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眼球堂の殺人(講談社文庫) 周木律
いわゆる著者の「堂シリーズ」の第1弾作品で、当初はシリーズを考えていたわけではなかったそうですが、この作品の評価が高かったことからシリーズ化が決まったそうです。
私は先にシリーズ5作目の「教会堂の殺人~Game Theory~」を読みました。
登場人物が重なることもあるようですが、それぞれのミステリーは独立しているので、特に大きな問題はなさそうです。
その「堂シリーズ」は、すでに
| タイトル | 副題 | 発行年 |
| 眼球堂の殺人 | The Book | 2013年 |
| 双孔堂の殺人 | Double Torus | 2013年 |
| 五覚堂の殺人 | The Burning Ship | 2014年 |
| 伽藍堂の殺人 | Banach-Tarski Paradox | 2014年 |
| 教会堂の殺人 | Game Theory | 2015年 |
| 鏡面堂の殺人 | Theory of Relativity | 2018年 |
| 大聖堂の殺人 | The Books | 2019年 |
の7作品が刊行されています。「堂シリーズ」は一応これで終わりだそうです。
著者は大学で建築学を学んだという経歴があることから、こうした変わった建築物をテーマにした推理小説がお得意ということで、不思議な建物とミステリーと言えばすぐに思い出されるのは前にも書きましたが綾辻行人著の「館シリーズ」と似ています。
主人公は、放浪する天才的な数学者を追いかけている女性のルポライターで、その数学者が有名建築家が新築したという自宅に招待されたことで、それに同行します。
数学者以外にその完全に隔離された山の中に建設された不思議な建築物に3日間の予定で招待されたのは、ノーベル賞受賞者の物理学者、絵画芸術家、精神医学者、政治家、編集者で、二日目の翌日から次々と殺人が起きていくことになります。
そして長い長い3日間が終わり、事件の謎が解かれた後にももうひとつ「真実」が残されているところは、驚きを隠せません。なかなかどうしてすっかりと騙されたという苦い思いが最後に待っています。
シリーズ以外にも多くの作品があるので、もっと読んでみたいと思える作家さんです。
★★★
◇著者別読書感想(周木律)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
殺し屋、続けてます。(文春文庫) 石持浅海
一部連作というのは、今回ちょっと前作とは違い、ライバルの殺し屋が登場し、それぞれの活躍?と見知らぬ関係ながら、関わりを持っていくことになります。したがって主人公は各話によってそれぞれの殺し屋、最後は二人の殺し屋ということになります。
その「殺し屋探偵シリーズ」は3作目「女と男、そして殺し屋」(2024年)、4作目「夏休みの殺し屋」(2025年)の計4作品が既刊です。
収録されている短篇のそれぞれタイトルは、「まちぼうけ」「わがままな依頼人」「双子は入れ替わる」「銀の指輪」「死者を殺せ」「猪狩り」「靴と手袋」の7篇です。
「晴らせぬ恨み 晴らします」とばかりに現代の「必殺仕事人」とも言えますが、こちらの殺し屋にとっては必殺シリーズと違い、依頼人の恨みや、やむにやまれぬ事情は関係なく、金が確実に得られ、そして仕事がたやすくできるかどうかが肝心との割り切りがあります。
いとも簡単にターゲットを尾行し、行動パターンをつかみ、そして実行していますが、小説の中での話で、現在はあちこちに防犯カメラがあり、人気のないところで長時間の張り込みをしている不審な人を見かけるとすぐに通報されたりするので、そう簡単なものではないでしょう。
ま、そういうリアルなことは小説ですから考えないとして、もっとも難しく思えるのが、殺しを引き受ける広告(営業)と、依頼人から直接話を聞く1次取り次ぎ者までのところかも知れません。その仕組みも「猪狩り」で少しだけ書かれていました。
しかし依頼人がその「殺人請負」の仕組みをなんらかの方法で知ることができると言うことは、警察や他の一般人が知っていても不思議ではないということで、当然、囮捜査の可能性も考えなきゃなりません。
そういった現実性に乏しいことから、いまいち感情移入がしにくい内容です。
★☆☆
◇著者別読書感想(石持浅海)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
月に吠えろ!萩原朔太郎の事件簿(徳間文庫) 鯨統一郎
タイトルや副題からもわかる通り、詩集「月に吠える」が有名な大正から昭和初期頃に文壇で活躍した詩人、萩原朔太郎を主人公とした連作短篇小説です。
収録作品は、 「死者からの手紙」 「閉じた空」 「消えた夢二の絵」 「目の前で消えた恋人」 「ひとつの石」 「怪盗対名探偵」 「謎の英国人」の七篇です。
