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リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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霧(ウラル)(小学館文庫) 桜木紫乃
小説に出てくる根室や、野付半島は、終戦間際にソ連軍に攻撃され奪われた国後島と10数キロという近さで、戦後にはそこに住んでいた日本人が多く逃れてきて住んでいるという事情があります。
また百田尚樹著「錨を上げよ 第3巻 漂流篇」で読みましたが、ソ連の警備艇に追われながら根室から近い歯舞群島の貝殻島周辺へウニの密漁に出掛ける港として裏の漁業が盛んでした。、
そうした根室の街で生まれて育った3姉妹の物語ですが、真ん中の次女が主人公で、国後島から逃げてきた男性と芸者時代に知り合い、やがて結婚することになります。
その結婚相手の男性は、国後島から逃げ出すときに家族を全部失い、漁業のボスに拾われ、ボスの身代わりで賭博場の責任者として刑に服しますが、出所後には独立し、土木工事を兼ねる裏組織の組長として根室で力を付けていきます。
3姉妹の長女は政略結婚で、やがて国政に出ようとしている根室の運送業業者の長男と結婚し、そして3女も政略結婚で、地元根室で金融を支配している次男と婚約することになります。
そうした3姉妹の様々な事情や思惑がこの小説の醍醐味で、内容は全然違いますが、40年ぐらい前に読んだ谷崎潤一郎の「細雪」の4姉妹をふと思い出しました。
昭和の時代、しかもこうした地方では、まだまだ親が決めた結婚というのは当たり前にありましたが、主人公の次女だけは、中学校を卒業した後、自分の意志で家を飛び出し、芸者の修行をするという独立心が旺盛で自我の強い女性です。
著者の小説はいくつか読んできましたが、こうした時代がかった愛憎の小説は初めてで、新たな発見でした。
★★★
◇著者別読書感想(桜木紫乃)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
流出(上)(下)(新潮文庫) フリーマントル
本著はその「チャーリー・マフィンシリーズ」の第11作目で、原題は「Charlie's Chance」、1996年(日本語版は1999年刊)に出版されています。
このシリーズは過去に3作を読んでいますが、比較的新しい作品で、過去に遡って読んでいるという感じになっています。
本当なら、作品をまたがって登場する人物との関係性から最初から順番に読む方が正しい読み方ですが、たまたま手に取った順で読んできたので仕方がありません。
その「チャーリー・マフィンシリーズ」は下表のようになっています。著者は2年前に亡くなっているので、誰かが権利者の許可を取って続編を書かない限り、もう続きはありません。
| チャーリー・マフィンシリーズ | 読後感想 | |||
| 01 | 消されかけた男 | Charlie Muffin | 1977年 | |
| 02 | 再び消されかけた男 | Clap Hands,Here Comes Charlie | 1978年 | |
| 03 | 呼びだされた男 | The Inscrutable Charlie Muffin | 1979年 | |
| 04 | 罠にかけられた男 | Charlie Muffin's Uncle Sam | 1980年 | |
| 05 | 追いつめられた男 | Madrigal for Charlie Muffin | 1981年 | |
| 06 | 亡命者はモスクワをめざす | Charlie Muffin and Russian Rose | 1985年 | |
| 07 | 暗殺者を愛した女 | Charlie Muffin San | 1987年 | |
| 08 | 狙撃 | The Run Around | 1988年 | |
| 09 | 未訳 | Comrade Charlie | 1989年 | |
| 10 | 報復 上・下 | Charlie's Apprentice | 1993年 | |
| 11 | 流出 | Charlie's Chance | 1996年 | 2026/7/4 |
| 12 | 待たれていた男 上・下 | Dead Men Living | 2000年 | |
| 13 | 城壁に手をかけた男 | King of Many Castles | 2002年 | |
