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自宅の近所には大きな公営霊園があり、緑が多いので散歩をするにはもってこいの場所です。
公営霊園ですので、お寺さんの墓地とは違い、利用者の宗派は問わず、基本的にはよくある仏式のお墓が多いのですが、ところどころに、キリスト教や、無宗教?と思われる変わり種のお墓があったりします。
日本では、多くの人が、お葬式と言えば僧侶に読経してもらってというパターンが多く、特に意識をしていなくても、先祖代々宗派は仏教徒ということになっているのでしょう。
一方では、お正月には初詣に神社(神道)へお参りに行き、クリスマスには恋人や家族とキリスト誕生を祝い、結婚式は神前またはキリスト教会で執り行うっていうのが日本人のもっとも多いパターンなので、実際はなにを信じているのかよくわかりません。
ま、八百万の神信仰ってことでしょうけど。
世界の国々を見渡すと、そのあたりが日本とは大きく違ってきます。
世界の主要宗教の信徒数を比較すると下記のグラフのようなシェアになります。
もうちょっと詳しく、宗教別の世界の地域別信徒数の表です。
仏教徒数は世界ではキリスト教、イスラム教、ヒンズー教に次いで第4位、神道は当然ながら日本ローカルなものなので、民族宗教としてまとめられています。中国ローカルの宗教は、人口が多いだけに仏教の次、第5位に入っています。
仏教はご存じの通り、インドが発祥ですが、現在インド国内ではヒンズー教が人口の8割を占め、次にイスラム教、仏教はその次の座をキリスト教と競っているという感じです。
ユダヤ教は、経済や金融の話しの時によく聞きますので、もっと大きなシェアがあるのかと思っていたら、意外と小さいですね。ただ西アジアに位置するイスラエルの人口(約880万人)の75%がユダヤ教信者と言われています。
日本国内の宗教別信徒数はと言うと、下記の表のようになります。
信徒数全部足すと日本の人口よりも多い1億9千万人になるじゃない!って言われそうですけど、仏教徒と神道信者、または新興宗教など諸教信者のあいだで信者がかぶっていることから起きていると思われます。
仏教も神道も、特に入信するのに資格が必要とか、入信者名簿があるわけでもなく(昔はというか今でも檀家制度はありますが)、基本は自己申告でなれちゃいますから、そういうことが起きるのでしょう。八百万の神です。
否応なく日本に入ってくる外国人が増えていくことで、こうした今までのユルユルの日本人特有の宗教思想が、国内で今後どのように変化していくのか注目です。
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最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
8人の作家が書く8編のアンソロジー風短編集で、2008年に刊行されました。
収録されている短編は、「春太の毎日」三浦しをん、「ヒトリシズカ」谷村志穂、「海辺食堂の姉妹」阿川佐和子、「スケジュール」沢村凜、「LAST LOVE」柴田よしき、「わたしは鏡」松尾由美、「キープ」乃南アサ、「おかえりなさい」角田光代と、お馴染みの売れっ子作家さん大集合です。
ただし、タイトルやその副題に騙されて、大人のしっとりした深い恋愛や、激しく燃え上がる感情や、ベタベタした甘ったるい関係を期待して読むときっと肩すかしに合います。
いずれの作者も、そこは海千山千のテクニシャン?だけあって、最後の恋をテーマにした短編を書くと、一筋縄には終わりません。
ミステリーなものもあれば、ちょっとホラー?的なものもあり、淡々と始まり淡々と終わるものはありませんから、それなりに楽しめました。
その中で個人的に好きだったのは柴田よしき著の「LAST LOVE」かな。阿川佐和子著の「海辺食堂の姉妹」も良かった。
でもこういう短編の競作スタイルにすると、それで飯食っているプロの作家さんは、他の作家さん、特に「誰々さんには絶対負けたくない!(面白いものを書く!)」という思いが前面に押し出てしまい、なんだかえらく肩に力が入りすぎているかな?と感じるような作品もあったりして、人気作家を集めた競作というのは難しいものです。
★★☆
◇著者別読書感想(乃南アサ)
◇著者別読書感想(三浦しをん)
◇著者別読書感想(角田光代)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
よろずのことに気をつけよ (講談社文庫) 川瀬七緒
2011年に江戸川乱歩賞を受賞したこの作品は2011年に単行本、2013年に文庫本として発刊されています。この方の著作を読むのはこれが最初です。
著者はフリーで服飾デザイナーをし、さらに作家活動もして「法医昆虫学捜査官シリーズ」というちょっと毛色の変わった作品などを書いています。
この小説はシリーズ作品ではありませんが、主人公は毛色の変わった文化人類学、その中でも特異な呪術を専門に研究しているという貧乏な独身の学者です。
実は、なにを隠そう、隠していませんが、1988年から連載が始まったコミック「MASTERキートン」に憧れ、フィールドワークをする考古学者っていいなぁーとずっと思っていた考古学者ファンです。
考古学と文化人類学とはだいぶんと違ってそうですが、もし、同コミックを読むのが10年早かったら、そうした武闘派の学者の道を目指していたかもです。