面白いのは、ひとつの事件を解決したあとに、その事件をイメージさせる実際にある萩原朔太郎の詩を挙げて、もちろんフィクションですが、事件からインスピレーションを得たものと匂わせていて、そのあたりは著者の創造力や作品への造詣が深いことがよくわかります。
こうした歴史上の人物を主人公にした小説が好きで、学生時代に教科書に出てきた有名人は実際はどういう人だったんだろう?と思いをはせながら読めます。
登場人物は、萩原朔太郎がホームズ的な探偵役で、語り手としてはその助手的な役割のワトソン役として萩原朔太郎と仲が良かった室生犀星です。
その他、室生とともに一緒の詩人グループ団体「人魚詩社」を作っていた山村暮鳥や、師匠的な北原白秋、「消えた夢二の絵」に登場する竹久夢二本人など。この時代には蒼々たる芸術家が出ています。
また「人魚詩社」が大正時代に実際にあった場所は、淀橋の七曲がりという地域(現在の東京都新宿区下落合)で、それから連想させるように「月に吠えろ!」というタイトルにも笑ってしまいました。もちろん人気テレビドラマ「太陽にほえろ!」と萩原朔太郎の代表作をミックスしてパロディにしています。
★★☆
◇著者別読書感想(鯨統一郎)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
誰も書かなかった日本史「その後」の謎(中経の文庫) 雑学総研
2014年に出版された文庫ですが、角川グループの中経出版が編集し、KADOKAWAが発行しています。
全部で146ものエピソードがわかりやすく簡素に書かれていて、読みやすいのはいいのですが、様々な時代(飛鳥時代~昭和時代)が行ったり来たりして、時代感覚が狂ってしまいそうです。
例えば、「明治維新後、徳川宗家はいったいどうなった?」の次が、「大化の改新後、蘇我氏の子孫は実は栄えていた?」で、その次には「坂下門外の変のあと、老中・安藤信正はどうなった?」というような感じです。
その他にも、史実と違って「本当は生き延びていた?」という話も豊富です。
「壇ノ浦に消えたはずの安徳天皇は生きていた?」
「ロシア皇太子と一緒に帰国?生存説が根強かった西郷隆盛」
「日本全国に生存説が!真田幸村はどこで死んだのか?」
「実は生き延びていた?忠興の妻・細川ガラシャ」
「生存説も根強かった東洋のマタハリ川島芳子」
「新撰組組頭・原田左之助は満州で馬賊になっていた?」
「ヨーロッパ逃亡説もささやかれる大塩平八郎のその後」
「琉球へ流れ着いた源為朝、子孫は琉球王国の初代王に?」
など。
単なる噂話だけでなく、古い文書や手紙、石碑などからも検証していて、説得力は?ですが、面白い話です。
ただあくまで、下世話でどうでも良さそうな雑学レベルのものが多いのと、あまり有名ではない(私は知らなかったというだけであるところでは有名なのかも知れません)人物、例えば大川周明や林子平、川上貞奴、飯沼貞吉、聖武天皇、谷干城、河口慧海などの話は、雑学としては良いけど興味は薄いです。
暇つぶしには十分役立ちそうな良い本です。
★★☆
【関連リンク】
3月前半の読書 カウントダウン、斬に処す 甲州遊侠伝、嫉妬/事件、プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」
2月後半の読書 幕末紀 宇和島銃士伝、大還暦 人生に年齢の「壁」はない、殺しのライン、この国のかたち(1)
2月前半の読書 騙し絵の檻、日本のタブー3.0、日御子(上)(下)、この闇と光
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1882
まぁそれは必ずしも年齢的なことではなく、性格や人生観など様々な影響で左右されているのかもしれませんが、年齢は大きな要素です。
年をとると守りに入り新しいことにチャレンジしなくなるというのはよく言われることですが、それ以上に以前は関心や興味があったことでも、年齢を重ねていくにつれ、その関心度が一気に下がってしまうということをいままさに経験しています。
具体的には、以前なら政治や選挙については、人並み以上に高い関心がありましたが、今はまったく興味はなくなり、テレビで女帝に成り上がったかのように振る舞う政治家や、顔中シミとアザだらけの強欲の昭和オヤジというイメージの政治家、口先三寸で軽薄そうな政治家が次々出てくるのは見ているだけで鬱陶しく感じ、そういうテレビはすぐ消し、新聞は閉じてしまうようになりました。
もう政治にはなにも期待していないし、選挙権は行使するとしても、その結果や政策になんの興味も関心もなくなりました。
また印象操作と思えそうな北の将軍様とそれを称えるハイテンションなニュース映像と、繰り返し放送される共産国の派手な軍事パレード、寒い国で何十万人の戦死者を出しても好き勝手に軍事活動を続ける独裁者、自分の発言以外はすべてフェイクと決めつけ、それでいて自分の発言はデタラメと朝令暮改ばかりという愚かな大国のリーダーなど、それを詳しく知っても今の私には意味も興味もありません。