| 14 | 片腕をなくした男 上・下 | RED STAR RISING | 2008年 | 2025/11/15 |
| 15 | 顔をなくした男 上・下 | RED STAR Eclipse | 2009年 | 2024/10/5 |
| 16 | 魂をなくした男 上・下 | RED STAR FALLIN | 2013年 | 2025/7/5 |
主人公のチャーリー・マフィンは、ジェームズ・ボンドと違い、小男で風采が上がらず、足を悪くしているので走れず、靴は履き古したハッシュパピーしかダメという対照的な主人公が魅力です。
今回の舞台は、冷戦後のソ連が崩壊し、失業した軍人やKGB職員、核開発技師などが世界中に流出し、核兵器の原料がロシアンマフィアの手によって国外に流出する危険が迫っていることから、アメリカからはFBIが、英国からはMI5の主人公がロシアに渡り、協力して核の流出を防ぐため、対マフィア戦を繰り広げることになります。
それにしてもロシアの社会全体の腐敗やアメリカのFBI、英国のMI5のそれぞれの権力闘争など、これでもかというほど醜い国際関係が出てきます。
主人公は、そうした動きにくい中で、英国やアメリカ、ロシアを説得して、やがて自分自身がマフィアの中へ飛び込んで囮捜査を提案しますが、、、
少し時代は古い国際陰謀小説になり、今読むとやや古ぼけた感じもしますが、ドキドキハラハラは相変わらずで、楽しめました。
しかし英、米、露、独、伊など、それぞれの国の登場人物が多いのと、さらにロシア人名の名前が難しく(覚えられず)、誰が誰だった?と思い出しながら読むのが大変でした。
★★☆
◇著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
神の時空 鎌倉の地龍(講談社文庫) 高田崇史
そのシリーズ第1作目のこの小説は、2014年に単行本、2017年に文庫化されています。
主人公というか語り部は、少しネタバレになってしまいますが、7年前に事故で亡くなっている歴史好きな青年で、いわゆる妖怪の「ぬりかべ」となっています。
この普通の人には見えない主人公と、代々シャーマン的な能力を持つ家族とが、過去の怨念を解き放ち混乱させようとする勢力に対抗しようとします。
その家族の一員で次女の女子高生が、突然襲われて危篤状態になります。それは、鎌倉時代に殺された武人達の封じられた怨念を解き放とうとする妖怪に気がついて後を付けたことから始まります。
修善寺で謀略により暗殺されその地に封じられた源範頼や源頼家の怨霊を謎の集団が解き放ち、続いて鶴ヶ丘八幡宮の一の鳥居、二の鳥居を次々と倒壊させ、最後の三の鳥居が壊されると、鎌倉幕府を打ち立てた源頼朝の怨霊まで解き放つこととなります。
それを阻止するため、主人公とシャーマン家系の家族が、どうして頼朝が怨霊になってしまったかなど、歴史の暗部を推測していきます。
2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、その源頼朝を将軍まで押し立てた北条一族、義時や、その父親の時政、姉の北条政子をメインにした面白いドラマでしたが、似たような名前が多く人間関係にやや混乱することがありました。
それを見る前に、この小説を読んでおけば、その人間関係や思惑、権力闘争の暗部など、さらに面白く見られたのになと思いました。
★★☆
◇著者別読書感想(高田崇史)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
極楽カンパニー(集英社文庫) 原宏一
本著はメジャーデビューから3作目となり、1998年に単行本、2009年に文庫化されています。この著者の作品を読むのは初めてです。
内容は、サラリーマンを定年退職し、毎日やることがなく、図書館で時間をつぶしていると、同じ境遇の男性と話が合い、「会社員の様式美」を再度経験するため、フェイクの疑似会社を作り、そこへ毎日出社し、擬似的な取引をおこなうことになります。
同じく定年退職後に暇を持て余していた同輩が次々と集まり、やがては支店や各都市ごとに疑似会社がが作られていくブームに発展していきます。
ちょっとフェイクの会社で取引をするというイメージがわきにくいですが、そこは、ま、小説なので。
そしてその疑似会社の社長の息子が、独立しようと勤めていた商社を辞め、そのフェイク会社をベースに起業を目論みますが、、、