もちろん、そんな簡単にはなれないし、平凡な学者だと収入だってずっと低いというのは知っていますが、なにか夢とロマンがかき立てられます。
少し前に読んだ前野ウルド浩太郎著の「バッタを倒しにアフリカへ」の前野氏と同様、フィールドワーク派の考古学者ってなにか最高です。
それはさておき、この小説のストーリーは、女子大生がこの呪術を専門に研究する学者の家にやってくるところから始まります。
その女子大生は一緒に暮らしていた祖父が何者かに惨殺され、それが呪術と関係しているのではないかと考え、それに詳しい主人公の元を訪ねてきたということです。
学者と、女子大生が、祖父のことをいろいろと調べまわり、祖父が隠していた謎の行動や、奇妙な殺され方に迫っていくというもの。
最後の方は、スリルとサスペンスで、テレビの安物の2時間ドラマのように、犯人がその謎について訥々と語っていくというのはちょっといかがなものかって気もしますけど、それを除いても全体にとても新鮮で面白かったです。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
嘘ばっかり (新潮文庫) ジェフリー・アーチャー
原題は「Tell Tale」、直訳すれば「告げ口」とでも訳せるのでしょうか、お得意のショートショートを含む短編小説集で、2017年に発刊、翻訳版は2018年に刊行されています。
2011年から2016年まで続く7部作の大作「クリフトン年代記」のあとに書かれたのがこの作品となります。
収録されている作品は、「唯一無二」「最後の懺悔」「オーヴェル-シュル-オワーズの風景」「立派な教育を受けた育ちのいい人」「恋と戦は手段を選ばず」「駐車場管理人」「無駄になった一時間」「回心の道」「寝盗られ男」「生涯の休日」「負けたら倍、勝てば帳消し」「上級副支店長」「コイン・トス」「だれが町長を殺したか?」「完全殺人」「次作についてのお知らせ」となっています。
「ケインとアベル」や「クリフトン年代記」のような長編小説も良いですが、ウィットの効いた短編作品も数多く書いていて、どれも好きです。
ところが、今回の短編集はというと、わずか1ページ(英語で100語、翻訳した日本語で250語)で完結するものもあれば、結構な枚数のあるものまで多彩です。
内容も、過去の短編同様、最後のオチでニヤリとさせるものもありますが、繰り返し読んでも、オチはなんなの?と意味不明なものまであって、ちょっとどうしたの?って感じがしました。
作品には、現実にあったことを下敷きにしたものとまったく創作で作ったものが区別されていましたが、それは読み手にとってはどうでもよく、できれば同じ短編集に入れるのならば、似通ったものにしてほしかったです。
つまりウイットの効いたコミカルなものと、実話を元にしたシリアスな人生ドラマがごっちゃになっていて、一気に通して読むのがつらかったです。
どの短編が面白くて、どの作品がさっぱりわからないかというのは、書きませんが、読み手によって、思いがそれぞれ違ってくるというのが狙いなのかも知れません。
また最後に、次作の長編小説「運命のコイン」のプロローグとして、次作に期待させる、早く読みたくなるような、商売上手な短編がありました。
★★☆
◇著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
人生に生きる価値はない (新潮文庫) 中島義道
元大学教授でカント研究など哲学者の著者の作品は好きで、過去には「対話のない社会」(1997年)、「どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」(2004年)、「私の嫌いな10の人びと」(2006年)、「「人間嫌い」のルール」(2007年)を読んでいます。
このエッセイ集は2009年に単行本、2011年に文庫本が出ています。ちょうど、国立大学の教授職を定年で退官される直前に書かれたものです。
とにかく、行動と言論が独創的でかつ過激な方で、団塊世代の中でも突出しているなーと感じますが、言っていることは決して間違ってはなく、考えさせられる内容です。
でも時々は、話題から外れ、うるさ型オヤジの愚痴っぽい話しも顔を出し、相変わらずの内容ですが、最初にこの著者の本を読むと、ちょっと引いてしまうかも知れません。
本文中に「まもなく国立大学を定年で去るので、その前に準備として哲学塾を開講すべく有料で始めた」というのがあり、「公務員の副業って認められているんだっけ?」「当然なんらかの許可を得ているのだろう」と思って先を読み進めると、やはり大学の事務局から兼業規程のクレームがつきました。
自分からそんな恥ずかしいことを書いているので、悪気があったわけではないのでしょうけど、「そんな基本的なことも知らずにやっていたのか?」と、専門の学問に対して頭は素晴らしく良いのかもしれないけど、世知に疎い学者先生というのを知って笑ってしまいました。
国立の大学教授が書籍を出し印税収入を得たり、講演会で謝礼をもらったりするのは、副収入という扱いで副業ではないというのが通説ですが、学校とは別に塾を開き、お金を取れば立派な副業(事業)となるでしょう。その線引きは微妙な感じもしますけど。
この著者が毎度必ず著書に書く「街中や電車内での放送騒音」について、普段通勤で乗る電車でもまったく同感で、過剰すぎる大きなお世話的案内や注意・警告などの改善は進むどころか、年々ひどくなるばかりです。