よく悩み相談なんかで、「自分の力でどうにもできないことを心配したり、クヨクヨ嘆いても仕方がない、無駄なだけ」というアドバイスが語られますが、確かにその通りで、日本政治や国際関係など自分の力でどうにもできない以上、なにも真剣には考えないのが正しい選択でしょう。必死になって政治家の応援をしたりSNSで過激な政治や戦争の行方の議論をしているのを見るとアホばっかりと思ってしまいます。
オリンピックシーズン中は日本人選手の活躍はどこのチャンネルでも、やれ家族との絆や、怪我との戦い、恩師との美しい師弟関係など、(テレビ局がそう思っている)感動シーンを目一杯に盛り込み、何度も繰り返しやっているので、以前ならこの時期は仕方ないとあきらめて眺めていましたが、最近はアナウンサーや解説者、キャスター達の大げさでハイテンションなしゃべりに嫌気がさして、オリンピック中継やそのニュースが流れるたびにテレビは消してしまいます。
つまり政治やスポーツ中継(落ち着いた静かな中継をしてくれるNHK BSのMLB中継は除く)は、結果だけわかればそれでよく、テレビも新聞もネットも必要を感じなくなり、これも年をとって様々なことからの興味が失われていくひとつだなぁと思いました。
情報が少なく貴重だった昔はそうじゃなかったんだけどなぁと思いながら、残り少なくなってきた人生で、自分に残された時間の使い方の取捨選択に拍車がかかってきたということです。取捨に拍車というのは韻を踏んでます。
この2月は、衆議院選挙があり、さらに続けて冬季オリンピックがあり、もうテレビを付けるとギャハハと下品に笑っているだけのくだらない売れない芸人を集めたバラエティ番組以外はそればかりやっていて、結局テレビを付けるのは、朝昼晩のニュースと天気予報以外には、過去に録画しておいた趣味の番組と(政治やスポーツ以外の)ドキュメンタリー、古い映画ばかりになってしまいました。
50歳以下の人には「まだテレビや新聞なんか見ているの?」と笑われそうですが、60代以上の人にとってテレビと新聞は唯一(唯二)と言って良い(正確かどうかは別にして)世の中で起きている大切な情報源であり、難しい話をわかりやすく短時間で伝えてくれるもので、なくてはならないものです。えぇ昭和に多くの時間を費やし、それが習い性となっているものですから。
リタイアするとやることがなくなり精神的に不安定になったり、暇なだけに妻に様々な面倒をかけるようになって熟年離婚という事態に陥ったりという話は、小説やドラマでよく出てきますが、私に至っては今のところ「やることがない」「暇を持て余す」ということはまったくありません。
妻はパートで今でも働いているので、できるだけ負担を分散し、現役中はやってなっかった家事もできるだけやり、その他の時間は趣味に没頭したり、ブログを書いたり、30~40年前に仕事で毎日歩いていた街の変貌を見るためカメラを持って歩いたりして楽しんでいます。虚勢ではなく本当に日々の時間が足りません。
また、リタイアする前に「やりたいことリスト」を作っておきました。これが意外と効果を発揮します。
これは映画「最高の人生の見つけ方」(2007年)で出てきた「棺桶リスト(Bucket List)」を模したもので、死ぬまでにやりたいことをリスト化しておいたものです。これが日々の目標にもなるので、リタイア前に作っておくことをお勧めします。
映画では「スカイダイビングをする」とか、「ピラミッドを見る」とか、「マスタングでレースに出る」とか、かなりハードルの高い、しかも自分の楽しみを中心とした「やることリスト」でした。
しかし私の場合は、そうした旅行など楽しみに加え、質素で現実的なあれこれ、「買って使わなかった家電やツール、趣味のモノをヤフオクに出品し売る」とか、「家のリビングのフローリングをDIYで張り替える」「BSアンテナをDIYで交換する」「18箇所近くある網戸をDIYで張り替える」など、実用的な「やることリスト」で、リタイア時には全部で20ほどのリストを作り、すでに8つほどは完了しています。
また、サラリーマン定年リタイア組の先輩、勢古浩爾氏が書いた「定年後のリアル」は、定年後にはこうなるというリアルな実態がよくわかり、定年前、現役引退前に読んでおくといろいろと参考になります。
日課としているウォーキングは、元々歩くのが好きで、現役中は歩いているときが一番頭が冴える時間で、仕事のアイデアや工夫などは歩行中に思いついたことが多かったです。
現在のウォーキングは、元々人工股関節手術の後に始めたリハビリの延長で、健康のために歩いていますが、ブログのネタはウォーキング中に考えたり思いついたものがたくさんあります。
関心事が減少してくることは、年をとると自然なことなので、それを少しでも遅らせるために、好きなことを無理なく続けたり、「死ぬまでにやることリスト」をひとつずつ消していく楽しみを課したり、家族のために自分が何ができるかを考えて実行したり、身近なことで残りの余生を楽しむので良いのではないでしょうか。
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カウントダウン(新潮文庫) 佐々木譲
