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1907
本質を見抜く「考え方」(サンマーク出版) 中西輝政

本質を見抜く「考え方」 
著者は京都大学の教授で、国際政治学者として、自民党政権の裏方や日本会議などで活躍してきた政治思想的には保守系の学者さんです。

本著は、2007年に単行本、2009年、2011年に文庫が出版されています。

なかなか良いことが書かれているようですが、どうも例え話がうまくつながらず、そのせいもあって記憶に残らないというのが残念です。

読み終わった後に「いったいなにを言いたかったのだろう?」というのが感想でしかありません。

読む人が、著者の政治思想と近い人なら、共感を持って「うん、そうそう」とうなずける内容なのかも知れませんが、私には「なに言っているのかよくわからない・・・」という印象です。

しかし著者が英国に留学していたことがよほど自慢で嬉しかったのでしょう、本著の中で100回ぐらい自慢気に書かれています。

英国の政治というと、ジェフリー・アーチャーの小説によく出てきますが、そんなに自慢できる素晴らしいものではないように思いますが、著者にとっては英国の政治がすべて、それだけで完結してしまっているようです。

どうせ外国在住自慢をするなら、高野秀行著「恋するソマリア」に登場するような、日本人には縁遠そうな国の話だと意外性があって大いに興味がわき称賛するところですが、今でも中東で火種が尽きない原因を作り出した英国の「三枚舌外交」や、最近ではEU離脱による「ブレグジットの失敗」など、まともな国は決して見習ってはいけない政治を称賛されても、どうだかなぁと思ってしまいます。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

祈りのカルテ(角川文庫) 知念実希人

祈りのカルテ
2018年に単行本、2021年に文庫化されている連作短篇集です。6月に読んだ「祈りのカルテ 再会のセラピー」と読む順序が後先になってしまいましたが、こちらが先に出ています。

6月前半の読書と感想、書評(祈りのカルテ 再会のセラピー)

主人公は、様々な診療科を回って経験を積む初期臨床研修中の新米医師で、そこで起きる様々な問題に持ち前の勘を働かせ、謎を解いていくというミステリー小説です。

心身とも不安定でかたくなになった患者の心を開かせて話を聞き出し、そこから推理を働かせて、見えない問題を解決していくというお馴染みのパターンですが、医療に関わる人達の苦労などが垣間見えて面白く読めます。

今回は、研修中に週一回は割り当てられる救急部での話、次に外科、そして皮膚科、小児科、循環器内科と続いていきます。

そして2年間の初期臨床研修が終わり、いよいよ専門を決める時がやってきますが、果たして主人公はどの科(医局)を選ぶのか、、、

★★☆

著者別読書感想(知念実希人)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

黒牢城(角川文庫) 米澤穂信

黒牢城
2021年に単行本、2024年に文庫化された歴史小説ですが、連作短篇集風の作りになっています。

第166回直木三十五賞を受賞し、さらに第22回本格ミステリ大賞(小説部門)、第12回山田風太郎賞を受賞、「このミステリーがすごい!」2022年版国内編第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」2021年国内部門第1位、「ミステリが読みたい!」2022年版国内篇第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2022年国内ランキング第1位など、小説部門の賞やトップを総なめにした作品です。

また今年2026年には、黒沢清監督、本木雅弘、菅田将暉、吉高由里子などの出演で映画が製作され公開されています。

著者の作品すべてを読んだわけではありませんが、おそらく戦国時代の武将をテーマにしたミステリー小説は初めてのチャレンジだったのではないかと思います。

内容は、戦国時代ファンなら誰でも知っている、荒木村重が織田信長に謀反を起こし、大阪伊丹にあった有岡城で抵抗したという史実が舞台となっています。

木下藤吉郎や明智光秀らとともに、織田信長の家臣団の中で重鎮にまでなっていた荒木村重ですが、大阪本願寺と組むことで信長に反旗を翻すこととなり、本願寺や、中国地方の大大名毛利勢、和歌山の鉄砲集団雑賀衆などと反織田勢力グループを作ります。

しかし、圧倒的な兵力を持つ織田勢に対し、頼りにしていた毛利勢(毛利輝元を中心とする中国勢)は動かず、本願寺も周囲を織田勢に完全包囲され、村重が立てこもっていた有岡城も一進一退で時だけが過ぎていくことになります。

そこへ和議を勧めにやってきた黒田官兵衛を殺すのではなくまた帰すのでもなく、地下牢へ閉じ込めたことから、織田信長には「官兵衛が裏切って荒木についた」と見なされます。

ここまでは概ね史実通りですが、その後、有岡城で起きる様々な殺人や奇異なことについて、城内に動揺が広がり、村重が他に心から相談できる相手がいないことから、地下牢につながれた官兵衛に愚痴を言うがごとく相談し、事件を解決していくという流れです。

主役は城を抜け出し妻子や家臣を見殺しにしたことで後年「天下一の卑怯者」と言われた荒木村重ですが、本来村重は戦国時代に実力で下克上を成し遂げた有能な武将です。

映画では村重に本木雅弘、準主役の黒田官兵衛を菅田将暉が演じています。実力派俳優陣を揃えていますが、残念ながらいまいち大きな評判にはならなかったようです。

有岡城内で起きた様々な事件はフィクションですけど、その他、登場人物などは概ね実在し、史実に忠実で、最後は村重が城を脱出した後、有岡城は内部から崩壊し、織田勢に攻略されてしまい、黒田官兵衛は救い出され、村重の家族や家臣団は斬首されます。

