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スロウハイツの神様(講談社文庫)(上)(下) 辻村深月
著者の小説は以前短編集の「ツナグ」(2010年刊)を読んでいます。この2007年刊(文庫版は2010年刊)の長編小説が2作品目です。
2016年1月後半の読書と感想、書評「ツナグ」
読んでみてすぐに思ったのは、これは映画化するのに向いた作品で、既にあるなら見てみたいと思いましたが、残念ながら制作はされていません。どうしてかな?
ストーリーは、東京郊外にあるスローハイツという元旅館をリフォームした古びたシェアハウスに住むアーティスト達の人間模様というドラマです。テラスハウスじゃないですが、今なら若者に受けそうなテーマでしょ?
戦後に手塚治虫氏を慕って全国から漫画家の卵達が集まってきたトキワ荘のイメージで、それを現代版に焼き直したという感じです。
住人は脚本家として活躍している女性オーナー、既に超売れっ子作家になっている男性とその担当の敏腕編集者、その他には映画監督や画家、漫画家を目指している若い卵達です。
出てくる男女とも、皆良い人ばかりで、こういうメンバーが集まればシェアハウス生活も楽しいかもですね。世の中そううまくいくことは少ないでしょうけど。
やがて、オーナーの脚本家がアメリカへ行くということで、このチームに終わりが訪れます。オチはその後に判明しますが、意外性もあってたいへん面白く読めました。
★★★
◇著者別読書感想(辻村深月)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
幕末下級武士のリストラ戦記 (文春新書) 安藤優一郞
2009年に発刊された新書で、幕末から明治期にかけて生きた下級武士だった山本政恒氏が自身で絵と文章で書き残したサムライの一代記を現代風に読みやすくし解説をした新書です。
この人物、下級武士とは言え、ことあれば将軍の影武者として身を挺する職分であり、その後も、篤姫の護衛をしたり、京都での大政奉還や、江戸城開城なども身近で経験している人物です。
さらには、上野寛永寺で起きた彰義隊と官軍との戦い(上野戦争)にも巻き込まれ、やがて、将軍の座から降ろされ、駿河に移された主君徳川家について静岡へ下りますが、その後廃藩置県で食えなくなると、今度は東京、群馬で職を探して家族を養おうと決意します。
そうした幕末の激動の60年間が、器用な絵とともに、日記風に事細かく書いて残すのは、識字率も低く、印刷技術ない時代のことで。当時としては凄いことだと思います。
幕末の話しと言えば、英雄視される坂本龍馬や、勝海舟、西郷隆盛、大隈重信、将軍の座から没落していく徳川慶喜などばかりが取り上げられますが、この山本政恒氏のような庶民に近いところにいた下級武士の苦労と悲哀が語られることはありません。
つい数年前までは江戸城勤めの武士という高いプライドがありながら、幕府がなくなってからは食うに困るようになり、百姓に教えを請うて庭に畑を作り、東京と名称が変わった生まれ故郷の江戸に戻ってからは傘貼りやお面作りなどの内職、家を売って子供のために商店を出してやるなど、サムライのイメージがこれほど変わってしまうことはありません。
これって、大企業に勤務していたけど、経営が傾き、能力がある者や家名がある者はうまく転職出来ても、普通のサラリーマンだったら、、、という現代の状況と同じだなと思わずにいられません。
それほどまでに、江戸幕府から明治新政府に体制がガラリと変わったことで、隅々までに大きな影響が出たのだということが、よくわかるラストサムライ一代記でした。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
降霊会の夜 (文春文庫) 浅田次郎
週刊朝日に連載されていた長編小説で、2012年に単行本、2014年に文庫版が発刊されています。
泣かせの浅田ワールド満載ですが、ちょっと話しが無駄に長く、くどくなってきた感があり、年を取ってから涙もろくなってきているにかかわらず涙が浮かぶことはありませんでした。
主人公は軽井沢っぽい感じの高級別荘地に男一人で住んでいましたが、ある日、別荘の外で急な雷雨に遭って怯えてしまいうずくまっている女性を助けます。
その助けた女性から、近所に降霊をしてくれる人がいるのでご紹介しますと言われ、冷やかし半分で、同じ別荘地にある家へ出掛けます。
そこには年配の女性と姪の若い女性が住んでいて、仕事としてではなく、頼まれた場合に降霊会を催してひとの役に立つことをしているとのこと。
そして、主人公が小学生だった頃の同級生で、事故で亡くなった友人の霊を呼び寄せます。
降霊でやってくるのは、呼び寄せようとした霊だけではなく、亡くなっているその関係者の霊や、まだ生存中の生き霊までがやってくるという念の入りよう。ちょっと都合良くありません?