夕張市が財政破綻したのが2006年で、そうした厳しい北海道の自治体と地方政治を舞台として、やがて北海道に限らず、日本の多くの自治体が陥るであろう財政破綻について予言的な内容となっています。
選挙をテーマとした小説はよくあり、若い主人公が様々な老害や既得権益受益者からの妨害を受けながら奮闘していくというものばかりですが、この小説はそれだけでなく、夕張市を引き合いにした地方都市ならではの問題を突いています。
主人公は夕張市と双子市と言われている架空の地方都市で、亡くなった父親から引き継いだ司法書士事務所で働きながら1期目の市会議員として財政破綻の心配をしている男性。
二十年の長きにわたり取り巻きを増やし独裁的に振るまっている市長の6選を阻止すべく、主人公が立ち上がるわけですが、そのきっかけとなったのが、著名なやり手選挙コンサルタントが突然事務所に現れたことで、破綻寸前の市の市長になったところで、なにができるのか?と悩みながらも一歩踏み出す物語です。
過去の箱物行政や、市長の息子が経営する第三セクターのせいで、市町村の赤字が膨らみ、借金が財政の20%を超えると財政再生団体に指定され、国や都道府県の自治体から厳しい指導下におかれ、公共工事の停止や公共施設の廃止、住民税の増額、職員などの減数などがおこなわれます。
現在(2026年)までは夕張市だけですが、やがて日本の多くの市町村でこうした財政破綻が起きてくるのではないか?という問題提起でもありますが、夕張市の場合は、北海道庁とグルで負債を長く隠していたと言われていて、なかなか表面化しづらく住民にとっては寝耳に水ということもあります。
今後、高齢化した人口が大きく減少していく中で、老朽化した公共インフラの改修や、昔作った贅沢な公共施設の維持費など、すでに破綻が間近に見えている市町村もありそうで、そうしたところは、平成の大合併で生き残り策をとりましたが、今後はもしかすると都道府県単位での合併、つまり道州制などの導入も検討することになるかも知れません。
いずれにしても、北海道の地方都市の問題というだけでなく、未来の日本国全体の縮図として読むと背筋が凍るような思いがする小説です。
★★☆
◇著者別読書感想(佐々木譲)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
斬に処す 甲州遊侠伝(小学館文庫) 結城昌治
個人的には江戸時代の任侠ものや博徒についてはまったく詳しくないので、清水の次郎長などは名前ぐらいしか知らないので、その敵役で、この小説の主人公、黒駒勝蔵という博徒も当然知りませんでした。
通常は清水次郎長は強きをくじき弱きを助ける善玉の侠客で、敵対するヤクザの親分達は大悪人と相場が決まっていました。
しかし著者が調べたところ、幕末の混乱していた時代、要領よく立ち回った次郎長にうまくやられてしまったという図式で、侠客を名乗りつつ、やることは博打の元締めや時には役人の手先となって敵方のみならず仲間も平気で裏切りお縄にしたり謀殺しています。
結局は、どっちもどっちで、次郎長だけが善良とは言えず、逆に胡散臭そうではないか?という疑問から、この次郎長を敵役とした小説ができたそうです。
他にも、この主人公、黒駒勝蔵を称えるような小説があり、同様に考えて大悪人とされていた黒駒勝蔵の名誉回復に寄与した歴史家や作家は多そうです。
しかし結局は、江戸時代の博徒の時の殺人が、明治に変わった後に尾を引き、幕府を倒す新政府側の小隊長として功績を挙げながらも、タイトルにあるとおり「斬に処す」刑罰が下り、40歳の生涯を閉じます。
一方の敵役で要領の良い次郎長は、明治26年、当時としては長命の73歳で天寿を全うします。
★★☆
◇著者別読書感想(結城昌治)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
嫉妬/事件(ハヤカワepi文庫) アニー・エルノー
本著は、2000年と2004年にフランスで出版された中短編小説を合わせ、2004年に日本語翻訳版として出版されたものです。
他の作品を読んでいないので、他はどうなのかはわかりませんが、この収録2作品は、小説と言うより著者自身の実体験を元にした内容となっているそうです。
つまり、「嫉妬」は、40代の著者が主人公で、30代の愛人が別れを告げて別の女のところへ行ってしまったことをネチネチとストーカーじみた感情を吐露しつつ、相手の女性に嫉妬を募らせていくという話し。
もうひとつの「事件」は、著者がまだ学生だった時代、親元から離れ奔放な寮生活を送っていましたが、妊娠してしまいます。
しかし当時、1960年代のフランスでは中絶は違法で、本人も処置をした医者も罪に問われ懲役が科せられる重い犯罪でした。
そのため、闇で処置をしてくれるところを探し求めていくというかなりプライベートな話で、当時の日記をもとにして、当時の感情の動きや、心理描写が迫真に迫っています。
