リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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東京バンドワゴン (集英社文庫) 小路幸也
著者は北海道出身の方で、私より数年だけ若い方です。2002年にデビューし、そろそろベテランの域に達しているというところでしょうか。この著者の作品を読むのは今回が初めてです。
本書は2006年に単行本、2008年に文庫化された連作中編小説で、その後「東京バンドワゴンシリーズ」となり、現在14作も続いています。
また2013年には、亀梨和也、玉置浩二、ミムラ、多部未華子などの出演で「東京バンドワゴン~下町大家族物語」というタイトルでテレビドラマ化されています。
ま、手っ取り早く言ってしまうと、昭和時代のサザエさん一家を平成時代に合わせたような、東京の下町商店街で古書店とカフェを開いている大家族一家のドタバタ劇と言う感じでしょうか。
舞台が古書店ということもあり、古書のうんちくとか、値付けについての話しも少し出てきたりして、書籍好きにはそういう意味も含めて興味がわくかも。
元々、書籍好きな作家さんが書く小説ですから、舞台設定に図書館とか書店、古書店、主人公には作家やライター、編集者という安易な?設定が多い気がします。その中のひとつですね。
確かにホームドラマの原作としては良いかも知れませんが、シリーズの続編を読みたいか?って言われるとそこまではないかなぁ、、、
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
再会 (講談社文庫) 横関 大
40代の中堅作家さんの作品で、今回著者の作品を読むのは初めてです。何度も江戸川乱歩賞に応募し、最終選考に残りながら惜しくも受賞できず、2010年、8度目の挑戦でこの作品(初出時のタイトルは「再会のタイムカプセル」)が見事受賞し、実質的なデビュー作品となりました。文庫版は二年後の2012年に発刊されています。
正直、読んでいて、この「設定には無理があるだろう」とか「都合良く偶然が重なって」みたいなところがあちこちにあって、よく練られたリアリティのあるストーリーとは言い難いのですが、全体に流れる大雑把なプロットには著者の緻密さと巧さを感じさせます。
主人公は同じ小学校で仲良かった4人の男女で、小学校を卒業して23年が経過し、それぞれ別々の生活を送っている中、ある事件が起きることで、23年前に封印したはずのタイムカプセルの中身について、注目されることになります。
でもさぁー、タイムカプセルって、何年か後に開くことを前提としたもので、開くことを前提としない「封印したタイムカプセル」ってなに?って思ってしまいました。
もし封印したいなら、深海に静めるとか、そこまでしなくても、ダム湖や大きな沼に沈めれば、まず普通に封印できるってことは小学生でもわかりそうなことです。
ちなみに、私の経験では、小学校卒業の前にクラスでタイムカプセルを校庭に埋めて、成人後の10年後に集まって開けました。大阪万博の時に松下電器産業(現パナソニック)が企画した5000年後に開くタイムカプセルは大阪城公園に埋められています。5000年後に地球や日本の国土があるのか?っていうのはともかくです。
仲良し4人組のひとりは刑事となり、最近この街の警察署に戻ってきていて、偶然幼馴染みが関係する事件を担当することになります。
やがて23年前になにが起きたのか、それぞれどういう苦悩を抱え込んでしまったのか、など徐々に露わとなってくるという流れです。
読者に謎解きを試すというものではなく、最初はなにもわからなかったことが、タマネギの皮を1枚1枚むいていくように少しずつ明らかになっていくというちょっとまどろっこしさはありますが、途中ではなかなか中断出来ず、一気に読むことができました。
★★☆
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怒らない技術 (フォレスト2545新書) 嶋津良智
以前にはアンガーマネジメント系の本を読んで、歳を重ねるにつれ怒りっぽくなってくるのをなんとか抑えようと四苦八苦している中、たまたま見つけたというか、ショッキングピンクのド派手なカバーで、やけに目立っていたのつい引き寄せられて購入しました。
2010年発刊の新書で、誰が付けたか引きのあるタイトルも良いですよね。
