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デパートへ行こう! (講談社文庫) 真保裕一

2009年に講談社創業100周年記念の書き下ろし作品として発刊され、その後2012年に文庫化されました。その後、「行こう!」シリーズ化され「ローカル線で行こう!」「遊園地に行こう!」と続きます。

企業再生シリーズという話しを聞いていましたので、左前になってきた老舗デパートの復活物語かと想像していたところ、かなーり予想は外れて、深夜のデパート内で起きるドタバタ劇でした。

そのドタバタの中に、老舗デパートを継いだ若い御曹司社長とか、ライバルのデパートに安く身売りさせようと画策する連中に使われていた元刑事、贈賄、収賄事件の関係者の子供達など、デパートの不祥事とそれに続く身売り話の関係者が揃って営業を終えた深夜のデパート内に偶然居合わせることになります。

したがって主人公と言えるのは、自殺願望のリストラオヤジ、犯罪に手を染める元刑事、老舗デパートの社長、犯行を企むデパート勤務の女性、贈賄で逮捕された父親の娘など数名に及びます。

このようなありえない設定で、いくら小説でも、推理を楽しめるわけではなく、かと言ってドタバタのコメディにもならず、興味は半減してしまいます。

実は先に読んだ「ローカル線で行こう!」が、赤字ローカル線を立て直そうと奮闘するカリスマ新幹線売り子と鉄道マンという、旬なテーマでもあり、話しもテンポが良く割りと良かっただけに、こちらの「デパートへ行こう!」はちょっとグダグダで残念なストーリーとなっています。

★☆☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ローカル線で行こう! (講談社文庫) 真保裕一

この作品は上記の「デパートへ行こう!」に続く再生がテーマの「行こう!」シリーズの第2弾で2013年の発刊(文庫版は2016年発刊)です。読む順番が逆になってしまいましたが上述の「デパートへ行こう!」の前に読みました。

主人公は親の願いを聞き入れて宮城県庁に就職したものの、同僚との出世競争に敗れ、第3セクターで運営される赤字垂れ流し状態のローカル線会社へ出向させられた独身男性と、生まれ育ったローカル線沿線に戻ってきたカリスマと言われた新幹線の売り子の女性。

そのローカル鉄道会社はやがて資金が底を打つのが見えていて、宮城県、市町村、銀行などが寄り合い所帯で、どのようにしてうまく撤退するかという議論が始まりそうな危機的状況となっています。

前の社長は銀行から送り込まれたベテランでしたが、リストラや経費削減ばかり熱心で、周囲に味方になってくれる人もなく、やがて逃げ出すように辞めてしまいます。

そこで選ばれたのが、新幹線のカリスマ売り子という経営素人で、地元愛と負けず嫌いな性格でうまく乗せられて着任してきます。その素人社長とコンビを組むのが宮城県から派遣されてきている副社長で、赤字解消に向けて次々と起死回生策を打っていきます。

ま、徹夜、休日出勤当たり前状態で、今で言えばブラック企業とも言えますが、一部の優良企業を除いて、実際の仕事の現場はこうしたものだというのがわかるだけに、働き過ぎを叩く人達にもぜひ読んで感想を聞かせてもらいたいものです。

この小説に出てくる第3セクターのローカル線は、2007年に廃線となったくりはら田園鉄道をモデルにしていると言われています。こうした常識を覆すようなリーダーが現れず、また企業努力もなかったのでしょうか。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

おまえさん(講談社文庫)(上)(下) 宮部みゆき

2011年に単行本と文庫が同時に刊行されるという珍しいパターンの作品で、2000年から続く時代小説「「ぼんくら」シリーズの第3弾という位置づけになります。このシリーズは第1弾の「ぼんくら」(2000年)、第2弾「日暮らし」(2004年)があります。

推理ミステリーから、ファンタジー、SF、そして時代ものと、広範囲のジャンルで、しかもいずれもベストセラーとなる、その多才な創作能力には驚かされるばかりです。

前の二作品は未読ですが、主人公は顎が突き出ていてハンサムとは言えないものの、頭は切れ、人望も厚い本所深川の同心・平四郎です。

シリーズの準主役のレギュラーメンバーとしては、岡っ引きの政五郎親分、料理屋の女将、こうしたドラマには欠かせない大人顔負けの活躍をするかわいらしい有能な子供が主人公の甥という設定。

時代を江戸に移した推理ミステリー小説といったところでしょうか。大人がわからない殺人事件の謎を、優秀な子供が抜群の洞察力と推理で解いていくという小説やテレビドラマではお約束みたいになってきたパターンはやや食傷気味です。

