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1871
あけましておめでとうございます。

今年もつまらない話しや感想を書いていくつもりですので、よろしくお願いいたします。
稀少で物好きで変態な読者の方々には感謝しかありません。
ある日、ぷっつりと更新が途絶えた時は、管理人がとうとう逝ったかと思ってくださって結構です。

それでは今年の最初は恒例の読書感想からです。

◇「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(NHK出版新書) 磯田道史
◇容疑者(創元推理文庫) ロバート・クレイス
◇教会堂の殺人(講談社文庫) 周木律
◇その先の道に消える(朝日文庫) 中村文則

  ◇   ◇   ◇

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(NHK出版新書) 磯田道史

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史
2017年に発行された新書で、タイトル通り、司馬遼太郎氏の作品やエッセイなどを元として、氏の歴史観、作品に込められた思いなどを明らかにしていきます。

司馬遼太郎作品は多岐に渡っていますが、その中でも日本が大きく動いた「戦国時代」、「幕末」、「太平洋戦争以前」の3つの時代が中心となっています。

とりあげられる主な作品は、「戦国時代」は「国盗り物語」(1965-1966年)、「幕末」は「龍馬がゆく」(1963-1966年)や「花神」(1972年)、「太平洋戦争以前」は「坂の上の雲」(1969-1972年)が主に紹介されています。

また「この国のかたち」(1990年-1996年)などのエッセイからも司馬氏の強いメッセージを紹介しています。

通常は歴史学者が、歴史文学(時代小説)について、あれこれ評論したり評価をすることはありません。歴史家は様々な資料を読み解き、史実を追究することが第一義で、小説は読み手が楽しめるような創意工夫をして創作します。

そうした同じ歴史でも目的がまったく違い相容れないところがあるので、こうした歴史学者が小説や歴史小説作家について語るのは珍しいです。

もっとも若手学者が、国民のほとんどが知る歴史小説の大家を語るわけですから大いに持ち上げていて、その真の狙いや思惑を好意的に解釈しています。

私自身は、以前は歴史小説があまり好きではなかったこともあり、司馬遼太郎氏の小説はあまり多くは読んでなく、長編大作を読むのはちょっと厳しいかも知れませんが、もう少し読んでみようと思う内容でした。

★★☆

◇著者別読書感想(磯田道史)
◇著者別読書感想(司馬遼太郎)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

容疑者(創元推理文庫) ロバート・クレイス

容疑者
昨年読んだ「私立探偵エルヴィス・コール&ジョー・パイクシリーズ」の「指名手配」に続き、著者の作品を読むのは2作目です。

本著は上記の私立探偵が主人公のシリーズ作品ではなく、警官とその相棒となる警察犬が主人公で、原題は「Suspect」、出版は2013年(日本語翻訳版は2014年刊)です。

この作品がシリーズ「ロス市警警察犬隊スコット・ジェイムズ&マギー」の第1作目となり、2作目の「約束」(2017年)がすでに出版されています。

パトロール中に襲撃事件に遭遇し、パートナーだった女性警官が死亡、自身も重傷を負った主人公と、アフガニスタンで軍事作戦中にパートナーの兵士を目の前で射殺され自身も傷ついた軍用犬シェパードのマギーという同じようなトラウマを抱える同士、新たなコンビを組むことになります。

今回は、その警邏中に襲撃されて死亡した民間人2名と警官1名の事件を調べる中で、不可解な点が見つかり、様々な妨害に遭いながら、相棒の警察犬とともに事件の解決へ向けて真実に迫っていくという内容です。

パートナーが犬という小説や、犬が大きな役割を果たす小説はいくつもありますが、印象に残っているのは柴田哲孝著の「私立探偵・神山健介シリーズ」で出てくる、主人公の相棒のカイです。

またディーン・R. クーンツも犬の好きな作家で、ちょっと古いですが「ウォッチャーズ」(1987年)、「何ものも恐れるな」(1998年)など、犬が相棒役というか準主役として出てきます。

「私立探偵エルヴィス・コール&ジョー・パイクシリーズ」は、私が好きで全巻読み終えているロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」と似ていることから今後読んでいこうと思います。

★★☆

◇著者別読書感想(ロバート・クレイス)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

教会堂の殺人(講談社文庫) 周木律

教会堂の殺人
2013年にメフィスト賞を受賞した「眼球堂の殺人」でメジャーデビューされた作家さんですが、作品を読むのは今回が初めてです。

本作品は、デビュー作から続く、通称「堂シリーズ」と言われている「○○堂の殺人」の5作目で、2015年に単行本、2018年に文庫化されています。

登場人物など共通することから第1作から順に読むのが正しい読み方ですが、途中から読むことになってしまいました。ま、こういうことはよくあります。

ちなみに、デビュー作でシリーズ1作目の「眼球堂の殺人」も購入済みですので、前後しますがそのうち読むつもりです。

内容は、続きものではなく、1話完結のミステリー小説ですので、登場人物の背景などは想像するしかありませんが、特に問題はなく最後まで楽しめました。

ただ、ストーリーにかなり突拍子もない無理なところがあったり、「それはないだろう」と思うところがあり、そうした細かなところは気にせず、おおらかに単純に楽しみながら読むのが良さそうです。

