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リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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正体(光文社文庫) 染井為人
この小説を原作として、2022年に亀梨和也主演でテレビドラマ化(WOWOW)、2024年には藤井道人監督、横浜流星主演で映画化されています。
建築現場で働く日雇い労働者や、8年間も妻と離婚してくれると信じて不倫をしていた中年の独身女性、認知症高齢者のお世話をする介護福祉施設、悪徳新興宗教、痴漢えん罪で弁護士の仕事を失った男性など、社会の底辺や現代社会の問題を浮き彫りにした内容が盛り込まれています。それだけに変化があって映像化に向いている作品なのかも知れません。
第一章では、最後にまた出てくるグループホーム、第二章は、東京オリンピック直前でテニス競技場を作るため突貫工事で働く日雇い労働者、第三章では、ネット情報誌でフリーライターが書く原稿を編集する編集者、第四章では、菅平高原のスキー場ホテルでリゾートバイトをしているメンバー、第五章では新興宗教にはまった主婦、第六章と第七章では第一章のグループホームが舞台で、それぞれに語り手が代わっていきます。
赤ちゃんを含む一家殺人事件から始まるだけに、内容は重苦しく、読み進めるのが最初のうちは大変です。
しかし中盤ぐらいから、徐々に殺人犯とされていた人物に対する見方が徐々に変わっていくことになり、展開や読むスピードも上がっていきます。
小説での最後と映画の最後は違っているとのことでしたが、インパクトは断然こちらの小説にあるように思います。詳しくは書きませんが。
実際に一度死刑判決が確定しながら、再審で無罪が確定したケースは、免田事件(1983年無罪確定)、財田川事件(1984年無罪確定)、松山事件(1984年無罪確定)、島田事件(1989年無罪確定)、袴田事件(2024年無罪確定)があります。
いずれも、警察や検察の取り調べに問題があり、自白を強要されたり、証拠がねつ造されたりしたことが何年も後になってから明らかになりました。
再審の壁を高くしてきた検察官の抗告の権利をなんとしても残そうとする権力側の横暴を見ていてわかるように、ゆがんだプライドから99.9%の有罪率を誇る検察は、絶対に自分たちの間違いを認めたくない機関だけに、再審でえん罪を証明し無罪を勝ち取るのは相当にハードルが高そうです。
こうした「人(特に権力者)の判断は誤ることがある」という事実から、世界では実施が少数派となっている死刑制度の維持について日本でも考えなければいけない状態になっているように思います。
1年前にそのことを書いています。
◇死刑制度廃止と終身刑 2025/6/28(土)
★★★
◇著者別読書感想(染井為人)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
歴史と人生(幻冬舎新書) 半藤一利
著者は2021年に亡くなっているので、その3年前に総集編的なものを編集者から提案されてそれにのったというところでしょうか。想像ですが。
同じようなスタイルでは、浅田次郎氏の「僕は人生についてこんなふうに考えている」という作品がありましたが、著者自ら選んだわけではなさそうで、編集者の趣味趣向、それに商売気が表に立った選択ばかりでうんざりした記憶があります。
過去の著者から抜粋したものなので、過去に読んだ本と同じ内容も出てきますが、総集編と思えばそれも仕方ありません。
選ばれたテーマは、著者が得意とする江戸時代から昭和までの歴史について、和歌や俳句、著者の配偶者が夏目漱石の孫という縁から、夏目漱石の文学論、そして最後に「近ごろ思うこと、憂うこと」です。
太平洋戦争中はまだ子供だったとはいえ、戦中派の著者だけに、反戦感情は強く、昨今(2018年頃)の憲法改正問題や、防衛力増強については猛烈に批判しています。もし2026年の今、著者に話を聞けば、「戦争が出来る国」へと1強状態で政治が動きつつある状態をさらに憂慮されることでしょう。