しかし事実かどうかはわかりませんが、小説の中から江戸の庶民の生活が生き生きと伝わってきて、それがこうした時代小説の醍醐味でしょう。

時代考証の専門家から見れば、それはあり得ないとか言うのがありそうですが、そこは小説と言うことで、読者が楽しめればそれでいいのではないかと著者の声が聞こえてきそうです。

上下巻合わせると1200ページを超える長編で、最初どこかの新聞連載小説だったのかな?と思っていましたが、どうも違うようです。

それにしては、新聞小説のように、何度も同じ説明が繰り返されて、長編ならば一気に通して読めないから仕方ないかもしれないですが、そうした重複部分をいうまく端折れば2割ぐらいはページが減らせるような感じです。

殺人事件を扱う小説としては、娯楽性も豊富で、なかなか面白いものでした。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

下鴨アンティーク アリスと紫式部 (集英社オレンジ文庫) 白川紺子

2013年デビューの作家さんで、主に女性向けライトノベルを書いています。この小説は2015年刊ですが、同じ年に続編の「下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ」(2015年刊)、その翌年には「下鴨アンティーク 祖母の恋文」(2016年刊)、「下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ」(2016年刊)、「下鴨アンティーク 雪花の約束」(2016年刊)とシリーズ化されています。

学生時代に京都で過ごした経歴から、この小説も舞台は京都です。タイトルに使われる下鴨とは、平安時代の歌人鴨長明とゆかりがあり、京都三大祭りの葵祭で有名な下鴨神社や府立大学などがある文京的な住宅地です。

この辺りの地名や風景は、京都大学出身作家の森見登美彦氏や万城目学氏の小説の中にもよく出てきます。古くからの高級住宅街であると同時に、徒歩で少し南に下ると京都大学や同志社大学のキャンパスがあり、若い学生、その中でも割りと裕福な学生が多く住んでいる割りとハイソな地域です。

この小説ではそうした町並みや住居がどうしたという話しではなく、主人公というかレギュラーメンバーとして、同志社女子高校と思われる学校に通う女子高生と、一緒に住んでいる骨とう屋を営む兄、その兄と京都大学時代からの親友で、現在は同志社大学で教鞭を執っている男性の3人がいます。

その3人が出くわすことになる様々な、怖さを感じない、いにしえの呪いというか現象について、それらを知恵を駆使して解決していくというたわいもないストーリーで、夢枕獏氏や京極夏彦氏の怖さと中身の濃さを1/10に減じた若い女性向け平安京ミステリーといったところか。

したがって中高年のオッサンが、熱心に読むべき本ではないなぁ~ってことを読んでから知りました。すみません。

★☆☆


【関連リンク】
 11月後半の読書 折れた竜骨、心ひき裂かれて、刑事のまなざし、ピンクとグレー
 11月前半の読書 新世界より(上)(中)(下)、ロートレック荘事件、リストラ日和
 10月後半の読書 チャイナ インベイジョン、判決破棄 リンカーン弁護士(上)(下)、シューマンの指、きいろいゾウ
 10月前半の読書 だいこん 山本一力、魍魎の匣 京極夏彦、犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ
 9月後半の読書 風の影(上)(下)、小説・秒速5センチメートル、名探偵に薔薇を
 9月前半の読書 20歳からの社会科、八甲田山死の彷徨、WORLD WAR Z〈上〉(下)、サマータイム
 8月後半の読書 挽歌、アミ小さな宇宙人、葉桜の季節に君を想うということ、マルドゥック・スクランブル The First Compression-圧縮
 8月前半の読書 小説 上杉鷹山、秋霧の街、結婚は人生の墓場か?、史上最強の内閣
 7月後半の読書 サクリファイス、ティファニーで朝食を、残念な人のお金の習慣、ロスト・ケア
 7月前半の読書 ビッグデータがビジネスを変える、鍵のかかった部屋、二十五の瞳 、クジラの彼
 6月後半の読書 天の方舟(上)(下)、無痛、下山の思想、沈黙のひと
 6月前半の読書 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活、深泥丘奇談、他人を攻撃せずにはいられない人、日の名残り




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折れた竜骨 (創元推理文庫)(上)(下) 米澤穂信

 
2010年単行本、2013年に文庫化されたミステリー小説で、それまで著者が得意としてきた青春ミステリーから大きく舵をきって12世紀頃、中世ヨーロッパファンタジーロマンあふれる推理小説となっています。

