リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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汚名(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー
ハリー・ボッシュシリーズの20作目で、2017年に英語版、2020年には日本語版が発刊されました。原題は「Two Kinds of Truth」で、直訳すれば「二通りの真実」ということになります。
前作「訣別」では、パートタイムのボランティアで所属していたサンフェルナンド市警で未解決事件の捜査をおこなっていましたが、その時の活躍で、今回からはフルタイムの勤務をすることになっています。
最近はほとんどそうですが、事件はひとつだけでなく、並行して二つ以上の事件やトラブルを抱えての活躍となります。
ロス市警刑事だった30年前にボッシュ刑事が強姦殺人で逮捕し、死刑囚として収監されている男と弁護士から、その事件は無実だという新たな証拠が出され、さらに当時のボッシュ刑事が証拠品を不正に扱ったため有罪となったと告発がなされます。
同時に、本業のサンフェルナンド市警では、ドラックストアで、経営者親子が何者かに銃殺されるという事件が起き、その事件に関わっていると思われる犯罪組織にボッシュが高齢の薬中毒者として潜入捜査をすることになります。はたまた忙しいことです。
そして最後は例によって異母兄弟のリンカーン弁護士ミッキー・ハラーが、法廷で悪徳弁護士とボッシュを良く思っていない検察官相手に大立ち回りして、めでたしめでたしという感じ。ちょっと最近マンネリ気味かも。
最近は、ボッシュを悩ます悪役も小粒になってしまい、安心して読めるメリットはあるものの、ハードボイルドや、ミステリー、サスペンスの要素もなく、ストーリーにもやや無理が生じてきている感じです。
★★☆
◇著者別読書感想(マイクル・コナリー)
◇ハリー・ボッシュシリーズはまだ未完
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
望み(角川文庫) 雫井脩介
劇場型犯罪ドラマとして映画にもなった「犯人に告ぐ」(2004年)が大ヒットした著者の小説で、2016年に単行本、2019年に文庫化されました。
この作品も2020年に堤幸彦監督、堤真一主演で映画化され公開されていますが、外出規制などコロナ禍の渦中でもありあまり話題にはなりませんでした。
自宅の離れで建築デザイナーをしている夫と、校正の仕事を自宅で続けている妻、高校生の息子と中学生の娘という典型的な家庭を舞台にして、主人公の夫と妻が息子が関わっていると思われる殺人事件に巻き込まれます。
怪我によりサッカー選手としての夢を果たせなくなり、深夜まで友人と遊ぶようになった息子と連絡が取れなくなりますが、その息子と仲良かった友人が何者かに殺されて発見されます。
やがてその連絡が取れない息子が逃げている犯人ではないかと噂が拡がり、マスコミが自宅の前で張り込み、ネットでは根拠のない誹謗中傷が飛び交います。
夫の仕事にも影響が出始め、中学生の娘も塾や学校で居場所がなくなります。
夫は息子が加害者ではない、あっては困るという認識ですが、妻は例え加害者であっても生きていて欲しいと望みます。つまり被害者であればすでに殺されているという可能性が高いからです。
こうした究極の二者択一を問いかけた物語ですが、夫婦間のなにも情報がない中での意味のない葛藤シーンや、マスコミがワラワラと集まり家庭を壊していくところがやたらと長く、文庫で400ページ近い中で、前の100ページと最後から100ページ分だけを読めば十分という思いがしました。
子どもを持つ親にとっては、重苦しいながらも面白いテーマだったのですが、ちょっと中だるみが激しく残念です。
★☆☆
◇著者別読書感想(雫井脩介)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ノヴァーリスの引用(集英社文庫) 奥泉光
1993年に単行本、2003年に集英社文庫、2015年には創元推理文庫として出版されています。
読んでいて遅くなるからと家に連絡をするとき、テレフォンカードや公衆電話を使うシーンがあり、あれ?って思って小説の初出を調べると1993年で、まだ携帯電話が一般には普及していない頃と納得がいきました。
タイトルのノヴァーリスとは、18世紀のドイツ・ロマン主義の詩人、小説家で、自らの体験を元にした「神秘主義」の作品が有名です。
大学時代に仲間だった男性4人が恩師の葬儀で久しぶりに出会い、その後の流れで食事をしながら10数年前の大学生時代に謎の死を遂げた同級生の話題へつながっていきます。
その同級生が書いた研究論文の中で書かれていた言葉が「ノヴァーリスの引用」だったことで、死の理由と論文の迷宮に入っていくことになります。
とにかく一般人には言葉が難しくて、なかなか意味をとらえきれません。アフォリズム、マニ教、グノーシス思想、霊肉二元論、マルキストなどが会話にポンポン出てきて、いちいち調べるか、読み飛ばすかしなくてはなりません。
作品としては大きくはミステリーだと思いますが、その中にはホラー要素もあり、真夜中に読んでいてちょっとビビりました。