★☆☆
◇著者別読書感想(半藤一利)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
祈りのカルテ 再会のセラピー(角川文庫) 知念実希人
短篇は「救急夜噺」「割れた鏡」「二十五年目の再会」の3篇とその間に幕間があります。
また、これらの作品を原作として、玉森裕太や池田エライザが出演するテレビドラマが2022年に放送されています。
主人公は、すでに大学付属病院で循環器内科医となっていますが、同僚や若手の研修医と飲みに行った際に、研修医時代の話しを聞かれます。
その内容がそれぞれ医療ミステリー仕立てとなっていて、その謎を解いていきます。
特に最後の「二十五年目の再会」は、緩和ケア科の研修中に、悪性中皮腫で余命幾ばくもない前科持ちの患者の主治医を命ぜられますが、なかなか話が込み入っていて感動ものです。タイトルから想像ができそうですが。
★★☆
◇著者別読書感想(知念実希人)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
犯人のいない殺人の夜(光文社文庫) 東野圭吾
収録作品は、「小さな故意の物語 」、「 闇の中の二人 」、「 踊り子 」、「 エンドレス・ナイト 」、「 白い凶器 」、「 さよならコーチ 」、「 犯人のいない殺人の夜」の7篇で、1985年から1988年までの、主に小説宝石や小説現代に掲載された短篇作品がまとめられています。
すでにミステリー界で不動の地位を築いている現在とは違い、まだ作家としては駆け出しの頃の作品と言うこともあり、内容ではやや無理なところがあちこちに見られますが、それがまた初期の頃の熱さが伝わってきてなかなか良いものです。
「小さな故意の物語」は他の複数の短篇集にも収録されている作品ですが、高校生が学校の屋上から謎の転落死をし、その幼なじみで親友だった高校生が、その謎を解いていくというストーリーで、意外な結末が用意されていました。
それぞれに、一筋縄ではいかないミステリーがうまくまとめられていて、「長編で長々読むのはタイパ悪くてしんどい!」って人にはお手軽に楽しめそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(東野圭吾)
【関連リンク】
5月後半の読書 70歳の正解、もしも俺たちが天使なら、あの日、パナマホテルで、終活の準備はお済みですか?
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1892
70歳の正解(幻冬舎新書) 和田秀樹
2022年に出版された新書です。とにかくこの著者の著書は数が多く、1980年の受験法ノウハウ本から始まり、最近多い精神学や高齢者向けの健康本、教育まで、20数年間で900冊を超えているそうです。恐るべきアウトプットの多さです。
本書は、私の年齢が70歳に近づき、日々なにに気をつけて暮らせば良いかな?と軽い気持ちで手に取りました。
特に認知症になるのは60代では2.5%なのに、80代になると約30%と12倍増えることから、その中間の70代が認知症予防には特に重要と言われています。
内容は、一般的によく言われていることが多いですが、中にはハッと気がつくことがいくつかあります。
例えば、「記憶力が落ちるのは、年のせいではなく、覚える気がないから」という記憶のメカニズムや、「考える前に、『なんとかなるだろう』とつぶやく」楽観的な思考法とか、「まず肉から食べる」食事習慣など、参考になります。それぞれの理由や詳しい説明は本文で読んでください
本書で触れられている高齢者がとるべき行動のアイデアでは、すでにやっていることもいくつかあります。例えば「ブログを書く」や「やることリストを作る(棺桶リスト)」、日課にしている「ウォーキング」など。
ただ、「仕事を続けること」や、「仕事を辞めて遊んで暮らすのはすぐ飽きる」というのには賛同できず、仕事を辞めてすでに5年が経ちますが、今まで一度たりとも、暇と思ったとこはなく、飽きたこともありません。それがあと30年続いても同じでしょう。
リタイア後に、どこかに再就職したりアルバイト、ボランティアをしようと考えたこともありません。