こうした自分のプライベートで、ナーバスな問題を作品のネタにする作家は時々見かけますが、ここまであけすけに、しかも創作ではなく当時の日記に書いていたことを元にしてリアル(っぽい)話の作品は初めてです。
性生活にオープンなフランス人独特の価値観などもあるでしょうけど、まず日本人作家(男女関わらず)は恥ずかしくてとても書けそうもない、つまり読むことはできそうもない新鮮な作品でした。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」(朝日新書) 野口悠紀雄
本書は2023年に出版された新書です。タイトルからわかるとおり、この数十年間の日本経済と政治の低落ぶりを各種のデータを元にこれでもかと披露しこの先を憂慮しているってことです。
2023年の刊行なので、コロナ禍があけてまもない今から3年以上前の日本の話ですが、それでも急速な円安や物価高、実質賃金の低下、国際競争力の劣化、高度専門家の海外流出、中国との関係、弱体化を進める補助金ジャブジャブなど、予言的な話もあり、なかなかジワッと身にしみてきます。
特に著者が批判をしているのがアベノミクスで、これが今の貧困大国のすべての元凶だったというような内容になっています。
私は違いますが、アメリカのトランプ大統領同様、安倍元総理の熱狂的な支持者やファンは日本には多そうなので、この新書で多くの敵を作ってしまったことでしょう。
今年にはそのアベノミクスの後継者を自認している新総理が誕生したので、著者もヤレヤレといったところでしょう。もちろん批判するばかりではなく、ちゃんと経済学者としての処方箋も書いてあります。
★★☆
◇著者別読書感想(野口悠紀雄)
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2月後半の読書 幕末紀 宇和島銃士伝、大還暦 人生に年齢の「壁」はない、殺しのライン、この国のかたち(1)
2月前半の読書 騙し絵の檻、日本のタブー3.0、日御子(上)(下)、この闇と光
1月後半の読書 マーチ博士の四人の息子、美食探偵、嵐が丘、こちら横浜市港湾局みなと振興課です
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1880
奇跡のシンフォニー(原題:August Rush) 2007年 米
監督 カーステン・シェリダン 出演者 フレディ・ハイモア、ケリー・ラッセル
そこで路上ライブで日銭を稼いでいた男に見いだされ、名前をタイトルのオーガスト・ラッシュとして売り出されますが、あくまで路上ライブで得た金は巻き上げられるという貧しい生活です。
しかし少年の特異まれな才能に気がついたジュリアード音楽院の教官が、特待生として受け入れその才能を磨いていきます。
路上ライブを仕切っていた男との関係、そして、やがて彼が孤児院へ入ることとなった理由などが明らかになり、その親達との再会が、、、というまさにアメリカンドリームでハッピーエンドストーリーです。
不幸な生い立ちの少年が、周囲の良心的な大人達に助けられて成長していく物語は160年前にヴィクトル・ユーゴーによって書かれた「レ・ミゼラブル」(1862年)などに代表されるように数多く作られてきました。人はこうしたどん底からはい上がっていく成長物語が好きです。
実は少年の母親はプロのチェロ奏者で、子供は死産したと親から伝えられていて、父親のロックシンガーとはプロ演奏家として活躍する邪魔になるという判断で無理矢理に引き離されています。
そうした少年の両親にまつわる話しも合間にはいり、家族というテーマもうまく入り込んできます。
クライマックスでは、視聴者を泣かそう泣かそうという効果や場面がみえみえで、涙もろくなっている私でさえ涙は出てきませんでした。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
新解釈・三國志 2020年 映画「新解釈・三國志」製作委員会
監督 福田雄一 出演者 大泉洋、賀来賢人、橋本環奈
紀元前70年頃、漢(後漢)が倒れ、中国全土がいくつかの勢力で支配されますが、その中でも大きな勢力を持つ魏、蜀、呉の三国が血で血を争う中国の戦国時代の物語です。
日本で有名になったきっかけは、娯楽が少なかった太平洋戦争中に新聞で連載され、その後出版された吉川英治著の「三国志」が大きな役割を果たしています。
その吉川英治著の「三国志」の元ネタとなっているのは、明時代に作られた歴史小説「三国志演義」です。
そうした真面目な歴史小説から大きく解釈を変え、かなりふざけた内容で、笑いを取るためにここまでするか?という内容で、歴史ファンが見ると、冒涜とみるか、軽薄なコメディとみるか微妙なところです。
ある意味監督(=脚本)がエンタメを自由勝手に表現したもので、その中に時代考証や当時の歴史に対して敬意をいだくようなものはなにもありません。
で、笑えたかな?と聞かれると、「まったく」と答えるしかないものでした。せっかく著名な俳優を多く使っているのに残念な結果です。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