12世紀というと日本では平安時代末期から鎌倉時代というあたりになります。まだ大砲や鉄砲はなく、戦争は刀と槍で戦うという時代です。それ故にヨーロッパでも日本でも華やかな甲冑文化が花開いた時期でもありそうです。

小説の舞台は大英帝国のそばで、北海上にある架空の島、ソロン島で、民族間の闘いのため、妖術というか魔術が幅を利かせています。そう言えば日本でも平安時代には陰陽師など魔術?使いが大きな顔をしていた時代がありました。

この頃のヨーロッパは、ローマ帝国、フランス王国、イングランド王国、デンマーク王国、ポーランド王国、ハンガリー王国などが群雄割拠していて、日本で言うなら差し詰め、時代は異なりますが国盗り合戦が繰り広げられた戦国時代の様相が思い浮かびます。

また当時ヨーロッパでは南からジワジワと勢力を拡大してくるイスラム系諸国と、カトリック系キリスト教の遠征軍(十字軍)が各地で激しい闘いをおこなっていた頃です。

そうした中で、ソロン島を支配していた領主が何者かに暗殺され、妖術を使って暗殺を謀る騎士を追ってやってきた騎士とその従卒の弟子が犯人を捜すというのが荒っぽい全体のストーリーです。

中世ヨーロッパを舞台にした犯人捜しの推理ミステリーということになりますが、犯人当て、なかなかこれが難しい。誰もが疑わしく、誰もが根拠に乏しく、一気に激しい戦闘が繰り広げられるラストまで息をつくことができません。

ま、「一番疑わしくない者が犯人」というセオリーは生きていますが、すっかり騙されました。

著者の本では、以前「ボトルネック 」を読みましたが、これにはガッカリさせられ、今回もあまり期待はしていませんでしたが、面目躍如、本当に同じ作者か?と天と地の違いを感じました。

★★★


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心ひき裂かれて (角川文庫) リチャード・ニーリィ

1974年に刊行され、その後和訳版が1980年に単行本、1998年に文庫版が発刊された小説です。著者は1969年にデビューし、その後ミステリー小説を中心に多くの作品を出しているアメリカの作家です。著者名を見ず、本のタイトルから想像すると女性作家だろうと思っていましたが、男性作家でした。

ストーリーは主人公の夫と暮らす妻が神経症を患っていて、入退院を繰り返しています。その精神障害の原因が最後の最後でわかるということで、読者はわからないまま進んでいきます。これはちょっと狡い感じ。

主人公は妻の介護が必要なことと、小説家を目指すということで、記者として勤めていた新聞社を辞めますが、酒に溺れ、街で偶然出会った少女にちょっかいを出したり、若い頃に情熱的に愛し合った元カノのことを常に思い浮かべたりしています。

そうした誠実な夫とは言えない中で、話しは主人公の主観というか一人称で進んでいきますので、「それはないだろう?」とか、ちょっとイラっとする感じです。

そしてこの作品のテーマとなっているのはアメリカ社会でのレイプ犯罪と精神疾患治療の二つです。

主人公が外出先でレイプされそうになった少女を救ったその時に、自宅に置いてきた妻が誰かにレイプされていたとか、レイプ事件が次々に起きます。

この本が書かれたのが1970年代ということで、まだDNA検査が行われていない時代ですので犯人が中々特定できず、また携帯電話という犯罪捜査には不可欠となった装置も普及していないので警察の捜査方法も今と大きく違います。

そう考えると、DNA検査、携帯電話通話履歴、防犯カメラ、自動ナンバー読み取り装置など、近代の犯罪ではこれらの分析により完全犯罪というのはかなり難しくなってきています。

そうした70年代のアメリカで大きな社会問題となっていた「レイプ犯罪」と「精神疾患」をテーマとして、ミステリー小説として仕上げた小説という理解をして読むことが必要です。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

刑事のまなざし (講談社文庫) 薬丸岳

2005年の実質的な著者のデビュー作「天使のナイフ」を読みましたが、いきなり江戸川乱歩賞を受賞するだけあって、なかなかのよい出来の作品でした。

2014年4月前半の読書と感想、書評「天使のナイフ」

この作品は「刑事・夏目信人シリーズ」の1作目で2011年に単行本、2012年に文庫化されています。2013年には椎名桔平主演でテレビドラマ化されています。

主人公は少年鑑別所で犯罪を犯した少年達に更正の手助けする法務技官として勤務した後に、30歳を過ぎてから警察官へと転職した変わり種です。

なぜ罪を犯した少年のカウンセリングをおこない、更正に手を貸す法務技官から、人を疑う仕事の警察官(刑事)へ転身したかは、物語の中で次第に明らかになり、最後にはその目的を果たすことになりますが、ハッピーエンドではない重苦しい結末となっています。