老後資金がやや心配ですが、いざとなれば住宅ローンが終わった自宅を売却するとか、リースバックなどの方法もあり、ストレスになるので考えないことにしました。
それに働いて人にあれこれ指示を受け使われてストレスにまみれるのはこりごりで、自分で起業する甲斐性も資金もありません。というか、趣味のことや読書、家事、DIY、終活などで、時間はいっぱいいっぱいで、他に使える隙間はほとんどありません。
したがって、読む人によって、使える箇所と、どうでも良い箇所が混在しますが、高齢になって生き続けるヒントにはなる良書だと思います。
★★☆
◇著者別読書感想(和田秀樹)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
もしも俺たちが天使なら(幻冬舎文庫) 伊岡瞬
タイトルは有名な映画「俺たちは天使じゃない」をもじっているようでえす。この映画はハンフリー・ボガート主演の1955年版と、リメイクされたロバート・デ・ニーロ主演の1989年版の2種類があり、少し内容が違っていますが、小説の元ネタになったのは1955年版のようです。
詐欺師の主人公は、渋谷の公園で偶然知り合った喧嘩がめっぽう強い若い男と、オヤジ狩りに巻き込まれそうだった元刑事と知り合うことになり、やがて若い男が中3の時に出奔した実家の山梨のブドウ農園へ入り込んだ謎の男を穏便に追い出すための協力を頼まれます。
しかしその実家を調べ始めると、いきなり何者かから反撃に遭い、そこから壮大な詐欺師の仕掛けが始まっていくという、コンゲームのような展開です。
こうした展開で、すぐに思い出すのは映画にもなった伊坂幸太郎著「陽気なギャングが地球を回す」(2003年)です。
いずれにしてもあまりリアリティはない現代ドラマですが、映像化するとそれなりに面白いエンタテイメントになりそうです。もし映像化する作品を探している人がいれば、まだ手つかずのようなのでこれがお勧めです。
★★☆
◇著者別読書感想(伊岡瞬)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
あの日、パナマホテルで(集英社文庫) ジェイミー・フォード
タイトル買いですが、最初は南米のパナマが舞台の小説だと思っていましたが、上記の通り、アメリカのシアトルが主な舞台です。
時代は1942年、中国人2世の主人公が小学生の頃で、日米で太平洋戦争が始まり、パールハーバー攻撃から日本軍の快進撃が続いていた時から終戦までと、主人公が初老に入った1986年とが交互に行ったり来たりします。
太平洋戦争が始まるまでは、シアトルには大きな日本人街があり、戦争が激化していくにつれ、日本人は敵性市民として財産を没収されて、離れた収容所にまとめて隔離されることになります。
そうした事態の中で、中国人2世の主人公は、白人が主体の小学校へ通っていますが、日本人と同じアジア人ということで悪ガキどもからひどい差別に遭いながらも、転校してきたアメリカ生まれでアメリカ国籍を持つ日本をルーツとする女子同級生と仲良くなります。
しかしやがて日本人は例えアメリカ国籍を持っていても家族ごと遠くの収容所へ送られることになり離ればなれとなります。
映画「愛と哀しみの旅路」(1991年公開)は、第二次世界大戦が始まり、ロサンゼルスに在住していた日系人2世の女性が、アメリカ人男性と恋仲となり、ロスでは異人種間の結婚が認められないからとシアトルへ家出同然の逃避行をしますが、やがて日系の女性だけ収容所へ送られるという悲劇が描かれていました。
先にその映画を見ていたので、日系人達の収容所送りについてのイメージがよくわかりました。
気になるのは物語の進み具合があまりにもゆっくりで、短気な人には我慢出来なそうなグダグダなところがありますが、逆に言えば登場人物の微妙な心の動きを行間の節々に散りばめられていて、ゆっくり落ち着いてまったりと読む小説として理解すべきでしょう。
もうイチローブームは過ぎ去り、観光でシアトルへ行く日本人はそう多くはないでしょうけど、この小説に登場する通りや場所などは概ね実在するものが多く、歴史を知る観光ガイドとしても使えそうです。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