★★☆
◇著者別読書感想(奥泉光)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
遍路みち(講談社文庫) 津村節子
著者は1928年生まれということで、今年95歳になられています。58年前の1965年に「玩具」で芥川賞を、その他にも多くの文学賞や紺綬褒章などを受賞されている大御所の作家さんです。
ただこの方の紹介では必ず付いてまわるのが、あの大物作家吉村昭氏の妻で、2006年に夫が亡くなるまでの53年間連れ添った方です。
この著作は短篇集ですが、五篇のうち三篇は夫の吉村昭氏が癌で亡くなってから3年ほど経った頃に夫との思い出や死ぬ間際のこと、亡くなってひとりになってからのことを小説仕立てにして書かれたもので、ほぼノンフィクションとも言える内容となっているようです。
吉村昭氏と結婚したのは、短大を卒業したばかりの1953年のことで、大学の文芸雑誌で知り合ってまだ大学生で収入もない吉村氏と結婚し、しばらくは耐乏生活を余儀なくされます。
短篇は「消えた時計」「木の下闇」「遍路みち」「声」「異郷」の五作品で、最初の「消えた時計」は自身が眼の病気に罹ってしまい、作家の命とも言える眼を守ろうと、夫とともにあれこれと名医や治療法探しをする内容。
「遍路みち」「声」「異郷」の三篇が、夫を亡くしてから様々な後始末で忙殺されていましたが、3年が経ちようやくそうしたことから少し距離を持とうと、四国のお遍路へ出掛けたり、幻聴が聞こえるようになったり、誰も知った人がいない熱海のホテルに長期滞在したりした時の話しが中心になります。
吉村昭氏の小説は過去に13作品を読んでいて好きなので、その吉村氏のプライベートや最後の死に際の潔さなどが知れて嬉しかったです。
特に大作家としての一面しか知りませんでしたので、無名の若いときの苦労話や、旅行は作品の取材旅行しか行かなかった話し、最後は自分で腕や首に刺さっていた点滴チューブを外して看護師を慌てさせた話し、過去一度も原稿の締め切りを遅れたことがないこと、死んだ後にも短篇がいくつか残されていたことなど、人の生と死ですが、面白く読ませてもらいました。
★★★
◇著者別読書感想(吉村昭)
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会社へ通っていたときは、コンビニやカフェで朝と午後にコーヒーを買って飲むのが日課でしたが、20年以上前頃から休日など家でコーヒーを飲むときには「カルディ(Kaldi)で購入した挽いた豆をドリップして飲んでいます。
カルディの店舗は全国482店舗もありますので、過去一度も利用したことがない人でも、ブルーに黄色のKALDIの看板を見掛けたことがあるのではないでしょうか。
この店のコーヒー豆のなにが良いか?というと、店は変に気取ってなく大衆的で、コーヒー豆の種類(原産国)が豊富に選べ、料金も比較的安く、しかも味はそこそこ美味いというところでしょう。
コーヒー豆の種類は、どの店へ行っても20種類ぐらいあり、それぞれにわかりやすく特徴が書かれています。値段はコーヒー豆の種類によって違いますが、1パック200g単位で販売されています。
数年前からコーヒー豆価格が急騰していてかなり高くなりましたが、バランスが取れた味でリーズナブルな「スペシャルブレンド」が1パック702円(税込み2023年7月、以下同)です。
今では過去いろいろな種類の豆を試してみた結果、その中で自分が一番気に入った豆(ペーパーフィルター用に挽いて)を今はほぼ固定して買っています。
その「カルディ」のコーヒー豆を買うときに、お得になるとっておきの方法があります。
それは店舗によって年に1~2回、「お客様感謝セール」か「周年記念セール」というのがあり、その期間中はコーヒー豆が半額で購入できます(除外品あり)。
「周年記念セール」は、その店舗がオープンした月に定期的に毎年おこなわれますが、「お客様感謝セール」は不定期におこなわれます。
そのセール期間を知るためには、カルディのサイトの中にある「周年セール/オープンセールほか情報について」で調べられます。
但しリンクが時々変わるので、リンクがエラーになった場合は、トップページの右上にある「店舗検索」のページへ飛び、そこの右下に「セール開催店舗」へのリンクがあります。
これで調べておくと、「来週はどこどこへ出掛けたついでにカルディに寄ってまとめ買いしておこう」ということができます。
地方だと店舗は多くないですが、都市部だと主なターミナル駅や商業施設、商店街などにあるので、自宅や勤務先の周辺にある店舗をうまく利用すればかなりの確率で半額で購入できます。
また、あまり安くはなりませんが、近くに店舗がないという人にはオンラインで購入することもできます。少し割引になるものや、オンライン限定販売のコーヒー豆などもあるので、時々はチェックするのもいいかもです。
そんな褒めちぎったカルディですが、店舗数を急速に伸ばしたことで社内の仕入れのシステム的に無理が生じたのか、イケイケの勢いが余って購買部門が傲慢になったのかわかりませんが、今年の3月には公正取引委員会から法令違反を指摘され是正勧告を受けています。