この「堂シリーズ」は著者が大学時代に建築を学んでいたことから、奇想天外な構造物(≒堂)が登場し、そこで殺人事件が発生するというお約束になっているようです。

と言うと、思い出すのが、綾辻行人著の「十角館の殺人」など一連の「館シリーズ」を思い浮かべますが、建物がミステリーやホラーの肝になっている小説は数多くあります。

この「堂シリーズ」は、2019年刊の7作目の「大聖堂の殺人」で終了となったようです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

その先の道に消える(朝日文庫) 中村文則

その先の道消える
2018年に単行本、2021年に文庫化された警察小説です。警察官や刑事ものを書く作家さんはそればかりになるケースが多いですが、著者はあまり刑事ものが多いと言えない作家さんです。

たまたま1年半前に読んだ「あなたが消えた夜に」はベテラン刑事と新米のエリート女性刑事のコンビという警察小説でしたので、警察ものは今回が2作品目ということになります。

第1部と第2部に分かれていて、第1部と第2部で主人公というか語り手が違います。

あまり縁がなかったというかほとんどの人には縁がないでしょうけど、緊縛師というか女性を縄で縛るという極端なSM趣味の話が展開されていきます。

緊縛やSMと言えば唯一知っているのは「花と蛇」の作者、団鬼六氏の名前ですが、団氏は作家やプロデューサーであって緊縛師ではないのですね。調べてわかりました。

緊縛は海外ではアーチストという位置づけですが、日本ではその成り立ちや江戸時代の浮世絵からしてなにか陰湿で特殊なエロチックな趣味の世界みたいな印象です。
、
そうした緊縛師のひとりが殺され、捜査していた刑事が、その深遠な世界にはまっていくことになります。

第2部ではトラウマを抱えた別の刑事が謎解きをしていくという流れです。

非日常が味わえますが、どうにもそうした趣味の世界が理解しがたい凡人なので、どうしてそうなるの?という疑問だらけになってしまいました。

またこの作品に限らず、警察もので刑事が単独で聞き込みや調査をおこなうことはイレギュラーだと思いますが、物語の都合上、そういうケースが多く見られるのがリアリティさに影を落としています。

★★☆

◇著者別読書感想(中村文則)


【関連リンク】
 12月前半の読書 帰還、探偵の流儀、眠り姫(上)(下)
 11月後半の読書 クロイドン発12時30分、流人道中記、2035年の世界地図、歴史とは靴である
 11月前半の読書 片腕をなくした男、凍りのくじら、ニッポンの闇、ワイルドドッグ路地裏の探偵

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1869
帰還(文春文庫) 堂場瞬一

帰還
2019年に単行本、2021年に文庫化された大手新聞の記者を主人公にしたシリーズものではない独立したサスペンス小説です。

というのも著者の小説ではシリーズものが多く、その中でも初期の「刑事・鳴沢了シリーズ」は外伝以外、すべて購入して読みました。

「刑事・鳴沢了シリーズ」はとても面白かったのですが、その後のシリーズ「警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ」は、一部だけ読むに留まっています。

とにかく多作な作家さんで、次々と新作が出てくるので、少々飽きてきたのと、できるだけ多様な作品を読みたい派なので、しばらく(15年ほど)ご無沙汰していました。

元々は読売新聞社で記者をしていた経験がある著者なので、新聞記者の習性や、社内の事情などには明るく、それが小説の中でもよく生かされています。

著者が勤務していた時代から20年以上経っているので、大きく変わっていると思われますが、そこは元同僚や部下達が今では偉くなっているでしょうから話を聞いて調べることも容易でしょう。それだけ新聞社の様々な事情は真に迫っていて、そこまで詳細に書くか?と思うほどでした。

全国紙の社員なら、30年前までなら銀行や総合商社に劣らず高給&好待遇だったと思いますが、現在では衰退産業のひとつで、いろいろ厳しいようです。

内容は、30年前に同期として入社し、当時同じ支局に配属された4名のうちのひとりが、四日市支局で水死する事故で亡くなります。

その事故に疑問を感じ、またどうして四日市支局へ配属希望を出したのか?など不自然な行動を本来の仕事とは関係がない記者が調べていくというものです。

久しぶりに読んだ著者の作品ですが、持ち前の切れ味は今でも健在で、とても面白く読めました。

★★☆

◇著者別読書感想(堂場瞬一)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

探偵の流儀(光文社文庫) 福田栄一

探偵の流儀
2003年にスラップスティック青春小説「A HAPPY LUCKY MAN」でデビューした、1977年生まれの著者の2013年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。