スターゲイト(原題:Stargate) 1994年(日本公開1995年) 米・仏
監督 ローランド・エメリッヒ
出演者 カート・ラッセル、ジェームズ・スペイダー
そこで、その装置を使って別の惑星へ行き、調査をする特別チームが編成され、命をかけて実行に移します。
特別チームが到着した惑星では、地球と似た環境で、古代に地球から連れ去られた人類が奴隷として使役させられている古代エジプトのような砂漠の中の世界に到着します。
言葉がまったく通じない中、状況を把握し、その惑星を支配する全能の太陽神と、調査チームが対決することになります。
当時80億円以上の製作費をかけただけあり、大掛かりな撮影セットも立派な作品ですが、この時代はまだCGやVFXはほとんど使われなかった頃だけに、そのSF効果場面の苦労が偲ばれます。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE 2021年 『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』製作委員会
監督 木村ひさし 出演者 松本潤、香川照之、杉咲花
元々のテレビドラマのほうはまったく見ていないので、映画に出てくる主人公の過去のことや、テレビドラマから続いている他の出演者との関わり合いなどはわかりませんでしたが、それでもなんとなく楽しめるアイドル映画です。
ただ、出演者の演技がセリフを棒読みしているだけの素人っぽく、やたらテンションが高く、見ていて学芸会の延長のような気分になります。ま、元々そういうお茶の間ドラマなのでしょう。ツッコミどころは満載ですが、そういう見方をしちゃいけない映画なのでしょう。
ずっと無罪を主張しながらも死刑判決を受け収監中に死亡した元死刑囚のえん罪を証明するため、弁護士が探偵よろしく犯行の謎に挑んでいきます。
決して裕福そうではない若いピアニストの女性しか遺族がいない中で、どうやって誰がめちゃ高そうな弁護士費用を工面したのか謎です。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
閉ざされた森 (原題:Basic) 2003年 米
監督 ジョン・マクティアナン
出演者 ジョン・トラボルタ、コニー・ニールセン
パナマにあるアメリカ軍のレンジャー部隊が訓練のためにジャングルにヘリコプターから降下しますが、その訓練中に起きた仲間同士の殺し合いが発覚し、救出された2名の隊員にどうしてそうなったのかを別々に尋問をおこないますが、2名の話しがまったくかみ合わず、なにかを隠していると謎が広がっていきます。
その尋問中に救出された1名が毒殺され、新たにこの問題に関わっていた医師などが明らかになっていきます。
とにかく途中で何が何かよくわからなくなるほどに、謎が次々と出てきて、ストーリーが何度も反転し、ややこしいことこの上ないです。
見る人には優しくない映画で、脚本の問題なのでしょうけど、ここまでひっくり返さなくても良いのにと思ってしまいますが、作った人達は満足しているのでしょう。
戦闘場面は、雨降りの夜間で、雷鳴が光ったときだけ見えるという映像効果で、これも鬱陶しいこと甚だしいです。
トラボルタ主演のノー天気なアイドル映画だ!と言ってしまえばそうなんでしょうけど、かなり話しには無理がありそうな内容です。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
キャメラを止めるな!(原題:Coupez!) 2022年 仏
監督 ミシェル・アザナヴィシウス 出演者 ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ
30分間のカットなしの長回しでゾンビ映画を撮影することになり、出演者が2名交通事故で来れなくなったり、役者の名前をすべて日本人名で呼び合うこととなったり、様々なアクシデントに見舞われながら生中継で30分間のゾンビ映画を撮りきるというストーリーです。
最初に流れる30分間の映像がそのライブ映像で、謎解きとして、後半でその撮影の模様が映し出されるのはオリジナルと基本同じです。
日本のオリジナル版で出演していた竹原芳子が、本作にはうるさ型の日本のスポンサー役として出演しているのが笑えます。
★☆☆
【関連リンク】
2025年11~12月に見た映画 サンセット大通り(1950年)、メカニック:ワールドミッション(2016年)、インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年)、マッド・シティ(1997年)、黒蜥蜴(1968)、1917 命をかけた伝令 (2019年)、アフタースクール(2008年)、ダンケルク(2017年)