少し古い記事ですが、下記に著者が詳しく書いています。
日本で「お節介な注意放送」が流れる根本理由(東洋経済ONLINE)
それ以外にも、電車内で化粧する女性について、著者が過激な対応が書かれています。私は、お化粧は放送と違って、見ないようにすれば見なくて済むので別に気にはなりませんけど、不必要にがなり立てる車内放送は、イヤホンを耳に突っ込んで、大きな音で音楽でも流さないと聞こえなくできませんからいつもつらく感じています。
どこまでタイトルに沿った話しかという疑問はありますが、総じて著者の哲学論、個人的な思考法、胸のすく発言などを期待して読む分には面白いと思います。が、逆に読んでいると腹が立ってくる人もいそうで、単なる哲学本という位置づけではありません。念のため。
★★☆
◇著者別読書感想(中島義道)
【関連リンク】
3月前半の読書 弁護士の血、それでも、日本人は「戦争」を選んだ、雪の断章、バッタを倒しにアフリカへ
2月後半の読書 華竜の宮(上)(下) 、その時までサヨナラ、定年前後の「やってはいけない」 、悪童日記
2月前半の読書 家霊、転生、人口と日本経済、カエルの楽園、ベストセラー小説の書き方
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弁護士の血 (ハヤカワ・ミステリ文庫) スティーヴ・キャヴァナー
北アイルランド出身の著者が、ニューヨークを舞台にした2015年に翻訳文庫版が発刊された法廷ミステリー小説で、原題は「THE DEFENCE」です。まる直訳では「弁護側」という意味でしょうか。
弁護士が主人公の小説というのは、ジョン・グリシャム著の小説「法律事務所」(映画では「ザ・ファーム 法律事務所」)や「評決のとき」など、数々ありますが、私が好きなのは、マイクル・コナリー著の「リンカーン弁護士シリーズ」の主人公ミック・ハラーです。
この小説と同様、弁護士なのに割とハードボイルドっぽい印象ですが、刑事「ハリーボッシュシリーズ」と同じ著者なので、その流れということがあります。
主人公は元保険金詐欺師であり、その後は立ち直って敏腕弁護士として活躍していましたが、ある裁判で加害者の無罪を勝ち取ったことで新たな犯罪を誘発してしまい、それがきっかけでアル中となってしまい、妻子とも別居している状態。
そんな時に、子供が誘拐されたうえ、自分の身体にリモート式爆弾のベルトを巻かれ、ニューヨークで暗躍しているロシアンマフィアのボスの裁判に被告弁護士になるよう強要されます。
裁判で証言に出てくる殺人の実行犯を爆殺するという目的ですが、そこは元詐欺師、口八丁手八丁で、証人を爆殺するよりもっと良い手があると、マフィアの信用を得ていきます。
ま、こうした小説ではハッピーエンドが当たり前ですから、結果は明らかですが、その弁護士の手口やマフィアを相手にして煙に巻くところに読者はきっと歓声をあげたくなるのでしょう。
おそらくこの手の小説は、あわよくば映画化されて一気にメジャーになっていくことも考えられているのでしょう、ニューヨークの裁判所を爆破するなど映像化するにあたっても見所満載に作られているのはご愛敬という感じです。つまらないハリウッド映画の見過ぎでしょう。
この不死身の主人公のシリーズ、その後何作かは続くようですが、今のところ翻訳版はでていないようです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫) 加藤陽子
著者は歴史学者で東京大学教授というエリート学者さんで、この著書は2009年に単行本として、2016年に文庫版が発刊されています。
この著作は、高校生に対し、日清、日露、第一次、第二次世界大戦(太平洋戦争)の4度もの戦争へ突き進んだ日本の国内事情や、中国や欧州を初めとする世界の状勢、思惑などを、資料や日記を元にしてわかりやすく解説した講義録という形式です。
今時の高校生で、日清・日露・第一次世界大戦のことを知っている人はいないだろ?と思いますが、この講義に出てきた高校生達(エリート進学校)は、相当に事前勉強してきたのか、著者の質問に対して的確な回答をしていて驚きです。
私も、中学生や高校生で歴史を学んだ時は、せいぜい明治、大正時代ぐらいまでで、第二次大戦まではたどり着いていませんでした。
その一番近い第二次世界大戦でも、20才以下の若者にとっては、「え?日本とアメリカが血を血で洗う戦争をしたって?うそでしょ~!」ってところでしょう。
こうした歴史の話しは、講義をする人(及び、その先生や家族、友人など周囲の人)の思想や信条が嫌でも反映されるのと、参考にする記録や文献もそうした自分の思想信条に合致したものだけを集めて使うことで、いくらでも偏った内容にすることができます。それゆえいかに公平性を保てるかが教師の腕の見せ所でしょう。
それは現在の新聞やテレビ放送も同じことで、各々が主張したいところだけをつまんで記事にしたり放送することで、読者や視聴者が勝手にそれが真実だと思ってくれます。
なので、こういう歴史講義というのはとても難しく、ある人にとっては「そうなんだ」で済みますが、ある人にとっては「いや、まったく違っている」と思うこともあるわけです。
なので、高校生にこうした生々しい歴史を自分の解釈を元に教えることよりも、「事実だけを並べ、あとは自分の頭で考え、疑問を次々と出す」という訓練がより重要なのかも知れません。