浅田次郎作品ということで、読む前からの期待が大きいだけに、今回はちょっと無理しているかな~という感想です。
浅田ワールド作品には、コミカル路線のものも数多くありますが、こちらはいたって真面目なシリアス路線です。そのため出てくる人達や霊はみないい人ばかりで、読者を泣かせようという思惑がありありで、くどく感じた次第です。
シリアス路線の小説で、この世のものではない霊が出てくる作品は、「鉄道員(ぽっぽや)」や「地下鉄に乗って」などがあり読みましたが、いずれも泣かせられました。しかもその両方とも映画化されヒットしています。
また今回泣けなかったのは、「鉄道員」や「地下鉄に乗って」が、家族、親子といった濃密な関係だったのが、この作品では亡くなったのが友人という比較的薄い関係だったからかも知れません。
この小説もいずれ映画化あるいはテレビドラマ化されるのでしょう。もしそうなれば、団塊世代と思える主人公が過ごした戦後の子供時代や、青春真っ盛りの学生紛争時代が、再現映像として出てくることになりそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(浅田次郎)
【関連リンク】
7月後半の読書 郵便配達は二度ベルを鳴らす、衆愚の果て、日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実 吉田裕、奇跡の人
7月前半の読書 にじいろガーデン、僕は人生についてこんなふうに考えている、健康格差、幻夏
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夏と言えば怪談や肝試しのシーズンということで、そのお話を少しだけ。私は霊感とか幽霊とかは信用していませんが、結構そういう話しにビビリです。
鈴木光司著のホラー小説はよく読みましたが、脅かすためだけの余計な音響効果が入るホラー映画はめっぽう苦手です(笑)
先月NHK BSで『超常現象(1)「さまよえる魂の行方」』という番組が放送されていました。2014年に放送された再放送です。
幽霊、生まれ変わり、透視、テレパシー…。超常現象を、科学的に解明しようという試みが、急速に進んでいる。死後の世界や魂の謎を解明しようという科学者たちに迫る。 |
その番組の案内役が阿部寛というので思わず笑ってしまいましたが、それは以前テレビドラマ(映画も)「トリック」での「超常現象は科学で説明出来る」と言い張っていた自称天才物理学者のイメージがあるからです。
このNHKの番組でも「超常現象なんてあり得ないでしょう~」という、NHKらしくコミカルさはないものの、同じような「オレは信じないぞ」的な役目です。
番組では幽霊や不可思議な現象が現れることで有名なイギリスの古城での科学的調査や、臨死体験者の脳の解明、生まれ変わりの詳細調査など科学的な説明がなされています。
番組の中で「科学が進んでいなかった古代の人は日蝕を見て超常現象と思った」とか、「地球は丸い」とか「地動説」を科学的な見地から唱えたアリストテレスやガリレオが当時は異端者とみなされてきたように、科学で解明されるまでは、超常現象やとんでも学者とされてきたことを考えると、今起きている超常現象は、単にまだ科学で説明ができていないだけかも知れないとのことです。なるほど。
それはさておき、ネットにあふれる超常現象の動画や写真のほとんどは、世の中を騒がせたり、注目を集めるため作為のあるもので、本物はありませんが、それでも不思議な事象というのはあちこちに起きているものです。
よく写真の中に人の顔や手が写っているというものがあります。
あれを見ていて思うのは、その写っている顔や姿はその写真の関係者とはまったく関係がないものがほとんどで、例えば子供の写真に亡くなっている祖母が写っているとか、親しい友人、あるいは凶悪犯罪で殺された被害者が関係者の中に写っているという話しは聞きません。
もし未練がある霊魂や怨念が念写されるのなら、まったく見も知らない人が写るのではなく、よく知った家族や犠牲者など関係者と一緒に写るのが理屈だろうと思うのですが、そういう話しはあまり聞きません。
