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決算書は「直感」で9割読める とことん手軽な会計入門 (PHPビジネス新書) 梅田泰宏

2012年に刊行された新書です。著者は公認会計士。税理士で、監査法人中央会計事務所(現・みすず監査法人)から独立して税理士法人キャッスルロック・パートナーズを設立し、その代表という絵に描いたようなエリートビジネスマン。

経理や財務の話しとなると、一般的な文系ビジネスマンにとっては頭の痛い話しで、大学で簿記なども一応学んだとはいえ私も同様で、こうした本は読めば読むほど頭の中が混乱してくるという気もします。

この新書では会社の中では当たり前に作られている基本的な「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」について、経理に詳しくない人でも直感で見て理解することができる方法を教えてくれます。

数字を直感的にって言われても、真面目な人ほどそう大雑把に言われてもなぁって思うことでしょう。

しかし、現に経理担当者でもなければ、数字なんてものは一種の計器みたいなもので、それを詳細なデジタル計器ではなく、アナログ計器で大雑把に把握しておくという考え方には賛同できます。

それでもちゃんとこの本を理解し読み解くには、バランスシート、貸方・借方、キャッシュフロー、自己資本、純資産、営業外損益、税引き前利益等、経理用語は遠慮なくビシバシと出てきますので、最低限の経理知識は必要でしょう。

その他にも、株の投資などで役立ちそうな経営分析や、今後主流となっていく国際会計基準(IFRS)の計算書などの読み方も解説されています。

★★☆


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枯木灘 (河出文庫) 中上健次

和歌山県新宮市生まれの著者には和歌山、特にこの小説の舞台となった紀伊半島の先端近く枯木灘周辺を舞台にしたものが多くあります。

この「枯木灘」は1977年に出版されましたが、その前1976年に芥川賞を受賞した短編集「」の続編となり、自身の複雑な出生から家族関係を下敷きにした自伝的な要素がかなり含まれています。

さらに1983年刊の「地の果て 至上の時」は「枯木灘」の続編で、「」と併せて三部作と言われています。

主人公は暴力事件で刑務所に行くことになる父親と、前の夫と死別したあと内縁関係となっていた母親から生まれ、その後母親がまた別の男と再婚し、その家で認知してもらって名前も変わるという複雑な人間関係です。

その義理の父親が始め、息子が後を継いでいる土方の現場監督をしながら日々暮らしています。

小説では路地と書かれていますが、主人公が暮らすのは被差別部落地域の中で、その中で、肉体を酷使する土方の仕事が自分に合っていると思っています。

とにかく、血族がいっぱいいて、複雑に絡み合っていて、その中には近親相姦的なものもありと、読んでいてもその人間関係図がすぐにはわからず苦労します。

と思って調べていたら、文庫の巻末に、主人公を中心とする相関図があり「早く言ってよ~」って感じです。

と言っても、この相関図を見ても、容易に理解することができず、複雑怪奇で小説の中で関係性の説明を読まないと、さっぱりわからないだろうなと思います。

それにしてもひとつの小説でこれぐらい同じことが何度も繰り返して書かれたものって他を知りません。

実際に著者の子供の頃に起きたことですが、主人公の父親違いの兄が桃の節句に自殺したことや、姉が気が狂ったことなど、それぞれ10数回も繰り返して書かれています。丁寧なのか、強調したいのか、それともちょっと読者を馬鹿にしているのか、先に書いたことを忘れているのか、よくわかりません。

よく新聞連載小説だと、途中から読む人のために、同じことを繰り返して書かれることもあります。でもその場合は、書籍として出版する際に、手を入れることも多いでしょう。

この小説は新聞連載ではなく、修正しようと思えばいくらでも機会はあったでしょうに、それほど大事とも思えないことが何度も繰り返されるので、文章の質についてちょっと疑いたくもなります。

主人公を中心として、人間の重き昏い性というか、血族からは簡単に抜け出せない当時の村社会など、貧困というのではないですが、終戦後の昭和の地方の姿がよく現れています。

先日読んだ桜木紫乃著の「ラブレス」でも戦後の地方で繰り広げられる庶民の生きるための戦いが描かれてましたが、「ラブレス」が「女の戦い」に対し、こちらは血縁の憎悪を絡めた「男の戦い」ということになるでしょうか。