今世間を賑わしているビッグモーターじゃないですけど、イケイケで勢いのある会社はどこかに無理が生じているというか、問題が発生しているものです。
カルディコーヒーファーム運営会社 下請け法違反で公取委勧告(NHK)
コーヒー豆や輸入食品などを扱う小売チェーン「カルディコーヒーファーム」の運営会社が、下請け法に違反する返品などを繰り返し、納入業者合わせて67社に1300万円余りの不利益を生じさせていたとして、公正取引委員会から返金を求める勧告を受けました。 |
店内は、まるでドンキホーテの小型版か?って思えるような雑多な陳列で、次々と目新しい商品や、小物類などが並べられ、セール期間中に一定額以上買うと、トートバッグなど様々な小物がプレゼントされる時もあります。
その結果、急速に膨れ上がった商品仕入れ部門には大きな権限が与えられていそうで、中にはそうした権限を笠に着て、優位な立場を利用した下請けいじめをする傲慢な人がいても不思議ではありません。
社内のコンプライアンス体制や内部統制がキチンと働かないとそうしたことが起きます。いつでも社外取締役を引き受けますよ(笑)。
それはともかく、以前BSフジで放送されているマニアックな番組「所さんの世田谷ベース」で、所ジョージさんが、「このコーヒーが一番美味いんだよな~」と言っていたのが、カルディの「ブルーマウンテンブレンド」でした。
この「ブルーマウンテンブレンド」、確かに美味しいのですが、一般人にとってはやや高い(200g、1,998円)ので、半額で買えるときに買うぐらいです。
コーヒー豆200gでコーヒー何杯とれるか?というと、カップやタンブラーの大きさによりますが、通常のコーヒーカップ1杯分(140ccほど)でコーヒー豆が約10gと言われています。
カルディの1パック(200g)では通常のコーヒーカップで20杯分、私が使っているサーモスのタンブラーは最大容量420mlで、8分目の実質2杯分の300ccぐらい入れますので、約10回分ということになります。
働いていたときは、自宅でコーヒーを飲むのは休日だけでしたが、在宅勤務になって以降(現在は完全にリタイア)、朝と午後の二回、自宅でコーヒーを煎れて飲んでいますので、挽きたて直後の豆が美味しいのはわかっていますが、品切れにならないよう、まとめ買いをして自宅に在庫をもつようにしています。
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マルタの鷹(ハヤカワ・ミステリ文庫) ダシール・ハメット
小説「マルタの鷹」(原題:The Maltese Falcon)は約100年前、1920年に雑誌で掲載後、1930年に最初の単行本が出版されたハードボイルド探偵小説の古典的な作品で、過去3回映画化されています。
映画化された作品の中でも1941年に公開された映画は主演にハンフリー・ボガートを起用してこれが大成功を収めています。
実はこの小説、創元推理文庫版を1997年に購入して一度読んでいます。今回ハヤカワ・ミステリ文庫版を購入後に気がつきましたが、読んだのが26年前のことなのですっかり内容は忘れていたので今回最初から全部読み直しました。翻訳者が違うので細かな点ではおそらく違っているのでしょう。
著者の作品ではもう一作、著者の長編小説のデビュー作「血の収穫」(1929年)を読んでいます。
内容は、サンフランシスコを舞台に、私立探偵の主人公が、怪しげな依頼人に頼まれた仕事で、ある男を同僚が尾行をしていた時、何者かに銃殺され、さらに尾行していた男もその後に殺害されるという事件に巻き込まれます。
主人公は殺された同僚の妻との関係を疑われ、殺害に関わっていたのではないかと警察に事情聴取されたり、新たな依頼人から取引を持ちかけられたりしながら、殺人事件の謎と、新たな依頼人から頼まれた黒い鳥の彫像を探すために奔走します。
タイトルは、地中海のマルタ島に十字軍の修道騎士団が住んでいた頃、当時栄華を誇るスペイン王に献上するために作られた宝石と黄金で飾られた鷹の彫刻が発見されて密かにアメリカに持ち込まれたという話があり、その彫像は価値を隠すために黒いペイントで覆われているというものからきています。
日本人の探偵ものは、どちらかというと、誰かに情報を集めさせそれをジッと考え知恵を絞り、頭の中で解決を目指していきますが、アメリカの探偵は、とにかくあちこちへよく動いて自分の目で見て調べます。また動くことで、悪事がバレないかと不安になった関係者が、自分をおとりにしてちょっかいを出してくるのを待つという手段をよくとります。その後のアメリカのハードボイルド小説の多くはその伝統を引き継いでいるのがわかります。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
オライオン飛行(講談社文庫) 高樹のぶ子
著者の作品は、過去に「億夜」と「氷炎」の2作品を25年前に読んでいて、今回久しぶりの3作目となります。
今回の作品は2016年に単行本、2019年に文庫化された作品で、ジャケ買いならぬ、タイトル買いです。
タイトルのオライオンは、有名な米国海軍の対潜哨戒機P3C、、、のことではなく、元々は星座のオリオン座のことです。冬の夜によく見える四角形のなかに並んだ3つの星がきらめいている有名な星座です。