終活の準備はお済みですか?(角川文庫) 桂望実
各話ごとにそれぞれ主人公が変わりますが、いずれの短篇に共通して登場する人物は、食品会社をリストラに遭い、離婚経験があり、娘を育てながら葬儀会社に再就職して新事業として始まった終活支援(サロン)の担当員で、様々な人が、人生や終活について学びにやってきます。
1話では55歳の独身女性、2話ではリタイアした68歳の既婚男性、3話は32歳のシングルマザー、4話はレストラン事業で成功し、妻は懐妊している中で、身体に癌が見つかった33歳のオーナーシェフ、そして最後の5話には共通してアドバイザーとして登場していた53歳の葬儀会社の男性です。
終活といえば、高齢者がおこなうものという既成概念が揺らぎます。特に独身者や重い病の人は、死後のことについてはキチンと整理して書き残しておくことが必要ということがわかります。
もちろん高齢者にとっては残された家族や親戚に向けて、自分の死後に望むことを書き残すことは重要です。
終活手帳といえば、死後のことだけを書き置くようなイメージですが、本書では、「自分史」を書き、人生を振り返りながら、これから残りの人生を見直すために活用することを勧めています。
さらに、このサロンでは、遺言書の作成には司法書士、老後資金にはファイナンシャルプランナー、その他、お墓の相談などを紹介し、それぞれの専門家の活用も勧めています。
それらの費用の話は出てきませんが、意外と終活には諸々費用がかかりそうです。
★★☆
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1891
もはや海外旅行は解禁された1960年代と同じく、ビジネス層と富裕層だけのものになってしまったのかも知れません。
そこで最近読んだ書籍(ノンフィクションや小説)の中から、海外が舞台で、ディープな旅感覚が味わえるものをいくつかピックアップしました。
本を読む楽しみのひとつに、主人公に感情移入することで、知らない土地や国の現地にいる気分になれるということがあります。しかも普通の観光ではまず行かないような場所へも入り込んでいけます。
今回は、できるだけ日本人にとっては馴染みが薄い地域を中心にして、小説などによく登場するアメリカやイギリスの大都市を舞台としたものは除きますが、ひとつお勧めとして、ニューヨークを知りたければローレンス・ブロックの「マット・スカダーシリーズ」、ロサンジェルスを知りたげれば、マイクル・コナリーの「ハリー・ボッシュシリーズ」「レネイ・バラードシリーズ」などを読めば、かなりディープなそれぞれの大都市を縦横無尽に体験できます。
まずはノンフィクション3作品ですが、美しいながら厳しい気候のアラスカが舞台の星野道夫著「旅をする木」と、内戦とテロが頻発するアフリカの最危険地帯とも言われているソマリアが舞台の高野秀行著「恋するソマリア」、そしてフォーサイスの自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」の中で多くを割いていたビアフラです。
感想は下のリンク先に書いています。
●アメリカ(アラスカ)
星野道夫著「旅をする木」
◇2014年12月前半の読書と感想、書評(旅をする木)
●ソマリア
高野秀行著「恋するソマリア」
◇2026年5月前半の読書と感想(恋するソマリア)
●ビアフラ共和国
フレデリック・フォーサイス著「アウトサイダー 陰謀の中の人生」
◇2024年3月後半の読書と感想、書評(アウトサイダー 陰謀の中の人生)
以下は小説です。その多くは日本人作家のものを除き、著者の出身地または長く居住していた地域を舞台としたもので、それゆえ、それぞれの街のディープな風景や世界観が味わえます。
●アイスランド
アーナルデュル・インドリダソン著「湿地」「緑衣の女」
◇2019年6月後半の読書と感想、書評(湿地)
◇2020年11月前半の読書と感想、書評(緑衣の女)
●アイルランド
石持浅海著「アイルランドの薔薇」
◇2022年6月後半の読書と感想、書評(アイルランドの薔薇)
クイーム・マクドネル著「平凡すぎて殺される」