まだ短編集の「」も続編の「地の果て 至上の時」も読んでいないので、近いうちに買ってこようと思っています。

★★☆


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果てしなき渇き (宝島社文庫) 深町秋生

読み進めているうちにあれ?と気がつきましたが、これまた過去に一度読んだ小説でした。2007年に文庫化されてすぐそのタイトルに惹かれて購入し読んでいました。11年前のことですね、忘れていても仕方ないかな。

ダブって購入してしまったのは、ここ1~2ヶ月の間に、「ロマンス」柳広司著、「月の扉」石持浅海著とこれで3冊目となります。いよいよ老人惚けと言われても仕方ありません。

この小説を原作として2014年に「渇き。」という題名で映画が作られています。監督が中島哲也、出演は役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、オダギリジョーなどです。残念ながら見ていません。

主人公は、妻の不倫相手に重傷を負わせ刑事を退職、妻とも別れ、現在は通報があれば駆けつける警備員をしています。

ある夜、コンビニから緊急通報があり、駆けつけると、店員や客3名が惨殺されている現場に遭遇し、その凄惨な現場を目撃することになります。この事件があとで少し絡んできます。

その後、離婚した妻から「娘が行方不明になった」と電話がかかってきます。

娘の部屋から大量の覚醒剤が見つかったことから、娘を信じたい親として警察には届けることを躊躇し、主人公が自ら調べて娘を探すという展開です。

行方不明となった原因を調べると、学校でのいじめ問題、ヤクザ組織とつながる不良グループ、麻薬の密売、売春組織と、話しは徐々に大きくなり、首を突っ込む主人公はあちこちでボコボコにされ、また聞き込み先で死体を発見することになり、警察からもにらまれます。

それでもなんとか、手がかりを見つけ、なぜ娘がこうした事件や組織に関わってきたのかがわかっていきます。

なかなか手の込んだミステリー仕立てのハードボイルド作品というかノワール作品となっていますが、暴力性、凶悪度が強く、後味というか、読み進めているあいだ中、どうにも理解しがたい気持ち悪さがついて回ります。いつも寝る前に読んでいるせいで悪夢も見ました。

元刑事とはいえ、主人公も清く正しくってわけではなく、逆に相当なワルで、家庭には向かない大きな屈折と暴力性を内に抱え、こうした小説で主人公に据えるには珍しいキャラクターかなと思います。

著者はこの作品がメジャーデビュー作ということで、それまではサラリーマンをしながら、コツコツと短編小説や共著、ライターの仕事をこなしていたようです。

そしてこのデビュー作を宝島社などが主催する「このミステリーがすごい大賞」に応募、見事受賞します。

いきなりこのボリュームと、内容の濃さには驚くばかりですが、いい年したオッサンが読むにはどうしてもまだ荒削りなところばかりが目についてしまい、個人的な評価としては高くありません。

それでも、その後の作品をいくつか読んでみたいなとは思っています。

★☆☆


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氷菓 (角川文庫) 米澤穂信

2001年に出版、2006年に文庫化されたライトノベル「古典部シリーズ」の第1作目となり、著者のメジャーデビュー作品です。

この「古典部シリーズ」は、「愚者のエンドロール」(2002年)、「クドリャフカの順番」(2005年)、「遠まわりする雛」(2007年)、「ふたりの距離の概算」(2010年)、「いまさら翼といわれても」(2016年)と、6作品がすでに出版されていて、人気シリーズとなっているようです。

またこの作品を原作として2012年にテレビアニメ、2017年には実写映画が公開されています。

実写映画の監督は安里麻里、出演者は山﨑賢人、広瀬アリスなど。もちろん見てません。

こうした青春学園もの小説は苦手というか、もう還暦を迎えたおっさんが読んでも感情移入もできず、つい敬遠しがちなのですが、読書感想や書評では好評ということで、読んでみました。

形式的には連作短編のようなスタイルをとり、高校に入学した主人公が姉の命令で潰れかかっている古典部に入部し、そこで出会った豪農の令嬢、幼なじみの親友などとともに、不可解な謎を次々と解いていくというものです。

