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1467
空白を満たしなさい(講談社文庫)(上)(下) 平野啓一郎

2012年に単行本、2015年に文庫化された長編小説です。著者の作品は2011年に単行本で「ドーン」を読んでいます。それ以来なんと9年ぶりです。

2011年3月後半の読書(ドーン)

この小説はSFというか、いやちょっと違うか、死んだ人間が次々と生き返るという小説には良くある「IF物語」のようです。映画にもなった梶尾真治著の「黄泉がえり」をチラッと思い出しました。

著者独特の発想で、対人関係ごとにそれぞれの人格が存在するという「分人主義」を絡めた、大枠ではそのシリーズ作品のひとつだそうです。

生き返る理由や原因は特に明示されてなく、ご都合的ではありますが、結婚して子供を授かり、マイホームも購入したばかりで夫婦仲も良好、仕事はちょっとつまずいたけれど、異動先では新規事業で大成功を収めつつある時に、主人公の男性は会社の屋上から突然謎の飛び降り自殺をしたということになっています。

そしてその3年後に主人公はフラッと自宅へ帰ってきますが、本人にはその3年間の記憶はなく、しかも「幸福の絶頂の中で、自分が自殺などするわけはない」と真相を調べ始めます。

特にその自殺の原因(本人は行動を注意されて逆恨みしている警備員に突き落とされたと主張)追求の行動がこの小説で重要なところと思わないけど、その真相探しが長くてちょっと主題がよくわからなくなってしまっています。ページを増やす理由でもあったのかな。

死者が生き返る現象が、世界中で認められるようになり、そうした事が想定されていない様々な法律や制度に問題が起き、そして差別などが起き始めます。

果たして自殺の真相は?自殺した原因で家族や両親のあいだに大きな亀裂が入ってしまったその修復は?生き返った人達はその後どうなるのか?などは読んでからのお楽しみということで。

う~ん、上下巻の長い小説ですが、あまり変化や抑揚がない、淡々とした流れで、ちょっと退屈な感じがしました。哲学的ともいえますので、読んでいて眠たくなるのは仕方がないのかも知れません。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ブラック オア ホワイト (新潮文庫) 浅田次郎

2013年に週刊新潮で連載され、2015年に単行本、2017年に文庫化された、長編小説です。

西洋の人種問題?ぐらいに思って、内容はまったく知らないまま読み始めましたが、全然違いました。なんと、このタイトルで、夢の話しです。

60過ぎた元エリート商社マンだった裕福な男性が、亡くなった学生時代の友人のお通夜で久しぶりに会った同級生に語る夢の話しですが、その不思議な夢を見た場所が、総合商社員らしくスイス、パラオ、インド、中国、日本(京都)で、そこに白い枕と黒い枕が登場してきます。

白い枕で寝ると、ハッピーな夢に、黒い枕で寝ると不幸な夢をみることになり、夢を見ているときは、それは夢だと言うことがわかっています。

いずれの夢にも、満州鉄道の理事を務め、戦後は総合商社に入社した祖父や、誰かわからない謎の恋人の女性が出てきます。

世界中で活躍する商社員としての仕事の他は、そうした夢の話しが淡々と続くだけの話しですが、なにか仕事を引退した後、昔の輝いていた頃を懐かしんで、誰かに聞いてもらいたいだけ?とも思えて、その真意がイマイチよくわかりませんでした。

★☆☆

著者別読書感想(浅田次郎)

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人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫) 中島義道

1997年に初版が出た後、新潮と筑摩から文庫版が出ましたが私が購入したのは2008年刊の筑摩書房版文庫です。これが書かれたのはまだ20世紀の1996年頃で、当時は電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授という肩書きでした(2009年に退任)。

サブタイトルにあるように、哲学の考えを元にした中高年以降の生き方について著者の考え、過去の哲学者などが残した言葉などを紹介した新書っぽい内容の文庫です。

したがって、本文にもありますが、この本の想定対象年齢は40代から50代前半ぐらいで、もうガツガツと野心を持って出世競争をしたくない中高年者という感じで、すでにそこから大きく超えてしまった私にはちょっと遅かった?とも思いますが、ようやく手に入れたので、しっかり読みました。

著者の書籍は「人生に生きる価値はない」(2009年)、「「人間嫌い」のルール」(2007年)、「私の嫌いな10の人びと」(2006年)、「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」(2000年)、「<対話>のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの」(1997年)の5作を読んできましたが、本書が一番著者の専門の哲学に寄った作品です。

