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1443
6月に入ってからコロナ禍も国民はだんだんに関心が薄くなってきましたが、医療関係者は今年の秋ぐらいからの第二波にビクビクしている状況だと思います。

インバウンド需要が激減し、国内では買い控えが続いている中で、今年中に再度、緊急事態宣言でも出たら、もうやっていけないというお店や企業は少なくないでしょう。

そうした企業の多くは、採用計画を見直したり、投資計画も変更を余儀なくされています。

コロナ前は東京五輪需要もあって失業率は下がり、有効求人倍率は上がり、働く側にとっては良い状態、雇用側は求人しても応募がなく採用ができず、給料アップや外国人雇用の推進など今から思うとまったく逆でした。

コロナという災害が、社会情勢と雇用環境を一気に反転してしまいました。

例えば、インターネットバブルが崩壊した後の2001年から2003年頃の失業者は340~360万人に達しました。

リーマンショックの影響が出た2009年、2010年は330~340万人の失業者数でした。

平常時の失業者数は100万人から多くても200万人ぐらいですから、なにか特殊な事態が起きると新たに150万人以上の失業者が増えると言うことになります。

失業者(万人)と失業率(%)の推移をグラフにしてみました。

今年度2020年度と来年度の2021年度は、シンクタンクなどが想定している数値などを元にして、控えめに私が見た想定値を入れています。



ここで言う失業者数とは、職業安定所へ登録して仕事を探していることを表明している人の数です。

職安には行かず、民間の就職斡旋や、ネットだけで仕事を探している人、職探しをあきらめて資格を取るために勉強していたり、家事手伝いをしている人などは含まれませんから、実態の失業者(仕事をしたいができない人)は実質的にはもっと多いことになります。

来年度の2021年度は控えめに見て300万人の失業者としましたが、リーマン並みだとすると340万人、リーマンショックよりひどい状況とすれば400万人という想定もできます。

400万人の失業者となれば、失業率はインターネットバブル崩壊後を上回り、統計がある中で過去最高の5.5%程度に跳ね上がります。

もうひとつ上のグラフとよく似たグラフを見てください。



こちらは、自殺者数と失業率の推移のグラフです。どうです?失業者数(失業率)の推移と自殺者数の推移(傾向)はたいへん似ていることがわかります。

年間3万3千人を超えていた自殺者数は、民主党政権になってから様々な手を打ち、2010年頃からようやく下降に転じ、昨年は2万人までに減りました。

しかし過去の統計では、失業者が増えると、それに合わせるように自殺者数も一気に高まります。

これは政治がどのように手を打つかによっても変わってくると思いますが、今の強者や総理のお友達には優遇しても、弱者には冷たく斬り捨てる政治を見る限り、健康的、経済的な弱者が多い自殺者を減らせるとは思えません。

思い切って補助金などをばらまきましたが、これは国債という名の国の借金で、それを埋めるのはこれからの税金しかありません。

同時に、医療費や社会保障費などを大きく削減していくことで、今後の支出を抑えていくぐらいのことしかできないでしょう。防衛(装備)費はトランプさんのご機嫌を取るためにもとても削減出来ないでしょうから。

「正社員激減」コロナ不況が招く働き方の大変革(東洋経済)
日本では正社員の雇用が手厚く守られているので、アメリカのような惨状(5月上旬に失業率17.2%、失業者数2507万人に達した)になることはまずありません。それでも完全失業率が6~7%まで上昇し、300万人以上が失業する、といった調査機関の見通しが出始めています。

こうした「失業者がこれから増えていくぞ!」というあおり記事を見るごとに、悲しいことだけど「自殺者がまた増加していくのか」と思ってしまいます。


【関連リンク】
1385 有効求人倍率と完全失業率長期推移グラフ
1162 不登校と自殺
1076 繰り返すな過労自殺
919 春は自殺者が多いという話し

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愛なんて嘘 白石一文
定年後 年金プラス、ひとの役に立つ働き方 杉山由美子
儚い羊たちの祝宴 米澤穂信
真鍮の評決 リンカーン弁護士(上)(下) マイクル・コナリー


愛なんて嘘(新潮文庫) 白石一文

2014年に単行本、2017年に文庫化された短編集で、「夜を想う人」「二人のプール」「河底の人」「わたしのリッチ」「傷痕」「星と泥棒」の6編からなります。

著者の作品は好きで、これが19冊目になります。初期の作品、「一瞬の光」「不自由な心」「僕のなかの壊れていない部分」などが新鮮に感じて次々読んできましたが、2009年に直木賞を受賞後はあまり読まなくなってしまいました。

いずれも若い女性を主人公にした物語で、こうした小説は主として女性作家さんが得意とするところですが、中年男性が書く若い女性の心理描写は、私の既成概念が邪魔するのか、やや不自然で、理解不能な行動もあり、そうした意外性が狙いなのかもと思いつつ、私には違和感がつのりました。

タイトル通り、いずれも現状の恋愛や結婚生活を望まなく、平和な家庭を平気に捨てて昔の彼氏だったり、直感でこの人と思える相手のところへ行ってしまうような情熱的で行動的な女性を主人公にしています。

ま、古い女性観を男性自らが打ち破るという側面は小説としては悪くはないでしょうけど、現実的にはありそうもないことが多く、シンデレラシンドロームじゃないけど、現状に不満だらけの夢見る乙女に向けた小説?という気がしてなりません。

あまりにもリアルな事情を知ってきた中年男性が読むと、どうにも複雑な感情を持ってしまいそうです。

★☆☆

著者別読書感想(白石一文)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

定年後 年金プラス、ひとの役に立つ働き方 (朝日新書) 杉山由美子

著者はすでに来年には古希になられる1951年生まれのフリーランスライターの方で、若いときには雑誌の編集とかをおこなっていたとのことです。

この新書は、2014年に発刊されたもので、基本は定年後に生き生きと働いている方に取材をし、その生き方や、定年後に働く考え方などをまとめたものです。

ただこの新書に出てくる定年を迎えた人は、「猛烈働き蜂」「仕事が生きがい」「現役時代の仕事の延長」「難関な資格を楽々ゲット」などちょっと特殊な方々の例ばかりで、私のような凡庸な人にはさっぱり参考にはなりません。もっともそうした特殊な人の話しでないとインタビュー記事は書けないでしょうからね。