シンプルでありながら、短編という読みやすさから、普段からあまり読書に馴染がない高校生でもちょうどよいのではないでしょうか。

★★☆


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蛇にピアス (集英社文庫) 金原ひとみ

2004年に単行本、2006年に文庫本が出版された著者のデビュー作です。そして2004年の芥川賞に綿矢りさ氏と共に受賞し、一躍有名になった作品です。

その後、本作を原作として2008年に蜷川幸雄監督、吉高由里子、高良健吾などの出演で映画化されています。

主人公は19歳の時々コンパニオンのアルバイトをしている自由奔放な女性で、同じく若いフリーターの男性と同棲をしています。

その彼氏のスプリット・タン(蛇のように舌に二股の切れ目を入れる)に憧れて、真似してそれを実行しようとしたり、彼氏の紹介で知り合った入れ墨の彫り師に頼んで背中に麒麟(中国神話に現れる伝説上の霊獣)と竜の彫り物を入れたりと、かなり発展的で、かつ、入れ墨代代わりに彫り師には彼氏に内緒でSEXで払うという過激とも言える内容です。

タイトルの意味は、上記の蛇のようなスプリット・タンをするために、最初は舌に小さめのピアス用の穴をあけて、徐々にそれを拡げていき、最後にカットして下の先を二股にしてしまう方法のことを指していると思われます。

ま、一般庶民にとっては、スプリット・タンはもちろん、ファッションで入れる大きな入れ墨も縁遠いと思いますので、それを小説という架空の世界で想像して楽しむ分には良いんじゃないかと思います。

しかし、読んでいて肉体改造や、暴力的なシーンに気持ち悪くなってくることもあって、まっとうな人にとっては後味はよくないでしょう。

それにしても、「え?これで芥川賞がとれるんだ!」と思った売れない作家や、メジャーデビューしたいと思っているアマチュア作家がきっと大勢いるでしょう。

この作品が受賞したことで、もし世の中に影響を及ぼしたとすれば、それが最大の貢献だったかもしれません。

★☆☆


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フェルマーの最終定理 (新潮文庫) サイモン・シン

17世紀に数学者フェルマーが残した「3以上の自然数nについて、xn(xのn乗)+yn(yのn乗)=zn(zのn乗となる自然数の組(x,y,z)は存在しない」という定理について、フェルマーが「証明できるけど余白がないので書かない」とした証明を、360年後にやってのけた数学者アンドリュー・ワイルズのノンフィクションドラマです。

なにか難しそうで最初はためらわれましたが、多くの先駆者達のお勧め本に上がっていましたので、思い切って買ってきて読んでみました。

この文庫は2006年刊ですが、先の2000年に「フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで」という単行本が出ています。

数学者とはまったく縁がなくその論理思考は知りませんが、以前読んだ小川洋子著「博士の愛した数式」やその映画で、数学者のおかしな行動や思考については興味がありました。

こちらの著書では、ピタゴラスやアルキメデスなど小学校で習う天才数学者が歩んできた数論から始まり、世界的な数学者が次々と登場してきます。

その中でも17世紀に生まれ、裁判官をしながら数式解明に情熱を燃やし、ある数式の解は存在しないことを解明したが、余白がないので書かないと残していたフランスのピエール・ド・フェルマーについての話しが長く続きます。

その解明に向けてとにかく、約数、素数、完全数ぐらいまではともかく、無理数、過剰数、不足数、べき数、有理数、虚数、楕円方程式、モジュラー形式、4次元、5次元など次々と初めて聞くことばが出てきて混乱します。

しかし著者は素人にもわかるようにといちいち説明を入れてくれていますが、ベースにほとんど知識がない文系人間だけに、一度読んでも数ページ先に出てくると「あれ?なんだっけ?」って行ったり来たりすることになり、なかなか先へ進まないもどかしさがあります。

この300年以上解明されなかった最終定理には、「谷山-志村予想」と言われる整数論で、日本人数学者も関わっていることに驚きました。まったく普通の日本人には馴染みがないでしょうから。

こうした数論が、果たして現実の社会にどれだけ役立つのか?という疑問は一般の人と同様に持ち合わせていますが、それを言ったら、芸術家が作る作品や音楽、エンタテナーとしてのプロスポーツなどと同様、人類の能力を極限まで高めていくものという理解をしてもいいのではないかなと読んで思った次第です。