この小説が書かれたのが、1998年以前なので、まだ超高齢化社会には至ってなく、団塊世代はまだ現役で働いている頃です。
したがって、高齢化社会という点ではまだあまり緊迫した社会状況ではありませんが、戦後から猛烈に働き、高度成長時代に企業の中枢部にいた団塊世代より少し前の世代にとっては共感を覚えるのかも知れません。
しかしその世代というのは、一般的には、退職金をがっぽりもらい、年金も60才からフルに支給されていて、今からすれば中年以降はずっと恵まれてきた世代で、引退後は好きなことをなんでも出来そうです。
それだけに、団塊世代の次のしらけ世代の私にとっては、面白く読めるというより、残念ながら嫉妬が混じった古びた歴史物語というイメージしかわきません。
★☆☆
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正体(光文社文庫) 染井為人
この小説を原作として、2022年に亀梨和也主演でテレビドラマ化(WOWOW)、2024年には藤井道人監督、横浜流星主演で映画化されています。
建築現場で働く日雇い労働者や、8年間も妻と離婚してくれると信じて不倫をしていた中年の独身女性、認知症高齢者のお世話をする介護福祉施設、悪徳新興宗教、痴漢えん罪で弁護士の仕事を失った男性など、社会の底辺や現代社会の問題を浮き彫りにした内容が盛り込まれています。それだけに変化があって映像化に向いている作品なのかも知れません。
第一章では、最後にまた出てくるグループホーム、第二章は、東京オリンピック直前でテニス競技場を作るため突貫工事で働く日雇い労働者、第三章では、ネット情報誌でフリーライターが書く原稿を編集する編集者、第四章では、菅平高原のスキー場ホテルでリゾートバイトをしているメンバー、第五章では新興宗教にはまった主婦、第六章と第七章では第一章のグループホームが舞台で、それぞれに語り手が代わっていきます。
赤ちゃんを含む一家殺人事件から始まるだけに、内容は重苦しく、読み進めるのが最初のうちは大変です。
しかし中盤ぐらいから、徐々に殺人犯とされていた人物に対する見方が徐々に変わっていくことになり、展開や読むスピードも上がっていきます。
小説での最後と映画の最後は違っているとのことでしたが、インパクトは断然こちらの小説にあるように思います。詳しくは書きませんが。
実際に一度死刑判決が確定しながら、再審で無罪が確定したケースは、免田事件(1983年無罪確定)、財田川事件(1984年無罪確定)、松山事件(1984年無罪確定)、島田事件(1989年無罪確定)、袴田事件(2024年無罪確定)があります。
いずれも、警察や検察の取り調べに問題があり、自白を強要されたり、証拠がねつ造されたりしたことが何年も後になってから明らかになりました。
再審の壁を高くしてきた検察官の抗告の権利をなんとしても残そうとする権力側の横暴を見ていてわかるように、ゆがんだプライドから99.9%の有罪率を誇る検察は、絶対に自分たちの間違いを認めたくない機関だけに、再審でえん罪を証明し無罪を勝ち取るのは相当にハードルが高そうです。
こうした「人(特に権力者)の判断は誤ることがある」という事実から、世界では実施が少数派となっている死刑制度の維持について日本でも考えなければいけない状態になっているように思います。
1年前にそのことを書いています。
◇死刑制度廃止と終身刑 2025/6/28(土)
★★★
◇著者別読書感想(染井為人)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
歴史と人生(幻冬舎新書) 半藤一利
著者は2021年に亡くなっているので、その3年前に総集編的なものを編集者から提案されてそれにのったというところでしょうか。想像ですが。
同じようなスタイルでは、浅田次郎氏の「僕は人生についてこんなふうに考えている」という作品がありましたが、著者自ら選んだわけではなさそうで、編集者の趣味趣向、それに商売気が表に立った選択ばかりでうんざりした記憶があります。
過去の著者から抜粋したものなので、過去に読んだ本と同じ内容も出てきますが、総集編と思えばそれも仕方ありません。
選ばれたテーマは、著者が得意とする江戸時代から昭和までの歴史について、和歌や俳句、著者の配偶者が夏目漱石の孫という縁から、夏目漱石の文学論、そして最後に「近ごろ思うこと、憂うこと」です。
