故人となられていますが、残された作品は全部で100冊近くに及んでいます。1970年には「軍旗はためく下に」で直木賞、1985年には「終着駅」で吉川英治文学賞を受賞されています。私は2006年に「軍旗はためく下に」を読んだだけでこれが2冊目です。
この本は今から30年以上前の1979年初出の作品ですが、読んでみるとその内容に古臭くは感じられません。
もちろん携帯電話やパソコンなどは出てきませんが、元刑事が主人公のハードボイルドミステリーですので、その世界においては30年前も今も、環境にはほとんど変わりがないとも言えます。
これが中途半端に90年代頃の探偵小説だと、ダイヤルアップでパソコンをつないでメールを読んだりネットを見たり、ヤクザが高級車に搭載された自動車電話で指示をしたりと時代を感じさせるものですが。
主人公は若いチンピラヤクザに足を洗わせようとなにかと世話をしていたために、癒着を疑われ刑事の仕事を追われてしまい、現在は退職した元刑事達で作る探偵をしている中年男性。
その主人公が世話をしていた若いヤクザの実姉と、ふとしたきっかけで姉の自宅で一度だけ関係を持ちます。そしてそのことが忘れられずに、翌日再び女の家に行くと、その女は自宅で亡くなっています。元刑事の勘から、自分が殺したと一番に疑われると判断し、指紋を消すなど偽装工作をしてそのまま逃げます。
しかし当日アパート近くに主人公がいたという目撃者が現れ、翌日には逮捕され、当初からなにも知らないと嘘をついたり、偽装工作をしていたことで、無実だという言葉は誰にも信じてもらえず、7年の実刑判決を受けて服役することになります。
場面は変わり、7年後に出所し、殺された女性のことや、なぜ自分が犯人と間違われたのか、そして真犯人と思われる、自分が女性の家を訪問する直前にアパートから走り去った不審な男の行方を捜すために行動を開始します。
探偵小説の定石通り、わずかな手掛かりを元にして関係者を探しだし、直接会って話しを聞いていきます。そうしていると定石通りに暴かれたくない真犯人と思われる者から邪魔が入るものなのですが、この小説では自分を目撃したと証言したキーマンが、会う直前に何者かに殺されてしまい、事態が動き出すことになります。
こうした最初は遠いと思える地道な調査から、少しずつ関係者に近づいていき、そして過去を知られたくないという真犯人をあぶり出していくというパターンはボストンの探偵スペンサー曰く「藪をつつく」ですが、必ず望むような結果に結びつき安心して読んでいられます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
殺し屋 最後の仕事 (二見文庫) ローレンス・ブロック
2008年にアメリカで発行、翻訳された文庫は2011年に出版されています。タイトルにあるようにシリーズ化されてきた殺し屋ケリーの最終版となりますが、その後アメリカではKindleの電子書籍だけで続編が出ているそうです。そしてこのシリーズは連作短編のものが多いのですが、この作品は長編小説となっています。
◆殺し屋ケリーシリーズ(Wikipediaより)
『殺し屋』 Hit Man(1998)- 連作短編集
『殺しのリスト』 Hit List(2000)
『殺しのパレード』 Hit Parade(2006)
『殺し屋 最後の仕事』 Hit and Run(2008)
『Keller in Dallas』(2009) Kindleのみ
さて、このケラーシリーズ最終作?は、巻末の解説でも書かれていましたが、できれば過去の作品を1冊以上読んでからのほうがいいでしょう。
それは主人公ケラーとその周辺の人達との関係、殺しの手法、、趣味の切手コレクションのこだわり方などある程度の予備知識があるほうが面白く読めるからです。
そしてこの長編に関しては、シリーズの従来スタイルではなく、著者ローレンス・ブロックの代表作、マット・スカダーシリーズと同様なハードボイルドタッチで描かれていることも、この作品の前に前作を読んでおくひとつの大きな理由です。
それは過去の作品のようにコミカルで軽快なところはほとんどなく、今までは準備万端で難なく仕事をこなしてきたクールな殺し屋ケラーが、大きな罠にはめられてしまい、追い詰められていくというシリアスなドラマとなっているからでもあります。
しかし捨てる神あれば拾う神ありで、しかも今までの流れからすると考えられない結末へと向かっていきます。考えられないというのは、「まさかあのクールな殺し屋ケラーが、安い週給で大工の見習い仕事を始め、まともな××をして○○までできちゃうなんて!」ということです。
もちろん先に書いたように電子版の続編が出ていると言うことは、少なくともここで主人公が死んで終わってしまうということではないのはわかってしまうのですが。
個人的には、こうしたシリアスな展開は「マット・スカダーシリーズ」やマイクル・コナリー著の「ハリー・ボッシュシリーズ」に任せておいて、ケラーはケラーのお気楽で計算し尽くされた殺し屋というイメージを最後まで貫いて欲しかったなというのが本音のところです。
ところで、本当の最終版、Kindle版の「ダラスのケラー」?は、日本語版では電子版だけでなく文庫版も出してくれないものかと書籍は絶対アナログ派だけに、ひたすらそう願うばかりです。
◇著者別読書感想(ローレンス・ブロック)
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