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老人をなめるな(幻冬舎新書) 下重暁子

老人をなめるな
著者のエッセイを読むのは3作目ですが、今年で88歳と高齢でもあり最近は新しい著書やテレビ出演などは見かけなくなりました。でもお元気でいらっしゃるのでしょう。

本著は2年前の2022年出版のエッセイで、健康でアクティブな著者が独自の視点で、世の中には高齢者のネガティブな報道や話題が多い中、それを逆手にとった老人賛美の内容です。

著者の主張には賛成するところと、いやいやそれは違うでしょう?と思うところが混在しますが、いずれも高齢者になって初めて理解ができる点で、うなづける点が多くあります。

例えば、すでにある程度の蓄えがありながら、いくつになっても現役で働き続けることを善とする著者の考え方には、若い人の邪魔になるだけのわがままで自己中心的な高齢者が多い中、賛成しかねるところですが、高齢者の交通事故ばかりマスメディアは取り上げるけど、事故率で圧倒的に多いのは若者であって、高齢者が増加しているので件数こそ増えているものの、高齢者の事故率は昔からほとんど変わりがないという事実などは賛同できます。

断捨離に対してもネガティブな思いがあるようですが、少し前に読んだ五木寛之著「捨てない生きかた」にも同じようなことが書かれていました。

どうも断捨離は富裕層の高齢者には不評のようです。なかなか買えない、買っても置く場所がない普通の年金暮らしの高齢者は次々と不要なものを断捨離せざるを得ないのが現実です。

全般的には高齢者あるあるで、高齢者にとってはあらためて納得できる話が多く、ためになるというより思ったことを文章で思い出させてくれた、代弁してくれたという感じになるでしょう。

ただ人生を順風満帆に送ってきた成功者であり、富裕層ゆえのやや上から目線の独善的な話しにはちょっとガッカリするところもあります。

★★☆

著者別読書感想(下重暁子)

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パラドックス13(講談社文庫) 東野圭吾

パラドックス13
2009年に単行本、2014年に文庫化された長編SF小説と言ってよいのか、それともパニック・サバイバル小説なのか、いずれにしても著者の作品としては割と珍しい内容の作品です。元々は2007年から2008年にかけてサンデー毎日に連載されていた小説です。

宇宙のブラックホールの影響で、ある日時に13秒間消滅する事態を物理学者が発見しますが、いったい何が起きるかわからないので、政府は国民には知らせないでやり過ごす策に出ます。

その13秒間には危険な勤務をしないように自衛隊や警察に通達しますが、犯人逮捕の現場にいる警察官にとって、その逮捕をするチャンスを逃すわけには行かず行動に移したところ、犯人から発砲を受けます。

そして気がつくと、天変地異が繰り返され人がほとんどいなくなった東京で、少数の訳ありな人たちと共にサバイバル生活が始まります。つまり、ここにいる人たちは、別の次元に迷い込んでしまったということです。

サバイバルに詳しい人が読めば、登場人物達が生き抜くためにいかにダメダメな行動ばかりをしているかというのがわかりますが、なにも情報がなく、いきなり頼れるものがなくなったときに、冷静にまともな精神状態ではいられないだろうということで、混乱やひどい対応にも仕方がないでしょう。

アメリカ映画で「アイ・アム・レジェンド」など地球滅亡で生き残った少数の人間がサバイバルをするものや、タイムマシンで過去や未来へ行ってサバイバル、何百年ぶりに地球に帰還したら猿が支配していたというものはありましたが、異次元へ飛ばされ、そこにある人や動物だけがいなくなったまったく同じ都市の中でサバイバルというのはあまり聞かないです。

エンタメとしては自分ならどうするだろう?とか考えながら、たいへん面白く読めました。異次元の東京が壊れていくシーンをSFXやVFXで工夫すれば映画化も十分可能でしょう。

★★☆

著者別読書感想(東野圭吾)

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顔をなくした男(上)(下)(新潮文庫) ブライアン・フリーマントル

顔をなくした男
英国のMI5のスパイ、チャーリー・マフィンシリーズは1977年にシリーズ第1作目となる「消されかけた男」が出版された後すでに16作のシリーズとなっています。