この本を読んでいて、決して嘘は書いていないと思いますが、自分の頭で考えるより先に、先生が「たぶんこうだっただろう」という話しが多く、高校生達に自分の想像を誘導している感じが少しして、まだ頭が柔らかで思想も固まっていない高校生には危険かもなぁってちょっと思いました。
しかし一般的な大人でも知らなかったことが多く「こういうことだったのか」「いやでもそれはちょっと違うぞ」と、自己責任で考えられる人が読めば、たいへんよい刺激剤となりそうです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
雪の断章 (創元推理文庫) 佐々木丸美
著者は北海道出身で、2005年に56歳で亡くなられています。この小説は、1975年に単行本(文庫版は2008年刊)が発刊された著者のデビュー作です。
また監督に相米慎二、主演が斉藤由貴と榎木孝明で、35年前になりますが1985年に公開された映画「雪の断章 -情熱-」の原作となっています。
物語にスピード感はなく、かなり長い小説(文庫版429ページ)で、途中で何度もイライラ感が募りましたが、心の揺れ動きを表しているのでしょうけど、何度も同じようなことで話しが行ったり来たりし、まどろっこしい感じです。
主人公は、両親がわからず物心が付いた頃から孤児院で過ごしていた女の子と、その子が養子に出されたあと、その家の同い年の子と仲違いし、養子先の家を飛び出し、札幌の大通公園を彷徨っていたところで助けられた若い男性です。
孤児や孤児院のことは今までの人生の中では縁がなく、よくわからないのですが、孤児になると、ここまで、誰も信用せず、相談もできす、内向的になり、ひねくれるものなのか?という主人公の設定に無理があるかも。
小説の上で、「孤児だから」というデフォルメした性格付けにしたかったのかも知れませんが、ちょっとやり過ぎな感じです。
もし「孤児ならこういう考え方をするだろう」とか、著者が勝手に考えて書いたのならば、なんでもOKな小説としては良いのかも知れませんが、実際に孤児だった人が読むと、これは共感ではなく失望を覚えるかも知れません。
そうした孤児が子供から大学生へと成長していく過程で、身近なところで大きな事件が起き、やがては育ての親の独身男性に恋心を抱いていくという、ミステリー要素も少し加わった恋愛小説という感じです。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書) 前野ウルド浩太郎
著者は芸能人ではなく、日本の農学者であり昆虫学者の方で、1980年生まれと言うから今年で不惑の40歳、研究者としては若い方です。
実は、表紙(カバー)に載っているバッタのかぶり物をした著者らしい人物から、売れないお笑い芸能人が、ネタとして本を書いたぐらいにしか思ってませんでした。
本書は、2017年に出版され、中央公論・新書大賞などいくつもの賞をとった作品です。
タイトルがユニークで、この書籍はどういうジャンルに分けられるのかと調べたら、Amazonでは「科学・テクノロジー>生物・バイオテクノロジー」というジャンルでした。
このジャンルに多い「人体の進化」や「植物図鑑」などからだと、ベストセラーはあまりないような気がします。出版社もきっと冒険だったでしょうね。
大学4年、大学院2年、博士課程3年を生物学を究めていき、いわゆるポスドクとして、本来なら大学や研究機関等に就職するパターンが多いそうですが、質の高い論文を書いて海外のサイエンス雑誌に掲載されたような人でないと、なかなか希望する先へ就職できないそうです。
著者はその中には含まれず、しかも昆虫、その中でもバッタに恋したばかりに、国内での需要はなく、2年間の研究費を得てアフリカのモータリアへフィールドワークに出掛けることになります。
そうしたアフリカへ行くことになったいきさつや、アフリカでのフィールドワークや生活の話しがメインですが、とても面白く興味がわきます。
私自身は子供の頃は山の麓の田舎住まいでしたから、昆虫とは友達で、バッタやイナゴはいつも身近な存在でした。しかし大人になってからは、もう目にすることもありません。
そうそう、ネットの記事で、バッタのソフトクリームとかいうのを見て「えぐぅー」と思ったぐらいです。
読んでいると、東北の田畑を荒らすトノサマバッタの大量発生を描いた、西村寿行著「蒼茫の大地、滅ぶ」(1978年)と、それを原作としたコミック(田辺節雄作)が出てきました。当時高校生時代、両方とも読んでいて今でも強く印象に残っています。
国内では最近そうしたバッタの被害は起きていないそうですが、アフリカでは大規模な発生が起きているそうで、先進国からの支援でその対策や研究が進められているそうです。
但し、実際にアフリカの厳しい環境のフィールドで、研究する学者は少なく、それに価値を見いだした著者の奮闘が感動モノで笑えもします。
そのようなことを書いていたら、ニュースでバッタ大量発生の記事を発見しました。
パキスタンでバッタ大量発生 過去30年で最悪の作物被害 2020年3月8日(AFPBB News)
パキスタンでバッタが大量発生し、国内の農業地帯では過去30年間近くで最悪の被害が出ている。特に農業の中心地で作物が壊滅的な打撃を受け、食料価格の急騰を招いている。 |
著者はさっそく駆けつけているのでしょうか?