左の写真は亡くなった夫(エイブラハム・リンカーン)が映り込んだとされる未亡人の心霊写真と言われていましたが、撮影をした写真家が裁判に訴えられ、証言に立った他の写真家から「重ね写しだ」とその手法も証言されました。(Wikipedia)
しかし、そうした(偽りのモノであっても)写真を見るといつも背筋が凍るのは確かです。
まったく霊感とかは強くない私の数少ない不思議な経験をいうと、40数年前の学生時代に、深夜にバイクで山の中の峠道をひとりで走っていたときに、突然バイクのエンジンがストール(停止)してしまいました。
当然ヘッドライトが消え、街灯もない山道の真っ暗闇の中で停まってしまいました。その道は昼間でもほとんど交通量がない道です。
今までそのバイクで走行中にエンジンストールすることなど一度も経験したことはありません。ガソリンは十分に入っているので、ガス欠でもありません。
深い山の中の暗さというのは、もうそりゃー暗黒の世界で1寸先も見えませんし、夏でしたが心細さで背筋が凍ったのは言うまでもありません。
それでもなんとかしなきゃと、手探りでバイクのスイッチを一度切って再度ONにし、当時はセルモーターなどなく、キックスターターレバーを出して必死でエンジンをかけました。
何度かのキックでエンジンは無事始動し、同時にライトがついてパッと周囲が明るくなりました。
!!!ライトがつき真正面に照らしだされたのは、小さい人影!!
よく見ると、5つぐらい並んで鎮座しているお地蔵さん!!!(写真はイメージ)
もう心臓が止まりかけました。なにかに呼ばれたのでしょうかねぇ、、、
昼間に何度かその道を走っていますが、そんなところにお地蔵さんがあるとはまったく知りませんでした。またそんなひなびた細い山道の途中にお地蔵さんがあること自体考えられません。
そのような場所にお地蔵さんが奉ってあるということは、昔にそこでなにかが起きたのかも知れませんね、、、
もうひとつは、これは最近というか、現在でもそうなのですが、自宅で夜に寝ようとベッドに入って横になりまどろんどいると時々起きる不思議な現象です。
私は一戸建ての自分の部屋でひとりで、身体を横向けにして寝るのですが、誰かが部屋に入ってきた?という気配を時々感じます。人が動くようなかすかな音と、空気の動きというか気配です。
しかし目を開けて見渡しても部屋のドアは開閉されてはなく、周囲を見てももちろん誰もいません。
そしてそのあと、目を閉じて横になっていると、今度は首筋を手でなでられるような感触がするのです。しかも何度も経験しています。
これは怖いですよ~気持ち悪いというか、、、
これが超常現象と言えるかどうかはともかく、基本的に幽霊や霊の存在とかは信じていない私ですが、この家になにかあるのか?と思ってしまいます。
家の建っている場所は、江戸時代より前には家の周囲には小さなお城というか砦があったという話しを聞いたことはありますが、そんな場所は珍しいことはないでしょう。
一般的に怨念がたまる場所というのは、谷とか水気の多い場所と決まっていますが、多摩川の流域からはかなり離れていてそういう場所でもないし、どうなのでしょうね。
気のせいと言われればその通りですが、今のところ、私自身や家族に大きな厄災が降りかかったことはないので、悪い気でなければ、良しとしましょう。
【関連リンク】
1102 あまり役には立たない曜日の話し
1007 退職金の不思議
833 もうひとつの人生があれば
644 うつ病に罹った人との関係は難しい
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嘘八百 2018年 「嘘八百」製作委員会
監督:武正晴 出演:中井貴一、佐々木蔵之介
詐欺師を描いたコミカルな映画です。記憶にはないのですが、意外とヒットしたのか、続編となる「嘘八百 京町ロワイヤル」が2020年1月31日に公開されています。公開直後にはコロナ禍がジワジワきていたので、なにか影響はあったのでしょうかね。