この本を読むと、「このままなにもしないで定年を迎えるのは悪なのか?」と自己嫌悪に陥りそうですが、もちろんそんなことはなく、勢古浩爾著の「定年後のリアル」にあるように、「なにもしない定年後」を送っている人が大部分ではないかなと自分に言い聞かせています。

なにか定年後や老後も「生き生きとして働く」というのが世の中の常識と言う人が多くなりましたが、私は逆に、昔から日本には「隠居」という風習があるように、決して表には立たず、目立たず、仕事は若い者にまかせて、ひっそりと静かに生きるというのが一番良いと思っています。

この新書に登場する高齢者の多くは企業に長年勤め、年金もたっぷりある方々です。日々の生活のために働かざるを得ないと言う人は出てきません。

どうして、そういう高齢者が、大きな顔をして、若い人の仕事を奪ってまで、年金に加えて、生き生きと働かなければならないのでしょうか。そこのところが、わからないので、この新書に書かれている「生き生きと働く」ことを肯定ができません。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

儚い羊たちの祝宴(新潮文庫) 米澤穂信

2008年に単行本、2011年に文庫化された短編集です。短編のタイトルはそれぞれ「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」で、いずれも名門家の令嬢ばかりが通う女子大学の読書クラブ「バベルの会」が共通して関わってきます。と言っても連作スタイルではありません。

一応、ミステリー小説ですが、一部はホラー小説とも言えるようなブラックユーモア(と言ってもまず笑えませんが)的要素も含まれます。

その中で面白いと思ったのは「山荘秘聞」で、誰も客が来ない別荘の管理を任されていた女性が、近くの山で事故に遭った瀕死の登山家を助け、別荘で看病しますが、その動けない登山家を別荘で軟禁し、遭難した登山家を救助するためにやってくる捜索隊を別荘の客として迎えることに管理人として満足を得ます。

なんだかスティーヴン・キング著の小説で映画も大ヒットした「ミザリー」を思い出しましたが、この作品が一番上記に書いた「バベルの会」とはほとんど関係がなく、無理矢理その話しに向かわせなかったことが好感を持ったのかも知れません。著者の狙いとは違うかも知れませんが。

著者の作品は過去にまだ4作品しか読んでいませんが、いずれも長編作品でしたので、短編の実力もよくわかりました。でもやっぱり「折れた竜骨」のような、壮大な長編が読んでいて楽しいです。

★★☆
著者別読書感想(米澤穂信)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

真鍮の評決 リンカーン弁護士(上)(下) (講談社文庫) マイクル・コナリー

原題は「The Brass Verdict」で2008年発刊され、日本では翻訳版が2012年に刊行されています。サブタイトルにあるとおり、「リンカーン弁護士」シリーズの第二作目で、著者が28年前から書いてきた「ハリーボッシュ」シリーズの主人公、ボッシュ刑事がこの作品に登場してきます。

お約束通りの法廷ドラマですが、第1作目の事件で主人公の弁護士は拳銃で撃たれ、その治療のために投与された薬物で中毒になり、この作品でようやく復帰を果たす設定となっています。

弁護士が主人公というと、対する検事が悪役と相場が決まっていますが、昔の裁判で相対した検事が、今は同じ弁護士仲間としてやっていたところ、その弁護士が銃撃を受けて亡くなり、その仕事を引き継ぐことになります。

その亡くなった弁護士の捜査をしているのが著者のライフワークとなっているボッシュ刑事で、主人公の弁護士とは仕事柄、水と油の関係ながら、なにかお互いに引きつけるところがあります。そのなぜかは、最後に判明することになり、事件の解決とは直接関係はないもののここでは秘密です。

私がボッシュ刑事と出会ったのは、今から28年前の1992年のことで、書店でフラッと買った「ナイトホークス」からです。

その時は、ベトナム戦争で方々に掘られた地下道の穴に潜り込んでベトコンゲリラを抹殺する仕事をやっていて、帰国後に警察官になってもそのトラウマが抜けず、また生きるために風俗で働いていた母親が何者かに殺されるという過去を持った影のある刑事でした。

それが、今や、定年後も引き続きロス市警に残って殺人課の刑事を務めている老練の静かな刑事です。

ということで、コナリーファンにとっては、著者が創りだした二人の登場人物の魅力をたっぷり味わえる一粒で二度美味しい小説です。

★★★

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

【関連リンク】
 5月後半の読書 東京バンドワゴン、再会、怒らない技術、ブラックボックス
 5月前半の読書 レイトショー(上)(下)、クラウド・ナイン、メゾン・ド・ポリス、まほろ駅前狂騒曲、孤独のチカラ
 4月後半の読書 火刑法廷、老後の資金がありません、聞く力 心をひらく35のヒント、仮面病棟

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1441
コロナ禍以前は、社員の採用時に「リモートで面接」というと、「またまた~、単に企業の先進性をアピールで、実際には旧来通り呼びつけて普通の面接もしているくせに~」と、相手にもしていませんでしたが、どうやら今年は大手企業やIT系企業においてはリモートでの面接が当たり前になってきています。

ある日、ちょっとしたことで、世の中一気にガラッと変わるものですね。

日本の古くからの慣例として、例えアルバイトの採用でも、人物を見るという目的で、実際にわざわざ呼び出して、目の前で話しをしてから、「良い」「ダメ」を判断してきましたが、今はそうも言ってられなくなったようです。

