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悪の法則(原題:The Counselor) 2013年 米
監督:リドリー・スコット 
出演者:マイケル・ファスベンダー、キャメロン・ディアス、ブラッド・ピット

監督は「エイリアン」(1979年)や「ブレードランナー」(1982年)など大ヒット作をいくつも出している名監督で、最近では「オデッセイ」(2015年)が最高に良かったです。

ストーリーはなかなか複雑で、有能な若い独身弁護士の男性が主人公ですが、友人から誘われて一度だけ麻薬ビジネスに手を出したことで、犯罪組織に狙われる身となり破滅していくというのがザックリした内容です。

ワイヤーマンという殺し屋が使う、路上にワイヤーを張ってバイク乗りの首をはねるシーンとか、首に巻き付けるとモーターで自動的に締めていく殺人具とか、かなり刺激的な内容を含み映画館ではR15指定だったそうです。テレビでの放映ではかなりの部分カットされている感じで、さほど残虐な感じはしませんでした。

カッコいいブラッドピットは珍しく脇役の出演で、途中までは主人公を助ける役目でしたが、自らも犯罪組織に追われ、悲惨な最期を遂げます。

またお色気たっぷりなキャメロン・ディアスは、映画公開当時41歳ですが、元々セレブだけあって富豪の愛人?を演じればまさに生き生きしています。

アメリカの上流社会と、そこに食い込み、やりたい放題の犯罪組織という構図が描かれ、どうも後味はあまりよろしくない感じです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

断崖(原題:Suspicion) 1941年 米(日本公開1947年)
監督:アルフレッド・ヒッチコック 
出演者:ジョーン・フォンテイン、ケーリー・グラント

太平洋戦争が起きた1941年に公開されたサスペンス映画で、日本での公開は戦争が終わった後の1947年でした。

毎度書きますが、戦争中によくこのような娯楽大作映画を作れるものです。こんな国に対し戦争を仕掛けるほうがどうかしています。

監督のヒッチコックは元々英国人ですが、ハリウッドに注目されて1939年にアメリカへ移り、すぐ後に作った「レベッカ」(1940年)でアカデミー作品賞を受賞します。

この作品はそのすぐあとに製作されたもので、アカデミー賞でジョーン・フォンテインが主演女優賞に輝いています。一番脂がのっていた時期のような気がします。

その主人公の女性は、上流家庭での令嬢でありながら、軽薄そうで不良っぽい男性にひかれてしまい、親の反対を押し切り駆け落ち同然で結婚します。

しかし夫はろくに働かず借金をして競馬場通い、やっと友人の会社に就職しても、その会社の金を詐取し、黙ったまますぐに辞めていたりして不信感がつのっていきます。

そうこうしていると裕福な女性の両親が亡くなり、莫大な財産を引き継ぐことになりますが、夫が妻の財産を奪おうと目論んでいるのでは?と思うようになり、心理的にどんどん追いつめられていきます。

サイコホラー的になってきて、いよいよヒッチコック監督お得意のパターンです。

ま、さすがに、夫役の大人気俳優ケーリー・グラントを極悪人に仕上げるようなことはないと最初から思っていましたが、それにしても破天荒な夫で、ハンサムだけどこういう男を旦那に持つとたいへんという教訓が満ちあふれています。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ミッドナイト イン パリ(原題:Midnight in Paris) 2011年 米(日本公開2012年)
監督:ウディ・アレン 
出演者:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス

パリで撮影したスペイン製作のアメリカ映画というややこしい権利関係で、監督と脚本を務めたウディ・アレンがアカデミー脚本賞を受賞しています。

内容も複雑で、見せ場はアメリカ人の主人公が、フランス人妻をめとりしばらくパリに在住していた時のこと、夜の道で迷い込み、1920年へタイムスリップし、作家を目指している主人公にとって憧れのF・スコット・フィッツジェラルドやジャン・コクトー、アーネスト・ヘミングウェイなどと出会います。

さらに、自分で書いた小説を見せに行ったガートルード・スタインのサロンではピカソやサルバドール・ダリとも出会うことで、この時代の華やかさと魅力にのめり込んでいきます。