2020年3月後半の読書と感想、書評(人生に生きる価値はない)

2015年3月後半の読書と感想、書評(「人間嫌い」のルール)

2014年8月後半の読書と感想、書評(私の嫌いな10の言葉)

内容は、、、、、えぇ、哲学的というか、哲学です。

哲学の本の感想を簡潔に書けと?そ、それは、丁重にお断りしますデス。

著者の専門でもあるカントはもちろん、セネカ、スピノザ、ルソー、ヴァレリー、陶淵明、永井荷風、兼好法師など多くの先達が残した文章や生き方から「半隠遁生活のススメ」を引用しています。

閑職に左遷されてガックリしている方、ライバルに先を越され投げやりになっている人、そしてちょっと変わった知的好奇心を満たしたい方にはうってつけの本です。

★★☆

著者別読書感想(中島義道)

【関連リンク】
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1466
シャングリラ」と聞いて、人はなにを想像するでしょうか?

おそらくこの名称からいだくイメージは似たようなものの、みなそれぞれ違うものを思い浮かべるのではないでしょうか。

シャングリラ」とは、Wikipediaによると、
シャングリラ(英語: Shangri-La)は、イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に出版した小説『失われた地平線』に登場する理想郷(ユートピア)の名称。仏教徒や神秘主義者の伝説の王国シャンバラをモデルにしたといわれる。ここから転じて、一般的に理想郷と同義としても扱われている。

とのこと。小説に登場した名称が一般化するというのも珍しいことで、それだけこの言葉が持つなにか記憶に残るインパクトというか、一種の言葉の魔力があったのでしょう。

名称として国内で一般的によく知られている(使われている)のは、

・シャングリ・ラ・ホテル東京 香港に本拠を置くホテルチェーン
・Shangri-La 電気グルーヴの1997年の楽曲
・シャングリラ 中島みゆきの著書や夜会ライブ名
・シャングリラ チャットモンチーの2006年の楽曲
・Shangri-La angelaの2004年の楽曲
・東急ホテルズの直営レストラン
・ユーミンのコンサートツアー名

など、様々なところで使われています。

中国には、近年改称されたシャングリラ市(中文表記:香格里拉市)という地名まであります。

私がシャングリラと聞くといつも思い浮かべるのは、初めてその名称を知った香港の「カオルーン シャングリラ(九龍香格里拉大酒店)」で、1984年に香港で仕事をしていたときに、時々仕事をさぼってコーヒーを飲みに利用していました。

というのも、当時(1980年代)のシャングリラホテルは今と違って日本人の宿泊者は少なく、団体客も受け入れてない孤高の気高い雰囲気があり、知り合いにバッタリ出会ったりすることがない、ひとりでゆっくりするのには向いたホテルでした。現在は日本人宿泊客に人気のようですけど。

ペニンシュラホテルや、マンダリン、今はもうなくなったリージェントやフラマホテルなどは、日本人観光客やビジネス駐在員などがいっぱいで、誰に見られるかわからない雰囲気でした。

その時に「シャングリラ」という言葉の意味がわからず、香港の知り合いに聞くと「桃源郷」という意味だということを教えられ、それ以来、「シャングリラ=桃源郷(理想郷)」というイメージが定着しましたが、香港を去ってからはその名称を耳にすることは長くありませんでした。

そのシャングリラという名称を再びよく聞くようになったのが、1997年にテレビコマーシャルに使われヒットした電気グルーヴの「Shangri-La」です。

すぐにCDを買って、いつもクルマの中で繰り返し流していたものです。

2019年にはメンバーのひとりピエール瀧が麻薬で逮捕されたときには、情報番組で何度もこの曲が流されていました。

今でもこの曲を聴くと、香港のシャングリラホテルを反射的に思い出し、好きになった曲で今でもクルマのミュージックサーバに入っています。

そのフレーズを聴く度に、香港のシャングリラでまったりしていた仕事人生の中でも一番?輝いていた頃のイメージが浮かんできます。

  どこへもどこまでもつながるような色めく世界 麗しの時よ
  いつまでもいつまでも きらめくような甘い思いに 胸ときめいていたあの頃のように・・・


えぇ、昔を懐かしむ年寄りの戯れ言です。


【関連リンク】
1436 コロナ時代のテレビ番組と再放送
1206 年齢を問わずに楽しめる俳句、和歌、短歌、川柳の違い
764 思い出の香港


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1465
6月にリタイアしましたが、なにもすることがない暇な日々がやってくる?またリタイア後に計画していた遠出の旅もコロナ禍のため自粛していて毎日なにするの?と思われそうですが、毎日やること、やりたいことはそれなりにあって、忙しい日々を送っています。