小説の舞台は太平洋戦争前夜の1936年、フランス人パイロットが懸賞金のかかったパリから東京まで単独冒険飛行中に福岡県の脊振山で墜落し瀕死の重傷を負います。
主人公が勤める九州帝国大学医学部附属病院に重傷のフランス人パイロットが運び込まれ、そこで元気になるまで付きっきりで看護をすることになりますが、やがて看護師と患者の関係から、やがて大人の恋へと進んでいきますが、戦争が間近で敵国人となるフランス人との恋愛だけにやがて別離は必然です。
しかしそれだけではなさそうで、現代に障害を抱えて身寄りのなく生きる大姪(おおめい、姪の娘)の主人公が二人の悲恋のその後と謎を探し続け、やがてフランスへと旅をすることになります。
話は太平洋戦争前後と、現代の二つの時代を行ったり来たりしますが、読みやすく引き込まれていきます。
もちろんすべて創作ですが、こうした悲恋が起きていても不思議ではない時代で、それを現代人はどのような受け止め方をするのか、人それぞれだと思いますが、大人の恋愛小説としては面白くよくできた作品でした。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
東芝の悲劇(幻冬舎文庫) 大鹿靖明
著者は朝日新聞やAERAで記事を書いていた経済の記者で、こうしたノンフィクションを何冊か書かれているので今はフリーのジャーナリストかと思っていたら、現在も同社に勤務されているようです。本著は2017年に発刊され、2018年に文庫版が出ています。
タイトルからわかるとおり、2000年頃から様々な不祥事や社内で権力闘争などが起き、それまで半導体や、家電、原発、医療機器、パソコンなどで優良企業を誇っていた東芝が、ガラガラと崩れ落ちていく姿を詳細にレポートされています。
東芝は言うまでもなく、創業者田中久重が明治初期に電機製造会社を設立したのが最初で、その後合併や吸収などを経て、総合電機メーカーの名門企業として日本の経済界や財界に君臨していました。
しかし最初の大きな躓きは1987年のココム違反事件で、子会社の事件ですが名門東芝の名前が大きく傷つくことになります。
その後は、功を焦った当時の社長が原子力発電の会社を非常識な高値でM&Aし、逆に優良事業だったNAND型フラッシュメモリ技術や音楽事業の東芝EMI、銀座東芝ビルなどの優良不動産を次々と売却するなど自転車操業が続きます。
そうした中で、決算の数字だけは良く見せるために、様々な不正会計や当時不正ではないものの、チャレンジという名前で、子会社に在庫を押しつけて見かけ上は利益が出ているように見せかけるなど、株主や社会への裏切りが跋扈していきます。
本書では、主にそうした不正などが起き始めた2000年前後から、不正が発覚し当時関わってきた多くの経営者が責任を問われ始めた頃の2017年頃までが生々しく詳細に書かれています。
そうしていると、下記のような記事がありました。いつも思うのですが、「晩節を汚す」というのはこういう人達の言葉で、権力を一度持つと、それを維持するためにはまともな理性が働かなくなるようです。
◇東芝元社長ら5人に賠償命令 3億円、個人責任を認定―不正会計一部「違反でない」・東京地裁(2023/3/28時事通信社)
インフラ事業で不正会計があったとして、元社長の佐々木則夫、田中久雄両氏と元副社長の久保誠氏ら5人の過失責任を認め、約3億円の支払いを命じた。一方、パソコン事業などの不正は認めず、元社長の故西田厚聡氏ら10人に対する請求は退けた。(2023年04月13日原告・被告とも控訴) |
◇東芝、「最後」の株主総会 非上場化で批判や惜しむ声(2023/6/29時事通信社)
投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)などの国内企業連合による買収提案の受け入れを決定しており、早ければ年内に非上場化する。上場会社として最後の株主総会となる可能性もあり駆けつけた一般株主からは買収に対する批判や惜しむ声が相次いだ。 |
東芝の前には、家電業界では三洋電機やシャープが破綻寸前までいき、結局は外国企業へ身売りすることになりますが、東芝の場合は、無能で傲慢な経営者によって壊されていったことと、唯一稼ぎ続けると思っていた原子力発電事業が、2011年の福島の原発事故により灰燼に帰したというか東芝にトドメを刺したという感じでした。
東芝関係者だけでなく、私のように若い頃に何度か芝浦の東芝本社ビルに行き、打ち合わせや商談をしてきた人にとっては、懐かしく、またこのような内幕を知ってとても残念に思うでしょう。
東芝の人って、パナソニックやソニーの人と違ってどこかのんびりしていながら、お高くとまっている、本著にも書かれていますが「お公家さま」っぽい感じの人が多かったのは私も感じていました。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
流転の魔女(文春文庫) 楊逸
著者の作品は、7年前の2015年に芥川賞受賞作品の「時が滲む朝」(2008年)を読んでいます。
◇2015年8月後半の読書と感想、書評(時が滲む朝)
今回の作品は2013年(文庫は2015年)に発刊された長編小説で、ユニークなのは、二つのストーリー、二人の女性主人公の話が並行して進められます。