★★★
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華竜の宮 (ハヤカワ文庫JA)(上)(下) 上田早夕里
2010年に単行本、2012年に文庫化された、長編SF小説です。著者は女性としては珍しい、本格的なSF小説やホラー小説などを書かれています。私がこの著者の作品を読むのは初めてです。
最初購入したときは、宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」や上橋菜穂子の「精霊の守り人」のような、女性作家さんに多そうな甘ったるいファンタジー小説かな?と思っていましたが、違いました。ついタイトルにそのような甘ったるさを感じてしまったもので。
プロローグでは、現代の社会で地球上のプレートなどに異変を感じ取った科学者が、将来起きるかも知れない最悪の事態について憂慮を表明してます。
そこで物語は一変し、遠い未来の地球は、海面が260m上がり、今まで内陸部だったところはすべて水没してしまい、標高の高い山の部分だけが残ります。
環境が大きく変わり、人類の数も大きく減り、残された陸上で生活する陸上民と、水の中でも生きられるように遺伝子操作で作られた海上民が棲み分けています。
この小説の場面設定で、すぐに思い出したのは、ケビン・コスナー主演の1995年の映画「ウォーターワールド」です。
この映画はまさに、地球上のほとんどが海水に覆われてしまった未来、海の中でも生きられるように進化した主人公が、海上に人工的に作られた構造物で悪党と死闘を繰り広げる物語でした。ある程度はそこからインスピレーションを得ているのだろうと思われます。
主人公は、日本の外交官で交渉のスペシャリストということになっていますが、このSF小説とは別に、ネゴシエーターの役割とテクニックなどを取り上げて、現代でも通用しそうなハウツー書とも言えるかも知れません。
最初のうちは想像を絶する世界に変わってしまった中に入り込むことができず、なかなかページが進みませんでしたが、上巻が終わる頃には、早く次が読みたくなるほどワクワクしてきます。
二酸化炭素排出の環境問題や、エネルギー問題、その他地震や火山噴火、台風など、地球上には諸問題がありますが、それらよりもっと大きく、人類にはとうてい対応ができない地球内部の異常現象という問題がテーマだけに話しは壮大なものとなっています。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
その時までサヨナラ (文芸社文庫) 山田悠介
最初は自費出版だった「リアル鬼ごっこ」(2001年)で大ブレークを果たしたユニークな作家さんの、2008年単行本、2012年に文庫化された長編小説です。
主人公は出版社の新刊書籍の編集員で、まだ売れない時代の作家と二人三脚で作品を磨き、今では売れっ子作家とその才能を見いだした編集者という輝かしいキャリアを誇っています。
一方では、仕事に没頭しすぎ、家庭を顧みず、妻とは喧嘩ばかり、まだ幼い子供とも疎遠状態が続き、妻は子供を連れて実家へ帰り、別居状態となってしまいます。
そこに試練が待ち受けていて、その人気作家から預かった新作短編小説を同行していた部下で愛人の女性がなくしてしまい、今まで仲が良かった作家から絶縁状を突きつけられます。
同時に、実家に帰っている妻が、福島へ出掛けている時に東日本大震災に遭い、列車事故で亡くなってしまいます。
ここまでがやっと前半部分で、これから思いもよらない展開が主人公に待ち受けているという、なかなか読ませる切ないような心温まるような小説です。
ま、小説ではよくある、しかし現実ではありえねぇー!っていう話しですが、現実だけをドラマにしてもたいして面白い展開にはなりませんからね。
タイトルは、それを説明すると、オチまでわかってしまいそうなので、あえて書きません。
私は別に出版業界には縁はありませんが、同じく家庭を顧みずに働いてきた社会人として、久々に、主人公に思いっきり感情移入してしまいました。たまにはそうした小説も、たまったモヤモヤを吐き出せて良いものです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
定年前後の「やってはいけない」 (青春新書インテリジェンス) 郡山史郎
2018年発刊の新書です。著者は、ソニーや米国シンガー社などに勤めた後、自ら人材紹介業を起業された方で、現在80代半ばという元気な高齢者です。
