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リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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密売人(ハルキ文庫) 佐々木譲
主人公は、過去作から引き続き登場している北海道警の刑事と仲間のメンバーで、それぞれが別々の事件に遭遇する中、お互い情報交換をするうちに、被害者達に共通する点があり、独自に動いて調べ始めます。
今回も、腐敗した北海道警の負の遺産という構図ですが、暴力団や、エスと言われる警察への情報提供者、過去の道警幹部の行いなどが次々と明らかになり、警官OB達にこれらの事件の本質を聞くことになります。
こうした小説を書かれると、現場にいる北海道道警の内部の人達はどういう思いをしているのだろう?と考えてしまいますが、きっと苦々しく思う人もいれば、まったく意に介さぬ人、警察官採用に苦慮する人、単にフィクションとして楽しめる人など様々でしょう。
でもどうして道警ばかり叩かれる?と腹を立てている人が多そうな気がしますが、2002年に発覚した現職の警察官が覚醒剤の使用・所持・密売、さらには拳銃の不正所持に関与した「稲葉事件」や、2003年に発覚した警察幹部が大量に処分された「北海道警裏金事件」の影響が大きいのでしょう。
しかし小説のほうは、予定調和で、たいした波乱もなく、無事に落ち着くところに落ち着くので、安心して読んでいられます。
★★☆
◇著者別読書感想(佐々木譲)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
春を背負って(文春文庫) 笹本稜平
さらに、内容や舞台はだいぶ変わっていますが、2014年に木村大作監督、松山ケンイチ主演で映画化がされています。
事故で亡くなった父親が始めた奥秩父の山小屋が舞台で、東京でエンジニアをやっていた主人公が会社を辞めてそこの経営を引き継ぎ、成長していくという物語です。
特に素人同然の主人公をサポートしてくれる父親にお世話になったという後輩で、山小屋が閉まっている冬期は東京でホームレスをやっているオヤジがいい味を出しています。
映画では豊川悦司がその役を演じていますが、容易にイメージが想像ができて面白そうです。
こうした山岳登山をテーマにした小説は様々ありますが、個人的にはまったく縁遠いというか、趣味の範疇には入っていませんが、一種の憧れもあるので興味はあり、面白く楽しめました。
過去には北村薫著「八月の六日間」(2014年)や、NHKでドラマ化もされた湊かなえ著「山女日記」(2014年)などを読みましたが、まったく知らない登山や山歩きの世界の話だけにどれも興味がわきました。
山岳小説と言えば真っ先に出てくる新田次郎氏や夢枕獏氏の山岳小説、その中でも特に有名な「劒岳 点の記」(1981年)や「神々の山嶺」(1997年)はまだ読めていません。
人類初のエヴェレスト初登頂を果たした登山家ジョージ・マロリーを描いたジェフリー アーチャー著の「遥かなる未踏峰」は、既に読んでいます。
13年前には、趣味としての登山について、ブログを書いていました。
◇第三次登山ブームが起きたわけ 2013/7/20(土)
あと、地方で父親の事業を継いだ若者の奮闘と成長話という点では、風力発電事業に関わる北海道の過疎地で働く主人公を描いた高嶋哲夫著「風をつかまえて」を思い出しました。
★★☆
◇著者別読書感想(笹本稜平)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ダーク・アワーズ(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー
「女性刑事レネイ・バラードシリーズ」の4作目ですが、同時に別シリーズの主役、ハリー・ボッシュも私立探偵としてですが、刑事のパートナーとして登場しています。
ボッシュは警察を定年で退職していますから、今後の主役は現役刑事のバラードがメインになっていくのかも知れません。やはり事件解決は探偵より刑事の方が深みに入っていけますから。
今回の事件は、並行して二つの犯罪、つまり「二人組の連続レイプ魔事件・ミッドナイト・メン」と、もうひとつ「年明けのカウントダウンストリートパーティでの殺人事件」を女性刑事がボッシュの力を借りながら独断で調べていくという内容です。
時は2020年の12月末から1月頃にかけての話なので、コロナ禍の真っ最中ということや、大統領選挙の結果に不満を持つ集団が議事堂を占拠した事件、警察官に押さえつけられた黒人が死亡したことに抗議する「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」運動など、当時の世情も反映されています。
通常刑事はコンビを組んで捜査をするはずですが、経費削減や、仕事にやる気がない同僚たちとは言え、なぜかいつも単独で行動しているのがちょっと不思議です。