◇2024年12月後半の読書と感想、書評(平凡すぎて殺される)
●ロシア・ノルウェー国境付近
グレーテ・ビョー著「メーデー 極北のクライシス」
◇2024年11月前半の読書と感想、書評(メーデー 極北のクライシス)
●オーストリア
ジョン・アーヴィング著「ホテル・ニューハンプシャー」
◇2023年2月前半の読書と感想、書評(ホテル・ニューハンプシャー)
●マルタ(共和国)
A.J.クィネル著「燃える男」
◇2025年1月後半の読書と感想、書評(燃える男)
●バチカン市国
ダン・ブラウン著「天使と悪魔」
感想なし
●イタリア/トルコ
ダン・ブラウン著「インフェルノ」
◇2017年12月後半の読書と感想、書評(インフェルノ)
●スペイン
伊集院静著「白い声」
◇2021年11月前半の読書と感想。書評(白い声)
ダン・ブラウン著「オリジン」
◇2021年6月前半の読書と感想、書評(オリジン)
●マリ/スペイン/ロシア/ブラジル
梓崎優著「叫びと祈り」
◇2023年1月後半の読書と感想、書評(叫びと祈り)
短篇集で、「砂漠を走る船の道」は西アフリカのマリ付近の砂漠地帯、「白い巨人」はスペインのラ・マンチャ地方、「凍れるルーシー」は南ロシア、「叫び」はブラジルのアマゾン流域がそれぞれ舞台となっています。
●ネパール
米澤穂信著「王とサーカス」
◇2022年6月後半の読書と感想、書評「王とサーカス」
●シリア
デイヴィッド・マクロスキー著「弔いのダマスカス」
◇2024年8月後半の読書と感想、書評(弔いのダマスカス)
●イラン
西加奈子著「サラバ」
◇2022年10月前半の読書と感想、書評(サラバ)
●インド
グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ著「シャンタラム」
◇2018年7月前半の読書と感想、書評(シャンタラム)
●フィジー
垣根涼介著「真夏の島に咲く花は」
◇2010年4月前半の読書(真夏の島に咲く花は)
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天に遊ぶ(新潮文庫) 吉村昭
それまで著者は長編小説か、原稿30枚程度の短篇が主で、このような短い原稿で人間の姿を描くことは初めてだったが、意外と楽しいことがわかったということです。
その作品のタイトルは、「鰭紙」、「同居」、「頭蓋骨」、「香奠袋」、「お妾さん」、「梅毒」、「西瓜」、「読経」、「サーベル」、「居間にて」、「刑事部屋」、「自殺」、「心中」、「鯉のぼり」、「芸術家」、「カフェー」、「鶴」、「紅葉」、「偽刑事」、「観覧車」、「聖歌」の21篇です。
それぞれに味わいがありますが、いくつかはエッセイ?と思うような、作家が主人公で、取材のために関係者や地方を訪れた時のエピソードもあれば、別のエッセイで使っていた「地方の飲み屋で刑事とよく間違えられる」という話や、子供の頃の思い出、青年時代に結核を患って療養していた時のことなどを書いたものなど、様々です。
いずれにしても超短篇だけにテンポが良く、登場人物も限られわかりやすいので、ちょっとした暇つぶしや気分転換で読むのに適していそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(吉村昭)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち(新潮文庫) 石井光太
取り上げられた事件は、
・厚木市幼児餓死白骨化事件(2014年発覚)
・下田市嬰児連続殺害事件(2014年発覚)
・足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件(2013年発覚)
の3件で、本書のタイトルになっている通り、親がまだ自己防衛もできない自分の幼児や嬰児を殺すという、殺人の中でももっともむごたらしく悲惨な事件です。
その事件の中には親世代から続く貧困の連鎖や、加害者の身勝手さ、加害者と親の不和、社会福祉制度の至らなさなど、様々な問題が内包されていて、現代の子育てにまつわる社会問題の縮図ともいえます。
こうした事件が起き、同時期に、NHKでも特集番組が組まれていました。