なぜ村重は卑怯者と言われることをわかっていながら城を抜け出すことになったのか?それが官兵衛の発案だった?とかは諸説あるでしょうけど、最後まで面白く読めました。

★★★

著者別読書感想(米澤穂信)

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まだ見ぬ敵はそこにいる-ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班-(ハーパーBOOKS) ジェフリー・アーチャー

まだ見ぬ敵はそこにいる
原題は「Hidden in Plain Sight」で、直訳すると「目の前にあるのに気がつかない」で、日本語的に言うと「灯台もと暗し」という意味があります。2020年に英語版が出版され、日本語翻訳版は2021年に出版されています。

「ロンドン警視庁ウィリアム・ウォーウィック」シリーズの、「レンブラントをとり返せ-ロンドン警視庁美術骨董捜査班-」に次ぐ第2作品目です。

2022年12月前半の読書と感想、書評(レンブラントをとり返せ)

ちなみにこの主人公、ウィリアム・ウォーウィックは、2010年代に書かれた「クリフトン年代記」シリーズに登場した警察官で、それからスピンオフしてできあがった警察官の成功物語とも言えます。

順番が入れ替わりましたが、第1作目は4年前、第3作目「悪しき正義をつかまえろ-ロンドン警視庁内務監察特別捜査班-」を2年前に既に読んでいますが、物語は、過去の経緯を引きずっていくので、できれば順番に読んでいくことをお勧めします。

既に読んだ第3作目からすでに、4作目「運命の時計が回るとき-ロンドン警視庁未解決殺人事件特別捜査班-」(2021年)、5作目「狙われた英国の薔薇-ロンドン警視庁王室警護本部-」(2024年)、6作目「消えた王冠は誰の手に-ロンドン警視庁王室警護本部-」(2025年)が出版済みです。

第1作では美術品などの捜査に活躍を見せて、その後ずっとバットマンシリーズのジョーカー同様、典型的な悪役として主人公を悩ますことになる故買屋とのスリルある攻防がありました。

今回の第2作目では、その故買屋との関係とともに、麻薬取り締まり捜査班へ異動し、英国でコカインなど麻薬の製造と販売を一手におこなっている大物麻薬王を探し出して一網打尽にするというミッションが与えられます。

また主人公の恋人だった美術館員の彼女とは無事に結婚し新婚旅行にも出掛け子供も生まれます。

そうした故買屋や麻薬王との攻防、そしてプライベートのこと、さらには同僚刑事の不正を見逃すかどうかなど、様々な要素が詰まっていて面白く読めますが、著者の小説ではほとんどがそうですが、予定調和というか驚きはなく、やや物足りなさも感じられます。

★★☆

著者別読書感想(ジェフリー・アーチャー)

【関連リンク】
 8月後半 もののふ戦記、磯田道史と日本史を語ろう、煙が目にしみる、泥棒は哲学で解決する
 8月前半 鬼火(上)(下)、心にナイフをしのばせて、母の待つ里、怖い絵 死と乙女篇
 7月後半 O・ヘンリーミステリー傑作選、白夜を旅する人々、手鎖心中、破船

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1905
もののふ戦記(ハルキ文庫) 長谷川卓

もののふ戦記
勢古浩爾著『それでも読書はやめられない 本読みの極意は「守・破・離」にあり』で紹介されていた小説で、既に故人となっている著者が2017年に出版した時代小説です。

一般的に、時代小説、特に戦国時代の小説は、有名な武将やその周囲にいた名将などを主人公とし、活躍やその一生を描くことが多いですが、この小説は、武田信玄下のずっと下の下級武士(御徒衆)のさらにその武士に仕える従者(小者)を主人公としています。サブタイトルに「小者・半助の戦い」と入っています。

本来、戦闘訓練などはおこなってなく、敵と刃を交えて戦うことのない従者(小者)ですが、主人を助けるためには、時には戦わざるを得ません。そして主人には絶対服従で、敵襲で勝手に逃げ出すようなこともできません。

1550年、甲州の武田勢は、信州を手にいれるため、敵対する村上義清の堅牢な砥石城攻めをおこなうことになり、主人公が仕える御徒衆もその戦に加わります。

武田信玄と信州と言えば、ライバル上杉謙信との「川中島の戦い」(1553年から1564年)が有名ですが、その謙信が出てくる前の前哨戦です。

当初は圧倒的な兵力の差で武田勢が簡単に攻略できると思っていたら、相手は手強く、逆に味方は劣勢に立たされ、やがて敗走する「砥石崩れ(戸石くずれ)」という大敗北が起きます。