ウォーキングは、2016年の人工股関節手術のあと、リハビリでおこなってきたのを、今ではメタボ対策として続けています。ほぼ毎日1時間半ぐらいかけて7~9千歩を歩きますので、それだけでも時間はかかります。

そしてコロナ禍で遠出ができないので、自宅や自宅周辺でできることからと、まずは自宅の補修や、快適に過ごせるようにと自分の部屋の中の模様替えなどをチマチマとおこなっています。

まずやったのは、10数着あるスーツとシャツ、ビジネスシューズを1セットを残して全部処分しました。おかげで洋服ダンスの中がスッキリしたので、普段着などタンスに収まりきらず部屋の中にあふれ出ていた衣類を全部タンスの中に収納し部屋が広くなりました。

スーツを一着残したのは、ないとは思いますけど、なにか公式行事に出る必要があったとき、慌てなくても良いようにしました。もしノーベル賞でも受賞したら普段着のジャージやTシャツで記者会見というわけにもいかないでしょうし、、、

そう言えば文学賞の頂点とも言える直木賞の受賞インタビューに姫野カオルコ氏がジャージ姿で現れて、ひっくり返った関係者も多かったのではないでしょうか。

次に古くなった自宅の網戸、全部で大小合わせて20箇所ぐらいあり、その中の破れ等があるものを張り替えました。写真を撮るの忘れてましたので画像はありません。

網戸の張り替えは、

1)網戸を取り外すため邪魔な家具や大型家電を移動
2)古くなってゆがみが出ている窓枠から網戸を外し
3)古い網をはがして
4)汚れたサッシを綺麗にして
5)新しい網を張っていき
6)再び窓枠に取り付けて、家具などを元へ戻す

と、ひとりでチマチマとやっていると結構時間(日数)がかかります。

張り替え作業は、部屋の中に広い作業スペースがないので、暑い中、外で作業するので汗がとまりません。しゃがんだり立ち上がったりしてスクワットするような動きが多く、良い運動にはなりますが。

網戸によっては押さえゴムのサイズが違っていたり、網が足らなくなってその都度買いに走ったりと手間もかかります。

さらに、あちこちにホコリをかぶって積み置かれている3000冊を超える書籍を整理し、見栄え良く並べることにしました。

新たに大きな書棚を4つ購入し、自分で組み立て設置しますが、書棚で部屋を狭くしたくないので、書棚は上へ上へと伸びることになります。すでにハシゴがないと本の出し入れが出来ない高さになっています。

地震で書棚が倒れてこないように、転倒防止用の金具を買ってきて取り付けたりと、設置に手間も時間もかかります。

そして書棚に本を詰めていくと、不要な本が出てきますので少しずつ捨てていくようにしています。もう絶対に読まないな~という本から。

一度、その不要な中で比較的新しそうなビジネス書や小説をブックオフへ持っていったら、15冊中、8冊が「値段が付かない」と返されました。

購入時にいつもレジで「ご不要の本があればお持ちください」と店員さんが決まり事で言うので持ってきたのに、半分を突き返されるとそりゃ腹も立ち、もう二度と持ってくるか!と思いました(笑)

後で知りましたが、ネットでブックオフの宅配用買い取り価格を調べる「買取価格検索」があります。

そこに不要な本のタイトルを片っ端に入れて調べると、私が入れてみた本の8割が「在庫量の多い品物の為、お値段をおつけできません」とつれない回答です。

そりゃーないでしょう。いやそれが現実なのでしょう。彼らも買い取って売るビジネスであって、ゴミ回収ボランティアではないのだから。えぇ、わかっていますとも。

それはさておき、新しい書棚を入れる代わりに、古くなった収納力がイマイチな大きな書棚を大型ゴミとして出すため清掃局へ連絡すると、なんと混み合っていて2ヶ月先まで回収してもらえないと。

コロナ外出自粛やリモートワークなどの影響があって、自宅の整理とか断捨離をおこなっている人が多いのでしょうね。

部屋の壁を覆う大量の書籍に関して、自分が生きているうちになんとか処分したい気もしますが、借家ではなく自分の家だからそのままにしておいて、残された家族が故人(私)のことを想いながら(恨みながら)処分するのもいいかな。つまり放置しておこうかなと。