そう言う点では、民間企業は予算や計画もある程度は柔軟に対応ができるので、こうした非常事態には身代わりが早いと言えます。お役所と違って、競争に晒され生き残りがかかっていますからね。

ダメなのはそのお役所で、いち早くとりまとめる必要があるコロナ感染者情報を未だにファックスでやりとりしていると、世界中の笑いものになっていました。

これは古くからの慣例を現場主導で変更することはできず、また政治家や官僚の利権が跋扈する大きな無駄な公共事業はホイホイとやっても、そうしたチマチマした業務改善の予算は誰にも評価してもらえず、非常事態が起きても容易に昔の人力とアナログに頼るスタイルは変更ができないのでしょう。

小中学生の教育の場でも、パソコンやタブレットを使ったリモート授業ができるのは、子供の親に富裕層が多い私立学校の一部だけで、公立校のほとんどでは例え全校生徒の中のひとりでもそうしたネット環境がない生徒がいると、公平性から大手を振ってはできないというのが現状です。

ならば持っていない生徒には学校からタブレットとモバイルWi-Fiを貸し出せば良いじゃない?ということですが、今までその必要性を感じず(感じる人はいても極めて少数で)、社会保障費が激増していくのと反比例して、先細っていくだけの教育予算の関係で、貸し出し用の機器など後回しにしてきたツケが回ってきたと言うことです。

小中学校は義務教育と言うことで、強硬に、そういう環境がある子供だけでもリモート授業をやってしまえ!って乱暴なことは、当然誰も言えません。言えばもうそりゃ、平均年収が1千2百万円を超える朝日新聞社の記者などに袋だたきに遭うことは確実です。

こういう時に、一部の外国のように、教育機関への寄付が当たり前におこなわれる風習があると、一部の学校に限られるでしょうけど、そうしたお金や機材を使ってできるのでしょうけど、全国統一にこだわる文科省の方針に反することになります。

それにしても、このまま、社会は一気にIT化、リモート化が進んでいくことになるのでしょうか?

コロナが収束しない限りは、そうせざるを得ませんし、今回の反省から、リモートワークやリモート会議、面接などはある程度は定着していくでしょう。

収束してからも、当面はこの恐ろしい事態が国民の多くの記憶に残っている限りは、再びパンデミックが起きたら?というBCPのために、仕事のリモート化へ舵を切っていくしかないでしょう。

パンデミック以外でも、例えば大地震や巨大台風などの災害においても、リモートワークや職場、製造拠点の分散化などは有効に機能します。

グローバルなサプライチェーンの問題も今回露わになりました。海外へ出て行くばかりの日本の工場が、再び国内回帰する可能性もあるかも知れません。と言うのも、これからしばらくは日本には広大な工場用地と、質の高い労働力は余っていきそうなので、早い者勝ちでしょう。

今までが、国土の広さに対し、人口が多いことを理由に労働集約的な仕事をしてきて、そのため日本の生産性の低さが指摘されてきました。

今の政治家にはまるで期待出来ませんが、これから10数年かけて、世界の中でトップをいく、IT先進国になることができるかどうかは、新たな日本のリーダー次第ということでしょう。

ITベンチャー企業出身で、政治にも野心がありそうな、成り上がり成功者が、ITに詳しい政治家という要請に応じて政治の舞台へ出ていこうと着々と準備をしているのでしょう。

しかしその政治家やリーダーを選ぶ(投票所に足を運ぶ)国民はと言うと、老い先はそう長くない、IT化や教育投資にさっぱり興味がない高齢者ばかりというのが最大の障壁でしょう。

【関連リンク】
1440 東日本大震災関連小説とコロナ禍後
1439 耐え忍べるかフリーランス
1436 コロナ時代のテレビ番組と再放送



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日本大震災が起きた2011年以降、小説のストーリーの中に、震災や、その後の原発事故をモチーフにした作品が数多くありました。

震災のことを書いたノンフィクションも「遺体 震災、津波の果てに」や「津波の霊たち 3.11 死と生の物語」など数多くありますが、今回は小説だけ紹介しておきます。

あの震災で起きた壮絶な悲劇は、より近くで被災した作家さん自らが書く小説にリアリティが感じられます。

震災後に書かれた小説の中で、震災や原発事故に触れたものをざっと思い出すと下記の7冊になります。

星月夜 2月前半の読書 2013/2/20(水)

小説・震災後 10月前半の読書と感想、書評 2013/10/16(水)

幻影の星 10月前半の読書と感想、書評 2015/10/14(水)

首都崩壊 12月後半の読書と感想、書評 2016/1/7(木)

漂流者たち 私立探偵・神山健介 8月後半の読書と感想、書評 2017/8/30(水)

ファミレス 2月後半の読書と感想、書評 2018/2/28(水)

その時までサヨナラ 2月後半の読書と感想、書評 2020/3/4(水)

調べてみると、まだ読んでいない本で読みたくなる震災を描いた小説がいくつもありましたので、ちょっと備忘録的に書いておきます。紹介文は、Amazonの本の紹介のところからひっぱってきています。