主人公の従者の主人も足に怪我を負い、落ち武者狩りや勢いを強めた村上勢の追っ手から逃げるため、地元の百姓に化けて主人を背負って味方の前線基地の長窪城を目指します。

小説では、遠征中の下々の日々の食事法や、野宿の仕方、敵味方の見分け方など、普通の時代小説ではわからない下級武士達の生活の描写が緻密で興味がわきました。

すべて創作の内容ではなく、実際に起きた合戦と敗走を背景にしていて、下々の悲惨な戦いが実際に起きていただろうと思わせられる、とても面白い良い作品でした。

★★★

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

磯田道史と日本史を語ろう(文春新書) 磯田道史

磯田道史と日本史を語ろう
2024年に新書で出版された対談集です。

対談の相手は、阿川佐和子、半藤一利、篠田謙一、斎藤成也、堺屋太一、小和田哲男、本郷和人、酒井シヅ、徳川家広、浅田次郎、杏、中村彰彦、養老孟司、出口治明と、いずれもその道の専門家や大家と言える人達で、内容の濃い話が繰り広げられます。

テレビなどでお馴染みの有名人以外をちょっと補足しておくと、篠田謙一氏はDNA分析の分子人類学者、斎藤成也氏は遺伝学者、酒井シヅ氏は順天堂大学名誉教授で元医史学会理事長、徳川家広氏は徳川宗家第19代当主、中村彰彦氏は歴史小説家です。

それぞれの対談のテーマは、

・阿川佐和子 「『磯田道史』ができるまで」
・半藤一利 「日本史のリーダーを採点する」「幕末からたどる昭和史のすすめ」
・篠田謙一・斎藤成也 「日本人の不思議な起源」
・堺屋太一・小和田哲男・本郷和人 「信長はなぜ時代を変えられたのか?」
・酒井シヅ 「戦国武将の養生訓」
・徳川家広 「徳川家康を暴く」
・浅田次郎 「幕末最強の刺客を語る」
・杏 「女もハマる! 幕末のヒーローたち」
・中村彰彦 「『龍馬斬殺』の謎を解く」
・養老孟司 「脳化社会は江戸から始まった」
・出口治明 「鎖国か開国か?グローバリズムと日本の選択」

です。

対談は、古いものは2003年や2009年、新しい対談は2023年に、文藝春秋などに掲載されたものを集約していますので、一部には内容が古くなっています。ただしこの新書を出版する時(2024年)までに対談以降に変化や進展があったものについては追記や注意書きが加えられています。

歴史のテーマでは、どうしても織田信長や徳川家康、坂本龍馬などが多くなってしまいますが、下級武士やもっと市井の人達の話なども出てきて面白く読めました。

★★☆

著者別読書感想(磯田道史)

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煙が目にしみる(光文社文庫) 石川渓月

煙が目にしみる
私と同い年の1957年生まれの作家さんで、50歳を過ぎてから本格的に小説の書き方を学び、53歳になって本作品でデビューされた異色の経歴の方です。

いきなりこの作品で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞されていますので、努力家でかつ才能のある方なのでしょう。

このデビュー作は2011年に単行本として、2013年に文庫化されています。いわゆる国産ハードボイルド小説で、何度もピンチに立たされながらもくぐり抜けていきます。

舞台は福岡の繁華街中洲で、バブル時代には不動産業で華々しく稼いでいましたが、バブルが弾けた後は怪しげな金融業で細々と活動をしています。

借金を督促するために寄った中洲のオカマバーで、経営者が中洲を牛耳っている暴力団金融からも2重に借金をしていることがわかり、不思議に思って事情を聞くため組事務所へ乗り込みます。

そこに、若い女性が現れて、風俗で働かされている友人を返せと暴力団事務所で暴れ始め、それを主人公が救ってやったことから、暴力団に狙われ、次々とピンチに陥ります。

と、まぁ昔中洲でブイブイ言わせていた中年の主人公が、暴力団と対峙し、仲間にも助けられながら、戦っていくという流れです。

最後にちょっと思わぬ展開が待っていますが、そう驚くほどのことでもなく、それよりは、ヤクザの幹部が、手形でコロッと騙されてしまうとか、ヤクザとの取引でヤクザが律儀に約束を守るとか、殺す相手をやっと拉致したあと、用事ができたからと見張りをひとりだけ残して引き上げてしまうとか、次々と都合良く隠れ家を手に入れるとか、ちょっと安易な気もしますが、デビュー作としては上々のできの作品ではないでしょうか。

★★☆

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泥棒は哲学で解決する(ハヤカワ文庫) ローレンス・ブロック

泥棒は哲学で解決する
「泥棒バーニイ・シリーズ」の第4作目で、今から46年前の1980年に出版されています。日本語版は1995年に文庫として出ています。

著者のデビューは、1966年出版の快盗タナー・シリーズ第1作目「快盗タナーは眠らない」ですが、その後1976年に出版されたマット・スカダー・シリーズ第1作目の「過去からの弔鐘(Sins of the Fathers)」が大ヒットしてベストセラーとなります。

