リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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明日の食卓(角川文庫) 椰月美智子
2021年には同名のタイトルで瀬々敬久監督、菅野美穂、高畑充希、尾野真千子などの出演で映画化もされています。ちょうど公開がコロナ禍の中で、PR活動もできずちょっと不運でした。
主人公は同じ「ユウ」と読む名前の小学3年生の息子がいるまったく関係のない3人の母親達です。
その母親は、ひとりは専業主婦で、会社勤めの夫や学校では優秀な長男、同じ敷地に住む義理の母とも問題なく暮らしています。
ふたりめは、在宅でフリーライターの仕事をしながら小学3年生と1年生のやんちゃな兄弟と、プライドが高く仕事が少なくなってきたフリーのカメラマンの夫と暮らしています。
三人目は、シングルマザーで、朝と夜には近所のコンビニ、昼間は化粧品会社の工場で働く小学3年生の母親です。
小説の本文の前のプロローグに、母親が子供を痛めつける壮絶なシーンが出てきて、果たしてこれら3人の母親にいったいなにが起きたのか?という前振りになっています。
3人の母親を中心にしたドラマがそれぞれに展開していきますが、こうした小説に登場する夫達と言えば、だいたい影の薄い情けない小心者と決まっていますが、その通りの展開です。
私が子供だった60年前とは違い、今は様々な苦労や問題があるのだなぁと思いつつ、現代の親達は自分自身の兄弟や親戚が少ないせいか、子育ての要領や母親としての自覚が少ないのかなぁと思ったり。
昔は上流家庭でもなければ、母親はなにかしら働いていて、子供はほったらかしか兄弟や近所の人達に育ててもらったようなところがありました。
この小説を読んでいると、なにか今は両親と子供の関係は大人と子供の関係ではなく、まるで友人同士みたいな印象があり、親に対しての尊敬や憧れ、信頼などみじんもなくなっているように思えてきます。
★★☆
◇著者別読書感想(椰月美智子)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
悪貨(講談社文庫) 島田雅彦
著者の小説は過去4作品を読んでいますが、それらとは毛色の違うクライムノベルの作品でちょっと驚きました。
タイトルの「悪貨」とは、「品質が悪い貨幣」のことですが、ここでは巧な偽札を使って日本経済を混乱させる悪人と、その悪人を子供の頃に救い、その金を善意の寄付と信じて運営してきた貧困者救済組織で新たな自主経済圏を日本国内に作っていこうとする男などを中心とした内容です。
その中に、明らかに偽札とわかる百万円が見つかり、その供給元として中国の黒社会が関係していることがわかり、警視庁の女性刑事が潜入捜査員として深い闇の中に入っていくことになります。映画ではその女性刑事が主役のような感じです。
偽札と言っても国家レベルの経済力と施設、職人が揃えば本物と誰も見分けがつかないレベルのモノが作れるということです。
紙幣の紙ですら、同じ木材を育て、その木材を漉いて紙を作り、すかしをいれてと気の遠くなる話しですが、考えれば戦争が起きると、国家レベルで偽札を作り、ばらまいて相手国の経済を混乱させるというのが半ば常套手段にもなっていました。
現代では電子マネーが増えてきてはいますが、紙幣が一掃されるということは考えにくく、逆に偽札で電子マネーに換金してしまえばロンダリングしやすくなり、偽札の多い貨幣は世界中で信頼を失い、国家の経済危機へとつながります。
昨年日本でも新紙幣が発行されましたが、偽札の流通を止めるには、こうしたよりセキュリティ性のある新札への切り替えをよくおこなうことですが、これが頻繁だと偽札発券機の更新や自販機の入れ替えなど逆に国内外で信用をなくしてしまうというジレンマもあるでしょう。
なかなか考えさせられるエンタメ小説でした。
★★☆
◇著者別読書感想(島田雅彦)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
罪の轍(新潮文庫) 奥田英朗
子供の頃に親の虐待で子供の頃の記憶を失い、大きな音や子供の頃のことを思い出すと突然失神する精神的障害をもつ北海道礼文島の出身で空き巣の常習犯が、仕事仲間にはめられて島にいられなくなり東京に出てきて犯罪に巻き込まれていくというストーリーです。
私は東京オリンピックが開催された時はまだ小学生でしたが、その頃の記憶は残っていて、町へ出ると傷痍軍人らしき手や足の片方がない人が物乞いをしていたり、都市部以外はまだ舗装路が少なく車が通るとすごいほこりが舞い上がるような時代を思い出します。
小説の中に出てくる主人公の刑事がおこなう事件の捜査も、警察無線や携帯電話、防犯カメラもない中で、事件の捜査は今から考えると極めてアナログで、聞き込み捜査が中心の人海戦術と、刑事がそれぞれ抱えている情報屋や親しいヤクザからネタを集めていきます。
そうした捜査方法は今とは大違いですが、官僚組織としての警察は、体育会系のノリの上意下達で、地域ごとの縦割りのシマ意識が強く、幹部は常に保身を優先するというのは今とまったく変わりがないのが笑えます。
しかしこの時代を描いた小説は、郷愁が呼び起こされ、私にとっては懐かしいと共に共感できる楽しいものです。
★★★
◇著者別読書感想(奥田英朗)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
冷たい太陽(光文社文庫) 鯨統一郎
しかしこちらは誘拐ミステリー仕立てになっていて、決してただでは終わらない、著者独特の大どんでん返しの作品でした。
誘拐を描いた小説は、天藤真著「大誘拐」(1978年)、荻原浩著「誘拐ラプソディー」(2001年)、雫井脩介著「犯人に告ぐ」(2003年~)など、日本の著名な小説だけでもざっと100作品以上ありそうです。
誘拐映画でもっとも有名な黒澤明監督・脚本作品「天国と地獄」の原作は日本の小説ではなく、有名なアメリカ人推理作家エド・マクベイン著の「キングの身代金」(1959年)で、洋の東西問わず誘拐事件は小説のネタとしてよく使われます。
ストーリーを書くと最初からネタバレになってしまうので書きませんが、誘拐ではもっともリスクが高く、犯人を捕まえやすいのが、身代金の引き渡し時ということはよく知られていますが、多くの小説ではその手段に工夫が見られます。
この作品では誘拐事件が起きて、5千万円の身代金の5千万円で「冷たい太陽」と名付けられたダイヤモンドを買い、それを公園に置いた伝書鳩にとなかなかユニークな指示がなされます。
読んでみてのお楽しみですが、誘拐の裏に隠された謎はきっと誰もが騙されるでしょう。
ただ、私は読んでいて序盤にいくつかの違和感があり、その違和感が後になって「なるほど」と理解することができました。
★★☆
◇著者別読書感想(鯨統一郎)
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