利休作の掛け軸など、贋作を本物と思わせて高額で売りつけるというのが仕事ですが、周囲にはそうした贋作作りの名人達がチームを組んでいます。
もっともそうした古物などにはなにも興味がないので、そうした世界にも興味がなく、あまり映画に親近感や感情の思い入れなどがなく、内容的にはつまらないものでした。
どうせなら、映画「スティング」のような、もっと大がかりな詐欺、さらに言えば映画を見ている観客がすっかり騙されるというようなものを期待していましたが、遠く及びません。
予算も桁が違うでしょうし、仕方ありません。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
東京マグニチュード8.0 2009年 製作:東京マグニチュード8.0製作委員会
監督:橘正紀
正確には映画ではなく、2009年にテレビアニメシリーズとして11回の放送を総集編として2時間(CM含む)にまとめたものです。
最初は以前読んだ高嶋哲夫氏の小説「M8」が原作なのか?と思いましたが違いました。
アニメらしく、中学生の女の子が主人公で、弟と一緒にお台場へ遊びに来ていたとき、大地震に遭います。
レインボーブリッジと思われる橋が倒壊、水上バスでなんとか日の出桟橋へたどり着き、芝公園の避難所で休憩していると東京タワーが倒壊し弟が巻き込まれます。
自宅はどうなっているのか、家族は無事か、世田谷の自宅までは歩くしかなく、お台場でたまたま知り合った親切なシングルマザーとともに家を目指します。
ちょっと違うかな~と思うのは、パニックになる人が周囲にいなく地震直後でも、みな落ち着いているような感じのシーンが多いこと。自衛隊などの災害救援もすぐに来ていて、それはちょっと都合良すぎかなと。
おそらく東京タワーが倒壊するほどの地震なら、木造住宅などはひとたまりもなく、また火事で相当の被害があり、そこの住人、逃げ遅れて家屋の下敷きになっている人を必死で救出している人、呆然として泣き崩れている人など、阿鼻叫喚図だと思うのですけどね、、、
シングルマザーの家が三軒茶屋で、その周辺は大規模な火災で、祖母とひとり娘の安否がわからず、避難所を探し回るというのは、現実的にありそうです。
雨降って地固まるやハッピーエンドでは終わらず、子供達に災害の怖さを伝えようとする意志が感じられます。
しかし現実はもっと、自己中心的に動く人や、他人を踏みつけてでもいち早く逃げようとする群集心理など、地獄絵図はこんなものではないでしょう。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
深夜の告白(原題:Double Indemnity) 1944年米
監督:ビリー・ワイルダー 出演:バーバラ・スタンウィック、フレッド・マクマレイ
監督のビリー・ワイルダー(元々は脚本家)と、フィリップ・マーローシリーズなどのハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーとの共同脚本の作品で、原作はジェームズ・M・ケインの小説「殺人保険(原題: Double Indemnity)」です。
原題の「Double Indemnity」とは、自動車事故と比べ比較的事故死の可能性が低い鉄道事故での死亡などでは死亡保険が倍額になるという制度のことで、それを悪用して保険金詐欺を働こうという内容です。
悪女役のバーバラ・スタンウィックが魅力的で、しかも恐ろしい女を演じていてこの映画の中心と言っても良いでしょう。
その悪女に翻弄されるのが、保険会社の軽めのイカした外交員で、悪女にそそのかされて犯行のお膳立てをしますが、同じ保険会社に勤務する親友の調査員に疑問を抱かれて、、、という展開です。
フィルム・ノワール映画と言われるジャンルですが、冒頭で、深夜、誰もいなくなったオフィスで、録音テープを回し、犯行をその親友に告白していくという導入部は、観客のドキドキ感と興味を引くには最高の演出です。