その翌年には勢いを増してこの泥棒バーニイ・シリーズを新たにスタートさせます。

その後しばらくはこの人気の2つのシリーズに注力しているのがわかります。

「泥棒バーニイ・シリーズ」は下表のように長編が12作(うち1作品は未翻訳)と短篇集が3作あります。読んだのは今回の作品を含めまだ4作です。

泥棒バーニイ・シリーズ
日本語版タイトル 原 題(発刊年) 読了日
泥棒は選べない Burglars Can't Be Choosers(1977)
泥棒はクロゼットのなか The Burglar in the Closet(1978) 2021/04/04
泥棒は詩を口ずさむ The Burglar Who Liked to Quote Kipling(1979) 2013/02/27
泥棒は哲学で解決する The Burglar Who Studied Spinoza(1980) 2026/08/07
泥棒は抽象画を描く The Burglar Who Painted LikeMondrian(1983)
泥棒は野球カードを集める The Burglar Who Traded Ted Williams(1994) 2005/09/13
泥棒はボガートを夢見る The Burglar Who Thought He Was Bogart(1995)
泥棒は図書室で推理する The Burglar in the Library(1997)
泥棒はライ麦畑で追いかける The Burglar in the Rye(1999)
泥棒は深夜に徘徊する The Burglar on the Prowl(2004)
泥棒はスプーンを数える The Burglar Who Counted the Spoons (2013)
未翻訳 The Burglar Who Met Fredric Brown (2022)
短篇集
夜の泥棒のように Like a Thief in the Night(1983)
泥棒はプレスリーを訪問する The Burglar Who Dropped In On Elvis(1990)
泥棒は煙のにおいをかぎつける The Burglar Who Smelled Smoke(1997)

本作の原題は「The Burglar Who Studied Spinoza」で、直訳すると「スピノザを学んだ空き巣」になります。「スピノザ」は、17世紀のオランダの哲学者のことなので、和訳のタイトルは意味をよりわかりやすくするため変更しているのでしょう。

稀少で価値のある5セントコインを旅行中で留守の富豪の家に忍び込んで金庫から盗み出し、盗品の故買をしている友人のところへ持ち込みますが、富豪の夫婦が予定を変更し主人公が去った後に帰宅し、そこで別の空き巣に出会って妻が殺されてしまう事件が起きます。

さらに主人公が盗んだ5セントコインを預けた故買屋も翌日に何者かに殺されてしまいます。

その両方に関わっているのではないかとにらんだ警察から前科のある主人公が疑われます。

果たして、二つの殺人の犯人を特定できるか?というのがストーリーで、ミステリーファンならこの時代の犯人捜しはそれほど複雑ではないので案外先に犯人がわかるかもです。私も2つの犯行のうちひとつは早々に犯人を特定できました。

★★☆

著者別読書感想(ローレンス・ブロック)

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鬼火(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー

鬼火
2019年に出版された後、2021年に日本語訳版が出版されたハリー・ボッシュシリーズの22作目です。

また同時に、今回の捜査でボッシュと事件捜査でコンビを組む、ロス市警深夜勤務レネイ・バラードのシリーズのひとつにも数えられそうです。またちょい役ですが、リンカーン弁護士として有名なミッキー・ハラーも登場して賑やかです。

原題は「The Night Fire」で、「鬼火」はちょっと怪しげな自然現象を意味しますが、ほぼ直訳っぽいですね。

ボッシュはハラーとともに、裁判判事の殺人事件で逮捕された男の無罪を証明することに成功するとともに、その捜査に疑問を感じてその真犯人を追うことになります。

またレネイは、公園で焼死したホームレスの捜査と、ボッシュが刑事の新人時代に師匠としていろいろ教わった名刑事の死後、その家に残されていた20年も前の未解決殺人事件の調査調書を家族から託されたボッシュから引き継ぐことになります。

ホームレスの焼死は、一見するとストーブが倒れた事故のように見えますが、実家の莫大な遺産を引き継げる男という身元が判明したところで殺された可能性が高まり、またもうひとつ、公式の未解決事件の調書が無断で持ち出され、引退した元刑事が保管していたのか?その事件の真犯人は誰なのか?など、ひとつひとつ真実へと向かっていきます。

複数の事件の捜査が同時に進んでいくので、登場人物も多く、少し混乱しますが、それはいつものこととして、読み応えのあるストーリーでした。

★★☆

ハリー・ボッシュシリーズはまだ未完 2020/10/3(土)

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

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心にナイフをしのばせて(文藝春秋) 奥野修司

心にナイフをしのばせて
フリージャーナリストの著者が、1969年に起きた凄惨な少年事件を振り返って遺族の苦しみを書いたノンフィクションで、2006年に単行本、2009年に文庫化されています。

ノンフィクションとしては異例の累計で8万部を超えるベストセラーになりました。私も当時書店で平積みされていたことをよく覚えています。

1969年(昭和44年)4月に川崎市で起きた高校生首切り殺人事件から28年が経ち、すでに事件は風化していましたが、1997年(平成9年)に神戸で起きた「神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)」が、その被害者の首を切り取る残忍性や、加害者が少年法で守られた高校生が起こした事件として共通していたことからこの古い事件が再度注目されることになりました。

ただ、加害者はいずれも少年法に守られ、加害者側の関係者に直接取材をすることはできず、話のほとんどは、被害者側の遺族、母親と妹、親戚などに集中しています。父親は取材時には病気で亡くなっています。

事件後30年以上が経過していて、記憶にあやふやなところもあったそうですが、文章に起こしてから遺族に確認してもらうなどして苦労が偲ばれます。

被害者は私立高校の1年生で、同じクラスの生徒が加害者という関係です。被害者遺族や、被害者と仲良かった友人からの聞き取りなので、どこまでが真実か?というのは不明ですが、被害者に大きな非はなく、なぜ?どうして?という疑問が誰にもわからない事件です。