それにしても、普段ライトな小説慣れしていることもあってか、こうした難しいドキュメンタリー小説は肩が凝ってしまいます。

★★☆


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ロマンス (文春文庫) 柳広司

2011年に単行本、2013年に文庫化された昭和初期の華族社会にまつわるミステリー小説です。

実は、単行本が出てまもなく購入し、2012年に一度読んで、感想も書いています。

9月後半の読書 2012/10/3(水)「ロマンス」

ありゃりゃです。今回は文庫本を読み始めてすぐに、アレ?これ知っているぞと気がつきました。

少し前にダブって読んでいた石持浅海著「月の扉」は読み進めても気がつきませんでしたが、こちらは印象がまだ強く残っていました。

って、買うときに気がつけよ!ってことで、老化現象と思われても仕方ありません。

昭和初期の華族が幅をきかせていた時代に、両親を事故で亡くした異色の華族青年が主人公で、謎だらけの殺人事件に遭遇し、その謎を解き明かしていくという内容です。

太平洋戦争前の、陸軍、特高、共産党シンパ、華族など、一般庶民には関わりのない特殊な世界ですが、テンポ良く意外な結末で、読者を引きつけてくれます。


★★☆


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ヘヴン (講談社文庫) 川上未映子

2009年に発刊、2012年に文庫化された小説です。2008年に「乳と卵(らん)」で芥川賞を受賞されている作家さんですが、著者の作品を読むのは今回が初めてです。

主題は中学生のイジメ問題を中心にして物事の善悪を考えさせようとするほろ苦い内容です。

ただ、底が浅いというか、ステレオタイプというか、あまり深くは洞察せずに、著者が思ったまま感じたまま、サクッと書いたなって感じを受ける、お手軽携帯小説って感じがします。

こうした今現実に普通に起きているテーマを用いる場合、もう少し小説として考えさせられる内容にするとかできなかったのかな~と思わずにいられません。

それでは売れないからね、て言われてしまうとそうなのですけどね。

★☆☆


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雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ) 城平京

著者の作品では2年前に「名探偵に薔薇を」を読んでいます。その時の私の評価はあまり高くありませんでしたが、、、

9月後半の読書と感想、書評(名探偵に薔薇を)2016/9/28(水)

こちらの作品もタイトルからして、若向けの携帯小説っぽいなぁ~と思いつつ、ネットの読者の評価は高かったので購入してみました。

2016年に文庫(書き下ろし?)で発刊されています。発刊は講談社タイガという珍しいレーベルで、なぜ講談社文庫ではないのか不明です。

内容は、相撲好きの両親に育てられた男子中学生が両親を事故で失い、田舎町で刑事をやっている叔父とその親(祖父)に引き取られ、転校してくるところから始まります。

その町では相撲が人気で、なんとカエルを神と崇め、相撲を奉納するというハチャメチャな展開。

主人公の少年は両親の影響もあり、小柄で不向きながらも相撲道場に10年も通い、それなりに相撲のことは知り尽くしています。

日本書紀によって「相撲」という言葉が初めて登場し、現在では土俵の上は女人禁制となっているものの、最初に記述された相撲は男性職人の手を狂わせるために仕組まれた女相撲だったとか、相撲の歴史や、様々な技など知らなかったことも散りばめられ、相撲ファンならずとも、気軽に読めるお手軽なファンタジー&ミステリーファンなら面白く読めるかも。

平安時代から鎌倉時代の作と言われる鳥獣戯画にもウサギを投げ飛ばすカエルの絵が描かれていましたが、カエルと相撲はなにか相性が良いのかも知れません。

★★☆


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心に雹の降りしきる (双葉文庫) 香納諒一

2011年刊、2014年文庫刊のハードボイルドタッチの警察ミステリー小説です。この作家さんの本を読むのはこれが初めてです。

作家デビューは28年前の1990年で、現在55歳、ハードボイルド系の警察小説がお得意の分野と言うことです。

主人公は県警の刑事で、7年前に行方不明となった幼児の事件を担当しましたが未解決のままで、しかも金持ちの被害者家族から情報提供の懸賞金を奪う目的で、偽情報を使うなど、悪事にも手を染め、現在もそれを気に病んでいます。

行方不明の幼児が着ていた服と似た服がフリーマーケットで見つかったという父親からの通報で、それを見つけた探偵に会いますが、その後その探偵は「こんな偶然があるのか」という言葉を残して殺害されてしまいます。