殺人現場で見つけた薬莢が、過去にボッシュが担当した未解決事件で使われたものと同じと言うことがわかり、ボッシュにその時の話を聞くため近づき、同時に元ベテラン刑事だったボッシュから様々なアドバイスや協力を得ることになります。
犯人に近づいたことで、送り込まれた殺し屋に自宅で寝ている時に襲われますが、それ以外で今回は特に大きな失敗や危険はなく、予定通り(予想通り)に、別々の二つの事件は解決に向かいます。
意図してかどうかはともかく、2名のレイプ犯を罠にかけるため、上司から自宅謹慎を命ぜられていることに背くため、警官を辞職する届けをメールで送り、犯人を待ち伏せ、正当防衛で殺害するという方法をとります。
上司の命令に背き動き回り、私立探偵の拳銃で犯人を追い詰め射殺したことで、大きな問題を犯したことは間違いなく、果たして好きだった刑事の座を手放すことになるのか?というのがポイントです。
★★☆
◇著者別読書感想(マイクル・コナリー)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
届け物はまだ手の中に(光文社文庫) 石持浅海
いきなり最初に、主人公が、復讐のためにある男を殺したことが示され、その後、様々なミステリアスなことが起きていき、その謎を解いていくというちょっと変わったスタイルです。
その殺人をおこなったのはある子供の頃の恩人を交通事故で殺め、親の金の力で反省もせず軽微な罪で許されたことに対する復讐のためです。
当時は同様に復讐を誓っていた親友が、学生時代に起業し、それで大成功を収め、社長として裕福になっていて、一緒に約束したはずの復讐を反故にしたことで、自分ひとりで犯人を殺しそれを友人に突きつけようと、その友人の家にやってくるところから始まります。
復讐を遂げた後、主人公は親友の家を訪れますが、その時その親友の子供の誕生パーティがおこなわれていて、それに加わります。肝心の友人はどうしても手が離せない緊急の仕事が入り、パーティには参加していません。
パーティには、友人の妻と妹、それに友人の秘書の女性3人と、パーティの主役の小学生の息子が参加していて、一見和やかなムードですが、なにか違和感がつきまといます。
その違和感を最後に説明していくことになりますが、探偵小説のように細かな齟齬を積み重ねていき、友人家族や秘書の嘘を見破っていくことになります。
殺人者が、探偵役?というなかなか今までにない面白いスタイルでしたが、あまりにも軽いノリで、リアリティは薄すぎます。
★★☆
◇著者別読書感想(石持浅海)
【関連リンク】
3月後半の読書 眼球堂の殺人、殺し屋、続けてます。、.月に吠えろ!萩原朔太郎の事件簿、誰も書かなかった日本史「その後」の謎
3月前半の読書 カウントダウン、斬に処す 甲州遊侠伝、嫉妬/事件、プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」
2月後半の読書 幕末紀 宇和島銃士伝、大還暦 人生に年齢の「壁」はない、殺しのライン、この国のかたち(1)
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1883
眼球堂の殺人(講談社文庫) 周木律
いわゆる著者の「堂シリーズ」の第1弾作品で、当初はシリーズを考えていたわけではなかったそうですが、この作品の評価が高かったことからシリーズ化が決まったそうです。
私は先にシリーズ5作目の「教会堂の殺人~Game Theory~」を読みました。
登場人物が重なることもあるようですが、それぞれのミステリーは独立しているので、特に大きな問題はなさそうです。
その「堂シリーズ」は、すでに
| タイトル | 副題 | 発行年 |
| 眼球堂の殺人 | The Book | 2013年 |
| 双孔堂の殺人 | Double Torus | 2013年 |
| 五覚堂の殺人 | The Burning Ship | 2014年 |
| 伽藍堂の殺人 | Banach-Tarski Paradox | 2014年 |
| 教会堂の殺人 | Game Theory | 2015年 |
| 鏡面堂の殺人 | Theory of Relativity | 2018年 |
| 大聖堂の殺人 | The Books | 2019年 |
の7作品が刊行されています。「堂シリーズ」は一応これで終わりだそうです。
著者は大学で建築学を学んだという経歴があることから、こうした変わった建築物をテーマにした推理小説がお得意ということで、不思議な建物とミステリーと言えばすぐに思い出されるのは前にも書きましたが綾辻行人著の「館シリーズ」と似ています。
主人公は、放浪する天才的な数学者を追いかけている女性のルポライターで、その数学者が有名建築家が新築したという自宅に招待されたことで、それに同行します。
数学者以外にその完全に隔離された山の中に建設された不思議な建築物に3日間の予定で招待されたのは、ノーベル賞受賞者の物理学者、絵画芸術家、精神医学者、政治家、編集者で、二日目の翌日から次々と殺人が起きていくことになります。
