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非情銀行 (新潮文庫) 江上剛

旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に26年間勤め、広報部時代には銀行の大きなスキャンダル事件にも巻き込まれた経験のある著者は、映画化もされた高杉良氏原作の「金融腐蝕列島」のモデルとなった方です。まだ銀行在籍時に書いた作品がこの「非情銀行」で、様々な軋轢もあったのかもしれませんが、翌年に銀行は退職されています。

銀行をテーマにした小説は数多くありますが、私も若い頃には城山三郎氏や清水一行氏、高杉良氏、山田智彦氏などの作品を数多く読みました。最近でも江波戸哲夫氏、幸田真音氏、真山仁氏、池井戸潤氏などの銀行が主役(悪役)の小説は好んで読んでいます。

銀行がテーマの小説の場合、元バンカーだった作家が書く場合と、そうでない場合がありますが、やはり元銀行に勤めていた人の小説の中に出てくるエピソードなどはかなり真実味があって単に人から聞いて書いたというものとはディテールが全然違うなと感じます。

この小説ではバブルがはじけてしまい、多くの不良債権を抱え込み、さらには総会屋など反社会勢力との腐れ縁が話題となった1990年代に大手都銀で起きたことがテーマです。

ちょうどその頃には、財務省の指導もあり、都銀同士の合併が盛んにおこなわれていた時期でもあり、「銀行頭取になったらまず合併を考えるのが仕事」と言われていました。

高杉良氏の小説を30冊は読んでいるので、それと似たような流れで新鮮味はありませんが、実際にその嵐のような大手都銀の中枢部にいただけに書けることもあり、なかなか迫真の展開がスリル満点です。

今ではすっかり都銀は3グループ(りそなグループを含めると4グループ)に収斂して落ち着いてしまいましたが、私が新入社員だった頃は、三菱、住友、三井、三和、富士、第一勧銀、日本興業、東京、太陽神戸、東海、協和、大和、埼玉、北海道拓殖と14行も都銀と称される銀行がありました。

それが次々と合併を繰り返し、毎年のように銀行名が代わり、支店が統廃合され、ユーザーのためというより、自分たちの組織のため、国策のため、経営陣のために不便を強いられたこともあります。

その頃の出来事はこうした小説でしかもう知りうることができませんが、若い人にぜひ読んでおいてもらいたい本です。おそらく登場する経営陣の考え方や、それになびく部下達の滑稽とも言える行動は、若い人達にとってはまったく理解できないでしょうし、すべてフィクションだと思うでしょう。でも事実は小説よりも奇なりなのです。


夜想 (文春文庫) 貫井徳郎

貫井徳郎氏は今年44歳、すでに直木賞候補には過去に何度か挙がっています。そして今年2012年上半期も「新月譚」で候補には挙がりましたが残念ながら受賞とはなりませんでした。まだお若いので次で頑張っていただきたいものです。

多くの名作を数多く発表されていて私も今までに10作ほど読んでいますが、不思議と賞にはあまり縁のない作家さんです。多作傾向にある作家さんには審査員が冷たいのかもしれません。

「夜想」は2007年に発表され、2009年に文庫化された長編の小説です。

主人公は妻と幼い子を自分の目の前で自動車事故で失い、生きる希望を失ってしまっている外車自動車ディーラの男性です。その男性、死んだ妻と夜な夜な空想の中で会話をしたりとちょっと精神的にまいっている感じです。

そしてその主人公が落とした定期券を偶然拾ってくれた女性が、特殊な能力の持ち主で、なにも言わないのにその主人公のつらい想いを瞬時に理解してしまい、涙を流してくれるのを目撃してしまいます。

主人公はその女性の能力をもっと広く人に役立てもらうように奮闘し、会社も辞めてその仕事に没頭していきます。それが妻子を失って生きる気力を取り戻すことになるからです。

もうひとり、地方で夫に先立たれ、娘と暮らしている潔癖性気味の母親がいます。こういうミステリー小説にはつきものの、精神を病んでいる人達です。小説でも映画でも漫画でも、とかくこうした精神的障害がある人をすぐ犯人や悪人にしてしまう傾向があるのは、由々しき問題だと感じているのですが、この小説でもそれは残念ながら例外ではありません。

主人公が病んでいた精神が救われて悩める魂が解放されるのか?という内容で、もしデビュー作「慟哭」のような衝撃のラストを期待していると、ちょっと肩を透かされます。


普通のダンナがなぜ見つからない? 西口敦

2011年に発刊されたこの本は、タイトルが刺激的なせいもあってかよく売れたそうです。確かにこれだけ婚活ブームと言われ、総務省から生涯非婚率なんてものまでが発表されるようになれば、本人のみならず、その両親も手にとって読んでみたいと思うのではないでしょうか。

「普通のダンナ」の「普通」という前提条件が人によって違うでしょうけど、年収1つ取ってみても、既婚者を含み年齢問わずの日本の平均年収が400数十万円なのに、それを未婚者で一般的な結婚対象年齢である20~30代の「普通」の年収と勝手に解釈してはダメよということとか、近年結婚の条件に「三高」が廃れて、その代わりに流行してきた「価値観が近い人」という希望も、砂浜で針を探し出すようなものだというような意味のことが書いてあります。それらと同様に、女性が常識と思っている誤解や勘違いをわかりやすく解説し、ではどうすればいいの?というところまで書かれた本です。