NHKスペシャル 調査報告 “消えた”子どもたち(NHK)
| 虐待や貧困などのために学校などに通えず、社会とのつながりを絶たれた“消えた”子ども。神奈川県厚木市で、誰にも気づかれないまま男児が白骨化した遺体で発見されるなど事件が相次いでいる。独自アンケートと追跡取材によって、“消えた”子どもの実態に迫り、子どもたちの命を守るために何が必要か考える。 |
このノンフィクションで取り上げられた3つの事件を読む限り、加害者に共通するのは、親との不和や子供の時に親から無視され放任されていたことで、加害者の性格にゆがみが生じ、さらに金銭感覚が極めてルーズ、避妊は相手任せで、結局は本来なら産んではいけない子供を産み、その結果、邪魔になって放置し、殺してしまうということでしょう。
事件としては直接手を下した(あるいは育児放置した)若い親に刑事罰が与えられますが、本書では、表向きにはその罪が一切問われることがない加害者の親に、実はモンスターを生み出した根源的な問題と責任があるのではないかと結論づけています。
それにしても、以前読んだ同じ著者の「43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層」と同様、後味が悪い、嫌ミスと似たような読後感です。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
秘められた伝言(上)(下)(講談社文庫) ロバート・ゴダード
ロンドンから200kmほど離れたサマセットの田舎に住んでいた無職の独身男に、ロンドンの船会社で働いている幼なじみが行方不明になったと家族から知らされ、頼まれてロンドンへ出向き、その行方を捜すことになります。
船会社だけに、勤務地や出張先が方々にあり、主人公はドイツのベルリン、日本の東京と京都、神戸、そしてアメリカのサンフランシスコと親友の残した足跡をたどっていきます。もし映画でも制作されたら、ちょっとしたロードムービーで、面白そうです。
行方不明の親友は、ある陰謀に巻き込まれていることが徐々に判明していきますが、決して主人公が思っていた清廉潔白な人物ではないことなどがわかってきます。
そして、自分が行方不明になった場合の保険として、その親友がきっと追いかけて謎解きをしてくれるだろうという様々な仕掛けが施されていることに気がつきます。
主人公を簡単に殺すわけには行かないので、そうした謎を解くためのキーマンとして生かされるという、うまいやり方ですが、周囲の人間が次々と殺されていくのに対し、主人公だけはうまく生き延びていくという、あまり都合良すぎという印象もあります。
長編ですが、ジェットコースターのように次々とピンチとチャンスが訪れて、あっという間に読み終えられます。
★★☆
◇著者別読書感想(ロバート・ゴダード)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
恋するソマリア(集英社文庫) 高野秀行
著者の作品は今回初めて読みますが、早稲田大学在学中には探検部に所属し、その時に経験した冒険譚を書いた「幻獣ムベンベを追え」を出版し、それが実質的なデビュー作となります。
著者が向かう探検先は、もちろん先進国や有名観光地ではなく、アジアの奥地や南米、中近東、アフリカなど、日本人にはあまり馴染みがない場所の紀行や体験談が多いです。
本著は、タイトルでわかるように、アフリカの角(つの)と呼ばれている日本人にとってはもっとも縁遠いと思われる国ソマリアを舞台としたノンフィクションです。
このソマリアという国、平和が長く続いている日本人にはまったく理解しがたいほど、同じ民族でありながら氏族間の紛争や宗教上、利権、政治権力の問題で起きる内戦が長く続いていています。
問題の根は深くてややこしく、正式には2012年からとりあえず統一された形で「ソマリア連邦共和国」ができましたが、その北部地域には同じソマリ人ながら、違う氏族が中心となり、1991年に独自に作ったソマリランドというその連邦には加わらない自主的な国家のような未承認国家が存続しています。