そして長い長い3日間が終わり、事件の謎が解かれた後にももうひとつ「真実」が残されているところは、驚きを隠せません。なかなかどうしてすっかりと騙されたという苦い思いが最後に待っています。
シリーズ以外にも多くの作品があるので、もっと読んでみたいと思える作家さんです。
★★★
◇著者別読書感想(周木律)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
殺し屋、続けてます。(文春文庫) 石持浅海
一部連作というのは、今回ちょっと前作とは違い、ライバルの殺し屋が登場し、それぞれの活躍?と見知らぬ関係ながら、関わりを持っていくことになります。したがって主人公は各話によってそれぞれの殺し屋、最後は二人の殺し屋ということになります。
その「殺し屋探偵シリーズ」は3作目「女と男、そして殺し屋」(2024年)、4作目「夏休みの殺し屋」(2025年)の計4作品が既刊です。
収録されている短篇のそれぞれタイトルは、「まちぼうけ」「わがままな依頼人」「双子は入れ替わる」「銀の指輪」「死者を殺せ」「猪狩り」「靴と手袋」の7篇です。
「晴らせぬ恨み 晴らします」とばかりに現代の「必殺仕事人」とも言えますが、こちらの殺し屋にとっては必殺シリーズと違い、依頼人の恨みや、やむにやまれぬ事情は関係なく、金が確実に得られ、そして仕事がたやすくできるかどうかが肝心との割り切りがあります。
いとも簡単にターゲットを尾行し、行動パターンをつかみ、そして実行していますが、小説の中での話で、現在はあちこちに防犯カメラがあり、人気のないところで長時間の張り込みをしている不審な人を見かけるとすぐに通報されたりするので、そう簡単なものではないでしょう。
ま、そういうリアルなことは小説ですから考えないとして、もっとも難しく思えるのが、殺しを引き受ける広告(営業)と、依頼人から直接話を聞く1次取り次ぎ者までのところかも知れません。その仕組みも「猪狩り」で少しだけ書かれていました。
しかし依頼人がその「殺人請負」の仕組みをなんらかの方法で知ることができると言うことは、警察や他の一般人が知っていても不思議ではないということで、当然、囮捜査の可能性も考えなきゃなりません。
そういった現実性に乏しいことから、いまいち感情移入がしにくい内容です。
★☆☆
◇著者別読書感想(石持浅海)
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月に吠えろ!萩原朔太郎の事件簿(徳間文庫) 鯨統一郎
タイトルや副題からもわかる通り、詩集「月に吠える」が有名な大正から昭和初期頃に文壇で活躍した詩人、萩原朔太郎を主人公とした連作短篇小説です。
収録作品は、 「死者からの手紙」 「閉じた空」 「消えた夢二の絵」 「目の前で消えた恋人」 「ひとつの石」 「怪盗対名探偵」 「謎の英国人」の七篇です。
面白いのは、ひとつの事件を解決したあとに、その事件をイメージさせる実際にある萩原朔太郎の詩を挙げて、もちろんフィクションですが、事件からインスピレーションを得たものと匂わせていて、そのあたりは著者の創造力や作品への造詣が深いことがよくわかります。
こうした歴史上の人物を主人公にした小説が好きで、学生時代に教科書に出てきた有名人は実際はどういう人だったんだろう?と思いをはせながら読めます。
登場人物は、萩原朔太郎がホームズ的な探偵役で、語り手としてはその助手的な役割のワトソン役として萩原朔太郎と仲が良かった室生犀星です。
その他、室生とともに一緒の詩人グループ団体「人魚詩社」を作っていた山村暮鳥や、師匠的な北原白秋、「消えた夢二の絵」に登場する竹久夢二本人など。この時代には蒼々たる芸術家が出ています。
また「人魚詩社」が大正時代に実際にあった場所は、淀橋の七曲がりという地域(現在の東京都新宿区下落合)で、それから連想させるように「月に吠えろ!」というタイトルにも笑ってしまいました。もちろん人気テレビドラマ「太陽にほえろ!」と萩原朔太郎の代表作をミックスしてパロディにしています。
★★☆
◇著者別読書感想(鯨統一郎)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
誰も書かなかった日本史「その後」の謎(中経の文庫) 雑学総研
2014年に出版された文庫ですが、角川グループの中経出版が編集し、KADOKAWAが発行しています。
全部で146ものエピソードがわかりやすく簡素に書かれていて、読みやすいのはいいのですが、様々な時代(飛鳥時代~昭和時代)が行ったり来たりして、時代感覚が狂ってしまいそうです。
例えば、「明治維新後、徳川宗家はいったいどうなった?」の次が、「大化の改新後、蘇我氏の子孫は実は栄えていた?」で、その次には「坂下門外の変のあと、老中・安藤信正はどうなった?」というような感じです。
その他にも、史実と違って「本当は生き延びていた?」という話も豊富です。
「壇ノ浦に消えたはずの安徳天皇は生きていた?」
「ロシア皇太子と一緒に帰国?生存説が根強かった西郷隆盛」
「日本全国に生存説が!真田幸村はどこで死んだのか?」
「実は生き延びていた?忠興の妻・細川ガラシャ」
「生存説も根強かった東洋のマタハリ川島芳子」