著者は、、、知らないなぁ~また自分の事業PRのためのパンフレット的な新書か~?って買ったのを悔やみかけていたところ、著者には失礼ながら、読み始めるとなかなkよく書けている、面白い、読みやすい。PR色はもちろんありましたが。
ただ、この本の内容は中年男の怒りに対して抑える方法を伝授する話しではなく、若い人向けに、コミュニケーションを円滑にするため、またその能力を上げて仕事に生かすために書かれたという感じです。
私がもう40年若かったら(笑)、きっとこの著者の信者になっていたかも知れません。
だてにビジネス界で若くして稼いだあとは、未練も残さず、さっと身を引いて教育事業へ移った方らしく、こうした若い人に教えることが好きで天性なのでしょう。
もちろん中年や高年者でも、読んで損した!ってことはなく、いろいろと我が身を振り返って考えることもあり、また自分の若いときの失敗も、この本を読んでいればなかったのにぃーと思うこともありそうです。
★★☆
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ブラックボックス (朝日文庫) 篠田節子
週刊朝日に連載され、2013年に単行本、2016年に文庫版が発刊された長編小説です。1997年に「女たちのジハード」で直木賞を受賞している著者の小説は、2003年に読んだ「弥勒」以降、計8冊になります(なぜか「長女たち」が2冊ありそれをカウントすると9冊)。いずれにしても外れのない作家さんで、安心して読むことができます。
この小説のテーマは、野菜の安全性ということになりますが、この小説の中には、
・システム化された野菜工場の実態
・そこで働く名ばかりの外国人技能実習生の実態
・世界の食糧不足
・食品添加物の安全性
・添加物の複合で起きる発癌化や催奇性
・遺伝子組み換え技術の功罪
・内部通報制度や、内部通報者保護の問題
など多くの社会問題が提起されています。
タイトルのブラックボックスは、生育を最適化され、太陽にもあたらない無菌の密閉された工場で、殺菌剤や、溶液に浸され、なにから作られたかよくわからない栄養素を注入され、同一の規格で大量に作られる野菜栽培のシステマティックな工程は、誰にもわからないということを指しています。
1975年に出版され、高度成長社会に大きなネガティブなインパクトを与えた有吉佐和子著の「複合汚染」に似た、社会問題告発型の小説ですが、決して硬派なものではなく、主人公達もどこにでもいる野菜工場で夜勤で働くアルバイトや、農家の跡取り、学校栄養士の地方の同級生です。
でも、この本を読むと、コンビニやカフェなどで売られている、小さなパックに入った表面上はみずみずしくシャキシャキした色も鮮やかなサラダを好んで食べようとは思わなくなるかもです。風評ですが営業妨害だ!と言われてしまいそうです。
しかしこうしたブラックボックス化した野菜生産を非難するだけでは、農業従事者の高齢化と減少、やがて間違いなく起きる世界の人口爆発と、食糧不足などに対応ができないという現実もあり、自然の摂理に反することだとばかり言えず、必要悪とも言えます。
そのような奥深い問題ですが、読み物としてサクサクと読める軽快なストーリーとなっていて、良い作品だと思います。
★★★
◇著者別読書感想(篠田節子)
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レイトショー (講談社文庫)(上)(下) マイクル・コナリー
原題は「The Late Show」のこの作品は、アメリカで2017年に刊行され、翻訳版は今年2020年に文庫として発刊されました。
その「The Late Show」」は通常テレビの深夜番組を指すことが多いのですが、ここでは、夜の11時から勤務が始まる深夜専門の刑事のことを指しています。
コナリーの作品は1992年の「ナイトホークス」から始まる有名な「ハリー・ボッシュシリーズ」や、「リンカーン弁護士」の「ミッキー・ハラーシリーズ」など複数の主人公がいますが、今回の「レイトショー」では新たにレネイ・バラードという女性刑事が主人公となっています。
著者は、私と1歳違いの64歳になってからも、新たなシリーズをスタートさせるというモチベーションの高さで尊敬します。私なんか、別に財産はないけれど、もう完全リタイアを画策しているというのに、、、