太平洋戦争中はまだ子供だったとはいえ、戦中派の著者だけに、反戦感情は強く、昨今(2018年頃)の憲法改正問題や、防衛力増強については猛烈に批判しています。もし2026年の今、著者に話を聞けば、「戦争が出来る国」へと1強状態で政治が動きつつある状態をさらに憂慮されることでしょう。
★☆☆
◇著者別読書感想(半藤一利)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
祈りのカルテ 再会のセラピー(角川文庫) 知念実希人
短篇は「救急夜噺」「割れた鏡」「二十五年目の再会」の3篇とその間に幕間があります。
また、これらの作品を原作として、玉森裕太や池田エライザが出演するテレビドラマが2022年に放送されています。
主人公は、すでに大学付属病院で循環器内科医となっていますが、同僚や若手の研修医と飲みに行った際に、研修医時代の話しを聞かれます。
その内容がそれぞれ医療ミステリー仕立てとなっていて、その謎を解いていきます。
特に最後の「二十五年目の再会」は、緩和ケア科の研修中に、悪性中皮腫で余命幾ばくもない前科持ちの患者の主治医を命ぜられますが、なかなか話が込み入っていて感動ものです。タイトルから想像ができそうですが。
★★☆
◇著者別読書感想(知念実希人)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
犯人のいない殺人の夜(光文社文庫) 東野圭吾
収録作品は、「小さな故意の物語 」、「 闇の中の二人 」、「 踊り子 」、「 エンドレス・ナイト 」、「 白い凶器 」、「 さよならコーチ 」、「 犯人のいない殺人の夜」の7篇で、1985年から1988年までの、主に小説宝石や小説現代に掲載された短篇作品がまとめられています。
すでにミステリー界で不動の地位を築いている現在とは違い、まだ作家としては駆け出しの頃の作品と言うこともあり、内容ではやや無理なところがあちこちに見られますが、それがまた初期の頃の熱さが伝わってきてなかなか良いものです。
「小さな故意の物語」は他の複数の短篇集にも収録されている作品ですが、高校生が学校の屋上から謎の転落死をし、その幼なじみで親友だった高校生が、その謎を解いていくというストーリーで、意外な結末が用意されていました。
それぞれに、一筋縄ではいかないミステリーがうまくまとめられていて、「長編で長々読むのはタイパ悪くてしんどい!」って人にはお手軽に楽しめそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(東野圭吾)
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5月後半の読書 70歳の正解、もしも俺たちが天使なら、あの日、パナマホテルで、終活の準備はお済みですか?
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1892
70歳の正解(幻冬舎新書) 和田秀樹
2022年に出版された新書です。とにかくこの著者の著書は数が多く、1980年の受験法ノウハウ本から始まり、最近多い精神学や高齢者向けの健康本、教育まで、20数年間で900冊を超えているそうです。恐るべきアウトプットの多さです。
本書は、私の年齢が70歳に近づき、日々なにに気をつけて暮らせば良いかな?と軽い気持ちで手に取りました。
特に認知症になるのは60代では2.5%なのに、80代になると約30%と12倍増えることから、その中間の70代が認知症予防には特に重要と言われています。
内容は、一般的によく言われていることが多いですが、中にはハッと気がつくことがいくつかあります。
例えば、「記憶力が落ちるのは、年のせいではなく、覚える気がないから」という記憶のメカニズムや、「考える前に、『なんとかなるだろう』とつぶやく」楽観的な思考法とか、「まず肉から食べる」食事習慣など、参考になります。それぞれの理由や詳しい説明は本文で読んでください
本書で触れられている高齢者がとるべき行動のアイデアでは、すでにやっていることもいくつかあります。例えば「ブログを書く」や「やることリストを作る(棺桶リスト)」、日課にしている「ウォーキング」など。
ただ、「仕事を続けること」や、「仕事を辞めて遊んで暮らすのはすぐ飽きる」というのには賛同できず、仕事を辞めてすでに5年が経ちますが、今まで一度たりとも、暇と思ったとこはなく、飽きたこともありません。それがあと30年続いても同じでしょう。
リタイア後に、どこかに再就職したりアルバイト、ボランティアをしようと考えたこともありません。