「新撰組組頭・原田左之助は満州で馬賊になっていた?」
「ヨーロッパ逃亡説もささやかれる大塩平八郎のその後」
「琉球へ流れ着いた源為朝、子孫は琉球王国の初代王に?」
など。
単なる噂話だけでなく、古い文書や手紙、石碑などからも検証していて、説得力は?ですが、面白い話です。
ただあくまで、下世話でどうでも良さそうな雑学レベルのものが多いのと、あまり有名ではない(私は知らなかったというだけであるところでは有名なのかも知れません)人物、例えば大川周明や林子平、川上貞奴、飯沼貞吉、聖武天皇、谷干城、河口慧海などの話は、雑学としては良いけど興味は薄いです。
暇つぶしには十分役立ちそうな良い本です。
★★☆
【関連リンク】
3月前半の読書 カウントダウン、斬に処す 甲州遊侠伝、嫉妬/事件、プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」
2月後半の読書 幕末紀 宇和島銃士伝、大還暦 人生に年齢の「壁」はない、殺しのライン、この国のかたち(1)
2月前半の読書 騙し絵の檻、日本のタブー3.0、日御子(上)(下)、この闇と光
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カウントダウン(新潮文庫) 佐々木譲
夕張市が財政破綻したのが2006年で、そうした厳しい北海道の自治体と地方政治を舞台として、やがて北海道に限らず、日本の多くの自治体が陥るであろう財政破綻について予言的な内容となっています。
選挙をテーマとした小説はよくあり、若い主人公が様々な老害や既得権益受益者からの妨害を受けながら奮闘していくというものばかりですが、この小説はそれだけでなく、夕張市を引き合いにした地方都市ならではの問題を突いています。
主人公は夕張市と双子市と言われている架空の地方都市で、亡くなった父親から引き継いだ司法書士事務所で働きながら1期目の市会議員として財政破綻の心配をしている男性。
二十年の長きにわたり取り巻きを増やし独裁的に振るまっている市長の6選を阻止すべく、主人公が立ち上がるわけですが、そのきっかけとなったのが、著名なやり手選挙コンサルタントが突然事務所に現れたことで、破綻寸前の市の市長になったところで、なにができるのか?と悩みながらも一歩踏み出す物語です。
過去の箱物行政や、市長の息子が経営する第三セクターのせいで、市町村の赤字が膨らみ、借金が財政の20%を超えると財政再生団体に指定され、国や都道府県の自治体から厳しい指導下におかれ、公共工事の停止や公共施設の廃止、住民税の増額、職員などの減数などがおこなわれます。
現在(2026年)までは夕張市だけですが、やがて日本の多くの市町村でこうした財政破綻が起きてくるのではないか?という問題提起でもありますが、夕張市の場合は、北海道庁とグルで負債を長く隠していたと言われていて、なかなか表面化しづらく住民にとっては寝耳に水ということもあります。
今後、高齢化した人口が大きく減少していく中で、老朽化した公共インフラの改修や、昔作った贅沢な公共施設の維持費など、すでに破綻が間近に見えている市町村もありそうで、そうしたところは、平成の大合併で生き残り策をとりましたが、今後はもしかすると都道府県単位での合併、つまり道州制などの導入も検討することになるかも知れません。
いずれにしても、北海道の地方都市の問題というだけでなく、未来の日本国全体の縮図として読むと背筋が凍るような思いがする小説です。
★★☆
◇著者別読書感想(佐々木譲)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
斬に処す 甲州遊侠伝(小学館文庫) 結城昌治
個人的には江戸時代の任侠ものや博徒についてはまったく詳しくないので、清水の次郎長などは名前ぐらいしか知らないので、その敵役で、この小説の主人公、黒駒勝蔵という博徒も当然知りませんでした。
通常は清水次郎長は強きをくじき弱きを助ける善玉の侠客で、敵対するヤクザの親分達は大悪人と相場が決まっていました。
しかし著者が調べたところ、幕末の混乱していた時代、要領よく立ち回った次郎長にうまくやられてしまったという図式で、侠客を名乗りつつ、やることは博打の元締めや時には役人の手先となって敵方のみならず仲間も平気で裏切りお縄にしたり謀殺しています。
結局は、どっちもどっちで、次郎長だけが善良とは言えず、逆に胡散臭そうではないか?という疑問から、この次郎長を敵役とした小説ができたそうです。
他にも、この主人公、黒駒勝蔵を称えるような小説があり、同様に考えて大悪人とされていた黒駒勝蔵の名誉回復に寄与した歴史家や作家は多そうです。
しかし結局は、江戸時代の博徒の時の殺人が、明治に変わった後に尾を引き、幕府を倒す新政府側の小隊長として功績を挙げながらも、タイトルにあるとおり「斬に処す」刑罰が下り、40歳の生涯を閉じます。
一方の敵役で要領の良い次郎長は、明治26年、当時としては長命の73歳で天寿を全うします。
★★☆
◇著者別読書感想(結城昌治)
