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悼む人(文春文庫) 天童 荒太

 
天童氏は1986年にデビューし、2年に1作品程度の寡作で有名な作家です。この「悼む人」はデビュー後8作目にして直木賞(2009年)を受賞した作品で、タイトルや表紙デザイン通りに不気味で重いテーマを扱っています。

主人公の男性は、子供の頃のふとしたトラウマから、死によって忘れられていく哀れさを引きずり、親友の若くしての死やボランティア活動で子供の不治の病に接し、突然勤めていた会社を辞めて、見知らぬ人の死をひとりひとり尋ね、それを悼むために全国放浪の旅を始めます。

その悼む人(主人公)と偶然に交錯した不幸な生い立ちから再婚後ある事情で夫を刺し刑務所から出てきた女性や、癌に冒され余命があとわずかという主人公の母親、人間の嫌な部分をほじくり出しては、えげつない記事を書いてきた週刊誌のルポライターなどが、この主人公の悼む姿と行動に深く共感と影響を受けていきます。

読んでいるあいだ中、ずっしりと重いテーマを頭上に乗せられた気分になり、読むスピードもあがりませんでした。しかし、こういう人間や家族というものを考えさせられる小説も時にはいいものです。


夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) 森見登美彦

森見登美彦氏のデビュー作品「太陽の塔」を読み、なんだか著者に親近感を感じましたが、それは森見氏が関西出身で、京都で大学生活をおくるという私と共通の体験(同じ大学ではないが)をしていたことに大きな要因があるでしょう。

それはまた「鴨川ホルモー」などの著作で知られる万城目学氏とも共通します。ただ年齢は私より森見氏や万城目氏のほうがずっと若く、20年以上も離れています。私にとって森見氏の「太陽の塔」はあくまで1970年に開催された万博会場の中に立つシンボルとしての思い入れですが、氏のそれはデートで行く公園のシンボルになっていたことに、その世代の違いを感じます。

この本は「太陽の塔」とはまた大きく違い、どちらかと言えばすでに商品化されていますがコミックやアニメに近いものがあり、若い人にはたぶん面白おかしく読めるのでしょうが、すでに50代に入った私には全然面白くもなんともないなぁって感じです。

本屋大賞でノミネートされていた本なので期待をしていましたが、何度か途中で読むのをやめようかと思うぐらい、ちょっと残念な気持ちです。森見氏の本では2007年発刊の「有頂天家族」も既に購入済みなので、そちらに期待することにしましょう。いま手元には20冊ぐらいの未読の本があり、日々衝動買いや知人にもらったりすることもあるので、それがいつ読めるかはわかりませんが。

内容は京都大学とその周辺で起きるドタバタを、ユニークな京大生の女性とその女性にあこがれる大学の先輩とが巻き起こすファンタジーコメディです。


街場のメディア論 (光文社新書) 内田樹

この「待場の・・・」新書はシリーズ化されていて、このシリーズは大学での講義を元に書き起こされたものだと前書きにあります。したがって内容的には大学生向けなのですが、読んでみるといやいやレジャー気分で登校している大学生などにはもったいない、たいへん中身が濃くて興味を喚起されるものです。

同様にマスメディアを批判した佐々木俊尚氏の「2011年 新聞・テレビ消滅」とは違い、システム的なものではなく、メディアの中にこそ問題が堆積していることを学生向けにわかりやすく解説していきます。この点はジャーナリストと学者との違いを感じるところですが、私にはこの街場のメディア論のほうが納得感を強く得られました。

この内田樹氏は、著作権についても他の多くの学者や著作権者、出版社とは違った考えを持っておられ、氏の書いたものは、事前の断りや、出典の記載など必要なく、自由に引用でも盗用でも使ってくださいという考え方です。全然別の機会に、ある有名作家氏がTwitterで「私は書き下ろし小説が多いので、新刊本をすぐに図書館で買われ貸し出しされるときつい」という意味の書き込みがありましたが、それにもまったく反する考え方をこの本で述べています。

まぁ、両者の言い分はそれぞれに理解できますが、少なくともWebに上げたものは、無償、引用や個人の利用は自由というのは私も大いに賛成です。内田氏のように盗用して勝手に別人の名前で発表してもOKとは言いませんが。