東海地区の30万人都市にある探偵事務所が舞台で、所長以下、2名の探偵と1名の事務員(バイト)だけという零細事務所で、失踪人探しや迷い犬の探索などなんでも引き受ける地元密着の探偵事務所です。

ある女性の行動調査中に所長が階段から転落し意識不明の重傷を負います。仕事の多くは所長の人間関係で受注しているので、所長がいなくなると探偵事務所の存続が危うくなります。

探偵のひとりは元警察官で、あるミスから辞職に追いやられてしまった過去を持っていますが、その時の上司と同僚が、警察を辞めて別の大手調査会社に転職しライバルとなって現れるというややこしい事態になっていきます。

しかしわずか人口30万人の地方都市で、複数の正社員の探偵を抱える個人探偵事務所の経営が成り立つのか?という素朴な疑問もありますが、そこは小説なので。

もうひとりの探偵の過去や意識不明の重傷を負った所長のその後など、謎がそのまま不明のままで、事件は解決し終わりましたので、これは続編がありそうだと思いましたが、解説でもそれに触れてありました。

その続編は2015年に出版された「森笠邸事件 探偵の流儀II」ですが、AmazonではKindle版しか見つかりません。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

眠り姫(上)(下)(ダニエル・キイス文庫) ダニエル・キイス

眠り姫
ノンフィクションの「24人のビリー・ミリガン」(1981年)など、解離性同一性障害(多重人格障害)やサイエンスフィクションを扱った作品が多くある作家さんです。

この作品は、1998年出版の小説で、原題は「Until Death Do us Part」(死が二人を分かつまで:結婚式の誓いで使われる常套句)で、主に精神病と死刑制度、睡眠障害と催眠療法などが主なテーマとなっています。

眠り姫と言うと、ヨーロッパの童話でシャルル・ペローの「眠れる森の美女」やグリム童話の「茨姫」などが思い出されますが、この小説の主人公の女性が若い頃から睡眠障害で、突然どこにいても寝てしまう障害があり、「眠り姫」と呼ばれていることからタイトルは来ています。

サスペンス小説では珍しく、なにが起きたかは最初のほうで出てくるので書いてしまいますが、あるとき主人公の女性が、正気でない時に我が子の娘とそのボーイフレンドを射殺してしまいます。

それを目の当たりにした夫が、真実を隠し、妻を守るため、二人の死体を川に捨て、拳銃に自分の指紋を付けて川のそばに埋めます。

警察の捜査で、夫が殺人犯として裁判で有罪となり死刑が確定しますが、同時に精神的に不安定でそのような場合に死刑が執行できるのかどうか問題になってきます。

もうひとりの主人公、精神科医の女性が睡眠暗示を駆使し、死刑囚の精神病を改善しようとしますが、、、

実は一般的に知られている童話の「眠れる森の美女」はハッピーエンドに変えられていますが、元の話は睡眠中のレイプなどとてつもなく残酷な内容です。それもモチーフとして使われています。

割と分厚い文庫で上下巻ありますが、登場人物は少ない上に、文字は大きく読みやすく、前半をしっかり読めば、後半はその半分の時間でサクッと読めます。

★★☆

◇著者別読書感想(ダニエル・キイス)

【関連リンク】
 11月後半の読書 クロイドン発12時30分、流人道中記、2035年の世界地図、歴史とは靴である
 11月前半の読書 片腕をなくした男、凍りのくじら、ニッポンの闇、ワイルドドッグ路地裏の探偵
 10月後半の読書 八甲田山 消された真実、四人組がいた。、人類の終着点、凍原

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1867
クロイドン発12時30分(創元推理文庫) F・W・クロフツ

クロイドン発12時30分
著者は1879年アイルランド生まれ、1957年に亡くなった英国の推理小説が得意な作家さんです。

この時代、シャーロック・ホームズシリーズのような奇想天外な推理小説が多い中、リアリズムに徹した推理小説で有名です。

この小説は1934年に出版され、原題は「The 12.30 from Croydon」で邦訳タイトルはほぼそのまま直訳です。

意味は、物語の序盤に、ある高齢の富豪が急死しますが、その富豪が亡くなったのがクロイドン発12時30分の飛行機内でした。クロイドンはロンドンから15kmほど南へいった都市で、当時はここに民間飛行場があったようです。

時代背景となった1934年と言えば日本では昭和9年、欧州ではヒトラーやスターリンが幅をきかせ始めますが、英国ではまだ戦争に巻き込まれる予兆はない時代です。

最近では珍しくはないですが、この当時の推理小説としては異例の犯罪者視点で物語が展開していくというスタイルです。

つまり、「誰が犯人だ?」というのが推理小説のキモですが、このスタイルでは「刑事コロンボ」でもお馴染みの犯罪者が犯行を犯す一切を先に見せてから、警察がどうやってアリバイ崩しをしていくかというものです。