一方では結婚したばかりの妻は、言動がおかしくなった夫に愛想をつかし、友人と浮気していて短い結婚生活に終わりがやってきます。

結局、なにが言いたいのかはよくわかりませんが、芸術の栄華を極めた1920年のパリの社交界を再現し、そこに迷い込んだ21世紀の主人公が舞い上がるという荒唐無稽なエンタメ映画なのかなぁというのが実感です。

こうした1920年代に輝いた芸術に造詣深い人が見るとまた違って見えるのかも知れません。

なお、タイトル名が似ている「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972年伊)は、マーロン・ブランド主演のエロチックな問題映画?で、まったく関連性はありません。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟


記憶にございません! 2019年 東宝配給
監督:三谷幸喜
出演者:中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子他

三谷幸喜の長編映画監督8作目で、フジテレビ開局60周年記念作品の同映画では、日本アカデミー賞の最優秀脚本賞(三谷幸喜)と最優秀主演男優賞(中井貴一)を受賞しています。

主人公は、品がなく横暴な総理大臣で、テラスで演説をしていた際、聴衆から投げられた石にあたり入院、記憶喪失になってしまうところから物語が始まるコメディ映画です。

記憶喪失になったことを総理周辺は必死で隠そうとしますが、今までの横暴さが影をひそめ、混乱していた政治も落ち着いてきます。

総理大臣の妻は、とっくに愛想を尽かしていて、秘書官と関係がデキていてそれが雑誌にすっぱ抜かれましたが、生まれ変わった総理大臣が今までの自分は間違っていた、許してくれと謝罪することで円満に解決していきます。

なんとノー天気な政治映画ですが、今の影絵みたいな存在感のない政治家を見ていると、例え横暴でも味のあるリーダーや、女性党首ながら男気?のある野党を国民は期待しているのかな?と思ったり。

いかにも三谷映画で、その内容になにか秘められたものがあるということはなく、めでたしめでたしで幕を閉じるのでした。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

戦場(原題:Battleground) 1949年(日本公開1950年) 米
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
出演者:ヴァン・ジョンソン、ジョン・ホディアク

1944年の大戦末期のヨーロッパ戦線が舞台で、バルジ作戦で大攻勢に出たドイツ軍とベルギー近郊のバストーニュで衝突したアメリカ軍第101空挺師団の小隊が苦戦を強いられつつ、天候が回復し、味方が支援に駆けつけるまで大きな損害を出しながら持ちこたえた「バストーニュの戦い」を描いた作品です。

以前見た「パットン大戦車軍団」のように個人のヒーローを賞賛するようなものではなく、傷つきながらも戦うしかなかった最前線の兵隊達の日々と苦悩、飛び交う砲弾や銃弾など、迫力あるシーンががよく表現されています。

アカデミー賞では脚本賞と撮影賞、ゴールデングローブ賞では助演男優賞と脚本賞に輝いています。

モノクロの映像といい、小隊単位での戦闘ということ、小銃など兵隊たちの装備が同じということで、テレビドラマで人気だった「コンバット!」とよく似た設定の映画です。

ただコンバットは1962年以降に作られたドラマや映画なので、こちらの映画をモチーフにしてヨーロッパ戦線でアメリカ地上部隊の小隊とドイツ陸軍の戦闘を描いたのかも知れません。

補充兵やベテラン兵、牧師や学者など、様々な出身や階層で構成された小隊の個人ひとりひとりの特徴がよく出ていて、なかなか見応えのある映画でした。

ただなぜか最前線で活躍していたはずの黒人兵士がまったく出てこなかったのは不思議です。監督の主義思想かな?

【関連リンク】
2021年5~6月 新選組(1969年)、座頭市と用心棒(1970年)、パットン大戦車軍団(1970年)、シング・ストリート 未来へのうた(2016年)
2021年3~4月 おしゃれ泥棒(1966年)、海賊と呼ばれた男(2016年)、天気の子(2019年)、心の旅(1991年) 、80デイズ(2004年)
2020年11~12月 48時間PART2/帰って来たふたり(1990年)、レディ・プレイヤー1(2018年)、こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(2018年)、天国は待ってくれる(1943年)

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1567
リタイアしたのは昨年6月なので、すでに1年以上経ちました。その間に起きた、マネー関連についての出来事を書いておきます。