二人の主人公のうちひとり?は5000円札に印刷されている樋口一葉で、小説のタイトルはその5000円札が、もうひとりの主人公の手から離れた後、国をまたぎ様々な人の手に渡っていくイメージです。樋口一葉ともうひとりの女性主人公とも魔女と言うにはほど遠い感じですけど。
物言わぬ各国の紙幣に印刷されている人物(樋口一葉やベンジャミン・フランクリン、毛沢東、福澤諭吉など)が意志を持って語るというのは一種のファンタジーですが、そういうのは個人的にはまったく好きではありません。
もう一人の主人公は、中国から日本の大学へ留学中の若い女性で、決して裕福ではない実家の負担を気にして、できるだけ出費を避けるため、質素な生活をおくり、居酒屋や通訳のアルバイトに精を出しています。
また大学で同じクラスの男性にほのかな恋を感じていたり、同じ中国からの留学生仲間が間違った道へと行きかけるのを見ながらもなにもできずにいたりとこちらの話しの方が面白い。
なぜか、通訳のバイトで手にした5千円札の肖像画になぜか気持ちが入ってしまい、別れの時にまたきっと会えると紙幣番号を記憶しておきますが、もちろんそんな都合良く会えることなどなく、そのようなことをする意味がよくわかりません。というよくわからない小説でした。
★☆☆
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暗幕のゲルニカ(新潮文庫) 原田マハ
2016年に単行本、2018年に文庫化された国際サスペンス小説で、主人公はニューヨークにあるMoMA(Museum of Modern Art)、NY近代美術館でキュレーターとして働く架空の日本人女性と、もうひとり1930年代後半、フランスに住んでいたスペインの画家ピカソのモデルであり、愛人でもあったカメラマンを本業とするフランス人のドラ・マールという実在した女性の二人です。
物語は、1930年代、第2次世界大戦が始まり、やがてパリにもその戦火が及ぼうとしている中と、現代の二つの時代が交互に描かれます。
その1930年後半頃のパリではピカソが住まい兼アトリエを構えていましたが、スペイン共和国政府から、1937年に開催されるパリ万博のスペイン館の目玉として巨大な絵を描いて欲しいと頼まれます。
その後、フランコ総統が率いる反乱軍とフランコに協力しているヒトラーが率いるドイツ軍がスペインの都市ゲルニカを無差別爆撃し、市民を巻き込んだ破壊をおこないますが、ピカソはパリでそれを知り、戦争の醜さを伝えるため、空爆でメチャクチャになったゲルニカの模様を抽象画として描いたのが大作ゲルニカです。
そのゲルニカの制作過程を、ピカソはドラに写真で残すことを許可し、それは現在でも見ることができます。
ゲルニカは現在スペインのレイナソフィア王妃芸術センターに保管されていますが、その絵をピカソ本人が監修し忠実に再現したタスペトリーが国連安全保障理事会の廊下に飾られています。
言うまでもなくゲルニカはピカソが放った反戦思想を象徴する絵画ですが、9.11後にアメリカが報復のためタリバンを支援するアフガニスタンを空爆する記者向けの発表をおこなう際に、そのゲルニカに暗幕がかけられるという事態が起きます。
そうした反戦画を覆うという暴挙に抗議するため、ニューヨークのMoMAでピカソ展を開きその目玉として隠されたゲルニカの本物をスペインから運び込み展示しようとするのがもうひとつの現代の話しです。
特に1930年代の話では、ほぼ実在していた人物が登場し、歴史を垣間見るような気分に浸れます。
なかなかの大作ですが、面白いだけにスイスイ読めて、様々な妨害やテロ組織との対決など、エンタメ用のサスペンスもたっぷりで「日本版ダ・ヴィンチ・コード」のような感じです。ハリウッド予算で映画化できると面白そうなのですけどね。
★★★
◇著者別読書感想(原田マハ)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
翼(鉄筆文庫) 白石一文
「死様」をテーマにしたTwitterでの競作小説で、2011年に単行本が刊行され、その後2014年に文庫化されました。
主人公の女性は半導体の大手企業に勤める中堅社員ですが、風邪を引いて会社近くのクリニックへ行くと、大学生時代の親友と結婚している男性医師とバッタリ出会います。
その男性は大学生時代に、つきあっていた主人公の親友と別れるから結婚して欲しいといきなり迫られるという異常な過去があり、今でもまだその要望は強く残っていることがわかります。
女性にしてみれば、そうしたエリート医師にずっと慕われ続け、さらに言葉に出して結婚して欲しいと言われると心が動かないはずはないと思いますが、主人公は親友との関係もあり、悩みながらも拒否し続けます。
そこで、競作のテーマになる「死様」ということになりますが、それは読んでもらうとして、なかなか複雑な人間模様で個人的には「ありえねー」という感じですが、メロドラマだと思って読むとそれなりに面白く読めるかも。
しかし(男性が考える)女性心理を描かせると、谷崎潤一郎か、三島由紀夫か、宮本輝か、浅田次郎か、白石一文かっていうぐらい、見事な出来映えです。
★★☆
◇著者別読書感想(白石一文)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