主人公は、父親から引き継いだ電機部品工場を経営する独身男性で、不景気になって大きな仕事を失い経営危機に直面しています。

富豪の叔父から巨額の遺産が約束されていましたが、資金がショートするまで数ヶ月というところまで来ていて、また恋人を自分に振り向かせるためにもどうしてもすぐにまとまったお金が必要で、叔父を殺すことを考えます。

練りに練った暗殺方法を考え、完全犯罪を狙い、計画は完璧に成功します。

いったんは病気を気に病んだ自殺とされますが、ロンドンからやってきた警部が多くの謎を解いていきやがて完全犯罪の穴を見つけ崩していきます。

長編小説なので、最後にひねった展開があるかと思いましたが、そうした意外性はなく、犯人の自白がない状況証拠だけで謎を解く推理が披露されます。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

流人道中記(上)(下)(中公文庫) 浅田次郎

流人道中記
2020年に単行本、2022年に文庫化された歴史時代長編小説です。先日読んだ「大名倒産」とも近い江戸時代の末期に、ある事情で江戸から青森まで流人を押送する役目を命じられた目付役人を主人公にロードムービーならぬ、道中小説です。

江戸を出立し、千住大橋、杉戸、雀宮、佐久山、芦野、須賀川、福島、大河原、仙台国分町、七北田、富谷、有壁、山目、前沢、相去(あいさり)、花巻、盛岡、沼宮内(ぬまくない)、金田一、五戸(ごのへ)、野辺地、浅虫、蓬田(よもぎた)、平舘、三厩(みんまや)まで。

現在のGoogleマップでルートを入れて調べると、距離は767km、徒歩で175時間がかかる長旅です。ところどころで馬を借りて乗ることはあっても、毎日8時間歩いて22日ほどかかる計算になります。

流人は破廉恥罪で切腹を言い渡されたが、あろうことか拒否をしたため、代わりに家を取り潰され蝦夷の松前家へお預かりとなった3200石の大旗本のお殿様。

その雲上人に見える流人を見張り青森まで押送する役人は200石の町奉行所に与力見習いで入ったばかりの婿養子19歳。その二人の珍道中です。

貧しい足軽の次男坊から、2段階上の目付へ幸いな縁で出世した真面目一方の主人公と、妻も子もいるかなり遊び人風の流人となった殿様の道中の会話が中心です。

そう言えば、道中小説は少し前に読んだ同時代の大名行列を主題とした「一路」(2013年)もそれに近いものでした。

◇2017年3月前半の読書と感想、書評(一路)

ただ著者の作品はほとんど読んできたので、話の展開はおおよそ想像がつきます。無理を承知で言えば、押送人の若き目付見習が一皮もふた皮もむけて江戸に帰ってからの活躍、そして大政奉還後に流人が罪を許され江戸に戻ってきて押送人と出会う続編が読みたいです。

★★★

◇著者別読書感想(浅田次郎)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

2035年の世界地図 失われる民主主義、破裂する資本主義(朝日新書)

2035年の世界地図
先日10月に読んだ「人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来」(2024年)と同種の、朝日新聞社が主催するシンポジウム「朝日地球会議」の2023年版で、エマニュエル・トッド(歴史家)、マルクス・ガブリエル(哲学者)、ジャック・アタリ(経済学者)、ブランコ・ミラノビッチ(経済学者)各氏へのインタビューと、それを元に「與那覇潤氏×市原麻衣子氏」と「東浩紀氏×小川彩氏」の対談でまとめられています。

◇2025年10月後半の読書と感想、書評(人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来)

欧米の識者と言われる人からみた日本や中国、アジアへの理解がこんなものかと思うような軽薄な話しも多くみられますが、それは外部にはそう見えるのだろうと理解するのが良さそうです。

その欧米の識者たちはコロナ禍という事情から講演ではなく、朝日新聞関係者がおこなうオンラインでのインタビューというスタイルなので、キーマンの選択、質問内容、内容の編集など、やや朝日新聞色の付いた内容と思っても良さそうです。

資本主義や民主主義の危機が叫ばれている現代ですが、その危機の度合いも識者によって温度差があるのだなぁということがよくわかりました。

インタビューを受けての日本人同士の対談では、やはり日本から見た景色と、欧米から見た景色の違いが指摘されています。

あと対談の中で、SNSの功罪として、SNSは便利な反面、自分と意見の違う相手をクリックひとつでブロックができますが、リアルな人間社会ではそうした自分と意見が対立する相手とも上手につきあっていかなければなりません。

リアルなコミュニケーションを避けて、メールやSNSばかりに慣れてしまっている若い人が、今後社会に出て、上司や部下を持ち、チームで重責を担うようになってくると、その立場や意見が異なる人とのコミュニケーションに様々な障害がでるのではないかという意見にはもう関係ないからどうでも良いですがなるほどなぁと。