加害者は法律で守られ、数年の医療少年院に3年間ほど収容されたあとは、社会復帰し、名前を変えてその後大学へ進学、弁護士事務所を経営するという順調な生活を送ることになります。

一方の被害者の遺族は、残された家族のうち、母親が精神的に不安定となり長く寝込み、そのせいで父親や妹にも大きな負担が増すことになります。

その対比を見ると、当時の加害者だけを守る少年法の実態や、遺族へのサポートがまったくない状態が大きな話題となりました。

私は発売直後に、書店でよく見かけていましたが、内容は知らず、タイトルや表紙を見て少年犯罪の小説かな?と思っていましたが、今回初めて読み、そうではないことがわかりました。

★★☆

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母の待つ里(新潮文庫) 浅田次郎

母の待つ里
2022年に単行本、2024年に文庫化された小説です。いかにも「泣かせの次郎」的なタイトルでしたが、意外にそうでもなかったです。

主人公というか語り手は3人いて、大手食品メーカーに勤め、上が不祥事などでいなくなって押し出される形で社長になった独身中年男、製薬会社のサラリーマンを定年で退職したとたんに妻から離婚されたばかりのバツ1中年男性、そして、母親を亡くしたばかりの院卒で循環器医療の女性医師。

この3人に共通しているのが、東京出身で、ふるさとというものがなく、さらに年会費35万円という高額でプレミアムなクレジットカードを持っていること。

そのプレミアムカードのサービスのひとつに「ふるさとを、あなたへ」という擬似的なふるさとを体験できるサービスがあり、それがタイトルになっている「母の待つ里」という設定です。

それがどういうものかは読んでもらうことにして、独身で親がすでに亡くなっている主人公の3人が、人生の終盤になってそれぞれ葛藤を抱えつつ、このサービスを利用することで何かが変わっていくという内容です。

今までの著者の作品とは趣きが違っていて、なにかSF小説を読んでいるような感覚です。

それも悪くはないですが、やはりこの著者に期待するのは、長編で泣ける物語ですから、それは裏切られたような感じです。

★★☆

著者別読書感想(浅田次郎)

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怖い絵 死と乙女篇(角川文庫) 中野京子

怖い絵 死と乙女篇
怖い絵」(2007年)、「怖い絵 泣く女篇(単行本では怖い絵2)」(2008年)に続く、怖い絵シリーズ第3弾です。

2009年に単行本として、2012年に改題して文庫化されています。改題前は「怖い絵3」でした。

この「怖い絵シリーズ」は、描かれた時代や神話、聖書などの知識を知ることで、その絵の意味や特徴、描かれた背景がよくわかり理解が進むという美術の解説という位置づけです。

紹介されている絵画は下記の22作品に及び、それらに関係する他の絵画もいくつか紹介されています。

作 者 作 品 名
01 レーピン 皇女ソフィア
02 ボッティチェリ ヴィーナスの誕生
03 カバネル ヴィーナスの誕生
04 ベラスケス フェリペ・プロスペロ王子
05 ヨルダーンス 豆の王様
06 レオナルド・ダ・ヴィンチ 聖アンナと聖母子
07 ミケランジェロ 聖家族
08 セガンティーニ 悪しき母たち
09 伝レーニ ベアトリーチェ・チェンチ
10 ルーベンス メドゥーサの首
11 アンソール 仮面にかこまれた自画像
12 フュースリ 夢魔
13 ドラクロワ 怒れるメディア
14 伝ブリューゲル イカロスの墜落
15 レッドグレイブ かわいそうな先生
16 フーケ ムーランの聖母子
17 ベックリン ケンタウロスの闘い
18 アミゴーニ ファリネッリと友人たち
19 ホガース ジン横丁
20 ゲインズバラ アンドリューズ夫妻
21 ゴヤ マドリッド、一八〇八年五月三日
22 シーレ 死と乙女

解説されて初めてわかるようなことや、絵をジックリよく見ないと発見できないようなものなどに理解が進みます。

例えば、下の伝ブリューゲル作(近年では無名の画家がブリューゲルの作品を模写したものと言われている)「イカロスの墜落(イカロスの墜落のある風景)」は、そのメインテーマ?のイカロスはというと、映画「犬神家の一族」の犬神佐武のように水面から足だけ出した姿(赤丸で示したところ)という目立たないところでコミカルな感じですが、この絵にもなかなか深い意味が込められていることが解説でわかりました。

イカロスの墜落

またその絵が描かれた時代背景や宗教観も重要で、誰の求めで描かれたものとか、当時の画家の立場や経済状態なども関わってきます。

タイトルの「怖い絵」はいくつか本当に怖そうな絵はありますが、それがすべてではなく、明るくハッピーな絵画も含まれていて、それは第3弾でネタがなくなってしまったのか、それともあまりタイトルに引きずらない方針なのかは不明です。

ただ、気になるのは、著者がキッパリと決めつけて想像するその絵の本質や画家の意志が、どこまで正しいかは確かめることはできず不明で、いわゆる「諸説あり」と思える内容が多そうです。