早期リタイアは、リストラや会社の倒産のように、ある日突然通告(通知)されて、明日から路頭に迷うということはなく、特にマネーについてはあれこれ考え、「これならいけそう!」となれば初めて踏ん切れるものです。

頼れるのは、私の場合、一部は63歳から受給できる年金と、今まで貯めてきた貯金、投資用の株式ということになります。

私は退職時には役員に就いていたため、失業保険は受給できませんでしたが、雇用保険に加入していれば、ハローワークへ行って「再就職する気は満々です!」という姿勢を見せつつ、失業保険はもらうべきでしょう。

ハロワの職員達(窓口にいるのはほとんど非正規)は、できれば払いたくないという雰囲気で、偉そうにしていて険悪なムードですが、そういうのは一時の我慢です。

株式の評価額は、当然日々変動するのと、売却後には利益に対して税金がかかることもあり、決して大きくは見込まず、ここ5年間ぐらいの推移をみて「これよりは下がらない」という線と、売却益の2割の税金分を念頭に置いて計算しておきます。もし実際に浮けばちょっとしたボーナスです。

さらに株式は売る(売れる)タイミングというものもあり、すぐに引き出せる普通預金とは違います。これは結構重要な点です。

そして、退職後に待っている大きな支出です。

その前に、あっさりしていますが、下の記事が参考になります。

退職後に訪れる「3つの支払い」放置で起こり得る最悪の事態(Mocha)

その要点は、

(1)退職後の健康保険は国民健康保険に切り替わる
(2)退職後の年金は国民年金に切り替わる
(3)退職後の住民税は後払いシステム

です。

(1)の健康保険は、退職すると、多くの場合はそれまで加入していた健保の任意継続する人が多いかも知れません。これは国民健康保険料と比較してどちらが安く済むか?を計算してすぐに選択しなければなりません。

写真上:前年分の住民税が一括して請求
写真下:健保の任意継続請求(6ヶ月分)
任意継続の場合、今まで支払っていた保険料は半分を会社が負担していたため、会社を辞めると支払い額は基本倍額になりますが、上限があり一定額以上にはならないので、単純に倍額になるということではありません。加入している保険組合に聞けば教えてくれます。

国民健保は収入に応じた保険料が決まっているので、市区町村のサイトを見て計算することが可能です。

その二つを並べて選びますが、健保組合によっては様々なサービス(直営の健診設備や格安保養所、スポーツ・旅行補助金など)が充実している場合もあり、もし僅差なら健保組合のほうがお得な場合があります。

ただ気をつけないといけないのは、収入が一切なくても毎月結構な額の請求(引き落とし)が来ることになります。

また私のように扶養家族がいる場合、当然その分も加算されます。

私は、収入がないのに毎月支払う(振り込む)のも面倒なので、任意継続で、最初の2ヶ月分(8.6万円)と、その後6ヶ月分(約25.5万円)を前納しました。思わぬ金額のデカさに青くなって貯金をまとめて引き出すことになりました。

(2)の厚生年金から国民年金に変更については、私の場合、退職時にはすでに年金の支払期間60歳を過ぎているので新たな費用は発生しません。

もし60歳以前に退職した場合は、その月から第1号被保険者として国民年金保険料(1ヶ月16,610円)が必要です。さらにそれまで扶養家族の第3号被保険者の妻がいた場合、その妻の国民保険料も新たに必要です。

つまり扶養家族の妻がいる場合、退職して無職(無収入)になると、いきなり毎月二人分33,000円の国民年金保険料を負担することになります。1年間で二人分だと約40万円が必要です。デカいです。

(3)の住民税ですが、忘れがちですが後払いになっています。新卒で就職すると1年目は住民税の負担がなく、「意外と手取りが多い!」と喜び、毎月キッチリ使っていると、2年目から住民税がしっかり引かれて手取り額が減り「あれれ?」となってしまう経験をした人もいるでしょう。ハイ私のことです。

住民税は、勤務時代は前年分を毎月(12ヶ月)均等払いで給料から差し引かれていますが、退職して無収入になったとたん、御無体にも残り分(次の3月分まで)が一括して請求されます。