リアルでは例え嫌いな相手でも簡単にブロックできないことがほとんどですから、そういう嫌な相手ともうまくつきあっていくスキルは経験を積んで鍛えていくしかないのは確かです。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

歴史とは靴である(講談社文庫) 磯田道史

歴史とは靴である
2020年に単行本、2022年に文庫化された、鎌倉女学院高等学校で2019年におこなわれた「歴史と人間」についての特別授業をまとめたものです。

高校3年生相手と言うことは、ほとんどが時間に追われた受験生達で、そんな中で年号の暗記はともかく、深い歴史に興味がある生徒は少なそうで、そう考えるとチャレンジングな試みです。

高校生相手なので、難しい内容は封印し、誰でもわかりやすい(それでも高校生には?という言葉が多そうです)内容となっています。

著者が歴史と関わっていくことになる話や、自ら興味を高めていく道筋など、なかなか真似はできそうもない人生の歩き方です。

例えば、岡山出身の著者が、町全体が歴史みたいな京都に行けば楽しいだろうとまずは京都府立大学へ入学し、その大学図書館で歴史関連の本をすべて読み尽くし、次は京都大学の図書館で貸し出してもらおうとすると、京大生やOBでないとダメと言われ、それなら江戸時代の研究をされていて尊敬する先生がいた慶応大学へ入学するなど。

過去に起きた歴史を時間をかけて学ぶのは、今すぐに役が立つわけではなく、人によっては無駄なコスパの悪いこととされがちですが、随筆家の内田百閒が言った「1回覚えて忘れた状態を教養という、最初から触れたことがない人間とでは雲泥のちがい」という言葉を著者は座右の銘にしているとか。

年齢を重ね、様々な経験や読書で得た知識をどんどん忘れてしまっている現状ですが、「そうか、教養なんだ!」と思えば気が楽になってきます。

★★☆

◇著者別読書感想(磯田道史)

【関連リンク】
 11月前半の読書 片腕をなくした男、凍りのくじら、ニッポンの闇、ワイルドドッグ路地裏の探偵
 10月後半の読書 八甲田山 消された真実、四人組がいた。、人類の終着点 フランシス・フクヤマ、凍原
 10月前半の読書 十五少年漂流記、シンセミア(上)(下)、私の流儀、残像に口紅を

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1864
片腕をなくした男(上)(下)(新潮文庫) ブライアン・フリーマントル

片腕をなくした男
英国のMI5のパッとしない風貌のスパイ、チャーリー・マフィンシリーズ第14作目にあたり、以前読んだ「顔をなくした男」(2009年)のひとつ前の作品で2008年に出版されています。

14作目の本作から昨年読んだ15作「顔をなくした男」(2009年)、今年なって読んだ16作目「魂をなくした男」(2013年)が連続した三部作セットとなっています。できればこの14作目から順に読むべきでした。

著者のブライアン・フリーマントルは昨年2024年に亡くなったとのことですので、このチャーリー・マフィンシリーズをまとめておきます。順番、邦題、原題、発行年の順です。

チャーリー・マフィンシリーズ
01  消されかけた男 Charlie Muffin 1977年
02  再び消されかけた男 Clap Hands,Here Comes Charlie 1978年
03  呼びだされた男 The Inscrutable Charlie Muffin 1979年
04  罠にかけられた男 Charlie Muffin's Uncle Sam 1980年
05  追いつめられた男 Madrigal for Charlie Muffin 1981年
06  亡命者はモスクワをめざす Charlie Muffin and Russian Rose 1985年
07  暗殺者を愛した女 Charlie Muffin San 1987年
08  狙撃 The Run Around 1988年
09  未訳 Comrade Charlie 1989年
10  報復 上・下 Charlie's Apprentice 1993年
11  流出 Charlie's Chance 1996年
12 待たれていた男 上・下 Dead Men Living 2000年
13 城壁に手をかけた男 King of Many Castles 2002年
14 片腕をなくした男 上・下 RED STAR RISING 2008年
15 顔をなくした男 上・下 RED STAR Eclipse 2009年
16 魂をなくした男 上・下 RED STAR FALLIN 2013年

こうして邦題と原題を並べてみると、直訳はなく、独自の邦題がついています。普通はタイトルには著者の思いが込められているので、これで著者がよく納得したものです。

著者はこのシリーズ作品の他、米露の捜査官がタッグを組むカウリーとダニーロフシリーズや、心理分析官クローディーン・カーターシリーズ、シャーロック・ホームズの続編、ノンフィクションなど豊富な作品を残しています。