その後、県知事の汚職や、暴力団組織の暗躍など多くの事件が起き、次々と関係者が殺されていき、途中で誰が誰だかよくわからなかったりしてややこしい限りです。

ハードボイルドタッチと言っても、時には懸賞金詐欺にも応じる弱い性格の刑事で、人間味があると言えばそういうことになります。

舞台は地方都市ですが、地方でこれだけ関連した殺人事件が次々起きれば、日本中を揺るがす大事件となりそうで、ちょっと違和感があります。

ネタバレになっちゃいますが、最後には誰もがあきらめていた行方不明の少女が無事救い出される展開にちょっとホッとします。

★☆☆


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人のセックスを笑うな (河出文庫) 山崎ナオコーラ

2004年に作家としてデビューしたときの最初の小説です。この作品でいきなり芥川賞の候補にあがりましたが、残念ながらデビュー1作目での受賞とはならず、その後も作品が4回芥川賞候補となりながら、いずれも落選中です。

ナオコーラとはユニークなペンネームですが、単に本名の直子に好きなコーラをくっつけただけというシンプルでかつ書店に並ぶと目立ちやすいネーミングです。山崎直子じゃ、若い人向けにPRするには地味すぎますものね。

2008年には井口奈己監督で映画化されました。主演は松山ケンイチ、永作博美です。主人公は小説の設定では19歳ですが、松山ケンイチは当時23歳ですから、そう無理はなかったのでしょうね。

主人公の男性は19歳の絵画の専門学校の学生、ヒロインは既婚で39歳、その専門学校の教師で売れない画家という年の差がある恋愛小説です。

ま、題名が売れる要素を持っていて、中身はというと、、、ちょっと甘く切ない夢見る乙女の想像を文字にしてみたらこんなのができましたって感じかな。

いや決してつまらなくはないですよ。それなりに楽しめましたが、心に残るような話しかって言えば、携帯小説のように暇つぶしに読んですっとそのまま通り過ぎていくような小説でした。

★☆☆


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人類資金7 (講談社文庫) 福井晴敏

たいへん長い小説で、2013年から書き下ろしで順次発刊されてきましたが、その最終巻(第7巻)です。

2年前の2016年に一気に1~6巻まで読みましたが、最後の7巻だけ手に入れるのが遅れてしまいました。

2月前半の読書と感想、書評 2016/2/17(水)
「人類資金 (講談社文庫) 1・2・3・4・5・6巻 福井晴敏」

1~6巻は200ページ程度の薄い文庫でしたが、この7巻だけはそれまでの3冊分以上の700ページを超えるやたらと分厚い文庫です。

また2013年には、阪本順治監督、佐藤浩市主演で映画も制作されていて、これで全巻読んだことでもあるので、機会があれば作品も見たいと思っています。

戦後すぐから噂が多くあったM資金をめぐる話しですが、何度も出ては消え、消えてはまた蘇るを繰り返してきました。

曰く、「フィリピンを占領したときに財宝を集めて日本へ送り隠されている」「フィリピンを奪還したアメリカのマッカーサー司令官が躍起になって探したが見つからなかった」「戦後の復興にこのM資金が密かに使われた」などなど。

この小説では、そのM資金を管理、運用する日本とアメリカの財団が、それぞれの思惑と、そろそろ表に出して人類に役立てようとする日本人と、それを阻止するアメリカ人、M資金詐欺を糧としている詐欺師、遠巻きに財産を保護する防衛省、裏の世界に通ずる日本最大の暴力団組織などが入り乱れての欺し合い、裏切り、血縁、清算、投資など多くの要素がぶち込まれています。

最終的にはこのM資金はタイトルにあるように、人類のために使われるべきとして、まずはアジアの最貧国と言われている国の通信インフラの構築と国民ひとりひとりが世界とつながるためのタブレットを配布するなどに使われることになります。

そうした壮大な物語で、読み終わった後には、ふぅと、大きなため息をつくことになります。

★★★


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噂 (新潮文庫) 荻原浩

2001年刊、2006年に文庫化された、1997年にデビューした著者の比較的初期の頃の作品です。

年齢が同年代と言うこともあり、作風が気に入り、好きな作家さんで、「オロロ畑でつかまえて」の頃から文庫化された小説はほとんど読んでいますが、この作品は漏れていました。