作品は「オムライス」「黒い履歴」「ハートレス」「傷痕」「プライド」「休日」「刑事のまなざし」の7作連作短編で構成されていて、そのひとつひとつの事件に主人公が関わり、事件を解決していきます。

心理学を勉強してきた過去から、事件の解決の仕方がなかなか鮮やかで、単発で終わらずにシリーズ化されることになった理由がわかるよい作品です。

シリーズは、「その鏡は嘘をつく」(2013年、文庫2016年)、「刑事の約束」(2014年)へと続いていきます。

★★☆


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ピンクとグレー (角川文庫) 加藤シゲアキ

 
著者はジャニーズ事務所所属の男性アイドルグループ・NEWSのメンバーで、歌手、タレントとして活動するかたわら、年1作品の小説を発表しています。

この作品は2012年発刊の作家デビュー作品で、今年(2016年)1月に映画化されています。

その後2013年に「閃光スクランブル」、2014年にはBurn.‐バーン‐」、2015年に「傘をもたない蟻たちは」と順調に出版されているようです。今年2016年はというと、、、まだ出ていないようですね(2016/11/30現在)

お笑い芸人が小説を書くというのは過去にいくつも例がありますが、ジャニーズ所属のアイドルタレントで本格的な小説を発表したというのはこの著者が初めてだそうです。

読む前は、どうせタレント業の合間にゴーストライターの手を借りて、女性ファンに向けた「しょうもない」小説か?と思っていましたが、いえいえどうして、読み応えのあるしっかりした内容の小説で驚きました。

上に書いた「しょうもない」は、小説の序盤で、主人公が小学生の時、大阪から横浜へ引っ越してきて、マンションに着いたとき「しょうもな、東京は」とつぶやいたことが、その後親友となるごっちと最初の出会いの場だったことを引っかけています。

主人公はそのマンションで同い年のごっちなどと出会い、その後中学、高校、大学と同じ道を歩んでいきます。また学校が渋谷の近くにあったため、渋谷の街の風景がそこここに描かれ、いわゆる青春ストーリー風の小説となっています。

やがてその友人は順調に俳優としてメジャーデビューを果たしますが、同じ芸能事務所に所属しながらも大きく後れを取ってしまった主人公のジレンマや、友人が手を回しバーターで仕事をくれてもそれに反感を覚えて断ります。

そしてその友人が自殺を図ったことで、自分にその代わりが巡ってくる気持ちの悪さがうまく描かれています。

タイトルはハッキリしないぼやけた二色を象徴的に、主人公と友人の二人に例えているものと思われます。

あとがきで「タレントが書いた作品だから出版してもらえたというのはわかっている」と謙虚な姿勢も好感が持てますし、この小説からはアイドルにしておくにはもったいない、なかなか優れた感性の持ち主ということがわかります。

アイドルの看板がなくとも、作家として本腰を入れれば十分にやっていけそうで、これからもアイドルと作家の二足どころか、三足、四足といくらでも才能を発揮して活躍しそうな予感を感じさせる作品です。

★★☆


【関連リンク】
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新世界より (講談社文庫)(上)(中)(下) 貴志祐介

2008年に単行本、2011年に文庫化された長編SF小説で、第29回日本SF大賞を受賞しています。上巻、中巻、下巻3冊合わせて1500ページ近い、長い長い物語で、読み応えがあります。

最近、1冊で1000ページを超える「魍魎の匣」を読むなど、なぜか一気に読むにはちょっと苦しい長編を読む機会が増えてきましたが、秋の夜長に相応しい選択をしているのかも知れません。

そう言えば、柳広司著の小説に「新世界」というのがありました。こちらは大阪のごちゃごちゃした下町を描いた小説、、、ではなく、ロスアラモス国立研究所の原爆開発現場で起きた殺人事件のお話でしたね。

2011年2月後半の読書「新世界 (角川文庫) 柳広司」
http://restrer.atgj.net/Entry/165/

小説の舞台は今から1000年後の日本で、理由は不明ですが、戦争?などで文明は一度リセットされていて、千葉や茨城の狭い限られたエリアの中で、高度に管理された社会が営まれています。

そして人はすべて妖術を操ることで、他の動植物を人間に都合良く操り、厳しい肉体労働から解放されていますが、一方では妖術をうまく使えない者や社会を乱し害を及ぼすとされる者は徹底して排除するという仕組みができあがっています。