私の場合、6月退職なので、7月~翌年3月までの9ヶ月分の住民税(県民税、市民税)、およそ11万円(自治体や前年の所得によって違います)が一気にやってきました。

まだそれだけではありません。

退職後の4月以降、新たな住民税額の計算は前年4月~3月までの所得で計算されます。

私の場合は、前年度は4~6月まで3ヶ月間の勤務だったので、年間所得は少なく救われていますが、もし1月の退職で9ヶ月間の所得を元に住民税を計算されると、退職して無収入なのにその年の住民税額は結構な額になります。退職後すぐに払うか、翌年に払うかの違いだけですけどね。

たまに、大ヒットした漫画家さんが、一攫千金の慣れない高収入を手にして、家を買ったり高級車を買ったりして使いまくった後、翌年に住民税がドカッとやってきて慌てたという話しを聞きますが、これですね。

退職後1年以内にやってくる請求額は年間合計すると、下記の通り、約102万3千円にもなります(私の場合は60歳を超えての退職のため国民年金保険料は払わないので、約627,000円)。

健康保険料 510,000円(任意継続の場合、夫婦)
国民年金保険料 396,000円(60歳未満で退職の場合、夫婦)
住民税(前年の所得額と今期未払い期間による) 117,600円(私の場合)

退職直後の大きな出費は以上ですが、その他にも、

・通勤定期(現物や相当額)を支給してもらっていた人はそれがなくなる
・PCや携帯電話の貸与を受けていた場合は返却
・会社の福利厚生施設や割引購入、団体割引加入などが使えなくなる
・会社の寮や家賃補助があった場合は、引越したり、それがなくなる

などなど。

当たり前のことばかりですけど、今まで当たり前だった事柄が、退職して初めて気がついて不便になると言うことがありそうです。

例えば、昔、住宅を買った時に住宅ローン減税を受けるためと、足の手術をした時に高額医療費控除の確定申告をした時以外は年末調整で済ませてきましたが、退職後は自分で調べながら確定申告をする必要があります。これが結構面倒です。

最後に良かった話しとして、確定申告をした際、その年に支払った任意継続保険料(翌年3月までの半年分一括)の額が大きく、昨年度4~6月の3ヶ月間だけ働いて支払った所得税の一部が戻ってきたり、その前年の所得から保険料が差し引かれて大きく減じ、今年の住民税が下がりました。

面倒なことはなんでもやるべきです。それが身を助けます。

【関連リンク】
1547 リタイアして1年
1542 退職後初の健康診断は残念な結果に
1465 リタイア後、日々やってきたこと
1394 あと半年に迫ったリタイア準備



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1566
運命のコイン(上)(下) (新潮文庫) ジェフリー・アーチャー

原作は2018年に、日本では2019年に発刊された長編小説で、以前読んだ短編集「嘘ばっかり」(日本版2018年刊)にそのプロローグというか第1章がすでに書かれていたという変わったスタイルでした。

1960年代後半、旧ソ連に住んでいた親子のうち、父親が労働組合設立を進めていたことが発覚し、KGBに惨殺され、さらに母子にもその災いが起きそうになり、旧ソ連から脱出することになります。

港から外国船に密航して脱出する際、アメリカ行きかイギリス行きのどちらの箱に入るか、コイントスをして決めることになります。ここまでが、第1章です。

そしてその後は、「ケインとアベル」や「クリフトン年代記」などとも共通する、貧困と絶望からの復活と成功物語が展開していきますが、これまたスタイルが変わっていて、アメリカへ渡った場合と、イギリスへ渡った場合が、同時並行で語られていきます。

最初はどうなのよーと思いましたが、まるでそれぞれが別人格の物語で、よく考えられていて楽しめます。

まだ未読の方もいると思いますので、クライマックスは書きませんが、米英それぞれに向かって成功した二人の主人公が、同時期に生まれ故郷のレニングラードに向かいます。

著者の長編ではお馴染みの主人公を徹底的に貶める悪役はソ連時代にはKGB将校で迫力ありましたが、渡米、渡英後は、同級生のライバルだったり、仕事上の元社長だったりで迫力不足、どちらかと言えば、都合の良い味方が多く出てきて安心して読めますが、ドキドキ感は薄まっています。

長さも、第7部あり、しかもそのほとんどが1部あたり上・下巻ある「クリフトン年代記」と比べると、中篇か?って思うぐらいの分量で、サクッと読めてちょうど良い感じです。