老後資金がやや心配ですが、いざとなれば住宅ローンが終わった自宅を売却するとか、リースバックなどの方法もあり、ストレスになるので考えないことにしました。
それに働いて人にあれこれ指示を受け使われてストレスにまみれるのはこりごりで、自分で起業する甲斐性も資金もありません。というか、趣味のことや読書、家事、DIY、終活などで、時間はいっぱいいっぱいで、他に使える隙間はほとんどありません。
したがって、読む人によって、使える箇所と、どうでも良い箇所が混在しますが、高齢になって生き続けるヒントにはなる良書だと思います。
★★☆
◇著者別読書感想(和田秀樹)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
もしも俺たちが天使なら(幻冬舎文庫) 伊岡瞬
タイトルは有名な映画「俺たちは天使じゃない」をもじっているようでえす。この映画はハンフリー・ボガート主演の1955年版と、リメイクされたロバート・デ・ニーロ主演の1989年版の2種類があり、少し内容が違っていますが、小説の元ネタになったのは1955年版のようです。
詐欺師の主人公は、渋谷の公園で偶然知り合った喧嘩がめっぽう強い若い男と、オヤジ狩りに巻き込まれそうだった元刑事と知り合うことになり、やがて若い男が中3の時に出奔した実家の山梨のブドウ農園へ入り込んだ謎の男を穏便に追い出すための協力を頼まれます。
しかしその実家を調べ始めると、いきなり何者かから反撃に遭い、そこから壮大な詐欺師の仕掛けが始まっていくという、コンゲームのような展開です。
こうした展開で、すぐに思い出すのは映画にもなった伊坂幸太郎著「陽気なギャングが地球を回す」(2003年)です。
いずれにしてもあまりリアリティはない現代ドラマですが、映像化するとそれなりに面白いエンタテイメントになりそうです。もし映像化する作品を探している人がいれば、まだ手つかずのようなのでこれがお勧めです。
★★☆
◇著者別読書感想(伊岡瞬)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
あの日、パナマホテルで(集英社文庫) ジェイミー・フォード
タイトル買いですが、最初は南米のパナマが舞台の小説だと思っていましたが、上記の通り、アメリカのシアトルが主な舞台です。
時代は1942年、中国人2世の主人公が小学生の頃で、日米で太平洋戦争が始まり、パールハーバー攻撃から日本軍の快進撃が続いていた時から終戦までと、主人公が初老に入った1986年とが交互に行ったり来たりします。
太平洋戦争が始まるまでは、シアトルには大きな日本人街があり、戦争が激化していくにつれ、日本人は敵性市民として財産を没収されて、離れた収容所にまとめて隔離されることになります。
そうした事態の中で、中国人2世の主人公は、白人が主体の小学校へ通っていますが、日本人と同じアジア人ということで悪ガキどもからひどい差別に遭いながらも、転校してきたアメリカ生まれでアメリカ国籍を持つ日本をルーツとする女子同級生と仲良くなります。
しかしやがて日本人は例えアメリカ国籍を持っていても家族ごと遠くの収容所へ送られることになり離ればなれとなります。
映画「愛と哀しみの旅路」(1991年公開)は、第二次世界大戦が始まり、ロサンゼルスに在住していた日系人2世の女性が、アメリカ人男性と恋仲となり、ロスでは異人種間の結婚が認められないからとシアトルへ家出同然の逃避行をしますが、やがて日系の女性だけ収容所へ送られるという悲劇が描かれていました。
先にその映画を見ていたので、日系人達の収容所送りについてのイメージがよくわかりました。
気になるのは物語の進み具合があまりにもゆっくりで、短気な人には我慢出来なそうなグダグダなところがありますが、逆に言えば登場人物の微妙な心の動きを行間の節々に散りばめられていて、ゆっくり落ち着いてまったりと読む小説として理解すべきでしょう。
もうイチローブームは過ぎ去り、観光でシアトルへ行く日本人はそう多くはないでしょうけど、この小説に登場する通りや場所などは概ね実在するものが多く、歴史を知る観光ガイドとしても使えそうです。
★★★
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
終活の準備はお済みですか?(角川文庫) 桂望実
各話ごとにそれぞれ主人公が変わりますが、いずれの短篇に共通して登場する人物は、食品会社をリストラに遭い、離婚経験があり、娘を育てながら葬儀会社に再就職して新事業として始まった終活支援(サロン)の担当員で、様々な人が、人生や終活について学びにやってきます。