著者の作品には「なかよし小鳩組」などコミカルな作品も多いのですが、逆に若年性アルツハイマーを描いた「明日の記憶」などシリアスな小説も多くあります。

この小説は、売らんがために創出したクチコミで顧客の商品を売りたい広告会社の社員と、猟奇殺人を追う刑事が主人公のシリアスな小説です。

この本が書かれた当時は、まだネットの普及もそれほどではなく、ようやく携帯電話が高校生にも普及してきた時代ですが、いまのネット社会に普通にあるクチコミの拡散手法や欺瞞的なステルス・マーケティングのような話題がバンバン出てきて、先を見る目があるので驚きです。

10年ぐらい前に書かれた犯罪小説を読むと、どうしても内容に古さを感じてしまいますが、この小説ではそれが感じられず、よく考えられた小説です。

★★★


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この国の冷たさの正体 一億総「自己責任」時代を生き抜く (朝日新書) 和田秀樹

精神科医でもあり教育評論家などとしても知られている著者の数多い著書の中で「40歳から何をどう勉強するか」を15年ほど前に読んだことがあります。

2016年刊のこの新書をサクッと読んでいて、何カ所か誤りや誤解を生じる書き方(わざとかも知れない)をされているのがちょっと気になりますが、内容は概ね理解でき賛同もできるものです。


「自己責任」論を一番よく聞いたのが「銀行などの金融機関が破綻しても、1千万円までの預貯金は補償される」ペイオフが開始された2005年頃でした。もちろん私は当時も今も1千万円以上の預貯金なんてありませんから無関係ですが。

次によく目にしたのが、この本にも書かれていますが、ISILにより後藤健二氏と湯川遥菜氏が拉致され、身代金の要求や死刑囚釈放の交渉が頓挫し、その後殺害された2015年のことです。

つまり二人の日本人が危険と知りつつ現地へ行き拉致され誘拐されたのは「自己責任」で、身代金など支払うべきではないという声があがりました。

そうした「自己責任論」は、本来強者が弱者に対して自分たちの都合良く使うものなのが、不思議と今の日本ではほとんど立場が同じ弱者が弱者に対して使っているという不思議があると著者は述べてます。

そしてそれは強者、別の言い方をすれば富める者は、そうやって弱者が弱者同士で罵り合いをやっている限り、自分たちの特権や利権、財産は安泰ということになります。

それでもやっぱり、弱者を罵る弱者はこのような意見には耳を貸さないどころか、まともな本も読まないでしょうから、それが変わっていくことはこの先もなさそうです。

★★☆


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月の扉 (光文社文庫) 石持浅海

2003年刊、文庫は2006年に発刊されています。著者の作品では他に「セリヌンティウスの舟」を2008年に文庫発刊直後に読んでいます。

久しぶりに本をダブって購入してしまいました。あとでわかったことですが、この小説は12年前、2006年の文庫発刊後すぐに購入して一度読んでいます。

なんとなくタイトルは見た記憶があったのですが、中身をサラッと読むと記憶になく、既読と知らずに買って、そのまま読み続けていました。老人ぼけでしょうか。

その時には感想を書いていなかったので、今回は書いておきます。

主人公は、沖縄で不登校などになった子供達を集めてキャンプをおこない、復帰させるという活動をおこなっている男女3人のメンバーで、その3人が師匠とあおぐキャンプを主宰している男性が警察に不当逮捕されたことで、ハイジャック事件を起こします。

ちょっと設定に無理があるなと言う気がしますが、そこは小説ゆえ良いとして、次にハイジャックした飛行機のトイレの中で手首を切った女性の死体が見つかるという密室殺人ミステリー要素が加わってきます。ちょっとやり過ぎかも。

乗客のひとりが謎解きに協力するという形で関わってきますが、警察とにらみ合いながら200人以上の乗客を人質にし、個別に子供の首にテグスを巻いて抱えてるという姿勢で2時間以上も続けながら、トイレの死体の謎、師匠の奪還の謎、キャンプ関係者がこの飛行機に乗り合わせていた謎など、謎解きの話しを聞いているというのも想像すると変な感じです。

そして最後はこれまた理解がしにくい理由で一気に事態が進展していくという、あまりにも突飛押しない結末で、これが12年前に読みながら、さっぱり記憶に残っていなかった理由のひとつではないかなと思われます。

★☆☆


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時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1) アンソニー・バージェス