著者が描く「政治家とビジネスマンの成功物語」は、ちょっとワンパターンで飽きてきましたが、なかなか面白かったです。

★★★

著者別読書感想 ジェフリー・アーチャー

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫) 松岡圭祐

2ヶ月前に読んだ「黄砂の籠城」(2017年)のすぐ後に発刊された歴史長編小説で、タイトルでもわかるように、この二人が主人公です。

シャーロック・ホームズの小説は、子供の頃に読んだぐらいであまり詳しくないのですが、1891年から1894年まで主人公ホームズが行方不明(著者アーサー・コナン・ドイルが作品を書かなかった)だった時期があり、その時期に実は明治時代の日本へ渡って大きな事件を解決していたという想定です。

一方の伊藤博文は1863年に密航して渡英(事実)していて、その時に子供時代のホームズと会って親交があり、殺害した大物悪党モリアーティの残党から逃れるため、密航して日本にやってきたホームズを大英帝国の息がかかっていない日本でかくまう役目で、実質的にホームズの相棒ワトソン的な役目です。

ホームズがやってきた1891年(明治25年)の日本はというと、明治維新後に大日本帝国憲法が1889年に公布された直後で、まだ工業力などでは欧米先進国には遠く及ばない状態です。

また伊藤博文は初代総理大臣を1期務めたあと、枢密院議長に就任していた頃で、日清戦争(1894年~)、日露戦争(1904年~)以前で日本に食指を伸ばそうとしていたロシア帝国から来日していた皇太子・ニコライ(後の皇帝ニコライ2世)が滋賀県を旅行中、警察官に切りつけられ負傷するという「大津事件」が起きた直後でした。

その「大津事件」で謀反人を死刑にしろと圧力をかけてくるロシアと、法治国家として傷害事件で死刑にはできないという政府重鎮(伊藤)との間にはいり、事件の謎解きにホームズが大活躍し、さらにその後、日本を攻撃する理由を作るためのロシアの策略を暴いていきます。

こうした実際に起きた時代背景を元に、そのタイミングでちょうど行方不明だったホームズが事件の陰で活躍していたという発想はお見事!としか言いようがないです。

タイトルからすると、「ルパン対ホームズ」みたいに、この二人が対決する?と思われがちですが、もちろんそんなことはなく、上記にも書いたように伊藤はワトソンの役目を果たし、ホームズが日本国内で自由に動けるよう様々な恩恵を与え、さらに、事件解決後には英国女王陛下に願いでて恩赦が得られるようにしてくれます。

★★★

著者別読書感想 松岡圭祐

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

経済危機のルーツ モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか 野口悠紀雄

最初は海の向こうの話しと思っていたら、日本経済をも直撃したリーマンショックで、製造業を中心に大不況が訪れ、経済が疲弊した時代の2010年に発刊されたビジネス書です。

著者自身が、理工系でありながら大蔵官僚出身で、金融工学にも深い造形があり、リーマンショックを引き起こした金融証券ビジネスの光と影、そしてその影響で製造業が大打撃を受けた構造について詳しく、起きるべくして起きた現象として解説されています。

内容は著者が得意とする高度成長期以降の70年代に起きたニクソンショックからオイルショック、東西冷戦終結、土地バブル、ITバブル、そしてリーマンショックまで、世界と日本で起きた様々な経済危機を掘り起こし、世界はどう動き、日本はなぜ動けなかったなどを解説していきます。

こうしたわかりやすい解説は、中途半端な知識しかない私にとって助かりますが、結局は過去に起きたことをデータなどとともに「こうだった」と言っているだけで、なにか眼新しさや、目からうろこというような話しではありません。

90年代にアメリカと英国が、見事に脱工業化を果たし、金融など付加価値が高い労働やビジネスに移行したのに対し、日本やドイツは旧来の製造業から脱却できず、当初は他山の石ぐらに思っていた金融危機が回り回って製造業を基幹産業とする国に大打撃を与えたという構造はわかりやすいです。

評論家というのは、そうした結果を見てあーだこーだと言えるので、そういう意味ではズルイ存在です。

一方では未来の予測や現在進行形のことについて話すのは目立ちたがり屋で怪しげな人ぐらいで、優秀で保身を考える人は言わないものです。

アメリカの有名大学へ留学経験があることや、東西ドイツの壁の崩壊前に東ドイツへ旅行して決死の覚悟で壁の写真を撮ってきたこと、世界の有名人と懇意であることなど自慢たらしい話しが、何度も繰り返されるのがちょっと鼻につきますが、そうした過去の栄光を、自慢気に語りたくなる高齢者なのでその点はご愛敬なのでしょう。