訣別(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー
ハリー・ボッシュシリーズ第19作品目で、2016年にアメリカで刊行、2019年に日本語翻訳版が出ています。原題は「The Wrong Side of Goodbye」で、その意味は訳者も「ひどい別れ」「悪い別れ」など、あとがきに書かれていますがやや迷っている感じを受けました。チャンドラーの「The Long Goodbye」をもじっているという案に賛成です。
前作「贖罪の街」では、ロス市警の定年雇用延長が不祥事で終了してしまい、フリーの立場で腹違いの弟のリンカーン弁護士ミッキー・ハラーに雇われ調査官として事件に関わっていきましたが、今回は、第10作の「天使と罪の街」以来の私立探偵免許を再取得し、さらにカリフォルニア州にある小都市サンフェルナンド市の無給の補助刑事として2足のわらじを履いてそれぞれで活躍します。
今回ボッシュが取り組むのは、ひとつは私立探偵として高齢で余命幾ばくもない大富豪に頼まれた直系の遺産相続人捜しと、もうひとつがサンフェルナンド市で連続して起きていたサイコパスな婦女暴行事件の捜査です。
大富豪の遺産相続問題に関しては、ミッキー・ハラーと協力して難題を解決していき、もうひとつの連続暴行魔については、長年の刑事としての勘を働かせ、追いつめていきます。
今回はボッシュ本人や無防備な娘のマディに直接危険は及びませんでしたが、ボッシュとともに事件を追っていた女性刑事が行方不明となり命の危険が迫ります。
せっかく取得した私立探偵の免許ですが、サンフェルナンド市警でフルタイム勤務を求められ、次回作ではまた本職の刑事として活躍しそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(マイクル・コナリー)
◇ハリー・ボッシュシリーズはまだ未完
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
スマホ脳(新潮新書) アンデシュ・ハンセン
著者は1974年生まれでスウェーデンの精神科医です。本書(日本語翻訳版)は2020年に出版されていますが、書かれたのはコロナ禍前の2019年頃だったようです。「前書き」に新たに追加された「新しい前書き」が急遽加えられ「コロナに寄せて」の一文がありました。
スウェーデンでは大人の9人にひとりの割合で抗うつ薬を処方しているということで、それらが2010年頃から急速に増えてきたことを実感し、スマホと精神衛生の関係を様々な研究と実験などで明らかにしています。
結論から書けば、人間の脳はこの新しいデジタル機器をまだうまく使いこなせない上に、そこで表示されるアプリやSNSなどは、金儲けのために最適化されていて、必要以上にそれを長く使わせようと工夫されていてそれらも身体にとって不眠や不安などをあおることになっているということです。
スマホを手放せない現代人にとっては耳の痛い話しばかり出てくるので、「その調査が事実という証拠がなにも示されていない」とか、「体調不良にはもっと他に要因があるはず」とか、「スマホにはまっていながらまったく異常のない人も多い」とか反論したくなりそうです。
著者は精神科医と言うこともあり、20万年前に出現してきたホモサピエンスの脳は現代人にどういう進化を遂げてきたのか、またしてこなかったのかを詳しく説明し、HPA系(視床下部、下垂体、副腎系)のシステムについて、またドーパミンやエンドルフィン、セロトニンなど脳が指令を出す条件などが書かれています。
例えば、カロリーの高い食べ物を見ると、栄養的にはもう十分であっても脳はもっと食べろと命令し、それが現代の肥満を増加させています。それは人類の歴史上、生きていくためにもっとも大切だったのは飢餓対策で、脳は摂れるときにできるだけ多くの栄養をとるようにできているからという理屈です。
ではスマホは人間にどのような悪習を与えているかというと、スマホを使う時間が急激に増えて、運動や人とのコミュニケーションをする時間が減ってきていることや、数分ごとにスマホに意識するようになり、他の大事なことへの集中力が低下し、ストレスがたまって不安になったり不眠症に罹ったりするそうです。またスクリーンが発するブルーライトは、夜でも脳に「今は昼間だ」という誤った情報を入れることになり、不眠症や体調不良の原因となるそうです。
対応法としては、スマホを使う時間を決めて、使わないときには電源を切るとか別の部屋に置き、スマホに費やしていた時間を運動(散歩程度で良い)にあてたり、人と話しをしたりすることを推奨しています。
また、特に子どもの使用には注意が必要で、生きていく上で大切な知識を得るべきときに、なんでもすぐスマホに頼ってしまい、他人とコミュニケーションをとるのが苦手になったり、スマホがなければ何もできない大人になってしまうことを憂いています。
今は学校でもタブレットを使った教育が進められていますが、実際は紙の教科書で紙のノートに手書きで書いて覚える方法が最適で、これはスティーブ・ジョブスやFacebookの幹部が自分の子どもにはスマホは使わせないと言っているように、子供の頃からスクリーン(スマホなどモニター)漬けにするのは良くないと言っています。