さて、ストーリーは、元のセクハラ上司とぶつかったことで、誰もがやりたがらない深夜番専門の勤務へ飛ばされて、クレジットカード詐欺やら、暴行事件など細々した仕事を淡々とこなしています。
偶然、暴行被害者の聴取で病院を訪れていたとき、ナイトクラブで発砲事件が起きて、その被害者のひとりがその病院へ運ばれてきたことから、その事件に関わっていくことになります。
というのは、通常深夜勤務の刑事は、夜に起きた重大事件でも、刑事として立ち会いますが、そこで調べたことは、朝になれば通常の昼間勤務の刑事にすべて渡し、それ以降は関わらないのが普通となっています。
それゆえに、自分が最初に関わった事件がその後どうなったかもわからず、ひとつの事件を解決していくという仕事の醍醐味がありません。
そうした慣習をうまくくぐり抜け、夜の勤務をしながらも昼間の間に寝ないでナイトクラブで起きた事件について調べて行き、真相に近づいていくことに。
ま、著者が同じというバイアスがかかっていることもあり、ボッシュ刑事の女性版という感じです。ボッシュと同様に若い頃に両親についてのトラウマなどを抱えていることも似ています。
舞台がロサンジェルスということもあり、今回の主人公は白人ではなくハワイ出身で、ダイバシティに配慮しているのか、マイノリティを主人公に持ってきています。
また独身ということで、保護観察官、海のライフガードと浮名を流し、最後の方では助けてもらった刑事弁護士に迫られたりと、あまり著者が得意ではないお色気?なシーンもあったりします。
まだ翻訳版は未刊ですが、ボッシュとこのバラードが絡む「Dark Sacred Night」(2018年)がアメリカでは発刊されているので、今後が楽しみです。
★★★
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クラウド・ナイン (講談社文庫) 服部真澄
2015年単行本、2018年に文庫化された長編インテリジェンス小説です。著者の小説は好きで、「龍の契り」(1995年刊)、「鷲の驕り」(1996年刊)、「ディール・メイカー」(1998年刊)、「バカラ」、「KATANA」(2010年刊)、「天の方舟」(2011年刊)と読んできました。
お得意の国際謀略とインテリジェンス(諜報)と経済などをうまく組み合わせた規模が大きい小説が多いようです。
この作品のタイトル「クラウド・ナイン」は通常は「意気揚々」という意味ですが、この小説ではバックミンスター・フラーが名付けた浮遊都市をイメージしているような感じです。
某巨大検索エンジン会社を思わせる米国大手IT企業の社長が私費を投じて巨大データセンターの電力を自力でまかなえるよう人工衛星を利用した宇宙発電を研究していたことがわかります。そのためのロケットが何の予告もなく公海上から打ち上げられ、世界が驚愕します。
しかしその社長は脳腫瘍のため手術をし、意識が戻っていない状態で、いったいどういうことが起きている?ということを同社に勤務している日本人エンジニアが副社長に命じられて調べて行くという物語です。
また同時進行として輸血用血液の不足をバイオテクノロジーで解決する新たな血清が発明され、それが様々な思惑と巨大ビジネスとして成長していきます。
その二つがどう結びつくのか、ハラハラドキドキの展開でたいへん面白く読めました。
ただ、どうしても日本人が書く国際謀略ミステリーや経済小説というのは、どうもリアリティに欠け、ありえねぇと思うほど都合良く展開していくのは、日本人にはそうしたことに似合っていないのかなぁと思うばかりです。
★★☆
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メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス (角川文庫) 加藤実秋
2018年に文庫で発刊された小説です。コミカルな1話完結型の連作短編で、有川浩著「三匹のおっさん」と似たようなパターンです。
著者の作品は2015年に「モップガール」を読んでいます。
2015年2月前半の読書と感想、書評(モップガール)
タイトルからも想像出来るように、警察官が住むメゾン、つまりシェアハウスが舞台となっています。昨年2019年には、高畑充希、西島秀俊、野口五郎などの出演でTBS系のドラマが制作・放送されました。見ていないけど。
警察官と言っても、すでに退職した中高年ばかりの男やもめ達が集団で住んでいる一軒家です。