★★☆

【関連リンク】
 8月前半の読書 地のはてから、父の戦場、誰かのぬくもり、号泣する準備はできていた
 7月後半の読書 生きて帰ってきた男、震源、もらい泣き、時砂の王
 7月前半の読書 宇宙を読む、夏の情婦、永遠の出口、無人島に生きる十六人、MISSING

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直木賞受賞作をどのぐらい読んだか 2021年8月11日(水)」に続き、暇なのでこの50年の間に芥川賞を受賞した作品のうちどれぐらい読んだのか?を調べてみました。

芥川龍之介賞は、大衆小説がメインの直木三十五賞と並び、1935年から脈絡と続く、短篇や中篇の純文学作品に贈られる権威ある賞で、お気楽な大衆文学が好きな私にはあまり向かないので読んだ数は知れています。

直木賞は1970~2019年の50年間で131作品が受賞し、そのうち36作品(27%)を読んでいましたが、芥川賞は、同じ50年間で112作品が受賞し、読んだのは12作品(11%)だけでした。すくね~!です。

正直、受賞者の名前(作家名)を見ても、「見たことも聞いたこともない(失礼!)」という名前が多く、教養のなさを露呈しています。

これではダメだと反省し、「買うべき本」のリストに加え、これから意識して少しずつ読んでいくことにします。

50年間の芥川賞受賞作品一覧と、赤字は既読作品です。

第63回(1970年上半期) 吉田知子 「無明長夜」 古山高麗雄 「プレオー8の夜明け」
第64回(1970年下半期) 古井由吉 「杳子」
第65回(1971年上半期)
第66回(1971年下半期) 李恢成 「砧をうつ女」 東峰夫 「オキナワの少年」
第67回(1972年上半期) 畑山博 「いつか汽笛を鳴らして」 宮原昭夫 「誰かが触った」
第68回(1972年下半期) 山本道子 「ベティさんの庭」 郷静子 「れくいえむ」
第69回(1973年上半期) 三木卓 「鶸」
第70回(1973年下半期) 野呂邦暢 「草のつるぎ」 森敦 「月山」
第71回(1974年上半期)
第72回(1974年下半期) 日野啓三 「あの夕陽」 阪田寛夫 「土の器」
第73回(1975年上半期) 林京子 「祭りの場」
第74回(1975年下半期) 中上健次 「岬」 岡松和夫 「志賀島」
第75回(1976年上半期) 村上龍 「限りなく透明に近いブルー」
第76回(1976年下半期)
第77回(1977年上半期) 三田誠広 「僕って何」 池田満寿夫 「エーゲ海に捧ぐ」
第78回(1977年下半期) 宮本輝 「螢川」 高城修三 「榧の木祭り」
第79回(1978年上半期) 高橋揆一郎 「伸予」 高橋三千綱 「九月の空」
第80回(1978年下半期)
第81回(1979年上半期) 重兼芳子 「やまあいの煙」 青野聰 「愚者の夜」
第82回(1979年下半期) 森禮子 「モッキングバードのいる町」
第83回(1980年上半期)
第84回(1980年下半期) 尾辻克彦 「父が消えた」
第85回(1981年上半期) 吉行理恵 「小さな貴婦人」
第86回(1981年下半期)
第87回(1982年上半期)
第88回(1982年下半期) 加藤幸子 「夢の壁」 唐十郎 「佐川君からの手紙」
第89回(1983年上半期)
第90回(1983年下半期) 笠原淳 「杢二の世界」 高樹のぶ子 「光抱く友よ」
第91回(1984年上半期)
第92回(1984年下半期) 木崎さと子 「青桐」
第93回(1985年上半期)
第94回(1985年下半期) 米谷ふみ子 「過越しの祭」
第95回(1986年上半期)
第96回(1986年下半期)
第97回(1987年上半期) 村田喜代子 「鍋の中」
第98回(1987年下半期) 池澤夏樹 「スティル・ライフ」 三浦清宏 「長男の出家」
第99回(1988年上半期) 新井満 「尋ね人の時間」
第100回(1988年下半期) 南木佳士 「ダイヤモンドダスト」 李良枝 「由煕」
第101回(1989年上半期)
第102回(1989年下半期) 大岡玲 「表層生活」 瀧澤美恵子 「ネコババのいる町で」
第103回(1990年上半期) 辻原登 「村の名前」
第104回(1990年下半期) 小川洋子 「妊娠カレンダー」