その時までサヨナラ 山田悠介 ヒットメーカーが切り拓く感動大作!大震災による福島の列車事故で亡くなった妻が結婚指輪に託した想いとは?誰もが涙した大ベストセラーの決定版。東日本大震災が起きる前に書かれた作品で、東北で大地震を予知した作品
ディアスポラ 勝谷誠彦 “事故”により日本列島が居住不能となり、日本人は世界中の国々に設けられた難民キャンプで暮らすことを余儀なくされた。ここ、チベットのラサから二千キロもはなれたメンシイにも、日本人の難民キャンプがある。国連職員としてキャンプを訪れた“私”の目に映ったのは、情報から隔絶され、将来への希望も見いだせないままに、懸命に「日本人として」生きようとする人々の姿だった(「ディアスポラ」)。いまから十年前に、破滅的な原発事故で国を失った日本人、という設定で、日本人のアイデンティティーを追究した、いまにして思えば「先見の明」としか言いようのない作品。2作目の「水のゆくえ」は同じ設定の下、日本に残り、酒造りを再開しようとする酒蔵の息子を描く。
光あれ 馳星周 おれたち、なんでこんな眠たい田舎町に生まれたんやろうな。原発がなければ成り立たない街。ここで男は育ち、仕事をし家庭を持った―。閉塞感に押しつぶされるこの街で、やるせなさを抱きつつ男は生きる。
神様2011 川上弘美 くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて――。 1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった――。「群像」発表時より注目を集める話題の書! 2011年。わたしはあらためて、「神様2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました。
小説・震災後 福井晴敏 3月11日以前と以後で、世界は一変した。この圧倒的な現実を前にして、小説に何ができるのか。『亡国のイージス』の人気作家・福井晴敏氏が、はじめて「現実」に挑んだ『週刊ポスト』連載作品である。 東京に住む平穏な家族を、あの震災が襲った。エコ担当社員の主人公・野田圭介は、3.11以後、元防衛庁職員の父の不穏な様子や、ネットにはまる中学生の息子の心境の変化に戸惑い、翻弄されていく。大震災と原発事故に見舞われたこの国で、彼は家族の危機を乗り越えることができるのか。
恋する原発 高橋源一郎 大震災チャリティーAVを作ろうと奮闘する男たちの愛と冒険と魂の物語。
星月夜  伊集院静 東京湾で発見された2つの遺体。殺人事件の鍵を握るのは、銅鐸と、遥か昔の哀しき“夜空の記憶”。充実の一途を辿る著者初のミステリが登場
幻影の星 白石一文 郷里の母から送られてきた、バーバリーのレインコート。なぜ?ここにもあるのに…。震災後の生と死を鋭く問う、白石一文の新たな傑作。
それでも、桜は咲き 矢口敦子 3月11日、専業主婦の葉子は友人の結婚披露宴のため仙台にいたところ、地震に見舞われた。東京に戻れずにホテルに滞在するうち、花嫁の行方不明、津波被害、原発問題など、様々な情報を知る。少し気になるのは、東京にいる夫と連絡取りづらいことだった。ささやかな日常の中、「あの日」を迎えた全ての人に小さな力をくれる、感動の長篇小説。
黒い魎 岡崎大五 母の借金を返すため、還付金詐欺の片棒を担ぐ日々を送る山岸保。リーダーの加納薫堂は、悪魔のように切れる頭脳と残忍さで、保たちを支配していた。そんなある日、東日本大震災が日本を襲う―。混乱の中、薫堂は被災地での金儲けを企み、保の故郷・南三陸に乗り込む。薫堂の支配から逃れる術はないと絶望していた保だが、被災地で懸命にボランティアを行う藤堂泉と出会い、何とかして悪魔の所行を白日の下に晒そうと決意する…。未曾有の災害と被災地の現実を背景に、人間の清濁を鮮烈に抉り出した異色のサスペンス。
架空列車 岡本学 他者との関係を作ることができず、仕事も失った「僕」は、ひとり東北の町に逃げる。そこで「僕」は、架空の鉄道路線を妄想の中で造ることに熱中する。緻密な計算と実地見分を繰りかえし、理想の鉄道が出来上がったとき、思いもかけない出来事が町を襲う…。39歳理系大学准教授、衝撃のデビュー小説。妄想のなか、僕だけの列車が走りだす―。3.11後の世界を鮮烈に描き出す問題作。第55回群像新人文学賞受賞作。
光線 村田喜代子 東日本の大地が鳴動した数日後、ガンの疑いが現われる。日本列島の南端の町で、放射線治療を受ける一ヶ月余のあいだ、震災と原発をめぐる騒動をテレビで繰り返し見つめつづけた。治療を終え、ガンが消えた身体になった著者は、「自分も今一度生きよう」と心に決める―。一国の災厄と自らの身に起きた変動を、見事に文学へと昇華した稀有の連作小説。
空飛ぶ広報室 有川浩 不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのは、ミーハー室長の鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブ1号で「風紀委員by柚木」の槙博己、鷺坂ファンクラブ2号の気儘なオレ様・片山、ベテラン広報官で空井の指導役・比嘉など、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった……。あの日の松島」を書き下ろした待望のドラマティック長篇。
終末処分 野坂昭如 原子力ムラ黎明期のエリートが、その“平和利用”に疑問を抱き…。政・官・財界の圧力、これに搦め捕られていく学界の“信仰”、マスコミという“幻想”。フクシマの“現実”を、スリーマイル、チェルノブイリよりも早く、丹念な取材で描いた34年前の長篇問題作、初の単行本化。本書のための書き下ろし「大量生産、大量消費に終わりが来る時」併録。
還れぬ家 佐伯一麦 高校生のとき親に対する反発から家出同然で上京したこともある光二だが、認知症で介護が必要となった父、そして家と、向き合わざるをえなくなる。さらに父の死後、東日本大震災が発生し、家を失った多くの人々を光二は眼のあたりにする…。喪われた家をテーマに著者が新境地を拓いた長編小説。