そこに新人の女性刑事が事件について相談に行くと、待ってました!とばかりに引退した元刑事達が事件の解決に一役買ってくれるという流れです。
もうひとつ大きな流れとして、女性刑事の父親がある日失踪してしまい、それが巨大建設会社の不正を知ったことで、家族に被害が及ばないよう、なにも言わずに消えたと言うことが徐々に明らかになっていきます。
おそらく続編では、その先が書かれるのではないかと思います。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
まほろ駅前狂騒曲 (文春文庫) 三浦しをん
「まほろ駅前多田便利軒」(2006年単行本/2009年文庫)、「まほろ駅前番外地」(2009年単行本/2012年文庫)のシリーズ第3弾がこの「まほろ駅前狂騒曲」(2013年単行本/2017年文庫)です。
2019年2月前半の読書と感想、書評(まほろ駅前番外地)
瑛太と松田龍平コンビのテレビドラマや映画でもおなじみです。前に映画を見たので、小説を読んでいても、主人公が瑛太と松田龍平のイメージが強烈すぎて、なかなか小説の主人公に集中ができなくなりました。
こうしたイケメン男優二人を主人公とした物語には映画やドラマがよく似合い、古くは「俺たちの勲章」や、最近では「あぶない刑事」など数多くのドラマや映画が作られています。
主人公は子供を亡くし離婚したあと実家のある東京都の町田市をモデルにした街で、ひとりで便利屋を始めますが、そこに高校の同級生だった男が転がりこんできて、男二人の生活となります。
その同級生(松田龍平)は、子供の頃に親から受けた精神的な虐待でトラウマをもっていて、かなり変人というところがミソです。だんだんと父親の松田優作の演技と似てきています。
今回の作品で一応シリーズは終了とのことですが、おそらく何年か後にはまた出てくるか、あるいはスピンオフものが作られそうな気がします。
ストーリーは、まほろ市で無農薬野菜をうたった健康食品を販売する謎の団体が勢力を拡大してきて、それに危機感を感じる街の裏の顔役や、助けを求められた便利屋が、活躍するというもので、内容的にはつまらない話しです。
貧乏で、幼子を亡くしたトラウマを抱えていた主人公に、ようやく春が訪れたというのがこの回で一番救われます。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
孤独のチカラ (新潮文庫) 齋藤 孝
2005年に単行本として発刊後、2010年に文庫が発刊されました。内容的には経験から来る持論をとうとうと述べるエッセイ的なもので、新書にすべきでは?って気もします。
最近流行りのコミュニケーション力全盛に反し、実は孤独によってこそ成長していくのだという自身の経験を元にしています。
確かに勉強するのは個人の努力が最大で、その勉強は仲間同士でワイワイするものではなく、本を熟読したり、考えたりと孤独の中で培われていくものだという論理には一理ありそうです。
ただそれは著者や私のような旧世代が一番勉強をしてきた昭和時代と違い、現在の令和時代にはまた別の論理も加わってくるのかも知れません。
それは過去の人よりも現在の人達が作っていくものなので、旧世代が「こうするべきだ!」というのは大きなお世話でしょう。世俗には疎く、プライドの高い教育者ならそれは認めたくない現実でしょうけど。
初出が2005年(平成17年)で、まだ昭和以前の価値観や慣習が色濃く残っている時代だったでしょうから、仕方はありませんが、今の十代が読むと、「これは幕末か明治時代に書かれたもの?」っていう感じかも知れません。
それは著者が好きな古典から大きな影響を受けているせいかも知れません。今の時代感覚に合っているかな~というのが率直な感想です。
★☆☆
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小学生~中学生の頃には、夏休みの宿題とか、なにかにつけて読書感想文というのを書かされます。また、高校生や大学生(就活とかで)になっても、読書感想文というのでなくても、与えられたテーマで作文や論文を書くという機会も多いと思います。
ここでは単なる読書感想文の書き方について、私の持論を書いておきます。あまり参考にならないかも。
実は中学生時代、そこそこ読書量があったので、夏休みの読書感想文を書いてくるという宿題が得意でした。
つまり数を読んでいると、感想文の書きやすい本と、書きにくい本の区別がわかっています。