とにかく、よほど、ソニーで役員経験をしたことがご自慢と見えて、書籍の中でも何度も繰り返してその話しが出てきます。そうした過去の経歴を自慢する人って、「雀百まで踊りを忘れず」なのでしょうか?ちょっと意味が違うかな。
ま、著者は一橋大卒で、違いますが、例えば東大卒の人は、例えホームレスになっても「東大卒」を主張しますから、輝かしい時代の自分は忘れ得ず仕方ないことでしょう。
そういう年代の方ですから、著者は「仕事第一」「死ぬまで働け」「健康の秘訣は仕事」「45歳が折り返し」的な考えの持ち主さんで、残念ながら団塊世代より10年若い私には、それらの主張にはまったく共感も同意もできないものばかりでした。
したがって、反面教師にはなるものの、今の普通の中高年に参考になる話しはほとんどありません。
確かに昨今では、老後は年金以外に2000万円不足だの、年金はやがて破綻するとか、様々危機感をあおられていますが、人の幸せや価値って、なにも身体が動かなくなるまで仕事をすることや、老後資金をたっぷり貯めるだけではないということをこの年代の人には理解できないのでしょう。
個人的には、「老兵は死なず、去りゆくのみ」で、高齢者は第一線からとっとと引退し、健康で元気であれば、仕事以外に自分がやりたかったことをしたり、今までできなかった家族サービスをしたり、国民誰から尊敬される尾畠春夫氏じゃないけど、人知れずボランティアでもしているのが良いかと。
いつまでもビジネス界で金儲けをするのは辞めて、これから結婚や子育てで、いっぱいお金がかかる後進にお金が回るよう任せて譲るのが、私が理想とする高齢者の本道です。
政治でも、プロスポーツでも、芸術の世界でも、もちろんビジネスでも、高齢者が妙に幅を利かせ、「まだまだ若い者には負けん」とか大言壮語し、若者の成長の邪魔をしているシーンをよく見かけます。だからいつからか、若者から尊敬されるご老人ではなく、老害と非難されるのです。
本書の感想ではなく、私の思いを書いてみましたが、読んでみてそのようなことを感じました。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
悪童日記 (ハヤカワepi文庫) アゴタ・クリストフ
著者はハンガリー出身ですが、21歳の時にハンガリー動乱が起こり、スイスへ移住した方です。この小説は、1986年に発刊され、著者の実質的なデビュー作です。日本語の翻訳版は、1991年に単行本、2001年に文庫版が出ています。
また2013年にはドイツとハンガリー合作で映画が作られていて、日本では2014年に公開されています。
物語の主人公は小学生ぐらいの年齢の双子の兄弟で、著者の子供の頃の実体験をベースにしているのだろうと思っていたら、この著者は女性で、まったくの創作のようです。
小説の舞台は、第二次世界大戦中のハンガリーで、ブダペストと思われる「大きな町」から、他国と国境を接する「小さな町」へ双子の子供達が疎開してきたところから始まります。
知りませんでしたが、ハンガリーは、大戦中、隣国のドイツに特に抵抗もせず、実質的に国を乗っ取られるという状態で、ドイツ軍が駐留していたのですね。
そうした不安定な国内事情と厳しい環境の中で、頼りにできない大人達をあてにせず、自分たちでなんとか生きていくために才能を発揮していきます。
こうした賢い子供達を主人公にした小説やドラマは、平和な日本製のものは、もういい加減飽き飽きしてますが、戦時中の外国という全然違った環境で読むと思わず「頑張れ!」と応援したくなります。
但し、子供が主人公だからと言っても、文科省推薦にはなりそうもないので、お子さんに読ませるのはやめておいた方が良さそうです。
最後に、双子の子供達は、迎えにやって来た母親や、死線を乗り越えてやってきた父親とも再開しますが、「えぇ~!」という意外な展開が待っています。いや~面白かった~
★★★
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家霊 (角川文庫) 岡本かの子
著者は、かの日本を代表するアーティスト岡本太郎氏(1996年逝去)の母親で、そのやんちゃな頃の太郎を柱に縛り付けておいて小説を書いていたという逸話が残っています。
またその生き方もぶっ飛んでいて、放蕩家だった漫画家の夫とは別に、愛人として自分の作品のファンという若い学生を自宅に住まわせるという、実質三人婚という奇妙な関係だったそうな。
時代は太平洋戦争前の昭和初期のことですから、そうした女性の生き方は様々言われたことでしょうけど、そうした突き抜けた精神は、ちゃんと息子の太郎に引き継がれていました。