双頭の船 池澤夏樹 失恋目前のトモヒロが乗り込んだ瀬戸内の小さなフェリーは、傷ついたすべての人びとを乗せて拡大する不思議な「方舟」だった。船は中古自転車を積みこみながら北へと向かい、被災地の港に停泊する。200人のボランティア、100匹の犬、猫や小鳥、「亡命者」―。やがて船上に仮設住宅が建ち、新しい街と新しい家族が誕生し…。希望を手離すまいという強い意思にみちた痛快な航海記。
アニバーサリー 窪美澄 産む、育てる、食べる、生き抜く。その意味は、3月11日に変わってしまった。75歳でいまだ現役、マタニティスイミング講師の晶子。家族愛から遠ざかり、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。人生が震災の夜に交差したなら、それは二人にとって記念日になる。
桜の木の下で 藤木由紗 “3月11日”から日記形式で、主人公・理子の生活がつづられてゆく。恐怖と戦う日常と長年秘められた詩人への想いが、静かにくりひろげられる。
想像ラジオ いとうせいこう 耳を澄ませば、彼らの声が聞こえるはず。ヒロシマ、ナガサキ、トウキョウ、コウベ、トウホク…。生者と死者の新たな関係を描いた世界文学の誕生。
光の山 玄侑宗久 怒涛というしかない奔流が船や家や木や人々を呑み込んで流れ去った。避難所で毛布にくるまる娘は発電所勤務の彼を思う…(あなたの影をひきずりながら)。三歳の小太郎はDNA鑑定のために母親と警察署に来ていた。津波で亡くなった身元不明の遺体の中に父がいないかを確かめるために(小太郎の義憤)。経営していた結婚式場が壊され、除染作業をしながら仮設住宅に住む山口に、久しぶりに結婚式の依頼があったが…(拝み虫)。震災から30年後の福島。汚染された土や葉を積み上げた仮置場を守る爺さんがいた。そこはやがて、瑠璃色の光を放つ山になった…(光の山)。震災後二年、福島在住の僧侶作家が全身全霊をこめて放つ全六篇。
小説3.11 海は憎まず 穂高健一 巨大津波は人間の虚飾を剥いだ。愛、喪失、差別、そして希望。瓦礫の下から奇跡のように生まれた災害文学。
深海の夜景 森村誠一 妻を、父を理不尽にも殺され、犯人に復讐を企てる男たち。都市の深層に生き再起を窺う人間たちを棟居刑事が優しく見守る社会派短編。
ゾーンにて 田口ランディ 福島第一原発から半径20キロ圏内は警戒区域となった。人が立ち入ることのできない場所“ゾーン”に棲むものたち。極限に生きる命の輝きを描く珠玉の4篇。
調律師 熊谷達也 「音」を「香り」として感じる身体。それが、彼女が私に残したものだった―。仙台在住の直木賞作家が、3.11の後に初めて描く現代小説。
青い花 辺見庸 あいつぐ大震災と戦火で、恋も家族も未来も、すべてをうしない鉄路を彷徨う男。ただ欲しいものは、あの青いものすごいクスリ。哄笑、恐怖、愛、虚無…が卍ともえにからみあう、現代黙示小説の大傑作。
ファミレス 重松清 妻と別居中の雑誌編集長・一博と、息子がいる妻と再婚した惣菜屋の康文は幼なじみ。料理を通して友人となった中学教師の陽平は子ども2人が家を巣立ち“新婚”に。3・11から1年後のGWを控え、ともに50歳前後で、まさに人生の折り返し地点を迎えたオヤジ3人組を待っていた運命とは?夫婦、親子、友人…人と人とのつながりを、メシをつくって食べることを通して、コメディータッチで描き出した最新長篇。
大地のゲーム 綿矢りさ 私たちは、世界の割れる音を聞いてしまった―。21世紀終盤。巨大地震に見舞われた首都で、第二の激震に身構えつつ大学構内に暮らす学生たちと、その期待を一身に集める“リーダー”。限界状況を生き抜こうとする若者の脆さ、逞しさを描く最新長篇!
漂流者たち:私立探偵神山健介 柴田哲孝 大地震発生直後、いわき市に打ち上げられた無数の車。その一台の持ち主は、同僚の議員秘書を殺害し、六〇〇〇万円の現金を手に逃走していた。男は津波に呑まれて死んだのか。金はどこへ?捜索を依頼された探偵・神山健介は、愛犬・カイを連れ、被災地を北上し始める―。やがて浮上する、権力の影とは!?
三陸の海 津村節子 東日本大震災の日、「私」が新婚の頃に夫・吉村昭と行商の旅をした三陸海岸を、大津波が襲った。三陸の中でも岩手県の田野畑村は夫婦にとって特別な場所。夫婦で同人雑誌に小説を書きながらの生活は厳しかったが、執筆に専念するため勤めを辞めた夫は、2泊3日かけて「陸の孤島」と呼ばれていた田野畑へ向かう。鵜の巣断崖の絶景に出会った夫は小説の着想を得て、昭和41年に太宰治賞を受賞、作家の道が開けた。取材以外の旅はしなかった夫は、家族を連れて唯一、田野畑だけには旅行するようになる。 もし夫が生きていたら、津波に襲われた愛する三陸の姿を見て、どんなに悲しんだだろう。三陸は故郷ではない。住んだこともない。でもあの日、津波が襲ったのは、私にとってかけがえのない場所だ――。 震災の翌年、夫の分まで津波の爪痕を目に焼き付け、大切な人々に会うため、息子と孫と共に田野畑を巡った妻の愛の軌跡。
漁師の愛人 森絵都 漁師になった長尾が属する海辺のコミュニティは、“愛人”を拒みつづける。採譜の仕事をしながら彼と暮らす紗江はそのままでかまわないと思っていたのだが―。“妻”と私と、ひとりの男の“回復”をめぐる物語。
首都崩壊  高嶋哲夫 国土交通省の森崎は、東都大学地震研究所の前脇から、マグニチュード8クラスの東京直下型地震が想定より大幅に早く発生するという予測データを示される。その翌日、今度はアメリカ留学時代に親友となったロバートが大統領特使として来日し、東京直下型地震による経済損失が112兆円にも及び、1929年の世界大恐慌を遙かにしのぐ被害を引き起こすというレポートを突きつけてきた。右往左往する森崎、そして日本政府。人類未曾有の危機を回避する手段はあるのか。模索し始めたとき、震度6弱の地震が東京を襲った。地震規模が予測を下回っていたことに安堵する森崎。だが、この地震は首都崩壊への序曲にすぎなかった…。