1話では55歳の独身女性、2話ではリタイアした68歳の既婚男性、3話は32歳のシングルマザー、4話はレストラン事業で成功し、妻は懐妊している中で、身体に癌が見つかった33歳のオーナーシェフ、そして最後の5話には共通してアドバイザーとして登場していた53歳の葬儀会社の男性です。
終活といえば、高齢者がおこなうものという既成概念が揺らぎます。特に独身者や重い病の人は、死後のことについてはキチンと整理して書き残しておくことが必要ということがわかります。
もちろん高齢者にとっては残された家族や親戚に向けて、自分の死後に望むことを書き残すことは重要です。
終活手帳といえば、死後のことだけを書き置くようなイメージですが、本書では、「自分史」を書き、人生を振り返りながら、これから残りの人生を見直すために活用することを勧めています。
さらに、このサロンでは、遺言書の作成には司法書士、老後資金にはファイナンシャルプランナー、その他、お墓の相談などを紹介し、それぞれの専門家の活用も勧めています。
それらの費用の話は出てきませんが、意外と終活には諸々費用がかかりそうです。
★★☆
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1891
もはや海外旅行は解禁された1960年代と同じく、ビジネス層と富裕層だけのものになってしまったのかも知れません。
そこで最近読んだ書籍(ノンフィクションや小説)の中から、海外が舞台で、ディープな旅感覚が味わえるものをいくつかピックアップしました。
本を読む楽しみのひとつに、主人公に感情移入することで、知らない土地や国の現地にいる気分になれるということがあります。しかも普通の観光ではまず行かないような場所へも入り込んでいけます。
今回は、できるだけ日本人にとっては馴染みが薄い地域を中心にして、小説などによく登場するアメリカやイギリスの大都市を舞台としたものは除きますが、ひとつお勧めとして、ニューヨークを知りたければローレンス・ブロックの「マット・スカダーシリーズ」、ロサンジェルスを知りたげれば、マイクル・コナリーの「ハリー・ボッシュシリーズ」「レネイ・バラードシリーズ」などを読めば、かなりディープなそれぞれの大都市を縦横無尽に体験できます。
まずはノンフィクション3作品ですが、美しいながら厳しい気候のアラスカが舞台の星野道夫著「旅をする木」と、内戦とテロが頻発するアフリカの最危険地帯とも言われているソマリアが舞台の高野秀行著「恋するソマリア」、そしてフォーサイスの自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」の中で多くを割いていたビアフラです。
感想は下のリンク先に書いています。
●アメリカ(アラスカ)
星野道夫著「旅をする木」
◇2014年12月前半の読書と感想、書評(旅をする木)
●ソマリア
高野秀行著「恋するソマリア」
◇2026年5月前半の読書と感想(恋するソマリア)
●ビアフラ共和国
フレデリック・フォーサイス著「アウトサイダー 陰謀の中の人生」
◇2024年3月後半の読書と感想、書評(アウトサイダー 陰謀の中の人生)
以下は小説です。その多くは日本人作家のものを除き、著者の出身地または長く居住していた地域を舞台としたもので、それゆえ、それぞれの街のディープな風景や世界観が味わえます。
●アイスランド
アーナルデュル・インドリダソン著「湿地」「緑衣の女」
◇2019年6月後半の読書と感想、書評(湿地)
◇2020年11月前半の読書と感想、書評(緑衣の女)
●アイルランド
石持浅海著「アイルランドの薔薇」
◇2022年6月後半の読書と感想、書評(アイルランドの薔薇)
クイーム・マクドネル著「平凡すぎて殺される」
◇2024年12月後半の読書と感想、書評(平凡すぎて殺される)
●ロシア・ノルウェー国境付近
グレーテ・ビョー著「メーデー 極北のクライシス」
◇2024年11月前半の読書と感想、書評(メーデー 極北のクライシス)
●オーストリア
ジョン・アーヴィング著「ホテル・ニューハンプシャー」
◇2023年2月前半の読書と感想、書評(ホテル・ニューハンプシャー)
●マルタ(共和国)
A.J.クィネル著「燃える男」
◇2025年1月後半の読書と感想、書評(燃える男)
●バチカン市国
ダン・ブラウン著「天使と悪魔」
感想なし
●イタリア/トルコ