本作を含む三部作では、英国のMI5所属のスパイの主人公がロシアでKGBの後を継いだ連邦保安局と丁々発止の戦いというか騙し合いを繰り広げる内容です。

OO7ジェームス・ボンドとは違い、激しい銃撃戦やカーチェイスなどはなく、主人公も内容も地味で、人間味あふれるストーリーが特徴です。

この三部作の初編では、ロシアにある英国大使館の中で殺人事件が発生し、大使館内部の犯行ということで国内の治安維持を担当するMI5の主人公がロシアに派遣され、殺人事件を追うとともに明らかになってくる英国大使館やアメリカCIAなどを巻き込む壮大な陰謀がわかってきます。

そのMI5の主人公には実はロシアの諜報機関に勤務する女性と恋愛関係からその後結婚していて子供までいるというのが、人間くさいところです。

★★☆

◇著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

凍りのくじら(講談社文庫) 辻村深月

凍りのくじら
2004年に作家デビューした著者の2005年にノベルスとして出版され2008年に文庫化された著者の初期の作品です。

「どこでもドア」や「カワイソメダル」、「先取り約束機」など、ドラえもんの秘密道具がそれぞれ章立てに使われていて、小説の中にもそうした道具を模した内容が出てきます。

個人的には、ドラえもんが登場した頃はスポーツに明け暮れていた中学生時代で、そうした漫画を読んだ世代ではなく馴染みがないので、あまりピンときません。

小説では主人公の父親が藤子不二雄が好きで、ドラえもんの漫画が全巻家に置いてあったことから親しみ、生活の中で、そうした「秘密道具があれば!」という場面で思い出します。

主人公は若い女性で、幼児の頃に重病を患い失踪してしまった父親と同じカメラマンになるまでの高校生活を中心に描かれています。

どうもこうした女子高生の人間関係など学校生活を延々と読まされるのは高齢になったオヤジにはキツく退屈でもあります。

タイトルは、主人公がニュースで見た北海道の流氷に囲まれて呼吸ができなくなって死んでしまう鯨のように、息苦しい社会を投影しているものだと思われます。

最後は、映画「シックス・センス」を彷彿させるようなホラー(ファンタジー?)的な内容で、もっとベタな学園モノかと思っていましたので驚きました。

★★☆

◇著者別読書感想(辻村深月)

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ニッポンの闇(新潮新書) 中野信子、デーブ・スペクター

ニッポンの闇
2023年に出版された新書で、「サイコパス」や「脳の闇」など多くの著書があり、テレビのコメンテーターとしてもよく見かける脳科学者と、アメリカ出身の有名タレント二人の対談をまとめたものです。

目次は「ガイジンの言葉、脳科学者の言葉」 「ムチャクチャだったテレビ」 「メディアとキュレーション」 「サブ・コンプライアンス」 「多様性の罠」 「日本は本当に同調圧力が強いか」 「勝っちゃったら「すみません」」 「謝るときも「すみません」」 「コメンテーターの明暗」 「文化人枠」 「日本の労働者は立ち上がらない」 「不安遺伝子と日本人」 「カルトの定義」 「日本は無宗教か」 「天皇と権威」 「時間割引率」 「テクノロジーが神になった時代」 「日本式は終わるか」 「ティッピング・ポイント」 「遺伝子の交換は情報の交換から」とかなり多岐に富んでいますが、話の内容は雑談っぽくて薄いです。

外国人からみた「ここが変だよ日本人、日本社会」的な話しと、専門の脳科学で読み解く政治家や宗教に絡め取られる人達など、どこかで聞いたような話がほとんどです。

いっそのこと、両者ともテレビによく出ていることから、テレビの変遷や、旧ジャニーズやフジテレビのスキャンダルに代表されるタブーに深く切り込んでいくとかだったら面白かったかも。

でもそうすると、様々な局から出番を失ってしまう可能性があり、できっこないでしょうけど。

★☆☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

ワイルドドッグ路地裏の探偵(ハルキ文庫) 鷹樹烏介

ワイルドドッグ路地裏の探偵
2023年に文庫で出版された探偵小説です。著者の作品を読むのは今回が初めてです。

著者は1966年東京都生まれで、日大の農獣医学部卒業ということです。作家デビューは「ガーディアン 新宿警察署特殊事案対策課」(2018年刊)で、警察モノが多い作家さんですが、本作は覚えのない不祥事に巻き込まれ刑事を退職に追い込まれた探偵が主人公です。

探偵と言っても正式な届け出をした調査員ではなく、警察がうかつに手を出せない調査や尾行などを、警察同期の刑事から仕事を回してもらっています。

一見すると、退職後は牙を抜かれて落ちぶれたように見えますが、実は退職に追い込まれたきっかけをつくった巨大な相手を油断させるためということです。

今回は、大手新聞社から関連会社へ左遷された男を調べる役目を与えられ、調べているときに拉致されて行方不明となります。

またこうしたエンタメ系ドラマには不可欠な若い女性が相棒として探偵に加わります。これは身内に反社会勢力がいたために警察官採用が見送られた女性で、子供の頃に両親が何者かに殺されたという過去を引きずっています。