そうした決めつけで説明されることは、受け身であれば面倒がなくて良いとも言えますが、「いやいや、そうじゃないだろう?」と思ったりすることもあり、最後は見て感じた人が考えるべきことかも知れません。

★★☆

著者別読書感想(中野京子)

【関連リンク】
 7月後半の読書 O・ヘンリーミステリー傑作選、白夜を旅する人々、手鎖心中、破船
 7月前半の読書 アヒルと鴨のコインロッカー、ブルックリン・フォリーズ、ザ・ヒート、ノースライト
 6月後半の読書 霧(ウラル)、流出、神の時空 鎌倉の地龍、極楽カンパニー

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1900
O・ヘンリーミステリー傑作選(河出文庫) O・ヘンリー

O・ヘンリーミステリー傑作選
著者の小説を読むのは、O・ヘンリ短編集(1)~(3)を34年前の1992年に読んで以来です。

34年前というと、私の年齢も重要な仕事を任されていた34歳で、当時は怖いものなしでバリバリのビジネスマン(笑)時代だった頃です。

その頃読んだO・ヘンリーは、仕事や家庭の雑事から一時離れることができて、心の清涼剤になった記憶があります。

心が温まるような話もありますが、それよりもどちらかと言えば皮肉っぽい、ウイットに富んだブラックジョークのようなものもあったと記憶しています。

作家時代に書いた短篇は300に及ぶそうですが、日本語に翻訳された作品で読めるのはそのうちの1/3もないでしょう。

少しでも日本語翻訳版を提供しようと、過去に出版された作品以外から28作を選抜したのが本書で、1984年に出版されました。

★★☆

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白夜を旅する人々(新潮文庫) 三浦哲郎

白夜を旅する人々
1984年に単行本として、1989年に文庫化された自伝的長編の私小説です。

時代は著者が生まれた昭和6年から始まり、著者の家族、特に兄2人と姉3人を中心とした家族の物語です。

その家族は、姉の二人に遺伝的な障害(先天性色素欠乏症)を抱えながらも、住まいのある青森県八戸市で、仲良くそして明るく暮らしています。

母親の実家が呉服店の本家と言うことで、そののれん分けで呉服屋を営み、番頭や丁稚を抱えている当時としては裕福な一家でした。

前半のその家族のそれぞれの思いや行動については、まだ幼かった作者の創作に違いありませんが、当時の地方の生活感がよく出ています。

そして後半からは一転して、家族の問題が噴出していき、一気に暗い内容となっていきます。

それは、著者の略歴にあるとおり、三男三女の兄弟姉妹のうち、二人の姉が若くして自死を選び、二人の兄が失踪してしまうという自らの家族を描くことでそうなってしまうでしょう。

当時の田舎では、大家族で、子供が何人もいるという家が普通でしたので、この主人公たる一家も子供が6人という賑やかさでしたが、それが順に減っていく悲しさは読み進めていくと気持ちが沈んでいきます。

当然、祖父母や、叔父や叔母など登場人物も多く、現代の核家族や縁遠い親戚とはかなり違った複雑な人間関係があります。

そうした家族や家系というしがらみの中で、たくましく生きていくということは、今は忘れ去られてしまった感がありますが、私が生まれた昭和30年代でもまだ多少は残っていて、昔はそうだったなぁと思い出しました。

★★★

著者別読書感想(三浦哲郎)

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手鎖心中(文春文庫) 井上ひさし

手鎖心中
1972年に出版され、1975年に文庫化された作品で、1972年の直木賞を受賞した作品ですが、今回購入したのは2009年に発刊された文庫の新装版というものです。

2009年というと、著者が75歳で亡くなる1年前の頃で、あらためて、著者の代表的作品として見直されていた時期なのかも知れません。

著者の作品では14年前に「東京セブンローズ」を読んだきりですが、著者の名前は小学生の頃に毎日楽しみに見ていた人形劇の「ひょっこりひょうたん島」(1964年~1969年)の作者ということでよく知っていました。

本書は、直木賞を受賞した「手鎖心中」と、もう一つ「江戸の夕立」という中篇小説が収録されています。

まず「手鎖心中」の主人公は大阪の売れない絵草紙の作家で、一旗揚げようと江戸にやってきて、1年前の大河ドラマの主人公、日本橋通油町で耕書堂を経営する蔦屋重三郎の元に居候をしながら店を手伝いながら作品を作り続けますが芽が出ません。

そんな時、深川の材木屋問屋の若旦那が、絵草紙を書きたいけど才能がないので、お金を払うから主人公達に代わりに描いてもらえないかと頼みに来ます。

タイトルの手鎖とは、若旦那の希望として、禁令を犯して幕府から手鎖50日の処分を受けた山東京伝にあやかり、自分が描いた作品で手鎖の処分が下るように町奉行に頼み込むという暴挙に出ることから騒動が起きるという内容です。最後に主人公達が何者かというオチまで付いています。

大河ドラマ「べらぼう」に登場してきた蔦屋重三郎他、山東京伝、大田南畝、朱楽菅江などが登場してきて、なにかふと懐かしいような、先にこの本を読んでいれば、「べらぼう」に登場する作家たちの人間関係がもっとよくわかったなと思ったりしました。