この映画が公開された1944年といえば、太平洋戦争の終盤戦で、同年日本では「加藤隼戦闘隊」や「かくて神風は吹く」など、戦意高揚映画ばかりでしたが、彼の国ではこうしたエンタメが普通に制作され公開されていたのですね。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
知りすぎていた男(原題:The Man Who Knew Too Much) 1956年米
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演:ジェームズ・ステュアート、ドリス・デイ
アメリカ人夫婦がモロッコへ旅行中に、殺人事件に巻き込まれ、その後一人息子が誘拐されてしまいます。
モロッコの警察は頼りにならず、子供を救い出すには、自分が殺された男から言付けされた場所へ行って、息子を救うしかない!ということで、ロンドンへ飛びます。このあたりちょっと普通じゃないです。
ま、それは仕方ないとして、ロンドンで国際陰謀組織や警察の尾行をまいて、なぜモロッコで男が殺されたのか?という謎に迫っていくというストーリーです。
妻役のドリス・デイは、上流アメリカ人妻を演じていますが、演技がなにかにつけて大げさで、時にはヒステリーを起こし、典型的なというかステレオタイプなアメリカ人女性で、ホンマかいな~という感じ。
その歌手でもあるドリス・デイが子供のために歌う「ケ・セラ・セラ」はアカデミー賞で歌曲賞を受賞しています。その歌唱力が事件解決に一役買うというのも、映画ならではのできすぎた話しです。
例のヒッチコックのカメオ出演は、ちょっとわかりにくく、最初は見逃してしまいました。序盤のモロッコでの大道芸を見物しているシーンにチラッとだけ映っています。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ウエスタン(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト)原題:Once Upon a Time in the West 1968年伊・米
監督:セルジオ・レオーネ 出演:チャールズ・ブロンソン、クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ
いわゆるマカロニウエスタンですが、かなり制作費をつぎ込んだ作品と思われます。
しかしアメリカの良心とまで言われていたヘンリーフォンダがこの映画では極悪人役ということで、日本ではヒットしましたが、アメリカではヒットしなかったそうです。
イタリアンの血が半分入っているからというのではないのでしょうけど、映画音楽としてこれでいいのか?と思える変な感じ。当時のマカロニウエスタン調なのでしょうけれど。
また、復讐のキモとなるハーモニカの演奏も、なにか素人が初めて練習している?という感じの暗くて変な音程の音で、もうちょっとどうにかならなかったのでしょうか。どうせ吹いているのは俳優ではなく吹き替えなのですから。
内容的にはあまりリアリティはなく、極悪人を探し出して決闘するドタバタ劇という感じ。それを多数のエキストラや、クラウディア・カルディナーレの色っぽさ、そして大がかりなセットが作品の出来をカバーしています。
こうした西部の風景を見ると、もう20年以上前ですが、ラスベガスからグランドキャニオンへ軽飛行機で旅をしたときに、比較的低空飛行をするので、地上の景色がよく見えたのですが、その時の窓の下の風景が、まさにこの映画の舞台のような感じで、それを思い出しました。
★☆☆
【関連リンク】
2020年5~6月 海外特派員(1940年)、黄金狂時代(1925年)、殺人狂時代(1947年)、真珠の耳飾りの少女 (2003年)、お早よう(1959年)
2020年3~4月 翔んで埼玉(日 2019年)、影の軍隊(仏 1969年)、タバコロード(米 1941年)、デューン/砂の惑星(米 1984年)、海よりもまだ深く(日 2016年)、ベニスに死す(仏・伊 1971年)
2020年1~2月 ペイルライダー(1985年)、アラバマ物語(1962年)、マスカレード・ホテル(2019年)、 疾風ロンド(2016年)、ブラジルから来た少年(1978年)