2025年9~10月に見た映画 日の名残り(1993年)、コルドラへの道(1959年)、炎の人ゴッホ(1956年)、ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2012年)、激動の昭和史 沖縄決戦(1971年)、127時間(2010年)
2025年7~8月に見た映画 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年)、コラテラル(2004年)、殿、利息でござる!(2016年)、めし(1951年)、ディファイアンス(2008年)、プレイス・イン・ザ・ハート(1984年)、地上より永遠に(1953年)、雪風 YUKIKAZE(2025年)
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おやじの主張(リストラ天国 日記INDEX)
著者別読書感想INDEX
1879
幕末紀 宇和島銃士伝(光文社文庫) 柴田哲孝
著者の小説は、主に現代のハードボイルドタッチの小説が多かったですが、今回初めて江戸時代の小説と言うことで、しかもそれが著者自身の家系に関係するものというのが新鮮です。
伊達家が当主というと独眼竜伊達政宗の仙台藩が思い浮かびますが、正宗の側室の子で後を継げなかった伊達の庶子伊達秀宗が大坂冬の陣で手柄を上げ、徳川家康に宇和島藩を与えられ、その後明治の廃藩置県まで伊達家の代々世継ぎが四国宇和島を治めていたということです。
著者の先祖は、元々仙台の伊達家の弓組の重鎮でしたが、伊達秀宗が宇和島へ移ったときにともに移った武士でした。弓組はやがて幕末に近づき鉄砲組(部隊)に変化していきます。
幕末の頃は薩摩藩第11代藩主島津斉彬や土佐藩第15代藩主山内豊信(容堂)とともに幕末の四賢侯と言われていた伊達宗城が宇和島藩主で、著者の高祖父柴田快太郎が仕えていた頃の話になります。
この柴田快太郎は当時の日記や手紙など文書が多く残されているものの謎多き人らしく、坂本龍馬が土佐藩を脱藩した時期とほぼ同じ頃に宇和島藩を脱藩したかと思えば、江戸や京都で起きた様々な出来事や情勢を、藩主へ報告していたことがわかっていて、さらに常識では考えられない柴田家の墓が藩主伊達家の墓所の一角に作られているなどの謎があります。
脱藩と言えば、敵前逃亡と同じで普通は藩に捕らえられれば打ち首は必至の重罪ですが、その後もなにかと宇和島藩のために尽くしていることから、表向きは脱藩ということにして、その実は藩命の密偵として江戸や京都で自由に動き回っていたのでは?ということです。
それにしても、桜田門外の変や、坂本龍馬の脱藩、寺田屋事件、池田屋事件、蛤御門の変など幕末の多くの事件や騒動が主人公の目前で次々と起こり、西郷隆盛や五代友厚、勝海舟、高杉晋作、近藤勇、グラバーなどとも交流があったとされる内容にはちょっとひいてしまいます。
幕末の有名人と言えば上記の人達、勢いのあった勢力は薩摩藩や長州藩、土佐藩などですが、四国の小藩だった宇和島藩の動きや、一歩引いた地方から見た幕末の激しい攻防戦はまた違った見方ができて面白いです。
さらに、黒船のペリーや長崎で手広く商売をしていたスコットランドの商人グラバーなどから、フリー・メイソンの支配という謎かけもあり、ダイナミックな時代小説となっています。
★★★
◇著者別読書感想(柴田哲孝)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
大還暦 人生に年齢の「壁」はない(ちくま新書) 島田裕巳
本文の中にも何度も「詳しくは○○(著者の既刊書)に書いているが、…」という、この著書自体が過去の自著作品の広告にもなっているようです。新書の場合はそういうケースが多いですが、これほど何度も出てくると読んでいて不快です。
その代わりに、事件を起こす前のオウム真理教を擁護したり、教祖を自分の講演会に呼んで学生に紹介したことで勤めていた大学をクビになったりしたことも正直に本著で伝えていることは評価できます。ご本人にとってはさぞかし大きな出来事だったのでしょうけど、一般読者はそんな昔のことは興味も関心もないのでどうでも良いことですけど。
それはさておき、大還暦とは、還暦が60年(歳)ならその倍を生きたとして120年(歳)を大還暦と呼ぶ風習があり、それが最近の長寿命化で、現実的になってきていること、そういう社会変化で起きていることなどがわかりやすく説明されています。
例えば、戦後にお墓を建てることがブームになったものの、今は墓じまいが急増していることから、もうお墓が必要ではなくなってきている現状や、それに合わせたゼロ葬(火葬後に遺骨をもらわない)システムを著者自身が提案されたりしています。
いろいろツッコミどころはありますが、著者自身のお考えなのでそれは良いとして、本文の「はじめに」に、「幸若舞の敦盛にある人間五〇年、下天のうちを比ぶれば…」を引き合いに出して「この時代の認識では、人間の寿命は五〇年とされていたわけです」と書かれていますが、これは現代の解釈では当然の誤りです。人の寿命を現しているのではなく天界の1日が人間界の50年という意味です。