普段よく通る川崎市内の多摩川沿いには、岡本太郎氏作の「岡本かの子文学碑」が建っていて、著者の名前は知っていたのですが、本を読むのは今回が初めてです。
本作品は短編集で、「老妓抄」「鮨」「家霊」「娘」の4編が収録されています。すでに著作権が切れて青空文庫でも読めますが、今回は2011年に発刊された文庫本で読みました。作品の初出はいずれも1930年代のものです。
軽い話しが多いのですが、当時(昭和初期)の社会がよくわかる興味深いものでした。
別に凄い人が出てくるわけでもなければ、ハッピーエンドでもないですが、庶民が日々の暮らしを淡々と過ごしていく中で、少しの波風が立って、、、という感じでしょうか。
なにか背筋に1本心棒が入っているかのような格調高い文章から、人の考えを類推するなど、学校の教材として使用されたりするのもなんとなく理解できます。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
転生 (角川文庫) 鏑木蓮
2014年に「殺意の産声」というタイトルで単行本が発刊された長編警察小説で、2015年に「転生」と改題されて文庫化されています。
京都(著者の出身地)府警に異動となってやってきた元警視庁の女性準キャリア警部(刑事)が、20年前にレイプ被害者としての過去を持つ40代の女性が、何者かに絞殺された事件に関わります。
なかなか、話しはこみ入っていて(でも登場人物が少なく、ややこしくはありません)、20年前の事件のことや、パラレルで語られる、もうひとり(二人?)の別のストーリーがあり、その平行線が最後で交差していくという、ミステリー小説に多く使われているパターンです。
謎解きというミステリーではなく、人が背負った運命というか宿命というか、そうしたことをひとりの刑事が、ひとつひとつはがしていき、露わにしていくという、読み進めると段々胸が重苦しくなっていく内容です。
ところで、調べても不明なのですが、著者(ペンネーム鏑木蓮)は男性?女性?よくわかりません。
過去には「白砂」「エンドロール」の2作品を読んでいますが、女性を主人公とする小説が多そうで、今回も男性はすべて脇役か悪人というイメージ。しかも女性の心理描写が細かくて丁寧です。
そうしたことから推測すると、女性作家さんという特徴を示しているのですが、ペンネームからすればどちらでも取れそうな名前ですね。
★★☆
◇著者別読書感想(鏑木蓮)
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人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書) 吉川洋
著者は東大名誉教授の経済学者さんで、この新書は2016年に発刊されたものです。
実はこうしたタイトルから、もう言い古されてきた「少子高齢化により人口減少が続き、日本経済は確実に縮小していく」という話しだと思っていました。
それがまるで違っていて、「過去の歴史からみても人口減少と経済縮小とは関係がない」「先進国の経済成長は、人の数で決まるものではなく、イノベーションによって引き起こされる」という話しがメインで、目からうろこ状態でした。
ここで言うイノベーションというのは、要約すれば、労働生産性を格段に向上さえすれば、GDPは上がるということです。
もっとわかりやすく言えば、人力でツルハシとスコップで道路を作っていたのを、ブルドーザーやショベルカーを使えば労働生産性は間違いなく大きく向上します。そのブルドーザーやショベルカーが(過去に起きた)イノベーションです。
そうしたイノベーションをこれからの日本で起こすことができれば、人口や労働人口が大きく減ってもGDPを上げることは十分に可能だということ。ただそれが一番難しく、世界中のビジネスがそれを狙っているのですけどね。
また、人口減少について、ある引用文が書かれています。
「現在では子供のない者が多く、また総じて人口減少がみられる。そのため都市は荒廃し、土地の生産も減退した。しかも我々の間で長期の戦争や疫病があったということでもないのである。・・人口減少のわけは人間が見栄を張り、貪欲と怠慢に陥った結果、結婚を欲せず、結婚しても生まれた子供を育てようとせず、子供を裕福にして残し、また放縦に育てるために、一般にせいぜいひとりか二人きり育てぬことにあり、この弊害は知らぬ間に増大したのである」
さて、これっていつのどこの国のことと思いますか?