書きやすいかどうかは誰にでも共通するかというとそういうわけではなく、読んでみて、面白くワクワクした小説などは書きやすく、そのワクワクしたポイントを抜き出してポジティブな感想とともに書けば良いわけです。
なにか使命感で嫌々読んでも、ポジティブな感想文なんて書けませんからね。
あと、単に書かれてたことだけで終始するのではなく、そこで得られた知見を、自分の生活や考え方などに結びつけ、書籍から発展して書くことがウケの良い感想文なのです。
例えば、小説の中に出てきた主人公の行動について、「自分ならこう考えただろう」とか、「主人公の失敗は誰にでも起きることで、自分も・・・」という具合に。
その中の「自分の考え」や「自分の失敗」はなにも事実起きたことを書く必要はなく、想像(創造?)で書けば良いのです。別にたかが感想文で、誰も「それを証明しろ!」と言いませんから。
新卒時の就職試験で、「○○について、自分の意見を2千字程度で書け」みたいな論文試験がありました。
論文試験用にと、事前にいくつかのあまり知られていなそうな名言を暗記しておき、テーマと全然関係がなくても、無理矢理にその名言を出せるように文章を書き、格調高い?文章に仕上げたところ、第二次試験の面接で言われましたが、それが絶賛されていたとか(笑)
「その割には、このブログの文章は全然格調高くないね!」って言われそうですが、ブログは採点される宿題でもなければ、将来を決めるかも知れない就職試験でもありませんからね。(言い訳です)
なんでも最近は夏休みの宿題(読書感想文とか工作とか)を簡単にネットで購入出来るそうですが、そうしたものは見る人が見れば、本人が書いたり作ったりしたものかどうかなんて、プロにかかれば簡単に見破られます。
それなら、例え自分の創作が加味されていても、自分の言葉や癖を盛り込んで作った方が、将来、そうしたインチキができない立場や状況下で、きっと役立ってくれるでしょうし、少なくともまともな教養が身につけられそうです。
一応、中学生や高校生の読者感想文に向いた(ページが少ない)書籍を書いておくと、
「老人と海」ヘミングウェイ 170ページ
「変身」フランツ カフカ 223ページ
「異邦人」カミュ 143ページ
「悲しみよこんにちは」フランソワーズ・サガン 197ページ
「車輪の下」ヘルマン・ヘッセ 234ページ
「アルケミスト 夢を旅した少年」パウロ・コエーリョ 208ページ
「華麗なるギャツビー」フィツジェラルド 251ページ
「人間失格」太宰治 192ページ
「雪国」川端康成 208ページ
「潮騒」三島由紀夫 224ページ
「春琴抄」谷崎潤一郎 126ページ
「蜘蛛の糸・地獄変」芥川龍之介 213ページ
「銀の匙」中勘助 222ページ
「李陵・山月記」中島 敦 224ページ
「風立ちぬ」堀 辰雄 152ページ
これらの小説の特徴は、読み継がれてきた名作で中身が濃い割には短い小説で、読みやすいからです。ちゃんとした感想文を書くのなら、できれば最低2回はサクッと読みたいところです。
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火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫) ジョン・ディクスン・カー
著者は1906年アメリカ生まれの数多くのミステリー小説、中でも多くの密室殺人小説が得意な方です。
この「火刑法廷」(原題:The Burning Court)は、1937年に出版された長編ミステリー小説です。1962年にはこの小説を原作とする「火刑の部屋」というフランス映画が公開されています。但し中身は大幅に変わっているそうです。
著者の得意な密室殺人ではないものの、誰がなぜ病死に似せた毒殺をおこない、さらに墓場の中から遺体が消失してしまった謎、その方法について、緻密に計算された犯行を描いています。
火刑と言えば、フランスの聖人ジャンヌ・ダルクのように魔女狩りとして裁くときや宗教異端者に対しておこなわれることが多いのですが、小説の中では、18世紀に毒をもって殺人を犯した者に対して火刑またはギロチンがおこなわれていたと書かれています。
タイトルに法廷とあり、法廷もの小説?と思っていましたが、まったく法廷シーンは出てこず、アメリカの裕福な弁護士一家で起きた事件について、出版社の編集者や、堕胎手術をおこなったことで医師免許を取り消されヨーロッパへ引っ越した元医師らが、不可解な謎解きに立ち会うことになります。