第105回(1991年上半期) 辺見庸 「自動起床装置」 荻野アンナ 「背負い水」
第106回(1991年下半期) 松村栄子 「至高聖所アバトーン」
第107回(1992年上半期) 藤原智美 「運転士」
第108回(1992年下半期) 多和田葉子 「犬婿入り」
第109回(1993年上半期) 吉目木晴彦 「寂寥郊野」
第110回(1993年下半期) 奥泉光 「石の来歴」
第111回(1994年上半期) 室井光広 「おどるでく」 笙野頼子 「タイムスリップ・コンビナート」
第112回(1994年下半期)
第113回(1995年上半期) 保坂和志 「この人の閾」
第114回(1995年下半期) 又吉栄喜 「豚の報い」
第115回(1996年上半期) 川上弘美 「蛇を踏む」
第116回(1996年下半期) 辻仁成 「海峡の光」 柳美里 「家族シネマ」
第117回(1997年上半期) 目取真俊 「水滴」
第118回(1997年下半期)
第119回(1998年上半期) 花村萬月 「ゲルマニウムの夜」 藤沢周 「ブエノスアイレス午前零時」
第120回(1998年下半期) 平野啓一郎 「日蝕」
第121回(1999年上半期)
第122回(1999年下半期) 玄月 「蔭の棲みか」 藤野千夜 「夏の約束」
第123回(2000年上半期) 町田康 「きれぎれ」 松浦寿輝 「花腐し」
第124回(2000年下半期) 青来有一 「聖水」 堀江敏幸 「熊の敷石」
第125回(2001年上半期) 玄侑宗久 「中陰の花」
第126回(2001年下半期) 長嶋有 「猛スピードで母は」
第127回(2002年上半期) 吉田修一 「パーク・ライフ」
第128回(2002年下半期) 大道珠貴 「しょっぱいドライブ」
第129回(2003年上半期) 吉村萬壱 「ハリガネムシ」
第130回(2003年下半期) 金原ひとみ 「蛇にピアス」 綿矢りさ 「蹴りたい背中」
第131回(2004年上半期) モブ・ノリオ 「介護入門」
第132回(2004年下半期) 阿部和重 「グランド・フィナーレ」
第133回(2005年上半期) 中村文則 「土の中の子供」
第134回(2005年下半期) 絲山秋子 「沖で待つ」
第135回(2006年上半期) 伊藤たかみ 「八月の路上に捨てる」
第136回(2006年下半期) 青山七恵 「ひとり日和」
第137回(2007年上半期) 諏訪哲史 「アサッテの人」
第138回(2007年下半期) 川上未映子 「乳と卵」
第139回(2008年上半期) 楊逸 「時が滲む朝」
第140回(2008年下半期) 津村記久子 「ポトスライムの舟」
第141回(2009年上半期) 磯崎憲一郎 「終の住処」
第142回(2009年下半期)
第143回(2010年上半期) 赤染晶子 「乙女の密告」
第144回(2010年下半期) 朝吹真理子 「きことわ」 西村賢太 「苦役列車」
第145回(2011年上半期)
第146回(2011年下半期) 円城塔 「道化師の蝶」 田中慎弥 「共喰い」
第147回(2012年上半期) 鹿島田真希 「冥土めぐり」
第148回(2012年下半期) 黒田夏子 「abさんご」
第149回(2013年上半期) 藤野可織 「爪と目」
第150回(2013年下半期) 小山田浩子 「穴」
第151回(2014年上半期) 柴崎友香 「春の庭」
第152回(2014年下半期) 小野正嗣 「九年前の祈り」
第153回(2015年上半期) 羽田圭介 「スクラップ・アンド・ビルド」 又吉直樹 「火花」
第154回(2015年下半期) 滝口悠生 「死んでいない者」 本谷有希子 「異類婚姻譚」
第155回(2016年上半期) 村田沙耶香 「コンビニ人間」
第156回(2016年下半期) 山下澄人 「しんせかい」
第157回(2017年上半期) 沼田真佑 「影裏」
第158回(2017年下半期) 石井遊佳 「百年泥」 若竹千佐子 「おらおらでひとりいぐも」
第159回(2018年上半期) 高橋弘希 「送り火」
第160回(2018年下半期) 上田岳弘 「ニムロッド」 町屋良平 「1R1分34秒」
第161回(2019年上半期) 今村夏子 「むらさきのスカートの女」
第162回(2019年下半期) 古川真人 「背高泡立草」