連邦共和国の首都は南部のモガディシュにありますが、治安維持が独自では行えず、アフリカ連合の兵士(つまり他国の軍隊)が駐留し治安維持にあたっていて、近年でも反政府勢力との内戦が続いているという状態で、日本の外務省からは危険レベル4の退避勧告、渡航自粛が出ています。
日本との関係でまれにニュースとなるのは、ソマリア沖で海賊行為が頻発したために、海上自衛隊が2009年から現在まで哨戒活動に従事していることがあります。ただしそれは公海上の哨戒であって海賊が拠点としているソマリアに対しては日本を含め国際機関はノータッチです。
そのようなソマリアへ著者はジャーナリストとして、また現地のケーブルテレビのアジア総局長として何度も訪問し、その模様を詳細にレポートしています。ソマリア語の日常語をかろうじてしゃべれる日本人はおそらくこの著者だけだと思われています。
遠い日本ではほとんど誰も知らないその文化や、言葉、食事、庶民の生活など、外国人、しかもジャーナリストだと、身代金目的の誘拐や殺害がよくある地域で、武装した護衛の兵士などを雇い、飛び込んでいく姿はまさに冒険譚です。
★★☆
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1887
震える天秤(角川文庫) 染井為人
生活保護受給に群がる様々な群像を描いた著者の2017年の小説「悪い夏」を読んで、この著者は社会派ミステリーが得意?ということで、他も読んでみることにしました。
社会派小説は、自分の身近にありながら、ほとんど知らないことが多く、そうしたテーマが割と好きです。
今回は上記に書いたように、地方(福井県)で起きた高齢者の暴走事故で、そうしたよくある社会問題を取り上げようと、雑誌社から依頼を受けて東京から福井までベスパに乗って取材に行くフリーライターが主人公です。ベスパに乗る主人公っていうのも、探偵物語を意識したのでしょうか。
当初は、単なるブレーキとアクセルの踏み間違いでコンビニへ突っ込み、そこの店長が死亡したものと思われていましたが、取材を進めていく中で、様々な疑問と疑惑が湧き出してきます。
そうした地方の高齢化と認知症ドライバーの問題以外にも、コンビニのFC経営者(遺族)と、コンビニ本社との問題、地方の限界集落や、そうした集落内のみんなが顔見知りの共存共生する仕組みなど、様々な社会問題が出てきます。
最後にはそこで起きた事故の真相が語られますが、それを表沙汰にするかどうかは主人公に委ねられてしまいます。
ま、真っ当な終わり方だと思いますが、スクープライターや敏腕ジャーナリストとしての未来はなさそうです。
★★☆
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∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
それでも読書はやめられない 本読みの極意は「守・破・離」にあり(NHK出版新書) 勢古浩爾
2006年に勤めていた会社を定年で退職し、その後はコンスタントに年2~4冊の本を出版されています。現役時代より忙しいんじゃないかな。
読書の数も半端ない数で、過去には「定年後に読みたい文庫100冊」(2015年)というお勧め書籍の紹介本も出版されています。
読書好きになったきっかけや、いきなり難しい哲学書などに興味を持ち、しかもそれらの多くは難しくて完読できずにいたなど、興味深い話が満載です。
読書が好きと言ってもどんな本でも軽々と楽しく読むという感じではなく、そのあたりは共感を覚えます。
読書家のそうした話を読むと、「あぁ過去に断念した難しい本がいくつもあったのは凡人の自分なら仕方がないことだったのか」と、意図はしていないでしょうけど妙に励まされます。
さらに読書批評家や評論家達の、「あーしろ、こーしろ」という勝手な読書法について、かなり辛口に批判しているのも胸がすきます。
要は、書籍は「おもしろいから読む」でいいのだと。そしてその「面白さ」や「有意義さ」は個人によってまちまちだから、「これぐらいは読まないとダメ」のような決めつけた書籍紹介は断固として受け入れません。
また年齢により読書がどう変わるかという経験を「春夏秋冬」やサブタイトルにありますが「守・破・離」で、うまく分類されています。