ダン・ブラウン著「インフェルノ」
◇2017年12月後半の読書と感想、書評(インフェルノ)
●スペイン
伊集院静著「白い声」
◇2021年11月前半の読書と感想。書評(白い声)
ダン・ブラウン著「オリジン」
◇2021年6月前半の読書と感想、書評(オリジン)
●マリ/スペイン/ロシア/ブラジル
梓崎優著「叫びと祈り」
◇2023年1月後半の読書と感想、書評(叫びと祈り)
短篇集で、「砂漠を走る船の道」は西アフリカのマリ付近の砂漠地帯、「白い巨人」はスペインのラ・マンチャ地方、「凍れるルーシー」は南ロシア、「叫び」はブラジルのアマゾン流域がそれぞれ舞台となっています。
●ネパール
米澤穂信著「王とサーカス」
◇2022年6月後半の読書と感想、書評「王とサーカス」
●シリア
デイヴィッド・マクロスキー著「弔いのダマスカス」
◇2024年8月後半の読書と感想、書評(弔いのダマスカス)
●イラン
西加奈子著「サラバ」
◇2022年10月前半の読書と感想、書評(サラバ)
●インド
グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ著「シャンタラム」
◇2018年7月前半の読書と感想、書評(シャンタラム)
●フィジー
垣根涼介著「真夏の島に咲く花は」
◇2010年4月前半の読書(真夏の島に咲く花は)
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1889
天に遊ぶ(新潮文庫) 吉村昭
それまで著者は長編小説か、原稿30枚程度の短篇が主で、このような短い原稿で人間の姿を描くことは初めてだったが、意外と楽しいことがわかったということです。
その作品のタイトルは、「鰭紙」、「同居」、「頭蓋骨」、「香奠袋」、「お妾さん」、「梅毒」、「西瓜」、「読経」、「サーベル」、「居間にて」、「刑事部屋」、「自殺」、「心中」、「鯉のぼり」、「芸術家」、「カフェー」、「鶴」、「紅葉」、「偽刑事」、「観覧車」、「聖歌」の21篇です。
それぞれに味わいがありますが、いくつかはエッセイ?と思うような、作家が主人公で、取材のために関係者や地方を訪れた時のエピソードもあれば、別のエッセイで使っていた「地方の飲み屋で刑事とよく間違えられる」という話や、子供の頃の思い出、青年時代に結核を患って療養していた時のことなどを書いたものなど、様々です。
いずれにしても超短篇だけにテンポが良く、登場人物も限られわかりやすいので、ちょっとした暇つぶしや気分転換で読むのに適していそうです。
★★☆
◇著者別読書感想(吉村昭)
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「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち(新潮文庫) 石井光太
取り上げられた事件は、
・厚木市幼児餓死白骨化事件(2014年発覚)
・下田市嬰児連続殺害事件(2014年発覚)
・足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件(2013年発覚)
の3件で、本書のタイトルになっている通り、親がまだ自己防衛もできない自分の幼児や嬰児を殺すという、殺人の中でももっともむごたらしく悲惨な事件です。
その事件の中には親世代から続く貧困の連鎖や、加害者の身勝手さ、加害者と親の不和、社会福祉制度の至らなさなど、様々な問題が内包されていて、現代の子育てにまつわる社会問題の縮図ともいえます。
こうした事件が起き、同時期に、NHKでも特集番組が組まれていました。
NHKスペシャル 調査報告 “消えた”子どもたち(NHK)
| 虐待や貧困などのために学校などに通えず、社会とのつながりを絶たれた“消えた”子ども。神奈川県厚木市で、誰にも気づかれないまま男児が白骨化した遺体で発見されるなど事件が相次いでいる。独自アンケートと追跡取材によって、“消えた”子どもの実態に迫り、子どもたちの命を守るために何が必要か考える。 |
このノンフィクションで取り上げられた3つの事件を読む限り、加害者に共通するのは、親との不和や子供の時に親から無視され放任されていたことで、加害者の性格にゆがみが生じ、さらに金銭感覚が極めてルーズ、避妊は相手任せで、結局は本来なら産んではいけない子供を産み、その結果、邪魔になって放置し、殺してしまうということでしょう。
