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竜の道 飛翔篇 白川道

2009年に単行本を発刊、文庫本は2011年刊の長編小説です。白川道氏と言えば、やはり自伝的なハードボイルド小説「病葉流れて」シリーズが有名ですが、この1月にはその5作目となる最新作「浮かぶ瀬もあれ 新・病葉流れて」が発刊されています。そのシリーズともどこか通じるストーリーで、「飛翔篇」と銘打ってあることからシリーズ化されていきそうです。

主人公は捨て子だった双子の男性、竜一と竜二で、二人は差別を受けてきた世の中や、唯一優しく接してくれた知人を死に至らしめた企業に報復をするため、壮大な計画を練り、それに向かって着々と準備に取りかかります。兄の竜一はコインの裏として、自分の名前を捨て、他人になりすまし暴力団の会長の懐に潜り込み、闇世界へと入っていきます。弟の竜二はコインの表として、大検をとり、東大へ入学、キャリア官僚の道へと順調に進んでいきます。

竜一が闇の世界でのし上がっていくための資金を得る方法として株取引の話しが登場しますが、著者にとってはバブル期に投資顧問会社を経営していたこともあり、途中少々食傷気味になるぐらい満載されています。

「投資ジャーナル」を発行し投資顧問を主宰していた中江滋樹氏がモデルと思われる人物や、蛇の目ミシン工業の株買い占めで有名な仕手筋集団「光進」事件など、バブル時に起きたインサイダー事件や仕手戦、業界新聞やゴルフ場会員権乱発など、株や金融に関する事件や犯罪を取り入れたものとなっています。いや、あの頃の金融・証券業界は今思えば、まったく気が狂っているというか、凄かったの一言です。この時代のことを描くにはモデルには事欠かないでしょう。

読んでいて本当は、表の道を着々と進めていく双子の弟竜二の成長にも関心があるのですが、そちらはあっさりしたもので、大検に通って、東大に入り、卒業して運輸省(現国土交通省)に入省、亡くなった親が入っていた莫大な生命保険を使って華麗なエリート人生を送っているとそれだけしか書かれていません。そこの点はちょっと残念で、ストーリーの中で並行して竜一と竜二の太陽と月の明暗を対比しながらその生き様を読んでみたかったなと。


ルームメイト (中公文庫) 今邑 彩

1997年に初出、2006年に文庫化されたミステリー小説です。著者は先月3月6日に57歳の若さで自宅マンションで病死しているのを発見されましたが、独居のため発見が遅れ、死後約1ヶ月ぐらい経っていたそうです。ご冥福をお祈りいたします。

若いうちは1人住まいの気楽さや、自分で稼いだお金を自由に使えることなどいいと思うことも多く、それが結婚しない男女を増やしている要因でもあるでしょうけれど、健康に不安を覚えてくる50代以降ともなると、くも膜下出血や脳梗塞、急性心筋梗塞など、身近に誰かいないと助かる命も助からないこともあり、こうした不幸な出来事が、現在30代40代のシングルが年齢を重ねていくにつれ今後増えそうな気がします。著者は以前に乳ガンを患っておられたとのことで、急性の病気ではなかったのかも知れません。

私の身近な知人にも、突然倒れた両方のケースがあります。独居の人(30代)は、会社を無断欠勤したことで、不審に思い家族に連絡したところ、自宅で亡くなっているのが発見され、DINKSの人(40代)は、自宅で倒れたとき配偶者がたまたま会社が休みだったため救急車をすぐ手配をして助かり、その後多少後遺症は残ったものの現在も元気に活躍中です。

この小説では、今流行のルームシェアをした相手がとんでもない人だったというところからスタートしますが、もし著者もルームシェアでもしていれば、もっと長生きできたのにという流れでこの本を読んだわけではありません。以前読んだ「いつもの朝に」がなかなかよかったので、そのうちに読もうとお亡くなりになる前に買っておいた本です。