原題は「A Clockwork Orange」の英国で1962年に発刊された小説です。よくジョージ・オーウェルの「一九八四年」や、H・G・ウェルズの「タイム・マシン」と同様のディストピア小説と言われています。

ディストピアとは「ユートピア(理想郷)の正反対の社会で、一般的には、SFなどで空想的な未来として描かれる、否定的で反ユートピアの要素を持つ社会という着想で、その内容は政治的・社会的な様々な課題を背景としている場合が多い。」(wikipedia)ということで、皮肉やウィットに富み、反社会的で、突飛押しもない内容の小説と言って良いでしょう。

1971年(日本では1972年公開)には、この小説を原作とした映画がスタンリー・キューブリック監督により製作され大ヒットしました。団塊世代以上の人の多くは、リアルタイムに映画館で見たのではないでしょうか。私はまだその頃純真な中学生でしたので見ていません。

とにかくスラングというか意味不明や放送禁止語のような言葉が満載で、当時最先端をいっていた若者、今では立派?な高齢者になっていますが、暴力とセックスと自由解放などさぞかし刺激的だったことでしょう。

そんなわけで、話題性は十分ですが、中身はって言うと、それほど深みがあるものとは思えません。

面白かったか?と聞かれれば、一般的に真面目な日本人にとっては、ちょっと理解しがたい欧米の価値観を意識する面があり、「別にぃ~」って感じでしょうか。

★☆☆


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光媒の花 (集英社文庫) 道尾秀介

2007年から2009年にかけて小説すばるに掲載され、2010年に単行本、2012年に文庫化された連作短編小説集です。「隠れ鬼」、「虫送り」、「冬の蝶」、「春の蝶」、「風媒花」、「遠い光」の6編からなっています。

著者は2004年に作家デビュー後すぐに人気を博していましたが、特に2009年から2011年の3年間は著者にとっては特に飛躍した年になります。

2009年に「カラスの親指」で日本推理作家協会賞、2010年に「龍神の雨』で大藪春彦賞とこの「光媒の花」で山本周五郎賞、そして2011年には「月と蟹」で直木三十五賞と大きくブレークしました。

連作というのも、ずっと主人公が同じと言うことではなく、先の短編にちょっと出てきただけの人物が今度はまったく違う話しで主人公となっていたりして、それをする意味がなにかあるのか?ってちょっと思ったりします。

どの作品も他人には知られたくない機微に触れるような心理描写を描いた作品ですが、短編だけにお得意のトリックやミステリアスなところも少なく、全体的に淡々としている感じです。

記憶や印象に強く残るか?という意味では、こうした盛り上がりに欠ける平坦な短編集では難しいでしょうね。

★☆☆


【関連リンク】
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夜明け前の死 (新潮文庫) リチャード・ドイッチ

2014年刊の長編ミステリー小説です。主人公は元警察官で今は地方検事、妻と子がいる典型的なエリート一家です。

しかし妻の職業はFBI捜査官で、その父親は元FBI長官という、いかにも凶悪な犯罪に巻き込まれそうな予感がする家族でもあります。

この小説、過去と現在が入り交じり、さらに精神障害による妄想や、事件を隠蔽するための壮大な策略、未来を予言する人物など、もうなにがなにかよくわからない展開です。

こういう通常の理解を超えた作品が好まれているのも知っていますが、私はどうもスッキリしないので読んで損したという気分です。

なにかにつけて、犯罪小説には、国家権力、サイコパス、超能力者、天才ハッカーなどが便宜的に常連として使われていますが、この作品には天才ハッカー以外の要素が含まれています。

そんなわけで、個人的にはお勧めしない作品です。

★☆☆


 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

わが心のジェニファー 浅田次郎

2015年刊の長編小説です。比較的時代物の作品が多い中、現代日本の観光をテーマにした一部紀行とも言えるコミカルな内容となっています。

主人公はウォールストリートで働いているエリート男性。独身ですが、両親は子供の頃に離婚したまま行方不明、その後は祖父母に育てられ、両親に捨てられたとのトラウマがずっと残っています。

しかし育ててくれた祖父はアメリカ海軍の元将軍で、金銭的にも社会的にも恵まれた人生をおくっています。

そしてパーティで知り合った女性に恋をして、プロポーズをしますが、その女性は何度も日本を訪れ、文化や歴史に詳しく、ぞっこん惚れていて、「結婚する相手は同じ価値を共有できなければ」と、男性にスマホもPCも持たず、しばらく日本の文化を感じて共通の価値観を持って欲しいと条件が付けられます。