この文章は、紀元前2世紀半ば頃、古代ギリシアの歴史家ポリビオスがギリシアのことを書いた文章なのです。
その古代ギリシアは、紀元前2世紀頃にローマに征服されるまでは、世界の一等国で、軍事、経済、文化、芸能、スポーツなど世界の中心地でした。オリンピックもその時から始まりました。
残念ながら、ギリシアはその後イノベーションを起こすことができず、またローマ帝国に支配され、衰退していきますが、日本は、こうした歴史を繰り返すことになるのか、それとも救世主や優れたリーダーが現れ、産業革命やインターネット以上のイノベーションを起こすことができるのか、考えさせられる本でした。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
カエルの楽園 (新潮文庫) 百田尚樹
2016年に単行本、2017年に文庫本が発刊された小説です。著者は、ジョージ・オーウェル著「一九八四年」をモチーフとした作品のような感じですが、著者の政治的スタンスを強く取り入れた、日本と憲法9条、日米同盟、自衛隊、朝日新聞などを寓話で揶揄した物語となっていて、従来の名著「永遠の0」のような感動小説を期待していては大きく裏切られます。
アマガエルはカエルの中でも小さく弱いので、周囲には様々な敵が多く、ある日、二匹のアマガエルが地域を跳びだし楽園の地を探しに旅に出ます。
そして、様々な辛苦を乗り越え、楽園と思われる地域にたどり着いたのですが、そこは昔激しく戦ったことがある鷲と協定を結び、他の外敵から守ってもらっている住民全部が平和ボケした地域でした。
しかし、鷲は年老いてしまい、「今までのように1羽だけで外敵から守ってやることはできない、もし守って欲しいのなら一緒に外的と戦え」と求めてきます。
その地域では、不戦の誓いがあり、戦うことが禁じられているので、鷲の提案を断り、やがては、近くの池から大きなウシガエルが、天敵の鷲がいなくなった地域へと迫ってきます。
ま、読者がどういう感想を持つかは、それぞれの立ち位置や考え方、思想によって違うでしょうが、少し極端とも思いますが、こうしたところから議論が始まるのも悪くはないかなと思います。
ここで特に強調されていることは、ポピュリズムというか、「不幸なことなど決して起きない」という、根拠のない自信を民衆に植え付けると、それがやがては民衆の中で熱狂となり、冷静な正しい判断など置き忘れ、もう引き返すことが容易でなくなるということ。
過去の歴史を見てもそういうことは何度も起きているだけに、今後そうはならないと言い切れません。
読んでいて、この小説は感動もなければ、決して気持ちよくはなれませんが、平和社会の中においても、心の片隅にこうした悲劇を持っておくことは無意味ではないでしょう。
★★☆
◇著者別読書感想(百田尚樹)
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ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫) ディーン・R.・クーンツ
1983年に単行本として、1996年に文庫本がそれぞれ邦訳版が出版されています。
いえ、別に私が小説を書いて、「夢の印税生活!」とか無謀なプランを立てているわけではなく、最近読んだ新書で、この書籍が「文章を書くのに役立つ」と評価されており、このブログを含め、文章を書くことが多いので、参考書代わりと思って買ってきました。
まずこの著者が書いた小説は、古くからの付き合いで、最初に出会ったのが、29年前、1991年に「ライトニング」を読んだのが最初です。SFミステリー小説でしたが衝撃的でした。
それ以来、すっかりはまってしまい、1990年代から2000年代にかけて22作品(32冊)を読んできましたが、ここ10年ぐらいは、飽きてきたのと、読む本の著者があまり片寄ってはいけないと思い、ご無沙汰していました。
そうした中で、上記のように突然新書で懐かしい名前が出てきたので、これは読まなくっちゃと古い本ですが探してきたわけです。
なるほど、小説を書いているけど、いまいち売れない、あるいは作品コンテストに応募しても入選できない、出版社へ持ち込んでも相手にされないという作家の卵たちに向けて書かれた指南書という体です。
具体的なテクニックや、テーマの選び方、プロットの作り方など、かなり細かく分けて書かれているのと、参考にすべき小説も紹介されていますので、その筋の真面目で素直な人には役立ちそうです(作家を目指す人に真面目で素直な人がいるかどうかはともかく)。
著者が特に力説しているのは、プロットの大切さと緻密さ、背景描写、登場人物の性格描写などに注意すべきという点や、書き出し部分で一気にワクワクさせる方法とか。
また作家になりたい人は、特定のジャンル小説ではなく一般大衆小説を書くべきと言っていますが、SF小説に特に偏って紹介がされているのが、なにか著者らしいところです。著者は1読者としてはSF小説が好きなんでしょう。
で、小説など書く才能もないし、もちろん書く気もない私にとってこの本は、役に立つか?と聞かれたら、それはほとんど役立ちません。
しかし一読者として様々な小説を読む上で、この著者はおそらくこういう考えでこのシーンを描いているのだろうな~とか、小悦の中で会話と説明のバランスがうまく配分されているな~とか、作家が苦労しながら創造していくバックヤードの一面が見られてそれはそれで良かったかな。
ただ、1983年刊の書籍だけに、ここで紹介されている「参考にすべき小説」は、当然にそれ以前のものばかりで、普遍的な良い作品が多いとは言え、すでに廃刊になっているものも多く、また40年近く前と今では読者の好みも変わっているでしょうから、実質的にどこまで役に立つものかはわかりません。
★★☆
◇著者別読書感想(ディーン・R・クーンツ)
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