探偵の事務所兼住居が浅草にある潰れたラブホテルという設定で、浅草の町並みがところどころに出てきてあの付近に詳しい人(私)には懐かしい思いがします。

もっとも最近は、外国人観光客だらけで、人情や昔の面影はほとんどなくなってしまったでしょうけど。

★★☆

【関連リンク】
 10月後半の読書 八甲田山 消された真実、四人組がいた。、人類の終着点 フランシス・フクヤマ、凍原
 10月前半の読書 十五少年漂流記、シンセミア(上)(下)、私の流儀、残像に口紅を
 9月後半の読書 女のいない男たち、ものごとに動じない人の習慣術、流星の絆、風神雷神(上)(下)

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1862
八甲田山 消された真実(山と渓谷社) 伊藤薫

八甲田山 消された真実
筆者は青森県生まれの元自衛官で、第5普通科連隊や青森地方連絡部などで勤務をした方で、青森の地勢や、時代は違えど軍隊の規律や習性などを熟知した方です。

著者が所属していた自衛隊でも、過去の失敗から学ぶことを大事にしていて、様々な事件の分析をおこなっていたようです。

1902年(明治35年)に起きた総勢210名中199名が一度に凍死するという世界で最悪の集団凍死事件「八甲田雪中行軍遭難事件」については、新田次郎著の「八甲田山死の彷徨」や、それを原作とした映画「八甲田山」が有名で、私も映画を子供の頃に見て、割と最近、9年前に小説を読みました。

◇2016年9月前半の読書と感想、書評(八甲田山死の彷徨)

その小説の影響もあり、7年ほど前の夏に青森へ行ったとき、幸畑墓苑や八甲田山雪中行軍遭難資料館、歩兵第五連隊第二大隊遭難記念碑 (八甲田山雪中行軍遭難後藤伍長銅像)など訪問しました。

この新田次郎氏の作品は1971年までに判明していることをなぞりながら、あくまで小説として出版されましたが、それ故に、著者の創作が加わり、時が経ってから新たな証言などが発見されたりしたことで、小説や映画で描かれた内容とは少し違う点が露わになってきています。

この書籍は2018年に出版され、そうした新たな発見や証言から事件について真実を突き止めようとするノンフィクションです。

事件の真相に迫るため使われた資料や証言は多岐に渡っています。事件後すぐに陸軍大臣に提出された大臣報告や、2ヶ月後にあらためて陸軍大臣に提出された顛末書が公式文書としてあり、さらに関係者の談話や、生存者からの聞き取り記録、その他地元の新聞東奥日報や河北新報、全国紙の記事などです。

機密保持が厳格な明治時代の軍隊の中で起きた事件で、さらに責任を回避するため画策したり、ミスを死者に押しつけたりしようとする上官や関係者がいても不思議ではありません。

数名の生存者がいながらもなかなか真実が表面化しない側面があり、真実はどうしてもある程度は想像や推理するしかありません。

本書でも「・・・だろう」という表現がかなり多く見られます。また著者がある程度自信があることやそう信じていることについては「・・・である。」という表現で書かれています。小説ではなくノンフィクションという形態ながら、様々な資料や聞き取り、自分の経験から著者の思い込みも含め、推定以外のなにものでもありません。

それだけに本書のタイトルにあるように「消された真実」が、どこまで真実なのかは未だによくわかりません。

なかなか読み応えのある作品でしたが、著者が元自衛官と言うことで、専門用語や軍隊用語が多く、ある程度は知っている人向けの研究本のような感じなので、先に軽めの小説「八甲田山死の彷徨」を参考に読んでおくほうがより理解がしやすいかなと思いました。

同様に事件を元にした小説で伊東潤著「囚われの山」も、内容はやや大雑把でエンタメっぽいですが、これもそこそこ興味深かったです。

◇2024年5月後半の読書と感想、書評(囚われの山)

★★☆

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四人組がいた。(文春文庫) 高村薫

四人組がいた。
2014年に単行本、2018年に文庫化された連作短篇集です。「四人組、怪しむ」、「四人組、夢を見る」、「四人組、豚に逢う」など、12篇のコミカルな短篇が収録されています。

長野県の過疎の村(現在は合併で市)の郵便局兼集会所に毎日集う、元村長、元助役、郵便局長、近所の老婆の4人が主人公です。

有川浩著「三匹のおっさん」や、加藤実秋著「メゾン・ド・ポリス」のような、高齢者が主役のコミカルな短篇集かと思っていたら、それらよりはファンタジーやホラーなどの要素も加わり、なんだか哲学書を読んでいるかのような難しさと眠けを感じました。