単に犯罪とその解明だけでなく、過去に起きた毒殺事件と火刑、被害者の部屋にいた謎の女性と壁を抜ける不思議、遺体が墓場から消えたあと、生き返ったように現れる不思議など、次々と複雑に謎がこれでもかというぐらいに錯綜していきます。
そして、事件が解決したあと、最後の数行で、またゾッと背筋が凍りそうな場面が展開され幕を閉じます。
古い小説で、内容もかなり複雑怪奇で、しっかり読まないと混乱しそうですが、読む価値は十分あります。
★★★
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老後の資金がありません (中公文庫) 垣谷美雨
私と同年代の著者は会社員から15年前に作家へ転身された方です。この著書は2015年単行本、2018年文庫化された小説で、この著者の作品を読むのはこれが初めてです。
帯には家計応援小説とありましたが、老後資金のノウハウ小説ということではなく、定年近くなった夫婦が様々な思いがけない場面に襲われるという恐怖小説とも言えるかも知れません。
主人公は50代の共稼ぎで働いている主婦。何事にもとろくて大学まで進んだのに就活に失敗しアルバイトで働いていた長女が無事に結婚が決まり、長男も大学を卒業して正社員に決まりヤレヤレと思ったところ、、、
まずは自分がパートで働いていた仕事がリストラに遭い、続いて旦那さんもリストラで失業、贅沢し放題で、豪華な老人ホームに入居していた義父が亡くなり、葬儀費用やお墓の費用が思いかけず高額負担することになります。そして残った義母を引き取って、、、と次々問題が転がり込んできます。
うまくやっているなーと羨ましく思っていた習い事で知り合った友人達も、裏側ではそれぞれ問題を抱えていたりして、騒動だらけで笑えてしまいます。
老後というと、人生終盤の穏やかな生活と思いがちですが、考えてみると、いろいろな問題を抱えていることがわかります。
本当は、若い人にこれを読んで、「高齢者は恵まれ過ぎている」という根拠がない世代間格差を言うのではなく、今のうちから、老後に備えて、貯蓄や投資活動など、面倒がらずにコツコツやっておくのが良いですよってことかも。
特に、夫婦で片方に収入の多くを頼ってしまうリスクは、これからますます大きくなってくるので、男女とも正社員でガッチリと定年まで働く(あるいは事業をおこなう)ということを肝に銘じておくべしです。
★★☆
◇著者別読書感想(垣谷美雨)
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聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書)) 阿川佐和子
テレビ番組の「サワコの朝」や「TVタックル」で見かける著者の2012年発刊の新書です。元女子アナ?って思っていましたがそうではなく、アルバイトでテレビのレポーターから「情報デスクToday」や「筑紫哲也 NEWS23」のキャスターなどを勤め一気に有名人になりました。
もっとも文壇の重鎮だった父親の阿川弘之氏の娘という、毛並みの良さが功を奏したことは間違いないところでしょう。
そうしたテレビの話しではなく、主に週刊文春で連載されていたインタビュー記事のインタビュアーを長く勤めていて、その時に話しがメインとなっています。
今ではすっかり落ち着いた感じで、時には友達と話すようにインタビューや対談、司会進行をするシーンをよく見かけますが、文春での仕事との時は、まだ自信もなく試行錯誤で苦労が偲ばれます。
歳を重ねていくと、どうしても人の話をジックリと聞くという心構えがなくなってしまうというのを身にしみて知っているだけに、自分も段々そうなってきているのだろうなと、この新書を手に取りました。
でもどちらかと言えば、若い人向けに、コミュニケーションを取るときにはこう言う点に注意しよう、あるいは自分はこういう失敗をしたといった感じで、高齢者にもっと人の話しを聞け!というような耳の痛い話しではなく残念。そりゃそーだ。
若い頃はずっと営業の仕事をしていて、20代前半の頃から上場企業の部長クラスや中小企業の役員など中高年者の懐に潜り込む努力を続けていたので、そうしたコミュニケーションテクニックにおいては学ぶことはほとんどありませんでした。
でも、話しのテンポはよく、面白く読めました。内容はもう忘れちゃいましたが。