さて余計な前置きが長くなりましたが、東京に出てきた女学生がアパートが見つからず困っていた時、ちょうど同じく困っていた見知らぬ自称女子学生と意気投合し、相手の発案で二人で共同でマンションを借り、ルームシェアすることになります。ところがしばらくすると、不在がちとなり、いつもなら入金されるはずの家賃の半分が、約束の日になっても入らず、困って相手の実家へ連絡すると全然別の人が電話に出るということに。

また一方では、籍は入れていないものの、旅先で知り合い、その後一緒に住み始め、内縁関係にあった女性がある日突然いなくなり、なにか事件に巻き込まれたのでは?と探し始めた男性がいます。

やがてその女子学生のルームメイトと内縁の妻は同一人物ということが判明し、女子学生が消えた女性を大学の先輩と一緒に探すことになります。そこで判明した驚愕の事実と、さらなる事件へと発展していくわけですが、さすがにこれ以上は書けません。

ひとつ書いておくと、本文に登場しますが、ダニエル・キイス著のノンフィクション「24人のビリー・ミリガン 」を読んでおくとモロモロ心理状態など理解しやすいかもしれません。

最後に二つのエンディングがあり、どちらを選ぶかは読者次第ということになっています。ところが二つめのエンディングはなにが言いたいのかよく理解ができませんでした。


父・こんなこと (新潮文庫) 幸田文

「父」は1949年、「こんなこと」は1950年に発刊された二つの随筆です。

「父」は著者の父親幸田露伴が、太平洋戦争が終わり、その敗戦のまだ癒えない1947年に、焼け野原となった東京の下町から千葉県市川市へ移り住み、当時としては長寿の満80才で亡くなる数ヶ月間を描いた著者のデビュー作です。文庫版は1961年に「こんなこと」を含め発刊されています。

少し前に著者の自伝的小説と言われている「きもの」を読みましたが、そこでも父親像が深く描かれていました。と同時に明治から昭和にかけての庶民生活や同氏の生い立ちなどがイメージでき、とてもいいものでした。

文化勲章をもらうような有名な父親をもつとその家族、特に子供は様々なメリットもあれば逆にデメリットもあるようです。

例えば老いて病気がちになった際は岩波書店の創業者岩波茂雄氏の紹介で、日本医師会会長まで上り詰め武見天皇とまで言われた医師武見太郎氏が最期を看取るまで主治医としてついていたり、著名人だと言うことで優遇されることもままあります。

逆に、家族はそういう立派な父親に恥をかかせるわけにはいかないと、いつも気を張ることになり、身の回りの世話のためお手伝いさんを雇っても、すぐに喧嘩をして追い出してしまう自分勝手でわがままな病人でも、それが父親なら黙って受け入れざるを得ません。

また療養中には多くの見舞客が次々と来ますが、その相手もしなくてはならず、葬式にいたっては故人とどのような関係があるのかわからない数多くの参列者からお悔やみをうけることになります。終戦後間もない時代だけに、現在の葬式と違い、業者がすべてを仕切ってやってくれるわけではありませんので家族はそれらの応対だけでもたいへんです。

随筆というのはこういうものだと言ってしまえばそれまでなのですが、1人の高名な人物が病床に伏せって、やがて息を引き取るまでの数ヶ月間を娘が記憶に頼り、日記か記録のごとく書かれているものなので、これ自体は読んで興味が湧くとか面白いものではありません。ところどころに出てくる、父親との会話と過去の思い出話などには惹かれるところがあります。

「こんなこと」は、その外面は偉いさんであってもうちの中ではこうだったという、娘視点で父親と掃除の仕方やふすまの張り替え、家庭菜園など日常生活に関した父親との思い出が中心に語られています。これは伝記とは違い、外面は有名人だったけど癇癪持ちで細かなことまでうるさかった父親の生の姿を残しておこうという娘の愛情と使命感で書いたのではないかと勝手に解釈しています。


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