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郵便配達は二度ベルを鳴らす (新潮文庫)(原題:The Postman Always Rings Twice) ジェームズ・M・ケイン
有名な小説で、映画化もされています。初出は1934年ということで第二次大戦の前という古い小説ですが、今読んでも細部はともかくストーリーの骨格に古くささは感じません。
著者のジェームズ・M・ケインは、1892年生まれのジャーナリストで作家。この著書が実質的なデビュー作品で、その後「殺人保険」などの作品もあります。
小説の内容と、この風変わりなタイトルとはなんの関係もありません。
ストーリーは、アメリカの地方でレストランとガソリンスタンドを経営するギリシア人とその妻の元に流れ者の男がやってきて、たまたま空きのあったガソリンスタンドの仕事を任され雇われます。
そしてすぐに欲求不満の妻と雇われた男と関係ができ、夫を殺して財産を得ようと目論みます。
1回目の犯行は失敗しますが、2回目に自動車事故を装っての犯行は成功したかと思ったら、有能な検事の追及で、犯行がバレてしまいます。
しかしその検事のライバルである有能な弁護士が、保険会社を組み、保険会社の損失を減らすことで犯行はなかったことにしてしまいます。
結果的に犯行は成功したかに思えたところ、、、というストーリーです。
小説では控えめでしたが、映画ではエロと暴力が強調されているそうで、そうした話題が先行していました。映画も1946年の制作と言うことで、太平洋戦争が終戦直後という時代から、奔放な人妻と、保険金殺人というのは大きなセンセーショナルだったでしょう。
この事件は実際に起きた事件が下敷きになっているそうですから、なおさら世間の関心を呼ぶことになりました。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
衆愚の果て (幻冬舎文庫) 高嶋哲夫
理工系の作家さんで、人災、天災問わずにパニック系小説が多く、比較的私の好きなジャンルです。
過去には、「イントゥルーダー」(1999年)、「ミッドナイトイーグル」(2000年)、「ペトロバグ」(2001年)、「M8」(2004年)、「FIREFLY ファイアー・フライ」(2008年)、「首都崩壊」(2014年)の6作品を読んでいます。
988 2016年12月後半の読書(首都崩壊)
588 2012年3月前半の読書(イントゥルーダー)
469 2011年1月後半の読書(ファイアー・フライ)
また、2011年の東日本大震災と原発事故をまるで予言したかのように、「メルトダウン」(2003年)、「M8」(2004年)、「TSUNAMI 津波」(2005年)を上梓されています。それだけにかなり内容においては信憑性があり、説得力もあります。
今回のテーマは選挙制度と国会議員で、今までのようにパニック系とはガラリと違うものです。
主人公は26歳の若さで、仕事を退職後にプータローしていたときに、候補者公募に応募し、比例代表の候補者名簿の下から2番目に載せてもらったところ、政権交代で風が吹く中、アレよと当選を果たします。
「料亭へ行きたい」「BMWを買いたい」と言い放った某若手小泉チルドレンを思い浮かべますが、大物政治家に長く寄り添っていながら芽が出ずコンプレックスをもつ有能な秘書とともに、日本の問題をひとつ解決するため奔走することになります。
小説では、比例代表制や、議員定数、立法や政策よりも次の選挙のことしか考えない地盤などのない政治家、国会議員ながら、選挙区大事で地元の幼稚園の運動会に参加し挨拶することが審議よりも重要とか様々な問題が提起されています。
また議員報酬などお金の話しもたびたび出てきて、著者の怒りは相当なものがありそうです。すっかり慣らされてしまい、怒りを覚えない国民のほうがどうかしているのでしょうけど。
確かに読んでいながら、ムカムカしてくること請け負いですが、そうした政治を望んでいるのが今の国民なのですから仕方がありません。それがこの本のタイトルになっています。