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嫉妬/事件(ハヤカワepi文庫) アニー・エルノー
本著は、2000年と2004年にフランスで出版された中短編小説を合わせ、2004年に日本語翻訳版として出版されたものです。
他の作品を読んでいないので、他はどうなのかはわかりませんが、この収録2作品は、小説と言うより著者自身の実体験を元にした内容となっているそうです。
つまり、「嫉妬」は、40代の著者が主人公で、30代の愛人が別れを告げて別の女のところへ行ってしまったことをネチネチとストーカーじみた感情を吐露しつつ、相手の女性に嫉妬を募らせていくという話し。
もうひとつの「事件」は、著者がまだ学生だった時代、親元から離れ奔放な寮生活を送っていましたが、妊娠してしまいます。
しかし当時、1960年代のフランスでは中絶は違法で、本人も処置をした医者も罪に問われ懲役が科せられる重い犯罪でした。
そのため、闇で処置をしてくれるところを探し求めていくというかなりプライベートな話で、当時の日記をもとにして、当時の感情の動きや、心理描写が迫真に迫っています。
こうした自分のプライベートで、ナーバスな問題を作品のネタにする作家は時々見かけますが、ここまであけすけに、しかも創作ではなく当時の日記に書いていたことを元にしてリアル(っぽい)話の作品は初めてです。
性生活にオープンなフランス人独特の価値観などもあるでしょうけど、まず日本人作家(男女関わらず)は恥ずかしくてとても書けそうもない、つまり読むことはできそうもない新鮮な作品でした。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」(朝日新書) 野口悠紀雄
本書は2023年に出版された新書です。タイトルからわかるとおり、この数十年間の日本経済と政治の低落ぶりを各種のデータを元にこれでもかと披露しこの先を憂慮しているってことです。
2023年の刊行なので、コロナ禍があけてまもない今から3年以上前の日本の話ですが、それでも急速な円安や物価高、実質賃金の低下、国際競争力の劣化、高度専門家の海外流出、中国との関係、弱体化を進める補助金ジャブジャブなど、予言的な話もあり、なかなかジワッと身にしみてきます。
特に著者が批判をしているのがアベノミクスで、これが今の貧困大国のすべての元凶だったというような内容になっています。
私は違いますが、アメリカのトランプ大統領同様、安倍元総理の熱狂的な支持者やファンは日本には多そうなので、この新書で多くの敵を作ってしまったことでしょう。
今年にはそのアベノミクスの後継者を自認している新総理が誕生したので、著者もヤレヤレといったところでしょう。もちろん批判するばかりではなく、ちゃんと経済学者としての処方箋も書いてあります。
★★☆
◇著者別読書感想(野口悠紀雄)
【関連リンク】
2月後半の読書 幕末紀 宇和島銃士伝、大還暦 人生に年齢の「壁」はない、殺しのライン、この国のかたち(1)
2月前半の読書 騙し絵の檻、日本のタブー3.0、日御子(上)(下)、この闇と光
1月後半の読書 マーチ博士の四人の息子、美食探偵、嵐が丘、こちら横浜市港湾局みなと振興課です
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幕末紀 宇和島銃士伝(光文社文庫) 柴田哲孝
著者の小説は、主に現代のハードボイルドタッチの小説が多かったですが、今回初めて江戸時代の小説と言うことで、しかもそれが著者自身の家系に関係するものというのが新鮮です。
伊達家が当主というと独眼竜伊達政宗の仙台藩が思い浮かびますが、正宗の側室の子で後を継げなかった伊達の庶子伊達秀宗が大坂冬の陣で手柄を上げ、徳川家康に宇和島藩を与えられ、その後明治の廃藩置県まで伊達家の代々世継ぎが四国宇和島を治めていたということです。
著者の先祖は、元々仙台の伊達家の弓組の重鎮でしたが、伊達秀宗が宇和島へ移ったときにともに移った武士でした。弓組はやがて幕末に近づき鉄砲組(部隊)に変化していきます。
幕末の頃は薩摩藩第11代藩主島津斉彬や土佐藩第15代藩主山内豊信(容堂)とともに幕末の四賢侯と言われていた伊達宗城が宇和島藩主で、著者の高祖父柴田快太郎が仕えていた頃の話になります。
この柴田快太郎は当時の日記や手紙など文書が多く残されているものの謎多き人らしく、坂本龍馬が土佐藩を脱藩した時期とほぼ同じ頃に宇和島藩を脱藩したかと思えば、江戸や京都で起きた様々な出来事や情勢を、藩主へ報告していたことがわかっていて、さらに常識では考えられない柴田家の墓が藩主伊達家の墓所の一角に作られているなどの謎があります。
脱藩と言えば、敵前逃亡と同じで普通は藩に捕らえられれば打ち首は必至の重罪ですが、その後もなにかと宇和島藩のために尽くしていることから、表向きは脱藩ということにして、その実は藩命の密偵として江戸や京都で自由に動き回っていたのでは?ということです。
それにしても、桜田門外の変や、坂本龍馬の脱藩、寺田屋事件、池田屋事件、蛤御門の変など幕末の多くの事件や騒動が主人公の目前で次々と起こり、西郷隆盛や五代友厚、勝海舟、高杉晋作、近藤勇、グラバーなどとも交流があったとされる内容にはちょっとひいてしまいます。