もうひとつの「江戸の夕立ち」は、江戸で指折りの薬種問屋の若旦那と、語り手で主人公のたいこもち(男芸者)がふとした失敗で、品川で乗った小舟が流されてしまい、釜石まで着岸しない商船に助けられるものの、あきれるほどにどうしようもない若旦那の世話をしながら、ほうぼうへ流れていくという内容です。

★★☆

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破船(新潮文庫) 吉村昭

破船
1982年に単行本、1985年に文庫化された江戸時代、僻地にある貧しい小さな漁村を舞台とした小説です。

実話を元にしたわけではなく、日本海沿岸に残る古文書に、難破した商船から荷物を奪っていた記述や、治癒が見込めない感染症患者を隔離するため老朽船に乗せて海に流していたことが書いてあり、それを元にしてこの小説を思い立って書いたと言うことでした。

平地がなく土地も痩せていて農業ができず、近海の漁業だけしか生活の糧とならない僻地の漁村は貧しく、男も女も次々と厳しい出稼ぎに出るしか家族を養えません。

ただ数年に1度、貴重だった米や絹織物、砂糖、酒などを積んだ商船が漁村近くで難破することがあり、その時には村民が総出で、傷ついた船を襲い、口封じのため水夫を皆殺しにして荷物を奪うという風習があります。

その千載一遇の「お船さま」が来ることを願う祈祷があり、さらには冬の海が荒れた夜には塩焼きと称して大きな明るいたき火をすることで、船を座礁しやすい湾内に呼び込むことまでしています。

そうした漁村の10才になり、出稼ぎに出た父親に代わり、漁で家族を支えている子供が主人公で、村民仲間に魚のうまい捕まえ方などを教わり成長していきますが、まだ「お船さま」は見たことがありません。

そして、いよいよ荷物を満載した「お船さま」がやってきて、村には明るい雰囲気が漂いますが、続けてやってきた別の異様な「お船さま」で、当時治療が出来なかった感染症の天然痘が広がってしまい、、、

貧しい村の希望の星だった「お船さま」と、多くの家族が苦しみ死んでいく絶望の「お船さま」のふたつの難破船をを際立たせ、同時に貧しい漁村の生活を細かに描き出している良い小説でした。

ただちょっと気になったのは、奪った米を2年や3年も保つようなことが書かれていましたが、例え籾殻米としても冷蔵施設もない時代に果たしてそんなことが可能なのかどうか?

あと難破船から奪った上等な絹織物など、隣の村まで山を越えて2日ほどかかるとはいえ、身分不相応な衣類などを見た近隣の村民や、口の軽い漁民から、生活が楽になった自慢話を聞かされ破船を略奪した噂が広がるのを止めるのはいかにも難しそうです。

本当に果たしてそういうことが可能だったのだろうか?と思ってしまいます。

★★☆

著者別読書感想(吉村昭)

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1898
アヒルと鴨のコインロッカー(創元推理文庫) 伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー
2003年にデビューした著者の5作目の書き下ろし長編小説で、2003年に単行本、2006年に文庫化されています。つまり今ではすっかりベテランの売れっ子作家さんですが、その初期の頃の作品と言うことです。

2007年には、観てませんが、監督が中村義洋、濱田岳、瑛太などの出演で映画が製作されています。

変わったタイトルだなぁと、本屋さんでずっと以前から見て思っていましたが、今回ようやく読むことが出来ました。

タイトルの意味を理解するには、読んでもらうしかありませんが、アヒルは元々野生のマガモを原種とし、それを人間が食用や羽毛採集の利用がしやすいように飼育、改良して作られた鳥だと言うことを初めて知りました。一般に鴨肉として流通しているものはほとんどがアヒルだそうです。

主人公は、仙台の大学に入学するために、単身アパートに引っ越ししてきた男性が語る現在と、同じ仙台でペットショップの女性店員が語る2年前に起きた過去が、同時進行で進んでいきます。

最後に大どんでん返しが待っていますが、ミステリーなら嫌というほどに読んでいるので、気がつきそうながらまったく気がつきませんでした。うまいやり方です。

鍵は、2年前と現在の両方の話に登場する、主人公男子大学生の隣室に住む河崎という男です。ムフフ。しかし映画では、そのどんでん返しがどのように作られているのかちょっと不思議です。

★★☆

著者別読書感想(伊坂幸太郎)

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ブルックリン・フォリーズ(新潮文庫) ポール・オースター

ブルックリン・フォリーズ
1980年代に書かれた「ニューヨーク三部作」が有名な著者ですが、まだその三部作はいずれも読めていません。本書は2005年に出版され、2012年に日本語翻訳版が出ています。

原題は翻訳版と同じ「The Brooklyn Follies」で、「Follies」は愚行という意味で、主人公が過去の行いで愚行だったと思えることを日記風にノートに書き綴っていることからきています。

ニューヨークを舞台とした小説は様々ありますが、その中でもローレンス・ブロックの小説が好きでよく読んでいますが、今後は機会があれば上記の「三部作」を読んでみたいと思っています。

今回の作品はタイトルからわかるように、ニューヨークが舞台で、保険会社をリタイアしたあと、余生をゆっくり過ごそうと、中心地のマンハッタンから少し離れたブルックリンに引っ越してきた初老の主人公が語るドラマです。