また過去になにが起きて、周囲にどういう問題が残されているのかという歴史もゆがめられ、教育の場でそれらの真実を知ることはできません。

タイトルはドボルザーク作曲のクラッシック音楽で、夕方になって帰宅を促す学校の放送などで有名です。小説のこの時代でも、夜間の外出を制限するために、この曲が流れるとみんな家路に急ぐという古き伝統は残されています。

主人公はそうした特殊な「村」で育った少女で、村を襲う化けネズミや異端者と対決するというストーリーです。なのでSFファンタジー小説と言えるかも知れません。

指輪物語」や「ハリー・ポッター」以降、そうした長編ファンタジー&ミステリー小説というのが日本でも増えてきた感じです。私も最近読んだ、上橋菜穂子著「精霊の守り人」や宮部みゆき著「英雄の書」なども同じジャンルでしょう。

ちょっと中年のオジサンが読むのはつらいところですが、中高生には読書が好きになってもらうために、こういう本はいいかもしれません。

★★☆


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ロートレック荘事件 (新潮文庫) 筒井康隆

数多くのSF作品で有名な著者の1990年初出の長編の推理ミステリー小説です。著者が書いた多くの小説の中で、推理小説としては「富豪刑事」、「フェミニズム殺人事件」とこの作品の3作だけと言われています。

SF小説はあまり好みでなかったこともあり、著者の作品で過去に読んだのは「最後の伝令」だけで、1993年のことです。

タイトルのロートレックは正式にはアンリ・マリー・レイモン・ド・トゥルーズ=ロートレック=モンファという、長ったらしい名前の1991年に亡くなったフランスの画家です。

小説の舞台となる別荘に、その持ち主の趣味で、ロートレック作品があちこちにかけてあり、通称「ロートレック荘」と呼ばれています。

その別荘に集まってきた人達のうち、若い女性が何者かに射殺されてしまいます。そして警察が現場検証をしている最中に、第二の殺人が行われます。

さて犯人は?

ってことで、幾重にも張り巡らされたトリック?に翻弄されて、最後までまったく犯人捜しはできませんでした。

しかし先の「富豪刑事」とは違って、これは小説ならではのトリックで、映画など映像化は難しいだろうなぁって思います。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

リストラ日和 (ハルキ文庫) 汐見 薫

2010年に発刊された単行本「リストラに乾杯!」を大幅に加筆修正した文庫本でタイトルも変えて2015年に発刊されました。「リストラ天国」を運営している身としては、こうしたタイトルの本を読まないわけにはいきません。

主人公は都市銀行をリストラされて、子会社に追いやられるも、やがていたたまれなくなり退職して無職に。専業主婦で子供の教育と夫の自慢しか頭にない妻との関係は悪化してと、あまり芸のないお決まりのコースですが、最後は少し夢のある終わり方になっていて救われました。

著者自身も銀行勤務経験者だそうで、主人公の頭の中を占めるエリート意識はご自身の経験からきているのだろうと勝手に想像して読んでいましたが、著者はなんと女性だそうで、自身の経験というより身近に肌で感じてきたことなのかも知れません。

でもね、こうした銀行のような大企業をリストラされるっていうのは、退職金の割り増しやら、子会社への就職斡旋やら、再就職においてもデメリットより銀行出身者というだけで有利な点も多く、中小零細企業をリストラされた場合と比べると何百倍もお得と言えます。

中小零細のリストラだと退職金は出ない、就職斡旋など当然ない、ハローワークへ行っても誰も聞いたことがない会社の職歴などないに等しいと判断され、惨めな思いをすることばかりです。

ただ中小企業のリストラではドラマにはならず、リストラと言えば結局は大企業と相場が決まってしまっているのがちょっと残念なところです。

★★☆


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チャイナ インベイジョン 中国日本侵蝕 (講談社文庫) 柴田哲孝

KAPPA」や「私立探偵・神山健介シリーズ」を読み、気に入っている著者の長編小説で、2012年(文庫は2014年)発刊です。

過去の「私立探偵・神山健介シリーズ」読書感想
渇いた夏
早春の化石
冬蛾
秋霧の街

サブタイトルにあるとおり、中国の政治中枢にいる野心家が、GDP世界第2位に躍り出た勢いそのままに、弱腰で外交下手な日本を一気に取り込んで、中国に吸収してしまおうと画策するストーリーです。