幕末の有名人と言えば上記の人達、勢いのあった勢力は薩摩藩や長州藩、土佐藩などですが、四国の小藩だった宇和島藩の動きや、一歩引いた地方から見た幕末の激しい攻防戦はまた違った見方ができて面白いです。
さらに、黒船のペリーや長崎で手広く商売をしていたスコットランドの商人グラバーなどから、フリー・メイソンの支配という謎かけもあり、ダイナミックな時代小説となっています。
★★★
◇著者別読書感想(柴田哲孝)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
大還暦 人生に年齢の「壁」はない(ちくま新書) 島田裕巳
本文の中にも何度も「詳しくは○○(著者の既刊書)に書いているが、…」という、この著書自体が過去の自著作品の広告にもなっているようです。新書の場合はそういうケースが多いですが、これほど何度も出てくると読んでいて不快です。
その代わりに、事件を起こす前のオウム真理教を擁護したり、教祖を自分の講演会に呼んで学生に紹介したことで勤めていた大学をクビになったりしたことも正直に本著で伝えていることは評価できます。ご本人にとってはさぞかし大きな出来事だったのでしょうけど、一般読者はそんな昔のことは興味も関心もないのでどうでも良いことですけど。
それはさておき、大還暦とは、還暦が60年(歳)ならその倍を生きたとして120年(歳)を大還暦と呼ぶ風習があり、それが最近の長寿命化で、現実的になってきていること、そういう社会変化で起きていることなどがわかりやすく説明されています。
例えば、戦後にお墓を建てることがブームになったものの、今は墓じまいが急増していることから、もうお墓が必要ではなくなってきている現状や、それに合わせたゼロ葬(火葬後に遺骨をもらわない)システムを著者自身が提案されたりしています。
いろいろツッコミどころはありますが、著者自身のお考えなのでそれは良いとして、本文の「はじめに」に、「幸若舞の敦盛にある人間五〇年、下天のうちを比ぶれば…」を引き合いに出して「この時代の認識では、人間の寿命は五〇年とされていたわけです」と書かれていますが、これは現代の解釈では当然の誤りです。人の寿命を現しているのではなく天界の1日が人間界の50年という意味です。
また、終盤には出雲大社の本殿西側(本殿の正面は南側)に遙拝所が設けられていることに対し「なぜ、西側からなのでしょうか。」と書いておきながら、その意味は書かれてなく意味不明な説明が後にダラダラ続けられています。
正解はお茶の間のクイズ番組でもよく出てきて簡単な問題で、著者も当然知っているのだと思いますが、「本殿の正面は南向きですが、御祭神の大国主大神は西向きに座っているから」です。
敦盛の中に出てくる「人間五〇年」の実際の意味や、なぜ出雲大社本殿の西側に遙拝所が設けられているかはちょっと調べれば誰でも簡単にわかることですが、著者はなぜかそれをしない、また編集者や校正者はなにも言わないのが不思議です。
そのような明らかな間違いや誤解が出てくると、この著者の話は話半分で読むのがよいのかなと思えてしまい残念に思うところです。
★☆☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
殺しのライン(創元推理文庫) アンソニー・ホロヴィッツ
シリーズ第1作目の「メインテーマは殺人」(2017年)はすでに読みましたが、第2作目の「その裁きは死」(2018年)はまだ読んでいません。
それぞれ事件は独立したものなので、どれから読んでも問題はないですが、徐々に寡黙なパートナー(元刑事)の謎がわかってくることなど、できれば最初から読んだ方が面白く読めそうです。
今回も難事件に二人で挑み、その事件を小説には向きそうもない面白みのない解決で終わりそうなところ、実はという展開です。
ストーリーは、有名な作家などを呼び、講演会など様々なイベントを開催する文芸フェスが英国領の離島「オルダニー島」でおこなわれることとなり、二人で参加することになります。
そうした本のPR活動にはまったく興味のないパートナーの元刑事は断るだろうと思っていたら、意外に乗り気なことに驚きます。
その理由は、元刑事が事故の責任をとって警察を退職するきっかけとなった元犯罪者がその島に住んでいるからです。
元犯罪者は護送中に階段から転落し大怪我をしましたが、刑事がその男を突き落としたのではないかと噂されています。
そうした一癖も二癖もある登場人物が10名ほどいる中で、隔離された離島で殺人事件が相次ぎ発生し、いったい誰がどういう方法で殺したのか?という犯人当て推理小説です。
ヒントはところどころに散りばめられていますが、そう簡単に真犯人にはたどり着けそうもありません。
私からのヒントとしては、こうした犯人当ての場合、もっとも犯人らしくない登場人物が一番怪しいということが常道だということです。
★★★
◇著者別読書感想(アンソニー・ホロヴィッツ)
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この国のかたち(1)(文春文庫) 司馬遼太郎