石を抱くエイリアン 濱野京子 八乙女市子は、茨城にくらす中学3年生。受験生のはずが、志望校も決まらず、まだ気はそぞろ。そんなある日、「日本一の鉱物学者」が将来の夢という、ちょっと変わったクラスメイトの偉生から、とつぜん告白されてしまいます! とまどいながらもしだいに偉生に親しみを感じていく市子。二学期になり、偉生は、なぜか文化祭の展示で原発について調べようと提案します。
そして、星の輝く夜がくる 真山仁 2011年3月11日、東日本大震災。地震・津波による死者・行方不明者は2万人近くのぼった。 2011年5月、被災地にある遠間第一小学校に、応援教師として神戸から小野寺徹平が赴任した。小野寺自身も阪神淡路大震災での被災経験があった。 東北の子供には耳慣れない関西弁で話す小野寺。生徒たちとの交流の中で、被災地の抱える問題、現実と向かい合っていく。被災地の現実、日本のエネルギー問題、政治的な混乱。小学校を舞台に震災が浮き上がらせた日本の問題点。その混乱から未来へと向かっていく希望を描いた連作短編集。 被災地の子供が心の奥に抱える苦しみと向かい合う「わがんね新聞」、福島原子力発電所に勤める父親を持つ転校生を描いた「“ゲンパツ”が来た!」、学校からの避難の最中に教え子を亡くした教師の苦悩と語られなかった真実を描いた「さくら」、ボランティアと地元の人たちとの軋轢を描く「小さな親切、大きな……」、小野寺自身の背景でもある阪神淡路大震災を描いた「忘れないで」。そして、震災をどう記憶にとどめるのか? 遠間第一小学校の卒業制作を題材にした「てんでんこ」の六篇を収録。 阪神大震災を経験した真山仁だからこそ描くことのできた、希望の物語。
眠る魚 坂東眞砂子 2011年3月11日。日本から遠く離れた南太平洋のバヌアツにも、地震による津波警報が出されていた。旅行ガイドや通訳をしながらこの島に暮らす伊都部彩実は、そのしばらく後、実父の訃報を受けて一時帰国する。放射線被害について海外メディアが報じる危機感に反比例するかのような日本の実像、また、相変わらず保守的な家族たちの思考と言動に噛み合わない思いを抱きながら日々を送るうち、「アオイロコ」という奇妙な風土病の噂を耳にする。父の遺言で、母が亡くなった後に父が交際していた女性に、代々の土地家屋を明け渡すことになり、思いのほか動揺する彩実。国に縛られない自由な生き方を望んで海外に飛び出したはずなのに、戻る場所を求めている自分に気づく。そんな折、口中の腫瘍が悪性と診断され、即刻入院となり、期せずして日本に留まることになるのだった―。
ボラード病 吉村萬壱 B県海塚市は、過去の災厄から蘇りつつある復興の町。皆が心を一つに強く結び合って「海塚讃歌」を歌い、新鮮な地元の魚や野菜を食べ、港の清掃活動に励み、同級生が次々と死んでいく―。集団心理の歪み、蔓延る同調圧力の不穏さを、少女の回想でつづり、読む者を震撼させたディストピア小説の傑作。
聖地Cs 木村友祐 原発事故による居住制限区域内で被曝した牛たちを今も生かそうとする牧場で、ボランティアに来た女性が見たものは―「聖地Cs」。非正規雇用で働く男性が「猫が苦しむ社会は、ヒトも苦しむ社会」だと切実に思うまでの日々を描いた「猫の香箱を死守する党」。現代社会の問題を真正面から捉えた二篇を収録。
アポロンの嘲笑 中山七里 “管内に殺人事件発生”の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。福島県石川警察署刑事課の仁科係長は邦彦の移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて逃げられてしまう。彼には、命を懸けても守り抜きたいものがあった―。
避難所 垣谷美雨 九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。だがそこは、“絆”を盾に段ボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、美しい遠乃は好奇の目の中、授乳もままならなかった。やがて虐げられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む手が止まらぬ衝撃の震災小説。
月光のスティグマ 中山七里 再会したのは愛しき初恋の女か、兄を殺めた冷酷な悪女か。この傷痕にかけて俺が一生護る――。月夜に誓った幼なじみは、時を経て謎多き美女へと羽化していた。東京地検特捜部検事と、疑惑の政治家の私設秘書。追い追われる立場に置かれつつも愛欲と疑念に揺れるふたりに、やがて試練の時がやってくる。阪神淡路大震災と東日本大震災。ふたつの悲劇に翻弄された孤児の命運を描く、著者初の恋愛サスペンス!
雪炎 馳星周 三基の原発が立地する北海道・道南市。3・11から一年後の市長選挙に、原発の廃炉を公約に掲げる弁護士・小島が出馬した。何百億円もの原発利権に群がる者たちの策謀、暗闘に対し、選挙スタッフの和泉は、公安警察官時代の経験で対抗。しかし、そんな彼らに悲惨な事件が襲いかかった―。
雨に泣いてる 真山仁 3月11日、宮城県沖を震源地とする巨大地震が発生し、東北地方は壊滅的な打撃を受けた。毎朝新聞社会部記者の大嶽圭介は志願し現地取材に向かう。阪神・淡路大震災の際の〝失敗〟を克服するため、どうしても被災地に行きたかったのだ。被災地に入った大嶽を待っていたのは、ベテラン記者もが言葉を失うほどの惨状と、取材中に被災し行方不明になった新人記者の松本真理子を捜索してほしいという特命だった。過酷な取材を敢行しながら松本を捜す大嶽は、津波で亡くなった地元で尊敬を集める僧侶の素性が、13年前に放火殺人で指名手配を受けている凶悪犯だと知る……。
希望の地図3.11から始まる物語 重松清 中学受験失敗から不登校になってしまった光司は、ライターの田村章に連れられ、被災地を回る旅に出た。宮古、陸前高田、釜石、大船渡、仙台、石巻、気仙沼、南三陸、いわき、南相馬、飯舘…。破壊された風景を目にし、絶望せずに前を向く人と出会った光司の心に徐徐に変化が起こる―。被災地への徹底取材により紡がれた渾身のドキュメントノベル。