★★☆
◇著者別読書感想(高嶋哲夫)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書) 吉田裕
2018年に「アジア・太平洋賞特別賞」や、2019年の「新書大賞」1位の本書は、2017年に発刊された硬派な新書です。
新書というと、著者の自己満足的な自慢話しと事業の宣伝に終始しているものが多く、うんざりしているのですが、最近読んだ「バッタを倒しにアフリカへ」(前野ウルド浩太郎著)、「人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長」(吉川洋著)、「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(加藤陽子著、新書ではなく文庫版)など、良いものも時々混じっているので、欠かせません。
その玉石混淆の玉のひとつが本書で、著者は主として昭和時代に焦点をあてた近・現代史の歴史学者さんです。
この新書では、よくある太平洋戦争を分析した歴史書ではなく、戦場に送り込まれた日本軍兵士の目線で凄惨な現場、戦場の生活などを様々な日記や記録から読み取っています。
その他、戦場での自殺や、障害者(特に精神)へのイジメ、軍服や軍靴の劣化、栄養不足、マラリアなどの戦病死、無理な作戦などによる消耗など、悲惨な光景がてんこ盛りです。
日中戦争以降、終戦までに亡くなった民間人を含む日本人は310万人と言われています。軍人や軍属の死者数は230万人で、その中でマラリアでの病死を含む餓死者が140万人(61%)に達するという話しには驚かされます。
勇ましい武勇伝を語る物語よりも、金属不足から竹の水筒を持たされ、訓練も受けず武器を持たない補充兵が最前線にやってくる現場の姿が真実なんだろうなぁと気持ちが暗くなってしまいます。
もう太平洋戦争終結から75年が経ち、体験者はいなくなりつつありますが、こうした現場の実態を記録し、まとめておくことで、日本人の遺伝子の中に組み込んでおくことが今後の日本の平和と安全のためには重要なことなのだろうと思います。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫) 原田マハ
2014年に単行本、2018年に文庫化された長編小説で、元祖「奇跡の人」である三重苦の障害を克服したヘレンケラーと家庭教師のアニー・サリバンの二人の関係をモチーフにしています。
著者の作品は割と最近に「本日は、お日柄もよく」と、「楽園のカンヴァス」を読んでいます。どちらも良い小説でした。まだ多くの未読作品があるので、これから少しずつ読んでいきたいと思っています。
本書はヘレンケラーと同様、病気のために見えない、聞こえない、喋れないの三重苦で、家族からも隔離されていた少女の元に、弱視ながらアメリカに留学して様々な知識を身につけた家庭教師となる女性、そして東北の津軽で生まれたときから目が見えず、三味線と歌で生活をする少女が主要な登場人物です。
その三味線弾きの少女には、後に初の重要無形文化財(人間国宝)に指定される狼野キワの若い頃の姿として登場させています。
詳しくは読んでもらうとして、東北の津軽の重苦しい雰囲気の中で、家庭教師の下で1歩1歩、手の付けられない野獣と同じ少女が、ひとりの人間として成長していく姿にうたれます。
5年前に東北へ旅行したとき「津軽藩ねぷた村」で津軽三味線を初めて生で聞くことができました。その演奏の善し悪しがわかるほどの能力はないのですが、激しい三味線の音には感動したことを思い出します。
小説としての出来ですが、これはおそらくなにかの雑誌で連載されていたのでしょうか、よくわかりませんが、同じ話しが何度も繰り返され、起きた事象があとで再度説明され、ちょっとしつこいかなと。
連載小説なら、途中から読む人のために、前に起きたことを繰り返すのもわかりますが、その場合は、単行本化する際に、繰り返される部分はカットするなど編集すべきです。
そうした重なる部分を編集して省略すれば、おそらく全体のページ数は全420ページの3/4ぐらいで済みそうです。