事件としては直接手を下した(あるいは育児放置した)若い親に刑事罰が与えられますが、本書では、表向きにはその罪が一切問われることがない加害者の親に、実はモンスターを生み出した根源的な問題と責任があるのではないかと結論づけています。
それにしても、以前読んだ同じ著者の「43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層」と同様、後味が悪い、嫌ミスと似たような読後感です。
★★☆
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秘められた伝言(上)(下)(講談社文庫) ロバート・ゴダード
ロンドンから200kmほど離れたサマセットの田舎に住んでいた無職の独身男に、ロンドンの船会社で働いている幼なじみが行方不明になったと家族から知らされ、頼まれてロンドンへ出向き、その行方を捜すことになります。
船会社だけに、勤務地や出張先が方々にあり、主人公はドイツのベルリン、日本の東京と京都、神戸、そしてアメリカのサンフランシスコと親友の残した足跡をたどっていきます。もし映画でも制作されたら、ちょっとしたロードムービーで、面白そうです。
行方不明の親友は、ある陰謀に巻き込まれていることが徐々に判明していきますが、決して主人公が思っていた清廉潔白な人物ではないことなどがわかってきます。
そして、自分が行方不明になった場合の保険として、その親友がきっと追いかけて謎解きをしてくれるだろうという様々な仕掛けが施されていることに気がつきます。
主人公を簡単に殺すわけには行かないので、そうした謎を解くためのキーマンとして生かされるという、うまいやり方ですが、周囲の人間が次々と殺されていくのに対し、主人公だけはうまく生き延びていくという、あまり都合良すぎという印象もあります。
長編ですが、ジェットコースターのように次々とピンチとチャンスが訪れて、あっという間に読み終えられます。
★★☆
◇著者別読書感想(ロバート・ゴダード)
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恋するソマリア(集英社文庫) 高野秀行
著者の作品は今回初めて読みますが、早稲田大学在学中には探検部に所属し、その時に経験した冒険譚を書いた「幻獣ムベンベを追え」を出版し、それが実質的なデビュー作となります。
著者が向かう探検先は、もちろん先進国や有名観光地ではなく、アジアの奥地や南米、中近東、アフリカなど、日本人にはあまり馴染みがない場所の紀行や体験談が多いです。
本著は、タイトルでわかるように、アフリカの角(つの)と呼ばれている日本人にとってはもっとも縁遠いと思われる国ソマリアを舞台としたノンフィクションです。
このソマリアという国、平和が長く続いている日本人にはまったく理解しがたいほど、同じ民族でありながら氏族間の紛争や宗教上、利権、政治権力の問題で起きる内戦が長く続いていています。
問題の根は深くてややこしく、正式には2012年からとりあえず統一された形で「ソマリア連邦共和国」ができましたが、その北部地域には同じソマリ人ながら、違う氏族が中心となり、1991年に独自に作ったソマリランドというその連邦には加わらない自主的な国家のような未承認国家が存続しています。
連邦共和国の首都は南部のモガディシュにありますが、治安維持が独自では行えず、アフリカ連合の兵士(つまり他国の軍隊)が駐留し治安維持にあたっていて、近年でも反政府勢力との内戦が続いているという状態で、日本の外務省からは危険レベル4の退避勧告、渡航自粛が出ています。
日本との関係でまれにニュースとなるのは、ソマリア沖で海賊行為が頻発したために、海上自衛隊が2009年から現在まで哨戒活動に従事していることがあります。ただしそれは公海上の哨戒であって海賊が拠点としているソマリアに対しては日本を含め国際機関はノータッチです。
そのようなソマリアへ著者はジャーナリストとして、また現地のケーブルテレビのアジア総局長として何度も訪問し、その模様を詳細にレポートしています。ソマリア語の日常語をかろうじてしゃべれる日本人はおそらくこの著者だけだと思われています。
遠い日本ではほとんど誰も知らないその文化や、言葉、食事、庶民の生活など、外国人、しかもジャーナリストだと、身代金目的の誘拐や殺害がよくある地域で、武装した護衛の兵士などを雇い、飛び込んでいく姿はまさに冒険譚です。
★★☆
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