★★☆
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仮面病棟 (実業之日本社文庫) 知念実希人
2014年に文庫として発刊された医療サスペンス小説です。今年2020年3月には、木村ひさし監督、出演者は坂口健太郎、永野芽郁、内田理央などで映画化されましたが、タイミングが悪く、コロナの影響で映画館も公開後すぐ休止したりしてその影響を大きく受けてしまったようです。
著者は今年41歳の現役の内科医で、この作品以外にも多くの医療ミステリーなどの作品があります。
物語の主人公は大学病院に勤務しながら、アルバイトで時々療養型病院の当直をしている見習い中の外科医です。
その当直の夜に、拳銃を手に持ったピエロの覆面をした男が怪我をした人質の女性を連れて病院へ現れます。
病院には院長と看護師が2名いましたが、主人公の外科医が院長に犯人にわからないよう警察へ通報しようと相談しますが拒まれます。
そうしたことから、この病院には警察沙汰になって困ることがあるのでは?と不信がつのっていきますが、やがて看護師のひとりが誰かに殺害されて、、、という流れです。
正直、ストーリーやミステリー内容はかなり無理した設定ですが、映像化するには病院のセット(あるいは廃院になった病院を借り切るだけ)で、コストも最小で済み、ホテルを舞台にした映画などと同様、お手軽に作れそうな感じです。そのための原作小説って感じもします。
こうしたミステリーは、「一番怪しくない登場人物が怪しい」ということさえわかっていれば、だいたい半分も読まずに大筋はわかってしまいます。それでも主人公がどうやってそれを知ることになるのか?というドキドキ感がたまりません。
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墓標なき街 (集英社文庫) 逢坂剛
2015年に単行本、2018年に文庫版が発刊された、百舌シリーズ(公安警察シリーズ)7作目の警察犯罪小説です。
著者の作品を読むのはなんと20年ぶりぐらいで、過去に「さまよえる脳髄」(1988年)、「よみがえる百舌」(1996年)を2000年前後に読んでいます。
シリーズものゆえ、過去の経緯を知っていないと、いきなりこれではちょっとつらいです。一応、過去の経緯は節々に少し触れられますけど、あくまでもシリーズを最初から読んでくださいねって感じです。
主人公は元警察官で、いろいろあって退職に追い込まれ、現在は私立探偵のような調査会社を営んでいる男性です。その主人公の別れた妻に引き取られた娘が成長し、この回では警察に入り刑事になっています。デキすぎでしょう。
シリーズを通して登場してくるのが、アイスピックのようなもので、頭の後ろの延髄を刺して殺し、その現場に百舌(もず)の羽根を置いていくという殺人鬼。
政治家や警察組織などが複雑に絡み、今回は、過去の百舌と呼ばれていた殺人鬼に関する記事を再び復活させ、それを利用してきた政治家に揺さぶりをかけようとする元新聞記者と、武器輸出三原則違反を内部告発する社員や業界新聞社編集長などが絡み、誰が何のために殺人鬼を復活させたのか?という流れです。
上記のように、過去しかもずっと前にシリーズ5作目「よみがえる百舌」を読んだだけなので、その前後のことがさっぱりわからず、今回も理解するのに苦労しました。過去の出来事は一切無視して、今回の出来事だけを追うことで、それなりに楽しめましたけどね。
このシリーズは、すでに8作目の「百舌落とし」(2019年)が出ています。私はもうお腹いっぱいでいいですけど。
★★☆
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裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書) 長嶺超輝
著者は司法試験に7回落ちてあきらめた司法系のジャーナリストの方で、数多くの裁判を傍聴し記事を書いたりされています。
そうした中で、2007年に出版した、裁判官も人だということが率直にわかる面白い「お言葉集」を集めたこの本がベストセラーになりました。発刊当時、話題になっていて知っていましたが、それはもう13年も前のことです。
タイトルには「爆笑お言葉集」となっていますが、お言葉で笑えるものは少なく、被害者の気持ちを代弁したり、被告をなだめたり、時にはきつく叱ったりしています。