リバース 相場英雄 警視庁捜査二課から所轄に異動した西澤は、書店で万引きをした老婦人を取調べた。身なりもよく教養溢れる彼女は、なぜ万引きをしたのか。そこには、深い事情があった…。大震災と原発事故。そして、「福島にはカネが埋まっている」と嘯く詐欺師が仕掛ける被災地支援詐欺―。最も卑劣だと言っていい犯罪を、心熱き警察官が暴く社会派長編警察小説。
持たざる者 金原ひとみ 僕はどこだが分からないここにいる―修人。全ての欲望から解放された、いや、見放された―千鶴。人生とは結局、自分自身では左右しようのないもの―エリナ。きっと、私がここから別の道を歩む事はないだろう―朱里。他者と自分、世界と自分。絡まり合う、四者の思い。思いがけない事故や事件。その一瞬で、ねじ曲がる。平穏な日常が、約束された未来が。混沌、葛藤、虚無、絶望。四年ぶりの傑作長編小説。
再びの朝 風見梢太郎 大手通信系企業の研究所で働く真下裕造は、共産党員として職場でさまざまな差別を受けながらも、それに抗して活動を続けて退職間近を迎える。福島第一原発事故を契機に、かつての学生運動仲間と専門的知識を共有しながら原発ゼロの運動をすすめる主人公と、その心意気に共感して党に接近してくる職場の若者たちを描く長編。
ザ・原発所長 黒木亮 資源をめぐる太平洋戦争に敗れた反省から、戦後、日本は原子力の導入へと邁進する。同じ頃、大阪の商業地区に生まれた男は、東工大で原子力を専攻し、日本最大の電力会社に就職する。そこで彼を待ち受けていたのは、無限の原子力エネルギーという理想ではなく、トラブル続きの現場、コストカットの嵐が吹き荒れる本社、原子力という蜜に群がる政治家、官僚、ゼネコンと裏社会だった。“夢の平和エネルギー”の曙から黄昏までを駆け抜けた「運命の男」の生涯。
彼女の人生は間違いじゃない 廣木隆一 仮設住宅に住む役所勤めのみゆき。震災後、恋人とぎくしゃくする彼女は、東京でデリヘルのバイトを始め……フクシマの今を描く、映画監督・廣木隆一の初小説。赤坂真理・高良健吾・降谷建志氏推薦!
冬の光 篠田節子 四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが…。死の間際、父の胸に去来したのは、二十年間、愛し続けた女性のことか、それとも?足跡を辿った次女が見た冬の光とは―
ムーンナイト・ダイバー 天童荒太 ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが… 311後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。
我ら亡きあとに津波よ来たれ 丸山健二 養いの親を手に掛け、放浪に身をやつした青年を襲う大津波。三日三晩を生き延びたとき、あたりにはただのひとりも生者の姿はなかった。無秩序と混沌のなか、希望と絶望とに引き裂かれ、延々と繰り広げられる、独語にも似た死者たちとの問答。奇跡的に得たこの生命、これまでの人生の意味と価値をめぐる葛藤に出口はあるのか。圧倒的な筆致で描き出す丸山文学の黙示録。待望の書き下ろし長篇
やがて海へと届く 彩瀬まる すみれが消息を絶ったあの日から三年。真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった―親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが―。死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語。
焼野まで 村田喜代子 大震災直後、子宮ガンを告知された。火山灰の降り積もる地で、放射線宿酔のなかにガン友達の声、祖母・大叔母が表れる。体内のガン細胞から広大な宇宙まで、3・11の災厄と病の狭間で、比類ない感性がとらえた魂の変容。前人未到の異色作。
バラカ 桐野夏生 震災のため原発4基がすべて爆発した!警戒区域で発見された一人の少女「バラカ」。ありえたかもしれない日本で、世界で蠢く男と女、その愛と憎悪。想像を遙かに超えるスケールで描かれるノンストップ・ダーク・ロマン
また次の春へ 重松清 喪われた人、傷ついた土地。「あの日」の涙を抱いて生きる私たちの物語集。 「俺、高校に受かったら、本とか読もうっと」。幼馴染みの慎也は無事合格したのに、卒業式の午後、浜で行方不明になった。分厚い小説を貸してあげていたのに、読めないままだったかな。彼のお母さんは、まだ息子の部屋を片付けられずにいる(「しおり」)。突然の喪失を前に、迷いながら、泣きながら、一歩を踏み出す私たちの物語集。
絆 走れ奇跡の子馬 島田明宏 2011年3月11日、津波に呑まれた牧場でただ1頭生き残った牝馬シロが命と引き替えに産み落とした芦毛の牡馬「リヤンドノール(北の絆)」。牧場主・雅之とその長男・拓馬は、放射能汚染の風評被害などと戦いながらリヤンを競走馬として育て、デビューさせる。リヤンは拓馬たちの夢を載せ、日本ダービーをめざして疾走する…。東日本大震災に見まわれた福島県南相馬市を舞台に展開する、馬と人、人と人の「絆」の物語!
影裏 沼田真佑 第157回芥川賞受賞作。 大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、 ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。 ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。 いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、 「あの日」以後、触れることになるのだが……。 樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。