私の場合は、高齢者と言うこともあり、スマホの小さな画面が苦手(見えない)で、もっぱらスマホはカメラと歩数計、時々電話化していて依存症からはほど遠い存在です。でも子ども達への制限をしてこなかったせいで、今では立派な依存症に陥っているようです。
★★☆
【関連リンク】
6月前半の読書 ニワトリは一度だけ飛べる、もう年はとれない、冷血、旅行業界グラグラ日誌
5月後半の読書 贖罪の街(上)(下)、ストロベリーライフ、最澄と空海、王国
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ニワトリは一度だけ飛べる(朝日文庫) 重松清
2002年から2003年に週刊朝日に連載されていた小説で、2019年にその文庫版が発刊されました。
主人公は妻と子がいて買ったマンションのローンを抱えている中年男性ですが、勤務する会社に新しく入ってきたやり手の営業本部長から無情にもリストラ部屋行きを命じられます。
しかし家族を守るためには勤務する大企業を辞めるわけにはいかず、また妻にもそのことが言えず、悶々とします。
同時に成績優秀で昇進もトップを走っていた同期の男性と、大阪支店から風変わりな後輩の男性と計3名がリストラ部屋に配属されます。
リストラ部屋では、ひたすら読まれることはない「社内業務改善」の案を考えたり、過去の社員名簿のデータ化などをやらされ続け、過去には何人もそれで辞めています。
そこへ主人公の男性に謎のメールが届き、そのタイトルが「ニワトリは一度だけ飛べる」というもので、読むと意味不明ながらも、営業本部長やその取り巻き達のリストラ対象者への思惑などを教えてくれるようになります。
またそのメールの送り主は、主人公に昔助けられたことがあり、今度は自分が助ける番だと言うことを書いてきますが、その助けたり人に親切をしたという記憶がまったくなく、不審半分ながら、同じリストラ部屋の仲間と一緒に会社と戦うようになります。
リストラという深刻で暗くなるテーマですが、コミカルな要素を加え、また「オズの魔法使い」の登場人物を、この小説の登場人物に当てはめて教訓的な話しになっているのが面白いです。
リタイヤして早3年、すでにビジネスの現場の記憶がすっかりなくなってしまっていますが、こうしたビジネスの現場を描いた小説を読むと、懐かしくもあり、二度とその世界はご免だとか、いろいろと感情が湧いてきます。
★★☆
◇著者別読書感想(重松清)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
もう年はとれない(創元推理文庫) ダニエル・フリードマン
2012年に著者のデビュー作品として本作品が出版されると一気に人気が沸騰し、その後シリーズ化されることになり、2023年時点で、「もう過去はいらない」(2014年)、「もう耳は貸さない」(2020年)の3作品が出ています。
このシリーズ第1作の日本語翻訳版(文庫)は2014年の出版です。原題は「Don't Ever Get Old」でほぼ直訳が日本語のタイトルです。
タイトルからわかるように、主人公は87歳の元殺人課刑事で、現役時代には12人の犯罪者を射殺した派手な活躍で有名だった刑事ですが、現在は目も耳も悪くなり、クルマの運転も自粛し、老人性認知症の初期症状があり、脳梗塞防止のために抗凝血剤を処方されているかなり弱った老人です。
しかしラッキーストライクのタバコは手放せず、病院でも教会でもレストランでもすぐにタバコに火をつけ注意され、若いときに第二次世界大戦で従軍したときアイゼンハワー将軍に言われた生き延びる教訓をずっと実践するために引退後もS&Wのマグナム357マグナムをいつも手元に置いています。
わかりやすくひと言で言えば「87歳と老いたダーティーハリー」といった感じです。そうした風変わりな主人公のミステリー&ハードボイルド?小説です。
助手的な役割としては孫の大学生が、高齢の主人公が使えないスマホやネットを駆使して様々にサポートしてくれます。
ストーリーは主人公が大戦でドイツ軍の捕虜となった時に、ユダヤ系ということで収容所で瀕死の重傷を負わせた元親衛隊の将校が、敗戦が決まるとユダヤ人から巻き上げた大量の金塊を持って逃走し、現在はアメリカで名前を変えて暮らしていいることを病気で死ぬ寸前の戦友から聞かされます。
その元ナチの将校を探し、持ち逃げした金塊を奪おうと、亡くなった戦友の家族や、話しを聞いてカジノでの借金を返そうとたくらむ神父、そしてイスラエルの離散民省の役人など、様々な怪しげな人間が主人公に群がってきます。
果たしてナチの将校を見つけて借りを返せるか?持ち逃げした金塊の行方は?そしてその過程で悲惨な殺人が起き、その犯行を主人公の孫になすりつけようとしている悪人は誰か?などスリル満点でした。
アメリカでも、ベビーブーマー世代のほとんどが第一線から引退していて、こうした高齢者が主役でヒーローの小説やエンタメが流行ってきているのでしょう。
ちなみにアメリカ人の平均寿命は、日本人の平均寿命より7歳以上短い77.3歳(2020年)で、この主人公の87歳というのは平均からするとかなりの高齢者ということになります。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