奇想天外と思えますが、尖閣諸島での日中艦船のにらみ合いや、リゾート開発や領事館建設という名目でチャイナマネーが買い漁る日本の土地、建物は現実で起きていることで、それらが日本侵攻のための下準備という設定です。

そうした下準備を終えたあと、尖閣諸島で仕組まれた武力衝突が発生します。

そして日本国内各地でテロを起こす準備をしてきた中国の特殊部隊が一斉に動き出すという流れです。領事館は治外法権なので、各種の武器や武装兵士、テロリスト、スパイを置いておくことが可能なのです。狙われるのは政府機関、原発、自衛隊駐屯地、空港、そして皇居です。

そうした中国の動きに対して日本人の多くはきっとアメリカが助けてくれるだろうという根拠のない楽観的見通しを持っていますが、アメリカはとりあえず軍事基地が集中する沖縄さえ死守できればよく、あとは日本が自らの責任でやってとばかりに手を引く可能性があることを小説では示唆しています。

そう言えばトランプアメリカ大統領候補は、在日米軍の費用を日本が持たなければ撤退することもあり得るようなことを言ってましたっけ。彼らにとって、軍事上地政学的に重要な沖縄はともかく、見返りもなく、アメリカ人の血を流してまで日本全体を守ってやるという義務は感じないでしょうし、財政的にも負担でしょう。

ま、過激に煽っている部分はありますが、小説としてはよくあることで、そうしたことを含んだ上でエンタメ的に読むことをお勧めします。

つまり決してここに書かれていることは過去に起きた事実と、起きるかも知れない虚構がミックスして書かれているだけに、直情的で気の短い人が読むと、「中国けしからん!」「中国よりの政策をとった旧民主党政権は国賊もの!」と感情的になりかねません。そのように見えてしまう政治的な偏った思想が見え隠れする内容がちょっと残念な感じです。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

判決破棄 リンカーン弁護士 (講談社文庫)(上)(下) マイクル・コナリー

 
刑事弁護士「ミッキー・ハラーシリーズ」の3作目で、ミッキー・ハラーが登場した最初の作品「リンカーン弁護士」(2005年刊、2009年翻訳版刊)を読んだのが2009年ですから、それ以来の「ミッキー・ハラーシリーズ」です。

その2009年に最初に「リンカーン弁護士」を読んだときの自分の感想を見てみると、「複雑な人間関係とテンポのよいストーリー展開、陰のある主役、都合のいい仲間達(今度は別れた二人の妻)はいつものパターンですが、リラックスして読めるエンタテナー小説としては上出来です。男性版ハーレクイーン小説みたいな感じかな。」と書いています。ほめているのか皮肉を言っているのか微妙です。

そして著者の作品ではお馴染みの異母兄弟でロス警察のハリー・ボッシュも準主役として登場しています。発刊順に読んでいないのと、読む間隔が空きすぎて、過去の登場人物の関係図がもうなにがなんだかよくわからなくなってきています。

思えばハリー・ボッシュが「ナイトホークス」で最初に登場したのが1992年ですから、それから24年が経っているのですね。一度どこかで整理しなければと思ってます。

この作品は2010年刊で、日本語翻訳版の文庫は2014年に発刊されています。前に著者の作品を読んだのが昨年2015年の4月で、2009年刊、翻訳版が2014年刊の「ナイン・ドラゴンズ」という、今年最下位に沈み惨めな思いをしている中日ドラゴンズナインとはなにも関係がないハリー・ボッシュ主体の作品でした。

2015年4月後半の読書と感想、書評「ナインドラゴンズ」

その二人の主役が手を組み、法廷で悪と戦うというストーリーですが、あらかじめ勝つとわかっていながら読むのは最近つまらなくなってきていて、多少のどんでん返しがあるぐらいでは、上下巻合わせて1,792円を出すのは困難に思えています。

★☆☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

シューマンの指 (講談社文庫) 奥泉光

2010年に書き下ろし小説として発刊された小説ですが、この2010年は講談社創業100年とシューマン生誕200年の年ということもあるそうです。

著者の作品は5月にコミカルでライトノベル的な「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」を読んでいますが、本当に同じ作家さんの作品なの?と思うぐらいにその文体、構成、ジャンルが違っています。