妻とは離婚していて、一人娘はすでに結婚していて、蓄えもあり、ひとり住まいの寂しさはあるものの、悠々自適の老後です。

娘との仲が悪くなり、悩んでいるときに、親戚の中では一番優秀で学者だった甥と偶然出会うところから一気に物語は思わぬ方向へと加速していきます。

主人公が語り手で、一方的な考え方やものの見方を強いられますが、ゲイやレズビアン、前科者、実家住まいの美人妻、突然親元から家出してきた喋らない幼い姪など、登場人物がそれぞれユニークで愛すべき人達ばかりです。

なんだかんだありますが、結局は自然と収まるところに収まり、ハッピーエンドと言えるほのぼのするドラマでした。

★★☆

著者別読書感想(ポール・オースター)

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ザ・ヒート(ハルキ文庫) 浜田文人

ザ・ヒート
1949年生まれの著者の作品は今回初めて読みました。元々、警察やヤクザなどをテーマにした作品やシリーズものが多い方です。

本書は、タイトル買いで、特に内容は気にしていませんでした。書き下ろし作品で、文庫の発行は2015年です。

主人公は、東京で表と裏の名簿屋としてビジネスをおこなっている関西出身の強面の男で、様々な思惑からヤクザと刑事に挟まれながら危機を脱していくハードボイルドテイストな作品でした。

作品の中では、主人公のビジネスの個人情報の取り扱いについては、現在でも頻繁に不正に流出したり、売買が普通に起きています。

匿名流動型犯罪などにも、個人情報がよく利用されていることから、そうした名簿売買のビジネスが今も実際に繁盛しているのでしょう。

ネットでなにかを買うときはもちろん、問い合わせをしたり、記事を読むためだけでも過剰に個人情報を入力しなければならない世の中はリスクがいっぱいです。嫌な世の中になってきたものですが、ほとんどの人は気にならないみたいです。

末端の犯罪者だけを捕まえても、数ある個人情報の流出元を取り締まらない限りいくらでも次々と犯罪に利用されていくのでしょう。

それが嫌なら、一切の入力を拒否し、ネットでは買わない、情報を入れないことに徹するしかありませんが、現代人としてそれも難しそうです。

そして一方では、なりすましを防ぐための、ログインセキュリティが厳しくなり、様々なサービスを使うときの手間が何重にも複雑化して不便になっていきます。

ユーザー側に面倒をかける認証だけを厳しくされても、元々のデータ管理はどうなんだ?と思いますが、どうしたものでしょうかね。

★★☆

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ノースライト(新潮文庫) 横山秀夫

ノースライト
2019年に単行本、2022年に文庫化された長編ミステリー小説です。

読み進めていく中で戦前にドイツから日本へ亡命してきたドイツ人建築家「ブルーノ・タウト」の話が出てきて、それにかすかな記憶があり「あれ、前に読んだっけ?」と頭をよぎりました。

それはこの小説を原作にしたテレビドラマをNHKが製作し、2020年に「土曜ドラマ」として2回に分けて放映していました。それを全部ではないものの、ドラマ内で出てきた「ブルーノ・タウトの椅子」を見た記憶が残っていて既視感が蘇ってきたということでした。

内容は、ミステリー仕立てで、主人公は、バブルが弾けた後、仕事が激減し、勤めていた会社を辞めて、現在は大学時代の友人が経営する小さな建築設計事務所に勤務している中年男性です。

仕事は一級建築士の資格をもった建築デザイナーで、1年前には降ってわいたような自由度の高い住宅デザインを任され、それが建築雑誌に掲載されるなどして評価を上げました。

その信濃追分に建てた住宅は、南向きの太陽の光を直接ではなく、北向きの大きなガラス窓から光を間接的に取り入れる変わった工夫がされているデザインで、それがタイトルにもなっている特徴的な「ノースライト」です。

太陽光が直接入ると読書に適さない図書館や、一定の室温や照度が必要な精密工場などではそうしたデザインがよく使われていますが、一般住宅では珍しいデザインです。

しかしその住宅を見学に行った顧客から「どうも誰も住んでいないようだ」と聞かされ、不審に思い家主に連絡を取りますがつながらず、「なにかとんでもないことが起きている?」と心配し、信濃追分まで出掛け、4ヶ月前に完成して家主に引き渡した住宅を見に行きます。

そして誰もいない空き家になっている住宅は鍵が壊されていて中に入ってみると、引っ越しをしてきた様子はなく、独特の作りの椅子だけがリビングに置いてあるのを発見します。

その椅子が、戦前ドイツから日本へ渡ってきて、建築や工業デザインなどを日本人技師に教えた世界的な建築家「ブルーノ・タウト」のデザインした椅子に似ているということがわかり、それを手がかりに行方がわからない家の注文主家族を探していくことになります。

登場人物はそう多くはなく、読みやすいですが、人捜しのプロではない建築デザイナーですから、いろいろと遠回りをしながら、また「ブルーノ・タウト」つながりで新聞社の記者などにも協力してもらいながら消えた一家を探していきます。

テレビドラマを見ていたので、途中で思い出してきて、大きな謎はすっかり解けましたが、細かなところまでは見てなかったので、面白く最後まで読めました。

★★☆

著者別読書感想(横山秀夫)

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