書籍以外についても、もう少し涼しくなってきたら、ダンボール数箱に詰めしたまま放置していた趣味の収集品などにも手を付けて、部屋を少しでも広くして過ごしやすい快適な場所にしたいと考えています。

処分に困っているものが、現在のように個人情報管理にうるさくなかった時代の名簿です。

以前勤務していた会社の社員千名ほどの名簿(毎年発行されていた)や、学校同窓会の数千名の卒業生(同窓会)名簿など分厚い冊子になったものもあり、単純にゴミとして出すのは躊躇われます。

過去の年賀状は時々まとめて処分しています。あれも厳密には個人情報ですが、数が1年分で50~80枚程度と少ないこともあり気にしないでバサバサとゴミとして捨ててます。

さすがに一覧表になっていて、それが何十ページにも氏名・住所・電話番号が掲載されている名簿はそういうわけにはいきませんよねぇ、、、みなさんどうしているのかな?


【関連リンク】
1447 ビジネス界からリタイアした
1421 春うらら、高齢者はひたすら歩く
1375 ハッピー・リタイアメントに向けて
820 高齢者ビジネス(第2部 趣味編)

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1464
新型コロナウイルスが世界中に蔓延するにつれ、しばしば耳慣れない新しいカタカナ言葉が出てきました。

ソーシャルディスタンス」「クラスター」「ロックダウン」「パンデミック」などが代表的な例ですが、その他にも「スマートライフ」「リモートワーク」「サスティナビリティ」などさまざま。

そうしたカタカナ語の中で、個人的に気になるのは「エッセンシャルワーカー」という言葉です。

コロナ禍におけるエッセンシャルワーカーの求人動向「農業」「物流」「販売・小売」が急増(@DIME)
調査の結果、日本では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日に政府から緊急事態宣言が発令されたが、該当月の4月に求人割合や仕事検索割合が大きく増加している職種が多く見受けられた。
特に「介護」「看護」「ドラッグストア」に関する求人は大きく増加しており、5月には昨年よりも60%以上の増加。また、仕事探しにおいては「スーパーマーケット」「コンビニ」「配達・デリバリー」に関する仕事検索割合が4月以降急増し、昨年よりも80%以上の増加が見られた。


役割増すエッセンシャルワーカー 支援の動き広がるも起こるリスクや差別(SankeiBiz)
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ外出自粛の長期化で、人々の暮らしに不可欠な職業に就く人たちの社会的役割が増している。海外では「エッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)」と呼ばれるスーパー従業員や清掃員、郵便局員らだ。感染リスクがつきまとう職場で心ない差別的言動やクレームを受けるケースがみられる一方で、支援や感謝を示す動きも広がり始めている。

エッセンシャル(Essential)とは「本質的な」「不可欠な」という意味で、それにワーカー(労働者)がくっついて、コロナ禍で外出自粛やロックダウンの中でも、日常生活を維持するために働くことを求められる仕事や働く人のことで、代表的なのは、医療や介護、食料販売、流通、電気やガスなどインフラ維持、交通機関などなどです。

エッセンシャルワークの定義は定まったものがありませんが、一般的にリストにすると下記の通りです。

医療福祉 医師/看護師/薬剤師/介護士/保健士
公共インフラ 水道・ガス・電力会社職員/通信会社職員
保安・治安 警察官/消防士/救急救命士
行政・金融 役所職員/天気予報官/清掃員/銀行員
一次産業 農家/漁師/酪農畜産
製造業 食品製造業/日用品製造業/医薬品・医療機器製造業
運輸物流 鉄道職員/バス・トラックドライバー/宅配員
流通・小売り コンビニ・スーパー・ドラッグストア・ホームセンター店員
保育・教育 保育士/教員
放送・情報 新聞社記者・配達員/放送局員
その他 葬儀関連業務/寺社/エネルギー輸入

確かに、今回の騒動で、日常生活の維持に必要な仕事(エッセンシャルワーカー)とそうでない仕事にくっきりと線が引かれた気がします。

つまり、緊急事態宣言下でも社会的な要請で通常通りに勤務地へ出勤する必要がある人と、休職、休業をしたり、自宅待機やリモートワークで出勤せずとも済ませられる人の違いです。

私が過去40年間、20年間は人材ビジネス、20年はIT教育とネット系ベンチャーの仕事をやってきて、ずっと思っていたことが「この仕事は誰か人の役立っているか?」「この仕事がなくなると誰か困る人はいるのか?」「この仕事で社会貢献できているのか?」です。