2016年6月前半の読書と感想、書評「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」

著者自身もフルート奏者として音楽に馴染みがあるとは言え、それにしてもクラシック音楽についてのうんちくや批評がてんこ盛りで、逆にちょっと鼻につくぐらいです。

例えばこういう部分があります。

「ロマン派音楽の特徴の一つはその物語性にある。これはオペラに期限を持つので、その意味では、バロックこそが最も物語的だといいうるし、古典派にも当然ながら物語性は色濃く刻印されている。だが、ロマン派以前の音楽が、どこかで神話の輝きを帯びた叙事詩的な性格を備えていたのに対して、ロマン派は、近代文学と同様、個人の感情や内面の葛藤を物語の軸に据えるところに特色がある。だからこそロマン派音楽は、演奏者や聴き手の「感情移入」を容易に許す。物語が感情を揺さぶり、心から溢れ出す感情が物語を産み出す-。」

こうしたクラシック音楽に関する解説や説明が随所に出てきて、また登場人物にも語らせます。

内容は、ネタバレするので書けませんが、何重にも張り巡らされた主人公の語りで進められていき、最後には関係者から驚愕の事実が喚起されそれが事実なのかどうかは不明のままで終わります。つまり読者がどう考えるかを試される結末でしょう。

基本はミステリー小説のジャンルに入るのでしょうけど、読んでいると普通の青春小説、または音楽やピアニストの世界をかいま見る職業小説、あるいはシューマンを中心としたクラッシック界のうんちく本ともとらえることができそうです。

ドラマや映画化なども今のところなく、世間ではあまり話題にはなっていませんが、なかなか面白かったですよ。そのうち誰かの目に留まり、映画化されそうな気もします。

★★★


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

きいろいゾウ (小学館文庫) 西加奈子

 
この小説は2006年に単行本で、その後2008年に文庫化されました。また2013年には宮崎あおいと向井理出演で映画化もされています。見てないけど。

著者の作品は過去に「通天閣」を読んでいます。コテコテの大阪下町を愛おしく書いた小説で、織田作之助賞の大賞を受賞したよい作品でした。

2013年10月前半の読書と感想、書評「通天閣」

さてこちらの小説は、若い男女が男の田舎にある実家に帰り、暮らしている日常が描かれますが、チャボや犬と会話ができたり、草木に励まされたりと、ファンタジー的な要素も含まれています。

その他、定番とも思える大人よりもしっかりした小賢しい?少年、主人公の夫の背中にある前カノと関係がある鳥の入れ墨、旦那だけに働かせて自由気ままな生活を送っている主人公と、まったくよくわからない作品です。

タイトルは、本文中に文字だけ出てきますが、主人公が子供の頃に親しんだ絵本で、病弱な女の子が月の使者となっていた黄色い象に連れられて世界中を飛び回るという、こちらもファンタジーな内容。

還暦まであと1年と少しというオヤジだと、こうしたほんわかしたファンタジー作品を味わい親しむのは、売れない芸人が大勢集まり、騒がしいだけのテレビのバラエティ番組と同様、もう厳しくなってきたなぁとつくづく感じています。

★☆☆


【関連リンク】
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 7月前半の読書 ビッグデータがビジネスを変える、鍵のかかった部屋、二十五の瞳 、クジラの彼
 6月後半の読書 天の方舟(上)(下)、無痛、下山の思想、沈黙のひと
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1064
だいこん (光文社文庫) 山本一力

2002年に「あかね空」で直木賞を受賞した時代物が多い作家さんですが、本書は2005年に単行本として、2008年に文庫本が出ています。

それにしても「あかね空」はホントいい作品でした。2006年公開の映画もテレビで見ましたが原作に忠実でこちらもなかなかいい出来でした。その後、終戦後の東京を舞台とした自伝的要素がある「ワシントンハイツの旋風」も読んでいます。

2012年1月後半の読書「あかね空」

2012年に読んだ本のベストを発表「大賞・あかね空」

2013年2月前半の読書「ワシントンハイツの旋風」


タイトルは主人公の若い女性が浅草で始めた一膳飯屋の屋号のことで、その主人公の活躍と奮闘を描いた庶民派人情時代小説です。同じく主人公が江戸で豆腐屋を始めた「あかね空」とも通じるところがあります。

主人公は三人姉妹の長女で、ちょうど9月末まで放送されていた「とと姉ちゃん」のやはり三人姉妹の長女常子が思い浮かびます。

長女が主人公で、二人の妹には早く嫁にいって幸せになってもらいたいといったところや、自分が始めた事業に誇りを持って、周囲を巻き込みながらも成功を収めていくというところがよく似ています。

同じ三人姉妹の物語でも山崎豊子著「女系家族」は長女は出戻りで意地悪、次女は既婚で他家に嫁に出た後も実家の財産を狙っているというやっかいな話しもありますが、いずれにしても小説または映画やドラマにするにしても、華やかな感じがあってモデルとしてはいいのでしょう。