そこで、たまった休暇で、ひとり日本へ旅立つわけですが、2種類の旅行ガイド(ひとつはまっとうなガイドで、もうひとつはぶっ飛んだガイド)を元に、京都、大阪、別府、東京、北海道へとなにかに導かれるように各地を巡ります。

その間、ずっとアメリカで待ってくれている?彼女に「Jennifer On My Mind・・・」と手紙を書き始めます。

アメリカ人を主人公にして、最近テレビでやたらと見かける脳天気な「Nipponすげー!」「クール!Japan」的な番組とどこか共通する、日本再発見的な匂いがプンプンして、著者らしくないな~って気もします。残念ながら。

いっそ翻訳して、それこそ外国人が日本を旅行するなら、こうした様々な観光地とうんちく話しを知った上で、妙齢の女性が飛び込んできてくれるかもよーって変な期待を煽っておけば、経済産業省あたりから感謝状でも贈られるかもしれませんね。

最後に少し泣かせる?場面も用意されていますが、私はまったく泣けませんでした。

昨年の9月に「黒書院の六兵衛」を読んで以来の著者の作品ですが、どうも最近は「蒼穹の昴」や「壬生義士伝」のような、私の好きなタイプの作品が減ってきたように感じます。作風が変わりつつあるのかな。

★☆☆


 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ラブレス (新潮文庫) 桜木紫乃

2013年に「ホテルローヤル」で直木賞に輝いた著者の2011年の長編大河作品です。北海道釧路市出身ということもあり、この作品も釧路周辺が舞台となっています。

少し前に有吉佐和子著「紀ノ川」を読みましたが、そちらが裕福な素封家に生まれ育ち、子育てする女性の一生とすると、こちらは北海道開拓村の極貧の中で生まれ育った女性の波乱の一生です。

時代は昭和の戦後まもなくから始まり、主人公の子供世代から現代まで続きます。

とにかく親が貧しく教育もないため、暗くて非情な話しが延々と続きます。ま、遠く離れた地方では、そういう時代も確かにあったのでしょう。読み進めるのは結構重たく息苦しさを感じます。

救われるのは主人公が誰もが褒める抜群の音感や歌唱力をもち、それが後に引き裂かれる最初の子供にも引き継がれていくことかな。

Every Little Thingのメンバーでギタリストとしても有名な伊藤一朗氏が、NHKの番組の中で「衣・食・住に関わりのない音楽をこの先やっていっていいのだろうか?(食えるのだろうか)」という悩みがあったことを告白してましたが、戦後の食うや食わずの時代に音楽の才能を生かして食っていくというのはかなり厳しい選択だったろうなと想像が付きます。

主人公は、昼は仕立ての仕事でミシンを踏み、夜はキャバレーやクラブで歌手として演歌も歌えば客のリクエストに応じて何でも歌うという過酷な環境の中でひとりで子育てをしていきます。

時代背景はほとんど描かれませんが、大人になってからは高度成長期に入って、地方にもその恩恵が次第に行き渡ってきた頃ですが、そうした中でもがき苦しみ、最後には少しホッとさせられるエンディングが待っています。

★★★


 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える (NHK出版新書) 常見陽平

2014年刊の新書で、この前後には年間数冊というハイペースで次々とほぼ同じような内容の新書を刊行するという離れ業を繰り出している元リクの才能ある方です。

この著者の立ち位置は、若者に就職や仕事についてのアドバイスをおくる「働き方評論家」で、最近はテレビなどにも出演し、その地位を確立しつつあります。

この新書では、会社に入ったあと、会社から求められ若い人が大きなストレスにさらされる4つのキーワード「即戦力」、「グローバル人材」、「コミュ力」、「起業」について過去の入社式の社長訓示や、流行語、サラリーマン川柳、新聞掲載頻度などを用いて解説しています。

内容的には若い人におもねっている?という感じもしますが、そう思うってことは、私自身がもう若くないという証拠でもあり、会社の中ではすでに老害になっているのかなぁと思わずにいられません。

結局それら4つの強迫観念は、正面切って乗り越えるのではなく、柳の枝のようにしなやかにうまくやり過ごせって感じもしますが、どうなのでしょう。

★★☆


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