「なにをたいそうな!」って言われそうですが、実は20代の頃からずっと自分に質問し続け、悶々と悩んでいたことです。

もし人の命を救うような医療や介護、警察官、消防士、安全で独創的な食料や医薬品を生産、製造するような仕事をしていれば、おそらくそういう気持ちはわかなかったと思いますが、そうでない仕事をずっとやってきたので、「今の仕事のままで良いのだろうか?」という気持ちだったのです。

NHKでは「プロジェクトX」という番組で、普段あまり日の当たらない仕事に、ドラマチックにスポットライトをあてて賞賛しましたが、そうした話題になるような巨大なトンネルを掘ったり、世界に通用する製品を開発したりする仕事でもなく、地味で毎日コツコツ働いている人が実際はほとんどでしょう。エッセンシャルワークの多くもそうした地味な仕事です。

結果的に、私はエッセンシャルワークに就くことはなく、社会人としてはそれが唯一残念に思うところです。

仕事を選ぶときに、こうしたエッセンシャルワークに限定して探す人は多くないと思いますが、仕事に就いて、それが長くなり深まって行くにつれ、「今の仕事は・・・」って考えることになります。

将来のリストラや、大きな社会の変化で仕事を失ったり、なくなってしまうことを考えると、まさにエッセンシャルワークとそうでない仕事には平常時には見えない大きなラインがあるのではないかなと思います。

と、同時に、自分がやってきた仕事が、「経済や社会にとってどれほどの影響力があるのか?」ってことを考えるようになり、コロナ自粛中に、ジックリと振り返ってみると、「自分の仕事は世の中になくても良い?」インシデンシャルワーク(Incidental work 些末な付随的な仕事)なのかもって思い悩むことがあるかもしれません。

それにしても「エッセンシャルワーカーに感謝しよう!」という運動や行動が賞賛されていますが、それを見る度に、感謝するのと同時に、それ以外のワーカーは感謝される仕事ではないのかなぁーとちょっとひねくれた思いもよぎりました。

【関連リンク】
1009 兼業禁止規程はいつ禁止されるか
926 在宅派遣就労が拡がる可能性はある?
844 内職・副業詐欺など



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1463
螺旋の手術室 (新潮文庫) 知念実希人

2013年に「ブラッドライン」というタイトルで単行本が発刊され、2017年に文庫化されたときにタイトルが変更されました。

著者の作品は今年4月に「仮面病棟」を読んでいて、これが2作品目です。

2020年4月後半の読書と感想、書評「仮面病棟」

著者は現役医師ということで、医療サスペンス小説が多く、この作品も大学病院で手術中の医療事故と大学の教授選挙と関係している?という白い巨塔の中でのドロドロとした人間関係が描かれています。

前の「仮面病棟」でもそうでしたが、「一番怪しくない人物が犯人」というミステリーの鉄則はこの著者さんには強烈に強く生かされていて、終盤の謎解きで「おぉ、そういうことか」と感嘆します。現実的ではあり得なさそうですが、そうした読者にアッと言わせるストーリー構成はお見事です。

個人的には、こうした現役医師が書いたシリアスな医療ミステリーは、渡辺淳一氏、帚木蓬生氏、久坂部羊氏、海堂尊氏などの小説を数多く読んできましたが、その中では夏川草介氏の「神様のカルテ」のような、ミステリーではない、ほのぼのとする小説が好きです。

余談ですが、その「神様のカルテ」シリーズは、最近出てないな~と勝手に思っていたら、「神様のカルテ0」(2015年)、「新章 神様のカルテ」(2019年)と出ているのですね。買ってこなくっちゃ。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

中高年シングルが日本を動かす 人口激減社会の消費と行動 (朝日新書) 三浦展

2015年~2017年の各種統計調査から描き出した日本の人口構成や消費傾向、将来推定などを分析したことをアナリストがわかりやすく解説した2017年に発刊された新書です。

タイトルの「中高年シングル・・」はちょっと釣りタイトルっぽい感じですが、晩婚、未婚の人が増えていることと、離別・死別を含めて、今後もさらにシングル世帯が増えていくことで、ライフスタイルやそれにともなう経済が従来の形から変わってきたということです。

ただしこれらの調査は、過去のものであって、必ずしも将来を見通しているわけではないということ。当たり前ですが。

人口構成などはそう短期間で変化することはないものの、購買意欲や傾向は、今回のコロナ禍でよくわかる通り、大きな災害や流行、外交問題などが起きれば短期間でガラリと変わってしまいます。