残念ながら「あかね空」のような最後のどんでん返しのようなものはなく、江戸の庶民生活が淡々と描かれ、そこに大川の水害や、目黒で出火して日本橋まで焼き尽くした明和の大火、田沼老中の晩年など、実際起きた時代背景がでてきます。

★★☆


  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫) 京極夏彦

 
著者の作品では6年ほど前に1994年刊の長編小説デビュー作品「姑獲鳥の夏」(うぶめのなつ)を読みましたが、その独特の妖しい世界観に衝撃を受けたのを記憶しています。

実はこの「姑獲鳥の夏」は発刊されて2年後の1996年に購入したものの、少し読み始めてあまりの暗さと難解なストーリーで途中で断念してしまい、4年間ほどほこりをかぶって積読状態でした。

この「魍魎の匣」(もうりょうのはこ)は、デビューの翌年の1995年刊で、前作と内容は異なりますが、登場人物などは共通で続編的な内容(シリーズ)となっています。

あらためて覚悟を決めて数年後に全部読みましたが、慣れるとこの濃さが快楽となってくるので面白いものです。スープがドロリとしたこってりラーメンがクセになって時々無性に食べたくなるのと似ています。

戦後間もない時期で東京にある古本屋の京極堂を舞台にして謎解きをおこなうシリーズはその後も不定期で続き、現在のところ2012年刊の「定本 百鬼夜行 陽」まで14作品まで続いています

また実相寺昭雄監督、堤真一主演で「姑獲鳥の夏」の映画化に続き、この作品も2007年に原田眞人監督、堤真一主演で映画化されていています。見たいような見たくないような、、、

主人公は語り部であり小説家の関口。謎を解くのは友人で京極堂という古本屋を営む陰陽師でもある中禅寺秋彦。その他レギュラー陣として霊感を持つ探偵榎木津礼二郎、刑事の木場修太郎と青木文蔵など。

とにかく長い小説で、文庫では1冊にまとめられており、本編だけで1,040ページを越えます。通常の文庫本1冊が300ページぐらいですから、ざっと3冊分の長さです。

事件はバラバラ死体事件、怪しげな宗教、引退した元女優の家族の女子高生が自殺したりと、様々な事件が同時進行で起こり、やがてはそれらがひとつに結びついていくという常道ミステリー。

ただし中身は前作同様かなりショッキングでグロなところがあり、恐がりと心臓の弱い人は夜に一人っきりでは読まない方がいいのかも。

犯人や事件のバックグラウンドは最後の最後まで謎が続き、イライラするぐらいなかなか明かされることがありません。ジックリと上質?なミステリーを楽しみたければお勧めですが、とんでもなく焦らされるので短気な人にはお勧めしません。

★★☆

  ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

犯罪 (創元推理文庫) フェルディナント・フォン・シーラッハ

2012年本屋大賞「翻訳小説部門」の第1位に輝いた作品で、著者はドイツの刑事事件専門の現役弁護士です。

「フェーナー氏」「タナタ氏の茶碗」「チェロ」「ハリネズミ」「幸運」「サマータイム」「正当防衛」「緑」「棘」「愛情」「エチオピアの男」の11編の連作短編小説です。

著者が働く弁護士事務所で扱った事件を元にして書かれていて、中にはかなり不思議で不自然な話しもありますが、当然ながら弁護士という立場上、被害者や加害者の個人情報を守るために、小説では大きく脚色をしているのでしょう。

「タナタ氏の茶碗」では、ある日本人ビジネスマンの屋敷が空き巣に遭い、金庫の中にあった現金と小さな陶器の茶碗が盗まれます。タナタ氏にとって盗まれた茶碗はとても重要なのもので、もし故買屋などに出てきた場合は最高額で買い取ることを約束します。

蛇の道は蛇で、それを知った悪党の親玉は故買屋を通じてその茶碗を盗んで持ち込んだチンピラを調べ上げ、タナタ氏の秘書に買い取りを要求します。するとその悪党は拷問の末に殺され、故買屋も同様に襲われます。それを知っ実行犯のチンピラは震え上がり、弁護士を通じてその茶碗を持ち主へ返却します。

そうした様々な犯罪をテーマにした話しが、関わった弁護士が語るという形態で続きます。

またドイツの警察や検察と弁護士のやりとりが、日本や映画などでよく知っているアメリカのそれとも多少違っていて、なかなか新鮮で面白く読めます、

★★★


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