冷血(上)(下)(新潮文庫) 高村薫
「冷血」というタイトルを見たときに、まず9年前に読んだ有名なトルーマン・カポーティの1966年のノンフィクション「冷血」(原題:In Cold Blood)をまず思い起こしましたが、その作品を意識した小説となっていました。
警察や事件ものの名手である著者がカポーティの「冷血」を読み、果たして同名のこちらの小説(フィクション)ではどういう内容と味付けがされるのかに興味がありました。
◇2014年1月前半の読書と感想、書評(冷血)
初出は2010年からサンデー毎日に連載され(その時のタイトルは「新冷血」)、2012年に単行本、2018年に文庫化されています。
30過ぎの前科持ちの男性二人がネットのいわゆる「闇バイト募集広告」で知り合い、ATMやコンビニを襲い、それらの勢いのまま医者の夫婦と子どもが住む一軒家がクリスマス期間中には留守になるという情報を得たことで、空き巣を働くため深夜に侵入したところ、家族が在宅していたため家族4人を撲殺し、キャッシュカードや貴金属を盗み逃亡します。
そこに出てくるのが「マークスの山」や「レディ・ジョーカー」で活躍した警視庁刑事の合田雄一郎です。
二人の犯人は、やがて捕まりますが、その供述が「わからない」「覚えていない」「知らない」など、犯行の原因や動機、殺意、計画性など、調べようとする警察や検事を混乱させます。しかもふざけているとか、意図してなにかを隠しているようでもありません。
そうした行きがかり上で家族4人を撲殺するという重犯罪を犯した犯人と言うことで、その調べが延々と続き、さらにその周囲の人物への聞き込みや子供の頃の家庭環境、精神医の分析など次々と出てきて、そうした事実を積み上げた上での心理的な話しをずっと読み続けるのは結構な忍耐が必要でした。
なにかモデルになった同じような犯行があったのだろうか?と思いましたが、近年で私の知る限りではそうした犯罪はありません。幼い子どもを含む一家4人が惨殺された2000年12月に起きた世田谷一家殺人事件の犯人が捕まっていたら、それがモデル?とも思えますが、そちらは単独犯でまだ犯人は捕まっていません。
結局、最後までその行動や深層は謎ですが、犯行自体は揺るがず判決が下されることになります。
刑事が1受刑者に長い間手紙のやりとりをしたり、差し入れをしたりすることはありそうに思えませんが、なぜかこの主人公の刑事はこの犯罪者に興味を持ったまま頭の片隅に残し続けます。
しかしこの著者、「とまれ」という言葉が大好きで、この小説にも10数カ所出てきます。「とまれ」は、「ともあれ」の変形で「いずれにせよ」や「ともかく」という意味ですが、文章の最初に「とまれ」が連発されるのはちょっと読んでいて気になるところです。
★★☆
◇著者別読書感想(高村薫)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
旅行業界グラグラ日誌(朝日新書) 梅村達
著者は1953年生まれということなので、今年には70歳の古希を迎えておられるのでリタイアされているとは思いますが、本書とその前に出版された「派遣添乗員ヘトヘト日記」(2020年)の2冊を出発点として、今後は文筆活動をされるのかも知れません。
本著は、前作で書けなかったことや、さらにコロナ禍が襲ってからの旅行業界について、2021年に出版された新書です。
著者は様々な仕事を経験した後、派遣添乗員として勤務をし、国内はもとより、海外の旅行添乗員として活躍されています(いました)。
個人的には、学校や勤務先の会社の団体旅行で、添乗員さんにお世話になったことはありますが、個人旅行においては30数年前に新婚旅行で行ったアメリカ西海岸の移動で、現地ガイドさんにお世話になったぐらいで、あとは利用したことはありません。
社会人になってから、旅行はマイカーを使うことが多く、したがって自分でルートや時間、観光場所などを決めることをおこなってきました。添乗員さんがいることで、そうした手間や必要な知識を詰め込む手間が省けるメリットはわかりますが、団体行動があまり馴染まず、自由でいたいというわがままから、個人的に添乗員さんとの思い出や絡むということは過去にありません。
そうした自分にはほとんど馴染みがない添乗員さんの内緒話は興味を引きました。
昭和の時代は、一般の人には観光旅行と言えば団体旅行が中心でしたが、やがて平成の頃から小グループや個人旅行が増えてきます。
いまだに地方の温泉地や観光地の旅館などへ行くと、団体客向けに最適化されたホテルや旅館が多く、宴会場がメインにデーンと構えていたり、お互いの部屋が行き来しやすいようになっている構造のところが多く、ひとりで泊まろうとすると結構戸惑います。
一方、添乗員が寄りそう旅行は、地元観光地、土産物屋、旅行会社などの多くの利害関係者が有象無象に関わるパック旅行で、便利で比較的安く(安く思える)、私のように「計画を立てるところからが旅行」と思わない人にはたいへん便利なものでしょう。
しかし団体行動が原則ゆえ、様々なトラブルや人間関係があり、そうしたことも含めて楽しめる人にとっては面白そうです。
★☆☆
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