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高齢化社会と後継者不足を反映するように、帝国データバンクが毎年調査している「全国社長年齢分析」の昨年2020年調査では初めて社長の平均年齢が60歳を超え60.1歳となりました。

調査が始まった30年前の1990年時点の平均年齢は54.0歳でしたから、6.1歳上がったことになります。



日本人の平均寿命は1990年では男性が75.9歳、女性が81.9歳だったのが、30年後の2020年は男性が81.4歳、女性が87.5歳ですから、男性で5.5歳、女性で5.6歳上昇しています。

この30年間は、寿命の上昇率よりも社長の平均年齢の上昇率のほうが高いということです。

この調査は同社のデータベースの中から94万社を分析したもので、その中には含まれないであろう家族経営的な零細企業や商店などの経営者の平均年齢はさらに高そうな気がします。

一般的には大企業に分類される上場企業社長の平均年齢は58.7歳ということで、意外に前年からは横ばいで、年齢が高くなっている要因は、企業の99.7%以上を占めている中小、零細企業の平均年齢が高まっているからと推測できます

業種別では、平均年齢の高い順に(1)不動産業)(2)製造業(3)卸売業(4)小売業)(5)運輸・通信業(6)建設業となっています。

なんとなく零細~中小企業が多そうな街の不動産店や小規模な製造業のなど高齢化の先端をいっているというのもわかります。

都道府県別で見ると、社長の平均年齢が高い順に、(1)秋田県(2)岩手県(3)青森県(4)高知県(5)島根県、逆に平均年齢が若い順では(1)三重県(2)愛知県、滋賀県(4)石川県(5)大阪府、沖縄県となっています。

社長の平均年齢が高いのは過疎が進み、地域としての高齢化が進む地域とほぼ同じで、東北や四国が入ってくるのがわかります。

こうした地域では、過疎が進めば、卸売業や小売業の経営がさらに厳しくなり、さらに後継者もいないので、この傾向は続くと見られています。

なお、後継者が不在で倒産(後継者難倒産)は、2020年は452件にのぼります。

平均年齢が低いところは、石川県や沖縄県は別として、大都市圏またはその周辺地域という構図が見られます。東京都や福岡県の平均年齢も全国平均からすると低くなっています。

私は、62歳で引退しましたが、60歳過ぎてもまだまだ第一線で活躍したい人は多く、特に一度権力の座についた人は、その座から自らの意志ではなかなか降りないようです。

でも企業は生き物でもあり、経営陣の新陳代謝を素早くおこなっていかないと、やがては様々な不具合が起きてくるのも過去の事例をみていてもよくわかります。

上場企業の社長の年齢が比較的若いのは、オーナー社長でない限り、外部の株主や社外役員、OBなどからの厳しい目があり、社長の独断だけではすべての物事を決められないという事情もあるのでしょう。

そうした健全的な企業はともかく、オーナー一族が支配していたり、旧態依然の派閥をつくって自分たちだけに都合の良い経営や人事をおこなう企業がまだ多く、そうした企業では社長の就任期間は長くなり、年齢も一般的に高く、また社長の座から降りても、代表権は渡さず会長として院政を敷くというのが多いようです。

個人的には、余生の目処がついたら速やかに第一線からは身を引いて、若い人達の邪魔をしないというのが理想だと思っています。

でもいつまでもトップでいたいという欲望はそれが醜悪なものであっても、本人は意に介さないというのが通例です。見ちゃいられません。

【関連リンク】
979 企業と経営者の資質
780 あらためて高齢社会白書を概観してみる
691 就活では大企業を目指すべき3つの理由
601 社長の年齢と出身地についての統計

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