主として女性向けに書かれているので、男性が読むとエッと驚くような本命男性攻略法や誘惑テクニックなどまで書かれているのでギョッとすること請け負いです。さすがに婚活ビジネスにいるだけに、そういう男性心理を巧みに突いたテクニック指南などお手の物でしょう。

いずれにしても男女ともに、コミュニケーション下手と、もっといい人が見つかるはずという甘えやプライドの高さ、結婚はしたいけど自由な生活もいいとか贅沢を言っている人向けですから、解決はそう容易ではありません。

いずれは結婚したいと思っている独身男性が読んでも十分に役立ちそうな話しが満載で(女性の男性に対する行動がわざとらしく見えてしまい恐怖症になる恐れあり)、また他人事ながら結構笑えてなかなか楽しい本です。


閉鎖病棟 (新潮文庫) 帚木 蓬生

精神科医でもある著者はこうした医療関連の小説も多いのですが、「総統(ヒトラー)の防具」や「千日紅の恋人」「聖灰の暗号」、映画化もされた「三たびの海峡」など医療とは関係のない様々なジャンルでも面白い小説を出されています。

この「閉鎖病棟」は1994年の作品で「臓器農場」(1993年)「安楽病棟」(1999年)「風花病棟」(2009年)と内容はまったく別物ですがなにか共通するところがありそうなシリアスで重い内容の作品です。第8回山本周五郎賞受賞作品でもあります。

様々な理由で入院している精神病棟の患者達が主人公で、タイトルのような外部と完全に遮断されいる閉鎖病棟の話しはほとんど出てきません。どちらかと言えば、外出や外泊が自由な開放病棟に長く入院している患者達がメインです。

戦後のまもなくから高度成長期にかけて、日本の裏歴史とも言えるような話しで、なかなか文学に取り上げにくい内容だけに価値があります。

ちょっと淡々とした情景描写(登場人物の過去に犯した犯罪や病歴、そして病院の日常の風景など)が長々と続き、展開が速いミステリー小説などに慣れてしまっていると、途中で少しまどろっこしくなりますが、私は名作の1つと言っていいでしょう。

タイトルや表紙のイメージから最後は後味が悪い結果になるのかなぁと思っていたら、苦難の中にも明るい未来が開けているようになっていてホッとしました。もっと純文学として高い評価がされてもいいような気がします。


「IT断食」のすすめ (日経プレミアシリーズ) 遠藤功/山本孝昭

ITをビジネスに活用することで、本来なら業務効率が上がり、仕事が楽になるはずだったはずなのですが、なぜかそうはならずに、逆に余計な資料を作成することになったり、隣の人に声をかければ済むことをわざわざ時間をかけてメールで書いて送ったりと、なにかITの使い方をみんな間違っちゃいない?という問題提起をしている本です。おそらく読んでいると耳が痛くなるシーンがいくつも登場してきます。

この本を書いたのは株式会社ドリーム・アーツ代表取締役社長山本孝昭氏と大学教授の遠藤功氏です。ドリーム・アーツと言えば様々なソフトウェアを開発しているベンチャー系IT企業ですが、そこの創業社長がIT断食を勧めるところになにか面白味がありますね。もしビジネスの経験がないか乏しい大学教授や、コンサルタント、ジャーナリストが単独で書いている本だと、真剣に読む気が起きないでしょう。

ま、この本に出てくるビジネスの現場は、多くの人が経験していることでしょうし、それを別に疑問にも感じていない人がほとんどなのでしょう。私もそのひとりです。しかしあらためて現役IT系企業の経営者に指摘されると、なるほどと思ってしまいます。

確かに私が社会人になった1980年は、基幹系システムとしてのオフコンという概念はありましたが、それをコミュニケーションや文書作成ツールとして利用するという機会はありませんでした。

やがて1台200万円以上もするワープロ専用機が登場し、あれよあれよと言う間に90年代からパソコンがオフィスに侵略し始めてきました。でもまだPC1台が80万円とかする時代でしたから、個人が専用で利用するまでには至らず、したがってメールやスケジュールの共有といった今では当たり前のことはできません。

一人一台が普及したのはなんと言ってもWindows95が登場し、続いてWindows98あたりで普及が始まるとPCの価格が一気に下がり、企業も「業務効率化による省力化と創造的業務への移行」を旗印として導入を競いました。その時には、ネットで世界や人とつながるというのはなんと素晴らしいことかと実感もしましたが、同時になにかを失っていくことに一抹の不安と寂しさを覚えたものです。

結局は、IT導入が進み、仕事が効率化されて、時間に余裕が生まれたビジネスパーソン達が、創造的な仕事をやってきたかというと、これまた疑問が残ることになります。逆にビジネスには必須の対人コミュニケーション能力が著しく落ちてきてしまい、その結果として、著者が指摘するような余計な仕事が増えたり、うつ病や引きこもりの増大といった新たな問題が急増することになります。

ま、そのようなIT中毒に冒されている会社に対し警告をして、それの対策を考えているのがこの本の主旨ですが、本来一番読んでもらいたい肝心の経営層には届きそうもないでしょうね。




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