そういう解釈では、私も定年が過ぎ、「あとはもう好きな小説だけを好んで読めばいいのか」という気持ちになってきます。
個人的には哲学の書籍はほとんど読まない(読んでこなかった)ので、違いはありますが、小説ではかなり一致した趣向があり、嬉しくなります。
私自身は、できるだけジャンルを決めず、ビジネス書から国内外の小説、健康などのハウツー本まで意図して混ぜながら読む工夫をしていますが、著者は最近(と言っても発刊は6年前)はもっぱら時代小説に凝っているようです。
★★☆
◇著者別読書感想(勢古浩爾)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
屍泥棒(新潮文庫) ブライアン・フリーマントル
珍しいことに1996年にまず最初に日本(語)で出版された連作短篇集で、その後シリーズ化されることになる「ユーロポール心理分析官クローディーン・カーターシリーズ」の第1作目です。
連作短篇集なので、その短篇ごとに主人公の所属や役割、チームメンバーなどをいちいち説明する面倒なことになりますが、これはよく月刊誌などに連載するときに起きる現象と思っていたら、やはり1996~1997年に月刊小説誌の小説新潮に読み切り短篇として掲載されていたそうです。
全部で12話が収録されていてそれぞれのタイトルは、「最後の被害者」、「屍泥棒」、「猟奇殺人」、「天国への切符」、「ロシアン・ルーレット」、「神と呼ばれた男」、「甦る切り裂きジャック」、「モルモット」、「秘宝」、「誘拐」、「裁かれる者」、「人肉食い」です。
いずれもひと癖も二癖もある犯罪で、EUがアメリカのFBIをモデルに共同で設立した実在するユーロポールに所属する分析官が活躍します。
しかし個人的には、小説や映画などでよく出てくる「天才ハッカー」という存在は、マジシャンのように政府でも金融機関でもどこへでも都合良く不正アクセスができて、都合良く他人の秘密を暴けるドラマでは安易な手法ですが、それはあまりにも現実的ではないので、そういう内容は好きではありません。
そういう「天才ハッカー」が薄給の公務員として重要なチームメンバーになっているのが笑えます。
逆に言えば、そういう全能の神みたいなメンバーが部下として近くにいないと、主人公のプロファイリングも成り立たないということなのかも知れません。
★★☆
◇著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
宿屋めぐり(講談社文庫) 町田康
一般的な文庫本の3倍ぐらいの分量(川端康成著「雪国」は224ページ)なので、一冊で長い間楽しめますが、寝転がって読むため、文庫としては重量級で多少腕が疲れてしまいます。
さらに中身は町田ワールド全開で、私の場合は先に「パンク侍、斬られて候」や「告白」などを読んで免疫ができていていて、さほど違和感を感じませんが、もし初めて読む著者の小説がこれだと「なんじゃーこりゃ!」となるのは必至です。でも野間文芸賞ですから、公には純文学の範疇です。
例えば、草鞋を履いて袷(あわせ)の服をきて徒歩で旅に出ていることから、小説の時代背景は、たぶん江戸時代と思われますが、時代考証など関係なく、お金の単位が万とか億とか、ロイ・ブキャナン、ウタダヒカル、ダーリンダーリン、メルセデスベンツ、ヒットラーの髪型、イオン交換膜などなんだかよくわからない話がいくつも登場します。
主人公は、落ちぶれていた時に身を救ってくれた主(あるじ)の命を受け、権現様(金毘羅大権現がモチーフっぽい)へ大太刀を奉納するため旅をする物語ですが、序盤でいきなり湖から出てきたよくわからない何物かに巻き込まれて別の世界へ移ってしまいます。
そのようなパラレルワールドの世界を旅することこそ純文学ではあるまいか、アルマイト(その謎は文庫本文378ページ参照)
それにしても、一人称でずっと主人公が語る、長い長い苦難が連続する権現様への旅の模様は読んでいて飽きません。
そして最後にはかなり痛々しい拷問風景や、もはやここまでというクライマックス、そして恐ろしい主の謎などが徐々に明らかになっていきます。
★★☆
◇著者別読書感想(町田康)
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