また、終盤には出雲大社の本殿西側(本殿の正面は南側)に遙拝所が設けられていることに対し「なぜ、西側からなのでしょうか。」と書いておきながら、その意味は書かれてなく意味不明な説明が後にダラダラ続けられています。
正解はお茶の間のクイズ番組でもよく出てきて簡単な問題で、著者も当然知っているのだと思いますが、「本殿の正面は南向きですが、御祭神の大国主大神は西向きに座っているから」です。
敦盛の中に出てくる「人間五〇年」の実際の意味や、なぜ出雲大社本殿の西側に遙拝所が設けられているかはちょっと調べれば誰でも簡単にわかることですが、著者はなぜかそれをしない、また編集者や校正者はなにも言わないのが不思議です。
そのような明らかな間違いや誤解が出てくると、この著者の話は話半分で読むのがよいのかなと思えてしまい残念に思うところです。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
殺しのライン(創元推理文庫) アンソニー・ホロヴィッツ
シリーズ第1作目の「メインテーマは殺人」(2017年)はすでに読みましたが、第2作目の「その裁きは死」(2018年)はまだ読んでいません。
それぞれ事件は独立したものなので、どれから読んでも問題はないですが、徐々に寡黙なパートナー(元刑事)の謎がわかってくることなど、できれば最初から読んだ方が面白く読めそうです。
今回も難事件に二人で挑み、その事件を小説には向きそうもない面白みのない解決で終わりそうなところ、実はという展開です。
ストーリーは、有名な作家などを呼び、講演会など様々なイベントを開催する文芸フェスが英国領の離島「オルダニー島」でおこなわれることとなり、二人で参加することになります。
そうした本のPR活動にはまったく興味のないパートナーの元刑事は断るだろうと思っていたら、意外に乗り気なことに驚きます。
その理由は、元刑事が事故の責任をとって警察を退職するきっかけとなった元犯罪者がその島に住んでいるからです。
元犯罪者は護送中に階段から転落し大怪我をしましたが、刑事がその男を突き落としたのではないかと噂されています。
そうした一癖も二癖もある登場人物が10名ほどいる中で、隔離された離島で殺人事件が相次ぎ発生し、いったい誰がどういう方法で殺したのか?という犯人当て推理小説です。
ヒントはところどころに散りばめられていますが、そう簡単に真犯人にはたどり着けそうもありません。
私からのヒントとしては、こうした犯人当ての場合、もっとも犯人らしくない登場人物が一番怪しいということが常道だということです。
★★★
◇著者別読書感想(アンソニー・ホロヴィッツ)
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この国のかたち(1)(文春文庫) 司馬遼太郎
これらのエッセイは雑誌文藝春秋に連載されていて、この(1)が単行本にまとめられたのが1990年、文庫版は1993年に出版されています。その後もこのエッセイは、第6巻(1996年)まで続きます。
著者はいわゆる戦中派の方で、陸軍の戦車部隊で満州国境付近で国境警備をしていましたが、戦況が悪化しつつある時に本土決戦のために内地に呼び戻された直後に、満州国境で日本軍がソ連軍にコテンパンにやられたノモンハン事件が起きます。偶然とは言え命拾いされています。
本当なら、そうした経験をもとにした太平洋戦争、中でも満州戦線などの小説を一番に書きそうなところ、著者の思いとしては敗戦の昭和20年までの昭和時代の日本人は狂っていたとしか思えない時代と解釈していて、その時代の話題や人物は著者の作品には登場してきません。
したがって著者の興味は、日本人の性格をよく表しているという戦国時代や江戸時代、明治時代の人物や事件に集中しています。
またその時代の日本人の肉体的精神的な根幹となっている古代中国や朝鮮半島などにも興味が広がっていった作家さんです。
ただ、雑誌連載という形式から、同じ話が何度も繰り返されることがよくあります。1冊にまとめたときには、そうした部分はカットするとか編集すれば良いのですが、そのまま載っているので、「またその話か・・・」というところがあり、そうしたところは出版社の編集の方でうまく処理してもらいたいものです。
著者の著書の多くに共通する深いテーマがわかる、この本のあとがきに書かれていた話を転載しておきます。
「終戦の放送をきいたあと、なんとおろかな国にうまれたことかとおもった。(むかしは、そうではなかったのではないか)と、おもったりした。むかしというのは、鎌倉のころや、室町、戦国のころのことである。やがて、ごくあたらしい江戸期や明治時代のことなども考えた。いくら考えても、昭和の軍人たちのように、国家そのものを賭けものにして賭場にほうりこむようなことをやったひとびとがいたようにはおもえなかった。」
★★☆
◇著者別読書感想(司馬遼太郎)
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