したがって、笑い転げる小説ではなく、どんな突飛な内容でも黙って許せる心の広い人向けで、あまり内容を深く考えたり、突っ込みをいれたりするようなものではありません。

また、高齢化し消滅しそうな地方の村落という問題を提起する社会性があるものでもなく、四つ足のタヌキやクマがエプロンして預かった幼児のおむつ交換をし、キャベツが行進し、ヤマメやウサギと会話するというなんだかよくわからない(それが哲学的)内容で、真剣に読むものではありません。

特に頭が固くなってしまった高齢者(私を含む)には、著者の初期の作品「マークスの山」(1993年)や「レディ・ジョーカー」(1997年)のような本格的なサスペンス小説や、重厚な内容の短篇集の「地を這う虫」(1993年)をイメージして読むと、「なんなんだこれは!」と叫んでしまいそうです。

★☆☆

◇著者別読書感想(高村薫)

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人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来(朝日新書)

人類の終着点
サブタイトルに「戦争、AI、ヒューマニティの未来」「世界最高の知性による未来予測」「われわれを待ち受けているのは、黙示録か福音か」とうるさいぐらいに盛られています。

朝日新聞社が主催するシンポジウム「朝日地球会議」で、マルクス・ガブリエル、フランシス・フクヤマ、エマニュエル・トッド、スティーブ・ローへのインタビュー、そしてメレディス・ウィテカー、安宅和人、岩間陽子、手塚眞、中島隆博各氏の座談会などで構成されていて、特定の著者というものはありません。

個人的には子供の頃からずっと朝日新聞を読んできたので、この人選については朝日らしさを感じますが、違和感はありません。しかし読売新聞社や東京新聞社、ニューヨークポストが主催のシンポジウムなら、ゲスト陣はまったく違ったものになるのでしょう。

そうしたことから、マスメディアは知ってか知らずか中立とは言えない偏向した思想や考え方を読者や視聴者に植え付けていきます。ずっと昔からそれを続けてきたので今更っていう話しですけど。

それはともかく、2023年の話なので、まだトランプ大統領が2024年に再選される前で、アメリカがそれまでの路線から大きく舵を切る前の話です。

テーマは、政治やAI、戦争の行方など、近未来の話題が中心で、2年経った現時点でも特に時代遅れではなくリアリティがあります。

気になったのは、フランス出身の歴史学者エマニュエル・トッド氏は「アメリカは有事が起きても日本を守る気はないので、安全保障をアメリカに頼るのはリスクが高く、日本は核武装して自衛するしかない」「日本にとって自国で国民生活のすべてまかなえるロシアや中国はたいして問題ではなく、一番危険なのは自国だけで完結できないアメリカだ」ということ。

繰り返しますが、アメリカは民主党のバイデン大統領だった頃の発言で、同盟国に異常な貿易関税を一方的にかけてくるトランプ大統領に代わる前の話です。

また、マルクス・ガブリエルの「右派と左派を単純化すれば、左派は自由、連帯、平等の理念を大事にし、右派はヒエラルキー(権威主義)と国境(排外主義)を大切にする」という言葉は、昨今の日本含め世界状況を見ているとまったくその通りだなぁと思います。

★★☆

 ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟

凍原(小学館文庫) 桜木紫乃

凍原
2009年に単行本、2012年に文庫化された著者の作品では珍しい女性刑事が主人公の人間ドラマ小説です。

釧路の湿原である若い男性の絞殺死体が発見され、これが終戦前後の樺太へのソ連侵攻と住民避難へ遡り、壮大な歴史ドラマが始まります。

割と短い小説(文庫で344ページ)ながら、登場人物が多く、しかもそれが戦後から70年近く経った時代まで関係してくるので時々誰が誰とわからなくなることも。

舞台となるエリアも、一部はマップが掲載されていましたが、釧路市内の他、川上郡標茶町、戦前の南樺太、札幌、小樽、留萌、室蘭などが出てきます。北海道の土地勘がないと、どれほどの距離があり、文化的にどう違うのかなどはわかりにくいでしょう。

主人公の女刑事は子供の頃に弟が湿原で行方不明となり、沼地の中にある壺状の穴、谷地眼(やちまなこ)にはまってしまったのでは?とされています。

そのトラウマを引きずりながら、別の殺人事件に取り組みますが、一緒に捜査する相方が、弟の事故の時のベテラン担当刑事で、このコンビがなかなかのもので面白いです。

そう言えば、谷地眼に落ちて死亡する小説に、内田康夫著「釧路湿原殺人事件」というのがありました。しかし実際は過去に谷地眼で人が亡くなったという事故は記録にはないそうです。

★★☆

◇著者別読書感想(桜木紫乃)

【関連リンク】
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 9月後半の読書 女のいない男たち、ものごとに動じない人の習慣術、流星の絆、風神雷神(上)(下)
 9月前半の読書 続高慢と偏見、夢幻花、うれしい悲鳴をあげてくれ、君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい

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