そして読後に強く印象として残るのも、やはり爆笑系のお言葉ではなく、非道な被告に対して人間味あふれた優しい言葉だったりします。
タイトルがどうして爆笑となったのか不思議ですが、きっとそのほうが売れるからと編集者が勝手に決めたのでしょう。
二匹目のドジョウですが、翌年に出版されたのは2008年の「裁判官の人情お言葉集」という、ちゃんとしたタイトルになっています。売れたかどうかはわかりませんが。
この新書を読んで、3ヶ月後仕事を引退したら暇になるでしょうから、時々は裁判所へ出掛けて裁判を傍聴してみるのもいいかな~と思っています。
裁判に、原告または被告で出た一般市民は何パーセントぐらいなのか知りませんが、私は、過去に一度だけ、仕事上の売掛金回収のため原告側、と言ってもすべて代理弁護士がおこなうので、実際には傍聴席で、臨んだことがあります。
本書で語られるような面白お言葉には滅多なことでは遭遇しないでしょうけど、罪を裁く緊迫した場面の中に身を置くことで、いろいろなことを考える機会になりそうです。
★★☆
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かたみ歌 (新潮文庫) 朱川湊人
2005年に単行本、2008年に文庫化された短編集です。以前読んだ同じく短編集で直木賞を受賞した「花まんま」(2005年)の次に書かれたものです。
収録されているのは「紫陽花のころ」「夏の落とし文」「栞の恋」「おんなごころ」「ひかり猫」「朱鷺色の兆」「枯葉の天使」の7作品です。
「花まんま」の柳の下を出版社が狙ったのかは定かじゃありませんが、「花まんま」を読んだときほどの感激はなく、ちょっといまいちな感じでした。期待度が上がりすぎたかも、残念。
2018年9月後半の読書と感想、書評(花まんま)
しかし、ちゃんと幻想的な淡い恋など、著者の作品の特徴は健在で、病院での待合室などで読む暇つぶしには最適な軽い小説かもです。
今度は著者の長編を読みたくなりました。それに期待。
★☆☆
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おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか? (NHK出版新書) 池上彰
2014年に発刊された新書ですが、ベストセラーとしてよく知られています。なにかありふれたタイトルですが、書かれているテーマは(1)宗教、(2)宇宙、(3)人類の旅路、(4)人間と病気、(5)経済学、(6)歴史、(7)日本と日本人と7章立てです。
ジャーナリストの著者ですが、2012年から理系のエリートが集う東京工業大で教鞭をとることになり、そこのリベラルアーツ(現代の教養)センターに属し、学生に理系バカにならないよう、理系以外の教養を身につけてもらおうとしています。
そうした流れから、「大人の教養」として、上記の7つのテーマで講義をしているという体裁です。
今のコロナ騒動にタイムリーな話題として、前の前のブログで少し(4)人間と病気に触れましたが、そうした知らなかった雑学や知識が目一杯詰まっていて、なんだか賢くなったような気にさせてくれます。
その他にも、現在は敵対することが多いキリスト教とイスラム教、ユダヤ教ですが、ルーツはいずれも同じで経典も元々は同じところから来ていたりと、知っていて損はなさそう(特に役立つとは思えないけど)知識が学べます。
研究者からすると、「ちょっと違うんじゃないか?」って思うところもあるかも知れませんが、時代と友に研究が進めば次々と変わっていくこともあるので、細かなことは言わないで、自分が興味があることだけを学ぶのではなく、いくつになっても大雑把でも良いから幅広い知識を身につけようとする姿勢が大事なのですね。
続編の「おとなの教養 2―私たちはいま、どこにいるのか?」も既刊です。今度読まなくっちゃ。
★★★
【関連リンク】
3月後半の読書 最後の恋―つまり、自分史上最高の恋。 、よろずのことに気をつけよ、嘘ばっかり、人生に生きる価値はない
3月前半の読書 弁護士の血、それでも、日本人は「戦争」を選んだ、雪の断章、バッタを倒しにアフリカへ
2月後半の読書 華竜の宮(上)(下) 、その時までサヨナラ、定年前後の「やってはいけない」 、悪童日記
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