なぜこのような震災を描いた小説を出してきたかというと、ご想像通り、これから数ヶ月後から続々とでてくるはずの「コロナ禍」をモチーフにした小説が頭の中をよぎったからです。

悲劇あり、コミカルなものあり、世界を舞台にしたスリラーサスペンスあり、非常時にはてんで役に立たない政治家や役人とか、休業要請で破産する個人事業主とか、医師兼業作家さんは医療現場の混乱した状態や、SF作家さんはバイオテクノロジーや未知の新型ウイルスとの闘いなど、それぞれの小説家にとっては創造力をかき立てられるまたとない社会の大きなうねりが到来したことで、私なんかが想像だにしなかったストーリーを書き上げてくれそうです。

コロナ禍は間違いなく悲劇ですが、これがきっかけとなり、平和ボケしている社会を見直すきっかけとなれば多少は貢献したことと言えるのかも知れません。

世界全体が萎縮しがちな気持ちの中で、様々な視点と発想で、ぶっ飛んだ小説を楽しみにして待っています!

【関連リンク】
国内で地震から逃れることができるか?
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コロナ禍が拡がる前までは、フリーランスで働く人達は、会社の枠の中に閉じ込められている人達から羨ましがられ、評論家には褒め立てられ、国や政府からも働き方改革の見本のように言われてきました。

本人の才能や恵まれた運などによって違いますが、そこそこ収入も得られ、中にはサラリーマンでは手にすることができない報酬を得て、得意満面な姿が雑誌などで盛んに紹介されていました。

またフリーランスを含む個人事業主も後継者不足というネガティブな要素もありつつ、一国一城の主という満足と、家族が暮らしていくぐらいの収入は、優遇されている税制もあり、一生を雇われ人で終わりそうな人達から羨望の目で見られていました。

そうしたフリーランスと言われる働き方をする人は、1000万人を超え、生産年齢人口(15歳~64歳)7,596万人(2017年)の学生など収入を得ていない人を除いた1年間で収入があった人口約6000万人の17%にも達しています。

フリーランスの内訳は、プロフェッショナル系の「自由業系フリーワーカー」が53万人(5%)、法人経営者などの「自営業系独立オーナー」が322万人(29%)、「副業系すきまワーカー」が454万人(41%)、バイトの掛け持ちなど「複業系パラレルワーカー」が290万人(26%)とのことです。

そのフリーワーカーの経済規模はおよそ20兆円で、日本の国内総生産(GDP)536兆円の3.7%を占めています。20兆円というと、中古住宅市場やゲーム業界の規模と同等です。

それはともかく、今回の思いもよらなかったコロナ禍のような非常事態に陥ると、その影響は活動運転資金に余裕がないフリーなど個人事業主を直撃します。

副業でやっていた人は、大きな借金さえなければ収入はあるので問題はありませんが、アパート経営など大きな借金をして運用している場合、本業が手に付かない状況かも知れません。

政府や自治体からの補償もわずかながらありますが、元々は収入が安定しないフリーランスの仕事ゆえ、こうした非常事態においては、企業からは非正規社員などと同様、雇用(委託)の調整弁として使われることも多そうです。

おそらく、今まで盛んに脚光を浴びて得意満面だったフリーランスはもちろん、必死に歯を食いしばってフリーで居続けようともがいてきた人達の多くは、大なり小なり影響を受けているはずで、中には致命的な被害を被っているフリーランスも多いのではないでしょうか。

資金が潤沢で、内部留保がしこたまあって、無借金経営のフリーランスというのはあまり聞かないので、一般的には2~3ヶ月売上が半減すれば運転資金に行き詰まるのが普通だからです。

一方、大手企業はと言えば、ここ数年リーマンショックに散々な目にあった記憶がまだ生々しく残っていて、内部留保に努めてきました。そのおかげで、公務員はもちろん、大手企業の正社員は、夏・冬のボーナスには影響がでるでしょうけど、日々の給料にはなんら影響は及ぼしません。

2018年には企業の内部留保は過去最高の463兆円に達し、政治家や評論家はこぞって、内部留保を取り崩して社員の給料や研究開発、設備投資に回せ!と脳天気にわめいていました。

そしてこのコロナ禍が起きましたが、レナウンのような過去から経営状況が悪化していたところは別として、ほとんどの大手企業は、もし半年から1年ぐらいの休業要請があってもはまったく揺るがないレベルというのが実態です。

もし政治家や評論家が言うように、着々と内部留保してこないで、放漫経営をしていたり、あるいは、闇雲?に方々の企業へ大金を投資していたりすればソフトバンクのように大赤字となり、今回の2~3ヶ月の休業要請や生産停止で大企業ともいえども資金がショートして経営も傾いていたでしょう。

結果論ながら、リーマンショック後、内部留保に邁進してきた経営陣は先見の明があり、有能だったということです。

ただ、ポストコロナはフリーランスが活躍出来る時代だという人もいます。

ポストコロナに起こる5大変化「今は苦境のフリーランスが台頭する」(DIAMOND online)
経済においては、「フリーランスなど独立請負人によるギグエコノミーが台頭すること」が考えられる。(中略)
独立請負人は、Uberなどの運転手、芸術・エンターテインメントの担い手、各種インストラクターだけにとどまらない。テレワークや業務の外部化などが進み、企業の業務の一部を請け負う独立請負人は大変多く、これからも増える傾向にある。今後の経済の重要な担い手であるといってよい。

確かに中長期的にみると、今後ますますフリーランス的な働き方や、仕事の外注が増えていくでしょう。問題は、今後数年間は続いていきそうなコロナ禍と向き合いながら、資金力のないフリーランスが持ちこたえられるのか?という疑問はあります。

どちらかと言うと、こちらの悲観的な見方のほうが可能性は高い気がします。

アフターコロナは想像を絶する時代が待ち受ける」(bizSPA!フレッシュ)
アフターコロナといわれる時代、確実に大恐慌が到来します。私含めリーマンショックを経験していない平成生まれの人間は、今までぬるい環境で生きてきたわけですから、想像を絶する阿鼻叫喚の時代が待ち受けていることを覚悟しなければいけません。

さて、数年後、社会は、そしてフリーランスはどのような姿を呈しているのか、それは誰にもわかりません。

【関連リンク】
1068 個人事業主の中でもフリーランスとしての働き方
938 成功者の美徳
539 コンサルタントという職の謎



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