長い小説の場合、そうした無駄に思える部分があちこちにあるのは、ちょっと残念な気持ちになります。
★★☆
◇著者別読書感想(原田マハ)
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ドライブレコーダーが普及してくるまで、交通事故が発生したときは、その当事者や目撃者の証言と、事故後の発生現場の状況から推論するしかありませんでした。
過失割合という点で、よく問題となるのは、クルマ同士が衝突、あるいは接触したような場合です。
明らかに片方に酒酔い運転、信号無視、一旦停止違反など重大な違反があれば、全責任を加害者側がもつこともありますが、そうでない場合、一般的には50:50~40:60という過失割合に認定されることが多いです。
つまり、片方が道交法違反や重大な過失があっても、走行中同士の事故はなぜか過失割合は加害者側5~6割、被害者側5~4割となってしまいます。
私がこれを思い知らされたのは、片側2車線の道路で、右側の車線を走っているクルマの後方、左側の車線を走っていたところ、右前のクルマがウインカーも出さず、突然左へ車線変更をしてきて、避けきれずに接触したことがあります。
その時相手のドライバーは「後方にいたとは知らなかった」と全面的に自分のミスを認めて謝罪しました。
深夜だったことと、接触で物損だけでしたので、警察は呼ばず、修理費用については保険会社同士で話しをしようとなりましたが、その結果、過失割合(修理費用の負担)は相手が60、私が40と決着しました。
それを保険会社から聞いたときに、「相手の道交法違反(進路変更指示違反、後方確認違反)で起きた事故なんだから、こちらに4割も責任があるのは納得できない。こちらはなにも違反はしていない」と言いましたが、保険会社としては「双方が走行中の事故なので、相手が悪くても6:4の割合が妥当」と言われ、どうもモヤッとしましたが、そのように決まっているとのことでした。
同様のケースで、私は助手席に乗っていた時ですが、大きなリゾート地の中の私道で、こちらは大きなミニバンで多数乗せていたので上り坂をあえぎながらゆっくり走っていました。
そこへ上から猛スピードで下ってきた施設の従業員が運転する乗用車がセンターを超えて(センターラインはなし)突っ込んできて、相手は止まりきれず、接触したことがありました。これも相手の過失が6割、こちらが4割でした。接触したときにはこちらは停止していたのですけどね。
この走行中の6:4の過失割合は、結局は双方の言い分だけで決めなければならないことから、暗黙の妥協として決めていると思われます。
つまり物損の接触事故など毎日何千件も起きている(2017年人身事故だけで1日平均1300件以上発生)でしょうし、それをいちいち現場検証をして目撃者を探し、近所の防犯カメラを探して見せてもらい、時にはクルマの異常やECUの走行データを解析するということなどできるハズもありません。
そうしたことから、自分は安全運転をしていて、理不尽に思っても、常に事故の過失リスクを背負っているものと運転する人は理解しておく必要があります。
しかし、最近はドライブレコーダーを装着するクルマが増えてきたことで、今まで目撃者がなく、双方の言い分だけで妥協した決着をしていた事故の場合でも、記録映像を添えて裁判に訴えることで、例え双方が走行中の事故でも、相手に大半の過失があったと主張することができるようになってきました。
もちろん被害者側にも、適正な車間距離をとっていなかったとか、スピード違反をしていたとか過失があればそれは当然過失割合に加味されることにもなります。
いずれにしても、今まで妥協の産物だった6:4の交通事故過失割合が、今後いくつもの判例を元にして変わっていくかも知れません。
【関連リンク】
1081 高齢ドライバに対する偏見と規制
864 衝突安全性テストについて
800 高齢化社会で変化している交通事故の統計を見る
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