そのシリーズ15作目が本作で、そのひとつ前の14作目「片腕をなくした男」と、あとの16作目「魂をなくした男」が連続した三部作となっています。

今回三部作の真ん中から読んでしまい(読み始めるまで知らなかった)、やや最初のうちは以前の活躍が話に出てきてもよくわからず苦心しましたが、なんとなくわかってきてからは順調に読み進められました。でもやっぱり14作目から読む方が良さそうです。

ストーリーは、国内の治安維持を行うMI5と国外で諜報活動を行うMI6との確執と権力争いなどが中心で、そうした中で、ロシアに残してきたMI5の主人公の妻と子を英国に連れ出す作戦と、同時に秘密裏でお今合われているロシアの高官亡命作戦の二つが展開されるというものです。

外国にある英国大使館の中で起きた犯罪は外国にあるとは言え大使館の敷地内は英国領と同等と言うことで国内担当のMI5に調査を手動する権利があり、同じ外国の大使館の中でMI5とMI6が同居し、時には協力し合ったりだまし合ったりするという関係があるのが面白かったです。

主人公のMI5の諜報員は、関係の良くないMI6はもちろん、同じMI5のメンバーも信用せず、独自の判断と行動でこの世界を生き抜いてきましたが、今回はMI6に囮として利用され、最後には付け狙われて暗殺されようとします。

最後は、主人公がピンチに陥りロシア側に捕まってしまうところで終わり、以下次号に続くという感じです。やっぱり最初から3部作を購入しておいて、順番に読まないとストレスが溜まってしまいます。

★★☆

著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)

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京の怨霊、元出雲 古事記異聞(講談社文庫) 高田崇史

京の怨霊、元出雲
「古事記異聞シリーズ」は、第1作「古事記異聞 鬼棲む国、出雲」、第2作「古事記異聞 オロチの郷、奥出雲」、そして第3作に本著、さらに第4作に「古事記異聞 鬼統べる国、大和出雲」と文庫では現在この4作があります。

本来シリーズものは順番通りに読むのが正しい読書法ですが、1作目、2作目、そして先に第4作を読んでいて、この3作目が最後になってしまいました。ま、あまり気にするほどは前巻から持ち越された精緻なミステリーではないので大丈夫です。

主人公はシリーズ共通で東京の大学院生で民俗学研究室に属し、出雲について研究しています。第1巻では出雲大社を中心に出雲地方を、第2巻ではたたら製鉄などが有名な奥出雲へ、この第3巻では京都に「出雲」があると教わりフィールドワークでやってきます。

京都と出雲の関係が現在でもよくわかる場所として、京都府の亀岡市には地元民ならよく知っている「出雲大神宮」があり、京都市内には「出雲路橋」という加茂川にかかる大きな橋があります。

そしてその橋の近くに小さな「出雲寺」や「出雲路幸神社」、高野川の上流八瀬近くに「出雲高野神社(崇道神社)」という寺社があるというのはほとんど知られていないでしょう。

また出雲路橋からも近い葵祭で有名な下鴨神社境内に出雲井於神社((いずもいのへのじんじゃ、別名比良木神社)というのがあり、こちらにも古代出雲の痕跡が残されています。

そしてその出雲と京都の関係は?ということがこの歴史ミステリー小説では最大のテーマですので書きません。面白いですよ~

そしてこのシリーズの「主人公が現れる場所には死体あり」で、今回も下鴨神社境内で死体が発見され、その謎に関わっていくことになります。

シリーズは、この次に奈良を舞台にした既読の4作目「古事記異聞 鬼統べる国、大和出雲」、そして現在はまだ文庫化されてなく新書版ですが、シリーズ最終作品?の「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」が刊行されています。

個人的には、出雲へ旅する前に「出雲」のことがわかりそうな小説を探しこれを見つけ読んでみたらすっかりこのシリーズにはまってしまいました。

しかし古代天皇や神々の名前は複雑で覚えきれず、著者の言わんとすべきことが理解できたとは言えません。しかし女子大学院生を主人公にして、難しいことをわかりやすくして書かれていることは救われます。

★★☆

著者別読書感想(高田崇史)

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