これらのエッセイは雑誌文藝春秋に連載されていて、この(1)が単行本にまとめられたのが1990年、文庫版は1993年に出版されています。その後もこのエッセイは、第6巻(1996年)まで続きます。
著者はいわゆる戦中派の方で、陸軍の戦車部隊で満州国境付近で国境警備をしていましたが、戦況が悪化しつつある時に本土決戦のために内地に呼び戻された直後に、満州国境で日本軍がソ連軍にコテンパンにやられたノモンハン事件が起きます。偶然とは言え命拾いされています。
本当なら、そうした経験をもとにした太平洋戦争、中でも満州戦線などの小説を一番に書きそうなところ、著者の思いとしては敗戦の昭和20年までの昭和時代の日本人は狂っていたとしか思えない時代と解釈していて、その時代の話題や人物は著者の作品には登場してきません。
したがって著者の興味は、日本人の性格をよく表しているという戦国時代や江戸時代、明治時代の人物や事件に集中しています。
またその時代の日本人の肉体的精神的な根幹となっている古代中国や朝鮮半島などにも興味が広がっていった作家さんです。
ただ、雑誌連載という形式から、同じ話が何度も繰り返されることがよくあります。1冊にまとめたときには、そうした部分はカットするとか編集すれば良いのですが、そのまま載っているので、「またその話か・・・」というところがあり、そうしたところは出版社の編集の方でうまく処理してもらいたいものです。
著者の著書の多くに共通する深いテーマがわかる、この本のあとがきに書かれていた話を転載しておきます。
「終戦の放送をきいたあと、なんとおろかな国にうまれたことかとおもった。(むかしは、そうではなかったのではないか)と、おもったりした。むかしというのは、鎌倉のころや、室町、戦国のころのことである。やがて、ごくあたらしい江戸期や明治時代のことなども考えた。いくら考えても、昭和の軍人たちのように、国家そのものを賭けものにして賭場にほうりこむようなことをやったひとびとがいたようにはおもえなかった。」
★★☆
◇著者別読書感想(司馬遼太郎)
【関連リンク】
2月前半の読書 騙し絵の檻、日本のタブー3.0、日御子(上)(下)、この闇と光
1月後半の読書 マーチ博士の四人の息子、美食探偵、嵐が丘、こちら横浜市港湾局みなと振興課です
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騙し絵の檻(創元推理文庫) ジル・マゴーン
中でも「犯人当てミステリー」が有名で、本書もそれに該当します。本書の原題は「THE STALKING HORSE」で、巻末の解説によると「漁師が獲物に近づくために身を隠す馬のことで、転じて口実やみせかけという意味」があるそうです。ただそれが犯人当てのヒントになるということはありません。
その特徴は、殺人事件が起き、誰が真犯人でも不思議ではない状況で、ひとりひとりのアリバイや人間関係を小出しにしていき、最後にその容疑者全員の中で、事件の謎解きと犯人を名指しするというお馴染みのものです。
謎を解くいわゆる探偵役は、2件の殺人で無実の罪を着せられ、16年間の刑務所収監の後に仮出所してきた男性です。
同様の日本の小説ではもう少しわかりやすい人間関係や容疑者の性格が語られますが、なかなか露わにならない複雑な人間関係とか、ちょっとイライラしたりします。それも著者の作戦ということなのでしょう。
名著という評判ですが、最後の謎解きで初めて知ることもあり、なんだかなぁというのが感想です。
★☆☆
実は、情けないことに5年前の2021年にこの小説を読んでいました。読み終わってリストの整理してから気がつくという、「老化もここまできたか!」と思わせられることになりました。
感想も評価も下記に書いています。評価は今回の読後よりも高かったみたいですが、6年後にまったく覚えていないということは、内容にインパクトがなく印象が薄かったのでしょう。言い訳ですが。
「2021年6月後半の読書と感想、書評(騙し絵の檻)」
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日本のタブー3.0(宝島新書) 望月衣塑子、鈴木智彦、西島信彦、鳥集徹、他
そのサブタイトル通り、あまりマスメディアが深く追求しないテーマ、新型コロナワクチンと製薬マネー、官房機密費、内閣情報調査室、太陽光発電やIRカジノ利権、山口組分裂抗争、工藤會総裁の死刑判決、出入国在留管理庁の闇、脱炭素社会の罠、格差社会、死刑制度などについて、それぞれの記者やジャーナリスト、ライターが解説し問題提起をしてくれます。
もちろん、そのライターやジャーナリストが信じて書いている内容や考え方がすべて世の中の常識、社会正義なのかどうかは?で、それを判断するのは結局読者に委ねられているのだと思います。
というのも、エビデンスとして引用されている記事や情報の出先の多くが「事情通」とか「関係者」で、出典先も日刊ゲンダイだったり週刊実話だったりして、どこまで信頼性のある話しなのかほとんどわからないという感じです。