地震学者であり、いち早く原発事故による放射能汚染地図を公開してきた早川氏もTwitterで「日経のWebサイトはコピーペーストができないようになっている。報道機関としてあるまじき行為で、所詮金儲けしか考えていないのだろう」と発言されていましたが、まったくその通りで、そういう体質が近いうちに崩壊する前兆なのだろうと思います。


千年樹 (集英社文庫) 荻原浩

私とほぼ同年齢の現代小説を主とする作家さんで、テーマが多岐にわたり、その内容は深く、私は刊行された小説(20数冊)の文庫になったものはほとんどは読んでいます。特に印象に残っているのは「オロロ畑でつかまえて」「誘拐ラプソディー」「神様からひと言」「僕たちの戦争」「明日の記憶」などです。

この千年樹は、大きな樹齢千年と言われる樫木を中心とし、その拡がる枝葉のように様々な年代で様々な人が死と生を積み重ねていく姿を連作形式で書かれたものです。

時代は千年前の平安時代から始まり最後は現代ですが、中間は、江戸時代や、昭和でも太平洋戦争の時代や現代などを行ったり来たりします。時代が次々に飛びますので、しっかりと記憶して読んでいないと、後でその関係性がわからなくなったり(まったく関係ないことも多い)します。この手法は荻原氏の新しい試みなのでしょうか、今までの小説のように軽くサラッと読んでいると混乱をきたします。

それにしても荻原浩氏はここ最近何度も直木賞候補に挙がりながらも、あと一歩のところで逃し、ちょっと気の毒なところがあります。しかし同じく私が贔屓にしている佐々木譲氏も昨年に60歳で直木賞を受賞されましたので、荻原氏も間違いなく数年のうちには受賞され、受賞後のインタビューで感想を聞かれたときには「待ち疲れました」と言ってもらいたいものです。


ツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫) 細川 貂々
その後のツレがうつになりまして。 (幻冬舎文庫) 細川 貂々


 
この通称「ツレうつ」を原作とした実写映画が10月に公開されると言うことと、前からタイトルが気になっていて読んでみました。いや、読むというのは正確ではないかもしれません、基本漫画なのですが、イラストエッセイという新しいジャンルの出版物のようです。でもやっぱり私の感覚では漫画です。

この本がヒットしたため、まとめた続編なども出ていますが、ま、柳のドジョウで、営業的にはどうだったのでしょうか。

絵は特徴的で、上手いとはとても言い難いのですが、なかなか味はあります。鬱という難解な病気に対してなにか愛着すら沸いてきそうなエッセイで、それは見事に当たったと思います。

うつ病は誰でも罹る可能性のある心の風邪とも言われていますが、私の身近にも過去に患った人が複数います。この病気は一見ではわかりにくいので、病気のことを知らないと冗談と思ってかわいそうな事を言ってしまったり、逆に知ってしまったあとは、とても気を遣うことになります。

うつ病というのが一般的に社会で認知されてきたのはここ10数年ぐらいで、それまでは、急に出社しなくなり、「怠け病」とか言われていた時期が長くありました。私も直属の部下に、今思えばうつ病だと思うのですが、その頃は「急に休んでばかりでけしからん、もう面倒をみきれない」とか叱ったことがあり、その後大いに反省しました。
tsureutsu2.jpg

この本では、ドキュメンタリー風にバリバリのスーパーサラリーマンだった夫(映画では堺雅人)が、突然うつに罹ってしまい、「朝起き上がれない」「満員電車に怖くて乗れない」「悪いことばかり考える」「自殺を考える」などの症状を、売れないフリーの漫画家の妻(映画では宮崎あおい)と一緒に数年かけて、数々の難局を乗り越えていく姿が面白おかしく描かれています。

その中には「うつの本に載っている症状とは違うぞ」「やってはいけないという常識もケースバイケース」など、わかりやすく治癒までの経験談が説明がされていて、絵本のように2~30分もあれば一冊が読めてしまいます。

ちなみに堺雅人と宮﨑あおいの夫婦役はNHK大河ドラマの「篤姫」以来となり、それを楽しみにしている人も多いとか。





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