さらに今後、年金の減額や、医療費負担の増減、定年延長などの雇用体制の変更、外国人労働者の流入など、様々な変化に対して、人がどう動くのかという点はまだ十分に明らかではありません。

そして、制度が変わったからと言って、やり直しがきく若い人ならばともかく、中高年者にできる対策というのは極めて限定的です。

それゆえにみな老後の心配が拭えず、高齢者はますます貯蓄に励み、資産の年代格差が広がっていく最大の要因なのだろうなぁって思います。

ちょっとしつこいな~と思うのは、某大手広告代理店(H報堂と思われる)の調査報告で、「高年収女性は結婚できない」という間違った決めつけを、何度も何度も繰り返して否定し、それを発表したアナリストをとことんバカにしていること。

この大手広告代理店にはなにか因縁があったのでしょうか、そこまで何度(4~5カ所で繰り返している)もグチグチ書かないで、ひとこと「誤りだ」だけでいいです。個人的な恨みは読者は関係ないので。

★★☆

著者別読書感想(三浦展)

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スケアクロウ(上)(下) (講談社文庫) マイクル・コナリー

この著者の作品では刑事 「ハリー・ボッシュシリーズ」や、刑事弁護士「ミッキー・ハラーシリーズ」が有名ですが、この作品の主人公は過去に「ザ・ポエット」(1996年)で主人公だった新聞記者ジャック・マカヴォイが主人公の犯罪ミステリー小説です。

また他のシリーズでも時々登場するFBI捜査官レイチェル・ウォリングが準主役として登場します。

原題は「The Scarecrow」で、初出は2009年、翻訳版文庫は2013年に発刊されています。

ストーリーは、ひとことで言うと最新のデータセンターを運営する会社の管理者と、殺人事件でえん罪事件を調べる新聞記者の対決という構図です。

コナリーの犯罪小説は、悪役がいつも徹底していて、頭が良く、過去の犯罪歴はなく、しかし極めて凶悪という印象です。

この小説でも、MIT出身の天才的な頭脳を持ち、伸び盛りの企業で役員を務めながら、子供の頃のトラウマを抑えきれずに、完全犯罪に近い凶悪犯罪を繰り返すというパターンです。

上記のハリー・ボッシュ自身も子供の頃のトラウマをずっと抱えてきましたし、アメリカの闇というか、そういうパターンが多くちょっとワンパターン化しているかなという印象です。

タイトルは、企業の重要データを保管するデータセンターを農場と例え、果実=データを荒らしにやってくる害鳥≒ハッカーから守るスケアクロウ(かかし)が、データセンターの最高技術責任者の役目という意味です。

実はそのスケアクロウ、もうひとつの意味が隠されているのですけど、それは読んでからのお楽しみということで。

★★☆

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

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さよならの手口 (文春文庫) 若竹七海

初めて読む作家さんの推理小説ですが、あとで調べてみてわかったのが、以前NHKで放送されたドラマ「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」の原作だということ。

ドラマはチラッと見ただけですが、小説を読んでイメージした主人公とかなり違っているな~という感じです。

というのもドラマの主人公役のシシド・カフカは、ハーフで帰国子女で歌手でドラマー、モデルもこなす身長175cmと大柄でスマート。

一方の小説では体型とかは出てきませんが、色気も男っ気もなく、貧乏なので古いアパートをリフォームしたシェアハウスでフリーター生活をしていて、仕事中に古い家の押し入れの床を踏み抜いて下へ落ち、足から上に引き上げてもらうおっちょこちょいな40歳を過ぎているおばさんというイメージ。ね、落差あるでしょ。

著者は1991年に作家デビューし、数多くの推理小説を出していますが、大きな賞とはあまり縁がなく(2013年日本推理作家協会賞 短編部門受賞)、今まで書店でもあまり見かけませんでした。

評論家にはいまいちうけなさそうですが、ミステリーが好きな人は、中毒になってしまいそうな軽めで、コミカルで読みやすいストーリーです。ただ登場人物が多く、どういう人だったっけと覚えるのが結構大変でもあります。

ストーリーは、元探偵の仕事をしていましたが、勤務先が廃業したため、探偵はやめて古書店のバイトをしている中、怪我をしたことから入院し、そこで知り合った元大女優の老婆から、20年前に家出した娘を探して欲しいと依頼を受けます。

しかしそこには、不可解なことが満載で、病み上がりのまま、その謎にいどんでいくわけですが、その本題の謎と並行して、別の問題も持ち上がってきたりドタバタが激しい感じ。

でもよくできたミステリー小説で、私もファンになりそうです。

★★★


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