情報源の秘匿はジャーナリストや記者がもっとも大事にすることですが、逆に言えば、信頼できない情報や噂話でも、それがさも真実であるかのように、センセーショナルに書くこともできます。
また真実を知っていても、それを書くと仕事を奪われたり、自分や情報提供者の命さえ危うくする可能性があれば、あえて論点をずらした書き方やわざと違った内容でゆがめることもあるでしょう。
そうしたことをよく理解した上で、それぞれの章を読むと、俯瞰的にいまなにが日本の社会で起きているのか?というのがぼんやりと見えてきます。
★★☆
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日御子(上)(下)(講談社文庫) 帚木蓬生
そういうことから、著者の作品は医療に関連する内容のものが多いですが、今回の小説は医療とはまったく関係がなく、タイトルから想像できるように、1~3世紀頃、九州北部にあったとされる倭国(日本)が舞台です。2012年に単行本、2014年に文庫化されています。
九州北部にあった国々が独立した行政を敷いていて、それらをまとめて倭国と称していた時代、那国(奴国)で代々朝鮮半島や漢(中国)との交易のため通訳をしている一族が主人公で、漢の都洛陽へ使者を送る際に同行し、光武帝と面会、金印を返礼品として持ち帰ります。
時代は進み、隣の伊都国に征服され那国から伊都国へ仕えるようになった漢に渡った通訳の孫が成長して再び通訳として漢に渡ることになります。
その孫の子の女性が弥摩大国(邪馬台国)の通訳一族に乞われて嫁に入り、その子が国王の長女「日御子」(卑弥呼)に仕える巫女として働きます。
その頃の倭国全体が戦乱状態が長く続き、国土は荒廃し、交易などもできない状態でしたが、賢明な日御子が、各国に休戦の使者を送り、戦乱の世の中を鎮めることに成功します。
邪馬台国の九州説か近畿説かという議論はさておき、当時まだ会話以外の日本語(書き言葉)がない日本で、「邪馬台国」「狗奴国(くなこく)」「卑弥呼」「奴国(なこく)」など、口頭で聞いた音を、後進国の倭(日本)をさげすんでいた漢や魏の役人が、それを卑しい漢字(中国語)に当てはめて記録したという話しが出てきますが、確かにそういうこともあったでしょう。これは納得のいく解釈です。
今でこそ、中国と日本の関係は微妙で一部の日本人には驕りも見られますが、当時は先進国で大国だった漢や魏に対し、ひたすら中国皇帝にひれ伏し、命がけで日本から使節を送っていたことがあった歴史を日本人は知っておくべきでしょう。
そうすれば、中国人のDNAには、倭(日本)という地図にも載らないような小さく野蛮な後進国に、東アジアで大きな顔をされたくないという古くから脈々と伝えられてきたものが深く刻まれているのもわかります。
★★★
◇著者別読書感想(帚木蓬生)
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この闇と光(角川文庫) 服部まゆみ
3年前に「一八八八切り裂きジャック」(1996年)を読んでいて、この作家はとても才能豊かな方で只者ではないと感じました。
ただすでに著者は2007年に58歳の若さで亡くなっています。まだ未読の9作品(アンソロジー除く)もぜひ読んでみようと思っています。
◇2023年1月前半の読書と感想、書評(一八八八切り裂きジャック)
なんの予備知識もなく最初この小説を読み進めていくと、戦乱が続く中世ヨーロッパの小国を舞台にした話かと思っていたら、全然違っていて、自動車やテレビ、録音機なども次々登場しアレレ??となりました。
というのは、主人公の王女レイラは、他国からの侵略で、城を追われ、別荘に軟禁されている目の不自由な幼い少女で、文庫の表紙にもそれらしい少女が描かれていますから、そんな第一印象を持ってしまいます。すっかりはめられてしまいました。
そのオチはというともちろんここでは書きませんが、次々と出てくる古典小説、西洋美術、クラシック音楽など、いかにも王族が好みそうな上流階級の趣味がこれでもかと出てきます。
中でもつい先日読んだ「嵐が丘」の主人公ヒースクリフの話がこの小説の会話にも出てきて、こうした古典の名作はちゃんと読んでおかないと何を言っているのかよくわからないなぁと思った次第です。
それが終盤にガラッと変わってしまいますが、それまでがやたらと長く、ちょっとイライラさせられます。
でもその終盤からクライマックスにかけての話の展開を読めば、伏線と言うにはどうかと思いますが、今までの話はなんだったの?という驚愕の内容に変わっていくところが絶品でした。
★★☆
◇著者別読書感想(服部まゆみ)
【関連リンク】
1月後半の読書 マーチ博士の四人の息子、美食探偵、嵐が丘、こちら横浜市港湾局みなと振興課です
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12月後半の読書 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史、容疑者、教会堂の殺人、その先の道消える
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